あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

いぬかみっな使い魔-15


いぬかみっな使い魔 第15話(実質14話)

 シャルロット王女とキュルケが退出し後の、わずかな休憩時間。
啓太は先ほどより気づいていたルイズの異常を、やっと確かめる余裕を見だした。
「ルイズ、ルイズ。どうしたんだ!?」
明らかに公爵ら大人達とは違う様子で蒼白になっているルイズである。

「ワルド様は…ワルド子爵様は、ヴァリエール領の隣に領地があるの。
小さい頃はよく遊びに来てくださって、良く私と遊んでくれたり、
叱られてた私をかばってくれたり、泣いてるのを慰めてくれたりしたわ。
私、また小さかったから恋かどうかはわからない。
でも、少なくともすごく憧れていたわ! でも、10年前ランスの戦いで
お父様をを亡くされたワルド様は全然来てくれなくなって。
私、ワルド様の婚約者だったのに。なのに! 何があったの、ワルド様!」

 啓太に抱きついて泣き濡れるルイズ。ヴァリエール公爵やアンリエッタが、
心配そうに近寄ってくる。
啓太は、優しくルイズの背中をぽんぽんと叩くと、頭を撫ぜてやった。
「悲しいなら思いっきり泣け、ルイズ。ここは泣いてもいいところだ。」
ルイズの肩が、一瞬ビクリと震え、一層泣き声が大きくなる。
啓太は、静かに語り続ける。

「それとな、まだ、絶望するのは早い。ワルド子爵は側近に操られてるだけ。
単なる偶然。そんな可能性もある。もし、本当に裏切っていたとしても。
逆にこっちに取り込めばいいんだ。寝返らせる事が出来たんなら
逆にもう一度寝返らせることも出来る。そうすれば、敵に欺瞞情報を流し、
敵の情報を引き出すまたとない情報源となってくれる。あるいは、当面裏切りを
表立ってしないように状況を整えて、レコンキスタを叩き潰して
裏切りそのものに意味がなくなるようにするって手もある。」

アンリエッタ姫とヴァリエール公爵だけでなく、全員が啓太の周りで
啓太の言葉に聞き入っていた。啓太は、アンリエッタと大后に向けて言った。

「強い王とは。より多くの者達から支持され、より多くの臣下の力を
借りることの出来る王を指します。それは、忠誠による支持でなくとも
まったくかまいません。単に褒美をくれるから、今逆らうと得で無いから。
裏で裏切っているが今表立って裏切るとまずいから。そんな“裏切り者”でも、
『強い王の力』であることに変わりはありません。ワルド子爵への処分。
こちらに取り込む、もしくは先にレコンキスタを叩き潰す。
その方向で検討いただきたい。それ以外の裏切り者に対しても試みますよう。
重臣が裏切っていたとなれば臣下の動揺も大きゅうございます。
下手を打ては、『あの方が裏切ったのならば俺も』と追従者が出かねません。
少なくとも、脱税その他の当たり障りのない理由での領地没収等、
影響の少ない対応をご検討くださいますよう。敵をも味方にするが王の道です。」

それは、ルイズの婚約者をその地位もそのままに助ける。
少なくとも、命をとられることは無くす様にとの進言で。
ルイズの慟哭が、一気に軽くなっていく。
同時にそれは、王の心得として、統治と戦略の基本にして究極を説く言葉で。
その部屋に居た者たちは、深く感じ入ったのである。

(「映画の台詞そのマンマなんだが、随分感動されたな。やりぃ!」)
啓太の飼っている猫は、そんな内心はまったく伺えない大猫なのであった。

「落ち着いた? ルイズ。」
「姫様…」
ルイズは、動揺のせいか、人前なのに子供の頃と同じ呼び方をした。
しかし、誰もそれを咎めない。
「大丈夫。いきなり処刑したりしないわ。私、王の道を選択してみます。
例え裏で裏切っていたとしても、とりあえず今役に立つならそれでいいわ。
清濁併せ持つ覚悟がなければ、王族なんてやっていけないものね。」
「姫様! ありがとうございます!」

マザリーニの目が、驚愕に細められた。
アンリエッタを婚姻外交の駒にしか使えないその程度の小娘と見ていたのに、
今日の落ち着いた堂々たる態度と明晰な頭脳はどうだろう。
男子3日あわざれば活目して見よ、というが、たった一晩で変わった。
自分は今日、権力の大きな部分を失った。だがそれはめでたいことなのだ。
真の王が、その眠りから覚めようとしている今、権力を返す時が。
権力を返し重荷から開放される時が来たのだ。思えば長かった。
ほんの数年でげっそりとやつれ、老け込んでしまうほどに。

そんな感慨にふけっているマザリーニの横で、話は妙な方向に曲がっていた。

「それにしてもルイズ、あなた、ケータ殿に随分甘えているのね。
まるでカトレアお姉さまに甘えてる時みたいよ。」
「お姉さまに?」
「ええ、お姉さまに。ケータ殿は男だからお兄様かしら?」
「お兄様?」
ルイズは、啓太を見た。そして、色々考えた。
ほっぺむにむにの刑はカトレアというよりエレオノールである。
しかし、それ以外の、ルイズを理解し、かばい、甘えさせてくれるとことは
カトレアと良く似ている。そうか、それで私はお姉さまを取られると思って
あんなにともはねやキュルケやタバサやに敵愾心を燃やしたのか。
あれ、でも、お兄ちゃんみたいに、だとするとキュルケとHする事まで嫌に
思うことなんてない。じゃあ違うの? ううん、ここはカトレアお姉さまが
男とぐっちょんぐっちょんしている(←ルイズの知識では細部不明)としたら?
なぜかその相手を黒髪黒目の巨乳好き平民と置き換えて想像する。
結果、見た瞬間その犬は死刑決定、と出た。

うん、お姉さまに手を出す奴を嫌と思うのは、いたって普通である。
そのはずである。
だから、お兄様に手を出すキュルケやタバサに怒っても普通なのだ。
そのはずである。

「それよっ!!!!」

突然黙り込んでしまったルイズは、ややあって、
ナニかに開眼したかのように大声出して叫んだ。
周りはびくりとする。
「ケータ! 今から、私のお兄様! 決めた! お兄様!」
ルイズは啓太の胸に抱きついた。迷いの一片も無く、抱きついた。
「だめ~~~!!!!!!」
ともはねが突進してきて、啓太の背中に張り付く。
「啓太様は、私のものなんです!! 渡しません!」
「なによ、使い魔風情がえらそうに!! わたしのお兄様なのよ!」
「啓太様は私のです!」
「私のお兄様! ねえケータ、いいでしょう!?」
啓太を挟んで、突然勃発した喧嘩に、皆目を白黒させている。

この後しばらく二人の喧嘩は続くのであるが、本編には関係ないのであった。
さらに、ルイズのお兄様なる存在は、捻じ曲がって烈風カリンなる女性に
「ヴァリエール公爵には隠し子がいた。最近王城でルイズと会わせたそうだ。
ルイズはお兄様と呼んで一発でなついたそうである。」
という噂になって届き、公爵が酷い目にあうのであるが、
これもまた本編とは関係ないのであった。

その後ルイズは王女付き女官、啓太は王女付き家庭教師として、
男爵位を得るのであるが、一部人間から激しく不安がられたという。

 4月28日昼前。重臣達にふれが出された。
大后はアンリエッタが軍事へ興味を持ったのはいい事だと喜び、トリスティンの
(ほぼ)全艦隊をラ・ロシェールに集めて軍事演習を行うよう命じた。
そして、その場にはアンリエッタを赴かせ、勉強させるようにと命じたのだ。
ほとんど政治に口を出してこない「本来なら女王様」の発言だ。
レコンキスタへの示威行動、攻め込まれた場合を想定した訓練、錬度の強化。
いくつもの目的を持ったこの計画はあっさり納得された。
ラ・ロシェールには竜騎士が直行し、演習の準備を命じた。
夕刻には「即応訓練を兼ねる」とのことで大車輪で動員された戦列艦が
近くの軍港から王城にやってきて錨舶、アンリエッタは船上の人となった。
アンリエッタの乗るお召し艦の後ろに、枢機卿旗をかかげた艦がついていく。
 枢機卿は、多数の司祭、さらには司教まで同行していた。
薬草クラブ員は、「兵士並の待遇でよければ付いて来てもよし!」
という許可を得て、大半が同行した。その艦には、奇妙な荷物が沢山積まれた。
さらに薬草クラブが献上した秘薬のうち、かなりもまた積まれたのである。

 ラ・ロシェールにもともといた艦隊は、演習のために大量の風石を積み込んだ。
演習のために必要といって、出航直前の民間船からすら風石を調達する。
火薬や硫黄、油、砲弾も積み込むと、あわただしく出航して空の彼方に消えた。
公式発表は明日のアンリエッタ姫の行幸と閲兵前の訓練である。
しかしそれにしては積み込んだ風石の量が多く、不自然だ。

港には、噂が“ばら撒かれ”ていた。
ロマリアやゲルマニア、ガリアがアルビオン王家救援艦隊を発進させ、
その補給のためにトリスティン艦隊が大量の物資を集めた。それどころか、
艦隊の一つはすでにアルビオン間近に迫っている、との噂まで“流され”たのである。
同時に、鳩や鷹を飼っているもののリストが密かに作られていた。
伝書鳩や使い魔を放った者達の発見に密かに全力が傾けられ、
これもリストが作られていった。アルビオンやガリア、ゲルマニア。
各地へ向けて、頻繁に鳥が飛んでいったのを、注意深く観察されたのだ。

その鳥の中で、アルビオンに向かった1羽は、巷に流れる噂と、
トリスティン艦隊の怪しげな動きを報告するものであった。

 残った軍人達は土のラインメイジを動員して近くの丘に溶鉱炉を作り、
火のメイジと風のメイジを動員して炉を熱し砲弾を作る。
予備の帆布やペンキ、材木、粘土、食料や水も準備する。
レコンキスタがアルビオン王家を盛大に押している、高値でレコンキスタが
物資を買いあさっているという噂もあって、港には軍需物資をアルビオンに
売り込もうという商人が殺到しており、高値がついていたものの
調達はどうにでもなった。港に備蓄してあった風石はすべて軍が演習に
必要だからと押さえている。新たに入荷する風石も、軍以外への割り当ては
少ない。そんなこんなでアルビオンに向かう商船はほとんど船止め状態である。

 夜中にはアンリエッタ姫のお召し艦が到着し、安全確保や演習のため、
港の発着は軍艦が最優先となるというお触れが出された。
アルビオン向けだけでなく商船の出航が事実上全面禁止状態である。
どうしても出航したい場合は荷物と重要度、輸送期限や目的地などを書いた
申請書を出すようにと触れが出される。
当然、出航の近いほとんどの民間船の船長達が申請書を提出した。

4月29日。ラ・ロシェール港の桟橋では頻繁に一斉発進一斉接岸訓練が、
周辺空域では操艦訓練が行われ、無人地域の上空で砲撃訓練も行われる。
そのほとんどをアンリエッタは視察し、いくつかの新式の戦法と訓練を提案する。
提督や艦長達のアンリエッタを見る目は1日で変わった。
『メイジとしては有能だがかわいいだけのお姫様』から、荒削りながらも
戦術眼と新しい発想を持った指揮官として見る様になったのだ。
実際に考案したのは啓太だが、アンリエッタが命ずることに意味がある。
 学院生たちは、臨時見習いとして演習に参加した。王女のお召し艦とはいえ
平民の水兵や砲兵と同じ作業をする。愚痴は言ってもそれ以上の不満は抱かない。
そんな彼らを、水兵たちは気味の悪いものでも見るような目で眺めては、
腫れ物でも触るように操船や砲撃法を教えた。
彼らは、空いた時間を使ってせっせと啓太が命じたものを作っていた。
同時に、啓太の秘書として、部屋に缶詰になって膨大な書類をせっせと書き、
難しい数字を前に唸りながら何やら計算しているている一団も居た。

 旗艦メルカトール号上で、アンリエッタは枢機卿に問うた。
「アルビオンに送られる硫黄は完全にストップしましたね?」
「はい。しかし、時間をかけては全てが遅くなります。」
「物資の積み込みは充分。頃合、ですわね。」
ルイズ(+マロちん)はアンリエッタの女官、啓太は家庭教師。その使い魔ともはね。
彼らがアンリエッタ姫の後ろに控えている光景は当然のものとなっっていた。

 その頃、レコンキスタの本陣は、大騒ぎになっていた。
昨夜アルビオン陣営にて王からあった布告内容が夜のうちに内通者から
もたらされたのだ。いわく、連合艦隊が救援に急行中、すでに一つが
アルビオンに密かに上陸、作戦開始を待って雌伏中。さらにいくつかが
今日にも接近の可能性あり。ラ・ロシェールからはトリスティン艦隊の
怪しい行動、補給物資を運んでくれるはずの商船の事実上の出航禁止の報が。
抗議を行おうにも正式な国交が無いため使者もまともに送れない。

この日、保有全艦隊の集結を持って艦隊決戦を挑み、制空権を完全に握った後、
陸戦にて決定的な勝利をもぎ取ろう、という予定だったというのに、
それを待っていたかのようなタイミングでの救援情報である。
レコンキスタは、救援艦隊迎撃のために艦隊を分散せざるを得なくなった。

しかも、聞き捨てならぬ演説内容があったという。その内容は真か?
と、内通者達から詰問状とも取れる書状が届いたのだ。
その王の演説の内容の一部とは。

「レコンキスタ司令官クロムウェルは、虚無の魔法を習得していると
うそぶいているが、それは真っ赤な偽り。アンドバリの指輪なる伝説級の水の
マジックアイテムで、死体をガーゴイルやスキルニルのように操っているのだ!
さらに、水の力は心をも操る。これまで離反が多かったのも、
邪悪なるクロムウェルが指輪の力で心を操作していたのだ!
その証拠の一つに、邪悪なモンスターをも操って戦力としている!
始祖ブリミルを冒涜するクロムウェルとレコンキスタには絶対に負けられぬ。
皆のもの、これは偉大なる始祖ブリミルの教えを守る聖戦である!
 法王聖下もまたこれを許さぬだろう! 操られた哀れな味方を救え!」

例え幹部とて、とても、知らせられる内容ではない。
これらの内容は伏せられ、しかしほぼ同じ内容の噂が傭兵達の間に広まっていた。
 「おい、聞いたか?」「なんだ?」「ほら、あの噂。」「ああ、あれか。」
 「クロムウェル様はアンドバリの指輪だったか? それで虚無を装ってると。」
 「アンドバリの指輪は死者に偽りの命を与え、心を操る魔力があるそうだ。」
 「強力な先住魔法で作られたものだってよ。」「先住魔法!?」
 「先住魔法だからディティクトマジックにも反応しないそうだ。」
 「だからモンスターを傭兵として雇ったり宿将を裏切らせたり出来たのか!?」
 「死体をガーゴイルやスキルニルのように操られるのか。」
 「おぞましい。一見生き返らせたように見えるが実は死体のままか。」
 「そ、そういや俺、確かに死んだと思ったのに生きてた奴を知ってる。」
 「それはエジンベア卿か?」「死後も死体を操られるなんておかわいそうに。」
 「あの方に触った奴の話じゃ、体が氷のように冷たかったって。」
 「なんでもエルフと取引をして手に入れたってよ。」「なんだって!?」
 「ラグドリアン湖の水の精霊から奪ったとも聞く。」「あ、俺そこの出身。」
 「ほんとか!?」「ああ、湖の水が増えて畑が沈んで傭兵になったんだ。」
 「じゃあ水の精霊を怒らせたせいでお前の畑は沈められたのか!?」
 「手紙で知ったが今じゃ村ごと水に飲まれたそうだ。」「ひでえ!」
 伝説の顕現、始祖の虚無であれば、それは素晴らしいものだ。
強力なカリスマになる。だが、それが敵対するエルフ達の使う先住魔法。
ただのマジックアイテムを使っているだけの普通の男だったら?
それは、レコンキスタの理念に対する裏切りでありおぞましいものだ。
噂話には実体が無く、一度広まってしまえば払拭することは困難だ。
まだその噂が底辺の傭兵達一部にしか流れていないので影響も少なく、
レコンキスタ上層部も噂に気づいてはいない。
しかし全ては時間の問題だった。
そう。レコンキスタ瓦解への、秒読みが始まったのだ。

 4月30日の早朝。
ラ・ロシェールに停泊していた民間船のうち、火薬や硫黄、武器をアルビオンに
運ぼうとしてした船が、ことごとく異端審問容疑で押収された。
船長や船員達、商人達は拘束され、司祭たちの尋問を受けた。
「アルビオンの港は全て、始祖ブリミルによって授けられた王権を
滅ぼさんとするレコンキスタに押さえられている。つまりは、始祖ブリミルの
意思を無視し、ないがしろにするレコンキスタに軍需物資を届けるということ。
これは始祖ブリミルの意思に反するレコンキスタに味方する異端行為である。
汝らは異端か? 違うだと? ならばなぜわかっていながら運ぶ?
ニューカッスル近くのキーサイド港はまだ王軍が押さえている、だと?
レコンキスタ軍が封鎖してラ・ロシェールからの荷物は届けられない。
実際お前達の目的地は全てランスやロサイス、ダータルネスとなっている。」

 船長達も船員達も、真っ青になった。ロマリアの法王が何もいって来ないので
安心していたが、枢機卿自らが来ている。名目は充分、権力も充分、身分も充分。
このままでは全員火あぶりだ。彼らは、必死になって弁解し、情けを乞い、
荷物と船の没収と当面のただ働きという極めて軽い妥協案に飛びついた。
働きがよければ少ないが給料も出すし、船の返還もありうる、といわれたのだ。
「異端に物を売って稼いだ分は罰金として徴収する。」
商人たちも、商品を無料で差し出し、さらに膨大な額の罰則金
もしくは物資を供出することに同意した。
こうしてトリスティンは、膨大な物資と戦費を手に入れたのである。

 その頃、トリスティンの主力艦隊は、すでにラ・ロシェールを離れて
アルビオンに向かっていた。月の重なるスヴェルの月夜の翌朝ではないが、
月に何度かアルビオンが近づく日の一つだ。問題は無い。
風石は港中からかき集め、充分積んでいる。残る風石は港に蓄積し、
後送船団用に残してある。しかも、風メイジを総動員して消耗を抑えていた。
同時に、いくつもの訓練を繰り返す。だが、水兵たちはまだ、
これが先日から続く訓練の一環だと思っている。それどころか、艦長達の
大半もそうなのだ。アンリエッタの秘密保守指示は徹底しており、
全てを知らせる者はごくわずかだ。みな、ごく断片的な情報しか知らない。
(除く啓太の執務室で缶詰になっている薬草クラブ員)
もちろん、それを指示しているのは啓太なのだが、アンリエッタが命令している。
そのため、全てを知るのは艦隊旗艦メルカトール号艦長フェヴィスや
艦隊指令ラ・ラメー伯爵、マンティコア隊隊長ド・ゼッサール程度だ。
腹心の部下にも口外禁止を言いつけている。
つまり、艦隊内で全てを知るのはアンリエッタを初めとして数人しか居ない。
王都ですらほんの数人で、腹心や伴侶であっても口外を禁じてあった。

「ド・ゼッサール殿。」
「おお、ケータ殿。男爵の紋章、つけないのですかな? 
その白銀のマントには良く似合いましょうに。」
「はは、これは強力なマジックアイテムで、針も通しません。ですから
無理なのですよ。先日ルイズと一緒に受けたばかりで準備も間に合いませんしね。
それよりも、マザリーニ枢機卿が竜騎士に乗って到着しましたら、
代わりにルイズをラ・ロシェールに送る手はずをお願いします。」
「ふむ。公爵にはアルビオンに連れて行かない、との約束でしたな。」
「ええ。では、私は先行します。後をよろしく。」

 ド・ゼッサールに挨拶すると、啓太は後ろに控えていたともはねに向き直る。
「いくぞ、ともはね。」
ともはねは、片手に持ったリュック以外は1枚のシーツだけといういでたちだ。
「はい、啓太様!」
ともはねがシーツを取り去ると、ほんの一瞬だけ白い裸身が露になり、
次の瞬間その身が巨大な犬へと変貌した。全長2メートルを超える巨体。
灰色の毛並みは尻尾に向かうにつれて色が白くなり、尻尾は純白だ。
犬形態のともはねは、飛び乗った啓太を乗せ、矢のように天を駆ける。
一昨日、啓太達はアルビオンとラ・ロシェールを往復して
ある程度土地感を得ていた。アルビオンのとある地点に上陸し、
あらかじめ送り込んでいた連中と連絡を取り合う。
「どうだ、偽装工作は?」
「6箇所で怪しい竜騎士を目撃させました。物資の収集やらなんやらも。」
「報告書は後で。ですが、敵は40騎以上の竜騎士が密かに活動中と思うはず。」
「さらに、艦隊の目撃証言もでっち上げてきました。」
「指示されたルート総計18箇所です。充分でしょう?」
全てはうまく行っていた。竜騎士隊を先導して戻る。
今度はゆっくりだ。当然レコンキスタの竜騎士隊には見つかりやすくなる。
「来たな。おい、アレは俺たちが片付けるからお前達はこのまま戻れ!
ただし一人だけ残って落ちてくる奴らを回収してくれ!」
そういうと、啓太の乗ったともはねは、上空に見える6騎の竜騎士をめがけて
矢のように急上昇した。

 「なに!?」「馬鹿な!」「こ、こんな速度で上昇できる幻獣なんて!」
 「ありえない!」「ディティクトマジックで見たが風の力を感じる!」
 「乗ってるメイジが魔法でサポートしてるのか!」「手ごわいぞ!」

 彼らの予想は、半分当たって半分間違いだった。風の結界を張って
風圧を抑えているのは確かだが、それはともはね自身なのだ。
ともはねの基礎霊力は、現在550ほどである。光の犬神達の中でもっとも
基礎霊力の低いいぐさの120と比べて、実に4.5倍に達する。
そして、そのいぐさは仲間達のサポートを受けてとはいえ、3時間に渡り
時速1千キロで空を飛んだ。そのほかの仲間達、つまりは今のともはね程度の
基礎霊力を持つものたちでも、短時間なら時速1000キロは出せる。
空気抵抗は速度の2乗で上昇する。啓太や荷物があるとはいえ、
優に時速700キロは出せるのがともはねの実力だった。
どんな竜騎士でも幻獣でも、ともはねにはかなわない。
すれ違いざま紋章を見て、レコンキスタの竜騎士であることを確かめる。
「よし、問題なし!」
啓太達は敵の後方に取り付く。
「白山名君の名において。戦蛙よ、爆砕せよ!」
異世界だからか、霊力のチャージにわずかなタイムラグがある。
呪文も長くする必要がある。が、それはやり方次第でどうにでもなる。
蛙の消しゴムが、4つの軌跡を描いて迫ると、次々に爆発した。
竜騎士たちが竜の背から放り出され、あるいは傷つき、隊列を乱す。
致命傷ではない。それでいいのだ。デルフリンガーですれ違いざま
竜騎士の一人を殴り飛ばす。気絶した同僚を救おうと2騎が降下する。
その隙に隊列を離れていた2人を次々に叩き落す。取って返して杖を切り裂く。
竜達も数発ぶん殴るとおびえ始めた。さらに2人を叩き落し、降伏を勧告する。

 あまりの強さに、彼らはあっさり降伏した。指示に従い、杖を差し出し、
1頭の竜にまとめて乗る。1騎だけ無傷な隊長と思しき男に、
空の竜達を率いて先行するよう指示する。
かくして、トリスティンはこの日新たな竜を6頭手に入れた。
さらに、上官が裏切ったのと粛清されたくないのとで仕方なく従っていた
竜騎士4名を懐柔した。建前はあっても“力こそ正義”という世界で、
あまりにも圧倒的な啓太に感服したことや、アンリエッタやマザリーニ枢機卿が
直接諭したことも効果的だった。この4騎は、書類上啓太の部下となった。


新着情報

取得中です。