あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-19


 ここはトリステイン魔法学院のとある教室。
 今日も今日とて生徒たちは一人前のメイジを目指し、貴族を目指して勉学に励んでいる。

「く~、く~……」
「……」
 その一角でこっくりこっくりと船を漕ぐクロード。
 隣ではルイズが眉に皺を寄せている。

(このアホ、さっさと起きなさいよっ……!)
 いくら朝から洗濯掃除その他諸々の雑用を押し付けられ……もとい、こなしているとは言え、この態度は無いだろう。
 何度か咳払いをしてみたり指でつついてみたりするものの、反応はゼロ。
 遠慮もやる気も、微塵も見受けられない使い魔の態度にギリギリと歯を軋らせるルイズ。
 まぁ、彼は生徒ではないから文句を言われる筋合いは無いはずなのだが。
 もっとも、残りの生徒もクロードほどひどくはないものの、思い思いに気を抜きまくっている。
 ちょいと向こうではキュルケとモンモランシーがあくびを噛み殺しているし、タバサも教科書とは関係無さそうな本を読んでいる。
 ギーシュに至っては何やら学業と関係の無さそうな細工をちまちま弄っている始末。

「よいかね? 最強の魔法とは……すなわち全てを吹き飛ばす……風の力こそが……」
 教卓で熱弁を振るっているのはミスタ・ギトー。
 授業のたびに風属性魔法の素晴らしさを説明するために、他の属性を必要以上にこき下ろすことに加え、
 長い黒髪に黒マントという不気味な格好から、生徒からの不人気ぶりでは右に出るものの無い男である。
 実際にまともに話を聞いている生徒など殆ど居ないのは前述の通りであるが、困ったことにこの教師の場合はそう簡単にいかないのである。

「……そこの君、聞いているのかね?」
「……はい?」
 ああもう、やっぱり。そう言わんばかりに身を縮めるルイズ。
 ついでに結構な数の生徒が同じようにびくりと反応する。思いのほか心当たりのある生徒は多かったらしい。
 この教師は妙に目敏く、自分の話を真面目に聞いていない生徒や居眠りには無駄に厳しいのだ。
 その辺も生徒からの好感度がストップ安を繰り替えす一因となっている。
 そもそも、部外者であるはずのクロードにこんな指摘するだけでも相当アレである。目立っていたのは確かだが。

 さて、幸か不幸か白羽の矢が立てられたクロードはと言えば、寝ぼけていることを隠そうともせず、
 目を瞬かせてすっとぼけたように頭をぽりぽりと掻いている。
 そんな全身からやる気の無さを滲ませたクロードの態度がますますトサカに来たのか、
 ミスタ・ギトーは顔面のパーツと言うパーツをひくつかせている。
 居た堪れなくなり、ルイズはいよいよ真っ赤になって俯いてしまう。この馬鹿、後で覚えてろ。

 ついでに言うと、周りの生徒たちも吊るし上げられた生贄の子羊を、さらにはその主を哀れみの視線で見つめている。所詮は他人事である。
 そんな生徒たちの様子に気付いているのかいないのか、ギトーは溜息を一つ、そこにオーバーな手振りを交え、嫌味たっぷりに言い放つ。


「全く、嘆かわしいことだ。
 私が風属性魔法の素晴らしさについて説明していると言うのに。
 そう。全てを吹き飛ばす風の力、それこそが最強の系統であると!」
「だったらどうして『土くれ』を吹き飛ばさなかったんですか」

「……」
「……」
「……」
「……」

(やりやがった! あいつやりやがったよ! サイコーだ……ッ!)
(間違ってない、間違ってないよ……! は、腹が……!)
(『疾風』も形無しね! ぷ、くくく……)

 微妙な沈黙の中、教室のそこかしこから押し殺した笑いが漏れ始める。
 フーケ捕縛に何の手も打てず、ルイズを始めとした生徒に押し付けてしまったという前科がある以上、返す言葉があるはずも無い。
 しかも、そのルイズの使い魔に言われてしまったのでは尚更だ。
 顔を真っ赤にして立ち尽くすギトーと、すっとぼけた態度を崩さないクロード。
 そのコントラストが、曰く言い難い珍妙かつ愉快痛快な空気を生み出していた。

「あややや、ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」
 そこに飛び込んできたのがコルベール。
 しかもよりによって、トレードマークと言っては失礼であろうが、いつもの禿頭には絢爛豪華なカツラが乗せられている。
 ある意味、空気読みすぎである。この状況で笑いを堪えろという方が無理というものだろう。

「……ぷっ!」
 思わず誰かが噴出した。
 こうなっったらもう止まらない。


「あっはっははははははははははは!!」
「ひょーっひょっひょっひょっひょ!!」
「ファファファ!!」
「カカカカカー!!」
「フゥーハハハァー!!」

 決壊したダムのように教室全体が爆笑の渦に巻き込まれる。

「な、何ですか皆さん! 学院は神聖な学びの場ですぞ!
 っと、今はそれどころではありませんでした。静粛に、静粛にっ!!」
 何とか場を収めようとする声を張り上げるコルベールであったが、
 完全にキマっている生徒たちにそんな説得が通じるはずもなく、誰も彼もが腹を抱えて笑い転げるばかり。
 中にはビクンビクンとヤバげな痙攣を起こしている者さえ居る。
 どんなに喉を枯らしても怒涛の笑いの渦に押し流されるばかり。

「静粛に、静粛にーっ! ……あっ」
 そして何度目かの怒鳴り声をあげたとき、弾みでコルベールの頭からカツラがつるりと滑り落ちる。
 もはや始祖が間抜け時空の侵食を望んでいるかのような展開、既に一介の教師に収拾の付けられる事態ではない。

「ははははははあはあははあはははは!!!」
「ひ~! ひ~! ひ~ッ……!」
「兄貴~ッ! もうダメだぁ~ッッ!!」
「流石はミスタ・コルベール! 俺たちに出来ないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れるッ! 憧れるッ!」
「……滑りやすい」
「滑ってない! ある意味全く滑ってないわ~ッ!!」

 駄目だこりゃ。
 ただ一人、完全に蚊帳の外に放り出されたルイズが顔にそう書いて机に突っ伏す。
 正確にはもう一人、当事者であるクロードも状況に付いて行けずに右往左往していたのだが、
 その辺は流石主従とでも言っておこう。

 結局、コルベールが『アンリエッタ王女がトリステイン魔法学院に行幸においでになる』という話が出来る程度まで事態が収束するのに、
 授業時間が終了に近づく頃までかかった。




「あああああああんたねえ! 仮にも先生にあの物言いは何よ!」
「はい、すいません、ごめんなさい……」
「使い魔の失態は主の失態でもあるの! 今後は自重しなさい!!」
「はい、すいません、ごめんなさい……」
「いいこと? もしも姫殿下に無礼を働くようなことがあったら、ただじゃ済まさないんだから!!」
「はい、すいません、ごめんなさい……」

 怒鳴りつけるルイズとひたすら頭を下げ続けるクロード。
 もはや学院でもすっかり見慣れたお馴染みの光景であり、クラスメイトたちは微笑ましく、あるいは生暖かく眺めている。
 そんな周りの様子にも全く気付いていないあたり、ルイズらしいと言うかなんと言うか。

「ったく……もういいわ。姫殿下がおいでになるのに、こんなことしてる場合じゃないものね。
 いいこと? 繰り返すけれど、もしも、万が一、まさか姫殿下に無礼をはたらくようなことがあったら……」
「うん、解ってる。余計なことはしないよ」
「その言葉、忘れるんじゃないわよ!」
 それだけ言い残すとルイズは踵を返し、王女殿下を出迎えるために整列している生徒たちの中に消えていった。

「……災難だったな、相棒」
「まあ、しょうがないさ。僕もあそこまで大事になるとは思わなかったけどね」
 主の説教タイムから解放され、軽口を叩き合うクロードとデルフ。
 あれだけの騒ぎでありながら枕詞にスーパーろ付かなかったあたり、虫の居所が良かったんだろうか、などとも思う。
 客観的に見れば、訓練されすぎと言えないことも無い。

 さて、少し離れた列の端っこでキュルケが小さく手を振っているのを見つけ、破顔するクロード。
 それとなく周りを見渡してみると、他の生徒たちも落ち着かなげにそわそわしている。
 どうやら件の姫殿下がおいでになるにはもう少し時間があるらしい。

「はぁい、ダーリン」
「やあ、キュルケ」
 軽く挨拶を交わし、他の生徒たちから少し離れたところで世間話に花を咲かせる二人。
 ルイズに見つかればさぞや派手な雷が落とされることだろう。
 ちなみに、呼称についてはどれだけ言ってもキュルケが改めようとしないため、クロードも既に諦めている。

「それにしてもルイズも酷いわよねぇ、せっかく王女様がいらっしゃるって言うのに。
 ダーリンも文句の一つくらい言ったってバチは当たらないんじゃない?」
「それだけ彼女が姫殿下を慕ってるってことなんじゃないかな。それにほら、ルイズって見栄っ張りだし」
「あはは、そうよね! 全く、こんな素敵な殿方が使い魔になってくれたっていうのに、何が不満なのかしら」
 そんな風に言われると、何だかこそばゆい。
 とは言え、人間が使い魔として召喚されるというのがこの世界においてイレギュラーケースである以上、そう簡単に割り切れることではないのだろうと思う。
 それはルイズ自身で折り合いを付けることであって、クロードがとやかく言うことではない。

「それに、君主に忠誠を誓うのも貴族の務めだしね。
 少なくとも、ルイズはそう考えてると思うよ」
「ふぅん……」
 傍らで聞いているキュルケが面白く無さそうに口を尖らせる。
 そして、少し意地悪そうに話を切り出した。

「……本当にダーリンってルイズに甘いわよね。
 もしかして、コントラクト・サーヴァントの副作用かしら?」
「え、何それ。どういうこと?」

「前にタバサに聞いたんだけど、コントラクト・サーヴァントには対象への精神や記憶に干渉するっていう説があるんですって。
 考えてみたら私のフレイムにしても、タバサのシルフィードにしても、使い魔が勝手に暴れだしたら無事じゃすまないだろうし。
 もしかして、ダーリンがルイズにお熱なのもそのせいなのかしら、なんてね」
「……!? それって、どういう───」



「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな―──―り――──ッ!」



 クロードが聞き返そうとしたところで、タイミングを見計らったように朗々とした声が響き渡り、
 キュルケは慌てて向き直って杖を掲げ、クロードも一歩退いて居住まいを正す。
「うふふ、冗談! ダーリンがルイズのことばかり話すから、ちょっと意地悪したくなっちゃっただけ。
 でも、これは覚えておいてね。レディの前で他の女の子のことを手放しに褒めるのって、あまり良くないことよ?」

 背中越しに小さく聞こえるキュルケの声に深刻さは無い。
 おそらくはルイズへの軽い嫉妬から出た何気ない発言だったのだろう。
 やがて歓声が上がったため、二人の会話はそこで途切れることになり、
 ほどなくして王女の乗った馬車が彼らの眼前を通過していった。
 だが、その華やかな列から取り残されるように、クロードの意識は別の方向に向いていた。

(……確かに、理屈の上では十分考えられる話だ)
 先ほどのキュルケの言葉が全身に重くのしかかる。
 コントラクト・サーヴァントの副作用。精神、記憶への干渉。
 使い魔の反逆を抑制するための予防線。
 言われてみれば、最近はあまり地球や父親のことを考えなくなっていた。

 単純に、父親の下から離れたことに対する解放感だと思っていた。
 だが、それも魔法によって知らず知らずのうちに操作されていたのかもしれない。
 自分自身の意思や感情が、自分で気付かないうちに誘導されていたとでもいうのだろうか。

 冷静に考えてみれば、未開惑星の住人であるルイズに、何故こうも簡単に気を許していたのか。
 生きるための最善に選択肢だったとは言え、何故ああも簡単に彼女の言うことに従ってしまったのだろう。
 別の形で─────例えば学校のクラスメートとして出会っていたら、こうも簡単に心を開いていただろうか。親しくなっていただろうか。

 心臓が締め付けられる。息が詰まる。
 ジャケットの裾を握り締める右手が、力が篭もりすぎて真っ白になる。

(僕は、彼女の……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔というだけの、人形になろうとしていたのか……?)
 ルーンの刻まれた左手に目を落とすクロードの顔からは血の気が引き、死人のように真っ青になっていた。


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