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るいずととら第二章-8


「アルビオン王国皇太子、げほ、ウェールズ・テューダーだ……本当だよ。誓うから。始祖ブリミルに誓います……」
「そう言われてもねぇ……どう思う、とら?」

ルイズはとらの足の下にカエルのようにのびている空賊の頭を、疑わしそうに見る。とらはあっさりと断言した。

「ニセモンだ」
「そうよね」
「まって、待ちたまえ! きみがはめている指輪は水のルビーだろう? ほら、僕の指輪、アルビオン王家に伝わる風のルビーを近づければ……」

頭が薬指に光る指輪を外し、ルイズにわたす。ルイズが二つの宝石を近づけると、石は共鳴し虹色の光を放った。

「水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹さ……」
「失礼しました。とら、足どけていいわよ」

ルイズの言葉に、ようやくウェールズ皇太子がとらから開放される。ひやひやしていた周りにいる腹心の部下たちも、ほっと息をついた。

「はぁ……さて、用件を聞こうか、大使殿……」

ウェールズの後について、一行は船室に向かった。

船室で、ルイズはアンリエッタの密書を手渡した。
真剣な表情で手紙を読んだウェールズは、微笑んでルイズたちを見る。

「姫は、私の手紙を返して欲しいと告げている。姫の望みは私の望みだ。だが、今手元には手紙がない。ニューカッスルの城にあるのでね。
 多少、面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」

……こうして、船はニューカッスルに向かうことになったのであった。


「わかんないわ……」

今日何度目だろうか。ルイズが憂鬱そうに呟いた。となりで料理を平らげるとらが、怪訝な顔をする。

「……るいず、さっきから何言ってる?」
「わかんない、って言ったの。どうして――どうして、この人たち、死を選ぶの?」

ルイズはぐるりと辺りを見回した。王党派の貴族たちは園遊会のように着飾り、テーブルには豪華な料理が並ぶ。
決戦の前夜、城のホールで行われたパーティの席であった。

「明日で終わりなのに、なぜ、この人たちはこんなに明るいの……?」
「終わりだからこそ、ああも明るく振舞うのだよ」

ワルドが答えた。ルイズは目を伏せる。アンリエッタの手紙をルイズたちに渡したウェールズの姿を思い出すと、ルイズの胸は締め付けられるようだった。
俯いたルイズの脳裏に、ウェールズが手紙を取り出した光景が浮かんできた……。


「……宝箱でね」

ウェールズははにかみながらそう言うと、小箱から一通の手紙を取り出した。ボロボロになったその手紙に、ウェールズは愛おしそうに口づける。丁寧に手紙を開き、ゆっくりと読み始めた。
やがて、読み終えたウェールズは手紙を丁寧にたたみ、封筒に入れるとルイズに手渡す。

「姫からいただいた手紙、このとおり、確かに返却した」
「ありがとうございます」

ルイズは深々と頭を下げ、手紙を受け取る。しばし迷って、ルイズはやがて決心したように言った。

「殿下……王軍に勝ち目はないのですか?」
「ないよ。我が軍は三百、敵は五万。万に一つの可能性もない。我々にできることは、勇敢な死に様を連中に見せ付けることだけだ」
「ならば、お逃げください。トリステインに亡命なさってください!」

ルイズは叫んだ。ルイズの言葉に、ウェールズは苦笑する。

「駄目だな。私がトリステインに亡命すれば、反乱貴族たちにトリステイン侵攻のいい口実を与えるだけだ。それに、ゲルマニアとの同盟も水泡に帰するだろう」
「そんな……でも……」

言葉を詰まらせるルイズの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。ルイズは、横に控えているとらをさっと振り返る。

「とら、とら、なんとかならない!? あなたなら、五万の軍にだって勝てるでしょ?」
「……け、ごめんだな」

ぎゅん! と、とらが変化を解いく。かつて『シャガクシャ』と呼ばれた褐色の大男は、たちまち金色の巨大な幻獣に姿を変えた。

「るいず、わしがニンゲン同士の戦に出てどうなる? この城の三百人のイノチを助けるために、五万人を殺せば満足かよ……ああ?」
「そ、そんなこと言ってないじゃない! わたしは、ただ……」
「……いいんだ、ラ・ヴァリエール嬢。君は正直な女の子だな……さて――使い魔どの」

ウェールズはとらを見据えて、きっぱりと言った。その目には、かたい意志の炎が燃えている。

「どれだけの時を生きた幻獣かは存じないが、我ら命短き者たちにも命をかける戦がある……そなたの言うとおり、手出しは無用。お心遣い、感謝する。
 ただ、アンリエッタ王女に見えるときには伝えてほしい。ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んだと」

ウェールズはそっと『風のルビー』を指から抜くと、ルイズに渡した。ウェールズはにっこりとルイズに笑いかける。

「私の形見に。アンリエッタに渡してくれ……勇敢な大使殿よ」


ルイズはぼんやりと皿をつついた。『テロヤキバッカ』のほうが美味いがよ、とか言いながらも食事を平らげるとらに対して、ルイズはさっぱり食欲がわかなかった。

「なぜ死ぬの? 愛する人よりも、大切なものがあるの……? 自分のことしか考えていないじゃない。残される人のことなんて、どうでもいいんだわ」
「わしが知るかよ……け、人間は妙だぜ。イノチがやばくなったら逃げればいいのによ」

そう言って、とらはぐい、とワインをあけた。
いつもそのセリフを口癖としながらも、結局最後まで逃げなかった男のことが、とらの脳裏をよぎる。

(ニンゲンてなあ、みんなこうかよ、ナガレ……?)

にぎやかなパーティのそこかしこに、死の気配が漂っていた。人々はそんな死の気配を肴に酒を飲み、死神とダンスに興じるようだった。
どこからか、小さくチェロの音が聞こえてきた。そんなかすかな調べに人々は気にもとめずに、ただ踊った。


風……

パーティに騒がしい城の片隅に、黒い女がひっそりとチェロを弾いていた。
長い黒髪に、細い、ピッタリとした漆黒のコート。そして、凍えるような冷たい目……邪悪な目であった。

ざぁあああああ……

風が女の髪をなびかせる。額に刻まれた使い魔のルーンが、重なる月に照らし出された。

「……ミス・シェフィールド」

風と共に姿を現した白い仮面のメイジが、黒い女の名を呼んだ。ミス・シェフィールドと呼ばれた女は、ぞっとするような笑みを浮かべた。

「この城の人間たちを送る……葬送曲ね」

女はチェロを椅子に立てかけ、すっと立ち上がった。仮面の男も後に従う。
ぎしり……と女は微笑んだ。風が女の頬をなでる。

「行きましょうか……この城にいる人間は、みいんな……」

漆黒のコートに包まれた女の体が、ぞわり、と膨らむ。

「……私があの世に送ってあげるわ」



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