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イザベラ管理人-15b



チップは既に5万エキューに達しており、ここまで勝ち続ける耕介に店側も不審がっているだろうが…エルザの工作がばれるわけもない。
そして、その人物は耕介がもう一つ桁を上げた時にやってきた。
「こ、これは旦那様、大勝でございますな…さて、夜も更けてまいりましたが…」
先の貴族を論破した男であった。男はこの賭博場の支配人ギルモアと名乗った。でっぷりと太り…しかし、眼光は鋭い、どう控えめに見ても油断ならない男だ。
これほどの大金を勝ち逃げされては困る、と言外に匂わせる言葉に、耕介はやっとこの胃が縮むような賭けが終わったことを知った。
「ああ、続けるよ」
「それでは旦那様、そろそろ小さな賭け額にも飽きた頃合ではありませんか?旦那様さえよろしければ、更なる興奮をお約束できるゲームをご用意しますが」
「頼むよ」
耕介の快諾にギルモアは顔をほころばせ、恭しく一礼した。
「それでは、お席をご用意させていただきます」
だが、そこに水を差す者がいた。
「ねぇ父様、エルザ疲れちゃった」
エルザが耕介の袖を引っ張り、駄々をこねだしたのだ。
だが、言葉に隠された真意を耕介は過たず感じ取っていた。
「すまないけど、娘もこう言ってることだし、休ませてくれないか?」
「かしこまりました、旦那様」

二人が案内されたのは、豪奢なベッドなどの毒々しささえ感じるほどに豪華に飾り立てられた別室だった。
「ふぅー疲れたぁ…」
体がどこまでも沈みこみそうなほどにふわふわのベッドに沈み込み、耕介はやっと気を抜いた。
繰り返すが、彼は小市民なのだ。加えて、王宮で生活しているとはいえ、リュティスで情報収集などもしているので物の価値もある程度わかっている。
今日耕介が稼いだ額は、まさしく彼にとって天文学的な数字。そんなものを担保に賭けをするなど、精神衛生に悪いことこの上ない。
勝ち始めた当初こそ気が大きくもなったが、桁が上がっていくにつれ、そんなものは虚空の彼方に消えてしまっていた。
もちろんエルザを信頼していないわけではないが、やはり大金を扱うという事実自体が耕介にとっては現実味がないことなので致し方ないだろう。
「えへへ、エルザの言った通り、勝てたでしょ?このお金もって逃げちゃおっか!」
エルザが耕介の胸にダイビングし、おそらくは半ば以上本気の冗談を言った。
柔らかくエルザを受け止め、耕介は苦笑するしかない。
「これは仕事なんだからダメだって。それに、こんな大金持ってると思うと気が休まらない」
いかにも小市民らしい言葉である。
「えーお兄ちゃんのためならエルザ、これくらいいつでも稼いであげるよ?」
「そんなのはダーメ、自分の生きる分程度は稼げるんだから、自分でしないとな」
エルザの頭を撫でながら他愛ない会話をするが、耕介の頭は別のことを考えていた。
先ほどまでのシューターの動きを思い出すが、イカサマをしているようなそぶりはなかった。やはりあの場ではイカサマはしていないと見るべきだろう。
おそらく、仕掛けられるとしたら次の勝負だろうが…先ほどの貴族の一件からも、店側はよほど巧妙にイカサマを仕掛けていると見ていい。
果たして見破ることができるのか…不安は拭えない。
その時、耕介に頭を撫でられてご満悦だったエルザが不意に顔を上げてきょろきょろと辺りを見回し始めた。
「どうした、エルザ?」
「何か…動物の鳴き声みたいなのが聞こえた気がしたんだけど…」
考え事をしていたとはいえ、耕介も戦士の端くれ。異質な音がすれば間違いなく反応する。
だが、耕介には動物の鳴き声など聞こえなかった。
「賭場に動物…なんだろう、ここに来てる貴族のペットかなにかって可能性もあるけど…」
エルザ自身、かすかに聞こえただけで、空耳と言われても仕方がないことだ。
エルザは思考の半分を鳴き声の捜索に当てつつ…もう半分は耕介のことを考えていた。
(無条件にエルザの言葉信じちゃって…お兄ちゃんって本当にいいなぁ…このままさらいたくなっちゃうよ)
もちろんそんな風に考えているなどエルザはおくびにも出さない。
1分ほど、二人して耳をそばだて…エルザにはまた聞こえた。
やはりか細いが、動物の鳴き声と思しき声だ。
「やっぱり聞こえた…どこかに動物がいる」
「俺には聞こえないな…エルザの方が耳がいいのかな。とりあえず動物がいるか聞いてみよう」
ベッドの隣に置かれたベルを鳴らし、現れた従業員に飲み物の注文と共にそのことを問う。
「いえ、今はペットをお預かりしてはおりませんよ。何かの音を聞き間違えられたのではないでしょうか?」
そう答え去っていった従業員の言葉は嘘偽りはないように見える。
エルザも特に嘘とは感じなかった。
となると本当に聞き間違いである可能性もあるが…。
「あ、また聞こえた…やっぱり気になるなぁ…ね、お兄ちゃん、探しに行ってもいい?」
「そうだな…わかった、次のゲームではエルザに工作してもらうわけにいかないしな。大丈夫だとは思うけど、一応気をつけてな」
今回の目的は勝つことではなく、イカサマを暴くことだ。
使わざるを得ない状況にまで追い込んだ今は、もうエルザの工作は必要ない。
いったいどんなイカサマを使ってくるのか見当もつかない今は、少しでも不審な点は調べておいた方がいいだろう。
「うん、わかった。じゃ、また後でね、お兄ちゃん!」
元気よくベッドとから飛び降りたエルザを見送り、耕介も気を引き締める。
「さぁ、気合を入れないとな」

ギルモアの使いに案内され、耕介は個室にやってきた。
そこでは、ギルモアと先ほどの貴族をやり込めた長身の優男が待っていた。
「旦那様、お待ちしておりました。おや、お嬢様はどうされました?」
「娘は疲れたと言ってましたから、部屋に寝かせてあります」
「そうでございましたか。では早速ですが、ゲームを始めてもよろしいですかな?」
どうやらギルモア自身が相手をするらしい。
今回のゲームはサンクというカードゲームであった。
ハルケギニア版のポーカーのようなものだ。
公平さを期すためにカードをきるのは耕介となった。
注意深くカードも台も観察していたが…今のところ不審な点は見当たらない。
ゲームを開始しても、やはり怪しいところはない。
そして数回勝負を繰り返し…耕介はこの賭場が怪しいといわれているわけを悟った。
(確かにこれは…異常だな。こっちがどんな役を作っても、向こうは一つ上の役を作ってくる)
耕介がどんな役を作ろうと、ギルモアは一つ上回るのだ。
だが、不審な点は見当たらない。
カードは毎回耕介が切っているし、台にも特に動きはない。優男も飲み物を注ぐ以外に特に動きはない。
イカサマをしているとしか思えないが…見破れない。
チップはまだまだあるが…この調子でいけば全てむしりとられるのは明白だ。
一応はまだポーカーフェイスを保っていたが、内心は焦りでいっぱいであった。


エルザは時折聞こえる鳴き声を頼りに従業員用の通路を彷徨っていた。
隠れるのも面倒なので途中で出くわした従業員は全て”眠り”の魔法で眠らせている。
声を頼りに奥へ奥へと進んでいくと…なにやら見るからに堅気ではない二人の男が扉を護っているのが見えた。
剣を差しているところ見るに平民の傭兵なのだろうが、明らかに怪しい。
果たして鳴き声はその扉の向こうから聞こえてきた。
一瞬だけエルザはニヤリと笑うと、すぐにその笑顔を無邪気なものに変えて傭兵へと近づいていった。
「おじちゃんたち、何してるの?この部屋に何があるの?」
「な、なんだ?お嬢ちゃん、どこから入ってきた?ここは従業員しか入っちゃいけねぇんだ、とっとと帰りな」
「なぁんだ、おじちゃんたちも知らないんだね。じゃあいいや。眠りを導く風よ、彼らを包みたまえ」
男たちが中の物のことを知らないと判断すると、エルザはすぐさま彼らを眠りに落とし込んだ。
抵抗することもできずに崩れ落ちた男たちを尻目に、扉の取っ手に手をかける。
やはり鍵がかかっており、硬い手ごたえが返ってくる。
だが、エルザはただの少女ではない。精霊の力を操る吸血鬼なのだ。
エルザはスカートの内側に縫い付けられたポケットから小さな植物の種を取り出した。
「森に連なる者よ、我が声に応えたまえ」
エルザの声に反応し、種が割れて中から蔓が伸びた。
それはまっすぐに鍵穴へ入り込み…数秒の後、カチンという音と共に鍵が開いた。
「ご苦労様」
種を労うように一撫でしてからポケットに戻したエルザは軽い足取りで部屋の中に足を踏み入れた。
そこは傭兵が護っていたにしては、単なる倉庫にしか見えなかったが…エルザにとっては全く別の意味を持つ”もの”が待っていた。
「へぇ……なるほど、そういうわけかぁ。そりゃ、誰にも見破れないよねぇ」
エルザは心底楽しそうで…だが、底冷えのする笑みを浮かべた。
そこには、数枚のカードが檻の中に入れられ、無造作に置かれていた。

「また、私の勝ちですな」
「負け…か」
あれだけあったチップはもはや残りわずかとなっていた。
この勝負はイカサマだ。耕介には確信に近いものさえある。
いくら耕介が素人とて、時間稼ぎのためにあれだけのチップをちまちまと賭けて小さな勝負を繰り返したのだ。
にも関わらず耕介は未だに一度さえ勝てていない。
単純な確率論から言ってもありえない。
耕介は一度だけ、ロイヤルストレートフラッシュさえ揃えたことがある。
だが、ギルモアもロイヤルストレートフラッシュを揃え…あまつさえ、それは耕介が揃えた属性に勝てる属性で作られていた。
これほどの偶然が揃う確率など、まさしく天文学的だ。
そう、どう考えてもギルモアはイカサマを使っている。
にも関わらず全く不審な点がない。毎回カードをきるのは耕介だし、台も調べたがやはり何もない。ギルモアと優男がメイジという可能性も考えたが、杖らしきものもない。
部屋の外まで調べたが、やはり何もない。
結果は不審極まるが、その結果に至る過程には不審な点がない。
これだけあからさまなことをしているのに、見破れないとは…確かに貴族たちが北花壇騎士団を使ってでも潰そうと考えるのもわかる気がする。
「さて、次はどうしましょうか?」
ギルモアは余裕の笑みを浮かべている。正直、非常に癇に障るが…どうすることもできない。
だが、ここで退くわけには行かないし、最低でもエルザが来るまでは時間を稼がねばならなかった。
「続けよう」
先ほどのサイコロ博打の時とは比べようもないほどに胃が痛いが…なんとか踏ん張るしかない。
耕介が胃薬がほしいなぁと思っていたその時、彼にとっての救世主は現れた。
「父様、こんなとこにいたんだ、エルザ探しちゃった!」
突然、扉が少しだけ開かれ、そこからエルザが顔だけを出したのだ。
屈託のない笑顔で耕介の元へ走りより、指定席へと飛び乗る。
すなわち、耕介の膝の上だ。
「おやおや、旦那様とお嬢様は仲睦まじいですなぁ」
「はは、甘えん坊で困りますよ」
ギルモアと優男は突然のエルザの登場に困惑し、それとは正反対に耕介は安堵のため息をついた。
何故なら、膝に飛び乗る際にエルザが小声で囁いたのだ。
「わかったよお兄ちゃん、もう大丈夫」
エルザは耕介の信頼を裏切ったことはない。ならば、彼女が大丈夫だと断言したのだ、耕介の胃は救われたも同義である。
そしてそれは現実のものとなった。

「な…バカな!?」
ギルモアが初めて負けたのだ。
それも、今度は耕介の手が一つ上。
「やっと勝てましたね、やっぱりエルザが俺の幸運の女神のようです」
エルザがいったい何をしたのかはわからないが、彼女はイカサマを破り…おそらくはそれを逆手に取ったのだ。
(俺、全く役に立ってないなぁ…)
耕介の内心は忸怩たるものであったが、今は勝負の真っ最中。そんなことはおくびにも出さず、エルザの頭を撫でてやる。
仮面親娘が和やかなムードを発しているが、ギルモアは焦りに焦っていた。
このイカサマは絶対にばれるわけがないと、ギルモアは自信を持っていた。事実、今までたくさんの貴族から金を巻き上げたが、誰一人として見破れた者はいない。
この成り上がり風の男も、カードや台、果ては部屋の外まで調べたが、秘密に行き着くことはなかった。
だが、あの妖しいまでの美しさを放つ金髪の少女が現れてから、勝利が確約されていたはずのワンサイドゲームは一変してしまった。
何かの間違いだと自分に言い聞かせ、その後も数ゲーム続けたが…やはり勝てないのだ。
しかもその勝ち方は、今までのギルモアの勝ち方…常に相手の一手上を出すもの。
もうここまで来ては間違いない。イカサマを見破られたのだ。
しかも如何なる手段によってか、相手はそのネタを逆手にとっている。
そう…もう、終わりなのだ。
「トマ!」
優男…トマはギルモアの突然の叫びに、まるで命令を与えられたガーゴイルのように反応した。
部屋の隅から驚異的な踏み込みで耕介の下へ飛び込み、メイジの象徴を斬り飛ばした閃きが首へ迫る。
「…む!」
だが、それは空振りに終わった。
耕介が床を蹴り、椅子ごと後ろに倒れたのだ。まるでトマの襲撃を予想していたような対応。
さらに次の攻撃はトマを驚愕させた。
「ぐぁぁぁ!」
耕介の腕の中に収まっていた少女が、トマの肩を蹴り上げたのだ。
しかも、その一撃はトマの肩を完膚なきまでに破壊し、それでも余りある衝撃がトマを壁に叩きつけた。
耕介は椅子が倒れきる前に、エルザの蹴りの反発も利用して背を丸め、くるりと回転して立ち上がった。
「森に連なる者よ、我が声に応えたまえ」
エルザの鈴を転がすような声に反応し、スカートの下から伸びた蔓が扉を叩き開け、向こう側にあったものを引き寄せた。
それは、霊剣・御架月。耕介の無二の相棒。エルザがここに来る前に取り返していたのだ。
事ここに至って、ギルモアは理解した。
「お、お前ら…まさか王政府の人間か!?」
ギルモアとて、いつかはこんなことが起こるだろうとは予想していた。
だが、それがまさか平民の剣士と正体不明の少女とは…。
「うふふ、おじさんたち、いったいどこでこの子たちを捕まえたの?可哀想に、親から引き離されて泣いてたよ?」
エルザがスカートをわずかに持ち上げると、イタチのような生物が数匹現れ、エルザの肩に登った。
それに答えるように、台の上に散乱したカードもまたイタチのような姿に変わり、エルザの下へ走りよった。
「い、いったいどうやって…」
じりじりと後ずさりながら、ギルモアは混乱の極地にあった。
この少女はいったいなんなのだ?厳しい視線を向けてくる剣士などよりもあの少女の方がよほど正体不明で恐ろしい。
あのイタチのような生物はエコーという韻竜と同じ古代の幻獣種であり、姿を変える先住魔法が使える。
ギルモアはひょんなことからそのエコーの子どもを捕獲し、人質にして親たちにイカサマの片棒を担がせていたのだ。
エコーの鳴き声は、人間に聞こえぬし、先住魔法を感知する術はない。
故にギルモアは絶対の自信を持っていた…それをあの少女は看破し、しかもエコーを手懐けている。
加えて、先ほどのトマへの攻撃。あんな小柄な体のいったいどこにあれほどの…人間を越えるような破壊力が存在しえるというのだ?
だが、何よりも。
「な…なんなんだ、お前は…」
あの瞳だ。あの金色の瞳が恐ろしい。まるで蛇に睨まれた蛙のような心境だ。
「ギ、ギルモア様…早くお逃げを!」
血を吐くようなトマの叫びが、恐慌状態のギルモアにわずかに理性を取り戻させた。
そうだ、この賭場には逃げるための準備もきちんとしてある。
それはこの部屋も例外ではない。
「と、トマ、お前は時間を稼げ!」
ギルモアはトマにそう命じると、背後の壁の一角を押し込んだ。
すると、壁が開き、通路が現れた。この薄暗い通路は、路地裏へと繋がっているのだ。
ギルモアの命を受け、トマは袖から丸いものを取り出し、口で噛み千切った。
中には燐が仕込んであったらしく、激しい煙が部屋を包む。
だが、トマの起死回生の一手はあっさりと振り払われることになった。
「うぁぁ!」
突如、煙の中から二本の植物の蔓が現れたのだ。
それはあたかも剣のごとくトマの両腿を貫き、壁に縫い付けて、再び煙の中に戻っていった。
全くわけがわからない。先ほどから起こっていることが何一つ理解できない。
だが、明確なことは…トマと、彼の恩人である主のギルモアはとんでもないバケモノに追い詰められたということだ。

ギルモアは必死に逃げ、ようやく路地裏へと出た。
トマは死んだかもしれないが、彼にはそんなことは些事であった。
所詮は捨て駒として拾った餓鬼、自分を救って死ねるのだから本望というものだろう。
「ま、まだだ…シレ銀行の鍵はいつも身につけている…まだ終わったわけじゃない!」
シレ銀行とは、彼が稼いだ金を預けている銀行である。
そこから金を引き出し、ゲルマニアにでも高飛びすればまだまだ再起は可能だ。
だが、それはもはや叶わぬ夢となっていた。
「うふふ、おじちゃん、どこいくの?」
死神はとっくの昔に彼の影を踏んでいたのだ。
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
この10分にも満たぬ間に、いったいギルモアは何度「ありえない」と叫んだかわからない。
イカサマがばれたこともありえなければ、平民の剣士と少女が自分を捕まえに来たことも信じられない。
今も、ギルモアは全力で走っていたというのに、圧倒的に歩幅が小さいこの少女は息も切らしていない。
いったい自分はどんなバケモノに魅入られたというのか?だが、ギルモアは恐慌の極みにありながらも一縷の希望を捨てなかった。
「ご、ご容赦ください!ここは喜捨院なのでございます!貴族様方からいただいたお金は貧しい者たちへ渡しているのです…!」
ギルモアとて、伊達にこのような真っ当でない商売で財を成したわけではない。
人間には良心というものがある。それを突けば、まだ望みはあるはずだと考えたのだ。
だが、やはりギルモアは冷静さを失っていたと言わざるを得ない。
彼は自分で認めていたではないか。目の前の金色の少女が、バケモノである…と。
「へぇ、そうなんだぁ。おじさん偉いね、義賊って奴?」
無垢な笑みで少女が小首をかしげる。その様は誰が見ても麗しい少女の魅力に溢れていたが…ギルモアには恐怖を煽る効果しかなかった。
「で、ですから、お願いでございます、見逃してはくださいませんか!」
ギルモアは土下座までして年端も行かぬ少女に命乞いをする。
エルザの答えは…
「ギャア!」
足であった。
地に額をこすりつけたギルモアの頭を、エルザが踏みつけたのだ。それは信じられない力でギルモアの頭に圧力を加える。
「嘘でしょ、おじさん。だって嘘つきの匂いがするもの」
ギルモアからは見えないが、エルザは相変わらず無垢な笑顔のままだ。
それがより一層、彼女を異形足らしめていた。
「ぼ、ぼんどうなんでず…!」
顔を地面にこすり付けられながらギルモアがなおも言葉を重ねる。その声は頭蓋骨が軋むほどの力に晒され、醜く曇っていた。
だが、エルザの答えは変わらず無情であった。
「うふ、でもね、本当はおじさんが嘘ついてようがどうでもいいんだ。あ、ついでに言っておくと、別に恨みがあるわけじゃないよ?」
異形の声は変わらず鈴を鳴らすような美声で、少女特有の無邪気さに満ちている。
「むしろ感謝してるんだぁ。だって、お兄ちゃんと二人っきりでお出かけできたもの。おでこ姫の目を気にする必要もなくいちゃいちゃできたし、エルザ的にはすっごく満足だよ、おじさんありがとうね♪」
愛らしく礼を述べるエルザだが、その右足は相変わらずギルモアの後頭部を踏みつけている。
「でも、もう一回エルザの役に立ってね。おじさんを捕まえてお兄ちゃんに渡してあげれば、お兄ちゃんは絶対エルザのこと褒めてくれるから♪」
もはやギルモアのわずかに残った理性もとっくに消し飛んでいた。
不意に頭にかかっていた圧力が消えた時、ギルモアは全力で逃げ出した。
一刻も早くこの金色の悪魔から離れたかった。
「じゃ、おやすみ、おじさん。眠りを導く風よ、彼の者を包みたまえ♪」
少女の弾むような喜びの声を最後に、ギルモアはスイッチを切るように意識を失った。

両足と左肩を負傷し、それでも果敢に挑んできたトマを峰打ちで倒した耕介は、彼の治療を御架月に任せてエルザの後を追った。
夜露にけぶる路地裏に出た時、突然衝撃がやってきた。
「うぉ、エルザ!」
エルザが耕介に飛びついてきたのだ。
「お兄ちゃん、エルザが捕まえたんだよ!褒めて褒めて♪」
エルザの向こうには、倒れ伏したギルモアの姿があった。
特に外傷もないところを見ると、眠りの魔法で眠らせたのだろう。
「そうか、偉いぞ、エルザ。ケガはなかったか?」
「えへへ~♪もちろんだよぉ」
エルザの予想通り、耕介はエルザの頭を優しく撫でてくれる。
それだけでエルザのご機嫌度はいくらでも天井知らずに上昇するのだ。
エルザが吸血鬼だとわかっているのに、こうしてケガの心配までしてくれる。
エルザの耕介に対する欲求は高まるばかりだ
「あれ、この人、鼻がつぶれてるな…」
ギルモアの体を検め、シレ銀行の鍵を手に入れた時に、耕介は彼の鼻が潰れていることに気づいた。
「ここに出た時に凄い勢いでこけてたから、そのせいだよ」
エルザは表情一つ、声色一つ変えなかった。

耕介とエルザはギルモアだけを憲兵に引き渡し、プチ・トロワへの帰路についていた。
「あ~あ、お兄ちゃんともうちょっとデートしたかったなぁ…」
「また今度な、もう日が昇っちまう」
相変わらず腕にまとわりつくエルザを好きにさせつつ、耕介は考え事をしていた。
今日は全く役に立っていなかったことがやはり悔しいのだ。
「うーん、賭け事くらい覚えた方がいいのかな…」
「えぇ~いいよぉ、お兄ちゃんはそのままで。でも、どうしても覚えたいならエルザが教えてあげるよ♪」
「そうだなぁ…あ、そうだ、エルザ。あんまり手荒なことはしちゃダメだ。トマって人の肩と足を攻撃したの、エルザだろ?」
今回のギルモアという相手に対しては耕介とて交渉の余地などないことがわかっていた。
だが、それでも必要以上に相手を傷つけるのを良しとはできないのだ。
「ぶ~お兄ちゃんが危ないと思ったからしたのにぃ…。でも、お兄ちゃんがそう言うならそうする~」
夜明け前の街路を歩くには、あまりにも歳の差がある二人だったが、ほとんど人通りも絶えた今はそんなことを気にする者はいない。
エルザは終始ご満悦で、プチ・トロワについてからもずっと耕介にくっついたままであった。
珍しく、イザベラもそれをいつものように咎めることはしなかった。


舞台はアルビオン王家最後の地となったニューカッスル城へと移る。
そこでは、激戦の末に裏切り者ワルドを退けた”ゼロの使い魔”サイトが主を護るべく剣を構えていた。
「何する気だい、相棒?相手は5万だぜ?」
サイトの持つインテリジェンスソード・デルフリンガーが呆れたような声を出した。
そう、ここにはもうじきレコン・キスタの大軍勢が押し寄せてくるのだ。
けれど、もう逃げ道はない。彼一人ならば逃げおおせることも可能だろうが、主であり、恋する少女を置いていくことなど端から考慮の埒外だ。
「だからなんだってんだ。俺はルイズを護る。そして、生き残る。タバサが言ってた、コースケって人にも会いたいしな。まだまだ死ねねぇよ」
「はは、そうだな、気に入った!さすが俺の相棒だぜ!5万ごとき散歩にいくようなもんだよなぁ!」
状況はまさしく絶望的。だが、サイトは心が震えるのを感じていた。
それは、恐怖の震えではない。ワルドとの戦いの時にも感じた、熱い心の叫びだ。
背後に護るべき少女がいる、それだけでサイトは5万だろうが50万だろうが負ける気はしなかった。
尤も、今回に限っては彼の心の震えが力を振るうことはないわけだが。

ギーシュの使い魔ヴェルダンデに救われたサイトとルイズは今、タバサの使い魔シルフィードの背に乗り、トリステインへと帰還していた。
同じ国から違う国に召喚された二人の男の道が交わるのはもうしばし先のことになる。



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