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ゼロな提督-15


 夕方、部屋二つとリビング一部屋があるティファニアの家に、村の子供達が全員集まっ
ていた。
 村の子供達は3人ごとに一軒の家で住んでいたが、食事はティファニアの家にてみんな
で食べる。で、村には民家が10軒ほどある。つまり、30人くらいの子供達と一緒に夕
食。当然、貴族みたいな作法なんか知らないし、隠れ里みたいなものなので教会の有難い
教えとも縁がない。

 だから、それはそれはもう、騒がしい。

 一瞬たりと黙らない。
 気が付いたら椅子を蹴ってどこかに走り出してる。
 カエルがどこかから飛んでくる。
 テーブルの下に潜り込んで隠れん坊している。
 隣のパンを取ったとかどうとかでケンカをしだす。
 小さな子は水をこぼしたと泣き出す。
 etc...

 おまけに、久々に帰ってきたロングビルが、見知らぬ客を連れてきたというのだ。子供
達が興味をひかれないはずがない。村まで連れてきた荷馬車の馬だって子供達の良いオモ
チャと化している。
 準備も食事中も後片づけも、一瞬たりと気が抜けない戦争のような騒がしさ。これを手
伝うロングビルもヤンもてんてこ舞い。しかもヤンには常に、小枝でつっついたりしてく
る子供達がつきまとう。
 ルイズは「なんで貴族のあたしがそんな事を!」と手伝おうとはしなかった。が、遠巻
きに様子をうかがう子供達が「ヘンなヤツ」「やーいやーい」とからかうと、すぐ追いか
けっこを始めてしまった。
 さすがに杖を取り出す事はなかったので、年長組は「子守には丁度良いかな」とほっと
くことにした。ルイズが意外と楽しそうに子供達と遊んでいるのを見て、ヤンとロングビ
ルは顔を見合わせて笑ってしまった。



     第十五話    森の奥には子供達



 子供達がそれぞれの家に帰った頃、ティファニアの家には四人と剣一本がいる。
 テーブル上の燭台を囲み、ティファニア・ロングビルことマチルダ・ルイズ・ヤンが椅
子に座る。壁にはデルフリンガーが立てかけられている。
「へぇ~、それじゃミス・ロングビルがウェストウッド村の運営をしていたんだね。凄い
なぁ」
 感心するヤンに、マチルダはちょっと照れてそっぽを向く。
「よしとくれよ、そんな大層なことじゃないんだ。ただ、娘同然のテファを助けるのは当
然だろ?」
 グラスのワインを無造作に飲み干すマチルダ。話口調も粗野で、ルイズは少し驚いてい
る。
「もしかして、それがミス・ロングビルの地ってわけかしら?」
「ん?ああ、まあね。ここはあたしの故郷なんだし、そんくらいは勘弁しておくれよ」
「うん、別に良いわよ」
 ルイズも礼法がどうとかは、さすがにこんな森の奥で口にしたりはしなかった。

 壁の長剣がカチカチと鍔を鳴らす。
「おう、ほんでだな。ハーフエルフの嬢ちゃんの話。続きを聞きてーんだがよ!」
「あ、はい。わかりました」
 蝋燭の光に浮かぶ長い金髪は、神秘的なまでの輝きを浮かべる。
 ついでに巨乳のシルエットが悪魔的な誘惑を周囲にまき散らす。さすがのヤンですら、
視線がティファニアの顔から下に向かいそうになってしまう。実際、顔より目立つ胸なの
だから、視覚誘導としてはあまりに効果的すぎる。
 そんな誘惑に負けそうになったら、右のマチルダに足を踏まれ、左のルイズに腿をつね
られた。


――ティファニアとマチルダ。
 父親は王弟で財務監督官だったモード大公、母親はその妾のエルフで、ウェールズやア
ンリエッタの従妹に当たる。テューダー王家の血を引くので、王位継承権を有する事にな
る。
 生後よりずっと大公の屋敷で、母と共に人目を忍んで暮らしていた。モード大公投獄時
に、隠れ家を襲撃した兵達により母は殺害された。逃亡に成功して以後、この村に隠れ住
みながら孤児達の母親役をしている。
 幸いマチルダなど、モード大公ゆかりの人々が援助をしてくれるため、現在まで無事に
生活出来た。
 そしてマチルダは、本名マチルダ・オブ・サウスゴータ。彼女の父親は大公家に仕えて
いたサウスゴータの太守。大公家への忠誠心からエルフ母子を匿った為、王家により家名
を取り潰された。以後は時々、村を訪れては資金援助をしている。


 4人がワインを一本空け終えた頃、マチルダが話を続けた。
「ヤンがエルフと仲良くやってるのを見て、「しめた」って思ったのさ。テファをエルフ
の国へ連れて行けるかと思ってね」
 ルイズとヤンは「ああ、なるほど」と納得した。が、当のハーフエルフは悲しそうな声
だ。
「そんな、姉さん・・・」
 母の故郷へ帰れるあてがついたというのに、ティファニアは浮かない顔だ。
「あたし、『混じりもの』なのよ…エルフは人間を嫌ってるから、あたしをみたら何をす
るか分からないもの」
「あー、その辺は大丈夫だと思うぜぇ」
 気楽に明るい見通しを口にしたのはデルフリンガー。
「エルフは最近、聖地の事でハルケギニアに助けを求めに来てるんだわ。で、ヤンから詳
しい話を聞きたがってる。だから、ヤンから口添えしてもらえば、悪いようにはしねーと
思うんだわ」
 ヤンもウンウンと頷いた。
「今度ビダーシャルが来たら、君の事を話してみるよ。ハーフエルフがどう思われてると
か尋ねておくから、その後どうするか考えればいいし」
 そうは言われたものの、ティファニアは急な話に困惑している。

 妖精のように愛らしい顔を曇らせる彼女の肩に、姉がポンと右手を置いた。
「あんたはずっと隠れ住んできたからねぇ。そりゃあ、外の世界に出るのは怖いし辛いだ
ろうよ。だがここだって、いつまでも安全とは言い切れないんだ。
 それに、あんただってそろそろ外の世界を知らなきゃいけない年だしね」
 ルイズも元気な声で励ます。
「だーいじょうぶよ!貴族のあたしから見たって、あのビダーシャルは悪いヤツには見え
なかったわ。それに、今すぐって話でもないんだし、ちょっと考えておくくらいはいいん
じゃない?」
「は…はい…」
 不安と期待が入り交じった口元に、細い指が当てられる。
 その指にはめられた立派な指輪が、蝋燭の僅かな光ですら輝いていた。




 その夜、誰がどこで寝るかで少々困った。厳密にはルイズが困った。
 ルイズはトリステイン屈指の貴族出身。やんごとなき身分の彼女には、森の奥にある素
朴な民家のみすぼらしいベッドで寝るなど想像も出来なかったから。でも、どこをどう探
しても貴族向け高級ベッドなんか無い。
 なので、う~、とか、む~、とかさんざん呻った後、とうとうルイズは諦めてティファ
ニアの部屋で寝る事になった。ヤンは同じ家の、もう一つの部屋で。ティファニアとマチ
ルダは別の家、空いてるベッドで。
 デルフリンガーは、リビングにそのまま。


 そして、皆が寝静まった頃。ティファニアの家に向かう長い髪の女性の姿があった。
 彼女は静かに家の窓に顔を寄せ、耳を澄ます。ルイズのベッドからは、散々子供達と遊
んで疲れたルイズの「くか~、すぅ~」という寝息が聞こえた。

 彼女は次に、ヤンの部屋の窓に向かう。

 閉じられた木の窓をコンコンと叩く。するとすぐに「ああ、起きてるよ」という返事が
返ってきた。
「悪いわね、こんな夜中に」
「構わないさ。他の人には聞かれたくない話だろ?」
 ヤンが窓を開けると、マチルダは軽々と身を翻して窓から入り込んだ。

 燭台に蝋燭を灯す。ほのかな光に旅装束のままのマチルダが照らされた。シャツにズボ
ン姿のヤンはベッドに腰を降ろす。
「まぁ、座りなよ」
 マチルダは椅子をヤンの前にずらし、黙って腰を降ろした。

 少しの間、二人はゆらめく蝋燭に照らされた互いの顔を見つめる。

 先に口を開いたのはヤン。
「君の妹さんの事、出来るだけの事をさせてもらうよ。君には世話になりっぱなしだから
ね」
「そうかい、助かるよ。あの子は生い立ちのせいで世間知らずだからね。このままじゃ森
の中で一生を怯えて過ごすところだったんだ」
 そこまでいうと、彼女は口をつぐんだ。少々言い出しにくそうに視線が床を彷徨ってし
まう。

「やっぱり、資金援助の事だね?」

 ヤンの言葉に、ばつがわるそうに頷く。
「まぁ…そうなんだよ。ほら、あたし、今は秘書やってるだろ?給料高くないからさぁ。
フーケとして暴れれば金は奪えるんだけどねぇ」
「止めた方が良いね。お金が綺麗か汚いか、なんて口にする気はない。だけど、いずれは
掴まる。そしたら、ここの子供達は事情も知らないまま飢えてしまうよ。その後、一体ど
うなるか考えれば…ね」
 当然な指摘に肩をすくめてしまうマチルダ。
「そう、そういう事さ。だけど、子供達のために金は要る。・・・頼めるかい?」
「うん、構わないよ。むしろ、このくらいは当然だよ。君のおかげで手に入れたお金でも
あるんだし」
「そうかい、ありがとうよ」


 彼女は礼を言った後、真剣な顔でヤンの瞳を見つめる。

「ねぇ、あんた…分かってるだろ?」


 マチルダの抽象的な指摘。だが、彼女の言葉に込められた想いは、いくら朴念仁のヤン
でも分かってしまう。
「う…んと、何を、かな?」
 それでも彼は、はぐらかすように聞き返す。

 彼女はゆっくりと話し出す。
「あたしがフーケだって事、エルフと仲良くやってる事、『聖地』の事…お互いが共有し
てる秘密は、一つでも表沙汰になれば即刻縛り首モノだよ。
 あたしも、あんたも、共犯として一緒に…ね」
「う、うん。そうだね」

 ヤンは、マチルダを見る。
 小さな光に照らされた緑の髪がゆるやかに揺れる。整った口元から囁くような声が漏れ
る。彼女の瞳が、真っ直ぐに自分を見つめる。

「おまけにあたしはティファニアを、そしてこの村の子供達を、全てあんたに任せようっ
ていうんだ」
「分かってる。必ず、出来るだけの事をさせてもらうよ。信頼して欲しい」
「もちろん、信じてるさ」
 そういってマチルダは微笑んだ。美しく、上品に、そして妖しく。


「ただ、さ・・・男ってさ。いや、女だって・・・口ではなんとでも言うじゃないか。信
じてるだけじゃあ、やっぱり、ダメなんだよ」


 そういって、マチルダはすぅっと立ち上がった。
 ロウソクの僅かな光でも、その頬が赤く染まっているのが分かる。
 だがヤンは、困ったように視線を落とした。

「言葉だけじゃ・・・ダメかな?」
「ああ、ダメだね」

 ヤンの両手は膝の上で、せわしなく指を絡ませている。

「…お金のために、っていうのなら」
「バカにするんじゃないよ。このマチルダ・オブ・サウスゴータ、身体を売るくらいなら
死を選ぶぜ」
「う、ん…そう、だよね。ゴメン」

 謝りつつも、ヤンの視線は虚空を彷徨う。

「あたしは、別に女房にしろなんて言わない。そんな固ッ苦しいのはゴメンだよ。ただ、
これからもあんたとは仲良くやっていきたいだけさ。
 何より、裏切らないっていう保証が欲しい。言葉だけじゃない、あんたの情を、本気を
見せて欲しい」
「いや、でも、僕は・・・そりゃ、君は、とても素敵だけど、嬉しいけど、僕は・・・」

 ヤンは、言葉に詰まる。
 そんな姿を見ても、マチルダは特に怒りはしなかった。ただ一言、口にした。


「フレデリカ」
「!!」


 その瞬間、ヤンの顔は困惑から驚愕へ塗り替えられた。
「やっぱり、あんたの女房の名前かい?」
 力なく、ヤンは頷く。
 どうしてその名を知っているのか、とは尋ねなかった。

 女はゆっくりと彼の前に立ち、男を見下ろした。
「忘れられないのかい?」
「ああ、忘れられないよ。…まだ、故郷を離れて二ヶ月も経っていないんだ。忘れられる
はずがないよ」
「愛してたんだね」
「愛してるんだ。今も」
 ヤンは頭を抱える。深い苦悩に涙すら浮かべる。

 マチルダは腰をかがめ、顔を寄せた。
「聖地の門を塞ぐんだろ?そんなんで故郷の事、諦められるかい?」
「諦め…たく、ないさ。
 会いたいんだ、もう一度、会いたいんだよ。フレデリカにも、ユリアンにも、シェーン
コップや、アッテンボローや、みんなに、もう一度・・・会いたいんだよ!」

 ヤンはマチルダを見上げる。涙を流しながら。

「でも、聖地の門を塞がなきゃ、この世界は・・・いや、この世界だけじゃない。たとえ
故郷に帰っても、その後、門に誰が巻き込まれるか分からないんだ。フレデリカだって、
ユリアンだって、いつ誰が聖地の門に突っ込んでも、不思議じゃ、ないんだ。
 やらなきゃ、ならないんだ…みんなの、ために、両方の世界のために…そのために…僕
しか・・・」

 マチルダは、優しく微笑んだ。
 そして、ヤンの頬をその手に包む。

「でも、苦しいんだろ?」
「・・・苦しいさ」
「なら、あたしの胸くらい貸してやるさ」

 頬を包む手が、するりと首へと降り、ふわりとヤンの頭を自らの胸へ引き寄せた。

「まったく、あんたは不器用だねぇ。
 忘れられるもんか、愛する人の事なんか。いや、忘れちゃいけないんだよ」

 ふくよかな胸の上で、ヤンはぎこちなく頷く。

「あたしは、そんなあんたが気に入ってるのさ。
 頭が切れるくせに不器用で、
 勇敢なくせに欲が無くて、
 皮肉屋のくせに優しくて。
 こんな良い女を前にして、女房の事が忘れられないってハッキリ言っちまう。
 そんなあんたを、他の女の事を愛してるあんたに、惚れちまったよ。
 だから、あたしの事なんか気にすんなよ。嫌いになったり、邪魔になったら、殺しちま
えばいいからさぁ」
「そ、そんな事、しないよ…」

 男の腕がゆっくりと、怖々という感じに女の身体に添えられる。
 女は嬉しそうに、男を強く抱きしめた

「いや、してくれていいよ。後の事は、ティファニアも村も、全部あんたに任すからさ。
泥棒家業始めた時から、人並みの幸せなんて捨てちまったしねぇ。
 だから、あんたに望むのは、答えだけだよ。バカのあたしにも分かる簡単な答え。
 今、あたしを抱くか…それとも、今、あたしを…殺すか」


 ヤンの身体がこわばる。
 マチルダの身体も、緊張に固まっている。

 二人とも、互いの身体に身を寄せたまま、しばらく動かない。


 そして男は



 女の細い身体を、長い緑の髪ごと強く抱きしめた。




 光が夜を大地の端へと追いやる。
 森の中には朝靄が漂い、草木の葉を濡らす露となってキラキラと輝く。
 気の早い鳥たちは、既に元気にさえずり飛び回っている。
 村のはずれでは、連れてきた荷馬車の馬があくびをしていた。

「ふぅわあ~ぁ…」

 ヤンも間の抜けた大あくび。右手でしまりのない口を塞ぐ。
 いつもの寝ぼけまなこで天井を見上げると、藁葺きの家の天井が見える。
 ベッドは粗末な木製。シーツ類も学院の物とは違い、最も安い品。だがとても清潔にさ
れていて、寝心地は悪くない。


 でも、狭い。


 さして大きくないベッド。そのうえ隣にはマチルダが静かな寝息を立てている。
 左腕の上に頭を置き、長い髪がヤンの胸の上にもかかっている。

 口を塞いでいた右手で、彼女の頭をふわりとなでる。
 まるで最高級の絹のように柔らかくサラサラの髪。

 彼女の頭の下からゆっくりと腕を抜く。そして身体に巻き付くマチルダの腕を、そっと
ほどいて起きあがる。左腕が痺れているのは、長時間マチルダに腕枕をしていたせいらし
い。
 なるべく床を軋ませないようにベッドから降り立ち、静かに服を着た。

「一人で起きるなんて、つれないねぇ」
「ん・・・よく寝てたからね」

 振り返ると、マチルダも身体を起こしていた。ティファニアほどではないが、それでも
大きくて形の良い胸を隠そうともしていない。
 真っ赤になったヤンは慌てて視線を戻す。それを見たマチルダはクスクスと楽しげに笑
い出す。
「なーにを照れてんだい?昨日はあたしの胸の中で、ずっと泣いてたくせにさぁ」
「そ、そんな事、してたかな?」
「してたさ。おかげで…あぁ~あ、見なよ。もう胸が涙と鼻水でベチャベチャだよ」
「ええ!?ご、ゴメン」
 と言って振り返ると、彼女はニヤニヤ笑っていた。もちろん胸のどこにも涙や鼻水の跡
なんか無い。
 からかわれたと気付いて、再び慌てて視線を前に戻す。背後からはケラケラと笑い声が
響いてくる。

 ちょっと不愉快になったヤンは、なんとか誤魔化そうと窓を見た。
 すると、目があった。
 木で出来た窓の隙間から覗いてくる、幾つもの小さな目と。

 とたんに「やっべー!」「にげろー!」という子供の声と共に、走り去る複数の足音が
響いてくる。


 ヤンは、固まった。

 後ろでマチルダも引きつっていた。


  ギシ
 扉の方からも床板が軋む音がした。
 即座にマチルダが杖を手にし、扉へ振る。

 その刹那、開け放たれた扉と一緒に、ルイズとティファニアが転がり込んできた。
「あ、あら?あらら?…えっと…朝だから、その、呼びに来たの、よ?」
 天井を見上げてとぼけようとするのはネグリジェ姿のルイズ。
「ええと、その、姉さん、あの…」
 ごまかしようもなく、口ごもるのは一枚布で作られた夜着を纏うティファニア。
「おいおい、今さら誤魔化しようもね~だろ?暗いウチからずっと扉に張り付いてたんだ
からよ」
 誤魔化さないのは最初からリビングにいたデルフリンガー。

「あ・・・あ・・・あ!」
 マチルダの幸せ一杯な顔は、だんだんと怒りで一杯に変わっていく

「あんたらあーーーーーーーーーーっ!!!!」
 静かな森に怒号が鳴り響き、驚いた鳥たちが飛んで逃げていった。




 朝食、という名の晒し物タイム。
 昨日の夕食と同じく、ティファニアの家に集まって皆で朝ご飯なのだが、子供達は朝食
なんかそっちのけ。「マチルダねーちゃん!結婚するの!?」「わー、ヤンさんとマチル
ダねーさんはアッチッチなんだー!」とからかわれっぱなし。
 マチルダは、「うるせー!さっさと食えーっ!」と怒鳴り散らすが、笑顔で言っても全
く効果がない。ヤンは「あの~、えっと、そのぉ~」と子供相手に本気で照れてしまい、
昨日以上につつかれたり蹴られたり石を投げられたり。
 ルイズとティファニアは、ヤンとマチルダの顔がまともに見れず、真っ赤になって顔を
背けてしまう。

 結局、夜までこんな感じ。

 そして寝る時間になったら「いーからいーから」と、子供達にヤンの部屋へ押し込まれ
るマチルダ。もちろん彼女は「や、止めなよ!」と言いつつも抵抗せず、ヤンも苦笑い。
ルイズとティファニアは赤くなったまま見て見ぬふり。

 見張りにマチルダのゴーレムが立つ二人の部屋の外では、リビングに立てかけられたデ
ルフリンガーが「平和だなぁ」と呟いた。




 そしてまた次の日の朝。見張りのゴーレムも既に土に戻っている。
 ヤンは湯気の立つ湯を入れた桶と布を持って部屋に戻ってきた。
「マチルダ、お湯とタオル持ってきたよ」
「すまないね。んじゃ、背中拭いてくれるかい?」
「うん、後ろ向いて」
 学院ではないので、お風呂やサウナもない。さすがに汗くさいので、お湯に浸した布で
身体を拭く事にした二人。

 ヤンがゴシゴシとマチルダの、優美な曲線を描く背中を布でこすってると、扉がノック
される。
 ヤンが口を開くより先にマチルダが答えた。
「鍵ならかかってないよー」
「元から無いでしょ!」
 ヤンが、え?ちょっと、と止める間もなくルイズが扉を開けた。

 目の前では、ヤンが裸のマチルダの背を拭いていた。

「キャアッ!」
 慌てて扉を閉めて真っ赤になる。
「ちょっと!先に言ってよ!!」
「何言ってンだい?裸なのはあたしなんだから、気にする事は無いだろ」
「いや、そういう問題じゃないだろう…」
 さすがにヤンも呆れてしまう。気を取り直して扉の方に声をかける。
「ところで、何か用かい?」
 扉の向こうから、怒ったような声が帰ってくる。
「あ!あんたが、桶にお湯入れて部屋に帰るのが見えたから、ついでにあたしも身体拭こ
うと思ったのよ!」
「ああ、んじゃ入りなよ。あたしは後は自分でやるからさ」

 マチルダの豪快なセリフに、扉の向こうから一瞬返答に詰まる空気が伝わってきた。

「ふ、ふんだ!それじゃ、そうさせてもらうわ!」
 ツンと澄ましつつも頬が赤いルイズが入ってきた。起きてすぐだったらしく、まだネグ
リジェのままだ。
 そのままクルリとヤンに背を向けて床にちょこんと座る。
 ヤンはルイズと、ニヤニヤしてるマチルダの間で視線を往復させながら、え~っと…と
いう感じで困ってしまう。

 すると、ルイズがジロリとヤンを肩越しに睨み付けた。
「ちょっとあんた…恋人の背中が拭けて、主であるあたしの背中が拭けない…とでも言う
わけ!?」
 クスクスと声を殺して笑い出したマチルダが、ヤンの脇をつつく。
 ヤンも「ああ」と得心して、ルイズのネグリジェを優しく脱がせる。
 ピンクの髪を身体の前に回し、暖かい布で小さな背中を拭いてもらえて、ようやく満足
そうに口の端が緩んだ。

 そんなルイズを見ながら足を拭き上げてるマチルダが、コホンと一つ咳払い。そして微
笑みながらルイズに、いじわるな一言。
「大丈夫です。ヤンさんを取ったりしませんよ」
「ななななに言うのよ!あ、あたしは別に!あるある主の、せ、背中拭くのも、執事の仕
事なんだからね!」
 必死になって誤魔化すルイズの全身は、布でこすられてない場所まで全部真っ赤になっ
てしまった。
 ヤンは「ホントにこれも執事の仕事なのかなぁ…」と疑問に思ったが、嫉妬されるほど
可愛い主に好かれているのは良く分かったので口にしなかった。


 シュカッ!


 いきなり家の外から、乾いた音がした。
 刹那、マチルダが布を放り出し杖を手にする。


 シュカカッ!シュカッ!


 次々と矢が飛んでくる音がする。ヤンも慌ててルイズごと身を屈める。
 ちょっと頭を上げて、窓の隙間から外を覗き見る。
 そこには、剣や弓や槍を構えた5人程の傭兵らしき一団が村の入り口にいた。矢は家の
壁や、野外に置かれていた薪に刺さっている。
 一番偉そうにしている男が下品なだみ声で「村長はいるかー!死にたくなかったらでて
こーい!」と大声を張り上げている。あちこちの家から子供達の悲鳴が上がる。

 マチルダがニヤリと笑って杖を掲げる。
「傭兵崩れの盗賊っていう所らしいわねぇ。このマチルダ様の村に来るとは良い度胸じゃ
ないかい!」
「ちょっと待って、落ち着いて。彼等は」
 ルーンを唱えようとしたマチルダを制しようとしたヤンは、扉がバタンッと開け放たれ
る音を背後で聞いた。見れば部屋の扉が吹き飛ばんばかりの勢いで開け放たれている。

 身体の下に庇っていたハズのルイズが、いつの間にかいなかった。



 5人の傭兵達に、慌てて服を着て来たルイズが、杖を手に家を飛び出してくるのが見え
た。手に杖が握られているのを見て、寂れた寒村にメイジがいる事に仰天した傭兵達が慌
てて弓を構える。
 同時にルイズは叫んだ。
「ファイヤーボールッ!ウィンド・ブレイク!」
 もちろん火の玉なんか飛ばない。風も吹かない。何かが飛んできてくれるなりすれば、
少なくとも傭兵達は避けるなり矢を撃つなり逃げるなり出来たろう。
 叫んだ瞬間に傭兵達は五人まとめて連続爆発の中に消えた。避ける暇も何もなかった。

 爆風に巻き上がる砂塵が消えた時、ヒクヒク痙攣する哀れな傭兵のなれの果てが5人。

 ルイズはツカツカと近寄ると、村長を呼んだ男の頭をゴスッと踏んづけた。
「ふっざけんじゃないわっ!」
 男の抗議のうめき声は、さすがに下卑ただみ声でも哀れに聞こえた。


「こらこらルイズ、慌てて飛び出しちゃダメだよ」
 と言ってデルフリンガー片手にノンビリやって来たのはヤン。
「ふん。こんな盗賊ごとき、このルイズ様の相手じゃないわ!」
「確かに。そこの5人だけだったなら君の魔法で十分だったろうね」
「5人だけ…だった、なら?」
 キョトンとするルイズに、ヤンは村の入り口の反対側に当たる森を指し示す。
 そこには、何人もの傭兵を抱えた大きなゴーレムが立っていた。



「…つまりね。こんな森の中の寂れた村を襲おうっていうなら、森の中へ散り散りに逃げ
られるって事を考えなきゃいけないんだ。だから、まず第一に村の包囲が完成していない
といけない。その上で堂々と村の入り口に部隊が姿を現す。
 村人が逃げようとしても包囲網に掴まる…という算段だと思ってね」
「で、あたしとヤンが森の中に入って、獲物を待ち構えてたこいつらを捕まえてきたわけ
さ。どうやらこれで全員らしいよ」
「ふ、ふん!そのくらい、分かってたわよ!後ろはマチルダとヤンに任せれば十分でしょ
う!?」
「いや、ぜってー嘘だろ」
 ヤンに背負われたデルフリンガーが冷たい突っ込み。

 村の真ん中には、紐で縛られたり、マチルダの土魔法で身体半分を土の中に埋められた
りしている盗賊達がいた。武具を奪われ、子供達に木でツンツンされながら哀れな姿を晒
している。
 長剣を背負うヤンとマチルダはルイズに先ほどの動きについて解説していた。

 さてと、という声とともに3人が盗賊達を見る。同時に盗賊達から、ひいぃっ!と情け
ない声が上がる。
 ルイズの冷たい目が十数人の動けない男達を見下ろす。
「でと…こいつら、どうしようかしらねぇ?」
 ヤンが頭を捻る。
「う~ん。この村の事を知られたら、困るんだよなぁ…黙ってて欲しい、と言っても無理
だよねぇ」
 マチルダがウィンクした。
「まっかせときな!テファにいつものようにやってもらうさ!」
「ティファニアに?」
 ルイズとヤンが怪訝な声を上げる。マチルダがクイと顎で示した先には、いつのまにや
ら杖を手にしたティファニアがやって来ていた。その口からは既にルーンが漏れている。


 ベルカナ・マン・ラグー・・・


 エルフの少女は盗賊達に向け、手に持つペンシルのように小さく細い杖を振り下ろした。
 陽炎のように空気がそよいだ。
 男達を包む空気が歪む。

「ふぇ・・・・・・?」

 霧が晴れるように、空気の歪みが戻ったとき…、男達は呆けたように、宙を見つめてい
た。
「あれ?俺たち、なにをしてたんだ?」「ここどこ?なんでこんなところにいるんだ?」

 マチルダが杖を振り、男達を拘束から解放する。
 ティファニアは、落ち着き払った声で男達に告げる。
「あなた達は、森に偵察に来て、迷ったのよ」
「そ、そうか」
「隊はあっち。森を抜けると街道に出るから、北に真っ直ぐ行って」
「あ、ありがとうよ…」
 男達はふらふらと、頼りなげな足取りで去って行く。
 呆然として、ルイズとヤンは最後の一人の背中まで見送る。

 二人がティファニアを見ると、彼女は恥ずかしそうな声で言った。
「…彼等の記憶を奪ったの。『森に来た目的』の記憶よ。街道に出る頃には、私達の事も
すっかり忘れてるはずだわ」
 周りの子供達が歓声を上げる。
「相変わらずテファ姉ちゃんの魔法はすげーな!」「ねーたんかっこいー」「なんだい、
あんなへいたいなんか、おれがぶちのめしてやるのにー」


 人の記憶を奪う魔法…
 ルイズとヤンは記憶を探るが、そのような魔法は覚えがない。地水火風いずれの系統に
も当たらないように思える。
 いずれの系統にも当たらない魔法…


 ルイズが、震える声で尋ねる。
「・・・ねぇ、今の魔法って・・・」
 答えたのは、ティファニアではなくデルフリンガーだった。
「虚無だよ、『虚無』」
「虚無?」
 ティファニアはキョトンとして、デルフリンガーを見つめる。
「なんだ、正体も知らねえで使ってたのかい」


 いきなり背中から求めていた答えが出てきたヤンは、絶句した。
 ルイズは、パクパクと口を開けたり閉めたり。
 マチルダは、ふぅ…と溜め息をついた。
「学院で調べて、もしやとは思ってたんだけど…やっぱりだったかい」

 ルイズとヤンは、ティファニアとマチルダの間で視線を高速で往復させる。


「・・・全部の答えが・・・トリステイン、魔法学院に、揃ってた・・・」


 ヤンは始祖ブリミルがどんな人か知らない。
 個人名でなく、部族名とか古代の魔法研究機関名かも、とすら思っている。
 なんであれ、聖地の門を6千年間開けっ放しにする間抜け、というだけでなく、かなり
意地悪で陰湿なヤツだろうとは確信を抱いた。
 運命の糸を思うままに操り、自分の子孫の目前に全ての答えを用意する。その上で、物
陰に隠れた答えを見つけられずに四苦八苦する子孫を見て喜ぶ変質者に違いないだろう、
と。

              第十五話    森の奥には子供達   END



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