あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第10話 解析


 なんだかんだで大騒ぎとなった初の休日。
 その日の夜、大騒ぎした一同はギーシュも交えていつものメンバーがルイズの部屋に集合していた。
 「そういえばなんかどこかで見たようなメンバーが、トリスタニアの広場で錆びた剣を見る間に輝く剣に変えていたとか」
 「え~~~っ! なんであんたがそれ知ってるのよ!」
 「いえ、遠目でですが見てましたから」
 「忘れなさいっ! 今すぐに」
 「おわっ、やめてくれルイズ、痛た、冗談抜きに痛っ!」
 ギーシュがよけいなことを言ってぼこぼこに殴られているのはお約束か。
 「本当にまずかったわねえ。本気で来週はシエスタと一緒にタルブ村訪問かしら」
 「その方が無難」
 キュルケとタバサもため息一つである。
 「まあ、詳しい話は別にいいですけど、それに関してネタが一つ」
 いつの間にか復活したギーシュが火種を提供してきた。
 「なんかあったの?」
 「いや、帰りがけに見たんですけど、武器屋の親父さんが、酒屋の前でくだ巻いてましたから」
 それを聞いてひょっとしてと思うルイズ一同。
 「噂に名高い役立たずのしゃべる剣が実は途方もない値打ち物だったって、まわりからはやされてましてね。酒瓶片手に『ちくしょう~~~っ!』て吠えてましたから」
 「……ますます顔出さない方が良さそうね」
 げんなりした調子でルイズがつぶやいた。
 肩をすくめつつ同意する友人二名と使い魔一名。
 「それはさておき」
 話の流れを変えたのはキュルケだった。
 「そろそろ今夜の練習にしません? 頃合いみたいだし」
 別段秘密というわけではなかったが、あまり噂になるのも問題だと言うことで、夜の練習はなるべく目立たないようにやっている。もういい頃合いというのは、使い魔の世話をしに来ている人が途絶えたという意味である。
 キュルケはフレイムの視覚を通じて、たまり場へ来ている人が全員いなくなったのを確認したのである。



 いつもの定位置、本塔脇の中庭に、ルイズ達とその使い魔が集合する。
 今行っているのはマルチタスクの訓練である。ミッドチルダの魔導士は発動や制御のために時には十を越える思考分割を行うが、ここでは二分割でもかなりの優越になり、三分割できれば桁違いになるだろう。例外は偏在を一人でまとめて相手にするときくらいである。
 今の練習はなのはがキュルケに、レイジングハートがギーシュに、そしてシルフィード(!)がタバサに対してそれぞれ念話で思念を送っている。呪文の詠唱などを行いながらこの念話に答えられるようにするのが訓練の目的だ。
 現状ではタバサの進歩が格段に早く、ギーシュがそれに続く。キュルケは決して劣ってはいないもののやや遅れ気味だ。彼女が拙いのではなく、二人の方が早すぎるのである。
 特にタバサに至ってはシルフィードの念話を受けつつ呪文の詠唱までは何とかなりそうなところまで来ていた。まだ発動には至っていないが、これはなのはほどではないがかなり早い。
 休憩したとき、キュルケはタバサに聞いた。
 「本当にあなたの進歩は早いわね。何か秘訣でもあるの?」
 すると何故かタバサは少し嫌そうに顔をしかめた。無言でシルフィードの方に嫌悪の視線を送る。
 その瞬間、キュルケは悟っていた。タバサの進歩の早いわけを。
 「あのさ……ひょっとして、のべつ幕なし?」
 「起きている間ずっとに近い」
 「うわ……そりゃ上達する訳よね」
 そう。彼女の上達の秘訣は、ところかまわずおしゃべり攻撃を仕掛けてくるシルフィードの悪癖にあった。偶然だがこれはなのはがかつてレイジングハートを手にした直後の訓練に匹敵する。
 それこそのべつ幕なしに念話で語りかけてくるシルフィードに対応するため、タバサのマルチタスクはめきめきと上達していたのであった。
 「まあ、理由はちょっとあれかも知れないけど、結果オーライってところかな」
 二人の様子を見ていたなのはが話に割り込んでくる。
 「たぶんね、もう少し分割をきれいに出来るようになれば、待望の同時発動も夢じゃなさそうよ。実質三日足らず、かなり才能あるわよ、これ」
 なのはの言葉に、タバサの頬が赤く染まる。
 「もっとも、発動・維持できるだけで、実戦に使えるレベルにするにはもっと長く掛かると思うけど。戦場の場で緊張感を保ったままマルチタスクを維持するのは、今よりずっと難しいから」
 その言葉に頷くタバサ。彼女は実戦の場の厳しさを知っているが故の肯定だった。
 「なのは、あたしの方はこれでいいの?」
 「あ、申し訳ありませんご主人様。そろそろいいですよ」
 一方ルイズは魔法を発動(爆発とも言う)直前まで練り上げ、それをそのまま霧散させるという練習を続けていた。なのははその様子を記録に取っていたが、ルイズはそれがなんのためのものなのかは知らされていなかった。
 そしてなのははずっとデータを記録していたスキャナとパソコンを手に取り、そこに表れたデータを眺めていたが、一同の方に向き直って言葉を掛けた。
 「みんな、ちょっと遅くなるかも知れないけど、もう少し時間いいかな」
 全員が首を縦に振った。
 「じゃ、ここじゃまだ寒いから、部屋に行こうか」

 再びルイズの部屋に集った一同に、彼女は真面目な顔をしていった。
 「みんなに話したいのはね、みんなのおかげで、系統魔法がどういう仕組みで発動しているのかがだいたい判ったって言うこと。特にタバサには、同時発動の制約に関わるから」
 何気ない言葉であるが、全員が思わず息をのんでいた。魔法の根源。それはアカデミークラスの組織でも研究されている大テーマである。特にタバサは、伯父であるジョゼフが熱心に研究していることをうっすらとであるが知っている。
 それを目の前の女性は、だいたいだが解析したというのだ。
 内容によっては国家機密クラスの価値がある情報になる。キュルケもタバサも、即座にそこまで思い至った。
 そしてルイズも。だが、彼女はあえて異論を挟まないことにした。一つにはここでそのことを指摘するのは、宿敵から友人になり掛かっている隣人を再び遠ざけるような気がしたこと。
 もう一つは、この情報は独占するより広めた方がむしろ国のためになる、そんな予感がしたということだった。
 それはトリステインの魔法至上主義に伴う歪みを、なのはとの交流でルイズがうすうすと感じ取っていたためかも知れない。



 ルイズはもちろんトリステインという国を愛している。お隣がアレだったことも拍車を掛けたかも知れない。
 だが、ルイズはそんな国の中においては『無能者』であった。努力はした。が、それが報われることはまったく――そう、『全く』無かった。
 トリステインの貴族社会においては、魔法の才能はすべてにおいて優先する。ほかがどんなに優れていても、魔法の才の劣る者は『劣等者』として扱われるのである。頂点に近しい家柄に生まれながら魔法の才がなかったルイズは、そのことを身にしみて知っている。
 それでも最初ルイズはそれに反逆しようなどという発想はかけらも持たなかった。才能がないのは自分のせいとひたすらに自己を貶めていた。実利主義のゲルマニアあたりから見たら噴飯ものの行動だっただろう。
 だが、ルイズはなのはとの短い接触で劇的に変わっていた。自己を肯定することを、自分に自信を持つことをルイズは思い出していた。ルイズにとってなのはの存在は、間違いなく世界を広げてくれることだった。
 使い魔には主人にあいふさわしい存在が選ばれる。ルイズにとってなのははまさにそういう存在だった。
 形はどうあれ、自分には自分なりの能力があり、それを持ってトリステインのために働くことは可能なのだということにルイズは気がついた。
 それはなのはが自分に仕えてくれる態度から悟ったこと。彼女には異質ではあるが強大な魔法の力がある。だが、自分が彼女から受け取ったものの中には、『魔法』はほとんど存在していなかった。人を認めること、肯定すること。自他に関わらず、身分にかかわらずに。
 それこそがなのはからの最大の贈り物。
 そして、それに加えて。
 『魔法』は『絶対』ではない――これを認識したことが、ルイズの内面に起きた最大の変化だった。



 皆の沈黙を肯定と受け取ったのか、なのはは話し始めた。
 「貴族の人達の中にはね、魔法を使うための『要』が存在しているの。魔法に共鳴する『核』――名前を付けるなら、共鳴核、『レゾナンス・コア』になるかしら」
 「レゾナンス・コア?」
 聞き慣れない言葉に問い返すギーシュに対し、なのははそのまま言葉を続ける。
 「そう。それが一人に四つ、あなたたちの中に存在しているの。おそらく本来は四つの系統それぞれに一つずつだったんだと思うけど、長い間の血の交わりによって、それは絶対のものじゃなくなったみたいね」
 そしてなのはは、キュルケ、タバサ、ギーシュの顔を少しずつ見つめた。
 「キュルケには火の要素に共鳴するものが三つ、まだ覚醒していないのが一つ。タバサは風に強いのが二つと、やや水に寄っているのが一つ、寝ぼけてるけどもう一つもたぶん風よりね。ギーシュ君は土が一つ。ほかはまだ眠っているわ。ただその一つがかなり強いね」
 「それって、ドットやトライアングルに対応しているっていうこと?」
 キュルケの問いに強く頷くなのは。
 「その通り。全部覚醒していればスクエアになると思う」
 そこでいったん言葉を切り、今度はルイズに少し視線を落として話を続けた。
 「以前ご主人様には少し説明したんだけど、系統魔法に限らず、魔法はね、『魔力』っていう力を動かすことによって発現するの。ここの概念だと、『精霊』っていった方が判りやすいかも」
 そしてなのはは、魔力が森羅万象、地水火風、この世のあらゆるものに宿る『力』であることを説明した。
 「そしてね、あなたたちが呪文を詠唱することによって、あなたたちの心の中にある『レゾナンスコア』が震えると、それに共鳴するように自然の魔力が動くの。それが『系統魔法』。あなたたちの力よ」
 「そういえば詩吟の授業で共鳴って習ったわね」
 「音叉の共鳴実験」
 キュルケとタバサが、過去の授業を思い出しながらつぶやいた。
 「つまり僕たちの心の中には、魔力に共鳴する音叉があると」
 「その通りよ、ギーシュ君」
 なのはが感心という笑みをギーシュに向ける。
 「レゾナンス・コアっていうのはまさに『魔力の音叉』なの。系統はその音叉がどんなものに宿る魔力と共鳴しやすいかを表しているわ。後音叉っていっても絶対じゃないからね。多少は融通が利くよ」
 融通が利かなければ呪文はもっと単調なものになっていただろう。逆に言えば、呪文とは音叉の共鳴を微調整するものとも言える。
 「実際に魔法を使うことを考えると、音叉というより弦かも知れないね。リュートは知ってるでしょ?」
 なのははこちらで見かけた、ギターによく似た弦楽器の名をあげた。
 全員が頷くのを確認したなのはは、説明を続けた。
 「魔法使いを楽器にたとえれば、四本弦のリュートみたいなものになるの。弦の調律が本人の系統で、演奏のために押さえる指が呪文に当たる。弦の数が多いほど多彩な演奏が出来るけど、やり方次第では一本弦でも名演奏は出来る」
 そしてなのははタバサの方に向き直った。
 「でね、タバサ」
 タバサの注目が自分に向いたのを確認し、なのはは説明を続ける。
 「ちょっと残念なんだけど、同時発動はこのコアを分割する必要があるの。つまり今トライアングルのあなたを、ドットのあなたとラインのあなたに分割することになるの」
 タバサはその言葉だけで魔法の同時発動がどのような原理で行われるかを悟っていた。
 彼女は自分たちの中には魔法を使う力の源が四つあると言った。ドットやラインといったレベルは、それがいくつ覚醒しているのかを示すと。
 ランクが上がると高次の魔法が使えるようになると同時に低次の魔法に対する負担が軽くなるのは、それまで一本の弦でやっていたことを二本の弦で出来るようになるからなのであろう。
 厳密には違うだろうが、働き手が倍になれば負担は半減すると言うことだ。
 但しそれは、増えた働き手が同じ作業をしているからこそ成立すること。なのはの言葉は、共同作業をしていた働き手に、それぞれ別のことをやらせるという意味なのだろう。
 楽器の例えなら、一本の弦である曲を演奏するのと同時に残りの弦で別の曲を奏でると言うことだ。
 「だからね、今のあなただと、空を飛びながらお得意の『ウィンディ・アイシクル』を使うことはたぶん無理。もちろん、実際にやって確かめてみないと判らないけどね」
 彼女の説明はあくまで仮定である。その辺は実際に練習して確認しなければならないだろう、と、タバサも心の中に刻む。
 「あと、口も杖も一つしかないから、あくまでも一度に使える呪文は一つ。あなたの望みの場合、まずフライを意図的にドットレベルとして唱え、それを維持しつつライン以下の呪文で戦うことになるの」
 なのはの仮説が当たっていればそういうことになる。
 「だから実戦で飛行しつつ呪文を使った戦闘をするには、もう少し根本的なところからチューニングしないと駄目かもね。特にフライの呪文は、今のままじゃ戦闘用にならないよ」
 元々フライの呪文は大半の生徒が使えることからも判るように、風のドットと言うよりむしろコモンマジックに近い。各系統にはこのような本来の系統にかかわらず使える難易度の低い呪文がいくつかある。
 地の練金、風の飛行、火の発火など。これらの呪文は、効果を重視しなければ属性を飛び越えて発動する。もちろん、練金を例に取れば判るように、本来の属性の方がより有用ではあるが、発動は可能である。
 今のフライはただ飛んで移動できるだけで、機動戦闘に使うのはほぼ不可能である。
 「もう少しマルチタスクの訓練が進んだら、私たちの空戦のやり方を教えてあげるね。魔法のあり方が違いすぎるから、そのままだと意味ないけど」
 タバサは期待に目を輝かせて頷いた。そして少し考える。
 練金は自分でも使えるが、相性の悪い系統と言うこともあって金属の錬成とかはほとんど出来ない。壊す方向に向けるか、ものの形を変形させる程度が関の山だ。もちろんそれでも使い道はあるが、土のメイジには遙かに及ばない。
 だが土のメイジは練金を遙かに高度なレベルで使いこなす。昨今世間を騒がす『土くれのフーケ』など、その最たるものであろう。
 ならば、こうも考えられる。
 風のメイジたる自分なら、風の初歩、割と誰でも使える『飛行(フライ)』の呪文を、ただ漠然と飛ぶだけでなく、より強く、早く、そして自在に飛行するために使いこなすことが可能ではないのだろうか。そう、練金のように。
 考えてみれば当たり前のような気がする。だが、自分だとてナノハの話を聞くまでは、こんなことを考えもしなかったのだ。
 自分の中に四つあるという魔法の源。それを意識すれば、今までより遙かに広く魔法を使えるようになるかも知れない。

 それは、タバサの中に宿った、魔法に対する革命的な思想の光であった。



 「ね、なのは」
 タバサが思想に耽ってしまったのと入れ替わるように、疑問を呈してきたのはルイズであった。
 「今の説明は理解できたけど、そうするとあたしはどうなるの? 聞く限りだと、それって、外から調べるだけで、相手の系統まである程度判断できるんでしょ」
 キュルケとギーシュはそれでルイズの言いたいことが判った。何をやっても爆発してしまい、使い魔まで人という例外を引くルイズは、自分の系統を判断する基準データがない。
 だがナノハが変わったアイテムを使って調べたデータは、その判断を可能にする。
 そして彼女の忠実なる使い魔は、残酷な答えを口にした。

 「ご主人様は、系統魔法を使うことは出来ません」

 それは最後通牒だった。さしものルイズも顔から血の気が引く。
 「やっぱり……駄目なの?」
 「はい」

 あらかじめある程度のことは聞いていたのね。じゃなければあんな程度じゃすまないはずよ、と、彼女の最大のライバルたるキュルケは思う。そうでなければルイズはヒステリーを起こして荒れ狂い、ナノハに殴りかかっている。
 そして忠義にあふれる使い魔は、次々と主人に絶望を与える言葉を与えていく。

 「皆さんのデータと比較すると、ご主人様のデータは明らかに違います。ご主人様のレゾナンスコアは、ほかの皆様のそれとはある意味別物です」
 目元と口元を引き締め、真っ向からルイズの瞳をなのはは見つめる。
 「ほかの皆さんのコアと違い、ご主人様のコアは直接魔力そのものと共鳴しています。たとえばタバサが風を起こすときは、魔力に連動して一緒に空気が動きますが、ご主人様は違います。魔力『だけ』が動いてしまうんです」
 『だけ』を強調するなのは。
 「本来なら融合していて、一緒に動くはずの空気や土、そして炎。ご主人様のコアが与える共鳴は、その結合を引きちぎって直接魔力のみを動かします。それ故に生じるのが、いつもの爆発です」

 キュルケは内心の驚きを押さえ込む。今ナノハは、今まで誰も説明できなかった、ルイズの『失敗』……謎の爆発現象に対する答えを、仮説とはいえ導き出した。しかもその説明は、実に納得のいくものだ。
 はっきり言ってこの事を国のアカデミーとかに報告したらきわめて重要な情報になるだろう……相手が理解できれば。
 そしてそのことを考え、うっすらと笑みを浮かべる。
 残念ながら進取の気概に富む祖国ゲルマニアでも、今のナノハの説明を『真実』として理解できる人物はほとんどいないだろう。そのためには直接ナノハとルイズを間近に見ていなければ無理だ。
 今のゲルマニアのどこを探しても、言葉や文章だけで彼女の展開した理論を受け入れられる人物は、自分を含めていない。
 ならば。
 それを理解できる機会を与えられた自分が、それを『翻訳』するしかない。
 キュルケはこう見えても骨の髄からゲルマニア貴族である。友情は国に優先するかも知れないが、真っ向から裏切ることにでもならない限り、友といえども祖国のために利用するのにためらいはない。
 高度な知性と力を持つライバルの使い魔から出来る限りのものをもらっていこうと、キュルケは内心の決意を新たにした。

 「ふう」
 ため息をつくルイズ。
 「ある程度予想は付いてたけど……やっぱりちょっときついわね。そう断言されると」
 「しかたがありません。このコアの動きは、むしろ私に近いものです」
 なのははちょっと自分の胸元を見る。
 「私には皆さんのレゾナンスコアとは違う、リンカーコアというものがあります。魔力と共鳴するのではなく、直接魔力を取り入れるための器官。厳密にはちょっと違いますけど、概念的にはそれで充分です」
 リンカーコアが取り入れるのは『魔力素』で『魔力』ではない。『魔力素』を取り入れ、『魔力』に変換するのがリンカーコアの働きだ。この地の物質に宿るのは『魔力』であって『魔力素』ではない。最初はなのは自身もその辺の区別が今ひとつ付いていなかった。
 魔力が多いだけにこの地は魔力素の量も桁違いだ。来てすぐの頃はなのは自身もこれを混同していた。
 今は充分なデータが集まったこともあり、その辺の混線は整理できている。
 そしてなのはは注目先をご主人様から全員に移すと、説明を続ける。
 「私の使うミッド式魔法は、魔力の共鳴を利用するこの地の系統魔法とはかなり違うの。どちらかというとむしろ先住魔法に近いかもね。プロセスはかなり違うけど」
 そして再びルイズの方を見る。
 「そういう意味では、ご主人様はひょっとしたら私たちの魔法の方が使いやすいかも知れないですね。直接と間接、体内生成と外部利用の差はあっても、『直接魔力を使う』という点では共通していますから」
 「え、そうなの?」
 それは聞いていなかったルイズは、少し驚く。
 「はい。ご主人様が系統魔法を使えないのとこれは表裏一体です」
 丁寧な口調でルイズに説明するなのは。
 「系統魔法は魔力の共鳴を利用して、『それに付随する物質や力』を動かす魔法です。これを使うのはご主人様には、先の理由故不可能ですが」
 「そうなるわよね。爆発しか起きないわ」
 頷くルイズを見て思わず笑うキュルケ達。
 「ですからご主人様には、その中間――共鳴によって同期する魔力を直接制御し、物理現象に変換する技術が必要になります。前半がハルケギニア式、後半がミッド式やベルカ式の形態の魔法ですね」
 「望みが出来たんだか遠くなったんだか判らないわね」
 再びため息をつくルイズ。
 今の説明で、ルイズは初めて心の底から納得がいった。
 なのはの解析は、今までの自分の疑問にすべて答えていた。
 何故失敗するのか。何故爆発するのか。何故自分には系統魔法が使えないのか。
 そしてなのははそれを越え、自分が魔法を使うための道筋を示してくれた。
 だがその道は、なのはの力を借りても遙かに細く、長く、遠い道だ。
 その意味することは、自分はしばらく『ゼロ』のままだと言うこと。
 「専用のデバイスでもあれば、簡単なミッド式魔法くらいは使えそうですし、コモンマジックは系統魔法とは少し原理が違いますから、一度コツがわかれば使える筈なんですけど」
 なのはの言葉の続きに、ルイズの意識が現実に戻る。
 「え、コモンマジックは使えるの?」
 「はい。専用のルーンワードのいらないコモンマジックは、実のところ系統魔法とは言い切れない部分があるんです。よくよく思い出してください。コモンマジックの能力は? あ、みんなも考えてみて」
 そういわれてキュルケ達も頭の中でよく使うコモンマジックを思い出す。
 レビテート、ロック、アンロック、テレキネシス。後サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァント。
 「召喚系のものを除くと、実はみんなテレキネシスの変形だって気がついてた?」
 「「「「あ」」」」
 確かに言われてみればその通りだ。
 なのははスキャナを指さし、
 「これでみると判るんだけど、実はコモンマジックは、直接魔力に干渉するタイプの魔法ばかりなの。むしろミッド式の魔法に近い」
 ある意味革新的な意見に、唾を飲み込む一同。
 「レゾナンスコアは共鳴型だけど、全く魔力と干渉していない訳じゃないわ。コアから漏れる魔力を直接物理力に変えるのがテレキネシス系のコモンマジックよ」
 つまりコモンマジックは、系統魔法とは全く別系統の魔法だというのだ。
 「召喚系についてはさすがになんにも判んないけど、これだけは言える」
 なのはの視線がルイズに向かう。
 「原理的に系統魔法はまったく使えないはずのご主人様にも、サモン・サーヴァントは使えた。しかも明らかにこのハルケギニアの枠を越えた遠い世界にまでゲートが繋がるほど強大な奴を」
 一同の視線がルイズに集まる。言われてみて初めて気がついた。
 『人間を召喚』という部分に目がいって考えてもみなかったが、よくよく考えればルイズは、異世界という、『この世界の枠を越えた遠方』から使い魔を召喚したのである。
 冷静に見てみればとんでもない能力である。
 他の使い魔は力量や珍しさに差はあれど、どれもこのハルケギニア世界の中から喚ばれている。タバサのシルフィードといえども例外ではない。
 「つまりね、コモンマジックは系統魔法と切り離した方がいいわ。それに使い魔召喚とテレキネシス系も別物よ。今の学説だと、その変かなりごっちゃにされてるみたいだけど、下手するとコモンマジックは先住魔法の方が近いみたいだし」
 証拠は詠唱、なのははそういった。シルフィードとの雑談中に得た知識だ。
 「どっちも口語、つまり本質的に正確な発声とは無関係に術が発動する。呪文の発声というプロセスが必須の系統魔法とはそこが大きく違う」
 全員驚きのあまり声も出ない。
 そりゃそうだ。彼女たちは基本的に、エルフは敵、先住魔法は敵と言う教育を受けてきている。先住魔法は異質のものとして排斥されるものなのだ。それを自分たちが無意識に使っていたと認めるのは心理的に大きな葛藤がある。
 「まあ、その辺はさすがに私にだって調べるのは無理よ。こっちの人にお任せ。ただご主人様は、自分にあった呪文というか魔法がないせいで、無意識的な魔力の補正が出来ていないんです。ある意味素人っていうことですね」
 「……う」
 へこむルイズ。
 「ですから、たぶん一度でもまともに呪文詠唱による魔法が使えれば、コモンマジックはむしろ得意になると思いますよ。元々ご主人様は魔力を扱うことに特化しているわけですから」
 「練習じゃ駄目なの?」
 「残念ながら今のご主人様は正しい感覚を掴んでいないと思われますから。正しい型を実感できないからコモンマジックでも爆発しちゃうんだと思います」
 それだけにきちんと型を理解できればあっという間にうまくなりますというなのは。
 でもそのための呪文がないのよね、とため息をつくルイズ。
 こうして休日の夜は更けていった。







 「だいぶ整理が付いたね」
 “はい、マスター”
 その日の夜遅く。なのははみんなに説明した内容をレポートにまとめていた。
 だがそこには、彼女たちには説明しないことも書かれていた。
 「でも何でここの魔法って、こうもたくさんユニゾンデバイスが関わってくるのかなあ」
 “本当に意外です。しかも古代ベルカ式より進歩していないのに優れています”
 矛盾した言い方をするレイジングハート。
 「そういえば俺もそうなんだって?」
 「そうよデル君。全く古代ベルカ式アームドユニゾンデバイスなんて、何でそんなものがここにあるのかしら」
 “正確には違います。デルフリンガーはユニゾンデバイスではありますが、古代ベルカ式とは言い切れません。カートリッジシステムをはじめとした差違がかなりに渡って存在します”
 「ユニゾン、ユニゾン、ユニゾン。何でこんなにユニゾンデバイスばっかり……あれ、ミッドじゃ危険物扱いなのに」
 頭を抱えるなのは。
 そう、ミッドチルダでは優れていることは理解されていたものの、それと表裏一体な危険性が問題視され、親友のリーンフォースⅡとJS事件を通じて仲間となったアギト以外には存在が確認されていない特殊なデバイス……ユニゾンデバイスと思われるものが、この世界には数え切れないくらい満ちあふれていた。
 そもそもこの世界における魔法の源たる、貴族の持つレゾナンスコア……実はこれがそもそもユニゾンデバイスであった。
 厳密には、かつてユニゾンデバイスだったものである。
 スキャナによる魔力解析のデータは、貴族が所持すると思われるこのレゾナンスコアが、生来のものではなく、外部から付与されたものがそのまま遺伝的にも定着したものだと示してた。
 ユニゾンデバイスでは融合事故という問題が起きることがある。融合が過剰になり、デバイスに融合元の人物が乗っ取られてしまうのだ。闇の書事件時のはやてが一時そうなっていた。
 そしてこの地の貴族の場合は、融合が完全すぎて分離不能となり、そのまま生体にデバイスであるコアが取り込まれてしまっているのだった。それどころかそのコアが遺伝までする。
 さすがにそこまでの無茶のせいか、融合したコアは完全には作動していないが。
 言い換えれば、この地の貴族は、生まれた時からユニゾンデバイスと二十四時間ユニゾンしっぱなしで、分離も不可能という状態なのだ。
 “ミッドチルダでこのようなことが起きたら大問題ですが、この地では無茶が通り過ぎてそれが平常状態になってしまっていますね”
 レイジングハートも呆れたように言う。
 “結果本来のリンカーコアがレゾナンスコアによって上書きされた形になるため、この地でミッド式の呪文を使える人物が誕生する可能性は、貴族からはほぼ皆無ですね”
 「平民の人にもかなり血が混じってそうだもんね。何せ六千年。全員検査でもしないと判んないか」
 “その点では第九十七管理外世界と一緒かと”
 なのはも頷いて、少し遠い目をした。
 その目の前に左手をかざす。手の甲には、打ち込まれたガンダールヴの印。
 「これもユニゾンデバイスだし、デル君も持ち手と融合する力を持ってるのよね」
 それはデルフリンガーとの会話及び、なのはを通じてデルフリンガーとレイジングハートをある意味直結したことによって得られた情報だ。
 まとめて俯瞰してみると、一つの特徴があった。
 デバイスとしてみると、その能力はリインより劣っている。だが安全性とバリエーションでは比較にもならない。知恵持つものこそほとんど無く、その点では古代ベルカに劣っているが、それ以外の面においては明らかにこちらの技術の方が上である。
 古代ベルカ式でも複数のユニゾンデバイスを宿すなどという技術はない。ましてやそれがミッド式のデバイスと連携可能などとなったら論外だ。
 古代ベルカのものによく似ていながら、ある面では圧倒的に優秀であり、別の面ではかなり劣る技術。どうにもちぐはぐなもの。
 すっきりしないイメージが、なのはの思考がまとまることを妨げていた。
 「まあ、俺なんかにゃそういう難しいことは判んないけどよ、これだけは言えると思うぜ、姉さん」
 「なに、デル君」
 「そろそろ寝ないときついんじゃねえか? 俺と違って」
 「あ」

 こうしてなのはの休日も終わりを告げたのであった。




新着情報

取得中です。