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ゼロな提督-16


 慌ただしいウエストウッド村の朝食が終わった。
 急いでマチルダとティファニアの話が聞きたいルイズとヤン。今朝はルイズまで朝食の後片づけを手伝っている、大慌てで。
 ヤンも馬にエサを与えて、即ティファニアの家に向かった。
 リビングに集まってテーブルを囲むのはマチルダ・ティファニア・ルイズ・ヤン、そして壁に立てかけられたデルフリンガー。
 ルイズとヤンはコップに注がれたワインなど目もくれず、ティファニアの話を瞬きもせずに聞き入っていた…。


 ――四年前、降臨祭の始まる日。
 母と共に隠れていた家へ王軍が襲撃。モード大公派の貴族は抵抗するも敵わず、無抵抗を貫こうとした母も殺害された。
 父より渡された杖を手にクローゼットの中で隠れていたティファニアは、記憶消去魔法で襲撃者の記憶を消して難を逃れた。
 この魔法のルーンは、古いオルゴールが奏でる曲を聴いている時に、頭に歌と共に浮かんで来たもの。
 財務監督官だったモード大公はアルビオン王家の財宝を管理しており、中には王家の秘宝も多数存在した。
 そのうちの一つに、音の鳴らない古ぼけたオルゴールもあった。
 子供の頃、同じく王家の秘宝だった指輪を嵌めてオルゴールを開けた所、曲が聞こえてくる事に気が付いた。
 不思議な事に、その指輪を他の人が嵌めても、他の人には曲は聞こえては来なかった。
 綺麗で懐かしい感じのする曲だった。その時浮かんだルーンと一緒に、いつまでもティファニアの頭の中に残った。 
 それから何度も、ルーンはティファニアの危機を救った…。


 ルイズが興奮した様子で尋ねる。
「ね、ねぇ、ティファニア。その曲って…どんなの?」
「あ、私の事はテファでいいですよ。それじゃ弾きますので、待って下さい」
 テファは暖炉の前にハープを抱えて座り、ハープの旋律と共に歌い始めた。
 心に染みるように、声が響く。月明かりに光る髪のように、美しい歌声だった。


 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。
         左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。

 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。
                  あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは陸海空。

 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。
                あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 そして最後にもう一人…、記すことさえはばかれる…。

 四人の僕を従えて、我はこの地にやって来た…



       第十六話   王が守るべきもの



 曲を聴き終える。だが、しばし誰も口を開かない。目を閉じたまま、美しくも寂しげな曲の余韻に浸っている。
 最初に口を開いたのはマチルダ。
「始祖ブリミルが連れた四人の僕。ビダーシャルが言ってたのは『四の悪魔』。ガンダールヴとかヴィンダールヴとか…、全て符合するわね」
 その言葉にヤンも頷く。
「強力な力には、強力な安全装置がかけられる。始祖の力…『虚無』を受け継ぐ王家にかけられた鍵が指輪と秘宝ってわけだね」
 ガタンッとルイズが椅子を倒して立ち上がる。
「と、言う事は!その指輪とオルゴールを手に入れれば!あたしは魔法を使えるかも知れないってことね!?それも、『虚無』をっ!」
 小さな拳を握りしめてガッツポーズをするルイズをヤンが、まぁまぁ…となだめる。
「まぁ、君が本当に『虚無』の系統だったら、可能性は十分だね。ただ…アルビオンの指輪は所在不明だし、オルゴールは恐らくロンディニウムのハヴィランド宮殿。管理はレコン・キスタだよ」
「だ、だったらっトリステインよ!王家の秘宝の中に必ずあるはずよ!…って、始祖の祈祷書だわ!!多分、城の祈祷書がオリジナル!?ああー!あれって確かクルデンホルフ大公国行ってるじゃないのー!」
「ちょっと!落ち着きなさいって!!」
 拳を振り上げて興奮しだすルイズを、今度はマチルダがどぅどぅどぅと静める。

 そして壁の長剣を手に取り、錆びた刀身をテーブルの上に置いた。

「でと、その『虚無』の魔法を知っているって事は、やっぱりあんたは六千年前ガンダールヴが持っていた剣…ということかい?」
「おうよ!、ま、そーゆーこった」

 威勢良い声を上げる長剣だが、それを囲む4人の視線は、どこか胡散臭いモノを見る感じが混じっている。

「そ…そんな目で俺を見るなよな!そりゃ、なにせ六千年前の事なんだ。記憶だってハッキリしねーよ。だけどよ、そこのエルフのじょーちゃんのルーンを聞いて思いだしたんだよ。自分がガンダールヴに振るわれていた伝説の剣だってこと、ヤンに会った時に感じた『使い手』が何なのか、自分が何故今みたいな錆びた姿になったのかを、よ」
 カチカチなる鍔と共に語られる言葉に、ヤンが納得したように頷く。
「なーるほどねぇ…あの時、武器屋で言ってた言葉、やっぱり予想通りだったね。それでと、他の呪文とか使い魔の事とか、どんな事を思い出したかな?」
「え~っとよぉ。ガンダールヴの力だ!」

 四人が、特にルイズがずずずぃと前のめりになる。

「『ガンダールヴ』は、手にしたあらゆる武器を使いこなし、主を守るんだ。その強さは心の震えで決まる。怒り、悲しみ、愛、喜び、何でも良い。とにかく心を震わせるんだ」
 ルイズが、マチルダが、ティファニアがヤンを見る。ヤンは、自分をじぃ~っと見つめる3対の視線を落ち着かない様子で受け止める。


 寝ぼけまなこで、猫背で、寝坊の常習者で、いつでもノンビリのほほんとした中肉中背のオッサンが心を震わせる。
 歌のとおり、左手のデルフリンガーと右手の槍を力の限りに握りしめ、天を衝くほどの激情を胸に、大地を震わすほどの雄叫びを・・・


「他にない?」
 ルイズはガンダールヴを後回しにすることにした。
「いや、他はサッパリ」
 長剣の答えはサッパリしていた。
「残念ねぇ、ガンダールヴについては収穫無しね」
 マチルダは不毛な妄想を早々に忘れる事にした。
「六千年も前の事ですもの。記憶違いもありますよ」
 ティファニアは長剣の記憶自体が間違ってると判断した。
「ま、ワインでも飲んで気分を変えようか」
 ヤンは皆にテーブルに置かれたままのワインを勧めた。

 ゴクゴクとワインを飲み干したルイズは、溜息混じりに肩を落とす。
「はぁ~、まぁ六千年も経てば、錆びてボケるのもしょうがないか…気長に記憶が戻るのを待ちましょう」
「いや、錆びたのは六千年とは関係ねーんだよ」
 長剣が抗議すると同時に、刀身が光を放つ。そして光の中から現れたのは、今まさに研がれたかのごとく輝くデルフリンガーだった。

 危うい程の美しさを秘めた片刃剣の刃に、四人から感嘆の溜め息が漏れる。

「これが俺の本当の姿だぜ。ただよぉ、なにせ六千年も生きてると、退屈でな。面白い事もねえし、つまらん連中ばっかりだったんだ。飽き飽きして、テメエの姿を変えたんだ」
 ティファニアは目を輝かせて長剣を見つめる。
「凄いですね!さすが伝説の剣なんですね」
「おうよ!スゲエだろ!…まぁ、ヤンがガンダールヴである限り、俺が錆びてよーが何だろーが、カンケーねぇんだろうけど…」
「いやいや、そんな事はないよ。うん。これだけ綺麗な剣だと、いやぁ、子供の頃を思い出すなぁ。磨き甲斐がありそうだって思えるよ」
「あんだそりゃ?」

 輝くデルフリンガーの問に答えるのは、ヤンの父である星間交易船の船長ヤン・タイロンの話。古美術品の収集が趣味で、よく骨董品を磨き鑑賞していた。
 ヤン誕生の報を聞いて父は呟いた。「おれが死んだら、この美術品はみんなそいつのものになってしまうんだなあ」…そして、古い花瓶を磨き続けた。
 妻が急性の心臓疾患で急死した時、手にしていた青銅の獅子の置物を床に取り落として、こう言った。「割れ物を磨いている時でなくて良かった…」
 で、そんなタイロンは幼いヤンの扱いに困り、しょうがないので壷と布を渡して、二人並んで一緒に美術品を磨いたものだった。

「…でも、父が死んでビックリしたよ!何しろ、あれだけ収拾した美術品がティーカップ一個を除いて全部偽物だったんだ!おかげで僕は一文無し。その万歴赤絵のカップも、家に押しかけてきた暴漢共に壊されちゃったし」
 腕組みしながら懐かしそうに父との思い出話をするヤン。

「で、ヤンよ」
「なんだい?デル君」
「俺を、どうするって?」
「磨く」
「…今、俺が自分で自分の錆びを落としたの、見てた?」
「もちろん。でも、父は『美術品は心を豊かにしてくれる』って言ってたよ。鑑定眼は豊かにならなかったようだけどね」
「そうか。まぁいいや、綺麗にしてくれよ」
「任せてくれ」

 ポカッといい音がした。ルイズとマチルダが左右からヤンの頭にゲンコツ喰らわしていた。

「と・も・か・く!」
 一気に緊張感の失せた場の空気を、ルイズが強引に入れ替える。
「聖地の『門』も、『虚無』も、鍵は王家の血統!目指すは各王国に伝わる始祖の秘宝ってワケよ!
 こーしちゃいられないわ。ヤン!マチルダも、すぐに出発よ!まずはロンディニウムに行って、ウェールズ皇太子を探すわ!」
 マチルダが止めようと声を上げる間もなく、ルイズは自分の荷物の所へ飛んで行ってしまった。

 残った3人と一振りは顔を見合わせて苦笑い。
「アルジサマは、止めても無駄そうだね」
「そのようだわねぇ」
「しょうがないですよ。ヤンさんもルイズさんも、必ずまた来て下さいね」
「そんじゃ、エルフの嬢ちゃんも元気でなー」

 というわけで、手を振るティファニアと沢山の子供達に見送られ、ルイズ一行は慌ただしくウエストウッド村を後にした。




 シティオブサウスゴータ。
 サウスゴータ地方の中心都市。人口4万を数えるアルビオン有数の大都市で、小高い丘の上に建設されている。
 円形状の城壁と内面に作られた五芒星形の大通りが特徴的。軍港ロサイスとロンディニウムを繋ぐ交通の要衝である。
 ちなみに、ロサイスはロンディニウムから南へ300リーグ。ウエストウッド村はロサイスから北東に50リーグほど離れた森の中にある。
 影が長く伸び始めたころ、一行は「こんなとこで休んでらんないわよ!」というルイズをなだめ、この都市で一泊する事にした。

 ただ、サウスゴータの街に入るに際し、マチルダには幾つかしなければならないことがあった。
「いいね、あんた達。村を出たら、私はマチルダ・オブ・サウスゴータじゃなくて、ロングビルだよ。トリステイン魔法学院学長の秘書。ここやロンディニウムくらいになると、平民でもあたしの顔を覚えてるヤツが出てくるからね」
 と言ってロングビルは顔を隠すようにフードを目深に被る。
 ルイズが不審げに覗き込む。
「アルビオン王家は滅んだんだから、もうサウスゴータ太守の娘って名乗っても大丈夫なんじゃないかしら?」
「そうもいかないよ。王家が追わなくても、いまだに教会が追ってるかもしれないのさ。
エルフに与する異端としてね。さすがにこの街であたしを教会に売ろうてヤツは少ないと思うけど、念には念を入れないとね」
 ルイズもヤンも、少し複雑な想いで頷いた。

 始祖の力『虚無』こそが世界を滅ぼす力であり、宿敵エルフは暴走する虚無の『門』から世界を守っている…。
 こんな事実が広まれば、始祖ブリミルを崇める教会は根本から存在意義を失う。
 いかなる手段を使ってでも事実を知るルイズ達を闇に葬るのは疑いない。教会が味方でなくなったのは、二人もロングビルと同様なのだ。


 3人の乗る荷馬車はシティオブサウスゴータに入った。街とその周辺は内戦の焼け跡があちこちに残ってはいたが、もう目立つ程ではない。
 むしろようやく訪れた平和を喜ぶ活気で満ちていると言える。
 そして内戦終結に伴い軍役を離れたメイジ達が街を走り回る。
 土のメイジ達が建築や土木工事に杖を振るい、穴だらけになった道路を補修したり排水溝を整備していく。
 火のメイジ達が鍛冶職人として熾した火により鍋や包丁や釘が作られる。
 水のメイジは内戦で傷ついた市民達を癒し、あちこちに溜まった汚水を処理する。
 風のメイジ達が木材を切り出し材木に変えて建築現場へ運んでいく…。
 もちろん平民達も自らの手で同じ事をしている。だが、メイジが杖を振るえばあっという間に同じ事を成し遂げてしまう。
 これでは自力で頑張るより、メイジにお金で頼む方が効率が良いし楽だ。
 特に水メイジの治癒魔法は、高額ではあっても効果は抜群で、科学を超えていると言えるだろう。

 そんな光景を見ていると、御者台のヤンは肩を落としてしまう。
「これじゃ、平民の技術はいつまでたっても発展しないよな…。
 メイジが貴族という特権階級になるのも、ここでは当然なんだよなぁ」
 手綱を握るヤンのぼやきに、荷台で街を眺めているルイズは、何を当たり前の事を言ってるのかという感じに首を捻る。
「そりゃそうよ。だからこそメイジは貴族たりうるのよ。別に、根拠も意味もなく誇りを抱いてるわけじゃないわ」
 同じく荷台でフードに顔を隠しているロングビルも、ルイズの言葉に同意する。
「貴族だからって威張り散らすのは間違ってるけどね…でも、力ある者として責任を持つのは本当さ」

 ヤンが戦った銀河帝国での貴族は、ただの人間。平民と遺伝学上において何の差違もない。
 だがハルケギニアでは、魔法が血統由来である以上、DNA上に厳然たる差が生じている可能性がある。
 ハルケギニアにおいて貴族は平民を支配するが、平民も貴族の魔法に守られている。魔法に甘えて自らの努力を怠っている、というのは酷だろう。
 魔法文明がある以上、科学技術発展の必要性が乏しいのだから。
 ハルケギニア貴族は銀河帝国貴族のような社会に取り付く寄生虫ではなく、社会の構成要素として以上に文明の基礎として重要な地位を占めている。
「しょせん、政治体制なんて効率よく社会を運営する手段のひとつ。その時代に最も好都合な政治体制が選ばれる。
 だから環境次第で王政にも民主共和制にもなる。そしてハルケギニアでは、魔法を使える者が断然強いし責任がある…だからここでは貴族制度も間違ってはいない、か」
 歴史における政治体制の推移、その現実の一端に触れたヤンは、自分が今まで信じてきた理想や理念も絶対ではないことを思い知らされてしまった。

「よぉ、ヤンよ。なーにブツブツ独り言を言ってるんだ?」
「うん、デル君・・・平民の地位向上は難しいなぁって思ってね」
 ルイズがやっぱり呆れた口調で答える。
「当然よ。誰も彼もがヤンみたいに学があって頭が切れるわけじゃないんだから」
 ルイズの言葉を隣で聞くロングビルも当然という風に頷く。自分の力を褒められたヤンではあったが、素直に喜ぶことは出来なかった。


 日暮れ前に宿を探そうとした3人だが、復興事業で経済は好調らしく、どこも満室。何軒も回った末に、ようやく上の下といった感じの宿に一部屋を取れた。
 ただしベッドは二つだけだったので、ヤンは床で毛布に包まって寝ることになるが。
「あら、私とヤンが一緒のベッドで寝ますよ?」
 というロングビルの女神のような微笑みは、鬼のような顔をするルイズには通じなかった。


 そして夜。3人とヤンに背負われた剣は、一緒に街へ繰り出し情報集め、ということになった。
 遍歴の修道女のごとくフードをかぶって顔を隠したロングビルに連れられ、狭く入り組んだ石畳の細道を抜け、モード大公の時代から縁がある、信用の置ける店や人物を回っていく。
 ほとんどはスカボローの町で聞いた話と変わらなかった。だが、ある酒場で店主に紹介された兵士の話は、三人の興味をひくに十分なものだった。


「ああ、確かに見てたぜ。王子は生け捕りにされたよ」

 右頬に大きな切り傷を持つ、いかにも歴戦の戦士という感じな男は、麦酒のコップをグイっとあおる。
 街の再建事業に従事した沢山の職人達や、故郷に帰る兵士達や、引退して毎晩飲みに来てるのだろう老人など、様々な人でごった返す店内。
 そんな店の片隅のテーブルで、貴族の少女と使用人風な男とフードを目深に被った女性に、自らの武勇伝を誇らしげに語った。
 たっぷりとおごられた麦酒とローズトビーフを前にして上機嫌で。

「ニューカッスルの戦闘はよ、正直言って戦闘なんてもんじゃなかったな。城壁は戦艦の砲撃であっという間に瓦礫に変えられて、一番槍を焦った兵隊度どもが一気に突っ
込んだわけよ。それを一番に迎え撃ったのが、ウェールズ王子ってわけさ。
 王子様の魔法は、そりゃあ凄かったぜ!沸き起こる突風やら竜巻やらで、突っ込んだ部隊は一瞬で全滅しちまったよ!王子とはいえ一人に、だぜ!?
 が、そこまでだ。んな大魔法を使えば、あっという間に魔力が尽きる。最後は、えと、なんていったかな?杖を剣みたいにする、ああ!ブレイドっつったっけ?それで一人で二番隊へ、俺のいた隊へ突っ込んできたわけよ。
 でもよ、杖が切れ味抜群の剣になるっつっても、しょせん一人だ。うちの隊長さん、土のラインでね。王子の足元を泥沼に変えてもらって、足を取られて動けなくなったと
ころを、みんなで槍で囲んでプスプスと穴だらけ。偉い人の命令で、死なない程度にしといたけどよ。多分、死んだ方がマシってくらいだったんじゃね?あとは水メイジ達が
いろいろ魔法かけながら連れてったぜ。
 そのあと、新皇帝と一緒にいるのを見たってヤツが結構いるから、今頃元気でやってんじゃねーの?」

 そこまで一気に語った男は、ムシャムシャと旨そうにローストビーフへ噛り付いた。
 これを聞いてるヤンは、腕組みしながら一心不乱に考え事をしている。
 ルイズは黙って麦酒を口にした。

 ロングビルがグィッと前のめりになる。
「それで、他に生存者とかいなかったの?」
 聞かれた男はうぅ~んと唸りながら天井を見上げた。
「多分、いねえな。なにせ城壁が崩れてからは、みんな凄かったからナァ。平民だってメイジだって褒美目当てに先を争って貴族の首にたかってた。名のある首を狩り終えた後は城で金銀財宝の奪い合い。死体は身ぐるみはいだし、殺し合いにまでなって」

 という所まで語ったところで、横で話を聞いている少女メイジから怒気が立ち上っているのに気が付いた。冷や汗をかきながらチラリと見る。
 案の定、ルイズは仇でも見るような目で睨み付けてきて立ち上がった。
「あんた、それでもアルビオン国民なの!?自分の国の王を殺して、死者を辱めて!」

 ロングビルが慌ててルイズの口をふさぎ、椅子に座らせる。

「失礼したわね。気を悪くしないでもらえるかしら?」
 ルイズの剣幕に驚いた男だったが、特に怒るような様子はなかった。
「ああ、別にかまわねえさ。もしかしてお嬢様、外国からかい?」
「そーよ!トリステインから来てるわよ…それがどうしたってのよ!?」
 尋ねられたルイズは顔を真っ赤にして怒っているが、男は納得して頭を上下させていた。


「ジョナサン!?お前、ジョナサンじゃねえか!!」


 突然ルイズ達のテーブルに大声が飛んできた。ジョナサンと呼ばれ、目を見開いて武勇伝を語っていた男は振り向いた。
「あ…チャールズ?チャールズじゃないか!!生きてたのかよ」
「もちろんだぜ!俺だけじゃない、ほら、こっちには!!」
「おお!マッシュも!アンディも!みんな生きてたかあ!!」

 どやどやと入り口から入ってきた若者達が、ジョナサンの所へと駆け寄ってくる。
 いきなりルイズ達ほったらかしで展開される、目の前の再会の輪。肩を組んで涙する彼等の再会は、ロングビルがわざとらしく大きな咳払いをするまで続いた。
 ジョナサンは「へへへ、すまねえ。みんな、この4年で散り散りになった、家族みたいなもんでよ」と頭をかく。

 そして話は再開された。ジョナサンはじめ、酒を酌み交わしながら再会を喜び合う4人の思い出話として。
「全く、あの四年前以来、ほんとにサウスゴータは苦難の日々だったからぁ」
「ホントだぜ!モード大公がエルフ匿って、ここの太守も一緒に…」
「おまけに!街ごと異端審問にかけられて!マッシュのオヤジさんなんか、太守の家で植木職人してたってだけで、親族、全部…」
「酷かったよな、ありゃ…大釜で一分煮られて、生きてられるワケがねえだろ!何が異教徒だ!俺たちがどんだけ真面目に教会へ通ってたと思ってやがる!!
 て…あれ?マッシュ…どうしてお前助かったんだ?」
「ああ、そんときたまたまタルブへワインの買い付けに行ってたんだ。以来、帰るに帰れなくてよ」
「そっか…お前だけでも、生きててよかったぜ」
「ああ!まったくだぜ。ンでよ、聞いてくれよ!俺、生き残っただけじゃねえんだよ! 我が一族の恨み、見事にはらしてきたんだぜ!!」
「え?恨みを晴らしたって、もしかして、お前、王を、ジェームズ一世を!?」
「そうさ!あの老いぼれの首、俺が討ち取ったのさ!!」
「ほ!ホントかよマッシュ!?」
「ああ!全く無様だったぜえ!杖を振り上げて呪文唱えようとしたけど、舌がまわんねえんでやんの。まずは槍で腹を串刺し!そのあとナイフで滅多刺しにしてやった!
 ホラこれ、その功績でもらったんだ!」

 そういってマッシュと呼ばれた若者は、懐から勲章を取りだした。金色に輝くそれは、店のランプの光を反射してキラキラと輝いている。
 マッシュは、見るからに立派そうな勲章を愛おしげに頬ずりした。

「全く、これで胸張ってオヤジ達の墓に行けるぜ…あのジェームズの死に損ないがよ、俺の、俺の!全てを、奪いやがってよぉ…。
 レコン・キスタの蜂起を聞いて、すぐに参加したさ。死ぬ思いで戦場かけずり回って、棺桶に片足突っ込んで。それもこれも、あのボケじじいの首を取る、ただそれだけを、それだけを、支えに…」

 勲章を握りしめ、ポロポロと涙を流す。誇らしげな言葉とは裏腹に、どう見てもうれし涙には見えなかった。

 ジョナサンも、チャールズも、アンデイも、身体を丸めて泣き崩れる若者の身体を優しくさすった。
「すげえよ、おめえは立派だよ!サウスゴータの誇りだぜ」
「わかるぜ、その悔しさ。この四年、貴族だろうが平民だろうが、みんな異端審問で家族を失ったからなぁ。新しい領主は無茶苦茶な税金かけやがったし。誰も彼も教会に睨まれるのが怖くてビクビクしっぱなしだ。おかげで街は、どんどん人が逃げていく有様だったしなあ」
「ま、税金がたけえのは新皇帝も同じだけどよ。おまけに元は坊主なのが気にくわねぇけどな。でも、恨み晴らせただけでもめっけもんだわ。街から逃げた連中もドンドン帰って来てるし、これでやっと元通りだなぁ」

 既に彼等の念頭には、ルイズ達の事はない。彼等は四年間の事を語り合った。モード大公の一件でサウスゴータの民が彼等がどれ程の辛酸を舐めたか。
 アルビオン王ジェームズ一世と教会へ、どれ程の恨みを募らせていたか。
 ロングビルもヤンもデルフリンガーも、そしてルイズも彼等の姿を黙って見つめていた。



 宿に戻ってからも、ルイズは何もしゃべらなかった。
 夕食にも手を付けなかったが、それはどうみても、夕食のプディングが不味そうだというだけの理由ではない。

 深夜。そろそろ寝ようかというヤンの言葉に小さく頷くルイズ。だが着替えずそのまま寝ようとしたので、慌ててヤンが服を脱がせた。さすがにこの時は、隣で見ているロングビルも「甘やかしちゃダメ」とは言わなかった。
 もそもそとネグリジェを頭から被りながら、ボソッと独り言のように呟く。

「王族は…立派なメイジで、ウェールズ皇太子だって、風のトライアングルで…なのに、なんで…」

 ヤンは一瞬答えに窮する。横を見るが、ロングビルも困った顔をする。

 代わりに答えたのは、長剣だった。
「でも、同じような事は、この前あったじゃねえか」
 ルイズがチラリとデルフリンガーを見る。
「王女様の手紙の件だよ。公爵は言ってたよな、おめーさんがアルビオンで死んでたら、王家に叛旗を翻すつもりだったって。
 モード大公みてえにお家取りつぶしになるか、さっきのニーチャン達みたいにレコン・キスタの一員になってたかはしらねーけどよ」

 ルイズは、何も言い返さなかった。




 二つ並んだベッドにルイズとロングビルが眠っている。
 ヤンはテーブルの横で、布団にくるまっている。
 レースのカーテンの向こうには、双月に照らされた街が見える。

 ベッドの片方から、人影が起きあがった。
 そっと床に降り立ち、静かにヤンの所へと歩いてくる。
 頭から毛布を被ってこんもり丸くふくらむヤンの横で、躊躇するように立ちつくしている。


 しばらく悩んだ後、毛布の裾をめくって中に入り込んだ。 


「・・・?」
 布団の中、自分の目の前に、何かが丸まっているのに目覚めたヤンが気が付いた。
 一瞬ロングビルかと思ったが違った。もっと小さくて細くて、髪がフワフワしてる。

「…ルイズ?」

 一瞬ビクッとした。
 だが、そのまま何も言わず動かない。

 ヤンは、丸まった少女の頭を優しく抱きしめた。


「・・・王家って…魔法って、なんなの?」


 囁くような声で、ルイズが問う。


「…魔法で戦争は出来ても、政治は出来ない。それだけの事だよ」
 ヤンの言葉に、ルイズは何も答えない。
 ただヤンの胸の中で、小さく丸くなる。

 ほどなくして、ルイズは健やかな寝息を立て始めた。
 ヤンもルイズの小さな頭を撫でながら、眠りの世界へと旅だった。


「やれやれ…先を越されちまったよ…」
「残念だったなぁ。ま、今晩くらい譲ってやれや」
 もう一つのベッドでは、ロングビルがデルフリンガー相手に愚痴りながら寝ていた。




 次の日。
 昨日までの落ち込みはどこへやら。ルイズは御者台で元気に手綱を握っていた。
 荷台ではヤンと、フードを深く被ったロングビルがルイズの背中を眺めている。
「さーって、それじゃロンディニウムよ!ウェールズ皇太子に絶対会うんだからね!ンでもって指輪と、オルゴールと」
 ルイズは既に王家の秘宝を手にする気らしく、気がはやってしょうがない。馬も半ば駆け出している。
 そんなルイズにヤンが不安げに声をかけた。
「ちょっと待ってよ、ルイズ。どうやって皇太子に会うつもりだい?何かあてでも」
 ルイズは肩越しに振り返り、ニヤリと笑う。

 そして、胸元から封書を取り出してヤンとロングビルに示した。

 ロングビルはキョトンとする
「それって、公爵からの手紙が入れられていた封書よね。それがどうしたの?」
「ふっふーん♪これに入っていたのは手紙だけじゃないの。例の不可侵条約締結、その祝賀式典への招待状が入っているんだから!」
 ポンッとヤンが手を打つ。
「なーるほど!さすが公爵、アルビオンの貴族を見てきなさいという事かぁ」
 だがロングビルは渋い顔だ。
「私には縁の無い話よね。もし私まで出席したら、マチルダってばれてしまうわ」
 ルイズは得意満面で封書を戻した。
「ま、その辺の事は後で考えましょ。ただ、まだトリステインの大使がロンディニウムに滞在しているかどうかが分かんないの。手紙には、恐らく明日までアルビオンにいるって書いてあったけど
 とゆーわけで、急ぐわよ!」
 御者台で立ち上がるルイズの姿に、ヤンとロングビルは顔を見合わせる。荷物の上のデルフリンガーが不安そうな声を上げる。
「おいおい、そんなに急いで荷馬車がコケたりしたら」
「だーいじょうぶよ!あたしの腕を信じなさいっ!」

 ルイズのかけ声と共に手綱が空を切る。
 荷馬車はロンディニウムへ向けて、一路北へ走り出した。


               第十六話   王が守るべきもの  END


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