「ヴェストリの広場で待つ! トリステインが武門、グラモン伯爵家が四男、このギーシュ・ド・グラモンに向かってあれだけの言葉を放ったのだ。逃げるなよ平民!」
ギーシュは言い放つと返事も聞かずにばさぁっとマントを翻し、大股で食堂を出ていった。
なんだなんだ、決闘、決闘だって? と周囲にざわめきが広がっていき、さっきまで耕一と同じようにぽかんと口を開けていた彼の友人連中は、一転わくわくした顔でギーシュについていく。
なんだなんだ、決闘、決闘だって? と周囲にざわめきが広がっていき、さっきまで耕一と同じようにぽかんと口を開けていた彼の友人連中は、一転わくわくした顔でギーシュについていく。
「……やれやれ。やりすぎたかな」
子供と大人の境目。人との関わりに興味はあるがまだ人を思いやれない年頃。遊ばせすぎても締めつけすぎても歪んでしまう時期。
大学では一応教職課程を取っているが、教師なんて絶対無理そうだ、と耕一は嘆息して、帰ったら取るのやめようと決心した。
大学では一応教職課程を取っているが、教師なんて絶対無理そうだ、と耕一は嘆息して、帰ったら取るのやめようと決心した。
「決闘、ねぇ……」
何をやるのかはわからないが、ま、たぶん子供のケンカと変わるまい。
さて面倒な事になった。
挑発した(つもりはないが、目下の者からの諌言など素直に受け入れない性質だとわかっていた上で淡々と事実を指摘するだけでも、その言葉は挑発として十分な効果を発揮するだろう)のは耕一自身だから、悔やんでもしょうがないのだが。
傍らでは、ギーシュの友人の一人が自分を見ている。どうやら逃げないように見張っているらしい。
さて面倒な事になった。
挑発した(つもりはないが、目下の者からの諌言など素直に受け入れない性質だとわかっていた上で淡々と事実を指摘するだけでも、その言葉は挑発として十分な効果を発揮するだろう)のは耕一自身だから、悔やんでもしょうがないのだが。
傍らでは、ギーシュの友人の一人が自分を見ている。どうやら逃げないように見張っているらしい。
「ちょ、ちょっとコーイチ! あんた、何やってんのよ!?」
面倒だしこのまま逃げてもいいけど……ともう一度ため息をついたところで、聞き覚えのある怒鳴り声。
見ると、ルイズが席を立ち、肩を震わせながらこっちに歩いてくるところだった。
見ると、ルイズが席を立ち、肩を震わせながらこっちに歩いてくるところだった。
「何、と言われてもね……ちょっと教育的指導をしたらケンカ売られた、としか」
「……まあ、見てたから知ってるし、私もあの二股は酷いと思うけど、そうじゃなくて!」
「……まあ、見てたから知ってるし、私もあの二股は酷いと思うけど、そうじゃなくて!」
とぼけたような耕一の声に、ルイズが頭を抱える。
「どうすんのよ。勝てるの?」
「ま、子供相手に負ける気はないけどね」
「はぁ……ならいいけど。ご主人様に恥だけはかかせないでよね」
「努力するよ」
「……なんだか、大した自信ね」
「ま、子供相手に負ける気はないけどね」
「はぁ……ならいいけど。ご主人様に恥だけはかかせないでよね」
「努力するよ」
「……なんだか、大した自信ね」
ルイズと耕一のどこか余裕の態度に、ルイズの後ろについてきていたキュルケが、パチパチと瞳を瞬かせた。
「ギーシュはドットとは言えメイジ。戦争ならともかく、1対1だと平民じゃ逆立ちしても勝てないわよ? ルイズだって知ってるでしょう?」
「……そりゃ、知ってるわよ」
「……そりゃ、知ってるわよ」
魔法が使えないルイズだからこそ、それは誰よりもわかっている。貴族を絶対上位たらしめている魔法というものの便利さと、恐ろしさを。
しかし彼は、エルクゥは、そんな世界の枠外も枠外の存在であった。
キュルケは、ルイズの態度に何かを感じとったのか、すぐに肩をすくめた。
しかし彼は、エルクゥは、そんな世界の枠外も枠外の存在であった。
キュルケは、ルイズの態度に何かを感じとったのか、すぐに肩をすくめた。
「ま、あなたがいいならこれ以上は何も言わないけど」
「いいのよ。あの色ボケにもいい薬でしょう」
「いいのよ。あの色ボケにもいい薬でしょう」
そう言うルイズも内心、耕一の妙な自信には半信半疑であったが、これで確かめてみればいい、と考えていた。
―――口ほどにもなく弱かったら……覚悟しなさいよ。
「さて、じゃあ、ヴェストリの広場に行きますか」
ルイズのおっかないシグナルを背に受けて、耕一達は食堂を出た。
ヴェストリの広場は、人でごった返していた。
中央にギーシュが立っており、その周囲を囲むように野次馬が盛り上がっている。
中央にギーシュが立っており、その周囲を囲むように野次馬が盛り上がっている。
「諸君! 決闘だ!」
耕一の姿を見つけると、ギーシュが手に持っていた薔薇の花を、ばっ、と天にかざした。
次いで、周囲の野次馬から歓声が飛ぶ。
次いで、周囲の野次馬から歓声が飛ぶ。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの使い魔の平民だ!」
言っている間にも、野次馬の生徒はどんどん増えていく。
アイドルのコンサートよろしくギーシュは手を振り、歓声に答えていた。
そして、ようやく存在を認めた、とでも言うように耕一に向き直る。
アイドルのコンサートよろしくギーシュは手を振り、歓声に答えていた。
そして、ようやく存在を認めた、とでも言うように耕一に向き直る。
「とりあえず、逃げずにきた事は誉めてやろうじゃないか」
「……一つ、確認しておきたいんだが」
「なんだね、言ってみたまえ。謝罪なら受け付けないぞ」
「……一つ、確認しておきたいんだが」
「なんだね、言ってみたまえ。謝罪なら受け付けないぞ」
勝ち誇ったように、ギーシュは薔薇を口元に当てる。
「勝っても負けてもお前に得はないんだが、わかってるのか?」
「貴族の名誉を土足で踏みにじった平民に対する罰だ。十分に意味はあるさ」
「貴族の名誉を土足で踏みにじった平民に対する罰だ。十分に意味はあるさ」
……冗談とか強がりじゃなくて、本気で言っているんだろうか、と耕一はちょっと心配になった。
現代日本の高校生が相手なら、耕一の感性も正しかったのかもしれない。しかし、彼は日本の高校生ではなく……名誉と誇りと形式と伝統を重んじる、トリステイン貴族の子だった。
現代日本の高校生が相手なら、耕一の感性も正しかったのかもしれない。しかし、彼は日本の高校生ではなく……名誉と誇りと形式と伝統を重んじる、トリステイン貴族の子だった。
「だからお前、もし勝ったら『二股がバレて弱い平民に八つ当たりした奴』になって、もし負けたら『そんな弱い平民にも負けた奴』になるんだぞ。どっちにしてもお前は女の子からモテなくなる。わかってるか? さっきの騒動、女の子達の視線はかなり冷たかったぞ」
つまりは、『平民にバカにされた』という形式的な名誉に気を取られて、本質の部分を忘れているのであった。
まあ、ただ単に頭に血が昇っただけとも言う。
まあ、ただ単に頭に血が昇っただけとも言う。
「うぐっ!?」
耕一の言葉を聞いて、びしぃ! とギーシュが固まった。
そう、よく見れば、周囲を囲んでいる野次馬、大多数が血の気の多そうな男だった。
そう、よく見れば、周囲を囲んでいる野次馬、大多数が血の気の多そうな男だった。
「俺を痛めつけた後に、さっきの二人に『君の名誉を汚した平民は僕が罰を与えておきました!』とか言って許してもらえると思ってるのか? 本気で思ってるなら、女心の前に人の心を勉強してこい。彼女達が何に怒ったのかもわからないんならな」
「う、うぐぐ」
「まあ、弱い奴を痛めつけただけでキャーキャー言ってくれるような尻の軽い女が好みというなら止めないが」
「だ、黙れ! それ以上喋るなっ!」
「う、うぐぐ」
「まあ、弱い奴を痛めつけただけでキャーキャー言ってくれるような尻の軽い女が好みというなら止めないが」
「だ、黙れ! それ以上喋るなっ!」
ギーシュは弾かれたように薔薇を振る。
その花弁がふわりと花を離れ、地面に舞い落ちると―――ぴかっと光を放ち、地面が軽く抉れると共に、忽然と人影が現れた。
女性のシルエットを模した、青緑色をした鎧騎士。
その花弁がふわりと花を離れ、地面に舞い落ちると―――ぴかっと光を放ち、地面が軽く抉れると共に、忽然と人影が現れた。
女性のシルエットを模した、青緑色をした鎧騎士。
「行け、ワルキューレ! 奴にこれ以上囀らせるなっ!」
ギーシュが叫ぶと、鎧騎士―――ワルキューレは、猛然と耕一に向かって突進した。
人の肉体と違い、壊れる事をいとわないその動きは十分に速く、あっという間に距離を詰め、耕一の顔めがけて拳を振りかぶり、そのまま右ストレートを放ち―――耕一は、微動だにしないまま、それを顔にくらった。
ひっ、とどこからか息を呑む音がして―――ぐわぁぁん、という金属の打ちつけられた音と、ぐしゃあ、という金属の潰れた音が同時に響いた。
人の肉体と違い、壊れる事をいとわないその動きは十分に速く、あっという間に距離を詰め、耕一の顔めがけて拳を振りかぶり、そのまま右ストレートを放ち―――耕一は、微動だにしないまま、それを顔にくらった。
ひっ、とどこからか息を呑む音がして―――ぐわぁぁん、という金属の打ちつけられた音と、ぐしゃあ、という金属の潰れた音が同時に響いた。
「―――へ」
ギーシュが、息の抜けるような間の抜けた声を上げた。
「こりゃ、金属の人形か。さすがに響くなあ」
その場に立ったままの耕一が、本当の本当に『目の前』でひしゃげた人形の腕を、手で払うようにどけた。
片腕を失ったワルキューレは、払われただけの手に突き飛ばされるようにして横に飛ぶ。
片腕を失ったワルキューレは、払われただけの手に突き飛ばされるようにして横に飛ぶ。
「ば、バカな。僕のワルキューレが!? 青銅のゴーレムの腕が!?」
「なるほど。青銅なのかこれ。よく出来てるなあ」
「なるほど。青銅なのかこれ。よく出来てるなあ」
耕一の声はどこまでも平常で、ギーシュのみならず、目を伏せずに見ていた野次馬の大半が、言葉を失っていた。
昼下がりの学院長室。
秘書であるロングビルは席を外しており、その部屋ではオスマンだけがキセルをくゆらせていた。
秘書であるロングビルは席を外しており、その部屋ではオスマンだけがキセルをくゆらせていた。
「うむ。どれ」
オスマンが何かに頷いて、背の丈ほどある杖を振ると、机の上に置かれていた小さな手鏡が光り出した。
光が収まると、そこには……妙な場所が映し出されていた。
何かの陰なのか薄暗く、木目のある物体が見える。それは、どこか机の下から椅子を見上げている図だった。椅子の上に誰かが座ったら、その股間部がよく見えるに違いない。
光が収まると、そこには……妙な場所が映し出されていた。
何かの陰なのか薄暗く、木目のある物体が見える。それは、どこか机の下から椅子を見上げている図だった。椅子の上に誰かが座ったら、その股間部がよく見えるに違いない。
「うむ、ベストポジションじゃモートソグニル。ようやった! ようやったぞ!」
オスマンが喜色満面に頷くと、無人の秘書机の下から、小さなハツカネズミが飛び出してくる。
得意げに胸を張るネズミにナッツを頬張らせてやるオスマン。
得意げに胸を張るネズミにナッツを頬張らせてやるオスマン。
コンコン。
そんな平和な学院長室の日常は、ノック音により中断された。
「失礼します、オールド・オスマン」
「なんじゃ、ミス・ロングビルか。かしこまってどうしたんじゃ。ささ、早く机に座って仕事に戻りなさい」
「いえ、少しご報告が」
「ふむ。ま、いいから座りなさいミス・ロングビル」
「いいえ、まだ仕事は終わっていませんので……それでご報告ですが、ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようで、大きな騒ぎになっています。止めに入った教師もいましたが、集まった生徒の数が多すぎて止められないと」
「なんじゃ、ミス・ロングビルか。かしこまってどうしたんじゃ。ささ、早く机に座って仕事に戻りなさい」
「いえ、少しご報告が」
「ふむ。ま、いいから座りなさいミス・ロングビル」
「いいえ、まだ仕事は終わっていませんので……それでご報告ですが、ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようで、大きな騒ぎになっています。止めに入った教師もいましたが、集まった生徒の数が多すぎて止められないと」
オスマンは呆れたように肩をすくめた。
「まったく、ヒマを持て余した貴族ほど性質の悪い生き物はおらんな。まぁ座って話せばよかろう、ミス・ロングビル。それで、決闘なんぞしておるのはどこのどいつじゃ」
「いえ、すぐに出かけますので。一人は、ギーシュ・ド・グラモン。そして、もう一人が……生徒ではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔の青年のようです」
「いえ、すぐに出かけますので。一人は、ギーシュ・ド・グラモン。そして、もう一人が……生徒ではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔の青年のようです」
ロングビルの言葉を聞いた瞬間、オスマンの表情が一転、引き締められた。
「教師達は、騒ぎを止めるため、『眠りの鐘』の使用許可を求めております」
オスマンは目を閉じ、暫しの間沈思黙考した後、さっと杖を掲げた。
壁に掛かっていた大きな姿見がぱあっと光り、そこにはヴェストリの広場―――ではなく、何かの物陰が映っていた。部屋の中なのか、壁と椅子のようなものが見える。椅子に誰かが座っていたら、その股間部がよく見えそうだった。
壁に掛かっていた大きな姿見がぱあっと光り、そこにはヴェストリの広場―――ではなく、何かの物陰が映っていた。部屋の中なのか、壁と椅子のようなものが見える。椅子に誰かが座っていたら、その股間部がよく見えそうだった。
「おっと。間違えた」
再び杖を振ると、今度は人の集まる広場の風景が映し出される。
ちょうど、戦乙女を模したゴーレムが件の青年に殴りかかり……その腕が、自らの力によってひしゃげるところだった。
ちょうど、戦乙女を模したゴーレムが件の青年に殴りかかり……その腕が、自らの力によってひしゃげるところだった。
「…………」
「…………」
「…………」
平然として立ったままの青年を見て、二人の顔が複雑な表情を描いた。
『呆気に取られる』と『戦慄を覚える』を同時に混ぜ合わせたような、そんな顔だ。
『呆気に取られる』と『戦慄を覚える』を同時に混ぜ合わせたような、そんな顔だ。
「ミス・ロングビル。『眠りの鐘』の使用を許可する。どちらかが血を流した瞬間に鐘を鳴らすよう言っておいてくれたまえ」
「そのように伝えておきます」
「うむ」
「ところでオールド・オスマン」
「なんじゃね? ミス・ロングビル」
「私の机の下に仕掛けた遠見の鏡、次までに撤去しておかなければ叩き割りますね。修理費は学院長のポケットマネーから出しておきますので」
「カーッ!」
「そのように伝えておきます」
「うむ」
「ところでオールド・オスマン」
「なんじゃね? ミス・ロングビル」
「私の机の下に仕掛けた遠見の鏡、次までに撤去しておかなければ叩き割りますね。修理費は学院長のポケットマネーから出しておきますので」
「カーッ!」
学院長室は、今日も平和だった。
「―――で、これで終わりかい? こっちが話をしている時にいきなり襲うなんて、貴族の名誉ってのは随分と軽いんだな」
「くっ! それ以上の侮辱は許さんっ!」
「くっ! それ以上の侮辱は許さんっ!」
ぶん、ぶん、とギーシュが薔薇を振り乱すと、次々と光が生まれ、ゴーレムが生み出されていく。
「もう手加減はしない! 『青銅』のギーシュが奥義、七体のゴーレムによる同時攻撃を受けるがいい!」
素手だった最初の人形とは違い、剣や槍をそれぞれに持ったワルキューレ達が、ざっ、とギーシュの前に整列し、その武器を耕一に向けた。
耕一は、慌てる事もなく、ゆっくりと左手をあげ……覆うように、顔を隠した。
耕一は、慌てる事もなく、ゆっくりと左手をあげ……覆うように、顔を隠した。
「力で他に言う事を聞かせる。それは自然の摂理なんだろうな」
だからエルクゥは生まれた。復讐の力の為に。
「い、今更命乞いかっ!?」
「だが、全てを力で解決するのならば、それは人である必要がない。事に当たり、知恵を、情を、言葉を尽くす者を人と呼び、人こそが鬼を従える」
「だが、全てを力で解決するのならば、それは人である必要がない。事に当たり、知恵を、情を、言葉を尽くす者を人と呼び、人こそが鬼を従える」
だから、人でしか、鬼は飼えない。
「な、何を言っている!」
「お前は餓鬼だ。どうしようもない餓鬼。そして、餓鬼ならば鬼だ。ちっちゃな糞餓鬼とはいえ鬼ならば、力を振るう事に容赦はしない」
「お前は餓鬼だ。どうしようもない餓鬼。そして、餓鬼ならば鬼だ。ちっちゃな糞餓鬼とはいえ鬼ならば、力を振るう事に容赦はしない」
ぴぃん、と空気が張り詰め―――耕一の左手の甲に描かれた使い魔のルーンが淡く光を放ち始めたのを見る事が出来たのは、正面からそれを見つめていたギーシュと、最前列でじっと彼を見つめていたルイズだけだった。
「見せてやろう。我は鬼。人を狩る鬼。宵闇の狩猟者―――エルクゥ」
ギーシュには、手で顔を覆った耕一の眼が、赤く、鮮血のように赤く光ったように見えた。
「行くぞ。糞餓鬼」
微かに彼の足がブレた次の瞬間、耕一の姿は、整列するワルキューレの目の前にあった。
「ひぃっ!?」
「っ!?」
「っ!?」
ギーシュだけでなく、耕一にも驚きの表情が走った。
―――体が軽すぎる。
だが、鈍いよりは問題ではなかった。思考を切り替え、そのまま右腕を真一文字に一閃させる。
しゅりぃぃん、と耳障りな金属音がして、7体の青銅人形は、例外なく真っ二つに切り裂かれた。
腰から上下に別たれた人形達が崩れ落ち、文字通り土に還っていき……腕を振り抜いた風圧で、真後ろにいたギーシュが弾き飛ばされるように吹き飛んだ。
―――体が軽すぎる。
だが、鈍いよりは問題ではなかった。思考を切り替え、そのまま右腕を真一文字に一閃させる。
しゅりぃぃん、と耳障りな金属音がして、7体の青銅人形は、例外なく真っ二つに切り裂かれた。
腰から上下に別たれた人形達が崩れ落ち、文字通り土に還っていき……腕を振り抜いた風圧で、真後ろにいたギーシュが弾き飛ばされるように吹き飛んだ。
「がふっ!」
したたかに背中を打ち付け、息が漏れる。その飾りシャツの胸元が、風圧によるものか、ぱっくりと真横に切り裂かれていた。
次の瞬間、どんっ、と鈍い音と共に、目の前に耕一の顔があった。
滲む目で彼の右腕を見ると、自らの顔の横の地面にそれが突き刺さっている。ありえない、とギーシュは身体中が震えるのを感じた。
次の瞬間、どんっ、と鈍い音と共に、目の前に耕一の顔があった。
滲む目で彼の右腕を見ると、自らの顔の横の地面にそれが突き刺さっている。ありえない、とギーシュは身体中が震えるのを感じた。
「続けるかい」
ギーシュは言葉もなく、ぶるぶる、と首を横に振った。
耕一が地面から腕を抜き、立ち上がっても……ヴェストリの広場は、静寂に包まれたままだった。
耕一が地面から腕を抜き、立ち上がっても……ヴェストリの広場は、静寂に包まれたままだった。
「……『眠りの鐘』は、必要ありませんでしたわね」
「そうじゃな」
「そうじゃな」
ロングビルが許可の旨を報告に出て行こうとした時には、既に決着はついてしまっていた。
「神の左手『ガンダールヴ』……あらゆる武器を使いこなす、との事でしたが」
「武器なぞ使わんかったな」
「さすが伝説、と言えばよろしいのでしょうか。それとも、伝説と違う、と言えばよろしいのでしょうか」
「今の時点でわかる人間がいたら、そいつは始祖の生まれ変わりじゃろうて」
「武器なぞ使わんかったな」
「さすが伝説、と言えばよろしいのでしょうか。それとも、伝説と違う、と言えばよろしいのでしょうか」
「今の時点でわかる人間がいたら、そいつは始祖の生まれ変わりじゃろうて」
オスマンは、どうでもいい、というように髭をしゃくった。
「『眠りの鐘』についてはもういいじゃろう。ミス・ロングビル、ミスタ・コルベールをここに呼んでくれたまえ」
「かしこまりました」
「かしこまりました」
ロングビルは一礼して、学院長室を出て行った。
「さて、どうするかのう……」
オスマンは、思い詰めたようにため息をついた。
「……名残惜しいが、さすがにマジックアイテムを弁償するのは勘弁じゃしのう。はーあ」
そっちかよ! と肩の上にいたモートソグニルはツッコミを入れざるを得ず、少しだけ知能が上がったのだった。