あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-07


「ひっ…」

目を覚ましての第一声は、悲鳴のような声だった。

「おお、気がついたかね、ミス・ロングビル」
「え?あの…えっ…と?」

ロングビルの目に映るのは天井と、自分を見下ろすオールド・オスマンの姿。
体を起こしてあたりを見渡してみると、ここは学院長室、自分はいつのまにかソファに寝かされていたようだ。
よく見るとオールド・オスマンの後ろには、水系統を担当している教師の姿もあった。
60代後半と思わしきその教師は、つるつるの頭をてからせつつロングビルに近づき、こほんと咳払いをした。
「ミス・ロングビル。気を失っただけで体に別状はないと思いますが…どこか変わったことはありませんか?」
「は、はい。特にありませんわ」
「そうですか…では、オールド・オスマン。私はこれで」
「うむ、ご苦労じゃった」
水系統の教師は、オスマンに一礼すると学院長室を出て行った。
ロングビルがそれを見送った後、窓の外を見る、すると月がかなり高い位置に見えた、おそらくもう日付の変わる時間だろう。

「さて、ミス・ロングビル。人修羅君にディティクト・マジックを使ったそうじゃな」
「え、ええ…」
「……どこまで見えたかね? 思い出したくなければ無理に言わなくてもかまわんが」
ロングビルはあごに手を当てて、思い出すような仕草をすると、小声で呟いた。
「沢山の瞳が、何かが私を見ていましたわ。それぐらいしか分かりません」
「ほう」
オールド・オスマンは驚いたのか、口を開けて少しのけぞった。
「君は自分をラインだと言っておったが、トライアングル並には能力がありそうじゃな」
どきっ、とロングビルの心臓が鳴った。
「まあトライアングルのメイジでも、まぐれでトライアングルスペルが使えたような者もおる。鍛錬を重ねるに超したことは無いのぉ」
「はあ」

オールド・オスマンはほっほっほと笑うと、うむっ、と呟いて背筋をただした。
「ミス・ロングビル。人修羅君から見えたものを、誰にも話してはならんぞ」
「はい。……仮に話したとしても、あんな、いえ、あの…何と言うべきでしょうか、あれほど圧倒的な力を説明しても、一笑に付されるのが落ちでしょうね」
自然と、ロングビルの額には冷や汗が浮かんでいた。
「そうじゃろうなあ。まあ良いわ、ここまで運んでくれたのは人修羅君とミス・ヴァリエールじゃ。後で一言礼を言っておくがよかろ。今日はもう時間も遅いからの…早く休みなさい」
「はい。お言葉に甘えさせていただきます」
ロングビルはソファから降りると、恭しくオールド・オスマンに礼をしつつ、足下のネズミをつま先でぐりぐりと押さえつけた。
「おおぅ…も、もうちょっと優しくしてやってくれ」
「…ったく油断も隙もない」


数時間前、気絶したロングビルを、オールド・オスマンのところに運んだ人修羅は、すでに眠っているルイズを部屋に残し、デルフリンガーと共に魔法学院の外に居た。
人修羅は眠る必要がない、確かに睡眠をとることで精神を休めたり、傷ついた肉体を急激に回復させることができるが、彼はあくまで人間として眠るという習慣を守り、この世界の日常に体を合わせようとしていた。

そんな人修羅でも、今日は試したいことがあるので、夜更かしをする。

「なあ、デルフリンガー。おまえ俺のことどれぐらい分かる?」
林の中で、右手に持ったデルフリンガーに話しかける。

『結晶だな、圧縮され尽くした結晶って言やぁいいのかなあ、濃いとかそんなレベルじゃねえんだ』
「そうか……何か別の存在が、俺の中にいるとか、俺の周囲にいるとか、そんなのは感じないか?」
『うーん。悪ぃけどそこまでは分からねぇなあ』

人修羅は少し残念そうな顔をしたが、すぐに気を取り直した。
「…まあ仕方ないな。なあデルフリンガー。この世界じゃサモン・サーヴァントって魔法で使い魔を呼び出すんだよな。しかも一人一体が原則で」
『サモン・サーヴァントって魔法で呼び出されたなら、そうなる』
「俺さ、この世界にくる前は、いろんな仲魔を沢山呼び出すことができたんだ。けどこの世界じゃ、それができない」
『へえ、おでれーたな。そんな世界があるのか』
「信じるのか?」
『まあな、”使い手”の考えてることなら少しは分かる』
「使い手か…それって、剣の使い手、デルフリンガーのって意味なのかな」
『それだけじゃねえよ、俺はガンダールヴの左手さ。使い手は本当に”使い手”なんだ』

そういえば、と呟いて、武器屋で弓矢を手に取ったときのことを思い出した。
あの時確かに何か別の力が感じられた。
「…じゃあ、弓矢を持ったときに体が軽くなる気がしたのも、使い手というか、ガンダールヴの力なのかな」

オスマン先生とコルベール先生によれば、ガンダールヴはあらゆる武器をを使いこなしたと言われている。
人修羅は五体と技を武器にして戦ってきた、元々武器を扱うのは苦手だったし、武器などいくら持っていても人修羅の力に負けてすぐに粉々になってしまう。
石に魔法を封じ込めた、マジックアイテムのようなものはあったが、デルフリンガーのような武器を使ったことは無かった。
「…俺は武器なんて詳しくない。ってことは、このルーンが俺に武器の使い方を教えてくれるんだろうと思う。ならルイズさんは虚無の系統じゃないのか?」
『わかんね。なにせ俺が活躍してたのって六千年前だからなぁ』
「ルイズさんが魔法を使えるように協力したいんだ、どうにか思い出せない?何か手がかりとか、六千年も生きてたら一つや二つあるだろ?」
『六千年も生きてたら三つや六つ忘れちまうなあ』
「そういわれるとぐうの音も出ない」

ふぅとため息をついて、人修羅は適当な樹木に寄りかかった。
木々の隙間から空を見上げると、二つの月が寄り添うように浮かんでいる、光はとても柔らかく、ボルテクス界を照らしていたカグヅチの禍々しい光とは比べものにならないほどココロが落ち着く。

人修羅はデルフリンガーを立てかけると、適当な空間に向かって手をかざした。
「…………」
意識を集中し、なにやらぶつぶつと呪文のようなものを唱え、力を込める。
すると手をかざした空間に、血のように赤い炎のようなものがゆっくりと集まり…そして霧散した。
「だめか」
『何だい今のは』
「仲魔を呼ぼうと思ったんだ。けどだめだった」
『サモン・サーヴァントとは違うんだな』
「自分が召還された瞬間のことはよく分からない。けれど、たぶん違うと思う」

もう一度空を見上げる、相変わらず月は寄り添っているが、どこかそれは寂しげなものに見えた。
「ピクシー…」
そう呟いて、人修羅は拳を握りしめた。



翌日、人修羅はルイズが授業を受けている間、学院長室に呼び出されたが、学院長室に入ったとたん、ミス・ロングビルに謝られてしまった。
「私からお願いしたのに、気を失ってしまって……」
「ちょっ、そんな、謝るのはこっちの方ですよ、威圧感を出したつもりはないんですけど」
「ほっほっほ、仲が良いのう」
オールド・オスマンは、人修羅とロングビルがお互いに頭を下げているのを見て、楽しそうに笑った。

「ところで人修羅君、昨晩、どこへ行っていたのか教えてくれんかね」
オスマンが唐突に切り出す、昨晩といえば人修羅は、近くの林の中で、仲魔を呼ぼうとしていた。
なぜオスマンがそれを知りたがるのか分からないが、嘘をついて誤魔化すのも無意味だと思い、正直に話すことにした。

「…近くの林に行ってました。ちょっと試したいことがありまして」
「ほう?」
オスマンが興味深そうに身を前に乗り出す、机の上に肘をつくと、俗に言うゲンドウポーズで人修羅を見た。
「この世界でも、仲魔が呼べるのか疑問だったんですよ。それで夕べは人目につかないところで、仲魔を呼ぼうとしていたんです」
「ふむ、では改めて聞くが…仲間を呼ぶとは、サモン・サーヴァントとは違うと言っていたが、それを確かめる理由があったのかね?」
「一応は、あります」

人修羅はサモン・サーヴァントで召喚される使い魔と、仲魔の違いについて説明し、意見を交換しあった。
サモン・サーヴァントは、ハルケギニアに生きる生物の前にゲートを作り出し、それを誘う。
呼び出された生き物が使い魔にならず、反旗を翻すと言うことはまずありえない、しかし主の不始末で、使い魔を暴れさせてしまうことはある。
よりによって蛇嫌いのメイジが、サモン・サーヴァントで蛇を呼び出してしまったことがあるらしい、しかしそのメイジは蛇種の研究で並ぶ者のないメイジとなり、凶暴な野生の獣を飼い慣らす術をいくつも考案したらしい。
結果として、使い魔とメイジの出会いは「失敗」があり得ない。

しかし仲魔を呼び出すには対価が必要だ、その仲魔が自分に協力的であること、そして体を構成するマガツヒが必要なだけ存在すること、またそれ以外に対価を支払うことが必要になる。
「この世界の使い魔は、メイジに服従するのが常みたいですが、仲魔はそうでもありません。たとえば召喚者より強い存在を呼び出して、戦って貰うこともできます。その代わり機嫌を損ねると…」
「なるほどのう、『使い魔』と『仲魔』は、似て非なる協力関係にあるのか、しかしマガツヒという考え方はなかなか不思議じゃ…精霊か、それより純粋な生命、魂と呼ぶべきかの」
「そんな感じだと思います」

オスマンがふむ、と呟き、背もたれに体を預けた。

「すまんの。実はな……昨晩モット伯という貴族の別邸に盗賊が押し入ったのじゃ。昨晩は監視を頼んだミス・ロングビルが気絶しておったので、君がどこに行ったのかを確かめねばならんでな」
「盗賊ですか?」
「うむ。土系統の優れたメイジらしい、君を疑うわけではないが、一応昨晩何をしていたのか聞いておかねばならんと思ってな」
「そうですか……」
人修羅がぽりぽりと頭をかく、正直、疑われるというのはあまり良い気持ちがしない。
しかし、これも自分の宿命かなと思い、苦笑いを浮かべた。
「手口から、最近噂される”土くれのフーケ”の仕業らしい。まあ魔法学院にそやつが来ることは無いと思うが……」

ここで言葉を句切ると、オールド・オスマンはちらりとロングビルの方を向いた。
「ミス・ロングビル。授業は無いはずじゃから、コルベール君を呼んでくれたまえ」
「はい」
ロングビルは短く返事をすると、そそくさと学院長室を出て行く。
ぱたん、と扉が閉じられると、オールド・オスマンは水パイプを取り出して机の上に置いた。


「すまんのー、彼女は真面目でのぅ、水パイプを見ると怒るんじゃよ」
「心配してくれてるんじゃないですか」
人修羅がはにかみながら言うと、オスマンはふぉふぉと笑い出した。
「心配されるとな、かえって吸いたくなるのが人情じゃ。さて、それではな、この間君が言っていたことじゃが…」
杖を軽く振ると、オールド・オスマンの机ではなく、部屋の中央に置かれた応接用の机に直径2.5サントほどの小石がいくつも作り出された。
「実力を隠すためにも、マジックアイテムを作りたいと言っておったな。その案は面白そうじゃ。協力させてもらうぞ」

「ありがとうございます。……でも、どうしてそこまで協力してくれるんですか?」
人修羅はオスマンのはからいに感謝していたが、この世界では使い魔にすぎない自分に、どうして便宜を図ってくれるのかが疑問だった。
オールド・オスマンは、長く伸ばした口ひげをなでつつ答えた。

「…率直に言えばな、一つは、命が惜しいからじゃ。
ミス・ヴァリエール達に見せた氷のブレスといい、君が言っていた『仲魔』の存在といい、すべて現実離れしておる。
それにな、ほれこの間は、林の中で地面を切り裂いていたではないか」

林の中で地面を切り裂いていた…と聞いて、人修羅の顔に焦りが浮かんだ。
「ゲッ、あれも見てたんですか?」
「見ておったよ、昨晩のことももちろん知っておる。わざわざ君に質問したのは君の性格を計るためじゃ」

「はあ…凄いなぁ」
どうやって見ていたのか、不思議に思った人修羅だが、そんなことを質問している場合ではないと思い、口をきゅっと結んでオスマンの顔を見た。
「君は正直に答えてくれた、ならば、わしもその誠実さに答えねばならんと思ったんじゃ」
「そうでしたか……その、ありがとうございます」
「何の何の!」

そういってオスマンと人修羅は、笑った。



オスマンは、人修羅という存在に命の危機を感じていた。
だからこそ自分という人格を露わにして人修羅に接し、人修羅の人格を知ろうとした。
人修羅を『遠見の鏡』越しに見たとき、本能的な恐ろしさを感じた。
初日に、ディティクトマジックを用いたとき、暗い闇の底からオスマンを見つめる無数の瞳を見た。

時間がたつにつれて、その視線が何を意図していたのかを、察することができた。
かれらは人修羅を見守っている。

二度目にこっそりとディティクトマジックを使い、人修羅を探った時、周囲にいた彼らは、笑顔の人修羅を見てとても喜んでいるように見えた。

かれらは子供を見守る親のように人修羅を見守り。
親に笑顔を向ける子供のように人修羅を見ていた。

オスマンも、町に出かけた人修羅が、馬の背で困惑しているのを『遠見の鏡』で見た時、微笑ましいとすら思えてしまった。
それは、子供の乗馬を見守る親のような心境だったのかもしれない。

オスマンは、化け物のような力を持ちながら、あどけない笑みを見せる人修羅に、無粋な政治家どもの手が伸びぬようにと、祈っていた。


また数日、ルイズはいつものように授業を受けていた。
去年と同じように、成功しない魔法を成功させるために、人一倍熱心に授業を受けている。

ほとんどのメイジは、使い魔や、魔法の詠唱でその相性が分かると言われている。
キュルケならば火の魔法が、タバサならば風と水の魔法が、シュヴルーズなら土や火の魔法が、詠唱と共に体を流れていくのを感じるそうだ。

だが、ルイズはそれが無い、どの系統のルーンを詠唱しても、ただ詠唱しているだけで、体を通る力やリズムを感じることはなかった。



ちらりと、隣に座る人修羅を見る。
ルイズの系統が『虚無』かもしれないと、オールド・オスマンから言われたのも、人修羅が呼び出されたからだ。

ルイズは授業を受けた後、人修羅から授業内容について質問されることが多かったが、その質問内容は人修羅の非常識さをよく表していた。
人修羅は系統魔法を知らない、そしてハルケギニアの歴史も常識も知らない、しかしそのおかげか、時々鋭い質問が飛び出してくる。
自分がどの系統なのか分からなかったおかげで、人修羅からの多岐にわたる質問に答えられる、そう考えると皮肉だなぁと思った。

「どしたの?」
人修羅がルイズの視線に気づいて、ルイズの顔を見る。
ルイズは「何でもない」と呟いて、教壇へと視線を向けた。


■■■

授業が終わると、長い休憩時間を挟んで夕食の時間がやってくる。
二人は一度部屋に戻ってから、いつものように食堂へと向かった。
「おや、君は確か…人修羅君だったね」

寮塔から食堂へと、歩いて移動していると、この間食堂で香水の瓶を探していた『青銅のギーシュ』が話しかけてきた。
バラの造花を顔の高さに掲げ持ち、話しかけてくるその姿は、ある意味ではシュールだった。

「何よ」
人修羅の代わりルイズが返事をすると、ギーシュは前髪をかき分けて笑みを浮かべた。
「いや、特に用という程じゃないさ、この間のことでちょっとね」
「…この間の事って、香水の瓶のこと?」
「そのことはもういいんだ、モンモランシーも納得してくれたしね。僕はちょっと人修羅君に話したいことがあってね」

「俺に?」
意外そうな顔で聞くと、ギーシュは「そうさ」と呟いた。
「一つ、きみにアドバイスをしておこうと思ってね。何、ただのうわさ話だけど…」
「うわさ話?」
「一部の口の悪いものが、公爵令嬢は亜人をえらく気に入っているとか、そんな噂をしていてね」
「ふぅん。それだけ?」
ルイズが素っ気なく呟くと、ギーシュは「それだけさ」と答えた。

「人修羅、いきましょ」
「…ああ」
話は終わったと言わんばかりに、ルイズが食堂に向けて歩き出す。
人修羅はルイズが10歩ほど離れると、ギーシュに向かって小声で呟いた。
「”気に入ってる”って、どういう意味でだ?使い魔を特別扱いしているって意味なのか?」
「それだけなら良いんだけどね…。もっと下劣なことを考える者もいるのさ」

ふと、ハルケギニアでの平民の扱いや、使い魔の立場が脳裏に浮かんだ。
つまりルイズは、獣姦まがいのことをしているのではないかと、噂されているのだろう。

「……ありがとう。注意するよ」
そういって人修羅がはにかむと、ギーシュは小さく鼻を鳴らした。
「僕は、女性への侮辱は許せないのさ」
先ほどまでキザったらしいと思っていたギーシュの仕草が、似合っていると思えてしまうのだから不思議だ、人修羅はギーシュに感謝した。

「ヒトシュラー!」

離れたところからルイズの声がする、いつの間にかルイズはかなり先に行ってしまったらしい、人修羅はすぐにルイズへと駆け寄った。
「ギーシュったら、何だったのかしら。使い魔と仲良くするのはメイジとして当然の事じゃない」
「ははは。世の中には”喧嘩仲間”って言葉もあるさ」
「何よそれ」
「うーん、喧嘩するほど仲がいいとか、本音をぶつけあう喧嘩はお互いを認め合ってなきゃ出来ないとか…そんな意味だっけな」
「仲がいいのに喧嘩するの?それって……あ」
ルイズの脳裏に、トリステインの薔薇の君、王女アンリエッタの姿が思い浮かぶ。
よく考えてみれば昔とっくみあいの喧嘩をしたこともある、けれども、仲は良かったと思う。
今はもうお互い子供ではない、昔のように仲良く遊べるわけがない。
けれども掛け替えのない思い出として心に残っている。
ルイズは、人修羅の言わんとしていることが理解できたのか、ほほえみを浮かべていた。

それとは対照的に人修羅は、ギーシュの言ったことが本当なら、自分はどうするべきだろうかと真剣に悩んでいた。


■■■

「人修羅さん、どうかしたんですか?」
「ほへ?」

食堂前でルイズと分かれ、厨房で食事をしていた人修羅は、突然シエスタに話しかけられ間抜けな声を上げた。
「いえ、いつもおいしそうに食べていたのに、今日は何か渋い顔をしてらっしゃるので」
「ごめんごめん、ちょっと考え事しててさ」
頭をポリポリとかく仕草で、照れを隠しつつ人修羅が答えると、マルトーが布巾で手についた水を拭き取りつつ近づいてきた。
「なんだ、味付けを間違ったかと思ったぜ。悩み事でもあるのか?」
「まあそんなとこです」
「いきなり召喚されたんだし、まあ、悩みが尽きないのは仕方ねえだろうなあ」
「…まあ召喚される前の環境よりは良いかもしれないんですけど」

人修羅の呟きに驚いたのは、シエスタだった。
「召喚される前って……やっぱり東方って、危険なんですか?」
「ん?いや、東方って言っても、俺の場合ちょっと特殊だからさ」
実際の東方を知らないのに、東方の話をふられるのは困るので、いつものように話を誤魔化した。




「マルトーさん、やっぱりこれ錆が浮きかけてます。交換して貰いましょうよ」
人修羅が食事を終えたところで、料理人の一人がマルトーに声をかけた、大きな鍋を指さして錆がどうとか呟いている。
マルトーは大きな鍋をのぞき込み、内側の様子を確認した。
「ん? ちょっと見せてみろ……これは駄目だな、そうだな、そろそろ交換して貰うか、大きさも物足りなかったところだ」

好奇心を刺激された人修羅は、ひょいと立ち上がって鍋に近づいた、内側はとても汚れたり錆が浮いてるようには見えない。
「…錆?」
「ああ、錆だ。見てみろこの部分、作りが甘かったのか、ほかの部分より少し薄いんだ」
マルトーが指さした部分を見ても、人修羅にはよく分からないので、首をかしげる。
それを見て、料理人の一人が鍋の内側を木製のへらで軽く叩いた。
「こっちと、こっちじゃ音が違うでしょう。この鍋は練金で作られた鍋なんですが、メイジ様の腕が悪かったのか、厚みにも、固定化にもムラがあるんですよ」
「へえ、そっか、魔法にはそんな落とし穴もあるのか」
納得した人修羅が呟くと、マルトーがそうだそうだと言ってうなずいた。

「貴族はよ、魔法が使えるからっていばってやがる、そのくせ美味い料理は俺たち平民任せさ。オールド・オスマンは料理道具にも金をかけてくれるからまだ良い方なんだ。
ある貴族はなあ、穴の開いた粗悪な調理器具を練金で作って、それで美味い料理を作れなんて無茶を言ってきたらしい、まったくふざけた話さ」
「んな無茶な」
人修羅が呟くと、マルトーは人修羅に向き直って、大げさに両手を広げた。
「ああ無茶さ!あいつら、火の玉を作ったり氷を作ったり、果てはドラゴンなんかを乗り回すが、美味い料理は作れねえ。食材を美味い料理に変えるのは俺たちの魔法だ、そう思わねえか?」
「なるほど!そうか、確かにそうかもしれない。マルトーさん凄いなあ」
「がはははは!そうかそう言ってくれるか!おい、せっかくだ、ワインも飲んでいきやがれ!」
「い、いや俺未成年っすから」

もちろんハルケギニアで未成年なんて関係なかった。
後で知った話だが、貴族が嗜好品として飲む高級なワインと、平民が水代わりに飲む生活飲料としてのワイン、その二種類があるらしい。
今回人修羅が飲まされたのがそれなりにお値段の張るワインだと聞いて、後で青ざめたのは余談である。


■■■


「~♪」
鼻歌交じりに鍋を磨く人修羅を見て、コルベールが呟く。
「鍋を風呂にするとは考えますねえ。しかし底が熱くなりすぎるのでは?」
食事を覆えた人修羅は、ルイズに断りを入れてから、大きな鍋を持って中庭に移動していた。
鍋は日本の釜戸で使うような半球状のものではなく、底が平らになっており、深さ60サント、直径2メイル程の大きさがあった。
「すのこって言って、木の板を網目状にしたものを敷くんです。浮かせば蓋になるし、沈めれば熱から足を守れます」
「なるほど。しかし鍋状の風呂を用いるとは…君の世界ではそのような風呂を使うのですか?」
「暖める方法はいろいろありますけど、鉄だと湯船が熱過ぎるんで、石とか木で作った風呂が高級だと思われてますねえ。檜のお風呂って言えば高級品なんです」
「木ですか、ふむ、確かに堅さといい使い勝手といい悪くはなさそうですね」
「ええ、しかも木の香りは、いい香りなんですよ。ココロが落ち着くって言うか…」
「香木を使って風呂を作るのですか!それは凄い」

しきりに感心するコルベールの部屋は、なぜか教師寮の外にあった。
魔法学院は上空から見ると五角形の外壁に囲まれており、それぞれの頂点には塔が建っている、正門から見ると、本塔を挟んで反対側に火の塔がある。
向かって左側にある土の塔とは、ほかと同じように外壁で繋がれており、五角形を形作っている。
また、学生寮を除いたほかの塔は回廊で本塔と接続されているので、それぞれが中庭として使われ例留。
火の塔、土の塔、本塔の三つに囲まれた左奥の中庭、その火の塔よりの場所に、掘っ立て小屋のようなコルベールの研究室があるのだ。

お風呂を作ろうと思って、コルベールを頼った人修羅が見た研究室の中は、がらくたが散乱しており酷い有様だった。
しかし同時に、この先生なら異国の文化に興味を示してくれる、とも思えた。

「ところで先生、ここに鍋を置いてもいいんですか? 邪魔になりません?」
「なぁに、僕は変わり者でね、皆からも煙たがられている。この研究室には誰も寄りつかないんだ。鍋の一つ置いたところでどうってことはないよ」
「そうですか…じゃあお言葉に甘えさせて貰います」
「そうだ、ついでに小屋を作っておこう。なに、大げさなものじゃない、煉瓦を練金すればすぐに作れる」
「そこまでしてくれるんですか!?」
「もちろん! 君はマジックアイテムの開発にも協力してくれるのだからね、これぐらいの事はさせて貰うよ」

ここ数日、人修羅はボルテクス界で使った、魔法を封じ込めたアイテムを再現しようとしていた。
オールド・オスマンとコルベールは、快く協力してくれている。
今のところは、強力な魔法や技を封じ込めることはできず、破壊力はあまり期待できない。
しかし人修羅にとっては、自信の実力を隠すために、マジックアイテム使いであると周囲が思いこんでくれればそれで良かったので、小石に魔法を封じるという考えは、とても有り難かった。

そしてオスマンやコルベールにとっても、人修羅の魔法や技を研究するのに渡りに船であった。

「それじゃあ、明日は水を汲んでお湯を暖めてみますよ。ここで火を使っても大丈夫ですか?」
鍋磨きに使っていたぼろ切れを、鍋の縁にかけつつ、人修羅がコルベールを見る。
「ええ大丈夫ですとも、私は火のメイジですしね。ところで、ミス・ヴァリエールに心配をかけぬよう、はやく戻った方がいいですよ」
「そうですね、それじゃ」

本塔脇を抜けて寮塔へ向かおうとした人修羅が、ちらりと後ろを振り向くと、コルベールは鍋の周囲に何かを練金しているところだった。
「お世話になりっぱなしだなあ、俺」
そう呟いて、何かお礼はできないものか…と思った。


■■■

「ん?」
魔法学院の敷地内で、寮塔へ向かうには、空でも飛ばぬ限りどうしてもアウストリの広場を横切る必要がある。
魔法学院の正門をくぐり最初に足を踏み入れるのが、アウストリの広場である、この広場は、右手に水の塔、左手に寮塔、正面に本塔、左手奥に土の塔、以上四つの塔を頂点とした四角形の広場で、中庭としては一番大きい。
その広場には花壇があり、鳥形の使い魔が留まれる木もがいくつか植えられている。

人間が三人は潜めそうな茂みの陰で、一人の生徒がしゃがんでいるのを見かけた。

「……どうかしたんですか?」
「うわっ…わ、なんだ、ヴァリエールの使い魔か。僕は茂みの裏でしゃがむのが趣味なんだ、決してのぞきじゃない。放っておいてくれ」

頭を抱えるようにしてうずくまっていたので、心配になって声をかけたが、どうやらけがや病気のたぐいではないらしい。
しかし『決してのぞきじゃない』と自白しているあたり、この生徒は何かをのぞき見しているのだろう。

人修羅が周囲を見渡すと、寮塔の近くに女子生徒が何人か集まり、何か話をしているのが見えた。
「そこに立ってたら目立つよ、早く座って!」
人修羅が茂みの裏にしゃがみ、ぽっちゃり型の生徒の脇に座る。
今はルイズから貰った服を着ているので、人修羅の体から光はほとんど漏れていない。
「何かあったんですか」
人修羅がそう質問すると、しゃがみ込んでいる生徒は、寮塔の方角に杖を向けた。
「それをこれから聞くんだよ」
ぶつぶつと何かのルーンを呟くと、離れたところにいる生徒の声が聞こえてきた、どうやらこれも魔法らしい。


『…あの使い魔とずいぶん仲が良いみたいよ』
『亜人でしょう?』
『夜になるとどこかへ出かけて居るんですって』
『東方の蛮人って聞いたわよ』
『ゼロのルイズは、使い魔に後ろから抱きしめられてたわよ』
『ああそれぐらいがお似合いよねえ、ゼロには…』

「噂って……これかよ」
人修羅は目を見開いた。
すると隣にいた小太りの生徒が、小声で安堵したように呟いた。
「よかった…」
「何?」

じろりと人修羅が睨む、するとその生徒はビクッ、と体を震わせた。
「ま、待て、その、悪かった。君はミス・ヴァリエールの使い魔だから怒るのは当然だ。でもそういう意味じゃない。僕のことが噂されて無くて安心したんだ、だからつい…」

突然狼狽え、わたわたと手を振って弁解を始めたので、人修羅も驚いてしまった。
「こ、こっちこそごめん。ところで、君の言ってる、”噂”って何なんだ?」

そこまで言って、ふと先ほどの発言を思い出した。『決してのぞきじゃない』という一言だ。
「もしかして、君、覗きがバレたとか?」
「ち、ちがう!まだ覗いてない!」
「まだ?」
「いや、その、不可抗力で見てしまうことはあるけど意図して覗きをするわけじゃないよ!スカートが風でめくれるぐらい事故じゃないか!」
「そこまで聞いてないよ!落ち着いて、落ち着いて」

人修羅が生徒をなだめる、生徒は大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出し、肩を落とした。
「……とにかく、ミス・ヴァリエールは魔法が使えないのに二年生に進級したことをやっかまれているんだ。去年彼女はずいぶん爆発を繰り返して、恨みを買ってるからね」
「ルイズさん、そんなに爆発させてたの?」
「割ったガラスの数は数知れず、だよ。おかげで水系統のメイジは治癒が上手くなり、土系統のメイジは練金で建物を補修するのが上手くなった。
風系統のメイジはとっさに身を守る障壁を作れるようになったし、火のメイジはルイズを焚きつけるのが上手くなったと言われるぐらいさ」

「この学校にもいじめはあるのか…」
そう言って、人修羅は顔をうつむかせた。
沈む人修羅とは対照的に、この生徒は多少興奮気味に話を続けた。

「まったくヴァリエールには迷惑ばかりかけられていたよ。一度モンモランシーのスカートが綺麗に裂けてそれはもう素晴らし……じゃなくて、大変だった。
ヴァリエールのストッキングが所々破れて見事な模様になったのも危険だった。
ああ、そういえばシャツが破れておっぱいの先端がほんのちょっと覗かせたこともあったなあ、いやあ危ない危ない」

ものすごく鼻の下を伸ばしつつ、ルイズの爆発で被った被害を話す生徒。
その姿に呆れつつも、ほんの少しの親近感を感じた。

「スカート…なるほど、この世界にもチラリズムがあるのか…」
「何だいそれは」
「大事なところ…普段隠されている大切な部分が、何かの弾みでちらりと一瞬だけ顔を覗かせることがある。その一瞬の輝きを『チラリズム』って言うんだ」
「普段隠されているだ大切な部分……」
ごくり、と生徒がのどを鳴らした。
「あれはエッチな絵や写真じゃ絶対に味わえないな、目の当たりにしたその瞬間こそがいいんだ」
「なるほど、よくわかる、よく分かるよ!」

小太り気味の生徒は、人修羅の手をつかむとブンブンと振り回した。
「僕はマリコルヌ・グランドプレ。君は確か人修羅だったよね」
「ああ。……俺名乗った覚えないんだけど」
「ヴァリエールが何度も君のことを呼んでたじゃないか」
「なるほど」
「君とは気が合いそうだ。ところでちょっと聞きたいんだけど」

ずい、とマリコルヌが顔を近づけてくる、人修羅は思わず後ずさった。
「あ、ああ。俺に答えられることなら…」

マリコルヌはにやりと笑った。
「チラリズムって、こんなシチュエーションもありなのかな…たとえばさ…」



二人が話を終えて笑顔で握手する頃には、寮塔の前にいた女子生徒はいなくなっていた。

■■■


「ただいまー」
「遅かったじゃない。何してたの?」

人修羅がルイズの部屋に戻ると、ルイズは図書館から借りた古いルーン文字の本を開いていた。
「ちょっとね……なんて言うか、世界は違っても同士って居るんだな…って」
「何があったのか知らないけど、先生方に迷惑をかけちゃ駄目よ」
「分かってる、大丈夫だって」
「ならいいけど…」

本に視線を戻したルイズだったが、しばらくすると本を閉じ、寝る準備を始めた。
どうやら人修羅が戻ってくるのを待っていてくれたらしい、だがそれを口に出さないのがルイズらしいのかもしれない。

着替え始めたルイズを見て、人修羅は戸棚の脇に立てかけていたベッドを床に敷いた。
ベッドと言っても、ルイズが使っているような大きなものではなく、その半分以下の幅しかない。
高さ30サントの、折りたたみ式テーブルの上に寝ているようなものだが、首の角を差し込む穴がついている。
ボルテクス界では座って体を休めるか、女神に体力を回復して貰っていたので、自分用のベッドで眠れるというだけでも十二分に有り難かった。

「寝るわよ」
「わかった」

ぱちん、とルイズが指を鳴らすと、天井から下げられていたランプが消えた。

「…ねえ、ルイズさん」
「何?」
月明かりの中、人修羅は小声で囁いた。
「力のある人が、その力を隠すのって、どう思う?」

ほんの少し、何度か深呼吸できるぐらいの間が開いて、ルイズからの返事が返ってきた。
「…どんな力なのか分からないけど、時には隠すのも、必要だと思うわ」
「そう、わかった」

答えの後、すぐにルイズの寝息が聞こえてきた。



人修羅はふと、先ほどまで話をしていた、マリコルヌのことを思い出した。
マリコルヌは、音の反射の仕組みを知っていた。
足音を区別して人数を数える方法も、魔法を使わずに遠くの音を聞く方法も、望遠鏡で見るよりも遠くの景色を見る魔法も知っていた。
ディティクト・マジックで罠を見破る方法、罠を解除する方法、それらもすべて魔法学院の女子浴場を覗くために身につけた技術らしい。

欲望のために力を得る、それはとても人間らしい行為だと思える。

それに比べて自分はどうなのだろう。
欲望のためではなく、ただ他人の考えに賛同できなかっただけで、結果としてなにもかも失ってしまった気がする。
ボルテクス界に変容する前の、人間として生きていた世界に戻りたかったのに、なぜ神と悪魔の戦争に参加してしまったのだろうか。


奇妙な噂をしていた女生徒を跡形もなく消し飛ばす力が自分にはある。
けれども、それをしたら自分は『怖がられて』しまう。
力任せに、うわさ話をやめろと迫っても、ルイズ、キュルケ、タバサ、シエスタ、マルトー、コルベール先生、オールド・オスマンに嫌われてしまうかもしれない。
そう考えると、人修羅は何も出来なかった。

もう一度学生に戻って、馬鹿をやりたい、そんなことを考えつつ人修羅は目を閉じた。



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