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いぬかみっな使い魔-13


いぬかみっな使い魔 第13話(実質12話)

 啓太は、落ち込んでいた。
「ふ、ふふふふふ! 俺は、俺はもうだめだぁ(暗)」
 「応援に来たぜ!」「遅くなってすまん!」「おい、すり鉢が足りんぞ!」
 「まて、すぐに作ってくる!」「じゃあおれはすりこぎ作ってくるよ!」
「お、俺にはもうナニも無い! ナニも…(涙)」
 「テラマイシンが足りないぞ!」「オオバコのすりおろしまだか!?」
 「ニガヨモギの粉末化、終わったぜ!」「赤ニンニクの加熱終わったぜ!」
「啓太様、邪魔だからちょっとこっちに座っててください。」
 「何よこのアサガオのタネ! 赤いやつじゃないと使えないわ!」
 「ヒルデを5グラム、ダイオーを0.1グラム、ジギタリスを0.2グラム。」
 「ゆっくり落ち着いて!」「大丈夫、私これをもう30回もやってるのよ。」
「ううう、夢も希望も消え果た。俺はこれからどうすればいいんだ!」
 薬草クラブの部室と化した調剤実習室。
薬草調合で殺気立っている部員達をよそに、啓太はただ落ち込んでいた。
「ちょっと、なにいじけてんの?」
 炎の髪に褐色の肌、豊満な肢体。啓太のこの地のガールフレンド、
キュルケが心配そうに覗き込んでいる。啓太は帰ってきてから始めて顔を上げた。
「キュルケ! キュルケ! 助けてくれ! 俺は! 俺は!」
「なんだかわからないけど、私でよければ。」
ルイズやともはねのいつもどおりな抗議を振り払い、キュルケの部屋に向かう。
 20分後。

 ペ イ ッ 

啓太は部屋から放り出された。
「サイテーね。」
キュルケが、薬草の調合に戻っていった。啓太を一顧だにせず。
啓太は、ますます落ち込んだ。

 啓太は歴史が得意である。小学生の時には三国志や孫子を原書で読んでいた。
三国志シリーズだけでなく信長の野望や太閤立志伝、さらには大戦略や
提督の決断、大航海時代等を修行に耐えた褒美として与えられ、
歴史が好きになるように巧妙に誘導されたのだ。
人類の歴史とは戦争の歴史であり、犬神を指揮するに役に立つからだ。
さらに中国語の習得は仙界での修行中、修行仲間と話すのにも役に立つ。
これらが得意になるよう巧妙に仕向けられたのだが、それ自体は気にしていない。

その歴史の勉強の中で、一つの重要な真理を啓太は理解していた。
『人類の歴史は分業の歴史である』というものだ。
判断を下し統率するボス、戦うオス、育てるメス、そして成長し学ぶ子供。
これらの猿の群れにも当てはまる分業は、時が経ち、文明が進歩するに従って
複雑さを増し、分業がより細かくなっていった。
火の番の長、偵察の長、狩の長、薬草の長、武器作りの長。

分業現には実的な利点がある。
例えば狩をする男達各人が弓矢作りを行っている場合と、弓矢作りが
最も得意な男に専従で作ってもらうのでは出来が違う。才能のあるなしに加えて、
繰り返し弓矢作りを行うことで反復練習になり、より効率的に熟練出来るのだ。
さらには、鏃を作るもの、矢羽を作るもの、矢柄を作るもの、紐を作るもの、
これらを組み立てるもの、弓を作るもの、と細分化すればさらに高効率になる。

 薬草の探索、判別、採取、乾燥等の保存、粉末化や薬液抽出などの前加工、
さらには数百種のポーション調合を経験して初めて一人前といわれる薬剤師。
しかし、数種の薬草を探して集めるだけなら、素人を即日に使えるように出来る。
1種の薬草を粉にするだけならば、教えることはほとんど無い。
1種の秘薬を繰り返し調合するだけなら、調合実習時間は数百分の一となる。

 近代の工業化、大量生産による効率化に伴う生産価格低下には、
分業の局限化と、専門化による行程ごとの技術力の向上が背景にあった。
さらには、各個人が自分の役割をしっかり理解し、自分の役目を言われなくても
実行できる意識革命もあるだろうか。この段になると、一人の統括者が
簡単な指示を出しさえすれば、あとは勝手に高品質の商品が出来上がるのである。

啓太は、大量生産の基本理念をハルケギニアにもたらしたのである。
よって、緊急体制がとられた薬草クラブの秘薬調合は、
ともはねが秘薬の種類と目標量を伝達するだけで問題なく機能したのだ。

啓太が、ナゼか焦燥も露に帰ってきても。
そのままどっぷり落ち込んでいても。
何も問題なく調合は進んでいった。


 翌日のユル曜日。
ヴァリエール公爵から、明日、エオーの夕刻に姫との謁見がかなう旨、
知らせが来た。すでに学院にも話を通し、クラブ員は授業返上で
秘薬作成一色である。新規入部を希望するものが殺到していたが、
今からではさすがに“今回の”献上の謁見には連れて行けないと断わられた。
人数は各秘薬調合担当を中心に30名ほど限定だったのだ。
しかしいずれ順番が回ってくる。希望者は納得して殺到していた。
薬草クラブは、彼らをも労働力に加えて増産を行った。

 そんな折、タバサが言い出した。
「ケータを気分転換に連れて行く。」
いいかげん邪魔物(者ではなく物)扱いされていた啓太は、
ともはねやルイズを除いた全員から承諾を得てタバサが家にお持ち帰りした。
なぜかキュルケも付いて来る。
「タバサの家って興味あるわ。」
だそうである。学院からシルフィードの背に乗って飛ぶこと2時間ほどで
ラグドリアン湖の上空に差し掛かる。ガリアとトリスティンの国境だ。
面積600平方キロメートルほど、トリスティンの国土の1%弱に及ぶ。
「わあ、きれい! みてみて、ダーリン。ラグドリアン湖よ。」
キュルケは上機嫌だ。
「ああ…きれい、だな。」
啓太は暗い声で答えた。キュルケが慰める。
「まだテンションが低いわねぇ。少しは元気出しなさいよ。
アレがダメでもケータは充分有能だし魅力的よ?」
サイテーとかいって止めを刺したのにこの言いようである。
啓太はあまり浮上できなかった。そこに、タバサがポツリともらした。
「変。」
「どうしたの、タバサ?」
「水が、増えてる。」
タバサが杖を向ける先には、水没した村が見える。
「あそこまで水が増えるなんて、ありえない。」

※4巻P181にて、2年弱前から水がゆっくりと増えている、
とあるのでこの時点でもかなり増えているはずである。

 ラグドリアン湖のガリア側に渡ってタバサの家に向けて降下する。
古い、立派な作りの大名邸である。門に刻まれた紋章を見て、キュルケは
「う!」と息を呑んだ。ガリア王家の紋章だ。
だが、なぜかその紋章にはバッテンの傷がついていた。
「王家の紋章に不名誉印? 地位を剥奪されてる王族ってこと!? 」
玄関前の馬周りに着陸すると、老僕が一人だけ迎えに出てきた。
そう。立派な王族の家なのに一人だけ。地位剥奪を象徴しているかのようだ。
「これはシャルロットお嬢様。 急なお帰りで。」
コクリとタバサがうなずくと、シルフィードを見て厩のほうを指で促す。
タバサは、無言のまま屋敷に入った。
「シャルロット? 偽名ってこと!? これは、相当深い訳がありそうね。」
キュルケが、深刻な顔で呟く。啓太が少し頼りない表情ながらも聞いてきた。
「ん~~、どういう、こと、なんだ?」
「自分から聞くなんて。少しは空の旅が気分転換になったのかしら?」
 キュルケは、タバサが母に会っている間に執事から事情を話してもらった。
当然それは横にいた啓太も聞くことになる。

本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。タバサとはおそらく
狂わされた母が人形をシャルロット本人と思い込んだために名乗り始めた偽名。
王家直系で優秀なスクウェアメイジだったオルレアン公シャルルの娘。
無能王ジョゼフによって5年前父が謀殺されタバサ本人も謀殺されそうに
なったが母がかばって毒料理を食べ狂った。以来狂ったまま。
厄介払い的にトリスティン魔法学院に追いやられた。
北花壇騎士として危険な任務中の死を目的として呼び戻される。
オルレアン派貴族の反発を多少は恐れているらしい。

 あまりに深刻な話に落ち込んで居られなくなったのか、啓太はかなり
しゃっきりしてきた。アレについてはとりあえず脇に置く事にしたようだ。
どれだけ自分が酷い状況にあろうと、啓太は心の底から助けを求めるものに
手を差し伸べてきた。それが、自覚していない啓太の原動力なのだ。
(無論、自分の欲望にも素直だが)

 啓太は、狂った母の元から戻ってきたタバサを、そっと抱きしめてやった。
「ごめん。勝手に話聞き出しちまった。ほっとけなかったんだ。許してくれ。」
やさしく、背を撫ぜながら話す。
「つらかったんだな。だが、もう、一人で抱え込むな。お前には仲間が居る。
俺やキュルケだけじゃない。薬草クラブのみんな。トリスティン魔法学院の
知り合いたち。そして、オルレアン公を慕っていた多くの廷臣たち。
お前の重荷の全部を受け止めてくれる人は少ないかもしれない。
でも、一部なら喜んで一緒に背負ってくれる人が一杯いる。
共に同じ道を歩いてくれる人も。友達を作るんだ。
一人の人間は、どんなに有能でも出来ることはほんの少しだ。でも。
多くの人達が。様々な力をもった人達が心を一つにすれば。
力を合わせれば。強い神様とだって戦えるんだ。
だから。一人でがんばりすぎるな。友達を、仲間を頼れ。
その代わり、友達や仲間が困っていたら、全力で助けてやれ。損得抜きでな。
人の持つ力ってのは。その人を助けたいと思う仲間たちの
持ってる全ての力が。すなわちその人の力なんだ。」

“シャルロット”の目から、涙があふれ出た。
何年ぶりかの、涙。
タバサは、このひと時だけ、復讐者タバサの仮面を脱ぎ捨て、
幼い少女、シャルロットとして、ただただ、泣いた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

一段落して、啓太はタバサの母を診察した。
「魔法、だな。五行水術の強い気配を感じる。」
「すごい。初見で魔法と見抜いた人は初めて。」
「診察結果は毒を盛られた日の話とも一致する。間違いなく魔法の薬だな。
となると、あの薬じゃあダメだな。なにか、魔法の中和薬みたいな物が、
それも強力なものがいるな。出来れば、真水に近い性質のものが良い。
心当たり、無いか?」
 タバサとキュルケが顔を見合わせる。
「強力な水の魔法薬?」
「ああ、俺はまだこっちの魔法薬には詳しくないが、それを上乗せさせれば
あるいは治療できる可能性があるかもしれない。」
「ある。」
ラグドリアン湖に近い場所で生まれ育ったのだ。当然、タバサは知っていた。
「ラグドリアン湖に住むという、水の精霊。その涙。強い水の秘薬の
原料として裏の市場で売買されている。」
「随分と都合のいい話だな。まあいい。早速手に入れよう。」

 なんだかんだと相談しながらラグドリアン湖のほとりに来た啓太達は、
農夫から水の精霊を何とかしてくれと依頼されたりもした。
が。
「う~~ん、どうやって会えば良いのかな? まず会えなきゃ交渉も出来ない。」
啓太が腕組みをする。
「タバサは水の精霊と交渉できないのか? 確か風・風・水の属性だったろ?」
「ごめん。」
「ま、しょうがない。行き当たりばったりでも良いからやってみるか。」
そういうと、さっさと周囲の森にむけて走っていく。
「あの…風の結界で湖の中に…(それに韻龍のシルフィードに頼むって手も)」
方法を思いついたタバサがおずおずと声をかけた時には、
すでに啓太は森の中である。
しばらくして、カエルを十数匹探し出して来た啓太は印を組み、呪文を唱えた。
「初めに大極あり。大極分かれて陰陽となり、陰陽渦巻きて四相を生じ、
四相交わりて八卦を生じ、八卦万華を現す。我、大道の流れに則りて願わん。
地をつかさどる神仙、蛙の守護者、白山名君の名において。眷属たる蛙よ、
汝ら水にもぐりて水の精霊をこれなる岸辺に呼ばわん事を。」
蛙たちは、おとなしく啓太の前に整列している。
啓太は、蛙たちに破裂しない程度に膨大な量の霊力を注ぎ込む。
「クエッ」「ボエッ」「クエッ」「ゲコッ」「クエッ」「クエッ」「ゲコッ」
蛙たちが、一斉に湖に向かって跳ねだす。
「…!?」「何をしたの、ケータ?」
キュルケとタバサに聞かれ、啓太ははっとした。杖を使っていない。
「ありゃ、しまったな。つい仲のいい二人だからって気を抜いちまった。」
「…」「…」無言で先を促す二人である。
「ま、ご想像の通りさ。俺はどっちかというとこっちで先住魔法って言われる
分野の道士だ。杖は基本的に必要ない。けど、内緒にしておいてくれ。
こっちじゃ警戒されるからな。使い魔ならともかく。」
「う~~ん、まあ、ロバ・アル・カイリエから無理矢理召喚されたんだし
4大系統のメイジじゃないのも納得だけど。それで、あんなに強かったのね。」
キュルケが納得する。4大系統魔法は基本的に先住魔法に勝てないのだ。
「まあそう言わないでくれ。俺たちの地域ではいろんな魔法体系がある。
そのうちの複数を修行する奴も少なく無い。こっちみたいに4大系統と
先住魔法、どうも自然契約系らしいけど、その二つしかないってほうが
俺に取っちゃあ変なんだ。どうしてこんなに発展して無いのかな?」

1神教地域だからであろうが、それを知る者はここにはいない。

 その後、啓太達は無事水の精霊と交渉し、アンドバリの指輪を
取り戻す使命を背負う代わりに支援を取り付けた。
その第1歩として水の精霊の涙を少しばかりと、
アンドリバの指輪が近くにあると反応する指輪を手に入れたのである。
ラグドリアン湖の水は、現時点をもって増えないことになった。
指輪が取り戻された暁には戻されるという契約である。

 その帰り。啓太達が、深刻な顔で腕を組んで歩いている。
「クロムウェルが26回月が交差する前の晩にアンドバリの指輪を盗んだ。」
「聞き間違いじゃなければアルビオンの反乱軍、レコンキスタの総司令官よ。」
「その指輪は古い水の魔法で心を操り、偽りの命を与える。厄介な宝だな。
何千年も続いた王家を倒そうなんて計画があっさり成功しそうになってる、
となればどう考えてもその指輪で人心を操ってるとしか考えられねえ。」
「どうするの?」
心配そうに聞くタバサの頭を、安心させるようにぽんぽんと叩く。
「大丈夫。なんとかするさ。期限が決められてるわけじゃないし、
達成できなかったら死ぬわけでもない。条件はかなり良いぜ?」

啓太達は、これ以上水が増えないよう、水の精霊の怒りをある程度
緩和した、とのお触れをシャルロットの名で出させるよう指示すると、
シルフィードで学院に戻った。

帰り道、シルフィードの上で、啓太はアルビオンとレコンキスタについて
二人から知る限りの情報を引き出した。そして、学院に帰ってからも
何人もの人たちから情報を引き出していったのである。

「あ、あら、随分と元気になって帰ってきたのね!」
調剤実習室に戻ったとき。ルイズが、こめかみに青筋浮かべて出迎えた。
「自宅ご招待、親に紹介してもらって公認されたの、ケータ?」
なんだかよくわからないが、とにかく負けた~~~!! 
という思いで一杯のルイズである。
「え、い、いや、別にそんな…」
ここで言いよどんでしまう啓太である。母親にあったのは確かだ。
「ふ、ふふふふ! そう、そうなの…随分と元気になって帰ってきたけど、
ヨロシクやってきたのね。まさか、二人一緒にやってきたの!?」
「い、いや! そんな事はしていない! 断じてしていないぞ!」
「不潔! 不潔だわ! ケータの馬鹿馬鹿馬鹿!!!」
ルイズが、泣きながら逃げていった。さらに男子からの視線も痛い。
 「なんでここまで元気になったのか、しっかり説明してもらえるかな?」
 「こんな忙しいときに両手に花でデートしてくるなんて。」
 「ひどいっす!」「女日照りの俺たちへのあてつけっすか!?」
 「言いだしっぺなのに逃げるなんてずるいっすよ!」「そうそう!」
 「というか、二人一緒ってのは畜生にも劣りますよ!」
 視線だけでなく口まで出してくる。
それは、啓太の忠実な犬神であるともはねまで一緒であった。
「啓太様、どうでも良いですけど、秘薬に霊力上乗せするの早くしてください。」
 「そうですそうです!」「もうこんなに準備出来てるんですよ!」
 「働かざるもの食うべからず!」「きりきり働きましょう!」
 啓太の株はたった24時間で。
「なんか、あっという間に権威が暴落したみたいね。」
キュルケが、ポンと啓太の肩を叩いた。

 アンリエッタ姫とトリスティン魔法学院生達との謁見は滞りなく進んでいた。
「見事なものですね。そなたらの忠誠、嬉しく思いますよ。」
様々な薬草の数々、ガソリンや土のチョコといった魔法を補助する秘薬、
いずれもハルケギニアでは初めてお目見えしたものだ。
デムリ財務卿の見立てでは、今日献上されたものだけで1万エキュを超えるかも、
とのことである。学生達が個人で作ったにしてはたいした額である。
要望どおり、献上する学生達一人一人にちょっとずつ声をかけてやると、
それだけで彼らは感激に咽ぶ。権力や欲得ではなく、純粋に高貴な姫に
謁見できるのが嬉しいようだ。親や家系のちょっとした事を思い出して
口に出すと、しがない自分達の事を覚えていてくれていた、と感激してくれる。
貴族の家系図や過去の業績を暗記するのはつまらない授業だと思っていたが、
こうしてみると勉強していて良かった、とアンリエッタは思った。
何より。ルイズ、ギーシュ、モンモランシー。
彼らを初めとする門閥貴族の子と権力欲抜きで関係を持てたのは、
宮廷で孤立無援のアンリエッタにとっては実にありがたい。

「今夜はささやかな内輪の立食パーティーを開きます。
堅苦しくならないよう、お年を召した方々は抜きで楽しみましょう。」
「「「「おお~~~!!!!」」」」」
生徒達から一斉にどよめきが上がる。

 渋い顔のリッシュモン高等法院長がごねたが、啓太がひどく遠まわしに
「姫様と次世代を担う名門貴族の子弟が親交を深めると困ることでも?
まさか王女を孤立させていいように操ろうなどとたくらんでいるのでは?」
と言った所、マザリーニやデムリ財務卿達はリッシュモンをたしなめた。
リッシュモンは、そんな意図での発言ではないと大慌てで弁護する。

 アンリエッタは感嘆の目で啓太を見ると、立食パーティの準備を命じた。
信用できるものが一人も宮廷にいない。何とかしなければいけない。せめて、
小さい頃遊び相手として伺候していたルイズとだけでも旧交を暖めておきたい。

さもないと。
マザリーニが打診してきた、おぞましい話を、
アンリエッタは唯々諾々と受けるしかなくなってしまう。
それは、避けられるなら避けたいのである。

 うるさい廷臣たちを締め出した立食パーティーで、アンリエッタは大いに
魔法学院生と親交を持った。他国から留学しているシャルロットとキュルケと
知り合えたことも大きかった。さらに、ケータというロバ・アル・カイリエ
から召喚されたという奇妙な男の事も。
「姫様、出来ますれば、学院に軍事教練の教官として、優秀な魔法戦士を
派遣していただけませんか? 見てください彼らを。領民を守るために
モンスターと戦い、戦場には率先して向かわなければならない名門貴族の
子供達が、ここまで大きくなったというのに体一つ出来ていない。
優美といえば聞こえは良いですが、ひ弱と表裏一体です。
 私が稽古をつけていますが、やはり東方流ではこちらの流儀と合いません。
戦争が近いというのに平民の護衛兵の後ろから魔法を撃つしか出来ないのでは、
戦力とはとても呼べません。それに、兵士は短期間の訓練で何とかなっても、
指揮を取る人間を育て上げるには時間がかかります。とても、かかります。
ぜひともトリスタニア中の魔法学院に軍事訓練の授業を義務付け、
教官として軍の現役士官を送り込むべきです。」

※トリスティン魔法学院は一学年90人を3クラスに分け、3学年で270人。
トリスタニアの人口がガリアの10%、150万人でメイジが9%として
13万5千人がメイジ。寿命が50年として同学年のメイジ人口は2700人。
同規模の学校が30校ある計算。人口密度が高く倍の300万人なら60校。
これらが全て自宅教育とは考えがたい。よって、国の名を冠した魔法学院ほどの
権威は無いものの普通の魔法学校は沢山あるという設定で書いております。

立食パーティも終わり、王宮に泊まる事になり興奮している生徒達。
その中で、もっとも良い部屋をあてがわれたルイズは、啓太とともはねと共に
帳簿付けをしていた。啓太の教える複式簿記は、難しく奥深く革新的だった。
単式帳簿ではどうにもつかみづらかった経営の実態というものが良くわかる。
「う~~ん、半月後には今回の倍の秘薬を献上するのよね?」
「ああ、それで討伐令を出してもらう。1割は口利きしてもらった公爵に
進呈するから、2.2倍必要だ。」
「新規入会者が随分増えましたから計算上では充分作れますよ~~~」
ともはねが、元気よく片手を挙げてうけあう。
「3倍でも楽勝だ。けど、問題は資金繰りだ。」
「やっぱりだいぶ分け前を落とさないとダメね。」
「危険地帯での薬草採取の護衛してる武闘員は、領地確保のための
分け前減額だから反対はしないだろう。秘薬の分け前を目的にしてる子は、
新しい秘薬の担当に任命すれば謁見で前に出られるから反対しない。」
「問題は建築員ですかね?」
ともはねが、ちょこんと首をかしげて聞く。ツインテールが揺れる。
「そっちはしばらくは大丈夫だ。多分、な。」
一昨日ご褒美をやったばかりである。それに、メイドの覗きで大方満足している。
「なんで?」
「薬草クラブのメイン目的にあんまり貢献して無いからさ。」
「そっか。」
納得するルイズに、ごまかせたようだな、と啓太がほっとしたとき。

コンコン・コココン!

ドアが、不規則にノックされた。
ルイズが、驚愕の表情と共にドアにダッシュする。
大き目のフードつきマントに身を包んだ、怪しげな人物が入ってきた。
その人物は素早くドアに鍵をかけると、魔法で部屋を調べ、壁を調べて回る。
「覗き穴や聞き耳を立てる伝声管なんかは全部無効化してありますよ。
王宮なんて魔窟に来てその程度の用心もしないほど無謀じゃないです。」
ビクリ、とその人物は硬直し、それからおもむろにフードを取り、顔を見せた。
「姫殿下!」「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」
ルイズが、ため息のようにもらした。先ほどまで、パーティーのホストだった、
アンリエッタ姫であった。ともはねが目を真ん丸くして見ている。
「姫様の遊び相手を勤めていたってのはほんとだったのか。」
啓太が、低く呟く。
「姫殿下、いけません(中略)こんな夜中に(後略)」「そんな他人行儀な(略」
「もったいないお言葉で(略」「略)枢機卿も母上も、あの友達面をして
よってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちも居ないのですよ!(中略)
あなたにまで、そんなよそよそしい態度を取られたら私死んでしまいますわ!」
ルイズとアンリエッタは、大いに思い出を語り、友情を確かめ合っているようだ。
啓太もともはねも蚊帳の外だ。二人は、帳簿をまとめると部屋を出ようとした。
「ルイズ、俺たちは邪魔みたいだから部屋に戻ってるよ。じゃあ明日の朝!」
ガチャガチャ。
ドアに鍵がかかっていて出られない。
「う…も、申し訳ございませぬアンリエッタ姫殿下、鍵を開けて頂きたく。」
「いいえ、ケータ殿。出来ればあなたも居ていただけませんか?」

啓太は、来たか! と心中で快哉を叫んだ。


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