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ゼロな提督-14



 神聖アルビオン共和国、スカボロー港
 ラ・ロシェールはじめ、各国からの船で賑わう港町。桟橋には大小様々な木製の船が停
泊している。浮遊する大陸の移動に合わせ、それぞれの目的地に近付く日に出発する事だ
ろう。
 港の中では山賊じみた荷役夫が声を張り上げ、樽やら木箱やらを運んでいる。港の隅で
は旅行者達が船の出発時間を待ちながら談笑している。港に倉庫を構える大商店には、せ
わしなく荷馬車やら行商人やらが出入りしている。店の奥には、大きな秤を前にペンを手
にした人物がいる。商品の重さを量って値段交渉をしているのだろう。
 そして港の内外には、沢山の警備兵がいる。港を出る際の荷物への関税で、役人と商人
が一悶着が起こすなんていつものこと。血の気の多い荷役夫達のケンカに、禁制品の取り
調べ、密航にスパイの捜索。港を出入りする船・人・物への監視を続けている。

 とは言っても、そこは内戦が10日ほど前に終わったばかりの新興国家。戦勝気分は既
に収まってはいるが、新たな支配階級となった貴族達の利権争いは続いており、その煽り
で軍の指揮系統はいささか混乱している。末端の一般兵士には規律のタガが十分行き渡っ
ていない。
 というわけで、夕日と共に堂々と風竜でスカボロー港に降り立ったルイズ達一行は、兵
士達の厳しい取り調べを受けたりはしなかった。身分証明書とアルビオン政府への身元保
全依頼書、そして港湾使用料だの人頭税だのと行った名目と共に、コッソリ多めに手渡し
た新金貨のおかげで。



     第十四話    白の国



「いいのかぁ?風竜で来てんだから、港に降り立つ理由は無かったと思うぜ」
 そういって鍔をカチカチ鳴らすのは、ヤンの背の荷の上に載せられたデルフリンガー。
 持ち主であるヤンは、背中と両手に大荷物を抱え、ヒーヒーいいながら歩いている。
 小さな皮のリュックを背負ったルイズが振り返る。
「いいんじゃない?むしろ、下手に密入国なんかして、アルビオン政府の目を盗まなきゃ
ならない方が問題よ」
 先頭を立つロングビルが、背中に担いだズタ袋を向けたまま声をかける。
「ま、私達は別に法に触れるような事をしに来たんじゃないんだし。敵情視察と言っても
スパイみたいな大層なモンじゃないし、『虚無』を追う事自体は教会に睨まれる様な事で
もないんだしね」
 ヤンは、そうだねぇ…と答えはしたが、かなり小さな声だ。自分の荷物を入れたリュッ
クを背負った上に、ルイズの荷物が詰まったトランクも両手に持たされているのだから。
さすがにこの状況では、彼の脳に向かう血の量が普段より少ないことだろう。

 それでも彼の目は、港を出て市街へ続く道を興味深げに観察していた。
 内戦が終結し、(恐らくは偽装だろう、とヤン自身が枢機卿に進言したが)トリステイ
ン・ゲルマニアとの不可侵条約も結ばれるというのだ。平和になって再建の鎚音が響くア
ルビオンには、ハルケギニア全土から行商人・山師・親戚に会いに来た人、何より帰郷す
る難民達などが押し寄せている。
 同時に、行方不明になった親族を捜す看板を掲げる人、手足を失い働けなくなり物乞い
に身をやつした元兵士や一般人、内戦終結に伴い仕事にあぶれた傭兵達…そんな明るい顔
をしていない人々ともすれ違う。

 ヤンは、背中の荷物が一瞬軽くなったのを感じた。
 と同時に、急にロングビルがヤンへ杖を振った。
 とたんに荷物の重さが戻ってくる。
「危なかったわね。今、荷物に『念力』かけられてたわ。リュックの口から中身を抜き取
られることもあるから気をつけて」
「へぇ…メイジのスリってわけか」
 呟くヤンがチラリと、ロングビルが横目で見ている方を見る。そこには、舌打ちするマ
ントの男が道ばたに立っていた。薄汚れた姿から察するに、内戦で儲け損なったまま職に
あぶれた傭兵のメイジだろう。

「ちょっとー、しっかりしなさいよね!ただでさえ、あんたぼんやりしてて狙われやすい
んだからね!」
 そんなルイズのゴチュウコクにも、ヤンは「ぅうぅ~」と呻くくらいしか返事出来ない
有様だ。
 代わりに答えたのは、デルフリンガー。
「あのよぉ、いっちゃーなんだけど、娘ッコの荷物が多すぎるせい…とは思わねーか?」
「あーら!これでもかなり減らしたんだからね。ヴァリエール家の者として、必要最小限
の荷物よ」

 先頭で聞いているロングビルは、荷物を入れるのにトランク選んでる時点で失格だわ、
と呆れていた。トランクに荷物を入れたら、手が塞がる。重くて腕が疲れる。身体の左右
のバランスも崩れて歩きにくい。とはいえ、旅慣れていない貴族のルイズにそこまで言う
気もなかったが。
「ともかく、スカボローの街に入ったら、すぐに宿をとりましょ。そして情報収集と、小
さめの荷馬車も買うとしましょうか」
 荷物の重さに潰されかけのヤンは、コクコクコクとせわしなく頷いた。




 なんとか夜更け前にスカボローの街に入った一行は、すぐに宿探しに入った。
 ロングビルは「安宿で良いじゃない」と眉をひそめたが、相変わらずルイズは「貴族と
して~」と主張。ヤンは、「どこでもいいから…」と荷物を早く下ろしたい。デルフリン
ガーにはどこでも同じ。
 ルイズもヤンも旅行資金は十分あるので、上の中くらいの宿で落ち着いた。

 幸い、内戦終盤には戦闘はニューカッスル城周辺に移動していたし、港湾施設とその周
辺は交易のため最優先で保護・復興されたらしく、街にさしたる戦乱の跡はなかった。 
 スカボローの街は、トリステインと似たような石と煉瓦と木で作られた町並みだ。もち
ろん美術様式とか流行が違うので、少々の差はある。だが言語はなまり程度の差しかなく
人種も同じなため、それ程の差はヤンには感じられなかった。治安も思いの外、悪くない。
宿も問題なく見つけることができた。
 宿の名前はザ・グランド・アット・スカボロー・スクゥエア…とかどうとか言う、大層
な名前と豪勢な外観だが、大荷物を抱えたヤンの疲労しきった頭を素通りしてしまった。
ポーターらしき従業員に荷物を押しつけ、案内された部屋に入るや、目の前のベッドの上
に突っ伏してしまう。
 二部屋に大きなフカフカのベッドがそれぞれ二つ。床は絨毯で、暖炉やリビングもつい
た、かなり豪華な部屋だ。


「では、ヤンはそっちの部屋で。私とミス・ヴァリエールはこっちの部屋使いますね」
 と言ってロングビルはルイズを隣の部屋へ引っ張っていく。
「ちょっと待ってよ。私は寮塔でも、ずっとヤンと同じ部屋だったし」
「あら、ダメですよ。ここは学院ではないので、年頃の淑女が殿方と同じ部屋で寝たりす
ると、あらぬ噂が立ちますわよ」
 ルイズはロングビルに隣の部屋へ引っ張って連れて行かれた。ちなみにヤンは、「ぁう
あ~」と、返事なのか何なのか分からないうめき声で答えた。ヤンの部屋の荷物の上にポ
イッと置かれたままのデルフリンガーは「はぁ…情けねぇ」と呆れ顔だ…顔があるなら、
だが。


「さて、それでは今夜はゆっくり休むとして、明日から本格的に動くとしましょうか」
 ルイズはさっそく荷物からクシやらネグリジェやらを取り出す。
 ロングビルは二つあるベッドの一つにポスッと座り、ルイズをじっと見つめている。
 メガネ越しの鋭い視線に、ルイズもようやく気が付いた。
「…えっと、何か用?」
「ええ、少し話をしませんか?というより、尋ねたい事があるのです」
「?、別にいいけど」
 ルイズは、並んで置かれたベッドのもう一方、ロングビルの前にちょこんと座った。

 ロングビルは普段の知的な雰囲気はそのままに、少々鋭い空気を漂わせている。
「あのビダーシャルというエルフの話、どこまで信じてますか?」
「ああ、それね。う~ん」
 ルイズは腕組みして首を傾げる。
「とても信じがたいような話ではあったけど…ヤンの話も、オスマンの恩人のシュトラウ
スって人の手記も、全部一致してるのよね。
 ヤンの言う大災厄とか、星の海で暮らしてたとかは、とても想像が付かないけど。少な
くとも虚無と聖地の話は本当と認めるしかないと思うわ」
「エルフの言う事を信じるのですか?『ハルケギニア中の貴族を敵に回しても、エルフだ
けは敵に回すな』と言われるほど、恐るべき宿敵ですが」

 ロングビルの視線はルイズを突き刺さんばかりだ。学院での秘書の目というより、フー
ケとしての目だろうか。
 その迫力に少々押されつつも、ルイズは言葉を続ける。

「まぁ、私も最初は怖かったんだけど、結構話の分かる連中みたい。確かに先住魔法は恐
ろしいけど、ビダーシャルは本当に戦う気が無かったわね。他のエルフはどうだか知らな
いけどね。とりあえず、聞いてたみたいに凶暴な連中じゃないようだわ。
 それに、聖地の話が本当か否かにかかわらず、ハルケギニアの人はエルフの話をちゃん
と聞くべきだと思えてきたのよ。聖地奪還運動とかの戦じゃなくて」
「そうですか…私も同意見です」

 フーケの目はそのままに、納得して頷くロングビル。

「それと、虚無の事なんですが…もし『虚無』の魔法が見つかったら、どうします?」
 不自然なほど真剣な様子で尋ねてくるロングビルの姿に些かの疑念を抱きつつ、ルイズ
は天井を見上げる。
「う~ん…『虚無』かぁ~、見つかればいいけど、見つからないだろうなぁ…」
「ですから、見つかった時です」

 ルイズは、更に頭を捻ってウンウン唸る。

「やっぱり~、誰にも言えないわよね。お城や教会に見つかったら、あたし、どうされる
か分からないもの。
 それに、あたし、それほど大きな事は望んでいないわ。そりゃ以前は、ヴァリエールの
名に恥じない、立派なメイジになれたらいいな、て思ってたわ。でも、そこまででなくて
もいいの。とりあえずは、まともな魔法が使えたらいいなって思うだけよ」
「あら、意外とささやかなのですね」
「だって、私の使い魔と来たら…魔法も使えないのに、剣すら振ってないのに、王宮によ
ばれちゃうわ、父さまだって頭を下げちゃうし。魔法が全てじゃないって思い知らされた
わ」
「そうですね。本当にヤンさんって凄い人ですよね」
 ルイズの言葉にロングビルも微笑んで同意する。ヤンの名が出たとたん、さっきまでの
鋭い空気が溶けていった事にルイズも気付く。
 小さな口の端が、にやぁ~っと釣り上がってしまう。

「ヤンの事、好きなんでしょ?」

 とたんにロングビルの頬が染まり、鋭くルイズに向けられていた視線が横へずれていっ
てしまった。
「…お、大人をからかうものでは、ありませんよ…」
 頬を染めつつも否定せず、ルイズはちょっと拍子抜け。
「まーったく、あんなオッサンのどこがいいのかしらねぇ?確かに頭は切れるけど、全然
パッとしないわよ」
「あら!十分素敵ですよ。確かに見た目は…正直、ぼや~っとしてて、態度はダラダラ、
猫背だし、やる気無いし、顔も別に良くはないし…」

 天井を見上げながらヤンの特徴を並べだしたロングビルは、だんだん声が小さくなって
しまう。しまいには、誤魔化すように咳払いをしてしまった。

「ま、まぁ、その、大人の魅力があるという事ですよ」
「ふーん、まぁ、そう言う事にしておこっかなあ~」
 いつも毅然とした年上の秘書が見せる恋する乙女の姿に、ルイズもニヤニヤ笑いが止ま
らない。
「ま、あたしは別に構わないから。ヤンはあたしの奴隷じゃないんだし、幸せになる権利
はあるわよね」
「ええ、そうですよね」
 ロングビルは裏表のない素直な笑顔で頷いた。




 次の日の朝。珍しく早起きしたヤンは、日の出と共に宿の窓を開け放った。
 遙か東の空の彼方にのぼり行く朝日を見て、カクッと頭が下がった。
「よー、珍しいじゃねえか。俺が起こすより早くお目覚めとはよ。おまけに、なにを残念
がってんだ?」
 デルフリンガーに、ヤンは恥ずかしげな苦笑い。
「うーん…『イギリスと言えば霧』と期待してたんだけどなぁ。やっぱり産業革命も起き
てない世界じゃ無理があったか。第一ここはロンドンじゃないし」
 ロンドンは霧が多いと有名だが、実際には霧ではない。産業革命によって石炭を大量使
用した結果のスモッグ。そしてハルケギニアのアルビオンにあるのはロンディニウム。
「えーっと、そりゃお前さんの国の話か?ワケ分からん」
 もちろんハルケギニア産の長剣には何の話か分からない。


「あら、ヤンも起きてたの?随分早いじゃない」
 と言って扉から顔を出したのはネグリジェ姿のルイズ。
「んじゃ、早速着替えて街を巡るわよ。時間は無駄にしてらんないからね!」
 といってポイッと手渡されたのは魔法学院の制服に下着類。
「はーい…旅装束があれば良かったね」
「しょうがないわ。出発が急すぎたもん」
 ルイズを着替えさせるヤンが着ているのも、いつもの黒服に白手袋。あとは防寒用にク
ローゼットの奥から引っ張り出したコートが壁にかかってるくらい。

 ルイズが着替え終えた頃に、ヤンの部屋の扉がノックされた。入ってきたのは既に着替
えを終えたロングビル。
「あらあら、皆さん早いですわね…もしかして、今朝もヤンさんがミス・ヴァリエールの
着替えを?」
「そーよ」「う、うん。まぁね」
 ルイズは当然のように、ヤンはちょっと恥ずかしげに答える。
「んじゃ、宿の人に朝食持ってこさせるわね」
 と言ってルイズが出て行くのを確認したロングビルは、ヤンを肘でツンツン突いた。
「ちょっと、あんまり甘やかしたらダメよ」
「いやぁ、これも執事の仕事らしいから」
「ダメダメ!あの子はあんたに甘え過ぎだよ。ちったぁ自立ってもんを教えないとね」


 ほどなくしてボーイ達がトレイに食事を乗せてやって来た。
 並べられた皿の上には、トースト、スクランブルエッグ、ベーコンに豆の煮物。後ほど
茶をお持ちします、と言ってボーイ達は部屋を出て行った。
 ヤンはドキドキしながら朝食を口にする。
「普通に美味しい…ね」
「そりゃ、そうでしょ」
 ヤンの言葉にルイズはキョトンとする。横で二人の会話を聞いてるロングビルはクスク
スと笑ってしまう。
「そりゃあ、ミス・ヴァリエールは貴族向けの豪華な食事しか食べてないからですよ。こ
こはその中でも、他国から来た貴族がよく利用する宿なので、味付けも外国人向けになっ
ているのです。
 まぁ、これからアルビオン料理をゆっくり堪能すれば良い事ですわ」
 その言葉に、ルイズとヤンは思わずしかめっ面を見合わせてしまう。

 ヤンの頭には「そんな所だけパラレルワールドしなくていいのに…」と期待と不安が入
り交じってしまう。他国からイギリスへ来た探偵が、食事について「期待する事は何もな
い」と言ったとかいう記憶があるが、果たしてそれがアルビオンで通じるかどうか…と。



 その日は朝からアルビオン旅行の準備でお買い物。
 ルイズが学院の図書館から拝借してきた地図は、トリステイン地理院発行のアルビオン
大陸全土図。もちろん高々度から撮影された写真を使っていない大陸地図なんか、大まか
でいい加減すぎ。早速、旅行者用の地図を買い求める事になった。
 また、歩きで巡っていられるほどノンビリしていられないので荷馬車も要る。ヤン自身
が「姫の結婚式に出席する大使をのせた親善艦隊に警戒すべき」と進言した以上、その艦
隊に関する何らかの報告をしないと、格好がつかない。もちろん枢機卿はそこまでルイズ
とヤンに期待してない、と二人も分かってはいたが。
 何より、ヤンにはルイズの荷物を担いでアルビオンを旅出来るほどの体力がなかった。

 というわけで、地図やら小型の荷馬車やら携帯食料やらを買って回るついでに街の情報
収集。
 さすがにアルビオン出身のロングビルは慣れたもの。あっちこっちの雑貨屋やら食料品
店で適度に値切りつつ必要なモノを買い揃えていく。そして値切り交渉ついでにレコン・
キスタの情報も集めていく。
 そしてルイズとヤンも、アルビオン料理の真実について情報を集めていく。二人とも、
別にそんなグルメ情報を集めたくなかった。が、露店で買った魚のフライを一口食べた時
点で思い知らされた。出発前にシエスタが言ってた事が真実であった事を。

 ルイズの頬が引きつる。
「な…何故なの…。魚のフライが、なんでこんなに不味くできるの!?」
 ヤンの眉間に、思いっきりシワが走る。
「油が、臭い…おまけにギトギトだ。しかも、これに酢をかけるって、なんなんだ…」
 庶民が食べる露店の料理。もちろん良い油なんか使ってないし、頻繁に交換もしない。
そしてワケも分からず露店の店主に、味付けにと多量の酢と磨り潰した緑の豆をかけられ
た。この豆が、何とも言えぬ意味不明な味を醸し出している。

 聞いてるロングビルはニヤニヤが止まらない。
「それがアルビオン料理ですよ!ミス・ヴァリエール、少し世界が広まりましたわね」
「こんな世界、広まらなくて良いわよ…」
 ヤンは諦めたように、脂ぎったフライと味があるのかないのか分からない豆のペースト
を食べていく。泣きそうになりながら。


 そんな余談はそこそこに、夕方には宿に戻って収集した情報を整理していく。宿の外国
人向け料理である夕食に感謝しながら。


 アルビオンは内戦終結直後のため、各地で領地紛争など混乱が見られる。
 契約終了した傭兵達が盗賊へ早変わりしている。取り締まるべき貴族は、未だ利権争い
で忙しく、治安に手が回らない。
 内戦で課せられた重税と荒れ果てた耕地のため、貴族連合に対する平民の支持は薄い。
 また、内戦時にレコン・キスタが攻城兵として採用した北部高地地方出身のトロール鬼
兵等の亜人が、未だに街中で我が物顔で歩き回り、住民達の頭痛の種になっている。
 だが意外にも治安回復と統治体制の再構築は整然と進められ、早期に新政府による支配
が大陸の隅々に行き渡りそうだ。
 もともと貴族連合は国民に好かれていなかったが、同時に王家からも既に民心が離反し
ていた…。


 アルビオンの地図をテーブルに広げて頭を寄せ合う一同。ヤンは腕組みして考え込む。
「この、新政府の統治がスムーズに受け入れられつつある…というのが意外だなぁ。いき
なり支配者が変わって、ほとんど旧支配層との軋轢が生じていないなんて」
 バンッとテーブルを叩いて立ち上がるルイズ。
「そーよ!そこが信じられないのよ!あいつら王家に弓引く逆賊なのよ!?なーんで誰も
彼も平気な顔していられるのよ!?」
 凄い剣幕でまくし立てるルイズをヤンが、まぁまぁ…となだめる。

 ルイズがとりあえず落ち着いたのを見て、ロングビルが語り出した。
「四年前のことです。アルビオン王家最後の王ジェームズ一世が、財務監督官だった王弟
たるモード大公を投獄したのですよ・・・」
 王弟はエルフの女性を妾として屋敷に匿っていた。ジェームズ一世はこの事実を知り、
王弟にエルフの引き渡しを命じたが、拒絶された。結果、王弟は投獄されエルフは殺害さ
れた。
「・・・当然、これらの事実は一般には秘匿されました。ですが、王が弟を投獄した事は
隠しきれません。モード大公が治めていたサウスゴータを中心とした地域の人々は、王を
恨みました。また、『聖地奪還』を悲願とする王家の者が、こともあろうに『聖地』を始
祖から奪ったエルフを妾としていたなど…。
 人の口に戸は立てられません。王家は、その権威を失墜させました」

 ロングビルの説明に、ヤンは納得して頷いた。ルイズも、渋々という感じではあるが納
得したようだ。
 最初に感想を述べたのはデルフリンガー。
「なーんでぇ。結局、ビダーシャルが語った真実とやらを知らないせいで起こったんじゃ
ねーか」

 なんとも身も蓋もない言葉だが、確かに真実だ。『聖地の門』が現在では暴走中と言え
る状態にあり、『門』が生む災害から世界を守っているのがエルフだ、と皆が知っていれ
ば起きなかったのだ。
 全ては無知と偏見が生んだ惨劇…ルイズも、そう認めざるを得なかった。

「う~、でも…でもでも、アルビオンの人だって、ずっと王家の庇護の下で生きてきたん
じゃないの~。それを、あっさりと…節操が無さ過ぎ!恩知らずよ!」
「ねぇ、ルイズ」

 ヤンが、真っ直ぐにルイズを見つめる。

「僕が、トリステイン王家に忠誠を誓ってるとか、恩義を受けているとか、思うかい?」
「え?」

 いきなりの質問に、ルイズは意図が分からず答えに詰まってしまった。

「えーっと…別に、そうは思わないわよ」
「それは、どうして?」
「どうしてって…あなた、異邦人じゃないの。トリステインは全然関係ないわよ。という
か、王家や始祖と無関係よね」
「そうだね。では、ゲルマニアの人々はどうだろう?」
「…へ?ゲルマニアに王はいないわよ。いるのは皇帝」
「そうだね。では…僕やゲルマニアの人々に、王家は必要かな?」
「なっ!?」

 ルイズは、驚愕のあまり目を見開いてヤンを見返す。

 何も答えないルイズの代わりに答えたのは錆びた長剣。
「いらねーなぁ。実際、王家と関係なく生活してきたんだから」
「な、な、なな…」
 ルイズは、自分が信じてきた価値観を根本から否定する答えに、言葉を紡ぐ事が出来な
い。
 代わりに、ロングビルが結論を口にした。
「つまり、こういう事ですね…『普通の人には王家も貴族連合も、どっちでもいい』と」

 バンッ!

 ピンクの髪を振り乱し、テーブルを力の限り叩く。
「バカ言わないでよ!そんな事!そんな事…あり得ない…忠義をなんだと」
「いや、あったし。このアルビオンで」
 率直な長剣の反論に、ルイズは何も答えられない。
 さらにヤンが論証を続ける。
「僕のような無力な平民から言わせてもらうなら、治安が第一だね。そして、税金が安け
ればありがたい。裁判が公平だったら、なおいいなぁ。
 それを提供してくれるのなら、忠義を立てるのはアルブレヒト三世でもクロムウェルで
も、誰でもいいよ」

 ルイズは、手を大きく振りかぶった。その手には杖が握られている。
 だが、彼女の手首を握りしめたロングビルに止められた。

「は!離して!」
「ミス・ヴァリエール、落ち着きなさい」
「だって!こいつは、王家を侮辱して」
「そして、彼に逃げられるのですか?召喚した時と同じく」
「!!」

 ルイズの腕からは徐々に力が抜けていく。
 とすっと小さな音を立てて椅子に体を預ける。
 ヤンが小さな主に尋ねた。

「ねぇ、ルイズ。君は、僕の主たりうるかい?」
「そ、それは…もちろんよ!そうあろうと、あたしは…」
「力に頼って驕り高ぶり、暴力で僕を支配しようと言うなら、全力で抵抗させてもらう。
君の手が届かない場所に逃げてもいい」
「う…」
「同じ事がハルケギニアの王侯貴族と平民達にも言えるよ。だからトリステインはゲルマ
ニアとの軍事同盟が必要になったんじゃないかな?」
 ルイズは、口を閉ざしたままうなだれてしまった。




「ちょっと言い過ぎたかなぁ…」
「ま、あれくらいが丁度良いって。そんなに気にしなさんな!」
 夜。
 しょぼくれてしまったルイズをそっとしておくことにして、ヤンとロングビルは酒場に
繰り出した。もちろん情報収集というタイギメーブンで。
 来たのは街の場末の安酒場。テーブルを囲んで祝杯を上げる兵士達。カウンターでチビ
チビ飲んでる貧乏貴族、再会を祝して乾杯する街の人などで賑わっている。
 ヤンとロングビルはカウンターに並んで座っている。

 ちなみに、ロングビルが飲んでいるのはアルビオン産ビールのエール(麦酒)。ヤンが
飲んでいるのは赤ワイン。ヤンには冷やされていないビールは、とてもではないが口に出
来なかった。

「それに、この旅はあの娘に現実ってヤツを教えてやるのも目的の一つなんだろ?んじゃ、
王族が絶対じゃない世界ってのも教えなきゃね」
「うーん、それはそうだよ。でも、ちょっと早すぎたかなって思うんだよ」
「だーかーら!あんたはあの子に甘すぎだっての!」

 そんな話をしていると、ウェイトレスがローストビーフを運んできた。ロングビルは代
金にチップ分にしては多すぎるコインを上乗せして手渡す。
「ねぇあんた。最近なにか面白い話とか耳にしてないかい?噂程度でいいんだけどさ」
 ウェイトレスは手早くコインを胸元に隠すと、お盆で口元を隠してヒソヒソ話し出す。
どう見ても手慣れている仕草なのは、いつもの事なのだろうか
 そしてウェイトレスの話に、二人とも目を見開いた。



 戻ってきた二人から聞かされた噂話に、部屋でデルフリンガー相手に愚痴っていたルイ
ズも驚きを隠せなかった。
「ウェールズ皇太子が、生きてるぅ!?」
 さっきまでの落ち込みもどこへやら。ルイズは目を輝かせて聞き入ってる。

 ちょっと赤ら顔のヤンが話を続けた。
「うん、僕もビックリしたよ。クロムウェルと並んで歩く皇太子の姿を見たっていう噂な
んだ。それも、あちこちから同じ噂が立ってる」
 しらふなままのロングビルも興奮気味だ。
「ニューカッスル城では王党派が全滅したって聞いてたんですけどね。本当なら、一大事
ですわ」
「そうだね。もし皇太子がレコン・キスタに恭順の姿勢を示したなら、王党派の残党やレ
コン・キスタに反感を抱いていた人々もレコン・キスタに取り込める。
 新支配体制が速やかに整いつつあるのは、もしかしたらそれが理由かも知れないよ」
「そいつぁ、おでれーた!王族自身が王家を裏切ったッてことになっちまうぜ!」

 デルフリンガーの言葉に、ルイズが絶句する。

「ま、ただの噂だよ。でも、これは追跡する価値はありそうだね」
 ルイズは強く頷いた。




 深夜。ルイズは「ぐぅ~すぴぃ~」とグッスリ寝ている。
 隣のベッドで寝ていたロングビルがむくっと起き出す。そしてルイズの寝息を確認する
と、そろぉ~りそろりと扉へ向かう。
 音もなく扉を開けて隣の部屋へ、ヤンのベッドへと音もなく忍び寄っていく。酒場でワ
インを何杯も飲んだヤンも眠りの中にいた。

 女の手が男の顔へと近付いていく。
 そして、手が触れるか否かというとき、男の口から小さな声が漏れた。


「・・・フレデリカ・・・」  


 伸ばされた手が凍り付いた。
 男の目にうっすらと涙が浮いているのにも気が付いてしまう。

 女は、しばし男を眺める。
 そして肩を落とし、再び忍び足で自分のベッドに戻っていった。

「男と女は、難しいわなぁ…」
 荷の上に置かれたデルフリンガーのつぶやきは、誰にも聞かれなかった。




 次の日、一行は朝のうちに宿を後にした。
 のぼり行く朝日の中、荷馬車の中でルイズが地図を広げる。
「この方向は、サウスゴータよね」
 隣のヤンが眠い目をこすりながら、手綱を操るロングビルに尋ねる。
「君が言う、会わせたい人っていうのはシティ・オブ・サウスゴータにいるのかい?」
 じっと前を見るロングビルは、淡々と答える。
「いえ、そこからちょっと離れた、小さな村なんですけどね。そこにアルビオン王家と縁
のある人がいるのを思い出したんです」
「へ~、どんな人?」
「それは…秘密、ですわ」
 前を向いたままのロングビルは、会ってからのお楽しみ、と言う以上の事は言わなかっ
た。


 アルビオン空軍基地ロサイスとロンディニウムを繋ぐ交通の要衝、サウスゴータ。
 途中の風景はのどかで平和なものだ。森に覆われたなだらかな丘陵。牧草地帯の間を縫
うように続く風化しかけの低い城壁。かつては戦場であったかも知れない草原も、今は羊
たちの食堂になっている。ところどころには石組みの城、白い壁に茶色いタイルの屋根を
持つ民家、朽ちかけのあばら屋みたいな家畜小屋が見える。


 そしてスカボローからサウスゴータへ向かう道では多くの人とすれ違った。
 内乱を逃れて避難していた人々が嬉しげに故郷へ帰る。新たな戦乱を求めた傭兵が不景
気そうな顔で港へ向かう。田畑や家畜を失い家も焼け落ちたであろう難民らしき暗い顔の
人達も。赤子を抱いた母親が乞食をしている姿もある。
 焦臭そうな雰囲気を漂わす一団が、若い女性二人を乗せた荷馬車に目がいく。が、ルイ
ズとロングビルがメイジの証であるマントを羽織っているのを見ると、舌打ちをして通り
過ぎていった。
「ルイズ、よく見ておくといいよ。正義や大義を振りかざして争う王侯貴族達の間で、平
民達がどれ程の迷惑をこうむるかを、ね」
 ヤンの言葉に、荷馬車から街道を見渡すルイズは何も答えなかった。




 ほぼ丸一日かけ、夕方に一行は目的地に到達した。
 サウスゴータ地方の森の中、ロサイスから北東に50リーグほど離れた村には、丸太と
漆喰で作られた民家が寄り添っていた。街道から外れ、荷馬車を森の中に隠して歩き、森
を切り開いた空き地にあるこじんまりした集落。藁葺きの小さな家が10軒程あるだけ。
 そして民家の周囲では、沢山の子供達が遊び回っていた。金髪・赤毛、瞳の色も様々。
薄汚れた服を着てはいるが、目はいきいきと輝いてる。

「あー!マチルダねーちゃんだ!」「わー!久しぶりー!」
 子供達はロングビルの事をマチルダと呼んで駆け寄ってきた。
「マチルダって、ミス・ロングビルの名前?」
 ルイズの問にロングビルは「まーね」とだけ答えた。
「みんな、元気そうだね!テファを呼んできてくれるかい?」

 はーい!という元気な声を残して子供達は奥の民家へ駆けていく。そしてすぐに、一人
の少女を引っ張ってきた。
「マチルダ姉さん!帰ってきてたの!?」
 少女はロングビルの顔を見るや、とたんに顔を輝かす。
「ああ。テファも元気そうだね。今日はお客を連れてきたんだ。
 二人とも。この子が例の、モード大公とエルフとの間に生まれた娘さ。ティファニアっ
て言うんだ」

 紹介されたエルフの少女が、怖々と頭を下げる。
 それを見ていたルイズと、死にそうな重さの荷物を背負わされて小道を歩いてきたヤン
は、なにかこう、おかしな感じがしていた。


 二人が最初に目を奪われたのは、少女の美しさ。少女はあまりにも美しかった。神々し
いまでの美貌を纏っていた。
 長いブロンドの髪は波打つ金の海のごとく輝く。粗末で丈の短い草色のワンピースから
延びる四肢は細くしなやか。素朴な白いサンダルまでもが可憐に少女を彩っている。
 次に気が付いたのは、少女の長い金髪からのぞく長い耳。ビダーシャルも長いブロンド
から長い耳をのぞかせていたのが思い出される。エルフだというのもすぐに分かった。

 だが、こう、どういえばいいのか分からない妙な違和感が消えない。人間じゃないとか
どうとか以前に、なにかが間違ってるというか、ありえないというか・・・。

 初対面の人を前にしながら、挨拶も自己紹介も忘れてエルフの少女を上から下までジロ
ジロ観察してしまう。
 二人の視線が、見知らぬ人間に怯えた少女の体の中央に焦点を合わせた。

 二人とも、疲れてるのかな?と目をこすってみた。
 目が霞んでいるワケじゃないと確認したら、目の錯覚かと見直してみた。
 目の錯覚でも無い事が分かった二人は、それの何がおかしいかを考えてみた。

 ほっそりとした体つき。華奢な手足。清楚で可憐な空気をまとう少女。長いブロンドの
エルフ。
 にも関わらず、胸だけが違う。何か違う。いや絶対違う。

「あ・・・」「あり・・・え・・・」
 二人のつぶやきに、エルフの少女が少し首を傾げる。揺れる金髪が少女の胸の上を流れ
る。
 ルイズの引きつる唇が、ゆっくりと開いた。
「ありえないぃっ!!」
「きゃぁっ!」

 ルイズが叫ぶ。
 少女が驚いて飛び上がる。
 次いで少女の胸も飛び上がる。

 少女が着地した。
 一拍おいて少女の胸も、ぽんわわわん…と言う感じに上下左右に揺れた。
 ヤンの目も少女の胸の頂点を追って上下左右に
「何見てんだよっ!!!」
  バシィッ!
 マチルダ姉さんのミドルキックがヤンの脇腹にクリーンヒット!
「い!いや!僕は、そんな!ただ、あまりの、その」
「あまりの、なんだー!」
 哀れにもボコスカドコスカと、どつかれるヤン。「おいおい、その辺にしとけよ」とい
うデルフリンガーの声も虚しかった。

 エルフの少女は、神々しいまでに清純な美しさを持っていた。
 だが彼女の胸は、悪魔のごとき破壊力を持つ巨大さだった。
 どうみても細い体躯とのバランスがあってない巨乳。あまりに人間の範疇から外れてい
た。なので、それをバストと認識する事が、二人の脳では時間がかかったのだ。

  ぐわし!「ひうっ!」

 ルイズの両手が、エルフの「ばかでかい」という言葉ですら収まらない胸を無言でつか
んだ。初対面の小さな少女による予想外の行動に、エルフの少女は驚いて身がすくみ、動
けない。

「なにこれ」
「む、胸・・・」
 かろうじて、蚊の鳴くような声を押し出すエルフ。

「嘘」
「嘘じゃないわ。ほんとに胸・・・」
 もう金髪の少女は、瞳に涙を浮かべている。

「どう考えてもおかしいわよ。身体と釣り合いが取れて無いじゃないの。程度があるじゃ
ない、程度って。私はこれ、胸って認めないから。ええ、断固、認めないから。『胸っぽ
いなにか』って定義する事にしたから」
「あう。あうあうあう。あうあう」
「あんた、あたしへのあてつけ!?恨みでもあるの??謝りなさいよッ!謝ってよ!私に
謝ってッ!」

「あんたもおちつけってのっ!!」
  ボコッ!
 ルイズもマチルダに頭をグーで殴られた。

                   第十四話    白の国   END



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