あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-06


ルイズの部屋では、人修羅が数冊の本を前にして頭を抱えていた。
ハルケギニアの言葉はなぜか理解できるが、文字の判らない人修羅は、ルイズに文字を教わっているのだ。

「じゃあ今日はここまでにしましょ」
そう言ってルイズが本を閉じる、その本は『イーヴァルティの勇者』という絵本で、ハルケギニアの人間なら誰もが知っていると言われるおとぎ話だった。
「不思議だな、すらすら頭に入ってくるよ。英語は赤点ばかりだったのに」
人修羅は両手を上に上げて背伸びのポーズをした、ううんと唸って背中を反らすと、深呼吸してだらんと腕を下げる。
「英語?」
「うん。俺がいた世界じゃ、国が違うと言葉が違うのが当たり前だったんだ。外国の言葉を学校で習うんだけど、物覚えが悪くてさ」
「とてもそうは思えないわ、見たこともない文字を、貴方三日で読めるようになったのよ」
「たぶん、ルーンの効果じゃないかな」
「…かもしれない。これも後でオールド・オスマンに報告した方が良いわね」
「そうした方が良さそうだね」

人修羅は椅子から立ち上がると、絵本を本棚にしまった。
ルイズは寝る準備をするのか、上着を脱いで椅子の上に置いていく。
召喚されたばかりの頃と違って、ルイズは人修羅に裸を見せなくなっていた、人修羅を一人の人間として意識したせいか、思い出すと顔が真っ赤になる。
「あ、そうだ。ルイズさんにちょっとお願いがあるんだけど」
「何?」
肌の透けにくいネグリジェに着替えたルイズが振り向くと、人修羅は服を着て外に出て行こうとしていた。
「この間言っていた…トリスタニアだっけ。そこにお店とか無いかな。よければシーツとか買いに行きたいんだけど」

シーツと言われて頭にクエスチョンマークを浮かべたルイズは、人修羅の現状を考えてみた。
人修羅に渡した寝具は毛布一枚、今まで文句を言わなかったので気付かなかったが、決して良い仕打ちとは言えない。
「あ、そうね。悪かったわ。ちゃんと寝床も準備するべきだったわね。大きいモノは困るけどベッドぐらいなら買ってあげるわよ」
「いや、シーツだけでいいんだ。干し草をクッションにするから」
「はあ?」
ルイズは間抜けな声を出して驚いてしまった、人修羅は召喚される前にどんな生活をしていたんだろうか。
洗濯は慣れないと言っておきながら、人修羅は細かいところにも気が利く、ルイズの寝るベッドは綺麗に整えられているし、掃除も行き届いている。
それなのに、干し草で寝床を作ると言い出す、人修羅の生活水準が想像できず、ルイズは頭を混乱させた。

「ほ、干し草なんて使わなくて良いわよ、第一散らかるじゃない。美観も損ねるわ」
「ああそれもそうか、確かに寝ていると潰れそうだし、散らかりそうだよな」
「とにかく、ちゃんとベッドは買ってあげるから。明日は虚無の曜日だから街に行きましょ、私も買い物に行きたいしちょうど良いわ」
「街かあ…そうしてくれるとありがたいよ。それじゃあお休み」
「ええ。おやすみ……」
ルイズがぱちんと指を鳴らすと、部屋のランプが消え、部屋の明かりは月明かりだけになる。
人修羅は毛布を被って寝ているが、手の甲と顔から微弱な光が出ており、座ったままの姿で寝ているのがよくわかってしまう。

ごそごそと寝返りを打ち、人修羅から目をそらす。
目を閉じたルイズは、召喚したいと思っていたドラゴンやマンティコアが召喚されたらどんな生活をしていたのかを想像した。
だが、どうしても途中から、実際に呼び出された人修羅との生活を思い浮かべてしまう。
人修羅は優しい、調子に乗って奇妙なことを言うが、なんだかんだ言って『ゼロのルイズ』を肯定してくれる。
口からドラゴン顔負けのブレスを吐き、いくつもの先住魔法を使えて、しかも体は金属のゴーレムより丈夫らしい。
なぜ、そこまで実力のある存在が、私の使い魔になってくれたのだろうか。
「う… う…っ」
人修羅はどんな夢を見ているのだろうか、突然、うなされるような声を上げた。

(手加減ができないんだ…だから、守りたい人まで巻き添えにするよ)
そう言っていた人修羅の瞳はとても悲しげだった、過去にどんなことがあったのだろうか、もしかしたらそのせいで悪夢を見ているのだろうか?
藁束で寝床を作るとか卑屈な態度を取るのは、人修羅の過去が関係しているのだろうか?
……と、そんなことを思いながら、ルイズは眠りに落ちていった。

ちなみに人修羅は、アルプスの山頂から干し草のベッドに包まれて転がり落ちる夢を見ていた。

■■■

二人は翌日の午前中に、馬で魔法学院を出発した。
正午には城下町に到着する予定だ。

「馬は初めてなの?」
「ああ、普通の馬なんて初めて乗ったよ、意外と大人しいんだなあ」
翌朝、ルイズ達は馬に乗って、トリスタニアを目指していた。
人修羅は最初、走って行くだけの体力はあるから大丈夫だと断ったが、ルイズは二人分の馬を借りたと言って強く騎乗を求める。
仕方なく馬に乗ることにしたが、ふつうの馬に乗るのは初めてなので、流石の人修羅も少し困惑を見せた。

ルイズの得意なものといえば、それは乗馬であった。
人修羅に少しでも主人らしさを見せつけたくて、二人分の馬を借りたのだ。
その意図を知ってか知らずか、人修羅は乗馬の心得などをルイズに質問する、おかげでルイズはいつになく上機嫌だった。
「初めて乗ったにしては、ちゃんとしているじゃない」
「そうかな?自転車と違うし、何より生き物だから、ちょっと怖いよ」
「情けないわねえ。ほら、もうちょっと速くするわよ」
「おっ、とっとっ…お手柔らかに頼むよー」
慣れぬ馬上でバランスをとる人修羅を見て、ルイズは唇の端をかわいらしく曲げて笑った。

■■■

一方その頃、キュルケは昼前になってようやく目を覚ました。
虚無の曜日なので授業はない、窓を眺めると、ガラスが破れていることに気がついた。
ベッドの下からはい出してきたフレイムが、ぐわぉ、と鳴いた。
「フレイム、おはよ。……ああ、そうだわ、気分じゃないって言って、断ったんだっけ」

昨晩、かねてからの約束の通り、窓からキュルケの部屋にお邪魔しようとした恋人たちは、哀れにも「気分じゃない」の一言で追い払われてしまった。
いい加減眠くなってきたので後のことをフレイムに任せて、キュルケは窓から落ちていく恋人達の悲鳴を聞きながらぐっすりと寝た。
フレイムが言うには、合計六人ほどが窓から入ろうとしたらしい。

しかしキュルケはそんなことを全く気にせず、起き上がって化粧を始めた、化粧を終えると部屋を出てルイズの部屋に行く。
コンコン、とノックをしつつ、今日はどうやってルイズをからかおうかと考えた。
魔法を使い、ドラゴン並のブレスを吐き、体術にも優れた人修羅に、抱きついてキスでもしてあげようか。
キュルケには人修羅に対する恐怖など無い、むしろ年下の男の子をからかうような、そんな気持ちで接することのできる数少ない人物なのだ。
それにルイズをからかって、悔しがらせることもできる、そう考えるとキュルケはますます心がウキウキしてくるのだった。

……しかしノックの返事は無い。
おかしいと思ったキュルケは、すぐさまドアを開けようとしたが開かない、鍵がかけられているのだ。
キュルケはすぐさま『アンロック』の魔法をかけた、校則では使用禁止になっているが、そんなことはお構いなしだ。
「相変わらず色気がない部屋ねえ……あら?」
部屋を見渡したキュルケが、あることに気がついた、ルイズの鞄が無い。
いつもならテーブルの上に置かれている鞄が、ベッドの上にも棚の上にも床にも無い。
今日は虚無の曜日なので、何処かに出かけたのだろうと考え、窓から外を見渡す、するとルイズと人修羅らしき二人組が、馬に乗って城下町の方向へ向かっているのが見えた。
「なによー、出かけるの?」
残念そうに呟くと、ちらりとルイズのベッドを見る。
部屋に入ったときから気になっていたが、この部屋にはベッドが一つしか無い、そこでキュルケは悪戯を思いついた子供のように、にやりと笑う。

キュルケがルイズの部屋を飛び出してから数分後、キュルケとタバサの二人はシルフィードの背に乗って、ルイズ達の後を追った。

■■■

ルイズと人修羅は、馬をトリステイン城下町門前の駅に預けると、トリステインの城下町へと足を踏み入れた。
人修羅にとってトリステインの町並みは、テレビで見た西洋の風景によく似ていた、違うのは魔法があることぐらいだろうか。
きょろきょろと辺りを見回して、生活の水準や、商売の種類などを目に焼き付けていく。
まるでおとぎ話の世界、しかしこれは紛れもない現実だった。
何よりも街行く人々は皆、何かしらの個性があって、質素でも色とりどりの服や喜怒哀楽の表情を浮かべている。
「マネカタじゃないんだな…」
東京とはまるで異なるハルケギニアの文化ではあったが、城下町のにぎやかさは人間の営みを実感させてくれた、それはもう戻ることのない、人間として生きていた東京を彷彿とさせ、人修羅の心に不思議な暖かみを灯していった。


「ここがブルドンネ街よ、トリステインで一番大きな通り、まっすぐ行くとトリステインの宮殿があるわ」
「大通り?これが……意外と狭いな」
「狭いって…どういうことよ」
ルイズが聞き返すと、人修羅は少し申し訳なさそうに答えた。
「ごめん。悪気はないんだけど、俺が居た国で大通りって言ったら、この五倍かそれ以上はあったんだ」
「この五倍も?」
ルイズが信じられない、と言いたげな表情をしていると、人修羅が更に言葉を続ける。
「うーんとね。石よりも木が豊富な土地だったんだ。だから昔は木の家が多かったんだけど、火事が起きるとすぐ燃え移っちゃう。だから道路を広くして燃え広がるのを防いだんだ。道が広いのはその名残らしいよ」
「ふぅん、それが貴方の国なの?でも木の家なんて脆そうね」
「その代わり増改築がし易いんだ。地震と台風の多い国だから、屋根は飛ばされない程度に重く、建物は崩れにくい程度に軽いのが求められた…」
「ジシン?タイフウ?」
「ああ、聞いたこと無いかな。地震は地面が揺れることで、台風は定期的にやってくる大きな嵐のことだよ」
「……そんな国で生まれたの?生きるのにも大変じゃない……そっか、だから人修羅は…」

なにやら人修羅の丈夫さについて、変な形で納得してしまったルイズ。
その隣には、小学生の頃に読んだ『漫画○○の歴史シリーズ』に感謝する人修羅の姿があった。

■■■

「ルイズさん、ちょっと聞きたいんだけど」
人修羅がルイズに顔を近づけ、小声で囁く。
「どうしたの」
ルイズが不思議そうに聞き返すと、人修羅は懐に入っている財布の感触を確かめつつ、こう答えた。

「この街スリが多い?」
「!」
ルイズが驚いて目を見開く。
「財布は無事だけど、なかなか油断のできないところだね」
「大丈夫なの?」
「まあ何とか」
「そう…気をつけてね」
ルイズはどこか申し訳なさそうに人修羅を見た、それがなんだかわからずに、人修羅はきょとんとする。
「貴族は全員がメイジだけど、中には貴族を追われて、盗賊や傭兵になるものがいるわ。念力でも使われたら一発ですられちゃうわよ」
「ああ、やっぱりさっきのは念力か」
「念力で盗られそうになったの!?」
「探られてるような感じだったよ、ポケットの中に入ってる財布だけに力をかけるなんて、器用な真似するね」
「でも、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫、盗られやしないよ」
「違うわよ、こんな町中でブレスなんて吐かれたら困るもの」
「しないよ!」

まったく人のことをなんだと思っているんだ、と言いそうになったが、ふと自分がアクマなのを思い出した。
アイスブレスを使ったのは迂闊だったかなぁ…と思いながら、人修羅は苦笑いを浮かべていた。

■■■

ルイズと人修羅は、その後すぐ寝具屋を見つけ、中に入っていった。
その様子を物陰から見ている二人組のうち、背の高い赤毛の女性は、わぁおとわざとらしい声を上げた。
「ルイズったら、男性に寝具を送る意味わかってるのかしら? さ、いきましょ」
キュルケが物陰からでて寝具屋に向けて歩き出す、その後をタバサが続いた。



「出来ないことはありませんが、ちょっと値が張りますねえ」
「幾らぐらいになります?」
「そうですね、新金貨で…」
「え、そんなにするんですか」

人修羅は、常設用のベッドを断って、折りたたみ式のベッドを頼もうとしていた。
ルイズの部屋を圧迫しないように気を遣っているのだが、かえって値が張ってしまうようだ。
「ベッドの一つぐらい、大きすぎなければ大丈夫よ。そこまで気にしなくていいのに」
「そう言ってくれるのはありがたいけど……あれ?」
人修羅は店に入ってくる二人組の姿に気がついた、ルイズも数秒遅れて店の入り口を見ると、そこには笑顔で手を振るキュルケと、タバサの二人がいた。

「ツェルプストー?何でこんなとこに居るのよ」
「つれないわねえ、ダーリンと出かけるなら言ってくれればいいのに」
「ダーリンって…まさかあんた人修羅に手を出す気じゃないでしょうね!」
「あらヴァリエール、いたの?」
「ぐっ」
ルイズが悔しそうに歯噛みするが、キュルケはそれを意に介した様子もなく、人修羅に抱きついた。

「ダーリン♪ ベッドなら私のを使えばいいじゃない、ルイズと一緒に寝たって、あんな平坦なの、何のおもしろみもないでしょ?」
「なっ、なっ、なっ、なー!?」
キュルケの過激な発言に、ルイズは顔を真っ赤にして狼狽える。
「あら、今までまさか床で寝かせていた訳じゃないでしょう? ねえダーリン、こんな店じゃなくて、ゲルマニアから取り寄せた最高級のベッドで夜を過ごさない?」

キュルケが抱きついたまま囁く、だが人修羅はキュルケを片手で押しのけると、無言で店の外へと出て行った。
「ちょっと人修羅、どこ行くの!」
ルイズが慌てて店を出る、キュルケもきょとんとしていたが、タバサと顔を見合わせると、二人の後を追って店を出て行った。

「やれやれ、貴族様の痴話げんかか」
初老の店主は、そう呟くとため息をついて店の奥へと引っ込んでいった。

■■■


「ちょっと人修羅!もう、どうしたって言うのよ」
無言のまま歩き続けていた人修羅は、通りの一角にある広場を見つけると、そこの噴水前に腰掛けていた。
ルイズが人修羅の前に立ち、腰に手を当てて人修羅を見下ろしている。
キュルケとタバサの二人は、ルイズの後ろで同じように人修羅を見ていた。

「……その、人前で、あの会話は何というか、その」
「さっきの会話がどうかしたの?」
わからない、といった態度でルイズが問いかける、すると人修羅は顔を上げて深呼吸をし、小声で呟いた。
「はずかしかったんだ」
「「へ?」」
「だから、その…俺女の人に抱きつかれるとか、ちょっと照れちゃって…」
そういって人修羅は顔を覆った。いつものポーカーフェイスだが、視線はルイズたちからはずれている。
キュルケとルイズは、呆れてしまったのか口を半開きにしていたが、しばらくするとルイズは意外そうに、キュルケは可笑しそうな表情になっていった。
「人修羅、もしかして、恥ずかしくて…逃げたの?」
「だからそう言ったじゃないか」
ルイズの質問に、恥ずかしそうに答える人修羅を見て、キュルケはついに笑い出した。
「ぷっ…あははははっ、もう、ダーリンったらシャイなのねぇ、いやだもう、かわいいじゃない」
「かわいいとか言うなよ、ああもう。俺はどうせチェリーだよ。マジ焦った…」

頭を抱える人修羅を見て、キュルケが笑顔のまま顔を近づけて質問した。
「ねぇねぇ。ちょっと聞かせて。夜はルイズと一緒に寝てるの?」
「こっちじゃどうなのか知らないけど、俺は女の子と同じベッドで寝るような教育はされてないよ」
「あらあら、よかったじゃない。貧相なヴァリエールも女の子扱いしてくれてるわよ」
にやにやと笑うキュルケに、ルイズはいよいよ杖を取り出しそうになった。
こんな町中で魔法を爆発させるわけにはいかないので、杖に伸ばした手が、杖をつかむ手前で静止している。

「……あー、とにかく、いきなり店から出て行った事は謝るよ」
「分かったわよ。ツェルプストーが襲いかかってきたんだから、不問にしてあげるわ」
ルイズは無い胸を張って、偉そうな態度で人修羅を許した。
その様子がおかしくて、キュルケはまた笑い出した。

そんな三人の様子を見ていたタバサは、空き部屋を使うとか、使用人の部屋を使わせればいいのに…と考えていたが、あえて何も言わないことにしていた。

■■■

結局、寝具屋に戻った人修羅は、一通りの寝具を注文した。
首の後ろに生えている角に合わせて、穴の開いた枕を一つ。
それとベッドは大きすぎるので、貴族の軍人が野宿するときに使う、折りたたみ可能なクッションを買うことで落ち着いた。
これなら折りたたむか、丸めて立てかけるだけで片づけられる。
人修羅はいつかルイズに借りを返さなきゃなぁと思いつつ、照れ隠しに頭を掻いた。

寝具屋から出た人修羅は、ルイズに案内されながら大通りを歩いていた。
「水差しか、壜の形した看板があるけど」
「あれは酒場よ」
「バツ印は?」
「衛士の詰め所よ」
なるほど、と呟く人修羅にキュルケが話しかける。
「ねぇねぇダーリン、トリステインよりゲルマニアの方が活気があるわよ。もっと派手に看板を掲げているわ。見たら目移りするわよ、きっと」
「何よ、そういうのは慎みがないって言うのよ」
ルイズが不機嫌そうに呟く、人修羅はその間に挟まれて冷や汗をかいた。
ふと隣を歩くタバサに視線を移すと、一瞬だけ人修羅に視線を合わせてきた。
『助けて』
『無理』
二人のアイコンタクトは、この場に限り完璧に通じていた。


■■■

「ところでさ、武器とかって売ってるの?」
「武器?あるにはあるけど…人修羅にも武器なんて必要なの?」
ルイズが意外そうにしている、キュルケもルイズほどではないが、不思議そうな目で人修羅を見ていた。
「いや、オスマン先生がさ、ガン……武器を使った方がいいって言ってたし」
ガンダールヴ、と言いそうになって、人修羅がハッとする。
このルーンがガンダールヴかどうかは、まだ誰にも言ってはいけないと釘を刺されていたのだ、それはキュルケやタバサにしても同じであった。
「……そうね。武器で戦った方がかえって目立たない、って言ってたものね」
「そうそう、そういうこと」
ルイズは人修羅の言いたいことを察してくれたのか、適当に話を合わせてくれた。
コルベールは、ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなしたと言われているのを知って、人修羅に武器を手にしてみるよう頼んでいた。
オールド・オスマンは、人修羅の強力すぎる力をそのまま発揮させるより、武器やマジックアイテムを使って多少ごまかした方がよいと考えていた。
そのためにも、武器を買ってくるようにと以前言われていたのだ。

一行が狭い路地裏に入っていくと、悪臭が鼻についた、ルイズなどは道ばたに捨てられたゴミや汚物を見て顔をしかめる。
「ここ、汚いからあまり来たくないんだけど」
いくつかの道が交差する場所で立ち止まると、ルイズは辺りをきょろきょろと見回し、剣が描かれた看板を見つけた。
「ピエモンの秘薬屋の近くだから、この店ね。さあ入るわよ」


一行は石段を上がり、羽扉を開けて中に入る、武器屋は魔法学院では見られなかった泥臭い雰囲気が漂っていた。
昼なのに薄暗く、ランプに明かりが灯されている。
壁や棚に所狭しと並べられた、剣や槍などの武器、そして甲冑などの防具類、どれも杖さえあれば事足りるメイジの世界とは違っていた。

「貴族の旦那、うちはまっとうな商売をしておりまさぁ。目をつけられるような事なんか、とてもとても」
店の奥から出てきた五十歳ほどの親父が、揉み手をしながらそう言ってきた。
パイプをくわえたまま器用に喋るその姿を見て、人修羅は『うわ本物のパイプだ』と思った。
「客よ」
ルイズが腕を組んで言うと、店主は驚いたように手を広げた。
「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげたー」
「どうして?」
「いえ、若奥さま。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖を振りなさる。そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」
「使うのはわたしじゃないわよ。人修羅、良さそうなの、ある?」

「忘れておりました。昨今はヒトシュラも剣をふるようで……」
ヒトシュラって何?と頭にクエスチョンマークを浮かべた店主は、剣を見定めている男の姿に気がついた。
メイジの特徴であるマントを羽織った女性は三人、しかしこの顔に入れ墨を入れた男はどう見てもメイジではない。
「剣をお使いになるのは、この方で?」
人修羅を指さして店主が言うと、ルイズはこくりとうなずいた。
人修羅は店に並ぶ武器類を手にとっては、手になじむかどうかを確かめている。
「…?」
ナイフ、槍、弓などを次々に持ち替えていくと、人修羅は自分の体に伝わる違和感に気がついた。
武器を握った瞬間、体が軽くなる気がするのだ。
この感覚は、魔法で能力を強化した時に似ているが、まだ断言することはできない。
ナイフを買ってもらおうと思い、金属の質を確かめていると、店主が店の奥から長さ一メイルほどの、細身の剣を持ってきた。

見た目は華著で、柄は短く、手を覆うような形でハンドガードがついている。
それをルイズに見せると、主人は自慢げに呟いた。

「昨今は、土くれのフーケやらがずいぶんと城下を荒らし回っているようでございやす。そのせいか貴族の方々の間でも、下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。このレイピアはその際によくお選びになってらっしゃいます」
横から人修羅がのぞき込む、レイピアは煌びやかな模様で装飾されており、貴族に似合いの剣と言われれば納得してしまうような美しさだった。
「盗賊って?」
キュルケが質問すると、店主はへへぇと腰を低くして答えた。
「そうでさ。なんでも『土くれ』のブーケとかフーケとかいう、盗賊がおりまして、貴族のお宝を散埼盗みまくってるって噂でございやす。なんでもめっぽう腕の立つメイジの盗賊だそうで、貴族の方々はそれをおそれて下僕にまで剣を持たせる始末で」

ルイズは盗賊に興味はないので、ほとんど聞き流していた、差し出されたレイピアをじろじろと見ると、確かに綺麗だが頼りない、人修羅ならもっと巨大な剣でも使えるはずだ。
それこそ、体よりも大きいドラゴンを殺せる剣を軽々と振るだろう、と勝手に思いこんでいた。

「もっと大きくて太いのがいいわ」
「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように。見たところ、若奥さまの使い魔とやらには、この程度が無難なようで」
「大きくて太いのがいいと、言ったのよ」
ルイズが強く言い放つと、店主は頭を下げて店の奥に入っていった。

「…くくっ…」
「何よ、ツェルプストー」
「何でもないわよ…ぷぷっ」
キュルケは店主とルイズのやりとりを聞いて、何を連想したのか分からないが、とにかく可笑しかったらしい。
人修羅も気がついたのか、ルイズと目を合わさないよう顔をそらしていた。


「これなんか、いかがですかい?」
次に店主が持ってきたのは、先ほどよりさらに見事な装飾の施された、長さ1.5メイルはありそうな長い剣だった。
柄は両手で扱えるほど長く、ところどころに宝石がちりばめられている。
両刃の刀身は鏡のように美しく、力強さも備えていると思われた。

「店一番の業物でさぁ、貴族様のお供をさせるなら…」
店主は意気揚々と剣の説明をはじめる、人修羅はそれを聞きながら剣を手に取り、刀身を眺めて呟いた。
「だめだこれ」
「「「え?」」」
人修羅の言葉に、ルイズとキュルケ、そして店主が驚く。
「金属が不自然なぐらい柔らかい。変なムラがある…なんだろこれ、表面はメッキかな?」
「な、何を言われます、こりゃあ店一番の業物で、ゲルマニアのシュペー卿が鍛えたという代物でさぁ!魔法がかかっているから鉄だって一刀両断できますぜ!」
「魔法?…魔法ならさっき見た…えーと、その片刃の剣の方がよっぽど凄そうだけど」
「げっ」
人修羅が指さした剣を見て、店主が眉をひそめた。


その隙に人修羅は、じっと黙って武器類を見ていたタバサに目配せする。
『変な店主だな』
という意志を込めたはずだが、タバサはそれを別の意味で解釈した。
『この店主ナメやがってェ~ッ!絶対許せんよなぁ~ッ!』
こくりと、タバサは無言でうなずいた。

「試し切り」
「え?」
「試し切りすればいい」
タバサのつぶやきを聞いて、店主はますます顔を青くした。
ゲルマニアのシュペー卿が、魔法を付加した剣として仕入れたのは本当のことだ、しかしその魔法が触れ込みの通りに鉄でも切れるか自信はない。

「これ、幾らなの?」
すでに買う気になっていたルイズは、店主に値段を聞いた。
「へぇ…エキュー金貨で…その」
正直に設定値段を言っていいものかと困っていると、いつの間にかタバサが念力で剣の鞘を引き寄せていた。
キュルケが鞘をのぞき込むと、紐と紙がくくりつけられており、新金貨で3000と書かれていた。
「ふぅん、新金貨で3000ねぇ。エキュー金貨なら2000ね」
「立派な家と、森つきの庭が買えるじゃないの」
値段に驚いたのはルイズだった、いくら何でもそんな大金は持っていない。
店主はぎょっとして目を見開いた、わなわなと口を振るわせて、何とかごまかそうと言い訳を考える。


人修羅はその傍らで、やりとりを見ていた。
ちらりとタバサを見る、今度は『どーなってんの?』という意図を込めていた。
しかしタバサはそれを拡大解釈し『どーなってんだよこの親父、往生際が悪いなあ』と受け取った。

「……」
タバサがぶつぶつと何かを呟くと、店主の真横に、40サント四方の、綺麗な正四面体の氷が現れた。
「ひぃっ!?」
店主は突然の魔法に驚き、飛び上がる。

「鉄が切れるなら、氷ぐらい切れるはず」
タバサの無慈悲な言葉が、店主を絶体絶命のピンチに追い込んでいった。
「……」
タバサは人修羅に視線を移し、試し切りを促す。
「い、いや、試し切りなんて……別のものがあるじゃないか」

人修羅の呟きはつまり『別の剣を買えばいい』という事だった。
しかし店主は何を勘違いしたのか『別のもので試し切りすればいい』という意味で受け取ってしまった。

人修羅と、タバサの視線は、店主に集中している。
つまり、試し切りされるのは………
「あわわわわ…す、すいやせーん!もうしわけございやせーん!こ、殺さないでくださいー!試し切りはやめてくださいー!」
店主はその場に土下座した。

■■■

「あっはっは!さっきの店主、傑作だったわねえ。タバサったらやるじゃない」
キュルケが笑ってタバサの肩をたたく。
結局あの後、土下座して平謝りする店主から、ナイフ数本と『デルフリンガー』というインテリジェンスソードを無料で貰ってしまったのだ。
普段よく喋るというデルフリンガーが、人修羅の前ではあまり喋らなかったので、店主は怯えながらも、不思議そうに人修羅を見ていた。
デルフリンガーは『買われるならしょうがねえ』と一言呟いたっきり、何も喋ろうとしない。
一行は魔法学院に帰るため、城下町門前の駅を目指して、大通りを歩いていた。
「………」
人修羅がタバサを見る、どうしてあんな事をしたんだろうかと、質問しようと思ったが、根掘り葉掘り聞くのも悪い気がした。
しかしタバサは、何か不手際でもあったのかと思いこんでいた。
「…次はもっとうまくやる」
「あはは…」
人修羅は気まずそうに笑った。


「ねえ、でもほんとにそんな剣でいいの?」
ルイズが人修羅の背中を見つつ聞く、すると人修羅は背負った剣をチョンチョンと指先で触れつつ、答える。
「ん?これがいいんだよ、たぶんあの店の中じゃ一番丈夫じゃないかな」
『…って言うかよぉ、おめえ、ホントに俺が必要なの?』
人修羅が背負っている剣が、自信なさげに呟いた。
「まぁまぁ、そう言うなよ。それに俺、まだこの世界のこととかよく知らないしさ。頼りにしてるよデルフリンガー」
そういって人修羅が笑う、表情はほとんど変わっていないが、雰囲気がそれを感じさせてくれた。
『俺っちは話し相手じゃなくて、剣なんだけどなあ。まあいいか』
デルフリンガーも、ため息をつくような雰囲気を感じさせるあたり、体は剣でも雄弁さを備えているらしい。

■■■

夜。
人修羅は買ったばかりの剣、デルフリンガーで素振りをしていた。
場所は魔法学院本塔の、正面入り口脇、ここにはちょっとした花壇があり、腰をかけられるように石作りのベンチが作られている。
その傍らではルイズが、明滅するルーンを不思議そうに見ている。
「よっ、はっ……えいっ!」
剣を振り下ろして、ふぅとため息をつくと、人修羅は左手の甲についたルーンを見つめた。
振ったこともない剣の使い道、使い方が、自然に頭の中に入ってくる。
ナイフも同じだった、使ったこともないナイフの動かし方や、握り方、何よりも効率のよい力の出し方が頭に思い浮かび、しかもそれを体が勝手に実行する。
「ルーンの効果なのは間違いないよな」
「使い魔として契約すると、使い魔は特殊な能力を持つことがあるって聞いたことはあるけど、武器の使い方を知ったり、体が軽くなるなんて聞いたことも無いわ」
人修羅の動きを見ていたルイズが呟く。
先ほど、人修羅が武器を持たずに垂直跳びした時は、3メイルの高さまで跳躍した。
しかし何か武器を握ると、高さは10メイルまで伸びるのだ、それが不思議で仕方がない。

「不思議だなあ……あ、これなら60階から飛び降りても平気かな…」
人修羅の脳裏に浮かぶのは、赤いコートを着たスタイリッシュな男の姿。
高いところから飛び降りると瀕死になる人修羅と違い、スタイリッシュな男は平然としていた。
「不公平だよなあ…なんか裏技使ってるに違いない、ダンテのやつ」
人修羅はここにいない友人のことを思い出し、悪態をついた。

「…?」
ふと、背後に視線を感じる。
今日一日ずっと後をつけていた気配と、同じものだろう。
人修羅はルイズの隣に座ると、デルフリンガーをベンチに立てかけた。

「ところでさ、ルイズさん、今日はお客さんが一人いたの気づいてた?」
「一人?ツェルプストーとタバサじゃないの?」
「デルフリンガーは?」
『ああ、一人100メイルぐらい距離をとって、ずっと移動してるやつがいたな』 
「え…?」
ルイズは困惑したのか、デルフリンガーと人修羅を交互に見た。
「たぶん、俺を見張ってたんじゃないかなぁ。生徒の安全のために見晴らせて貰うとか、オスマン先生が言っていたし……厨房の勝手口に隠れてないで、出てきたらどうですかー」
人修羅が呼びかけて数秒後、観念したのか、一人の女性が勝手口から姿を現した。

「ミス・ロングビル!」
ルイズが驚き、立ち上がった。
勝手口から姿を現したのは、学院長の秘書、ミス・ロングビルだった。
グリーンの頭髪が鮮やかな女性で、魔法学院内の教師や男子生徒からの人気は決して低くない。
「参りましたね、ずっと気づかれていたんですか?」
「消えすぎてる気配がずっと尾行していたんで、気になってたんですよ」
「消えすぎてる、とは?」
ロングビルが聞き返すと、人修羅は後頭部をぽりぽりと掻いて言った。
「人混みの中に誰もいないような、気配の空白がありました。それがずっと僕たちの後を追ってたので…俺を監視してるんじゃないかなぁと思ったんです」
ロングビルがくすりと笑みを漏らす。
「気づかれていたのでは仕方ありませんね。悪く思わないでください」
「いえ、どうせオスマン先生の差し金でしょう。その心配は当然だと思いますよ」
はははと笑う人修羅の腕を、ルイズが小突いた。
「気づいてたなら教えてくれてもいいじゃない」
「伝えるべきか迷ったんだけどね…せっかくお出かけしたんだから、野暮なことは言いたくなかったんだ」
人修羅がはにかむ、ルイズは仕方ないわねと呟いて腕を組んだ。

「先生方はずいぶんとミスタ・人修羅を気にしていらっしゃいますわ。何でもドラゴンを召還したに匹敵するか、それ以上だとか」
ドラゴンに匹敵すると言われたが、ルイズはうれしそうな顔をするどころか、どこか沈むような面持ちで呟いた。
「オールド・オスマンも同じ事を仰っていましたけど、それならどうして……タバサみたいに……」
ルイズは『なぜ祝福してくれないのか』、と言いたかったが、それを言うと自分が惨めになりそうなので、途中で言葉を切った。
ロングビルはそれを見て、こほん、と咳払いを市、ルイズに視線を合わせた。
「ミス・ヴァリエール。ミスタは遠国から召還されたというのですから、しばらくはいろいろな疑いの目で見られるのも仕方ありませんわ。言い換えればそれだけ強力な使い魔を呼び出したのですから、自信を持ってください」

うつむいたままのルイズに、人修羅が手を乗せた。
ルイズは突然頭をなでられて驚いたが、不思議と悪い気はしなかった。
「ミスタ、はいりませんよ。みんなと同じ呼び捨てにしてください。あんまり畏まられると…なんかむず痒いんですよ、慣れてなくて」
「本当に不思議ですね、とても凄い実力を持っていると言われているのに、気さくで。……それでは人修羅さん。一つ、お願いがあるのですが」
「はい?」
お願い、と聞いて人修羅がきょとんとする、ルイズも多少驚いてロングビルを見た。
「ディティクト・マジックを使ってみてもよろしいですか? 教師の皆さんがドラゴン以上だとか噂しているのですが、私、そういった力を見るのは初めてなんです。一度どんなものか確かめてみたくて…」

人修羅がルイズの顔を見る。
「でぃてぃくとまじっく、って何だっけ?」
「深知の魔法よ、簡単に言えば、あなたがどれだけの実力を持っているのか、それを計るの」
「なるほど。別にいいですよ、見られる感覚は何度かありましたし…たぶんもう何回かやられてるでしょう」
「そうですか、では…」
ロングビルは杖を向けて、ディティクトマジックの呪文を唱えた、その効果で周囲には光る粉が舞う。
ルイズは、少しだけ悔しそうにしていた、自分もディティクトマジックが使えたら、人修羅の凄さがすぐに分かったかもしれないのだ。

ふとルイズがロングビルの表情を伺う、ロングビルの顔は青ざめていた。





ロングビルの目に映ったのは、たくさんの瞳。
凶暴性を宿した赤い瞳、すべてを凍らせるような青い瞳、神々しく畏怖を感じさせる金色の瞳、すべてを殺し尽くすような黒い輝き。

見たこともない化け物が、それぞれが絶対的な力を秘めた化け物たちが、人修羅を中心にして渦巻いている。


そして彼らは、一斉に振り向き、ロングビルに注視した。







「あ、あ……」
ロングビルはがたがたと震えた、そして、糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。

「ミス・ロングビル!」
「ロングビルさん!?」

意識を失う前にロングビルが見たものは、心配そうな表情でこちらに駆け寄ってくる、人修羅とルイズの姿だった。


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