あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と狼の牙-01


「虚無と狼の牙」1-1

 彼は満足していた。守りたかったものは無事守りぬけた。
取り戻したかったもの――救いたかった人物は無事救い出せた。
志半ばで倒れることが無念でなかったかと言えば、それは嘘になる。
しかし、それでも彼は満足していた。自分が命がけで未来を託した人々に。
二度と帰る事は出来ないと思っていた故郷。そこに彼は帰ってこれた。
その幸福と歓喜に包まれて、そして無二の親友の傍で旅立てる自分は
――おかしいかもしれないが、そのとき世界で一番幸せな人間なのだと心の底から思っていた。
 一つの世界で狼は眠りについた。その牙を墓碑として。そして、もう一つの世界で狼は再び目覚める。

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは呆然と立ち尽くしていた。
彼女の目の前には、爆風が巻き上げた砂埃の中がもうもうと立ち込めている。
そして、その砂埃が収まるにつれそこにあるものの姿が少しずつ白日の下に晒されようとしていた。
「な、なによ、これ……?」
 ルイズの起こした爆風にむせ返っていた周りの少年少女たちも、ルイズの視線の先にあるものに目を向ける。
そこにあったのは短い棒と長い棒を直角に組み合わせたようなデザインの物体。見たこともない形の物体に彼女は戸惑う。
「何かのお墓? 記念碑?」
 目の前の物体はその長い方の棒を深々と地面に突き立てて、そこに立っていた。
 その頃になると、最初は目の前で起こったことに戸惑っていたほかの少年少女たちも冷静さを取り戻し、ルイズに対して野次を飛ばし始めた。
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』でこんなオブジェを呼び出してどうするの?」
「さすがはゼロのルイズだ。まさか、生物ですらないものが出てくるなんて驚きだよ!」
「ち、違うわよ。ちょっと、そう、ほんのちょっと失敗しただけよ!」
 ルイズは両手を硬く握り締め真っ赤な顔になって、周りの少年少女に言い返す。
「ミスタ・コルベール、もう一回、もう一回召喚させて下さい!」
「え、あぁ、うん。しかし、不思議だなぁ。サモン・サーヴァントで生物でないものが呼ばれるなんて前例、聞いた事がないぞ」
 コルベールと呼ばれた男はあごに手を当てて考え込む。
「で、でも、こんなのとどうやって使い魔の契約を結べって言うんですか!?」
「……確かにそれもそうですね。納得できない部分も多いですが、これでは致し方ありません。もう一度だけですよ、ミス・ヴァリエール」
 コルベールはなおも納得できないように首を左右にかしげながらも、もう一度の召喚魔法の許可を出した。
ルイズは再び例の物体と向き合うような形になり、呪文を詠唱すべく精神を集中し始めた。
「今度こそ……」
 ルイズは大きく深呼吸して、胸の前で杖を構えた。そのときである。目の前の物体が少しだけ動いた。
「え?」
 ルイズは目を見開いて、目の前の物体の動きを観察する。それは右に左にゆっくりとした速度で揺れていた。
そして、ルイズは気が付いた。これはこの物体が動いているんじゃない、この物体の刺さっている地面が動いているということに。
そして、彼女が地面に視線を移したとき、ゆっくりと根元の土が盛り上がって――
「きゃぁー!」
 思わずルイズは大声で悲鳴を上げていた。彼女が思わずしりもちをついた、その前には人の腕が地面から生えていた。
 ルイズの悲鳴に呼応するように周りの少年少女たちからも悲鳴が上がる。突然地面から人の手が生えてきた。
地面から人の腕が生えている、異様な光景である。それを傍で見ていたコルベールも呆然と立ち尽くすしかなかった。
 その腕は黒い服を着ていて、その大きさと形からおそらく若い男のものだということがわかる。しかし、腕が生えてきただけでは事は終わらなかった。
その腕はなおももがくように動き、地面を引っつかむように手をかけた。そして次の瞬間
「ぷはー! なんやっちゅうねん、死ぬかとおもたで!」
 土くれをあたりに撒き散らしながら、若い男が顔を出した。その男はしばらく大きく息を吸ったり吐いたりした後、目の前で腰を抜かしているルイズを見つけて声を掛けた。
「ちょっと、そこのおじょうちゃん。悪いけどワイをちょっと引っ張り出してくれへんか?」
 彼は彼なりにこの不審極まりない状況にて、これ以上不審感を抱かれないよう爽やかに笑ってみせていたつもりだったが、そんなことはルイズには関係なかった。
ルイズはしばらく固まっていたが、やがて唇をわなわなと震わせると、沈黙を破るように大声で叫んだ。
「な、なんでなのよぉー!」


 土の中から現れた男は冷静に服に付いた土を払っている。
男は見た目は二十代後半くらいの若い男で、黒いスーツと開襟シャツ、そして茶色の革靴を履いていた。
ちなみにどれもこの世界ではなじみのないものである。
髪の色は黒く、身長はコルベールより頭一つ分高い。
ルイズの周りにいた少年少女たちは食い入るようにその姿を見つめている。
そんな視線もお構いなしに男は服の土を払い終えると、懐からサングラスを取り出しそれを掛けた。
そして、くるりと隣を振り向くと、人懐っこい声を出した。
「いやー、おっちゃん引っ張り出してくれておおきにな。ほんま往生したで」
 軽く右手を出して、彼はコルベールに礼を言った。
「まぁ、あのまま埋まっておられても、こちらとしても困りますから」
 コルベールは「困ったなぁ」と小さく呟きながら頬を掻いた。
 結局、ルイズは腰を抜かしたままで、男を引っ張り出したのは傍にいたコルベールだったのだ。
 男はそれから辺りをゆっくりと不思議そうに見回した。そうすると、どうやら自分の周りには子供しかいないことに気が付いた。
「なぁ、おっちゃん。ここ孤児院か?」
「んなわけないでしょ! あんた一体どういう目してんのよ! 学校よ、ここは学校!」
 孤児院という彼の言葉に、さっきまで呆然としていたルイズが反応した。
「へー、ここが学校か。はじめて見たわ。割合この辺りは裕福みたいやな。みんなそれなりにちゃんとした格好しとるし、それに」
 男は一人の太った少年に目をやった。
「栄養状態も悪うはなさそうやしな」
 そして、軽く笑った。
「ふざけないでよ!」
 男の態度にルイズがムキになって叫ぶように答えた。
「なんや、そうカリカリすんなや、冷たい嬢ちゃん」
 男はそう言って噛みつかんばかりのルイズを軽く流した。
彼の人生経験上、子供たちが集団で生活している場所といえば孤児院しか思いつかなかったのである。
ちなみに、彼は頼んだのに引っ張り出してくれなかったことをちょっと恨んでいる。
「この格好を見たらわかるでしょ」
「すまん、わからへん」
 悪びれずに答える男の前で、ルイズは杖を両手で折らんばかりに握り締め歯軋りをしている。
「なぁ、あれって平民、だよな」
「そうよね、貴族はあんな格好しないよね」
 そうこうしているうちに彼らの周りにいる少年少女たちはひそひそ話を始めた。
「ルイズー、いくら魔法が出来ないからってそこらへんの平民を連れてくるなよー」
 その中の少年がそう野次を入れると、どっと笑い声が湧いた。
「ち、違うのよ。こ、これはきっと何かの間違い! だって、わ、私の使い魔が、こ、こんな」
 震える手でルイズは男を指差す。しかし、男はそんなものどこ吹く風だ。
「しかし、これが死後の世界いうやつか。なんか、想像していたんとえらい違うというか。なんか、周りはガキばっかりやし、拍子抜けするわ」
 それから、誰にも聞こえないような小さな声で「てっきり外道は地獄に落ちるもんやとおもてたけどな」と自嘲気味に笑いながら、ひとりごちた。


「ミスタ・コルベール!」
 ルイズが怒鳴った。何かを考え込んでいたコルベールはその声にゆっくりと顔を上げた。
「なんだね。ミス・ヴァリエール」
「あの! もう一回召喚させてください!」
 召喚? なんやそれ、と男は心の中で呟いた。
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「決まりだよ。二年生に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する。今、やっているとおりだ」
 使い魔? そう言えばそんなことをこのおじょうちゃんはさっきから言うとるな。
「それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。
一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。
何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。
奸むと好まざるにかかわらず、彼を使い魔にするしかない」
「でも! 平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません! しかもこんな奴!」
 こんなやつ呼ばわりかい、とボソッと呟きながら男はそのやり取りを他人事のように眺めていた。
「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない。彼は……」
 コルベールは、男を指差した。
「ただの平民かもしれないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければならない。
古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。
彼には君の使い魔になってもらわなくてはな」
「そんな……」
 ルイズはがっくりと肩を落とした。
「さて、では、儀式を続けなさい」
「えー、こ、こんな土の中から出てくるような男と」
「そうだ。早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。
君は召喚にどれだけ時間をかけたと思ってるんだね? 
何回も何回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」
 そうだそうだ、と野次が飛ぶ。
 ルイズは男の顔を、困ったように見つめた。
こうして見つめると、彼の背が高いことがよくわかる。
おそらく頭二つ分は背が高いだろう。ルイズはこんな大きな男性を見るのは初めてだった。


「ねえ」
 ルイズは、男に声をかけた。
「なんや、じょうちゃん」
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから。だから、ちょっと顔をこっちに向けなさい」
 なにをするつもりやねん、と心の中で思いながらも男はとりあえず素直に彼女の目線の高さに顔を向けた。
 ルイズは、諦めたように目をつむる。
 手に持った、小さな杖を男の目の前で振った。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 朗々と、呪文らしき言葉を唱え始めた。すっと、杖を男の額に置いた。男は怪訝そうに眉をひそめた。そして、ルイズはゆっくりと唇を近づけてくる。
「ちょ、ちょっと待ちい――」
「いいからじっとしてなさい」
 怒ったような声で、ルイズが言った。
 ルイズの顔が近づく。
「いや、いきなりそういうのはやなぁ……」
 男は少し抵抗しようと思ったが、すぐに死後の世界ってこんなもんなんかな、と思い直す。
そして、されるがままにルイズの唇が、男の唇に重ねられる。
 あの世っていうのはサービスがええんやな。
けど、ワイ別にこういう子供が趣味とかそういうことはないんやけど。そんなことを男は思っていた。
「終わりました」
 ルイズ顔を真っ赤にしている。照れているらしい。いや、もしかしたら屈辱に対する怒りかも知れへんな。
「まぁ、そのなんや。仕事ご苦労さん」
 そう言って、男はルイズの肩をねぎらうように叩いた。その手をルイズは乱暴に払いのける。


「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」
 コルベールが、嬉しそうに言った。
「相手がただの平民だから、『契約』できたんだよ」
「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんかできないって」
 何人かの生徒が、笑いながら言った。ルイズが睨みつける。
「バカにしないで! わたしだってたまにはうまくいくわよ!」
「ほんとにたまによね。ゼロのルイズ」
 見事な巻き髪とそばかすを持った女の子が、ルイズをあざ笑った。
「ミスタ・コルベール! 『洪水』のモンモランシーがわたしを侮辱しました!」
「誰が『洪水』ですって! わたしは『香水』のモンモランシーよ!」
「あんた小さい頃、洪水みたいなおねしょしてたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いよ!」
「よくも言ってくれたわね! ゼロのルイズ! ゼロのくせになによ!」
「こらこら。貴族はお互いを尊重しあうものだ」
 そんな喧騒を男は「ガキはどこの世界でもガキやな」と思いながら眺めていた。
 そのとき、男は自分の体の異変に気が付いた。体が熱い。
 なんや、これは。『薬』、か? いや、違う。その感じやない。まさか、さっきので?
「おい、おんどれ、ワイの体に何をした?」
 男は身をかがめて、上目遣いにルイズをにらみつけた。
今での飄々とした男からは考えられない、その殺気に満ちた目にルイズは思わずたじろぐ。
この男は一体何なんだろうか? 
ただの普通の平民とは違うこの、狼のような殺気は? 
目の前の男の殺気に彼女はおびえた。
「それはキミの体に使い魔のルーンが刻まれているんだ」
 動けないままでいるルイズの代わりにコルベールが冷静な声で答えた。
「……さっきから、召喚やら使い魔やらわけのわからんことばかり。悪いけど、説明してもらうで」
「えぇ。あなたにはその権利がありますから」
 コルベールは冷静に男にわかりやすく、召喚と使い魔について説明した。
「ちゅうと、なにか? ワイはこのちっこいおじょうちゃんの使い魔いうのになるために呼び出されたっちゅうことか?」
「そうなりますね。そして、あなたの左手に刻まれたルーン、それが使い魔の証なのです」
「ふーん」
 一瞬はまるで狼のような殺気を放った男も、コルベールの話を聞いているうちにさっきまでの人懐っこい表情に戻り、左手のルーンを目線より高く持ち上げて眺めている。
「まぁ、しゃあない。そうやって現世での罪を贖えという神さんの思し召しかもしれへんしな」
 男はそう一人で呟いて、一人で納得したように頷いた。
「よし」
 そして、男はルイズのほうを向き直ると、右手を彼女に向かって差し出した。
「ほな、じょうちゃん。ワイの名前はウルフウッドや。これからよろしゅうな」
 ルイズはしばらく納得できないように口を尖らせていたが、やがてあきらめたように
「ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
 とだけ言った。そして、おずおずと右手を差し出した。
「ほな、ワイが使い魔ということで一つよろしゅうな」
 ウルフウッドは人懐っこい笑みを浮かべたまま、握手したルイズの手をぶんぶんと振った。

 誰もいなくなった校庭をウルフウッドとルイズは歩いていた。
「しかし、人が飛ぶとはほんまおどろいたで」
「あ、そ」
「なぁ?」
「なによ?」
 ルイズは言外に殺気を込めて返事をした。
てっきり、「なんであんたは空飛べへんの?」とでも言われると思ったからである。
実は彼らは使い魔召喚が終わったあと、飛んで授業に向かう他の生徒たちに置いていかれたのだった。
「あんたら、ってひょっとしてプラントか?」
「はぁ?」
 予想外の質問にルイズは素頓狂な声を上げた。
「いや、なんか空飛んだりしてるし、もしかしたらそうかなーっておもたんやけど」
「違うわよ! そもそもプラントって何よ!」
「そうか、ならまぁええわ」
 なら質問してこないでよ、とルイズは思ったが、この男相手に下手に話を蒸し返しても流されてこっちがむかつくだけだということを学習したので、ここはおとなしく引き下がっておく。
「ねえ、あんたのその担いでいるものって何?」
「これか? 十字架や。知らへんのか?」
「知らないわよ、そんなの。なに、あんたの生まれ故郷の特産品かなんか?」
「まぁ、そんなところやな」
 この世界が自分の元いた世界と違うということを認識しているウルフウッドは、ルイズが十字架を知らないという事実にはそれほど驚かなかった。
「あんた、一体何者なの?」
「牧師」
「牧師?」
 ルイズは不思議そうに彼を眺める。
「牧師って、神官みたいなものよね?」
「そやな。ちなみにこの十字架はワイの商売道具」
「って、あんたまさか異教徒?」
 ルイズは驚いた声を上げた。
「異教徒、言われたら、そうかもしれへんな」
「そうかも、ってあんた、それとんでもないことよ! ばれたら異端審問にかけられるわよ!」
「何それ?」
「わかりやすく言えば、死刑」
「おーこわ」
 と対して怖そうではないウルフウッドの態度にルイズはイライラを募らせた。
「あんたね! 本当にそういうのは危険なのよ! 異教徒というだけで焼き討ちされた村もあったりするし」
「大丈夫。ワイ、別に神様信じているわけちゃうから」
「……信じらんない」
 自称牧師から飛び出したとんでもない発言にルイズはあきれ返った。
ウルフウッドはそんなルイズを見て、少し頬を緩める。
そんなウルフウッドの態度が気に食わないルイズはそのまま彼に話しかけることなく、歩く速度を速めた。



 空には二つの月が浮かんでいる。赤い月と青い月。
 それを見上げながら、ウルフウッドはここは別の世界というよりもまた別の星なのかもしれないと思っていた。
あれからルイズに連れられるままに、ウルフウッドはルイズの部屋へとやって来ていた。
「あんたどっから来たの? 牧師ってことはロマリアから?」
「ちゃう。その、なんつーか、もっともっと遠いところや」
 ベッドに座ったルイズからの質問に、ウルフウッドは興味なさげに答えた。
「あのねえ。あんた平民でしょ? 平民が貴族にそんな口の聞き方していいと思っているわけ?」
「あぁ、それちょうど聞きたかったんや。その平民ってなんやねん」
 ルイズは額を押さえて大きくため息を付いた。
「こんなことも知らない田舎者が私の使い魔なんて」
「ええから、説明してや」
「あんた魔法使えないでしょ」
「使えへんな」
「なら、それが平民。魔法が使えるメイジが貴族。わかった?」
 ふーん、とウルフウッドは鼻を鳴らす。まぁ、なんとなく納得は出来る話だった。
そして、そこでふとした疑問が湧いてきた。
「それやったら、おじょうちゃんは魔法が使えへんのになんで貴族なん?」
 そう言うとルイズの蹴りが飛んできた。
「なんも蹴らんでもええやん」
「あんたがしょうもないこと言うからでしょ! あんたが悪いのよ、あんたが」
「はいはい」
 ルイズはきーっと歯を食いしばる。この男の堂々超然とした態度が気に食わないのだ。


「あんたね、使い魔なんだから、もっと使い魔らしくしなさい」
「それも聞きたかったんやけど、使い魔ってなにするもんなんや?」
「使い魔っていうのはねえ、まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」
「ちゅうと?」
「使い魔が見たものは、主人も見ることができるのよ」
「ふーん」
「でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何にも見えないもん!」
「そら、ワイの視界が見えていたらパンツ隠すやろ」
「なっ!」
 そして二発目の蹴りが飛んできた。
「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」
「秘薬?」
「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとか……」
「へー、そんなん使うんや」
「あんた、そんなの見つけてこれないでしょ! 秘薬の存在すら知らないのに!」
「無理やな」
 ルイズは苛立たしそうに言葉を続けた。
「そして、これが一番なんだけど……、便い魔は、主人を守る存在であるのよ! その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目! でも、あんたじゃねぇ……」
 ウルフウッドは何も答えずにただ笑っている。
「何よ?」
「まぁ、少なくともガキ一人くらいやったら守ったるわ。安心したらええで」
「ご主人様に向かってガキって!」
「ガキはガキや。昼間かてガキみたいなケンカしとったやろ」
 心当たりのあるルイズは言い返せない。
「もう、疲れたから今日は寝る!」
「おやすみ、ってなにやっとんねん!」
 ここでウルフウッドが初めて驚いた声を出した。ルイズが脱いだ下着を彼に投げつけたからである。
「何って、着替えてるのよ。あと、それ洗濯しといてね」
「男の目の前でか? それに、言っとくけどワイそういうサービスはあんまり」
「別に使い魔に見られたってなんとも思わないわ」
「まぁ、ワイもなんとも思わへんけどな」
「どういう意味よ?」
「そのままの意味や」
「言っとくけど、あんた床で寝るんだからね」
 そう言い放つとルイズは毛布を一つ投げた。
「おう、おおきに」
 ウルフウッドは毛布を受け取ると、そのまま床に横たわった。
てっきり文句か何かを言うと思っていたルイズは拍子抜けして、その勢いのままふて寝した。
 今まで平気で野宿をしてきたウルフウッドにとって雨風がしのげて凍える心配もない寝床は、それだけで十分満足できるものだったのである。
 こうして二人が始めてであった夜は更けていった。


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