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マジシャン ザ ルイズ 3章 (29)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (29)トリステインの女王アンリエッタ

「それでは、再びミスタ・ウルザに質問致します」
二十二の瞳に見つめられたオスマンが口を開いた。
「二十の竜騎兵を蘇らせ使役するのは、あなたの言うところの魔法ならば可能とのことでしたが、それでは敵の中にその魔法を使えるメイジがいるということになりませんかな? 我々の知らぬ理を識る誰かが、アルビオンに荷担しているということに」
円卓の寄る辺、起立しているのは再びオスマンとウルザ、二人の白髭。
「その通りです。オールド・オスマン。そして私――我々は、その者と既に遭遇しております」
場の支配権は完全にこの老人達のものになっている。
「ふむ、なるほど。 では、そのあなたと同じ力を持ちながら敵に荷担している者の名を、明らかにして頂きましょう」
流れの横車を押すのは、オールド・オスマン。
「彼は元トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵であります」
演出、脚本、進行、全てオスマンの手による寸劇、あるいは喜劇が幕を開けた。


「それでは、我々の知らぬ魔法、そしてそれを扱うことのできるワルド子爵。この二つをふまえた上で、改めて三ヶ月前から遡り、一連の出来事を整理していくこととします。
 ではミズ・サウスゴータ。あなたが知る限りの事柄で、不可思議に思ったこと、理解できないと感じたことを話して頂きたい」
促され立ち上がるマチルダ=フーケ。両の眼鋭く、オスマンを睨み付ける。目の前の相手が自分にとって味方なのか、敵なのか、それを見極めんとする。
対して老人は、いつもの通りに人の良さそうな好々爺の面持ちで、立派な白髭を手で撫でている。何もかも、数ヶ月前と変わらない姿。
だが、対峙する自分の立場はその頃とは全く違っている。最初はロングビル、その次はフーケ、そして今はマチルダ。
今この場に立っている自分にとって、この老人は何者であるかを考える。この老人の手の中にある青写真のにおいて、自分がどこに描き込まれているかを考える。
トリステインの新女王は、この食えない老人のペテンに乗ることにしたらしい。では自分はどうするか?
「……」
しばし黙考し、考えを整理する。
今のところ、流れは自分にとって悪くない。全ての責任をワルド一人に押しつけ、自分自身の罪に対しての免罪も得た。
最大のネックであった、口にすると戯言に過ぎなかったワルドの力も、あの使い魔の老人のおかげで、ある程度の信頼性を得られた。
正直、上手くいきすぎていると感じるくらいに順調である。
そして、その全ては、この場を仕切っているオスマンの誘導によるものである。
ここまで考えたところで、マチルダの中で心が決まった。

「ええ、ございます。 わたくし自身も信じられなかったので話さなかったのですが、先ほどのお話を聞いていくつか……」
ここで彼女は手の中にあるカードのいくつかを切った。ここはオスマンに協調しておくのが得策という判断である。
良い流れの時には逆らわないで身を任せる、これも彼女の流儀であった。
「彼が自分で使い魔、と呼んでいた竜と傭兵のメイジのことでございます」

改めて、先ほど喋らなかったことに他意はないと前置きしてから、マチルダは話を始めた。
「彼が使い魔と呼んでいるのは、竜と人です。使い魔を二匹、それも片方が人などというのは聞いたことがありませんでしたので……」
そして、マチルダは自分が見聞きした事実を語った。
竜の方は名前が分からない、男の方はメンヌヴィル。
それぞれルーンの位置は額と右手。
竜の方のルーンはクロムウェルの側近であったシェフィールドという女性の生首から引き抜いて、それを竜の額に貼り付けて使い魔にした。
メンヌヴィルの方は、竜が使い魔となって暫くたってから雇われ、ワルドがどこからか持ってきた切断された人間の右腕に刻まれていたルーンを移植され、使い魔にされた。
そしてマチルダは使い魔のルーンを他のものに移植する、その行為が余りにおぞましかったことと、移植される側、この場合切断された『頭』と『右腕』になるのだが、それが体から切り離されているにも関わらず、
『生きている』状態であったことがまるで悪夢のような光景であったことを身振り手振りを交えてマチルダは語った。

マチルダの話を聞き終えたオスマンは、何度も頷きを返し、それからウルザにこう問うた。
「ミスタ・ウルザ。我々が知る限り前例のない話ではありますが、使い魔のルーンの移植、そのようなことが、果たして可能なのですかな?」
即座
「条件さえ整えば、可能でしょう」
ウルザが答えた。

オスマンはマチルダだけでなく、続いてモット伯爵から戦場で見聞きしたことを、それを終えると更にはルイズ・タバサ・ギーシュ・モンモランシーにウェザーライトⅡにて体験したことを、語るように促した。
オスマンが質問し、問われたものがそれに答える。その中で解決されない疑問や不可解な点はウルザが補足する。
そうして誰もが断片的な情報しか持っていなかったニューカッスル落城以後の空白の三ヶ月の全容が、オスマンの手によって見事に形作られていった。

ここからは物語を追ってきた読者諸兄の皆様にとっては、いささか単調なやりとりが続くこととなる、よって内容を纏めて流れに沿って記すに留めさせて頂く。

  • 三ヶ月前、ニューカッスル城の決戦以後、一時行方不明となっていたワルドが、新たな力を手に入れてアルビオンへと帰還を果たす。
  • ワルド、死者を意のままに操る術を使い、アルビオンを瞬く間に掌握する。
  • 真実に近づいたクロムウェルの側近、シェフィールドがワルドに捕らえられる。
  • シェフィールドの『頭』からルーンが抜き出され、ワルドが召喚した竜へと移植される。
  • ワルド、ガリア王暗殺のためガリアへ渡る。
  • タバサがガリア王暗殺を目撃し、地下牢へと投獄される。
  • ワルド、王周辺の貴族達を抱き込んで傀儡の女王を擁立する。
  • ワルド、ロマリアへと渡り、数日後に『右腕』を手にアルビオンへと帰還する。
  • ワルドがメンヌヴィルを雇い、『右腕』からルーンを抜き出し、これを移植し彼を使い魔とする。
  • ガリア王国からトリステイン王国へ宣戦布告。同時、ガリア・アルビオンとトリステイン・ゲルマニアが戦争状態へと突入する。
  • ワルド、浮遊大陸アルビオンをゲルマニア領空へと移動させ、進軍を開始。
  • 帝都陥落。
  • 間諜によりガリアによるトリステイン南部攻撃作戦の情報がもたらされ、トリステイン軍の大部分が南部へと集結する。
  • マチルダ、トリステイン攻撃の混乱に乗じてアルビオンを脱出、ガリアへ。
  • タバサを救出。タバサ、マチルダ共にトリステインへと向かう。
  • トリステイン魔法学院周辺に、突如アルビオン軍が現れ進軍開始。モット伯爵が王軍へと伝令を飛ばしつつ迎撃に。
  • モット伯爵がメンヌヴィル率いる屍竜騎兵と交戦。モット伯爵一人を除いて迎撃に出た兵士が全滅。
  • トリステイン魔法学院襲撃を受けるが、殆どの者は事前にウルザが準備していたマジックアイテムで王都へと脱出する。逃げ遅れたルイズ・タバサ・ギーシュ・モンモランシー・マチルダがウェザーライトⅡに乗船する。
  • ウェザーライトⅡ、アルビオン軍艦、機械竜、屍竜隊、メンヌヴィル、使い魔の竜と次々に交戦する。
  • 現れたワルドとウルザが交戦。最中にルイズが魔法を放ち、進軍していたアルビオン全軍を壊滅させる。




「ふぅ……」
桃色の唇をカップに口づけ、冷えて久しい紅茶を含む。乾いた喉に、心地よい潤いがもたらされた。
諮問会開始から既に四時間が経過している。広すぎる円卓の間に残るのは女王アンリエッタとその側近マザリーニだけである。
その他の参加者には既に退室が命じられており、魔法による自動筆記も終了している。
次の予定である別の会議の開始まで三十分、アンリエッタにとっては久しぶりとなる休息の時間である。
だが、その表情は優れない。それは横に座るマザリーニにしても同じこと。
二人は共に先頃の諮問会で行われていたやりとりを思い出していた。
「どこまでが、真実なのでしょう?」
静寂の中で呟いたのはアンリエッタ。その声は毅然とした女王の仮面を外した導くことに脅えを抱く、齢十七の娘そのものである。
アンリエッタとて馬鹿ではない。自分が政治上の都合により王位に就いていることは自覚している。
この国には今、強い指導者が必要なのである。
未曾有の混乱、これまでにないほどの大きな戦争、それを乗り切るためには誰しもが認める『完璧な王』が必要だったのだ。
『始祖の加護を受け、聖なる光でアルビオンを撃退した偉大なる女王』という立場は国を纏める上で都合が良い、ただそれだけのこと。
自分の力によって座にあるわけではない。救国の英雄が王となるならば、むしろ本来の意味で女王の椅子に座るべきはルイズであるべきだろう。
だが、アンリエッタはそれを分かっていながら女王の椅子に座り続ける。
それが彼女に課せられた役割であるから、王族に生まれた者の責任であるから。
例えそれが、国民を欺くことになろうとも。

だがこの時間、言うならば舞台裏。役者が舞台を降りて次の出番までの間、素の自分に戻っても良い時間。
「どこまでを信頼して良いものか、私には判断しかねます……」
弱々しく紡がれた言葉は、脚色無い少女の本音。
「仮に、全てを真実とするならばどういたします?」
その質問に、マザリーニがいつも通りの声で答える。
「……恐ろしいことです。始祖が降りたったこの地以外に、別の世界があるなどと……そして直接的ではないにしろ、その世界からの侵略などと、まるで子供が夜に見る悪い夢のようです」
アンリエッタは本当に全てが悪い夢だったらと思う。聞いたこともないような世界の話、存在も疑われていた失われたはずの五柱の一角、過去に類を見ないような世界中を巻き込んだ大戦争、その全てが自分が王となった代で起こるなど。
「……私には荷が重すぎます」
これこそが自分の言葉、身の丈に合った言葉、消えてしまいそうな呟きを、そんな想いに駆られて漏らす。

ザーザーという音が、窓辺から聞こえる。いつしか外は雨、勢いよく降っているらしい雨の足音が部屋の中まで伝わってくる。
「あなたしかおりません」
ただ雨音だけが響く部屋で、マザリーニが言葉を発した。そして更に、続けて言う。
「いえ、あるいは探せば他にも適任者がいるかも知れません。ですが、私はそれでも、あなたこそがこの局面に置いて最高の『王』だと信じております」
「……ご冗談はお止しなさい。私を王位に据えたあなた自身が一番分かっているはずです。私には人を導く指導力も、何かを判断する決断力も欠けていると。先ほどの話が真実とするならば、この度の争乱はこの世界を左右しうるもの。
 私ごときの器は頑張っても精々平時の『王』。このような局面に、私のような凡庸な者が『王』でいて良いはずがありません。それに何より私は私情を挟む『王』。
 この度の戦いを、ウェールズ様の敵討ちとして望んでいる私がいないと言い切れません。あるいはウェールズ様の元へと逝ける機会だと思っているかも知れません。そういったやましい心を持った『王』ならば、それは兵を、民を巻き込んで国を道連れにしてしまいます」
一息に、思いの丈をぶちまける。
アンリエッタは国を、民を愛している。だからこそ、自分の私情によってそれらを損なうことを何よりも恐れていた。
自分自身が分からない、自分の心が分からない。
国民を愛している、けれど未だウェールズも愛している。もしもその時、二つのどちらかを選べと言われたときに、自分がどの様な選択をするのか、分からない。
「自分のことも分からぬ『王』に、誰がついてくると言うのでしょう。そんな弱き『王』は必要ありません」
本音だった。
自分のような小娘が王などと、間違っている。それこそが即位以来、ずっと彼女が抱え続けてきた想いであった。
話の最初から最後までを、黙って見ていたマザリーニの視線に耐えられなくなり、アンリエッタは窓へと視線を逃がす。
外の雨は益々勢いを増し、叩きつけるような激しいものとなっていた。

「それでも」
強くなった雨音にかき消されないようにか、先ほどよりも強い調子で、
「あなたこそが、王に相応しい」
マザリーニは言った。

その言葉に、反射的にアンリエッタは我を忘れて席を立つ。
「……っ。 一体この私のどこが王に相応しいと言うのですか! 能力は平凡で、好いた殿方一人に右往左往、王の血筋に生まれたというだけで、本当は市井の娘と何ら変わらないただの小娘ですわ! こんな私のどこが! あなたは『王』に相応しいと言うのですか!?」
自分を卑下しているのではない、これは、歴然とした事実なのだ。
だが、そんなアンリエッタを前にしてもマザリーニの言葉は変わらない。

「それでも、あなたは『王』に相応しい」

繰り返された言葉に、アンリエッタは力一杯拳を握り締める。
「どうしてっ!?」
激しいアンリエッタの詰問に

「あなたには、華がある」
マザリーニは余裕の笑顔を返したのだった。

「……華?」
「ええ、そうです。華と言って分からなければ魅力と言い換えても良いでしょう。人が望んでも手に入らぬ天性の魅力、あなたにはそれが備わっている」
「魅力、……そう、魅力。でも、そんなものが何の役に立つというのです。確かに『王』たるものにカリスマは必要です、しかしそれが『王』としての能力を凌駕するとは、私には思えません」
マザリーニの言葉に毒気を抜かれたように、再び腰を下ろすアンリエッタ。
「おやおや、アンリエッタ女王陛下は『魅力』を侮っておいでのようだ」
「侮るも何も……たかだか人を惹きつけるだけでしょう。そんなものが政治や戦争の、何の役に立つというのです」
「確かに、魅力は政治や戦争に直接役に立つものではありません。ですが、立派な武器となるものです」
「……」
「人を惹きつける力、それも天性のものとなれば別格。例えあなた自身に力が無くとも、あなたよりも優秀な周囲の者達があなたを喜んで支えるでしょう。
 そしてその者達はあなたが最善の決断に至るように力を尽くし、その決断には喜んで支持をして実現させるために力を注ぎます。そして時に補佐し、時にあなたを諫める。
 あなたはそこにいれば結構。そんなあなたを助けようとする者達の力を十二分に引き出すのですから。そう、『魅力』とは指導者にとって最も必要とされる希有な資質なのです」

普段は決してこのような強い調子で喋ることのないマザリーニの言葉。
しかも、それを要約すると『あなたはとても魅力的だ』
呆気にとられて一瞬惚けたような顔をしたアンリエッタだったが、そのことに思い至り、上品に手で口元を隠してくすくすと笑い声を漏らした。
「マザリーニ枢機卿。もしかして、今、私はとても失礼なことを言われたのかしら? まるで私が人を惑わす魔性の女のような口ぶりでしたけれど」
「いやはや、その通りのことを申しただけですぞ。気に入らないのでしたら、言い換えて差し上げましょう。あなたは天性の『人ったらし』です」
「はははっ! お止しになって、それこそ私が希代の悪女のようではありませんか」
ついに堪えきれなくなり声を出して笑うアンリエッタ。それを眺めるマザリーニも穏やかな笑顔を返した。
「陛下には陛下にしかない武器がございます。あなたは自身を恥じ無くてよろしいのです。あなたは立派な『王』となるでしょう」
「……なぜかしら、あなたにこんな事を言われるのはとっても可笑しいことなのに、心が楽になった気がします。王になって初めて……真に人の口から私が『王』になったことを肯定された気がします」
「いいえ、女王陛下。私以外にも多くのものが、女王陛下を認めております」
「それも、私の魅力によるものなのかしら?」
「左様です」
「そう……それでは、その数少ない取り柄を使って、この国を良くしていきましょうか」
そう言ったアンリエッタは、苦労をかけるであろう側近に向かって、華のような最高の笑顔を見せたのであった。

                                       女王陛下万歳!女王陛下万歳!女王陛下万歳!
                                            ―――トリステイン国史記より抜粋


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