幕間「プリンセッセ・ハート」
トリスタニア、王宮の庭園。
アンリエッタ・トリステインは黄昏ていた。
「姫様、どうなされました?」
宰相・マザリーニが声をかけるが、返事はあんまりなものであった。
「夕焼けを見ていただけですよ、鳥の骸骨」
「マザリーニです」
「あの方を認めなかった輩を、私が本名で呼ぶとお思いで?」
「……」
マザリーニを黙らせ、アンリエッタは物思いにふけた。
(オールド・オスマンに聞いたところによると、今度はロマリアに行ったそうですが……)
「あの時、皆の反対を押し切ってリッシュモンを処刑した方が良かったかも」
たまたまその場に居合わせたリッシュモンが凍り付いていたが、アンリエッタは気付かなかった。
「国外放逐の期間はとうに過ぎたのに……。母上も心配しているんですよ……」
アンリエッタ・トリステインは黄昏ていた。
「姫様、どうなされました?」
宰相・マザリーニが声をかけるが、返事はあんまりなものであった。
「夕焼けを見ていただけですよ、鳥の骸骨」
「マザリーニです」
「あの方を認めなかった輩を、私が本名で呼ぶとお思いで?」
「……」
マザリーニを黙らせ、アンリエッタは物思いにふけた。
(オールド・オスマンに聞いたところによると、今度はロマリアに行ったそうですが……)
「あの時、皆の反対を押し切ってリッシュモンを処刑した方が良かったかも」
たまたまその場に居合わせたリッシュモンが凍り付いていたが、アンリエッタは気付かなかった。
「国外放逐の期間はとうに過ぎたのに……。母上も心配しているんですよ……」
ニューカッスル城。
ウェールズ・テューダーは思い出を偲んで酔いつぶれていた。
酔いつぶれずにはいられなかった。
「何が国のためだ、暗君の分際で!」
昔の頃の楽しい日々に、三人の従兄妹たちとの思い出に浸るたびに彼は浴びるほど酒を飲んだ。
「何故そんなに他人行儀だと? 僕のティファニアを奪っておいてよくもそんなことをぬけぬけと……!!」
かつて、実の父に向けて言い放った罵声を口から吐き出すウェールズを見て、見かねた従者が止めた。
「殿下、飲み過ぎでは?」
従者に諌められ、ようやく我に帰ったウェールズはバツの悪そうな顔をした。
「すまない……。あの男の、あの時の薄ら笑いまで思い出してしまってな」
「……あの件に関しては、陛下は心の底から後悔しております。そろそろお許しになられたほうが……」
「……何を今更」
水を飲んで酔いを醒まそうとしながら、ウェールズは呟いた。
「あの時いてくれたら、ティファニアだけでなく、叔父さんと叔母さんも死なずにすんだのに……」
ウェールズ・テューダーは思い出を偲んで酔いつぶれていた。
酔いつぶれずにはいられなかった。
「何が国のためだ、暗君の分際で!」
昔の頃の楽しい日々に、三人の従兄妹たちとの思い出に浸るたびに彼は浴びるほど酒を飲んだ。
「何故そんなに他人行儀だと? 僕のティファニアを奪っておいてよくもそんなことをぬけぬけと……!!」
かつて、実の父に向けて言い放った罵声を口から吐き出すウェールズを見て、見かねた従者が止めた。
「殿下、飲み過ぎでは?」
従者に諌められ、ようやく我に帰ったウェールズはバツの悪そうな顔をした。
「すまない……。あの男の、あの時の薄ら笑いまで思い出してしまってな」
「……あの件に関しては、陛下は心の底から後悔しております。そろそろお許しになられたほうが……」
「……何を今更」
水を飲んで酔いを醒まそうとしながら、ウェールズは呟いた。
「あの時いてくれたら、ティファニアだけでなく、叔父さんと叔母さんも死なずにすんだのに……」
ウエストウッド村。
ウェールズに死んだと思われていたティファニアは、人里離れたこの村で生きていた。
「みんな、元気かな……?」
数年前にこの村に来てからというもの、外の情報は全くといっていいほど入らず、従兄妹たちのことをいつも考えていた。
「ウェールズ……、会いたいよぉ……」
ウェールズに死んだと思われていたティファニアは、人里離れたこの村で生きていた。
「みんな、元気かな……?」
数年前にこの村に来てからというもの、外の情報は全くといっていいほど入らず、従兄妹たちのことをいつも考えていた。
「ウェールズ……、会いたいよぉ……」
ロマリア連合皇国。
教皇、聖エイジス三二世こと、ヴィットーリオ・セレヴァレは自分の使い魔の報告を聞いていた。
「サイト、あの方の動向は分かりましたか?」
「今、ちょうどこの国を目指してるよ」
「そうですか。では、到着しだいここに御案内するよう、各聖堂騎士隊に通達するように……」
自分の使い魔の方を向き、エイジスは続けた。
「プリンス・オブ・ジローをね」
「教皇、何か企んでるでしょ?」
「分かります?」
「すごく。つーか聖職者なんだから、そういうのは控えるべきだよ」
「たまには汚い手を使った方がいいんですよ。偉い人というのは」
教皇、聖エイジス三二世こと、ヴィットーリオ・セレヴァレは自分の使い魔の報告を聞いていた。
「サイト、あの方の動向は分かりましたか?」
「今、ちょうどこの国を目指してるよ」
「そうですか。では、到着しだいここに御案内するよう、各聖堂騎士隊に通達するように……」
自分の使い魔の方を向き、エイジスは続けた。
「プリンス・オブ・ジローをね」
「教皇、何か企んでるでしょ?」
「分かります?」
「すごく。つーか聖職者なんだから、そういうのは控えるべきだよ」
「たまには汚い手を使った方がいいんですよ。偉い人というのは」
ガリアのとある街道。
この世界には存在しない筈の乗り物、サイドカーに載った白いヘルメットの青年がロマリア目指して走っていた。
「何とか気付かれない様に入ることが出来たが……。気付かれない内にロマリア側の国境を突破しないと」
以前この国でちょっとしたトラブルを起こした青年は、なるべく早くガリアを縦断することに決めた。
(ティファニア、ウェールズ、アンリエッタ……)
ジローはサイドマシーンに乗って走る。
行き先は遥か南方の、ロマリア連合皇国。
この世界には存在しない筈の乗り物、サイドカーに載った白いヘルメットの青年がロマリア目指して走っていた。
「何とか気付かれない様に入ることが出来たが……。気付かれない内にロマリア側の国境を突破しないと」
以前この国でちょっとしたトラブルを起こした青年は、なるべく早くガリアを縦断することに決めた。
(ティファニア、ウェールズ、アンリエッタ……)
ジローはサイドマシーンに乗って走る。
行き先は遥か南方の、ロマリア連合皇国。