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いぬかみっな使い魔-14


いぬかみっな使い魔 第14話(実質13話)

(「この姫様好みだなあ。ルイズ並の美貌にでかい胸、清楚さ、神々しい気品。
こませたら最高だよな、権力も金も全部手に入る。よし、やっちゃろ」)

 なんぞと啓太が計画して表面を精一杯取り繕っているとも知らない
アンリエッタはルイズ達に相談した。宮廷に味方が居なく孤立している、
だから何も出来ない。マザリーニ枢機卿を初めとする重臣達の意のままだと。
そして、このままではおぞましい事を受け入れるしかないと。
啓太は、いくつもの質問を行ってアンリエッタ自身に考えさせながら
助言を行っていった。権力とは味方をしてくれる人間がどれだけいるかに
よって決まること。味方をしてくれる人間達の力の総和こそが王の力であること。
力とは、受身で手に入るものではなく自ら努力して手に入れるものであること。
無償で味方をしてくれるものなど存在せず、庇護と恩賞と名誉を与えるという
義務を果たして初めて忠誠を要求する権利が生まれること。
そしてなにより、アンリエッタの周りには微笑み、言葉をかけるだけで
味方になってくれる小さなものたちがたくさん居ること。
「掴み取るのです。まずは小さな目標から。その第一歩はすでに用意しました。」
「名門貴族の子供達。薬草クラブのメンバーですね?」
「そうです。ほら、目の前にも。」
そういって、ルイズのほうを見やる。アンリエッタは、小さな自信を手に入れた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「まとめますよ? 間違ってたら言ってください。
アルビオン王家の敗色が強くなっておりマザリーニ枢機卿がゲルマニアとの
同盟を進めている。その代償としてアンリエッタ王女がアルブレヒト三世に
輿入れすることを打診されている。40男で当然皇子もいる。それらに肩入れする
取り巻き貴族などは殿下を面白く思うはずも無く当然暗殺の危険が高い。
歳が近くお似合いな大后様は代わりに赴こうとはしていない。
トリスティンの跡取りは姫殿下のみ。腰入れで人質とされ、トリスティンを
煮るも焼くも自由にされる以上国が滅ぶと同義。
アルビオン王家への援助はしておらず、レコンキスタへの補給封鎖もしておらず、
王軍の傭兵集めもせず、諸侯軍の動員もしておらず、戦列艦の新造も無し。
アルビオン王家敗北を前提に和平を模索している。レコンキスタの掲げる理想は
ハルケギニア統一と聖地回復で、侵略を続ける宣言と同義。」

「そ、そそそそ、そのとおり、です。」
アンリエッタは、気づいていなかったことまで指摘され、動揺の極みだ。
「ものすごく酷い話ですね。お姫様かわいそう。」
ともはねがつぶやく。ルイズも憤っている。
「マザリーニの亡国の陰謀これあきらか! 断固処刑するべきです!」
アンリエッタはそれに賛同しようとするが啓太が止めた。
「処刑する。大変効果的ですね。国を滅ぼそうとするには。」
「ええ!?」「け、啓太様?」「ケータ、どういうこと!?」「きょろ?」
「政治を丸投げしているマザリーニがいなくなったらやはり国は滅びます。」
事も無げに答えた。3人の女性は一様に真っ青になった。啓太は続ける。
「これはあまりにも変です。普通ならこんな無茶苦茶な話が通るはずが無い。
にもかかわらず進められている。ならば、裏があるということ。」
「裏がある!?」「どんな裏よ!?」「裏ですか、啓太様?」「きゅ~?」

啓太は、少し考えると、一つうなずいた。姫に頼む。
「明日の朝、薬草クラブの武闘員を閲兵してやってほしいのですが。数日主要
メンバーを登城できるようにして、閲兵後大后様と会わせて欲しいのです。」
啓太は、盗み聞きなどを無効化している部屋で、さらに顔を寄せさせた。
「ひそひそひそ」
かくして各人は、密かに色々と動いたのである。

 薬草クラブの武闘員は、総計で40人ほどである。調合員や建築員と
兼務しており、早朝の訓練にしか参加していないものがほとんどを占めている。
彼らは全員今回の謁見に伴いトリスタニアのヴァリエール別邸に来ていた。
甘えさせてはいけないからと一つのベッドに数人押し込み、
食事もごく普通のもの、と啓太に指定されていたのであるが、
士気は非常に高かった。言われもしないのにその日1日フォーメーションの
訓練などをしていたくらいである。その訓練は、深夜の梟の訪れで報われた。

 早朝の最終調整を、謁見に参加したものたち含めて王宮の錬兵場で行い、
アンリエッタ姫の来訪を待つ。もちろん、待っている間も訓練だ。
啓太自身がその指揮を取っている。魔法書を念動で浮かせて
呪文を読み上げながら走る。同時に棒術の型を練習する。
一度に4つの事をやっているのだから、当然途中で集中を乱すものが続出する。
それでも、走るペースは落ちない。落ちた本を拾い、取り落とした棒を拾い、
ペースを上げて列の後方に並ぶ。先頭付近で遅れずついていくのは、
大抵がラインメイジだ。

 錬兵場の中央では、後から入部した未熟な連中が棒術の訓練だ。
簡単な型の繰り返しばかりで嫌だとぶうたれる連中を啓太が怒鳴りつける。
「ばっかやろう、棒の持ち方一つ満足に出来なくて使い物になるか!
突き、払い、受け、回転受け、転回。そして回避。まずこれだけマスターしろ!」
「でも(ブン)うわあああ!?」
さらに抗弁しようとした武闘員が、啓太の無造作に振った棒に弾き飛ばされた。
「見ろ、基本の払いだけで敵を倒せる。槍に持ち替えていればお前の胴は
今頃両断されていた。そして、これらを避ける事が出来なければすぐ死ぬ。
平民の後ろに隠れなければ何も出来ん蛆虫に物を言う権利は無い!」
そういって指導している啓太の横には、魔道書が浮いている。微動だにしない。

 その後、武闘員達は簡単ながらアンリエッタ姫の閲兵を受けた。メインは
多対多の模擬戦闘である。ラインメイジ隊6人に古参ドット10名が挑み、
木っ端微塵に撃破される。その後残る二十四名(ルイズ含む)が挑むが、
かろうじてラインメイジたちが勝つ。ラインになるほどの修行をしていれば、
大抵は武器戦闘の修行をもしているのだ。付け焼刃では負けて当然だ。
「どうでございます、アンリエッタ姫殿下。」
「ライン隊が強すぎませんか?」
「貴族の義務として武術の鍛錬も行っていた者達です。対してドット側は
付け焼刃。普通なら役に立ちません。間違った教育の犠牲者達ですよ。」
「ふむ。しかし、ルイズもやるではないか。負けたとはいえ様になっている。」
 いつの間にかヴァリエール公爵も来ていて、娘の雄姿を惚れ惚れと見ている。
さらには、魔法衛士隊員の姿や大臣達の姿も窓にちらほら見えて拍手していた。
啓太がヴァリエール公爵に噂を流すよう頼んでおいたのだ。
おおかたは姫と同じかもっと早くからそれとなく鍛錬を見ていたようである。

「なるほどな。姫から教導士官の派遣を命じられたが。君の入れ知恵か。」
 マザリーニ枢機卿も現れて言葉をかける。
「は、過ぎた真似、申し訳ございません。ですが、ぜひとも必要と考えます。」
「確かに、政治とは数手先を見据えて手を打っておくものだ。」
そう言ってマザリーニ枢機卿はうなずいた。その後のわずかな会話で、
啓太はマザリーニの有能さと権力への私心が無い事を感じ取る。
(「わっかんないなあ、だったらなんであんな事を? まあ、ともあれ次だ。」)

 啓太は、一礼すると錬兵場に降りる。
ドットメイジ達の指揮官だったギーシュに代わり、啓太自身が指揮をする。
人数は16人。最弱の組から16人だ。啓太は指揮のみで戦闘には参加しない。
対して、ラインのほうは6名。これにドットから除外した8人を加えた。
人数は16:14である。どう考えても、この戦力ではドット側が負ける。
だが、啓太が指揮すると、ドット側の動きがまったく違った。
一人一人の動きは同じだ。だが、その連携が違う。作戦が違う。

 陽動隊が次の瞬間には主力攻撃隊になり、防衛線を作っていた連中が
突如として包囲の動きを見せ、疲れて消耗した隊が随時後ろに下がって
息を整える。休みの時間は移動の時間でもあり、気がつけば
絶好の攻撃ポジションについている。ライン側の動きを最小限の戦力で乱し、
お荷物のドットを誘導してライン6人が自由に動くことを阻害させ、
ラインを一人ずつ確実に孤立させては集中攻撃で撃破していく。
程なくして、ドット側が勝利した。ルイズは最後まで立っていた。

 アンリエッタとマザリーニ枢機卿、ヴァリエール公爵が感嘆した。
「これは!」「なんと!」「よくやった、ルイズ!」
さらに見物人達から先ほどに倍する拍手が起こった。
「いかがでございましたか? 使える戦力を最大限効率的に使い、
敵には全力を出させず、隙を突いてより強い敵に勝利する。
これこそが戦術の基本にして極意です。では、姫様、お願いします。」

 ラインメイジ達がアンリエッタ姫に声をかけてもらう。
謁見に出られなかった者達なので、大喜びだ。残る者達もアンリエッタから
「短期間での訓練にしてはすばらしいと思いますよ。将来が楽しみです。
皆さんの下に魔法衛士隊から誰か派遣しようと思います。衛士隊の見習いに
抜擢されるよう、励んでください。期待していますよ。」
と、微笑みながら言われて大満足だ。なにしろ、名門貴族の花形職業、
魔法衛士隊への強力なコネクションを約束されたのだから。

「さて、これだけでは皆さん物足りないでしょう。後学のためクラブ員に
本当に強い男達の強さというものを見せたいと思います。
見学なさっている魔法衛士隊の方々に一手ご指南いただきたいのですが、
姫様、ご許可をいただけるでしょうか?」
アンリエッタは、啓太の言葉にうなずいた。
「今日はマンティコア隊が王宮警備の当番で、ヒポグリフ隊が訓練の日です。
両衛士隊で、我こそは、と思うものは前に!」
姫のお声がかりである。双方の衛士隊は、我も我もと名乗り出た。姫の前に
2列に並ぶ。だが、隊長達を初めとして、幾人か奇妙な顔をしている。
「ケータ殿、でしたか? 私はマンティコア隊隊長ド・ゼッサールと申す。
貴殿は先ほど、一手指南を、と申したように思うが、誰が誰に、かね?」
啓太は、不適に笑って答えた。

「無論、私が両魔法衛士隊員達に、でございます。まずは3人から。」

一同からどよめきが上がる。
「なっ! まずは3人から? 総掛りを、繰り返し行うと!?
しかも、その言からするとどんどん人数を増やすおつもりか!」
ヒポグリフ隊隊長が侮られた、との思いをにじませて詰問する。
「トリスティンの精鋭部隊、でしたな。なに、魔法抜きなら負けませぬ。
魔法有りだと、手加減が難しくて疲れますので難しいですが。ともはね。」
ともはねが、空中を滑る様に飛んで啓太に近づき、六角棍を渡す。
ただの六角棍ではない。硬い樫の芯材を削り込み、表面を鋼で被い、
杖契約を結んでトライアングルの固定化と強化をかけたものだ。
啓太の手袋の下で、ルーンがかすかに輝いた。無造作に、棍を石畳につき下ろす。

 ズ ボ ゴ ン !

棍が、一撃で石畳を砕き、深く埋まる。どよめきが上がった。
「我が一族では基礎魔力の優劣を測るため拳に魔力を集中させ、
漬物石をひたすら割っていくという儀式を行います。
私にとって魔法を使えば人の体など紙も同じ。故に、魔法はなしで。」
手加減しなけりゃ殺しちゃうよ、と言われたのだ。両衛士隊の顔色が変わった。

 それからは、あまりに一方的な戦いが続いた。
3人は数瞬で杖を叩き落とされ、仲間の水魔法の治療を受けた。
次に10人が挑んだがわずかに持ったに過ぎなかった。
それ以上は何人がかりでも同じだった。ガンダールヴの効果でスピードと膂力が
強化されている、という以前に、啓太が有利な条件が揃っているのだ。
魔法衛士隊は主にレイピア状の杖を使って戦う。華奢で短い杖は、
啓太の長い六角棒のリーチに入り込むだけで一苦労だ。威力も違う。
何より、レイピアのリーチでは一度に攻撃できる人数が限られる。
それを超える人数は、倒されても代わりを用意できる事を意味するだけで、
手ごわさは同じになる。戦闘時間を長引かせる事ができるだけなのだ。
さらに槍や棍は、攻撃手段が剣よりはるかに豊富で手数が多い。
剣を突き出して攻撃し、引き戻してからもう一度突き出すという動作をする間に、
棍をぐるぐる回して連続攻撃すれば、四~五回は軽く攻撃できてしまう。
棍の片端が攻撃を終えたそのときには、反対の端が攻撃寸前なのだ。

 隊長以外の全員を同時に相手して勝ってしまった啓太に誰もが声を失っている。
「お見事です!」
そこにアンリエッタの拍手と賞賛の声が響く。最初はぱらぱらと、
次第に割れんばかりの拍手と賞賛が辺りを被う。啓太が笑顔で答えた。
「近衛はお強いですな、姫殿下。無傷で勝てると思いましたが、全身痣だらけです。」
啓太は学院のマントと制服の上着を脱いで見せる。
確かに、啓太の体には多数の痣が出来ていた。20近いだろうか。
「私が勝てたのは、打たれ強さと剣と槍の戦いではなかった点にありますね。
御見それしていたことを謝罪いたします。」
そう言って、啓太はようやっと立ち上がり始めていた衛士隊員達に頭を下げる。
「い、いや、こちらこそ、感服、つかまつった。」
ド・ゼッサールが、多少引きつった顔ながらも啓太をほめる。
多少は花を持たせてくれようとしている、くらいはわかったのだ。
ここで激昂してはかえって醜態をさらす。
「う、うむ、実にお強い。時に、魔法のほうはどのくらいの腕前かな?」
ヒポグリフ隊の隊長は、少し若いだけあって、ちょっとだけ無謀だった。
「魔法の腕前ですか? 姫様、錬兵場周りが吹き飛んでもいいですか?
 困る? では、空中で爆発させましょう。」
啓太は、素早く服を着ると、蛙の消しゴムを2つ右手の指の間に挟み、
左手の杖を振りながら呪文を唱える。この、呪文を唱えるときだけ、
ともはねも啓太もガリア語から日本語になる。そのため、意味は聞き取れない。
「白山名君の名において、大地の精霊よ、型代に依りて力を貸したまえ!
戦蛙よ、破撃せよ、粉砕せよ、爆砕せよ、もって滅しよ!」

 ズ ド ッ ッ ゴ ゴ オ オ オ ウ ウ ウ ン ! ! !

スクウェアクラスの爆発が、上空で起こった。
かなり上空で起こった爆発なのに、強い風が地面を叩く。一同固まった。

「ケータ殿。指に挟んでいたのは秘薬ですか?」
「ええ、そうです。」
固まっていた一同が動き出す。
「秘薬を補助に使ったとなればこの威力も納得だ。」
ヒポグリフ隊の隊員である。アンリエッタが、興味津々と質問する。
「では、もっと秘薬を使えば威力を上げられますか? 例えば倍の4つなら。」
「倍の威力に出来ますが、消耗が激しくなりますのでやりたくは無いですな。」
あれでも手加減したのか。一同冷や汗が出た。アンリエッタは、一人泰然と話す。
「さすがエルフと年中戦争しているといわれるロバ・アル・カイリエ出身ですね。
時に、マザリーニ枢機卿に教えを請いたいとか?」
「はい、始祖ブリミルの教えについて勉強しているのですが、何しろまだ
こちらに来て2週間。難儀しております。これでは始祖ブリミルの祝福を
受けるにふさわしくなるまでどれだけかかるか。いつか、ご教授願いたい。」
「う、うむ、話は聞いている。事故で使い魔と一緒にゲートに
飛び込んでしまったとか。そなたのように強いものが始祖ブリミルに
帰依したいとのことであれば、これは実にめでたいこと。」
「ありがとうございます。いま少し理解を深めた後、お伺いしたく思います。」
啓太は、枢機卿から“いまはブリミル教徒で無い事は不問”の言質を得た。
ルイズの虚無習得のために国中で最も始祖に詳しい枢機卿から約束も引きだした。
同時に強いから偉いが原則のハルケギニアで力を示し一目おかれた。
魔法衛士隊の面々と語り合い武器の相性により有利な点が多大にあった事を
明かしてプライドを回復させ、互いの健闘をたたえあい友好を結んだ。
棍や槍の有利さを印象付けて美学による実戦に向かない戦いの理念をぐらつかせ、
鍛錬の意欲を喚起し、後の戦力向上を期待できる下地を作った。
また、啓太の戦術能力の端緒を見せることで次の計画の布石とした。

 その後、啓太とルイズ(+ともはねとマロちん)は、
アンリエッタに伴われて大后に謁見した。
「と、いうわけで、マザリーニ枢機卿はまだまだできる事があるにもかかわらず
亡国の外交政策を取っております。なにしろ、アルブレヒト3世は
40男で子供も大きくなっております。今から姫殿下が輿入れしても、
血をゲルマニア帝国の正統に残すことすら難しいでしょう。
戦争を避けるために国を滅ぼしては本末転倒もいいところです。
これが、ゲルマニア皇帝がトリスティンに婿入りするか皇子を受け入れるなら
まだわかります。実権は一時的に失われるかもしれませんが国は残ります。
大后様が女王として統治し、その後姫殿下を女王にすればなんとか実権も
損なわずにすみましょう。ですが、枢機卿の政策はまるで正反対です。
どう考えても許容できるものではありません。ここは攻めるべきです。」
この部屋の防諜は最高レベルだ。召使達も下げ、護衛すら下げての密談だ。
「レコンキスタを攻めるなど、負けるに決まっておろう? それに、これは
娘のためでもあるのです。ヴィンドボナにいるほうが安全だと、」
「暗殺される事が目に見えているのに?(中略)王族の義務を説くのであれば、
適任なのは大后様でございます。何故自分は安穏とし、娘を犠牲になさいますか?」
大后の言葉を、啓太はわざと遮って説明した。大后は歯切れ悪く反論する。
「…そ、それはしかし、わらわは夫の喪に服しているのです、結婚などは、」
「それは大后様の私情でございます。王族の義務ではございません。」
大后は、がっくりとうなだれた。娘を死地に追いやり、国を滅ぼし、
自分は私情で安穏と身の清さを保つ。あまりにもおぞましい現実に、
何故今まで気がつかないでいたのかと自問する。
「大后様。今なら、可能なのです。そう、大后様にはこれこれの…」
打ちひしがれた大后は啓太の現実性のある計画に協力せざるを得なかった。

 王宮から数騎の竜騎士が伝令に飛び立った。
いくつもの効果を狙った謀略が、今、この時本当に動き出したのである。

 次いで、ヴァリエール公爵他数人も説得して仲間に引き込む。
最後に説得されたのがマザリーニ枢機卿だ。

「今戦っても必ず負けます。 姫殿下、ですから私は。」
「枢機卿、それはわかります。ですが、国の滅亡と引き換えに戦を避けても
本末転倒であることはわかりましょう。まずはやるべき事をやるのです。」
入れ知恵されたアンリエッタがマザリーニを論破する。
マザリーニは、大后を、大后のほうをすがるように見つめた。
大后はすっと目を逸らす。マザリーニが驚愕する。
それを見ていた啓太は、なるほどな、と納得した。

 大后は、マザリーニの口ぞえはしたが、王女の意見を支持する。
「マザリーニ。わらわはそなたが国と民を憂う優秀な政治家であるとよく
理解しています。しかし今アンリエッタをくれてやるわけにはいきませぬ。」
 鳥の骨、とマザリーニ枢機卿を嫌いぬいているヴァリエール公爵が揶揄する。
「唯一の正統たるアンリエッタ姫殿下を、血で乗っ取ることすら出来ぬ
ゲルマニアに人質としてくれてやる。言いなりに併合される道ですな。」
マンティコア隊隊長ド・ゼッサールも賛同する。
「論外といえましょう。それとも、アルブレヒト三世の息子達を
皆殺しにすると? 明らかに無理な話ですな。逆に姫殿下が暗殺されます。」
マザリーニが苦しい反論を試みた。
「しかし、今から動員しても遅うございます!
 それはレコンキスタを怒らせて報復を招く道でしかありませぬ!」
アンリエッタは、冷静に突っ込んだ。
「報復を招く? それで唯々諾々と蹂躙され放題の状態を続けると?
防備を固めるために傭兵を集める触れも出さず、諸侯軍に動員をかけもしない。
それでは、ゲルマニアとて足元を見ざるを得ません。ゲルマニア軍を駐留させ、
自分たちが盾になら無い限りトリスティンという橋頭堡をレコンキスタに
与えるだけの政策を続けているのです。頼りに出来ない同盟相手ではなく、
敵に塩を送る同盟相手。ゲルマニアの無茶な要求は、同盟したくないという
意思表示ではないのですか?」
言われて始めて気づいたように、マザリーニは驚愕している。

 ちなみに、アンリエッタは先ほどからディティクトマジックを使っている。
そして、ともはねは先ほどから、部屋の隅で遊んでいた。壁にかける壁紙を
とっかえひっかえして壁に広げている。それはアンリエッタの正面の壁で、
魔力を込めた透明な水であんちょこが書かれているのであった。

啓太が、ド・ポワチエ将軍に合図した。
「まあまあ、枢機卿殿は本来神職です。血なまぐさい軍事についてまで
完全を求めるのは酷というものです。まずは、アルビオン王家への援助と
レコンキスタへの補給封鎖を、表向きはそう見えない形で行えばよろしいかと。」
その発言は、マザリーニを許すと同時に軍事への介入を今後させない、
という意味のものであった。
「許しましょう。」「そうですね。」「いかにも。」「確かに。」「ふむ。」
一同の賛同により、マザリーニはこの瞬間軍事権限を失ったのである。

「しかし、妙ですな。」
啓太がこの会議で始めて発言する。
「こんなにもあからさまにおかしい政策と外交が、なぜかまかりとおっていた。
ありえません。ということは、おかしいと気づくべきものを気づかないよう、
せっせと動いていた者達がいた、ということでしょう。すなわち、
レコンキスタの謀略と考えます。枢機卿閣下を初めとして、皆様が騙されていた。
他にこの状況は説明できませぬ。おそらくは、皆様方の身近にレコンキスタの
手のものが入り込んでいたのではないか、と思われます。」
一同の間に、衝撃が走った。
「それは…それはつまり…」
「私が内通者を作るのであれば、国に手厚く遇されていて忠誠が厚く、
交渉能力に長け騙しにくい大臣などは最初からは狙いませぬ。狙うは、
安上がりに買収もしくは親族の出世などで釣れる、秘書官以下などの端役。
あるいは、その端役の身近にいる人間。そこから、徐々に取り込む範囲を
広げていきまする。さすれば、いずれは国の中枢に迫れましょう。皆様の身近で、
今回の政策と外交をよく話題にしていた方はどれだけおられますかな?」

 そこで出された者達は、腹心もしくは目にかけているものとして
上役が弁護する者がほとんどだった。故に、しばらく観察処分となる。
だが、複数人に重複して働きかけを行った者の中に、グリフォン隊隊長ワルド、
リッシュモン高等法院長、王宮勅使のジュール・ド・モット伯爵等の名が上がり。
皆の顔は、蒼白になっていく。

「これは、すでにレコンキスタの長い腕が宮廷深部まで来ていると考えるか。
あるいは、彼らの周辺にそのような考えを吹き込み、さらには他の重臣の説得を
たきつけられるほど有能な内通者が作られているか。いずれにせよ、
いきなり逮捕などは無理な方々ですな。これから内偵を進め、
いずれ白黒をつけることを提案いたしまする。それまでは、彼らを警戒しつつも
表面上は何事も無かったようにお振る舞いになり、しかし重要な機密は
彼らに漏らさないという方向でいかがでしょうか?」
ヴァリエール公爵が、深刻な顔で提案し、これは了承された。

「さて、そろそろ軍議に入ったほうが良いかと思いますが。」
全員の視線が、啓太に集中した。知略と戦闘力と魔力を証明した啓太に。
「大丈夫ですよ。方法はいくらでもあります。勝算はありますよ。
そもそも、戦えば負けるのであれば、戦わなければいいのですから。」
皆の目が見開かれ、興味津々の目で見られる。
「ああ、そうだ、その前に。アンドバリの指輪の一件を忘れていました。」
キュルケとシャルロットを伴って語られた話に、一同は嫌悪を隠せなかった。


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