あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

双月のカプリツィーオ

「……旗色、悪ぃな。クソが……!」

追い詰められていた。
ウェールズが刺され、ルイズが追い詰められたところへ割って入ったカルメロ。
人狼の能力とガンダールヴのルーンの力で、ワルドを圧倒してはいたものの――
ライトニング・クラウドの直撃と、『偏在』の魔法による5人のワルドの波状攻撃。
雷撃による動きの鈍りと、ワルド5人の連携により、最大の持ち味である俊敏性とトリッキーさを封じられ、苦戦しているのである。


「落ち着け相棒! 魔法は俺が引き受けてやるから。
 とにかく今は5対1って状況がいけねぇんだよ……まず、1人目をしとめることに専念しろ!」

手の中のデルフリンガーが、カルメロを諌める。
いつもの幻覚ではなく、現実に喋るということで買った剣ではあったが、なんだかんだで使ってしまっている長剣。
鉈やチェーンソーほど、使いでがあるというわけではないが――魔法殺しとこの会話能力によるケレン味が、使われる最大の理由である。
だが――

「一人目か……確かにこのまんまじゃ、ラチ開きそうにねェからな」
「お、おい……相棒? 何のつもりだ!?」

カルメロはその、この場で唯一の武器たる魔剣を――――鞘に収める。

「ふむ……まさか、観念でもしたのかね?」
怪訝そうな顔をしつつも、ワルドがあざ笑う。

「か……カルメロ! 馬鹿! 何でしまっちゃうのよ!?」
「そうだぜ相棒! あの野郎スクウェアだってのに、俺抜きで一体どうするつも――」
「ピーピーるっせェな、ヒカリモンの分際で」

手の中でわめく、納刀されたデルフが――――放り投げられる。
彼を使い魔にした、少女の許へ。

「「「な!!?」」」

ワルドと、ルイズと、デルフリンガー。
三者の驚きの声が、一つに重なった。

「ワリィな、姐さん。
 ちょいとこいつ、預かっててもらえねぇか?」

「……ちょ、こら、馬鹿! 本当にどうするのよ、武器もなしで!?」
「いらねェんだよ」
「ひ、酷ぇ! 俺ってそんなに……じゃねえ!
 相棒! おめ、自分が何やってるのかわかってんのか!? 死ぬぞ!!」
「ああ……別にそんなわけじゃねーよ。
 てめえはそれなりに面白ぇからな。 壊したくねえんだよ」

「「「……!?」」」

ルイズとデルフ、そしてワルドが、再度その発言に目を見開く。
肩を震わせて笑い始めたのは――――敵手たる、裏切り者のメイジだった。

「ふ……くっくっくっくっくっく!
 とうとう諦めたかね、ガンダールヴ。 常人離れした動きをし、あらゆる武器を使いこなす伝説の使い魔。
 君のその力だけは大いに認めるところだったが――――どうだね?
 今からでも遅くない。ルイズを連れて、僕と一緒にレコン・キスタに――」
「寝言は寝て言え、裏切りモンのウンコ野郎」
「……そうかね」

降伏勧告を罵声で一蹴され、こめかみに青筋を浮かべつつ、ワルドが杖を構えた。
殺気と魔力をその身に張り巡らし、一人一人が異なる魔法を詠唱し始める。

「ルイズの資質と君の力は惜しかったが――――仕方ない。
 主もろとも、アルビオンと運命を共にするがいい、ガンダールヴ!」
「さっきからガンダガンダって五月蠅ぇぞ、クソが。歯痒ぃんだよ! オレはそんなんじゃねえ」

ワルドの最後の言葉をまたしても否定すると――
カルメロはスーツの内ポケットから、黄色に輝く、小さな薬瓶を取り出した。
それはアルビオンへ発つ前に、ギーシュの身の安全をネタに、モンモランシーを脅して作らせた禁制品の魔法薬。
個人的には錠剤のほうがよかったのだが、そんなものが無いこの世界では、贅沢は言えなかった。


「何度も言ってんだぜ、いい加減分かれよ。
 オレはな――――狼、だ」


瓶の口を開け、黄色に輝く薬液を飲み下す。
それはもとの世界で彼が服用していた切り札と、非常に近しい性質の薬効を持つ。
それは――





「ぐ、がぁアアアア、が……!」

「カ、カルメロ……!?」
「相棒、どうしちまったってんだ……!?」

遠巻きに一部始終を見守る、剣と少女。
薬を飲み下したカルメロが俯き、うめき声を上げるのを――状況を理解できずに、ただ見続ける。


――殺セ、殺セ。


「ぐ、ごァアアアアアアアア…………」


このハルケギニアには、月が二つある。
どちらも欠けること無き満月なのだが――――召喚されたあの日の夜、カルメロは狼にならなかった。


殺セ、殺セ。


地球のものと月の性質が違うのか、二つあるから駄目なのか、それはカルメロにも分からない。
だから狼の血を呼び起こすには、もっと単純に――


“地球の月を、見れば”いい。


服用した、限りなく麻薬(ドゥローガ)に近い魔法薬――幻覚剤が血に混ざり。
彼の視界に、地球の白い満月を映し出した。
狼の血が、地球の月の輝きを認識し、激しく脈動する。
さらに、薬が触媒にでもなったのか――魔法で粉砕された壁や天井から差し込む、ハルケギニアの月光すらも。


――血ヲ、肉ヲ、腸ヲ、骨ヲ。


今宵はスヴェル、双月の重なる聖なる日。
そして、狼を狂わしうる、月光の日。


――喰ライ、飲ミ干シ、暴レ狂エ。



謝肉祭(カルネヴァーレ)の、始まりだ。


瞳から理性が消え、野生が代わりに支配する。
筋肉が二回りは隆起し、骨も肉も、かろうじて人の形を保つギリギリの所まで変貌し。


「おでれーた。タダモノじゃねえってのは分かってたがよ……『使い手』の上に人狼かよ?」
「……オオ、カミ……?
 まさ、か、あいつ、本当に…………?」


首から上は既に、獣のそれに成り代わっていた。
強靭な毛皮が、体表に姿を現し―――


「グォォォォオオオオオォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

礼拝堂に咆吼が轟く。
獣の咆哮とともに、文字通りの狂える魔獣と化したカルメロが、地を蹴った。
狙うは、エア・ニードルで一番槍をかけんとして突出していた、ワルドの一人。

「ばっ――」

馬鹿な、と言い切ることを許されずに――喉笛を、動脈を、筋肉を、骨を、獣の乱杭歯が食い破った。
その勢いのまま、なすすべもなく、礼拝堂の壁に背中から叩き付けられる。
壁面の煉瓦ごと、メイジの脊椎が粉砕された。


「……か、……はっ…………?」
「……………………………………!!!」

自分に何が起こったかも理解できずに、痙攣する『偏在』。
その凄惨きわまる姿に、遠巻きにしているワルド達もルイズも、息を呑まされた。

未知の異常事態に対する驚き。
風のスクウェアと人狼、彼我の相対速度。
それらの予測しえぬ要素は――疾さを身上とする風のスクウェア・メイジの反射神経にさえ、追いつくことを許さない。

「ウゥゥゥゥ…………フッ!」
「がぼぁ!?」

べきり、という粉砕音とともにワルドの体がびくりと跳ね、血泡を吐いてそのまま、ぐったりと動かなくなる。
噛み砕いた首の骨と肉、そしてひっきりなしにあふれ出る真っ赤な血潮を、飲み下す。
一時的にでも本物を再現した『偏在』の血肉の味と芳香が、血に飢えた狼を狂喜させた――――。




    ※        ※         ※





「アンリ、エッタに……これを……!」

力なく震える手――その薬指にはめられたアルビオン王家の宝、風のルビーが差し出される。

「ウェールズ、殿下……っ!」

ワルドの風の剣に胸を貫かれ、大量の血を口と胸からこぼしつつ、それだけ告げるウェールズ。
最早誰の――素人のルイズの目から見ても分かるくらいの、致命傷。
たとえもしこの場に水のメイジがいたとしても、助かる可能性は寸毫ほどもない。


「……ふ、く、かはははっ!
 ぶぁ―――――っはっはっはっはっはっはっはぁ!!」
「!?」

貴族の娘と使い魔と、滅び逝くアルビオンの王子。
彼ら以外に動くものがいなくなった礼拝堂に、場違いな笑い声が響いた。


「カルメロ……何がおかしいってのよ……!?
 こんなところでまでふざけるつもりだったら……絶対許さないんだから……!!」
「いや、だってさー姐さん。 笑うなってほうが無理な相談っしょ?
 姐さんが今話してるそいつ、ロクな手もうたずに国つぶされかけて、そんな国に命かけるためにオンナ捨てて。
 その上でさらに失敗して、会えなくてごめんなちゃーいってクソみたいな言い訳で死のうとしてる、ウンコ野郎ですよ?
 いやホント無理。もう腹筋のガマン限界」

「ッ……!!」
「何て……なんて事いうのよ、あんた、は……!?」

死にかけている王子の口から、歯噛みする音が聞こえた気がした。

「しかも『これを彼女に…愛してるぜベイベー』ってノリで、形見の指輪をプレゼントっすよ?
 オレ鼻利かねえけどクサ過ぎてたまんねー。 どこのお涙頂戴な三文芝居だってーの」

先ほど体を張ってワルドから救われた恩など、すでに頭から消し飛んでいた。
自分の使い魔の口から、こんな恥知らずで口汚い言葉が出ていることが、死ぬほど腹立たしい。

「……黙りなさい……!
 それ以上言ったら、本気で殺すわよ……!?」

ああ、いくら自分の使い魔とはいえ、こいつは自分達とは違うバケモノだったんだ。
しかも、こんな、おつむがどうかしているケダモノなんかに……!
本物の殺意と怒りを込めて、ルイズはカルメロを睨みつける。


「あーどーぞどーぞやれるモンなら。 しかもそのジュリエットさー、
『私ー、今度ー、結婚するのー。だからモト彼に贈ったラブレター取り返して来てー? うふっ♪』なんてお願いで
 戦時国に友人送り出すような、クソ売女じゃねえっすか。
 いや、むしろ発情期でオスなら誰でもケツ振って誘うメス犬? お似合いすぎにも程があらぁな!」

……もう、我慢の限界だった。
口から怒りと悔しさが、音となって飛び出す。

「だまれぇッ!!」
「―――テメェこそ黙ってろッ!!!!」
「!!?」

黙らせるつもりの一喝は、更なる怒号で押し潰された。
まるで悪びれる様子もない軽薄な、しかし断固とした口調で、カルメロが告げる。

「ピーピーうるせぇ、うざってぇ、歯痒いぞコンチクショウが!

 ……オレが用があんのは、そこでゴロ寝してるうんこ野郎です。
 文句なら後で何ぼだって言ってもらっても構わねェ。
 だからお願いですから――そこどいて、クチ、閉じといてもらえませんかね? クソガキの『姐さん』」

肩を軽く押さえると、ルイズをひょいと押しのけ、カルメロは入れ替わりにウェールズに歩み寄る。
精一杯踏ん張って抵抗したが――人狼の力に、非力な少女がかなうはずもない。
そのまま慣性に敗北し、数歩後ろに後ずさる。

「……何様の、つもりよ……!?
 たかがわたしの使い魔で、平民のチンピラで、イカレたバケモノのくせに……あんなこと……!」

悔しさに、涙が止まらない。
なんでこんなクズ野郎、使い魔にしちゃったんだろう。
何でこんなクズみたいな男ごときに、こんな形で死にゆく王子が、貶められねばならないのか。
その『クズ野郎』と心中で罵った己の使い魔から預けられた剣を抱きしめると、歯噛みする。


「……おい、娘っ子」

不意に、預けられたデルフリンガーが、語りかけてきた。

「なによボロ剣……今、気分悪いのよ。話しかけないでくれる……?」
「……娘っ子、俺自身確信しきれねえんだが。
 相棒のあの態度――何か考えがある気がするんだよ」
「あの、馬鹿狼に? だとしても、あんな言い方……!」

「だから……相棒の言うとおり、叱るなら、後でなんぼでもやっちまっていいと思う。流石にありゃ俺も思う。
 だけどよ――ここはちっと、様子ぐらい見てみねえか?」


「よぉ。うんこ王子」
「……君には、主への、敬意は、ないのか…………!?」
「息の根止まりかけが呼吸の無駄遣いしてんじゃねえよ。 つーかまずヨソの主人(パドローネ)よりてめえの心配しやがれタコ。
 で、どーよ。 遠恋中のメス犬にごめんちゃーいって誤って死ぬ気分は?
 あ、いま最後のは誤字じゃねえかんな? 試験出るぜココ」
「き、さま………!」

カルメロの指摘通り、絶えかけの息で――
それでも怒りに満ちた瞳と言葉を、カルメロに振り絞るウェールズ。

「ああ、ワリィワリィ。てめえの愛犬のアンリエッタちゃん、今発情期だったっけ? だったらしゃーねえか!
 道理でサカりついててうるさかった訳だわな。
 聞いてくれよ、こないだうちの部屋来て姐さんの前でキャンキャン泣くわ泣くわ――」
「…………ッ!!」


その瞬間、ぶすり、と。
鋭利なものが、肉を穿つ音が響いた。


「……痛ェじゃねえか、コラ」

ぽたり、ぽたり。
滴る雫が、瀕死の王子の顔に、赤い化粧を施していく。

「………………ッッ!!!」

死に瀕しての怒り、そのブーストされた魔力でようやく生み出した、エア・ニードル。
死の間際だというのに、自分はおろか愛した人まで口汚く罵倒される――その許し難い口をふさごうと繰り出した、風の鋭利さを纏った杖。
咄嗟に顔を庇った男の手を貫き……そこで、止められていた。

「はい、『もっと頑張りま賞』贈呈けってーい。
 あと動かすな力入れるな、痛くて歯痒ぃんだよバカ」
「……!! …………ッ!!」

もう、そんな力も入れられないのだろうか。
それともこれが、人狼の力とやらか。
死に際の精神力をすべて注いでいるはずのエア・ニードルは、それ以上押し込もうとしても、びくともしない。
悔しさと怒りに、涙が溢れる。

「……ンを、じょ……、る、な……!」
「あン?」


杖を針剣たらしめていた、風が弱まり――薄れてゆく。
魔法をまともに維持できないほど消耗し――悔しさに反比例して、消えかかる意識。
それを無理やり怒りで維持し、すがりつく様にカルメロの襟首をつかみ――真正面から、睨みつける。

「なんだよ、遺言DEATHかー? ウンコ王子?
 でもオレあいにく狼ですから。 いくら近縁種だからってメス犬との通訳頼まれても困るから。ユーシー?」

戯言など、聞いてやるつもりはない。
だがこれだけはこの男に叩きつけておかねば、死んでも死に切れない。
絶え絶えの息でも聞こえるぐらいに顔を近づけると、ウェールズは、怒りを吐き出す。


「……とり……、せ。 アンを、侮じょ、く、す、るな……!」


この手だけはけして離さじと、消えかけの意識に鞭打って襟首にしがみつく。

「ハイハイハイハイ。そんなにヨソの男にケツ振ってる、絶賛発情中のメス犬さまが大事ですかー? ウンコ王子」
「だ……まれ……! そ……以上、言、なら、殺……!」
「今、殺すって言ったな? やってみろよ死にかけウンコ。
 それともあの女はやっぱメス犬で、てめえはそのケツにこびりついたクソカスどまりってわけか?」
「…………ッッ!!!」

ぞぶり。

「なんだよ。根性あるじゃねえか」

カルメロの手を貫いている杖が纏う風が強くなり、僅かながらにより深くめり込む。
止まりかけていた血が、また少しずつ傷口から滴り始めた。

「……いちおう、聞いとくぜ。あー痛ぇ……!
 あの馬鹿で、世間知らずで、考え足らずの温室栽培なあの姫さんが、そんなに大事か?」
「ぁ……、ッ…………!」

もう声帯すらまともに動かない。
だからウェールズはカルメロを睨みつけ、気力だけで頷いた。



「そうかよ、ならせいぜい証明してみせやがれ。
 てめえがクソカスじゃなく、あの女がメス犬じゃなく――“狼と、その惚れた女だってこと”をよ」




カルメロの顔から、それまでの子供じみた、おどけた様子が消える。
掌を貫く杖を引き抜くと、その手でウェールズの口を押さえ、

「……!?」
「……我は気高き大神(おおかみ)の末裔(すえ)」


抜くが早いか即座に塞がろうとする手の風穴を、もう片手の爪でこじ開けつつ、聖句じみた何かを詠唱し始めた。


……イテェ。本気で痛ぇ。マジ痛い。
再生能力の高い、満月明けの人狼とはいえ――流石にこればっかりは辛い。
たしかこいつで、聖句は間違いなかったはずだ……多分。

オルマ・ロッサの幹部にのみ許されていた、聖なる儀式。
痛みに顔をしかめつつ、かつて兄貴分と慕った男――シルヴィオに施されたそれを、うろ覚えで再現する。

「我が血を享けよ。
 獣の衣を被さる、罪なく咎なき身体を、狼の血で浄めよ」

……あの時もこんな感じで、仏頂面しかめながらだったなぁ――――あの人。
不器用で要領悪くて短気で冷酷でどうしようもなかったが、それでも芯では、情の深かった兄貴。
最後までは見届けられなかったが――オルマ・ロッサやロメオのあの様子考えりゃ、まぁ大丈夫か。
ただの壊れかけの麻薬中毒者(ドゥロガート)だった自分を拾い、救い、兄貴と呼ばせてくれた男の事を思い出しつつ、聖句を続ける。

「我は狼、黒き森より来たる、死の使者」

穴の開いた手で押さえられたウェールズの口に、カルメロの血が流れ込む。
それは大神から人に授けられる、旧き祝福にして呪い。

「………………」

意識朦朧としていたために、さしたる抵抗もなく、喉まで赤い洗礼は流れ落ちてゆく。
その血に宿る、魔力によって――彼の人生が、終幕を告げる。


「満ちたる月を請うて吼える、太陽の遣い――」

カルメロの手が離れ、短くも厳かなる、狼の聖句が終わる。
今わの際に、偉大なる大神の洗礼を受け――

「あばよ、クソ王子」

アルビオン王国の皇太子ウェールズは、今ここに死を迎えた。



ウェールズの顔から手を離し、カルメロが立ち上がる。
デルフの言う通りに、必死に憤りを噛み殺して待っていたルイズが、歩み寄る。

「…………正直あんたに言いたいことは死ぬほどあるけど、後に回すわ。
 ウェールズ、殿下は……?」
「殿下……?
 ああ、あのクソ王子なら死にましたよ。いまここに居んのは――」
「……っ!!!」

こらえていた堪忍袋の緒が切れる音。
ぱぁんと乾いた音を立て、目には怒りのあまり涙すら浮かべ、ルイズがカルメロの頬を張る。

「痛ってぇ……!
 あーも、痛いっすよ姐さん!?」
「……あんたって、男は……!!
 殿下の思いを、姫さまのことを大事に思ってた、あの方を……!
 あんたみたいなチンピラが、最期まで……!」
「い、いやその……姐さん?」

怒りと悔しさのあまり、涙声になったルイズの顔に、流石にカルメロも狼狽した。

「あ、あー、うー。ちょっと待ってくださいよ。まだオレ話の途中で――」
「うるさいっ!! うるさいうるさいうるさい!!!
 ……亡くなる、直前まで、馬鹿にして――――何様のつもりよっ!?


 殿下の代わりに、あんたこそ死んじゃえばよかったのよ!!」


怒りのあまり、ナイフにも等しい鋭さの暴言が、口をついて飛び出す。

「は、はが……っ」

場を静寂が満たす。
言ってしまった直後、その鋭さにルイズも、後悔に襲われた。

「……あ、」


視界に映るのは、予想外の言葉を浴びせられ、身をわなわな震わせるカルメロ。

「……はが、はが、はが……っ、」

いくらカルメロの先刻の所業があったとはいえ、その言葉は――人の心の臓を引き裂いて、余りあるものだから。
とてもルイズの理想とする『貴族』が、使い魔に向けていい言葉ではない。
だが――


「……歯痒ぃぞ、コラァァァァァァッ!!」
「!!?」


……刃で心臓を抉られて死ぬのは、あくまで人の間の常識である。
銀器ならぬ言葉のナイフでは、常識を忘れたヤク中の狼には、まるで殺傷力が足りていない。

「だー、かー、らー、話はまだ終わってねえっつってんでしょ、姐さん!?
 あんたも人の話聞かねえなホントに! あー、ままならねぇ!」
「あんたにだきゃ言われたかないわよ!?」

悪びれる様子もなく、怒鳴り声で抗議をまくしたてるカルメロ。
いつものノリでついツッコミまでかまし、先刻とはまた別の自己嫌悪に襲われるルイズ。
呼吸を整え、イカレた使い魔に詰問する。

「……どういう、ことよ……?」
「確かに、『この国のうんこ王子は今さっき死にました』よ。
 で、今この礼拝堂で生きてんのは、姐さんと――――」






「……また、その、呼び方か……っ!
 貴族の、使い魔をやるなら……ぅっ、……もう少し、礼儀を……わきまえたら、どうかね……!?」







「あー悪ぃ。そもそもオレの辞書に乗ってねえんだわ、そのコトバ。そもそも契約も事後承諾だったしなぁ!
 ウェルカム・トゥ・狼の世界! アーンド、ハッピバァスデェイ!!? 糞餓鬼(バンビーノ)!」
「――っ!!?
 うそ、まさか、今の声…………!?」

ありえざる声が、メイジの少女の耳に届く。
人狼とスクウェア・メイジの戦いで破壊し尽くされ、荒れ果てた礼拝堂――
もはや始祖の祝福さえ期待できそうになくなった廃墟に起きた奇跡に、言葉を失う。


「姐さんと――――狼が“二匹”だ」


それは始祖ブリミルではなく、大神(オオカミ)の血によってもたらされた奇跡。
今わの際、得体の知れない何かを施され――
カルメロに悪罵されながら息を引き取ったはずの、男の声だった。



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