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タバサとゼロの吸血鬼


 青い髪に青い瞳、凹凸のない平坦で小柄な体格、雪のように白い肌に幼いながらも整った顔立ち。
眼鏡をかけたその表情はひたすら無であり、感情を表すことは滅多にない。
『雪風』のタバサ。大国ガリアの北花壇騎士七号である彼女は、とある命を受けていた。
騎士団長であるその命令主イザベラは、現ガリア国王ジョゼフの娘であり、従姉妹でもある。
タバサに対して複雑なコンプレックスを抱き、いつも突然に連絡を寄越す。
その都度ガリア王都リュティスにまで越させ、そして嫌味に任務を告げる・・・・・・時には嫌がらせをも。
任務には危険が付き纏い、命を落としてもおかしくないものが多かった。
それでもタバサは悪態一つ漏らすことなく、ただ従順に任務をこなし続ける。

 "吸血鬼"。
人の姿をした血を吸う怪物。日光には弱いが力は強く、先住魔法を扱うことが出来る。
生命力も高く、吸血した人間を一人"屍人鬼(グール)"として操ることもできる。
その厄介さは人間の天敵であるエルフすらも凌駕する、狡猾で残忍なハルケギニア最悪の妖魔。

 今回の任務であるサビエラ村の吸血鬼討伐の為、タバサは一度学院に戻って荷物と吸血鬼関連の本を持ち出してきた。
単純に倒すだけでなく、探し出して正体を暴くことから始めなくてはならない。
一つ間違うだけで、自分が血を吸われて死ぬことも充分に考えられる。
その為の情報は必要不可欠であった。

 タバサは本を小脇に抱え、シルフィードの元へと向かう。すぐに終わるだろうと外にいさせたままだった。
「遅いわお姉さま!きゅいきゅい!」
シルフィードの言葉をタバサはナチュラルに無視する、これもいつもの光景である。

「竜とは喋る生き物だったか・・・・・・?」
突如聞こえてきた声に、タバサとシルフィードは辺りを見回した。
シルフィードは古代種の風韻竜である。故に普通の竜と違い喋ることが可能で、さらには先住魔法まで扱える。
それがバレることは非常にまずい。だからいつだって周囲には気を配っていた・・・・・・筈であった。

 その時、影が蠢いた。
陽の光によって作り出されていたタバサの影が、タバサ自身が動いていないのにも拘わらずゆっくりと動いていた。
それは徐々に人の姿を成し、タバサと似た小柄な背恰好へと変化する。
「ごきげんよう、タバサ」
そして少女アーカードは事も無げに挨拶した。

 "吸血鬼"。
今目前にいる少女である。魔法こそ使えないが、力は強大で日光もものともしない。
生命力はミノタウロスのそれすらも遥かに凌駕し、使い魔も複数使役。眷族を増やすことも出来るらしいルイズの使い魔である。
先日の破壊の杖に関する事件で詳しく知ることとなった彼女。ハルケギニアとは別の世界の吸血鬼だと言う。


「授業中なのにシルフィードが見えたからの・・・・・・つい悪気はあったが尾行させてもらった」
「黙ってて」
タバサはただ一言告げる。
「むっ、怒ったのか?」
タバサは首を横に軽く振る。
「そうじゃない、この子が喋ったこと」
そう言ってタバサは杖の先をシルフィードへと向ける。

「ん~・・・・・・?」
アーカードは首を傾げ、疑問符を浮かべてシルフィードを見つめる。
「バレると面倒」
「つまり私と同じような類ということか」
タバサは頷く。と、事情を理解してもらえたところで突然シルフィードが口を開いた。

「お姉さま!この人についてきてもらえばいいのね!」
タバサは目を瞑る。それは考える為ではなく、「またこの使い魔は余計な事を言い出して・・・・・・」といったうんざりとした感じであった。
タバサにとって任務とは、自己研鑽の為の絶好の機会でもある。
豊富なキャリアは自己をより高みへと登らせてくれるし、戦闘という場面に於いての引き出しも増やしてくれる。
他の者に協力を仰いで任務を達成するよりは、自分一人でクリアした方が経験値は当然多い。


「え~と、アーケードさん?」
タバサの考えている事など察するはずもなく、シルフィードは話を続けた。
「アーカードだ」
シルフィードに間違って呼ばれた名前を、アーカードは訂正する。

「お姉さまはね、いっつもいじわるな従姉姫に任務をさせられているのね!
 それでアーカードさんに協力してほしいのね!なんせ今度の相手は――――――」

 タバサはポカッと手に持った杖でシルフィードを叩き、言葉を遮る。
「――――――吸血鬼が相手か」

 シルフィードの言をアーカードが引き継ぐ。
シルフィードは目を見開いた、途中までしか話していないのに何故わかったのか。
アーカードはその様子を見て、予想が当たったことを確信する。
タバサは抑揚のない瞳でアーカードを見つめる、それは言及するような眼差しであった。

「なに・・・・・・先程吸血鬼に関連する本を見繕ってる最中から、一部始終見ていただけさ」
その言葉に納得がいったのか、うんうんとシルフィードは首を振る。
「なるほどなのね!というわけで、わかってもらえたところで協力してほしいのね!」

 タバサは迷った。吸血鬼は恐ろしい相手である、自分の力だけじゃ心許ないのも確か。
「この世界の吸血鬼、とてもすごく興味がある。是非とも同行させてもらおう」
そんなタバサの迷いを押したのは、アーカードの強い好奇心と言葉であった。

「それにだタバサ、リスク管理は大事だぞ。経験を積みたいと思うのも結構なことだ、だが死んでしまっては元も子もない」
こちらの思惑を完全に読まれていた。薄い笑みを浮かべる目の前の少女には、恐らく何を言っても無駄なことだと悟る。
この使い魔の主人であるルイズは大層苦労してるんだろうな、などと心の中で一人ごちながらタバサは折れることにする。
こうしてタバサと『ゼロ』の吸血鬼はシルフィードに乗り、一路サビエラ村へと向かった。




「ほほぅ、人の姿になれるのか」
「えっへん、すごいでしょ!きゅいきゅい!」
タバサはシルフィードに命じて、先住魔法によって人間へと変化させた。
その様子を見ていたアーカードは素直に感心する。
尤もそれはシルフィードに対して向けられたものではなく、魔法とは便利なものだなというものであったが。

 タバサは荷物の中から服を取り出すと、黙ったままシルフィードに渡そうとする。
「いやいや!布なんか体につけたくない!」
しかしタバサは服を差し出したまま、無言で圧力をかけ続けた。
「うぅ・・・・・・その準備の良さは、おねえさま!わたしに最初から変身させるつもりだったのね!」
シルフィードはぼやきつつも、服を着始める。

「ふむ、私も変わるか」
一体何を言っているのか、アーカードのその言葉がタバサとシルフィードはわからなかった。
直後にアーカードの影が広がりアーカード自身を覆い始める。
そのシルエットが、少女のそれから別のものへと変わっていった。
そして"私も"の意味とは、シルフィードと同じように"変化する"ということだったと知る。
現れたのは壮年の男性、口と顎に髭をたくわえた長髪で背の高い男。
その男は顔が隠れるほどの長い髪を両手で軽くかき上げ、簡単にだがバックにまとめる。


「・・・・・・ヒゲ」
タバサはその男を見上げてボソッと呟く。
男は優しげな笑みを浮かべ、その大きな手で無骨ながらも丁寧にタバサの頭をくしゃくしゃと撫でた。
タバサは思わず目を瞑る。姿こそ似てはいない、だけどその雰囲気は今は亡き愛する父を思わせた。
「いっ・・・・・・いったいなんなのね!!?」
「なに、姿形などは私にとって至極無意味なものだ」
幼女改め、壮年男性となったアーカードは淡々と答える。

「理由になってないのね!なんでヒゲの男になったのね!」
「シルフィードが変身できるように、私も変身できるだけだ。ちなみに、この姿がオリジナルだ」
「よくわからないけど、わかったのね!」
再生能力だけでなく、変身能力まで備えているとは・・・・・・つくづく目の前の吸血鬼はとんでもないななどと考える。
仮にこの化物が今回の相手だったとしたら、勝てる見込みなど露ほどにもないとタバサは思った。

「・・・・・・作戦変更」
とりあえずタバサはアーカードの姿を見て、当初考えていた策に変更を加えることにした。




 サビエラ村の村長の屋敷。
諸々の調査を何とか日が暮れる前にやり終え、タバサとアーカードはそこに宿泊することになった。
さらに吸血鬼は若い女性の血を好むというので、タバサの提案により村に残っている若い娘達を集めて避難所としていた。

 アーカードはタバサの杖を持たされ、メイジで騎士という役割を担った囮役。
本来ならばその役はシルフィードであったのだが、アーカードの見た目の方が適任ということでお役御免となった。
しかもシルフィードと違って、アーカード自身がべらぼうに強いので何の心配も気兼ねも必要ない。
シルフィードは今頃、タバサの合図があるまで近くの空を飛んでるか、適当なところで休んでいることだろう。
そしてタバサは騎士の従者を演じている。無論杖はアーカードが持っているので魔法を使うことは出来ない。

 貫禄のある風貌と落ち着いた気性で一挙一動するアーカードは、前回派遣され殺された騎士よりも遥かに頼もしく見えたらしい。
村人達もある程度は安心しているようだった。しかし昼間の調査では一悶着があった。

「一応の本命は・・・・・・アレキサンドルとマゼンダか」
調査中の一悶着とは、アレキサンドルらにかけられた嫌疑。
引越してきて間もなく、マゼンダは昼日中には外に出ず、アレキサンドルには二つの吸血痕のような傷があるという。
物的証拠こそないものの、状況証拠としては十分過ぎる。
村人達にとっては状況証拠だけでも、十分決め付けるに値するのである。
薬草師のレオンと他多数の村人達が激昂し、マゼンダが吸血鬼なのではないのかと言及していた。
その場は村長が収め事なきをえたものの、村全体がきな臭い雰囲気なのは疑う余地もない。

「まだ・・・・・・わからない」

 確かにわかりやすいほどの本命である。
しかし吸血鬼は屍人鬼(グール)を巧みに使い、街一つ全滅させるほどあるという。
それこそが最凶の妖魔たる所以、油断や慢心は禁物である。
現に村で9人もの犠牲者を出し、その中にはガリアの正騎士も含まれている。
そんな吸血鬼が村の中であからさまに怪しい人物でした、なんてことが果たしてあるのだろうか。
入念な調査をしても、囮役だのなんだのと対策を練ったところで憂いを払拭することは出来ない。

「村人全員を日光の下に曝せば早いのだが・・・・・・」
アーカードの言うことは尤もであった。
吸血鬼が村にいるか森にいるか判断出来るのは非常に有力な情報となる。

 だが既に村人達はそれぞれの生活を営んでいたし、無用に波風を起こしたくないという村長の声もあった。
既に犠牲者が二桁にのぼろうとしているというのに、暢気なことだとアーカードは笑う。
ただアーカードからすれば、吸血鬼が村にいようが森にいようが関係のないことだった。
無敵の吸血鬼であるが故に、いつどこで襲われようとも何も問題はないのである。

「とりあえず私は今から散歩してこよう。杖の持っていないメイジは相手からすれば恰好の獲物だろうからな」
「・・・・・・罠だと思って近付いてこないと思う」
アーカードは唇だけで笑う。
「仮に私がメイジでない歴戦の勇者だとしても、無手の相手に吸血鬼がそこまで警戒することもあるまい」
「・・・・・・わかった、私は残る」




 タバサは静かに思考を巡らせていた。昼間集めた情報を今一度取捨選択しまとめる。
吸血鬼が活動し始める夜中に備え、予め多少睡眠を取っておいたので眠気もない。
アーカードは自らを囮とし、杖を持たず夜の村を歩き回っている。
夜の帳が下りた村は閑散とし、騎士がいるとはいえ村人達は吸血鬼の恐怖に怯えているだろう。
隣の客間にいる少女達も例外ではない。

「お姉ちゃん・・・・・・」
一人の少女がタバサのいる部屋へと入ってくる。
両親をメイジに殺され身寄りがなかったところを、村長に引き取られ育てられているという幼な子エルザ。
「どうしたの?」
タバサは優しく語り掛ける。
「・・・・・・怖いの」
「そう、ならここで眠ればいい」
吸血鬼が潜んでいるということだけでなく、村人までもがピリピリしている。
年端もいかぬ少女にとっては、恐らく耐え難いものだろう。
「あのオジさんはいない・・・・・・?」
「うん」
タバサは頷いて頭を撫でてあげる。エルザはメイジに対して畏怖を抱いている。
まして少女でない今のアーカードの大人姿は、より一層不気味で怖く見えるだろうメイジである。

「そういえば、おねえちゃんムラサキヨモギのサラダを一杯食べてたね。苦いの好きなの」
タバサは「美味しかった」と頷く。
「でも食べてる時のおねえちゃんの顔・・・・・・おいしいものを食べてる顔じゃなかったよ?」
「・・・・・・性分」
タバサの淡白な反応にエルザは笑顔を見せる。
「・・・・・・おねえちゃんって、お人形さんみたいだね」
エルザの言葉に、タバサの瞳に若干だが陰が落ちる。
今の自分を形成しているもの――――――。


 その時、窓を叩き割るような音と複数の絹を裂くような悲鳴が響き渡った。
「隠れてて!!」
タバサの動きは早かった、奇襲も想定の範囲内。
エルザを手早くベッドの下へ隠すと、すぐさま杖を取り出して隣の部屋へと駆け込む。
血走った目の一人の男がキョロキョロと辺りを見渡していた。
数人の少女達はパニックを起こし、タバサを押し退けて我先にと部屋の外へ出ていく。

「アレキサンドルよ!やっぱり彼が屍人鬼(グール)だったのよ!!」
部屋の隅に退避しつつ、一人の利発そうな少女が叫ぶ。

 牙が生え、人間のそれとは明らかに別種のオーラを纏っていたが・・・・・・それは確かに昼間見たアレキサンドルであった。
少女を両手に二人ほど抱え、窓から逃走しようとしている。
しかし杖を持って駆けつけて来たタバサを見るやいなや、アレキサンドルは低く唸るような獣の咆哮をあげた。
気絶している少女達を一旦床に置くと、四肢を地につける。
それは肉食獣が獲物に襲いかからんとするような体勢。
自分に対する明らかな敵意。反撃せねば殺られるのは自分であろう、タバサはすぐに呪文を詠唱する。
『エア・ハンマー』。アレキサンドルが駆け出そうとする刹那のタイミングを逃さない。
視認できない空気の塊が、アレキサンドルのみを大きく吹き飛ばした。

 タバサは割られた窓から外に投げ出されたアレキサンドルを追撃する為に駆け出す。
窓から外を見ると、アレキサンドルが起き上がるのが見える。
タバサは躊躇いなく飛び降りると、自分にレビテーションをかけて着地した。
アレキサンドルは魔法を警戒しているのか、すぐに動き出さずタバサの様子を窺っているようだった。

 勢いよく手に持った杖を振り上げる。
単純なフェイントであったが、アレキサンドルは反射的にタバサへと飛び掛かった。
タバサは振り上げた杖をそのまま振り下ろし、同時に『ウィンディ・アイシクル』を放つ。
無数の氷の矢に刺し貫かれ、屍人鬼(グール)アレキサンドルはそのまま地面へと倒れた。

 そして土をかけると錬金で油へと変え、発火の呪文で屍人鬼(グール)を燃やし尽くす。
屍人鬼(グール)が完全に灰と化し、残った炎も消えたところでタバサは気付いた。
村全体に仄かに照らされている。それは先程の炎のような生半可なものではなく、もっと大きなものが燃えている灯り。
タバサは嫌な予感がして、すぐさま光源へと走った。




 燃えていたのはマゼンダの家、周囲には複数の村人達、そしてアーカードがいた。
アーカードはタバサへと一瞥をくれる。しかしすぐさま視線を戻し、怪訝な顔で既に燃え尽きつつある家を眺めていた。
家の様子を見る限り、かなりの勢いで燃えたのは明白だった。恐らく中にいた者は間違いなく死んでいるだろう。
村人達はそれぞれ罵声を家に、家主だった者に向かって浴びせかけていた。
タバサはその様子を見ながら、また新たに思考を巡らせていた。

 少し遅れて村長がやってきた。
主導となって動いたであろうレオンへと近付くと事情を問い質している。
数人の村人は燃えた家へと入っていき、状況を確認しているようだった。
その者達も合流すると、全員でタバサとアーカードのもとへとやってきた。

「吸血鬼は燃やしてやったよ」
レオンが敵意の滲んだ目で睨みながら言う。
「まさかそっちのお嬢ちゃんが騎士だったとはな、アンタも騎士かい?」
レオンの問いにアーカードは黙って頷き肯定する。レオンは皮肉の混じったような声で言う。
「そうかい、騎士様は二人いたのかい。そりゃありがたいこったねぇ」

「なぜこんな強行を・・・・・・?」
声のトーンはそのままに、タバサはレオンに向かって質問する。
「アレキサンドルが犠牲者の家の煙突で、これを回収しようとしてたのを見つけたのさ」
そう言って見せたのは何か布の切れ端だった。自慢げな笑みを浮かべながらレオンは続ける。
「派手な染めだろ?こんなのを着てるのはあの婆さんだけ、明白だ」
タバサは何も言わない、アーカードもただ黙って事を静観していた。

「小さい騎士様、一応感謝しておこう。村の娘達を屍人鬼(グール)のアレキサンドルと戦って守ってくれたそうだしな。
 でもな、昼間にアンタらが止めてなければもっとスムーズに事は済んで、娘達は余計に怖い思いをしなくて済んだんじゃねえのか?」

 他の村人達がそうだそうだと同意の声を上げる。
「やめんか、結果的に犠牲は出ず事件も解決したんじゃ。これ以上揉めても仕方なかろう!」
村長はレオン達を窘めた後、二人へと向く。

「申し訳ありません騎士様。村の者達はまだ気が立っているようですので・・・・・・。
 今日はもう私の家へと戻ってお休みください。こちらは私がなんとかしておきますので」

 この場にこれ以上長居しても仕方がない。
未だ興奮している村人達は村長に任せて、タバサとアーカードは黙したまま村長宅へと戻ることにした。


 戻る途中で、タバサとアーカードは情報を共有させる。
あらゆる状況証拠がマゼンダが吸血鬼であることを示していたし、事実アレキサンドルも屍人鬼(グール)であった。
結局囮となっていたアーカードを襲うことはなく、表向きはこれで吸血鬼討伐は済んだことになった。
しかしここに来て吸血鬼はミスを犯した。それは未だ本当の吸血鬼が潜んでいることを確信させ、露呈する結果となった。

 されどマゼンダが死んだことが意味するのは、吸血鬼は逃げの一手を打ったということである。
既に容疑者はかなり絞られているものの、個人までは特定出来ていない。
こうなった以上、村は多少なりと荒れることになるだろうが・・・・・・仕方ない。
後は明日無理やりにでも、容疑者全員を太陽の下に引き摺り出すだけであった。




「ねえ、おねえちゃん。どう違うの?ムラサキヨモギを摘むのと、わたしがあなたの血を吸うのと、一体なにが違うの?」
「・・・・・・どこも違わない」
「そうよね!!同じことなの、わたしがやってることと人間がやってることは・・・・・・」

 村のはずれの森の中、ムラサキヨモギの群生地で二人の少女が月夜の中にいた。
一人は先住魔法により伸びた木の枝に捕まり、さらに幼い容姿のもう一人の少女はそれを悠然と眺めて笑みを浮かべている。
村長宅に戻って就寝していると、エルザがタバサだけに「おねえちゃんに見せたいものがある」と、起こされた。
そしてメイジの生命線である杖は持って来ず、群生地へと連れてこられた。

 まんまと罠に嵌り、吸血鬼エルザの先住魔法によって枝が絡みつき身動きが取れない。
元々杖のない少女に対抗する術はなかったのだが、さらに体まで拘束されては最早如何ともし難い状況であった。

 月明かりの中、タバサは森の闇に閉ざされた虚空の気配に気付いて顔を向ける。エルザはクスクスと笑う。

「新しい屍人鬼(グール)よ。誰かの家で酒を飲んだのか酔って自分の家へと帰る途中だったみたい。
 おあつらえ向きに一人だったし、周囲にも他の誰もいなかった。とっても都合が良かったわ」

 そこには血走った目で獣のような唸りをする、元は薬草師であったレオンがいた。
あれほど吸血鬼を憎み、暴挙に出たレオンが屍人鬼(グール)になっているとは、皮肉でしかない。

 タバサは氷のような冷たい眼差しでエルザを睨みつける。
「・・・・・・どうしてここにきて私を?」

 傍から見れば既に事件は解決していた。
森を探索して吸血鬼が見つからなければ、晴れて任務は終了して騎士は帰ることになる。
結局村に住んでいたマゼンダが吸血鬼であったと報告され、新たに犠牲者が出るまでは騎士が派遣されることもなくなる。
であるのにも拘わらず、今更自分を襲えばまた騎士が派遣されて面倒なことになるのは目に見えていた。
折角用意した"吸血鬼はマゼンダ"という"隠れ蓑"すらも捨てることになる。

 太陽が昇ってから村人を陽光に晒すという、タバサ達の最後の手段も知られてはいない。
エルザからすれば、今ここで自分を襲うメリットは何一つない筈であった。


「そうね・・・・・・確かにおねえちゃん達をあのまま帰せば、またわたしは改めて獲物を狙えるわ。
 でもわたしはおねえちゃんが気に入ったの。どうしてもおねえちゃんの血を吸いたいの。
 本当はね、アレキサンドルに女の子を攫わせてストックしておこうと思ってたの。
 また誰かが新しく引っ越してくるまでは、それで飢えを満たすつもりだったのに・・・・・・。
 でもおねえちゃんがメイジだった所為で、屍人鬼(グール)が倒されて予定が狂っちゃった」

 エルザは「おねえちゃんは強いのね」と笑う。

「本当は、メイジは一人残らず吸い殺してやろうと思ってた。わたしは両親にメイジを殺されて大嫌いだから。
 だけどあのオジさん騎士が、これみよがしに持ち歩いていた筈の杖を持ってないなんておかしいと思ったの。
 最初に持っていた杖はフェイクで、実は本当の杖を携帯していてそれで戦うんだろうと考えた。
 それだけ自負のある強者であるとも認識したわ。前の騎士とは器が違うって・・・・・・。
 強い騎士を殺すには、見つかるリスクも倒すリスクもあるから、今回は身を隠すことを優先した。
 本当は殺してやりたかったけど、それじゃ本末転倒になっちゃいそうだったし・・・・・・だから策を練ったの。
 時機的にも、マゼンダが疑いが濃くなってきたところだったから丁度良かった。教養のない村人は短絡的で助かるわ」

 屍人鬼(グール)を指差して、エルザは説明を続ける。

「特にあのレオンは気性も荒くて、私の思う通りに動いてくれた。まず最初に屍人鬼(グール)が薬草師のレオンの家の近くで物音を立てる。
 何事かと思ったレオンは、当然外を見に行く。そして犠牲者の家の煙突にいる屍人鬼(グール)と化したアレキサンドルを見せたのよ。
 本当は偽の物的証拠である、マゼンダの服の切れ端を仕込んでたわけだけど・・・・・・逆にその証拠を回収しにきたように見せ掛けて、ね」

 暗がりに見えるエルザの顔は、既に見た目相応の少女ではなく・・・・・・狡猾で邪悪な吸血鬼のそれと化していた。

「姿をわざと見られたアレキサンドルは逃走。尤も暗がりではっきりとは見えなかったでしょうけどね。
 でもアレキサンドルと思しき姿を確認してくれるだけで充分。次に薬草師のレオンは、当然その煙突を調べるわ。
 そして仕込まれたマゼンダの服の切れ端を見つける。アレキサンドルらしい男と物的証拠である切れ端。
 それら二つの要素により疑いが確信に変わったレオンはマゼンダを吸血鬼、アレキサンドルを屍人鬼(グール)と認定。
 わたしの思惑通り、レオンはすぐさま村の男達を募ってマゼンダの家を火攻めにし・・・・・・まんまと殺してくれた」

 タバサは捕らえられたまま、静かに目の前の吸血鬼を話を聞いている。そこに焦燥の色は見られなかった。

「予定通りに隠蔽工作は成った。けど食事のストックだけは、おねえちゃんの所為で阻まれた。
 わざわざオジさん騎士がいないことを確認して、アレキサンドルをけしかけたのに・・・・・・おねえちゃんまでメイジとは誤算だったわ。
 それで結局次からは、行方不明を偽装して定期的に吸おうかなって。その為の手足として、レオンを屍人鬼(グール)にしたんだけど・・・・・・。
 どうしても、おねえちゃんのことが忘れられそうになかった。どうしても、おねえちゃんの血を吸いたいと思ったの。
 でもおねえちゃんがいなくなったら、まだ吸血鬼がいるってことがバレてしまう。そこで思いついたの。
 油断した村人なんて、またいつでも新しく屍人鬼(グール)に出来る。だから今はとりあえず、おねえちゃんを屍人鬼(グール)にしちゃえばいいんだって。
 それで屍人鬼(グール)となったおねえちゃんは、あのオジさん騎士と一旦帰るの。そして今度は全ての血を吸われる為に、またここに戻ってくるの」

 「とっても素敵でしょ?」とエルザはのたまう。
屍人鬼(グール)にされれば、それはもうその時点で己の死と同義である。
しかしタバサは微動だにせず、底冷えするような瞳で吸血鬼を見据え続けた。

「やっぱりおねえちゃんは今まで吸ってきた人間よりも最高よ。とっても気丈で、冷たくて・・・・・・。
 でも・・・・・・その顔が失意に変わり、絶望に染まる瞬間がとてもたまらないの。ねっ?おねえちゃん」

 エルザは歩を進める。タバサを屍人鬼(グール)にする為に。
「さっきおねえちゃんが摘んだムラサキヨモギのように、わたしがおねえちゃんの血を吸ってあげる」
牙を剥き出しにしたエルザは、ゆっくりとタバサの首筋へと顔を近づけていく。


 次の瞬間――――――エルザは数メイルほどぶっ飛ばされていた。
当然エルザには状況が理解できなかった。
いざ血を吸おうと牙を皮膚に突き立てた瞬間、顔面に衝撃が走ったのである。
倒れた体を起こして何事かとタバサの方を向く、そこには月に照らされた影が蠢き人型を作っていた。

「残念でした」
聞こえたのは少女の声。タバサとは別の・・・・・・闇夜にこれ以上ないくらいまでに響き、芯まで通る声。
「どうした吸血鬼、立てよ」
夜闇に浮かび上がるシルエット、声の通りそれは少女であった。
「一発殴られてハイお終いって訳にはいかないんだよ、小娘」

「な・・・・・・なんなの!?」
咄嗟にでた言葉はそれであった。
いきなり現れた少女が一体誰なのかも、何が起こったのかも把握できてない故の言葉。

「今から捕食される側が知っても詮無いことだ。とは言え、一つだけ教えてやろうかの」

 月の光に照らされて、黒髪紅目の少女は虫けらをジワジワと痛めつけるような邪悪な笑みを浮かべている。
目の前の少女の為に月は存在する――――――。
そう言われても納得できるほどに、その姿は幻想的に映えていた。
「貴様と同種だよ、吸血鬼」
そう言うと少女は無造作に、タバサを絡め捕らえている枝を引き千切る。
さらにどこから出したのか、杖をタバサへと渡す。

「私はこやつ、タバサはあっち」
そう言って少女アーカードは飄々と、吸血鬼エルザと屍人鬼(グール)レオンの方を次いで指さした。
タバサは頷き、杖を構え、屍人鬼(グール)の方へと体を向ける。

 エルザは認識する、今ここでとにかく殺す。
同種だろうがなんだろうが知らないが、殺さなければ"喰われる"。
そう直感的に感じた。次いで屍人鬼(グール)にも命令を下す、目の前のタバサを戦闘不能にしろと。


 距離がある。目前の敵はへらへらと余裕の表情を浮かべこちら見ていた。
タバサが屍人鬼(グール)の方へと走っていくのが見える。屍人鬼(グール)も命令通りそれに相対する形。

 先程の打撃のダメージがまだ体に残っていた。
近付いて白兵戦に持ち込むよりも、確実に先住魔法で攻撃した方がいい。
そして口語の呪文を唱えよう口を開けた刹那、またも衝撃で体が大きく吹き飛ぶ。
先程殴られたのとはまた別種の衝撃、失いかかる意識を必死に保つ。
薄れる瞳で必死に相手の姿を探す、悠々と少女はさらに離れた距離を歩いてきていた。

「.454カスール改造銃。ランチェスター大聖堂の銀十字、錫溶かして作った13mm爆裂鉄鋼弾だ。こいつ喰らって平気な化物(フリークス)なんかいないよ」
ゆっくりと・・・・・・しかし確実に距離を詰めてくる少女、その手には白色のなにか。気付けば腹部に大きな穴が開いていた。
飛び道具か魔法か。持っているものは杖なのか武器なのか。本当に同種なのか目の前の存在は。
エルザの頭の中で必死に警鐘がかき鳴らされる、しかし思考がおっつかない。

「だがこれを使うのはやはり無粋でつまらんかったな、弾数も限りがある」
なにやら魔法を使う気配がしたから咄嗟に撃ったものの、威力が大き過ぎた。
カスール改造銃ではなく、トミーガンの方にしておけば良かったと後悔する。

 エルザは朦朧とする意識の中、屍人鬼(グール)が斃されたのが感じられる。
視線を向けると青色髪の少女が、炎を背にして佇んでいるのが見えた。
まだ幼い少女ながらも、アレキサンドルを苦もなく倒してのけたメイジだ。自分が血を吸いたいと思った少女だ。
奇襲ならばいざ知らず、正面からの闘争で負けることなどありえはしなかった。

 視線を戻すと、黒髪の少女がもう目の前にいた。
最早抵抗する気力も残っておらず、体もまともに動かなかった。
「ふむ、もう終わりか呆気ない。所詮こんなものなのか」
アーカードは左手でエルザの顎を掴むと、無理やり立たせる。

「な・・・・・・なんで、よくわからないけど同属なら・・・・・・なんで・・・人間なんか、に・・・・・・」
エルザは精一杯に肺を引き絞り、必死に声を出す。
「さる事情で人間に飼われているだけだ、それ以上でもそれ以下でもない」
アーカードはエルザへと顔をぐっと近づけ瞳を覗き込む。


「それに・・・・・・闘争を始める者に、人間も非人間も男も女も子供も大人もあるものか。・・・・・・おまえは来た。
 殺し、打ち倒し、血を吸うために。殺されに、打ち倒されに、血を吸われるために。それが全て、全てだ」

 アーカードは淡々と続ける。

「闘争の契約だ、おまえは自らのカードに自らの全てをかけた、そういう事だ。なれば殺されなければならない。
 それを違える事はできない、誰にもできない唯一ツの理だ。神も悪魔も私もお前も」

 目を瞑りアーカードは一呼吸置く。エルザはただ聞き入っていた。

「少々説教臭くなってしまったな。王手(チェック)詰み(メイト)だ、あとはおまえの命に色々と聞いてみるとしよう」
そのままアーカードは口を大きく開き、露出させたその鋭利な牙を首筋へと立てる。
「ひ・・・・・・あ゛・・・が・・・あぁぁああ・・・・・・あ゛・・お゛・・・・・・ぉお゛・・・あ」
体がぷるぷると、小刻みに震え痙攣する。今までは吸う側であった彼女にとって、最初で最後の体験。
己が血を吸われ死ぬということを、混濁した頭で認識する。そして理解する、自分を吸血している少女の存在を。
エルザはアーカードから顕現した影に、下半身から少しずつ飲まれていく。

 あっという間にエルザはこの世にいた痕跡すら残さず、綺麗さっぱりこの世から消えてしまっていた。




 村へと戻り、村長に事の経緯を全て説明する。
マゼンダが吸血鬼ではなかったこと。レオンが屍人鬼(グール)になり死んだこと。エルザが吸血鬼であったこと。
それらの事実を村人達に話すか否かは村長に一任する。酷く悼み悲しんだ様子であった。

 タバサとアーカードは夜明け前に村を出た。
一日に満たない時間で全てが終わり、タバサは疲れを残しつつも顔に出さず口笛を吹く。

 タバサは改めてアーカードをジっと見つめる。
既に入念に調べていた筈の煙突から出てきたマゼンダの服の切れ端という情報から、未だ吸血鬼が存在するということを確信した。
密室の部屋に忍び込む為の侵入口は煙突しかなかった。故に吸血鬼は枯れ枝のように細い老人か、小さい子供。
エルザはマゼンダに罪を着せる為に、煙突から侵入して血を吸っていたのだろう。
小さな子供が恐ろしい吸血鬼のわけがないという固定観念を利用したのだろうが、結果的にそれは容疑者を狭める結果となった。

 煙突から入れそうな老人と子供。
村民全員ではなく、絞られ限られた容疑者を片端から太陽光に晒すだけなら大した労力もいらない。
いざその状況となれば、タバサとアーカードから逃げることも、当然倒すことも不可能である。
エルザが助かる唯一の方法は、夜陰に乗じて逃げることだけであった。
そして結局余計な手間を掛けることなく、エルザは夜の内に欲目による行動に出て返り討ちとなった。

 夜中に静かにエルザに起こされ、ムラサキヨモギの群生地へ案内される。
一緒の部屋で寝ていたアーカードが、そのやり取りに気付かない筈もなく。
自分の影に追従するような形で、アーカードは潜んでついてきた。
学院でタバサが吸血鬼の本を探している際に、アーカードが隠れていた時のように。
つくづく恐ろしく・・・・・・、そして頼もしい吸血鬼である。


「どうした?」
アーカードはタバサの視線に気付き声を掛ける。
「なぜその姿なの」
タバサはなんとなく、お髭の旦那の方が気に入ったので何の気なしに聞いてみる。
姿形が自在らしいのに、元の姿でなく何故少女の姿を取っているのか少しだけ気になったのだ。

「なぁに、所詮は膨大な私の過去を、膨大な私の未来が粉砕するまでの・・・・・・我が長き生の中の一時の児戯に過ぎん。
 精神は肉体に影響を受けるものだ、故に若いおまえ達を相手にする時は・・・・・・こちらの方が色々と都合が良いのさ」

「・・・・・・そう」
自分から聞いておいて、タバサは興味無いような声色で納得する。
黎明時の空を仰ぐと、遠目であるが雲間にシルフィードの姿が見えた。

「任務はどうだった?きゅいきゅい」
タバサとアーカードからのレスポンスはない。
「二人とも、きっと疲れてるのね。しょうがないのね」
雲の上の風韻竜の背の上で、二人はナチュラルにシルフィードの言葉を無視する。それもいつもの光景である。
タバサはポケットの中にあったムラサキヨモギの葉を口に入れる。
アーカードは夜明けの日の光を静かに眺め、ゆっくりと目を閉じた。



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