ゼロと人形遣い 8
トリステイン魔法学院2年生の教室。
そこでは、昨日念願の春の使い魔召喚の儀式を行なったばかりの生徒達が、授業前の時間を利用して話しに花を咲かしていた。
当然、昨日の事で盛り上がっている・・・かと思いきや、実際は別の話題で盛り上がっていた。
そこでは、昨日念願の春の使い魔召喚の儀式を行なったばかりの生徒達が、授業前の時間を利用して話しに花を咲かしていた。
当然、昨日の事で盛り上がっている・・・かと思いきや、実際は別の話題で盛り上がっていた。
「おい、見たかよ。食堂の」
「当たり前だろ。それにしても」
「あの時のルイズの顔といったら」
「さすがはゼロよね~」
「あんなのが公爵家の」
「本当に笑わせてくれるよ」
「当たり前だろ。それにしても」
「あの時のルイズの顔といったら」
「さすがはゼロよね~」
「あんなのが公爵家の」
「本当に笑わせてくれるよ」
そう、生徒達の話題の大半は朝の食堂での事件だった。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
通称「ゼロのルイズ」と呼ばれる彼女は 、貴族のみが通えるトリステイン魔法学院の中でも特に身分が高い名門ヴァリエール家の三女である。
なぜ彼女がこのような悪口を言われているのか。
その理由は、彼女の二つ名「ゼロ」が示している。
通称「ゼロのルイズ」と呼ばれる彼女は 、貴族のみが通えるトリステイン魔法学院の中でも特に身分が高い名門ヴァリエール家の三女である。
なぜ彼女がこのような悪口を言われているのか。
その理由は、彼女の二つ名「ゼロ」が示している。
ルイズは、魔法の使えない。使おうとしても、爆発が起こるだけだ。
貴族の象徴であり、メイジのステータスであるはずの魔法を使うことができないのである。
これだけでも、笑い話としては十分だが、今回はそれだけではない。
貴族の象徴であり、メイジのステータスであるはずの魔法を使うことができないのである。
これだけでも、笑い話としては十分だが、今回はそれだけではない。
「いや~、まさか平民が使い魔とはな」
「使い魔?そんな訳ないだろ」
「そうだ。どうせ金で雇ったんだろ」
「やっぱりそうか!」
「使い魔?そんな訳ないだろ」
「そうだ。どうせ金で雇ったんだろ」
「やっぱりそうか!」
教室に笑い声が響いた。
そのまま、笑い声も収まらないうちに、今朝の事件へと話が移る。
そのまま、笑い声も収まらないうちに、今朝の事件へと話が移る。
「でも、その平民にあんな事言われてたぜ」
「あの時のルイズのセリフ聞いたかよ」
「ばかいぬ~ってか」
「ほんと、貴族として恥ずかしくないのかしら」
「あの時のルイズのセリフ聞いたかよ」
「ばかいぬ~ってか」
「ほんと、貴族として恥ずかしくないのかしら」
また、笑い声があがる。
その時、教室の扉が開く音がした。
特別大きな音ではなかったが、なぜか騒がしかった教室に響いた。
特別大きな音ではなかったが、なぜか騒がしかった教室に響いた。
開いた扉から入ってきたのは、見知らぬ二人。
いや、先に入ってきた少女は見覚えがあるはずだ。
先程まで自分達が嘲っていた相手。ゼロのルイズその人である。
だが、今のルイズは人の中身の「闇」が滲み出ている様なオーラを纏っているため、まったくの別人に見えてしまっていた。
いや、先に入ってきた少女は見覚えがあるはずだ。
先程まで自分達が嘲っていた相手。ゼロのルイズその人である。
だが、今のルイズは人の中身の「闇」が滲み出ている様なオーラを纏っているため、まったくの別人に見えてしまっていた。
その「夜の闇色」を纏うルイズに声をかけられる者など居るはずもなく。
彼女は、無言のまま教室に入り、自分の席に座った。
その後を、悠々とついて行く男。
彼は席に座るルイズを見下ろした。だが、ルイズは反応することなく前を睨みつけている。
そんなルイズをしばらく眺めていたが、呆れたように軽く肩を揺らして、教室の後ろへと移動し、そのまま壁を背にして座り込んだ。
彼女は、無言のまま教室に入り、自分の席に座った。
その後を、悠々とついて行く男。
彼は席に座るルイズを見下ろした。だが、ルイズは反応することなく前を睨みつけている。
そんなルイズをしばらく眺めていたが、呆れたように軽く肩を揺らして、教室の後ろへと移動し、そのまま壁を背にして座り込んだ。
それから1分近く沈黙が続いたが、ゆっくりと教室にざわつきが戻ってくる。
だが先程までの賑やかさはなく、教師が来るまでの間この状態が続いた。
だが先程までの賑やかさはなく、教師が来るまでの間この状態が続いた。
しばらくして、また扉が開き、教師のシュヴルーズが入ってきた。
紫色のローブに身を包み、帽子をかぶった中年の女性で、いかにも魔法使いといったいでたちである。
シュヴルーズは、普段と若干違う教室の雰囲気に眉をひそめたが、昨日は召喚の儀式があったので、全員浮かれているのだろうと解釈した。
紫色のローブに身を包み、帽子をかぶった中年の女性で、いかにも魔法使いといったいでたちである。
シュヴルーズは、普段と若干違う教室の雰囲気に眉をひそめたが、昨日は召喚の儀式があったので、全員浮かれているのだろうと解釈した。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
そう言って、シュヴルーズは教室にいる使い魔を順に見ていく。
だが、教室の後ろに眼を向けたときに動きが止まる。
そこには、明らかに柄の悪い男が居た。
一瞬、不審者かと思ったが、すぐに思い出した。
そこには、明らかに柄の悪い男が居た。
一瞬、不審者かと思ったが、すぐに思い出した。
「ミス・ヴァリエール、変わった使い魔を召喚したものですね」
とぼけたシュヴルーズの声に、ふたたび教室に笑いが巻き起こった。
そんな笑い声の中、ルイズはうつむいてしまった。
誰もが笑い続ける教室で、誰かの声が響いた。
そんな笑い声の中、ルイズはうつむいてしまった。
誰もが笑い続ける教室で、誰かの声が響いた。
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」
その声に、暗い怒りが溜まっていたルイズは立ち上がり、 今朝の鬱憤を晴らすように怒鳴った。
「違うわ!きちんと召喚したもの!それなのにあいつが出て来ちゃっただけよ!」
「嘘つくな! サモン・サーヴァントができなかったんだろ?」
「嘘つくな! サモン・サーヴァントができなかったんだろ?」
ルイズは声の主をにらみつけると、シュヴルーズに視線を移した。
「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱しました!」
「かぜっぴきだと? 俺は風上のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」
「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」
「かぜっぴきだと? 俺は風上のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」
「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」
マリコルヌも立ち上がり、ルイズを睨みつける。
教壇に立ったシュヴルーズは首を振って、小ぶりな杖を振った。
すると、二人の口に粘土が張りついた。
教壇に立ったシュヴルーズは首を振って、小ぶりな杖を振った。
すると、二人の口に粘土が張りついた。
「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」
自分が起こした騒動なのに、他人事の様に叱ってくるシュヴルーズの言葉に、ルイズは眉を吊り上げたが、何も言わずに席についた。
「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」
粘土を剥がしたマリコンヌは懲りずに言った。
「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」
くすくすと教室から笑いがもれる。
シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回し、再度杖を振った。
マリコンヌと忍び笑いしていた生徒たちの口に、粘土が張り付く。
シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回し、再度杖を振った。
マリコンヌと忍び笑いしていた生徒たちの口に、粘土が張り付く。
「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」
さすがに教室は静かになる。
シュヴルーズは満足そうに頷くと、
シュヴルーズは満足そうに頷くと、
「それでは授業を始めますよ」
そう前置きをして、シュヴルーズは授業を始めた。
その声に、今までは興味無さそうにぼっとしていた男、先程話題にされたゼロのルイズの使い魔である阿柴花は初めて反応した。
『やっと授業が始まるのんですかい。やれやれ、無駄な話が多いこって・・・。
まあ、この先どうするにせよ、魔法のことは知っといて損は無さそうですからねぇ』
まあ、この先どうするにせよ、魔法のことは知っといて損は無さそうですからねぇ』
そう考えながら、シュヴルーズの説明へ耳を傾ける。
どうやら、今回は今までの復習らしい。
あまりにも都合にいい展開だが、好都合ではある。
どうやら、今回は今までの復習らしい。
あまりにも都合にいい展開だが、好都合ではある。
魔法には[火][水][土][風]という四つの基本的な属性がある。
その他に、失われた系統魔法の『虚無』があるが、今は使えるものがいない。
属性を組み合わせることによって、より強力な魔法が使える。
組み合わせられる属性の数によってメイジのレベルが決まる。
そこで、シュヴルーズの説明は終わった。
説明された知識を頭の中で整理しながら思った。
その他に、失われた系統魔法の『虚無』があるが、今は使えるものがいない。
属性を組み合わせることによって、より強力な魔法が使える。
組み合わせられる属性の数によってメイジのレベルが決まる。
そこで、シュヴルーズの説明は終わった。
説明された知識を頭の中で整理しながら思った。
『なんてぇかヒネリが無いねぇ・・・、なんかのファンタジーの小説か何かみたいな設定じゃないですか』
またシュヴルーズの声が聞こえたので、前に目を向ける
「それでは、実際にやってみてもらいましょう」
自信ありそうな者に、無さそうな者、今年から初めて受け持つ事になったクラスなので迷ってしまう。
その時、悩むようにうつむいた一人の生徒に目が止まった。
シュヴルーズは、誰に当てようかと考えながら生徒たちの顔を順々に眺めていく。
その時、悩むようにうつむいた一人の生徒に目が止まった。
シュヴルーズは、誰に当てようかと考えながら生徒たちの顔を順々に眺めていく。
「ミス・ヴァリエール。どうかしましたか? 今は授業中ですよ」
声を掛けられたルイズは慌てて顔を上げた。
「申し訳ありません。ミス・シュヴルーズ」
「よろしい。では、錬金の実習はあなたにやってもらいましょうか」
「えっ!」
「よろしい。では、錬金の実習はあなたにやってもらいましょうか」
「えっ!」
シュヴルーズの一言で生徒の視線がルイズに集まった。
そのどれもが恐怖と心配の入り混じっている。
なぜかルイズは、いつまでも立ち上がらない。
そのどれもが恐怖と心配の入り混じっている。
なぜかルイズは、いつまでも立ち上がらない。
「あっ、あの・・ミス・シュヴルーズ・・・」
ルイズは困ったようにもじもじするだけだ。
そんなルイズの様子に阿柴花は、
そんなルイズの様子に阿柴花は、
『ありゃ、嬢ちゃんの地雷は[土]なのかねぇ?』
シュヴルーズは再度呼びかけた。
「ミス・ヴァリエール! どうしたのですか?」
「先生」
「先生」
おずおずと手を上げたのはキュルケだった。
「なんですか? ミス・ツェルプトー」
「やめといた方がいいと思いますが」
「どうしてですか?」
「危険です」
「やめといた方がいいと思いますが」
「どうしてですか?」
「危険です」
キュルケは、きっぱりと言った。
その言葉に、教室のほとんど全員が頷く。
ルイズの体がぴくりと動く。
その言葉に、教室のほとんど全員が頷く。
ルイズの体がぴくりと動く。
「危険? どうしてですか?」
「先生はルイズを教えるの初めてですよね?」
「ええ。ですが、彼女が努力家だということは聞いています。ミス・ヴァリエール。前に出てきてやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」
「先生はルイズを教えるの初めてですよね?」
「ええ。ですが、彼女が努力家だということは聞いています。ミス・ヴァリエール。前に出てきてやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」
シュヴルーズは、優しくルイズを促す。
だが、キュルケは
だが、キュルケは
「ルイズ。やめて」
と、真剣な顔で言った。
しかし、ルイズは立ち上がった。
しかし、ルイズは立ち上がった。
「やります」
緊張した顔で、ルイズは教室の前へと出て行く。
阿柴花はその様子を後ろから眺める。
阿柴花はその様子を後ろから眺める。
「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」
ルイズの隣でシュヴルーズは笑いかけた。
こくりと、小さく頷く。
机の上に乗った小石を睨みつけ、ルイズは呪文を唱え始める。
その様子はいかにも魔法使いらしい。
ルイズは呪文を唱え終えると、杖を振り下ろそうとした。
こくりと、小さく頷く。
机の上に乗った小石を睨みつけ、ルイズは呪文を唱え始める。
その様子はいかにも魔法使いらしい。
ルイズは呪文を唱え終えると、杖を振り下ろそうとした。
その瞬間、阿柴花の背筋にゾクリと冷たいものが走り、本能のままに身を伏せる。
そして、杖が振り下ろされた瞬間。
小石が爆発した。
小石が爆発した。
爆風をもろに受けたルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられる。
机の破片があちこちに飛んでいき、窓ガラスを割り、何人かの生徒に当たる。
爆発に驚いた使い魔たちが暴れだした。
机の破片があちこちに飛んでいき、窓ガラスを割り、何人かの生徒に当たる。
爆発に驚いた使い魔たちが暴れだした。
教室の至るところから悲鳴が起こり、物の破壊音が響き渡る。
キュルケは立ち上がると、ルイズを指差した。
キュルケは立ち上がると、ルイズを指差した。
「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」
「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」
「俺のラッキーが! ラッキーが食われたー!」
「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」
「俺のラッキーが! ラッキーが食われたー!」
阿柴花はゆっくり身を起こして惨状を眺めた。
黒板に叩きつけられたシュヴルーズは床に倒れたまま、ぴくぴくと痙攣している。
ルイズの顔はすすで真っ黒になり、制服もぼろぼろだった。
しかし、さすがというべきだろうか。ルイズは落ち着いていた。
顔についたすすをハンカチで拭い、淡々と感想をもらした。
黒板に叩きつけられたシュヴルーズは床に倒れたまま、ぴくぴくと痙攣している。
ルイズの顔はすすで真っ黒になり、制服もぼろぼろだった。
しかし、さすがというべきだろうか。ルイズは落ち着いていた。
顔についたすすをハンカチで拭い、淡々と感想をもらした。
「ちょっと失敗みたいね」
当然、他の生徒たちが反発した。
「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」
「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!」
「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!」
無性に煙草を吸いたくなったが我慢する。
「なるほど・・・、それで[ゼロ]ですか・・・」
阿紫花の呟きは喧騒の中に消されていった。