あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの武侠-05


例えるなら、それは獲物を定めた獣の気配。
万雷の歓声に紛れ、己が身を潜める確かな殺気。
気を緩めれば、瞬く間に静寂を打ち破り喉下を喰らわれる。
そんな感覚を覚えたワルドは静かに自分の杖へと手を掛けた。
誰にも悟られぬよう、されど一息で敵を迎え撃てる態勢を作り上げる。

自分の存在が伝わった事を確信して、梁師範は立ち去った。
その場に取り残されたのは状況を理解できなかったルイズのみ。
周囲を取り巻く生徒達もアンリエッタ姫以外に目はいっていない。
唯一人、違和感に気付けたのは興味なく手元の本に視線を落としていたタバサだけだった。


夜の帳が落ちる頃、再びワルド子爵はその場に現れた。
それは自身に恐怖を与えた存在を探る為に。
明らかに相手は自分を誘い出そうとしている。
だが、彼はあえてその挑発に乗った。
昼間のような状況で奇襲を受ける危険を考えれば、
多少の事があろうと敵の存在を計るべきだと判断したのだ。

「よう。待たせたな」

張り詰めた空気を放つワルドに親しげに話しかける声。
振り返った先にいたのは奇妙な服装をした見覚えの無い黒髪の平民。
しかし、薄暗闇の中から現れた男の視線にワルドは覚えがあった。
殺意を滾らせた獰猛な獣の眼。よもやそれがただの平民のものだったとは……。
手に掛けた杖から手を離し、彼は下らなそうに笑みを浮かべた。
その刹那、空気が弾けた音が周囲に響く。

「真面目にやれ。でなきゃ……死ぬぞ」

緊張が解けかけた直後、ワルドの前髪を揺らす風。
それは魔法ではなく、目の前の男が放った拳圧によるもの。
顔が確認できる距離とはいえ、互いの間は3メイルは離れている。
今の拳を、もし腕にでも受けていれば枯れ木でも折るように砕かれていた。
男の危険性を理解しワルドは再び杖に手を伸ばして引き抜いた。
メイジであろうとなかろうと眼前の敵の脅威に変わりはない。
その確信が彼から慢心を削ぎ落としトリステイン最強のメイジへと変える。


だが、そうではなくては困る。
ただワルドの命を狙うだけならば不意を突き、
未知の技術である剄を駆使して戦えば負ける事はないだろう。
梁が望んだのは互いの全力を尽くして戦う死闘。

「何故、僕を狙う? 恨みかそれとも誰かに雇われたのか?」

見た事のない構えを取る梁にワルドは問う。
魔法衛士隊の隊長となれば内外を問わず多くの人間から怨み妬まれる。
事実こうして暗殺者に命を狙われた事もあった。
しかし相手に杖を抜く時間を与える相手は初めてだ。
そして意図を理解できぬワルドに返された答えは意外な物だった。

「お前が強そうだったからだ」
「何を…?」
「相手が強いと知れば手合わせてしたくなる。
どちらが強いか確かめたくなる。全力を以って戦いたくなる。
……お前にあるだろう、そんな気持ちが」

それは決して消せない格闘家の性。
世界が変わろうと決して揺るがない。
ただひたすらに強さを追い求めて道を突き進む。
ワルドとてそれを笑い飛ばす事は出来ない。
かつて彼が憧れた貴族達も、そんな下らない理由で決闘に赴いた。
それは失われた過去の栄光の記憶。
だが、この男は尚もそれを守り貫き通しているのだ。
なんという純粋なる意思と覚悟だろうか。

「……もしも僕が応じなかったらどうするつもりだったんだ?」
「そうだな。その時はお姫様でも襲って無理矢理にでも引っ張り出すか」
「なるほど。となれば魔法衛士隊の隊長として放置しておく訳にもいかんな」

楽しげに冗談を交わした時間も一瞬。
殺気を纏わせて向かい合う両者に言葉は要らない。
あるとすれば、それは唯一つ。

「トリステイン王国グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」
「西派白華拳最高師範、梁」

互いの名を心に刻み付けるかの如く名乗り合う。
これからの死闘を未来永劫忘れる事なきように、
たとえどちらかが倒れようともそれを誇りとする為に。

「参る!」

その言葉を発したのどちらだったのか、
あるいは両方だったのか、戦いの幕はその一言で開かれた。


神速の域に達しているであろう梁の踏み込みをワルドは迎え撃つ。
『閃光』の二つ名を持つ彼の戦い方は意外にも守勢にある。
相手の動きを見、その手を窺い、万全を期して彼は攻勢に打って出る。
迂闊に動けば実力の劣る敵にさえ倒される事があると熟知しているが故の戦法。
そして、何よりも彼には相手よりも遅れて発そうとも間に合う『速さ』がある。
相手の詠唱を見極め、それに先んじて魔法を完成させる。
それでは如何なるメイジでさえも敵う筈はない。
仕掛けた瞬間、己が何をされたかも分からずに打ち倒されるだろう。

しかし至近から放たれた寸打をワルドは驚愕と共に避けた。
切り返すべき隙などない。続け様に放たれる連打を辛うじて凌ぐ。
絶対の自信を持つ速度において同等あるいは凌駕する相手と杖を交えた事はない。
困惑を押し殺し、彼は梁師範を引き離そうと背後に跳躍した。
だが、それこそが梁師範の狙い。
着地と同時に避けようのない剄での一撃を放ち勝負を決める。
両手で印を結び、剄の呪文を口にする。

「煉精化気煉気化神…」

追撃をせずに足を止めた梁師範に違和感を感じつつも瞬時にワルドはルーンを紡ぐ。
先に完成したのはワルドのエア・ハンマー。
内気より剄を練り上げる動作は彼から見れば致命的な隙。
互いの立場は逆転し、未だに詠唱を続ける梁師範に空気の塊が襲い来る。
受ければ完全武装の兵士とて昏倒せしめる威力を秘めたそれと、
真っ向から梁師範の掌底が激突する。

「破ッ!」

破裂するような衝撃音と巻き起こる風。
自身の魔法が徒手で打ち砕かれた事実にワルドは凍りついた。
それも見えない筈の一撃をああも事も無げに…。
ワルドの疑念は確信へと変わった。
この平民は魔法ではない“何か”を有していると。


(危ねえ危ねえ……死ぬかと思った)

睨むのにも似た視線を浴びながら、悟られぬよう梁師範は動揺を隠し通す。
まさか先に魔法を打たれるなどとは思いもよらなかった。
そもそもルイズしか比較対象がいなかったのだから仕方ない。
見えない攻撃を受けれたのもライフルと対峙した時のように、
杖の先端と放たれるワルドの殺気から判断しただけだ。
運が悪ければ、ここで敗れていてもおかしくなかった。

呼吸を整えて梁師範は再び剄を練り上げる。
だが、それ今しがた放った打透剄ではない。
己が両手に剄を纏わせて武器と変える西派の基本。
魔法を詠唱させる隙を与えれば確実に敗北する。
互いの手を知らない者同士とはいえ引き出しの多さは恐らく向こうが上。
まるで中国でのペドロ達の戦いを真似るように彼はワルドの懐へと飛び込んだ。


引き離そうとするワルドと喰らいつく梁師範。
その合間に放たれる両者の攻撃は互いに必殺。
ワルドのエア・ニードルが拳法着を掠めれば、梁師範の手刀が羽帽子に切れ目を入れる。
返しで見舞われた蹴りを避けながらワルドは舌打ちした。
分が悪い。相手が両手足使えるのに対して、こちらは杖一本。
それ以外の部位で受けようとすれば容易く切り落とされるだろう。
気迫の込められた一撃を前に、防衛本能がそう告げていた。

魔法を使わせぬ為、杖を狙ってきているのは分かっている。
だからこそ、今まで一撃もマトモに受けずに済んでいるのだ。
このままでは持久戦……体力勝負ともなればどちらに転ぶかは分からない。

平民相手に負けたとなれば自身の名誉は傷付くだろう。
何よりもワルドは確実に勝つ事を是としている。
一か八かの勝負に全てを賭けるつもりは毛頭ない。
だからこそ彼は必勝の手に打って出た。
エア・ニードルを解き、彼が唱えたのはフライ。
旋風脚を放った梁師範の頭上を飛び越えて、彼は寮塔の上へと降り立った。

「悪いがこれで勝負を決めさせて貰う」

詠唱するのは彼の持つ魔法の中でも高い殺傷力を持つライトニング・クラウド。
放たれた雷雲は如何なる強者であろうとも避け難い。
ここは決して拳足の届かぬ場所。
仮に駆け上がって来れたとしても魔法の完成には間に合わない。
故に、絶対の安全地帯とワルドはそう思っていた。

しかし、彼は知らない。
梁師範が手足に纏わせていた剄を放てる事を、
フライで頭上へと逃れた直後から彼が呪文を唱えていたのを、
そして今ワルドがいる場所は彼にとっても絶好の距離だという事実を。

「三華聚頂天花乱墜…」

組まれた印を中心に、体を巡る膨大な内気が剄へと変化し収束していく。
西派の中でも知る者は限られている究極の奥義。
剄を破壊力に変えるという一点においてこの技を超える物はない。
一度放てば体力を消耗し立ち上がる事さえままならぬ諸刃の剣。
故に必殺必倒。この技が放たれたのならば、そこには勝利か敗北しかない。

ワルドの眼が驚愕に見開く。
足元で構える男の両の掌が太陽の如き眩き光を放つ。
それこそが魔法ではない“何か”の正体だと彼が確信した直後。

「百歩…神拳ッ!!」

眼下より放たれた一条の光がワルドもろとも寮塔を貫く。
その刹那。寮内に響き渡った轟音が寝入っていた生徒達に危急を報せた。


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