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銀の左手 破壊の右手-05


 最終話『銀の左手 破壊の右手』



「行くぜガンダールヴ、気合入れろー!」
「おう、任せとけデルフ!」

 一度制御を失敗したとはとても思えないほど『破壊の杖』は手に馴染む。
 デルフリンガーが補助していると言えどまるで手の延長の如く馴染むその感覚は、才人の決意を『破壊の杖』が汲んでいるからだ。
 ARMは精神感応兵器、人の精神を喰らって力と為す武器である。
 ただの少女でしかなかったアナスタシアが人間すべてを絶望させたロードブレイザーと互角に渡り合うことが出来たのは、偏にアガートラームやアークスマッシャーの持つその性質にある。
 アナスタシアの力の源は人ならば誰もが持つその欲望、『みんなと一緒に生きたい』と言う他の英雄としての死を求めるような軽薄な人間では到底比肩しえない強大な欲望の心をアガートラームが力としたからだ。
 ならば今の才人の心は? ガンダールヴの力によって増幅されたその感情が『破壊の杖』に作用したとしても不思議ではない。

「心を研ぎ澄ませろ! 空間に作用するその力ならあの破壊の光相手でも押し負けることはねぇ」

 その感情は『守る』だった。

「あとは照準だ! あの右手だけを的確に打ち抜け、お前ならそれが出来る筈だ!」
「分かった、やってみる」

 自らの責任でこんなことになってしまったことに、自覚なく力を奮うことにあれほど嫌悪を抱いていた筈の自分があんなことをしてしまったことに。
 少しでも償い、そして今度こそ守る。
 それが才人を突き動かす理由、アークスマッシャーに注がれる力の正体。

「ただはずしたら全部諸共に木っ端微塵だけどな」
「ちょ、それを先に言えって!?」
「大丈夫だ相棒、お前なら出来る。このデルフリンガー様が保障してやるぜ」
「――分かった」


 破壊の力が右手に宿る、目の前の絶望を打ち砕く為の破壊の力が想いを糧に駆動する。
 其れはまさしく破壊の右手、誰かを守るため駆動する力、鋼の左手を持つ誰よりも優しい一人の青年の残した想いの形。
 いつしか才人は『破壊の杖』の以前の使い手が使っていた構えを再現していた。

 ――ロックオン

 極限の集中によってどんな小さな的だろうと確実に打ち抜く、ある渡り鳥が残した技。
 ガンダールヴの力が『破壊の杖』を振るうに最適の形態を導いたのか、それとも『破壊の杖』に残された記憶を読み取ったのか、或いは……
 いつしか才人の指の奮えは止まっていた。

「いけぇええええええええええええ」

 才人はデルフの言葉に引き金を引き絞り。

「だめぇええええええええええええ」

 アナスタシアを庇おうと飛び込んで来た少女の姿に、咄嗟に銃口の向きを逸らした。
 才人が無力感に打ちひしがれている時間と、ルイズがアルビオンに向かう時間。
 前者があまりにも長すぎた故に、後者があまりにも早すぎた故に起きたことだった。




● ● ●


 ありとあらゆる障害を爆発で吹き飛ばして辿りついたあの場所で、ルイズは一人の少年と対峙していた。
 言うまでもなく才人だ、彼の持つ『破壊の杖』がどれほど危険なものかルイズは身を以って知っていたが故に、ルイズは才人の決死の覚悟を力技で押しとどめた。
 アナスタシアごとワルドを殺すつもりだと思ったのである。
 ワルドはある意味自業自得と諦めることが出来る、だがアナスタシアは別だ。
 彼女はルイズの為に命掛けでこの場に残ったのだから……
 故に自分の命と引き換えででも助けると言う覚悟をルイズは決めていた。
 アガートラームが認めたのはその心、誰かを助けたいと一心に願うその心こそが仮初とは言えアガートラームが自らを振るうに値すると認めたただ一つの理由だった。
 だからこそ、二人のすれ違い悲劇そのものだ。
 ほんの少し運命が違えば共に歩むかもしれなかった一人の少年と、一人の少女、二人は些細な誤解故に互いに殺しあっていた。

「やめてくれっ、あんたに銃を向けたくない」

 そう言いつつも才人は光に向かって狙いをつけるのをやめはしない、それがルイズを激昂させる。

「殺させはしない、アナスタシアは私が守るんだからっ」

 それは本当に些細な誤解だった。
 才人はルイズが二人に些細な傷さえ付けず助けようとしているのだと思っていた。
 ルイズは才人が二人を諸共に殺して破壊の光を止めようとしているのだと思っていた。

 だから才人はルイズの隙を見てワルドの右腕だけを射抜こうとしていた。
 だからルイズは才人を無力化してから命と引き換えに光の中へ飛び込みアナスタシアにアガートラームを手渡そうとしていた。

「やめろ嬢ちゃん! 相棒もいい加減に……」

 二人が優しすぎるが故に起きた悲劇は、その名に恥じぬ悲劇的な結末に終わった。



 才人は自らの体に生えた氷の矢を才人は呆然として顔で見つめていた。
 趣味の悪いオブジェの如く飛び出した氷塊に手を掛け引き抜こうとしたところで遅れて感じる激痛。
 まだ何もしてない……強烈な無念を残し才人はその場に崩れ落ちる。

「タバサ……」

 いくらなんでもやりすぎだとルイズは言おうとしたが、その前に才人に突き立った矢と同じくらい鋭い一言がルイズを貫く。

「時間がない、急がないと間に合わなくなる」

 ルイズは知らない。
 タバサがアナスタシアのことをイーヴァルディの勇者の如く見ていることも。
 タバサの母親がタバサを庇って毒に倒れて以来、氷のような決意を胸に抱いて生きてきたことも。
 今度こそ喪わないと言う悲壮な覚悟と共に才人へ向かってウインディ・アイシクルを放ったことも。

 そしてタバサも知らなかった。
 才人がタバサに勝るとも劣らない覚悟でその銃把に手を掛けていたことも。
 『破壊の杖』を通じて才人の心が音叉の如く同じ“力”を持つ者たちの間に響いたことも。


 ――助けたい。

 周囲がその思念に気がついた時、胸から血を流しながら才人は今度こそ引き金を引き絞っていた。 
 『破壊の杖』から放たれた光がワルドの右腕だけを正確に打ち砕く。
 極大の威力を極小に圧縮した光は破壊の力だけを虚無へと飲み込み、はじめから何もなかったように消え去った。
 だが使い手が血を流し、意識が闇に落ちようとした状態ではいくら『破壊の杖』でもその力を発揮しきれなかったのか。
 消しきれなかった破壊の光は制御を失って暴れ狂い、四方八方にその力を撒き散らす。
 その破壊の力に向かって、ルイズはまっすぐに向かっていった。
 その左手に銀の光を携えて。

 ――行け、ルイズ!

 自分たちが傷つけたはずの少年の声援にその背を押されながら。



● ● ●


 走る。
 罪悪感と希望を胸に抱いて。

 走る。
 大切な人の元へと。

 走る。
 向かってくる光を斬り飛ばして。


 まっすぐに光立つあの場所へ。
 何処までも再現なく高鳴る胸。
 白い粒子となった剣の欠片がスクリーンとなって見知らぬ光景を移す。

 ――行ってらっしゃい才人、あんたはどっか抜けてるから事故に会わないように気をつけるのよ。
 見たこともない材質で出来た四角い塔が立ち並ぶ異界の街で平穏な毎日。

 ――隊長、本当にこのような卑劣な任務を上層部は命じたのでありましょうか!?
 出世すればするほど痛いほどに実感してしまう愛する祖国の腐りきった恥部。

 ――アナスタシアと申したか、と、特別にファルガイアの支配者たるわらわの『友達』となることを許すぞ、べ、別に寂しい訳ではないんじゃぞ? お主だからこそ許すのじゃ、いいなっ、特別じゃからな!
 本当に普通の女の子として生きたあまりにも短すぎるその一生。


 銀の左手が伝える多くの思いを受け止めて、ルイズは白く染まる世界を走っていく。
 これまで会った数多くの人とそれと同じ数の想い、これまで気づかなかったあまりにも広い世界。


 ――どんな時だって、わたしは一人じゃないってことに。

 アナスタシアが来てくれたからこそ気づくことが出来た世界。
 世界はこんなにも広くて、輝いていて、無限の可能性に満ちている。
 守りたい、これから会うかもしれない人たち、見るかもしれない景色、掴むかもしれない未来を。
 アナスタシアもこんな気持ちだったんだろう。
 才人って男の子もこんな気持ちだったんだろうか?

 走れ、走れ。
 あの光の先にいる、大切な人のところへ。

 アナスタシアのところへ。

 ルイズは走る、ただひたすらにまっすぐに駆け抜けていく。
 一人の少年が作った道を、ただこれからくる未来だけを見据えて。

「アナスタシアー!」

 手を伸ばし、その手を掴む。

 ――どんな時でも、あなたはひとりじゃないよ。
 ――つないだ手は離さない。

「馬鹿ねルイズちゃん、わたしなんかのためにこんなに傷だらけになって」

 ――信じてるあの日の絆
 ――強い思いが

「馬鹿はあんたのほうじゃない、なんで世界を救う為にあんた一人が犠牲にならなきゃいけないの!」

 それは怒り、“英雄”と言う理不尽とそれを必要とせずにはいられない世界に対する怒りだった。そして結局全て一人で背負い込んでしまったアナスタシアへの怒りだった。

「なんで一人きりで戦ったのよ! なんで助けてって言えないのよっ! なんで一人で全部抱え込もうとするのよ……」

 血を吐くような叫び、それはルイズの剥き出しの感情だった。自分の命を引き換えにしてでもと考えていたルイズにこんなことを言う資格はないかもしれない、だがそれでもルイズは叫ばずにはいられなかった。
 何故、アナスタシアだけがこんなに苦しまなければならないのか?
 何故、アナスタシアだけが英雄にならねばならないのか?

 ただ悲しくて、悔しくて、ルイズはアナスタシアに向かって言葉を叩きつける。
 ルイズの様子にアナスタシアは困ったように微笑むと。

「ごめんね、ルイズちゃん」

 アナスタシアはゆっくりとルイズを抱きしめ、そして……

「アナスタシア!?」

 光の粒子となって崩れるように消え去っていった。
 アナスタシアの手を握っていたルイズの手が空を切り、少女の嗚咽が巨大なクレーターを穿たれたサウスゴータの街に木霊する。

「ルイズ……」

 周囲の者たちが心配げに見守るなか、ルイズは声もなく泣き続け――唐突に心に届いた言葉に顔を上げた。
 “みんなでいっしょに明日へ行こうね”

 ――同じ夢を探し続けてる。


  ● ● ●


「参ったなぁ、みんなともこれでお別れか」

 どこまでも白く清浄な世界で、かつて居た事象地平の彼方よりもなお白い本当に何も無い世界でアナスタシアは笑っていた。
 あっけらかんと、まるでこれまでの日常に少しも悔いがないとでも言うように。

「あーあ、もっとやりたいことあったのに」

 そう言ってアナスタシアは笑い、その頬に一筋の雫が伝う。

「本当に、もっとたくさん……」

 無理やりに作られていた笑顔がくしゃりと崩れる、普段の挫折など知らないと言った様子の彼女からは想像もつかないほど歪んだ顔で泣き続ける今のアナスタシアは弱弱しかった。

「たくさんたくさん、したいことがあったのに」

 ――生きたかったのに。

 そう呟いた言葉には悲しいくらいに力がなかった。
 最後にルイズに言われた言葉は、どうしようもなく図星だった。
 確かに自分は余計なものまで背負いんでいたのだろう、大切な人が傷つくのが見たくなくて、見ず知らずの人が苦しむのを見たくなくて、ファルガイアの大事が紅に染まるのを見たくなくて。
 ただ一人で、ロードブレイザーに挑んだのだ。
 それを間違っていたのはアナスタシアは思わない、自分が傷つくことには耐えられてもマリアベルやルシエドが傷つく姿を見るのはどうしても嫌だったから。
 だが今さらになって思う。
 もしあの時アシュレーがしたように世界中の想いを束ねられれば、自分はファルガイアで生きることが出来たのではないのか?
 ヴァレリアの人間が聖女の刻印を背負って自らに杭を刺すような行いに走ることもなく、降魔儀式によってアシュレーに仲間の隊員を殺させると言う出来事が起こることもなかったのではないか?
 歴史にもしは禁物だが、アナスタシアは思ってしまった。

 ――生きたい。

 一人ではなくみんなと一緒に、
 マリアベルやルシエド、アシュレーやルイズ。ファルガイアとハルケギニアに住むまだ会ったことない大切な相手になるかもしれない誰かと、一緒に生きていたい。

 でもそれはけして叶わない出来事だ。
 なぜなら今アナスタシアはその存在すら失って、僅かに残った意識すら拡散させようとしているのだから。
 大切な人たちと、永久に会えなくなろうとしているのだから。

「嫌だよ、生きたいよ。誰か助けてよ……」

 そのあまりの心細さにアナスタシアの口から初めて弱気な言葉が洩れた。
 それがきっかけだった。

「え?」

 何時の間にかアナスタシアの足元に転がっていたアガートラームとアークスマッシャー、それがゆっくりと紫と銀の光を放ち始めた。
 二つの光は鼓動のように明滅し、それは次第に早くなっていった。

 そして……光はゆっくりと一人の青年の形を取った。
 左手を失った、青髪の、人のよさそうな笑顔を浮かべた青年。
 彼は何も言わなかったが、しかしその想いはアナスタシアには痛いほどに分かってしまった。

 そっか、英雄はもういらないんだね。

 青年はごめんと一言謝って、まるで塵のように崩れ去っていく。
 アナスタシアの代わりとばかりに、微笑みながら“未来”を守護した青年は崩れていく。
 その青年に手を伸ばそうとして、青年の言葉にアナスタシアは振り返った。

 帰るといい、自分の願う場所に。

 振り返ったアナスタシアの先には二つの道が出来上がっていた。
 一つはマリアベルやアシュレーの居る、彼女が守った大切な世界へ続く道。
 もう一つはルイズや才人の居る、彼女を守ろうとしてくれた大切な者たちが居る世界へ続く道。
 悩む時間はほとんどなかった、アナスタシアはほとんど反射的にずっと願い続けた故郷への道を踏み出し、

「アナスタシアー!?」

 もう一つの道に向かって、全力で走り出していた。
 走り去る背中、それを見つめながら青年は笑い、そして光の粒子となって消えた。
 彼の名は“未来”
 未だ見ぬ可能性を守る、心優しき守護獣。



 エピローグ


「盗まれたぁぁぁぁあ!?」

 青空に一人の魔法少女の叫びが響く、その視線の先にはかつてアガートラームの剣士だったこともあるパン屋の倅と聖女の末裔が脂汗を顔中に浮かべながら正座させられている。
 周囲には冷ややかな目で彼を見つめる仲間たち。
 そぁそれもしょうがない、此処でアガートラームを墓とすることを決めたのはアシュレーだし。カノンはかつてティムが言った「大事な剣なんでしょ? こんなところでお墓にしてて盗まれちゃわないかな?」と言う言葉を「そう簡単に抜けるものでもない」と否定したのだから。
 その結果として今の状況がある。

「だがおかしい、二人の言葉通りアガートラームは簡単には抜けない」

 ならばかつてそうしたように岩盤ごと削り取って言ったかと言えばそうではない、其処にはアガートラームが刺さっていた跡がはっきりと残っているのだから。

「ひょっとしてさ……」

 蒼い蒼い空、それを見上げながらアシュレーは言った。

「帰ったんじゃないかな、アナスタシアのところへ」

 遠い目、同じ青空の下にいるだろうアナスタシアに問いかけるようなそんな視線。
 ずっとずっと続いていく終わらない物語、彼女もその物語を紡げるようにと。

 ――祈りと共に吐かれた言葉は「そんなわけあるかー!」と言う叫びに遮られた。双子の兄妹を抱えたマリナがその様子を心配そうに見ていた。

 物語は続いていく。
 蒼と赤の二つの月と、どこまでも晴れ渡った空色の景色の下で。
 いつまでもいつまでも……


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