あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔はメイド-03


 シャーリー・メディスンが魔法の世界ハルケギニアに召喚されて、数日がすぎた。
 少しずつ新しい環境にも慣れ、少女は元気に毎日を生きている。
 召喚主であり、雇い主であるルイズのメイドとして。
 本来はメイジを守る使い魔と召喚されたわけだが、凡庸な十三の少女にそんなものを求めるほうが間違っている。
 というわけで(ルイズにすればやむなく、だが)、シャーリーはメイドになった。
 元もとメイド志望であった少女は、予期せぬことながらも、一応希望通りの職につくことができたわけである。
 ある意味結果オーライというやつかもしれない。
 時刻はお昼前。
 まだ主人が授業を受けている間、シャーリーは洗濯にはげんでいた。
 ルイズの分は早朝時に終わっている。
 これは、他のメイドの手伝いだ。
 他の使い魔は主人と一緒に教室にいるものもけっこういるが、シャーリーの場合は主人から、
 「部屋の掃除でもやってて」
 ということで、基本として授業中は別行動。
 ルイズとしては、失敗魔法をシャーリーにあまり見られたくなかったということもあった。
 「……」
 シャーリーは手際良く洗濯をしながら、時々手を止めて、右や左を見る。
 それから、また洗濯に専念する。
 こういったことを何度も繰り返していた。
 水汲み場周辺は、軽い動物園状態になっていたのだ。
 犬や猫、小型のクマや狼、鳥やカエル。
 地面から顔をのぞかせる大きなモグラ。
 目玉のお化けや、蛸人魚やら脚のたくさんあるトカゲ。
 紋章から抜け出したような怪物たち。
 そんな連中がたむろしている。
 幸いみな一様におとなしく、襲ってきたり暴れたりということはないのだが、シャーリーの心境は複雑である。
 正直言ってけっこう、いやかなり怖い。
 犬や猫ならまだしも、目玉お化けや火を吐く大トカゲなどはあまりお近づきになりたくない。
 いない時を見計らって洗濯をしても、使い魔たちはいつの間にかウヨウヨ集まってくるのだ。
 この使い魔というのは、
 (猫みたいに集会でもつくる習性があるのかな?)
 というようなことを考えながら、シャーリーは洗濯にはげむ。
 ほどなくして。
 ぱしゃぱしゃ。
 「?」
 隣で水音がした。
 他のメイドでもきたのか、と思い横を見やると、
 「!?」
 シャーリーは驚くべきものを見た。
 横にいたのは人ではなく、おそらく誰かの使い魔であろうアライグマであった。
 だが、問題はそこではない。
 問題なのは。

 後に、シャーリーはルイズにこう語っている。

 あ…ありのまま目の前で起こった事を話します…。
 『水音がするので誰かきたのかと思ったら、隣でアライグマが洗濯をしてました』。
 な…何を言ってるのか、わからないと思いますが、私も何が起こってるのかわからなかったです……。
 催眠術だとか幻覚だとかそんなもんじゃ絶対ありません…。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わいました…。

 アライグマが洗いものをしている。
 そんな冗談のようなことが、シャーリーの目の前で起こっていた。
 よく見てみれば、洗っているのはまだ洗っていない洗濯物。
 「あ…」
 一瞬止めようと思ったが、観察してみるとけっこうちゃんと洗っている。
 なまじの人間がやるよりもうまいかもしれない。
 (使い魔って、こんなこともできるんだ……)
 魔法の薄気味悪さ……もとい、便利を改めて知った気のするシャーリーだった。

 「はあ……」
 洗濯を続行しながらため息をついていると、
 ちゅうう。
 シャーリーの肩でハツカネズミが鳴いた。
 その不思議な行動から、これも使い魔のうちの一匹であろうと思われるが……。
 時々シャーリーのもとに現れるこのネズミ、誰かの使い魔なのかシャーリーはまだわからない。
 サイズと身軽さゆえか、シャーリーと一番接触の多い使い魔仲間の一人ならぬ一匹。
 やがて。
 アライグマの手伝い(?)もあって、洗濯は早めに終わった。
 シャーリーが洗濯を終えて水汲み場を離れると、使い魔たちもすぐに散り散りになっていった。

 集会が終わった後、ハツカネズミもまた本来の主のもとに戻っていた。
 トリステイン魔法学院の本塔最上階・学院長室。
 「おお、戻ったかモートソグニル」 
 ハツカネズミの主、オールド・オスマンは水キセルをくわえながら使い魔を迎えた。
 ちゅうちゅう。
 モートソグニルはちょろちょろと机を駆け登り、次いでオスマンの肩を駆け上がる。
 「最近よう遊びにいくが、どこにいっとるんじゃね? あんまり一匹で遊びにいかれると寂しゅうていかん。気を許せる友達はお前だけじゃからな」
 オスマンは冗談めかした言葉をつぶやきながら、使い魔の小さな鼻をつつく。
 ちゅうちゅう。
 ちゅうちゅう。
 「ほう、新しい友達ができたとな? しかも若いメイド……」
 ハツカネズミの鳴き声を聞きながら、オスマンは面白そうにうなずいた。
 「ふむふむ。何となく気が惹かれると……。なに? 他の使い魔たちも? それは不思議じゃのう。しかし、そんなメイドがうちの学院におったかなあ? 十二、三歳の……はて」
 オスマンはしばらく自慢の髭を弄っていたが、
 「もしやミス・ヴァリエールの使い魔となった異国の少女かのう? ほう、やはり間違いないようじゃな。しかし、見たところ普通の少女としか思えんが………使い魔には特殊な力が備わることも多々あるからのう。もしや、それかもしれん」
 ちゅうちゅう。
 「わかった、わかった。別にその子をどうこうしたりはせんよ。なに……馬鹿モン! 誰がそんなことをするか! わしにそんな趣味はないわい! わしの趣味は素敵なヒップをしたオトナの女性じゃ。たとえば、ミス・ロングビルみたいな、のう」
 むっほほ、とオスマンは笑った。
 ちゅうう……。
 呆れたような、そして疑うようなモートソグニルの鳴き声が、室内に小さく響いた。

 昼食時。
 ルイズが黙々と昼餉を取っている横で、シャーリーは給仕などを行っていた。
 やたらと貴族であることを主張し、煙たがられるルイズであるが、食事をする様子は非常に綺麗なものだった。
 作法がものすごくいいのだ。
 ほとんど完璧といってもいい。
 魔法が使えない分、より貴族らしくあろうという努力の賜物なのだろう。
 そういった部分が、シャーリーにとっては好ましく映った。
 やがて、食事が半分ほど終わった頃である。
 「はぁい」
 ひらひらと手を振りながら、シャーリーに近づいてきた者がいる。
 なまめかしい褐色の肌と燃えるような赤い髪をした女。
 キュルケだ。
 「…………」
 一瞬どう対応していいかわからず、シャーリーは曖昧に頭を下げた。
 シャーリーは、彼女が苦手だった。
 主人と部屋が隣同士ということで、よく顔をあわせるのだが、ルイズとことあるごとに喧嘩しているし、何より雰囲気が……。
 貴族の生まれにふさわしく、確かに特有の気品はある。
 しかし、その過剰なまでに色香を強調するスタイルは、貴族の令嬢というより高級娼婦か何かのようだ。
 「あら、そんなに脅えないでよ?」
 キュルケはふふと笑って、シャーリーを見つめる。
 蕩けるような笑み。
 普通の男であればたちまち主導権を奪われたであろうが、同性であるシャーリーには効果は薄い。
 「良かったら、今度一緒にお茶でもしない?」
 「え。あ、あの……」
 シャーリーはあわてる。
 この人は一体何を言っているんだ?
 「ちょっと、キュルケ!? うちのシャーリーにチョッカイ出さないでくれる!?」
 すぐさま、不快な表情を隠そうともせずルイズが割って入る。
 「この子はねえ!? あんたみたいな淫乱女と違って、清楚で初心なんだから!!」
 そんなルイズに、
 (まるでお姉さん気取りねえ)
 キュルケは内心苦笑した。
 確かに実年齢はルイズが上だろうが、体型的に両者にほとんど際はなく、同い年といっても通りそうだ。
 精神年齢にいたっては、むしろシャーリーのほうが上かもしれない。
 「大体シャーリーは女の子よ。声かける相手を間違えてるんじゃなくって?」
 「あら、そんなことないわ。お姉さん、シャーリーとお話がしたいなあ」
 キュルケはルイズの抗議などどこ吹く風。
 シャーリーに近づくと、その指でついとシャーリーの顎を持ち上げる。
 そのままキスにでも持っていきそうな雰囲気だ。
 無論、雰囲気だけだが。
 「あ、あの、な、なんで……」
 シャーリーは緊張のあまり声をぶれさせる。
 「ふふふ」
 艶っぽく微笑み、キュルケはシャーリーを見る。
 一見ただのメイド。
 しかし、彼女には何か秘密がある、とキュルケは睨んでいる。
 シャーリー自身も気づいていないかもしれない、何かが。
 使い魔のフレイムが、どういうわけかこの少女になついている。
 フレイムだけではない。
 学院長のモートソグニルも、ギーシュのヴェルダンデも。
 シャーリー自身はわかっていないのだろうが……。
 こんなこと、普通はまずありえない。
 そのわけを知りたいと思うのは、自然なことではないのか。
 それが、あの『ゼロのルイズ』の使い魔であるなら、なおさらに。
 「それはね……。興味が、あ・る・か・ら・に決まってるでしょ?」
 息がかかりそうなほどに顔を近づけ、キュルケは言った。
 恋という名のゲームで得てきた。相手を口説き落とすテクニックの一環。
 だが。
 この場合はそれが失策であったことを、キュルケはすぐに痛感させられることになる。
 「あ、あんた……」
 ルイズがものすごい眼でキュルケを見ている。
 ドン引きしているといってもいい。
 他の女子生徒たちも、
 「まあ……」
 「いやだ……」
 ひそひそと囁き合う。
 顔を赤らめて。
 男子生徒も変な顔というか、何を想像しているんだとつっこみたい顔をしている。
 幸いというべきか。
 シャーリーはよくわかっておらず、きょとんとした顔つきだった。
 (興味があるって、なんだろう……)
 しまった。
 キュルケは後悔するがもう遅い。
 「ええと、誤解のないよう言っておくけど……。そういう意味じゃないわよ?」
 弁解したが、無駄だった。
 ルイズは猛スピードで幼子を守る母のように、シャーリーをキュルケから引き離した。
 「この色魔! シャーリーに何する気よ!!」
 「ちょっと、誤解しないで…………私はね!?」
 「誤解もヤスデもないわよーーー!!」
 小さなメイドをめぐっての言い争い。
 それは、ぱっと見には痴話喧嘩に見えなくもなかった。

 数日後。
 キュルケが同性愛に目覚めたらしいという噂が学院が流れることになる。

 「まーったく! あのツェルプストーの女は何を考えてるのかしらねー!」
 湯船から時折音が響く中、ルイズは呆れたように言った。
 かぐわしい匂いが湯気と共にあふれる。
 湯に張られた香水によるものだ。
 大理石で作られたローマ風呂のごとき代物。
 ルイズはその中でのびのびとくつろいでいた。
 「あー。生きかえるわー……」
 その近くでは、シャーリーが桶などを手に立っている。
 いつものメイド服ではなく、濡れても構わない格好で。
 貴族専用の風呂に、平民は入れない。
 しかし、入浴・体を洗うのは手伝うのは別だ。
 やがてルイズが湯船から上がると、その背中をシャーリーが洗い始める。
 念入りに、丁寧に。
 「ねえ」
 不意にルイズは言った。
 「今日、キュルケに変なこと言われちゃったけど……。あんたは、そのないの?」
 「……え?」
 「だから、恋をしたこととか」
 「……いえ」
 かすかに頬を赤らめ、シャーリーは否定した。
 「そう」
 しばらく無言。
 「私も、ないわ。小さな頃に憧れてた人はいたけど……あれは、恋とまでは言えないなあ、多分」
 ふうとルイズは溜め息をつく。
 社交界でも、この学院に入ってからも、ゼロだゼロだと馬鹿にされ、ボーイフレンドはおろか、友人さえできなかった。
 もっともそれは攻撃的なルイズの気性が原因ではあるのだが。
 唯一話す相手は、忌々しいことにあの仇敵たるツェルプストー家のキュルケくらいだ。
 ふと、ルイズは想像してみた。
 もしも、召喚した相手が女の子ではなく、男の子だったら?
 シャーリーの男の子版を想像してみる。
 うん、これもなかなか悪くないかもしれない。
 魔法は使えない。
 護衛もできない。
 でも、自分を馬鹿にすることなく、一生懸命仕えてくれるけなげな働き者。
 悪くはないじゃないか。
 しかし――
 ルイズの脳裡には何故か。
 やたらに無礼で反抗的、おまけに他の女にデレデレするわ、主人に夜這いをかけるわというトンデモネー少年の姿が浮かび上がった。
 ぶるぶるぶるぶる。
 冗談じゃあない! 何でそんなやつを使い魔にせんといかんのだ。
 ルイズは妄想を振り払うように首を振った。
 そんな主人を、シャーリーは不思議そうに見ていた。


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