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其之五:倉で……


空高く太陽が昇り、世界により強い光と熱をもたらした。
葉と葉の間から降る日光からそれを感じ取ったオレは、ふぅと息を吐き出し木にもたれ掛かる。

「もう昼なのか……」

どこまでも青い空をぼうっと見上げながら、思わず呟いた。
確か今日は、まだ空がうっすらと暗い時間から修行を始めたはず。
太陽の昇り具合から見て、今は大体正午といったところだろう。
追われる羽目になったのが、空に明るみが出始めてだったから……
思考の最中、かすかな気の集まりを感じて、ちらりと視線を落とす。
もういい加減聞き飽きた、革靴で地面を蹴り進める音が近づいて、3人の――いずれも手に剣などの武器を持った――男が、早足で眼下を通り過ぎた。

さっきから何度この光景を見届けたことか、数えては無いが、もういい加減ため息も吐き飽きたのは確かだ。

しつこい。しつこすぎる。
オレは何か盗んだりとか、壊したりそういうことは一切していない。
せいぜい……修行で少し、地面を踏み割ったぐらいだ。
家自体に被害がないんだし、オレは誰にも見つからないよう数時間ずっと隠れて続けているんだ。
もうそろそろ、せめて警戒態勢だけでも解いてくれてもいいはず。
じゃないと……

「腹減ったな……しかし……」

朝から何も食べてない腹は、空腹で情けない悲鳴を上げる寸前だった。
オレは慰めにはならないと知りつつ腹をなでて、思いっきり寝転がった。



問題はもう一つあった。

力の入らない体を無理やり起こして、遥か前方を見つめる。
細めた目に映るのは、離れに離れてようやく端と端まで見える大きな屋敷。
言うまでなく、あれはオレが出てきた所。カトレアさんの部屋もある屋敷だ。
そうなのだ。
気づかないうちにどんどん遠くに来ていたらしい。
つまりそれは、こっそりカトレアさんの部屋に帰ることが、どんどん難しくなっているということだ。超スピードで一気に駆け抜ければ見つかりはしないだろうけど、万が一を考えればそれは最後の最後にとっておきたい。

だが、腹が減った。

木から飛び降りて、すばやく前方の木の陰に隠れる。視線は屋敷に、わずかな気の動きも逃さないように、感覚は周囲全域に張り巡らせる。
何とかあそこまでたどり着いて、カトレアさんに誤解を解いてもらないと
とてもご飯にはありつけそうも無い。
全力疾走は最後の手段。カトレアさんが俺を見つけてくれるなんて、都合の良い事もそうそう起こらないだろう。
なにか、なにかいい方法はないのか……?

「っ! こんなときに……!」

こちらに向かってくる微量な気の動きを感じ取り、即座に木の上に飛び移る。
直後、予想したとおり3人の男が木にたどり着いた。オレに気づいた様子も無く、3人は互いに向かい合い、話し始めた。

『おい! まだ見つからないのか!?』
『まずい、まずいぞ! 旦那様も奥様もいない時に賊に進入を許し……」』
『もう何時間もつかまらない、逃がしたかもしれない……ああ、俺たち殺されるだろうなー』
『さらし首だろうなー……』
『今のうちに、化粧しとくか』

落胆した声で言う。どうやらこの家の主は夫婦そろって厳しい性格らしい。
まぁ名家の生まれの人は、みんな家名とかプライドとかが大事だって、聞いたことがあるから納得はできるけど。

『あげく、カトレアお嬢さままで行方知れず』
『明日は長期休暇でエレオノールお嬢さまも帰ってくるんだぞ……』
「!? な、何だ……っ!」

驚き、それに反応して、体から一瞬気が溢れた。
危うく声を漏らしそうになったが、それだけはなんとか手で口を覆い阻止する。
3人に動きは無い。聞かれてはいないようで、安堵に胸をなでおろす。

3人が遠くに離れたのを見て、オレは眼を瞑って意識を集中させた。
カトレアさんの気の動きを探るために。あの人の気はものすごく小さいうえ、時々妙に不安定なためか、完全に動きを探り出すためにはかなり集中する必要がある。

「……見つけた!」

ここからそう遠くない位置にいる。
オレは見つからないようにと警戒網を最大まで高め、移動を始めた。




「ここか……」

気を頼りにたどり着いたのは、屋敷と少し離れた場所にある
倉のようなところだった。白い石壁が太陽光を反射し、鏡のように輝いている。
屋根は濃い茶に塗られた木材仕様で、なんだかアンバランスな風貌をしていた。
気を感じるのは中からなので、一応周囲に人がいないことを確認して扉を開ける。

その瞬間、細い手にリストバンドを捕まれたかと思うと、中へと一気に引っ張り込まれた。

もちろん抵抗するのは簡単だった。
だが、引っ張り込む手が誰の手なのかわかっていたからこそ、オレはあえて誘いに乗った。


中はさすがに倉だけあって、日の光が微量しか差し込まず暗かった。
周りにはオレの身長に匹敵するぐらいわら束が詰まれており、奥には木造の棚に重そうな木箱がいくつも積まれているのが暗いながらぼんやり見えた。

だがそれ以上に、俺の目は目の前にいる人に向けられていた。

はにかんだ微笑みを携え、それを惜しむ無く俺に向けている人。
体から感じる気は小さく、同じくらい年のはずなのに年下のようにも年上のようにも見える不思議な空気をまとった女性。

「おひさしぶりね。姿が見れて、なんだかとっても安心したわ」
「……ええ、オレもですよ」

カトレアさんは、依然変わらぬ物腰で、今までオレを待っていたようだった。
カトレアさんはわら束に座り、隣を手でぽんぽんと叩いた。

「ね、ここに座って」

そう薦められて、オレはカトレアさんの左隣のわら束に腰を下ろした。
なんだか恥ずかしくなって少し間を空けると、カトレアさんのほうから笑顔で近寄って、わずかな間をつぶした。沈黙が流れる――

「ゴメンね」

――ヒマもなく、カトレアさんは言った。

「ほんとはみんなにゴハンのこと、ちゃんと紹介したかったんだけど……朝起きたらあなた、どこかに行っちゃってて、こんなことになっちゃった」
「そ、そんな! オレが勝手に出てってこんな騒ぎ起こしただけで、カトレアさんは何も、何も悪くないですよ!」

くっと頭をうつむかせたカトレアさんにあわててフォローを入れると、彼女の顔はぱっと花を咲かせたように、爽やかな笑顔を浮かべた。
右腕を両手で強く握られ、彼女らしい弱い力でくいっと引っ張られた。

「そうよねー……言われてみれば勝手に出てって騒ぎを起こしたのは、ゴハンなのよね」

ぞくりと、背筋を冷たい汗が伝った。
怖い……! 穏やかな口調と華やかな笑顔を向けられているものの、何かうす黒いオーラがカトレアさんの体からかもし出ているような気がする。

――まずいんじゃないのか。なにか……とんでもなく危ない予感がする……


しかし、この予感はカトレアさんとは直接関係ないところで的中することになる。
このときはまだ知る由も無いし、考えることなんてできなかったけど。

――不意に、軋みを上げるほどに強く、扉がたたかれた。

カトレアさんと同時に扉へ視線を向けると、向こう側から2人分の若い男の話し声が
くぐもって聞こえ、続いて二度、三度扉をたたいた。
そして四度目――――……それが終わると、しばらくたって片方の気が高ぶった。
外にいるやつは鍵を持っていないのか、懇親の力をこめて、何か硬いものをがむしゃらに扉へと打ち付ける、そんな音が鈍く響いた。

「まずい、誰か来たみたいだ」
「まあまあ、予想外ね。そう……ここに隠れましょ!」
「えっ? うわ! ちょっと!?」


悟飯がそうこうしてるうちに、重苦しい破壊音とともに扉が開かれた。



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