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ゼロの夢幻竜-32


第三十二話「不快」

ラティアスが負傷して城門の辺りに辿り着いたという報せは、直ぐにルイズの耳に入った。
彼女は群がる全ての者達を押し退け圧し退け、ラティアスの元へと駆け寄る。
まだ息があることを確認した彼女は、直ぐ周りの者達にラティアスを救護室に運ぶよう命令した。
周りからは水メイジの数や水薬が足りなさそうだと言う声も囁かれ、ルイズにとってはやきもきするような時間が流れる。
暫くして命に別状は無いものの、戦闘の様に激しい動きは一両日中出来ないと言われた。
それを聞いた後でルイズはラティアスを治療担当の水メイジ達に任せ、兵達の詰め所にいたウェールズと共に彼の居室へと向かった。
その途中意外な事を聞かされる。
実はウェールズは部下数人と共にアルビオンに向かうフネを襲い、空賊の真似事をやろうとしていたというのだ。
敵の補給路を立つ事が戦術において一番重要な事だとは聞かされたが、もしもそれが実行されていたとしたら下手をすれば王子と行き違いになっていたかもしれない。
それに関しては先行するという形になったが、皆より一足早くアルビオンに来て正解だったとも言える。
少し経って天守の一角にある木で出来た質素な一部屋に二人は辿り着いた。
アルビオン王家の王子ウェールズの住まう一室はそこだった。
そこには椅子とテーブルとベッド、そして壁にはタペストリーが飾ってあるだけ。
大理石だとかそんな物が欠片としてないあまりの飾り気の無さに、ルイズは唖然としてしまったほどだ。
王子は部屋に入るなり机の引き出しを開け、中から豪華な箱を取り出す。
その箱が開くと、中から一通の手紙が出てきた。
かなり開かれたのと閉じられたのを繰り返したせいか、あちこちがボロボロになっている。
それでも王子は愛しそうにそれに口付け、内容を読んだ後に再びそれをしまった後ルイズに渡した。

「これが姫から頂いた手紙だ。確かに返却したぞ。」
「有り難う御座います。」

ルイズは深々とお辞儀をして手紙を受け取る。
その後ウェールズは窓際へ向かい、城の敷地に広がる激しい戦闘の跡に目をやりつつルイズ達に言った。

「明後日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号が出航する。君達は友人達と共にそれに乗ってトリステインに帰りなさい。」

トリステインに帰る?それは王党派の者達を全て見捨てろと言うものだ。

「殿下。王軍に勝ち目は無いのですか?」
「勝ち目は無いよ。敵は5万、こちらは300。万に一つの可能性もありはしない。……実は正直な事を言うと、先程君の使い魔の働きを見て一縷の望みを持ってしまった。
華麗に敵軍を翻弄するあの姿を見れば誰とてそう思うだろう。しかし、恥ずかしい事だ。こんな事を言っては君と君の使い魔に失礼だが、どうか機嫌を悪くしないでおくれ。
幾ら君の使い魔の竜が強くても、あの軍勢を完全に押し返し弱体化させる事が出来たとしても、完全に消し去らせる事など出来はしないだろう。
我々に出来るのは勇敢且つ誇りある死に方を連中に見せ付けることだけだ。」
「その中には……殿下が討ち死にされる様も含まれているのですか?」
「当然だ。私は先頭をきって死地に赴くつもりだよ。」

ウェールズの言い方は、まるで芝居の一場面をこなすかのような言い方だった。
飄々としていて緊張感も無い。
そんな調子で話を続けようとするウェールズに、ルイズは失礼を承知で頭を下げて言った。

「殿下。失礼をお許し下さい。畏れながら申し上げたい事が御座います。」
「なんなりと。」
「この任務を仰せつけられた時の姫殿下のご様子は尋常では御座いませんでした。更にあの箱の内蓋にあったのは姫殿下の御肖像ですよね?手紙に接吻した時などから見受けられるに……
もしやウェールズ皇太子殿下と姫殿下は……恋仲なのではないのでしょうか?」

すると王子は暫し考えるような仕草をした後、照れ笑いをして言った。

「君の言う通り、私とアンリエッタは昔恋仲だった。そしてこれはその彼女から来た恋文さ。この手紙の文面で彼女は始祖の名に於いて永久の愛を私に誓っている。
君も知っての通り始祖に誓う愛という物は婚姻の際の誓いでなければならない。もう一通の手紙にあったように、この手紙がゲルマニアの皇室に渡れば彼女は重婚の罪を犯したとして婚姻は破棄され同盟は成り立たなくなってしまう。
それだけならまだ良い。その事を理由にゲルマニアが貴族派の連中と結託してトリステインを攻める事も十分有り得る。ゲルマニアにとっては貴族派と目的は違えど、自分達の立場を愚弄されたも同じだからね。」


徐々に淡々とした調子になっていく口調には若干の憂いがあった。
そんなウェールズを見るに耐えられずルイズは叫んだ。

「殿下!亡命なさいませ!トリステインに亡命なさいませ!きっと姫殿下も快く受け入れるでしょう!今回受け取られた手紙の末尾にも亡命を勧められているのではないのでしょうか?!」
「いや、姫と私の名誉に誓って言うが、ただの一行もそんな事は綴られていない。私は王族だから嘘を吐かないよ。そもそも亡命など無理な相談だよ、ラ・ヴァリエール嬢。アンリエッタは王女だ。
貴族の中でも最高位の公人だ。個人的な感情で国家の大事を左右させる訳にはいかないからね。
私にしても、あの恥知らずな連中に背を向け、のうのうと生き延びる等今まで王家の為にと散っていった者達に申し訳が立たなくなる。」

ウェールズの意思は果てしなく硬い。
誰がどうこう言ったところでこの分では揺らぎそうもない。
ただ……亡命の箇所についてはルイズの言った事が当たっていたのか、少々苦しい表情を見せた。
が、それも直ぐに消え失せ、ウェールズの顔には微笑みが戻る。

「君は実に正直な女の子だな、ラ・ヴァリエール嬢。だが、正直なだけでは大使は務まらないよ。尤も、滅するしか他無い国に隠し事等必要無いのだから、君は適任かもしれないな。
……さてそろそろ君の使い魔が目を覚ます頃じゃないかい?行って様子を見た方が良いのではないかな?」
「はい……」

ルイズはもう消え入るような声でしか返事が出来なかった。
そんな彼女の肩にウェールズはすっと手を置き、慰めるような声で言った。

「そんな沈んだ顔をしていては使い魔が悲しんでしまうよ。君の使い魔はよく戦ってくれた。私から、『貴殿はよくやった。後は我々に任せてくれ。』と、伝えてくれたまえ。」

相も変わらずウェールズはこれから死にに行く人間とは思えないほど爽やかな笑顔を見せている。
そんな彼を見つめ続けるのはルイズにとって痛々しい以外の何物でもなかった。
姫殿下の様子。そして先程のウェールズの様子。
深く愛し合っている二人が何故こんな形で引き裂かれなければならないのか。
ルイズは異様なまでに不快感を持った。

ラティアスはどことも知れぬ高い空を飛んでいた。
空を飛ぶ事は気持ち良い物だ。地上にある道のように決まった場所を通らなければならないという事が無いからだ。
背中に主人のルイズを乗せていないのが少々寂しい気もしたが。
そんな時、自分の後を追ってくる気配に気付いた。
気になって辺りを見回していると、三頭の同種族の者達が猛烈な速さで自分の横を通り過ぎた。
それから前方に出て来たその誰もが、皆一様に薄ら笑いを浮かべている。
ラティアスにしてみれば、意味も無く笑っている理由が分からない。

「誰?あなた達?どうして笑っているの?」

彼女のその問いに一番右にいるラティアスが答える。

「決まっているじゃない。あなた、飛ぶのが一番遅いからよ。同じ種族の私達と比べてね。」

それは召喚される前の個人的な記憶が一切無いラティアスにとって、かなりショックを受ける一言だった。
ルイズに使い魔として召喚されて以来、同種族の者達と会う事は無くなったので、自分の力が彼らと比べてどれ程の物か知る機会を失ったのだ。
周りが『速い、凄い』と言うのでそこまで自覚は無かったが、本当に自分はそれだけの力しか持っていないのか?
自問の答えが出る前に、最初のラティアスにつられる形で真ん中のラティアスも似たような声の調子で続ける。

「それにあなたは‘こころのしずくの守護者’として失格だったのよ。脆弱な力しか持たない癖に誰がそんなあなたを必要とするかしら?あなたのお兄さんは優秀だったけどね。」

こころのしずくの守護者として?いよいよ訳が分からなくなってきた。
複数あるとは言え、絶対数が少なく希少価値のあるこころのしずくを狙う者は少なくない。
もしどこか一箇所に集められ保管されているのだとしたら、管理する者がいなくてはならない。
その管理者こと守護者の候補に自分がいた事があった?かなり信じられない話だ。
それと前々から気になっていた事の一つ……自分には本当に兄という存在がいるのかどうかという謎がまた出て来た。
自分の兄はそんなに優秀だったのだろうか?
だがそれより何より……『脆弱な力』という部分が異常なまでにむかっ腹に来た。
そして最後に左にいるラティアスが、嘲笑するような感じで続けた。

「私達のコロニーに実力の無いあなたは要らないのよ。さっさと出て行きなさいよ!能無し!役立たず!穀潰し!」

ラティアスは心の中で必死に反論した。
違う。私は能無しでもなければ役立たずでもないし、ましてや穀潰しでもない。
今は仕えるべき主人を持ち、使い魔としての役割もきちんとこなしている。
それどころかそれ以上の事もやってのけたのだ。
誰にも非難される謂れは無い。
耐え切れなくなったラティアスは目の前の三頭に向かって滅茶苦茶に叫んだ。

「私は能無しじゃない!役立たずじゃない!穀潰しじゃない!私は使い魔!ルイズ様にお仕えする使い魔よ!!」


その時ラティアスは目を覚ました。
どうやら今まで自分は眠っていたらしく、先程の事は全て夢だったらしい。
翼を動かそうとしたり、首を擡げようとするとその部分に疼痛が走る。
飛んで動いたりするなど、普通に生活する分には問題は無さそうだが、激しく動く事は出来なさそうだ。
と、同時に彼女の側にいたルイズがひしと抱き付き、大泣きしながら絞り出すような声で言う。

「ラティアス!ラティアス……!!良かった、良かった!あなたがいなくなったら私、私……」

その先にはもう嗚咽しか続かない。
恐らく、彼女の後ろで控えている看護担当らしきメイジから、余程自分が危ない状態だとでも聞かされたのだろう。
始めに感じたのは、ああ、自分はまだ生きているんだという感情だった。
ふらふらとした飛び方で城の門まで辿り着いたのは覚えていたが、それ以降は記憶が判然としなかったからだ。
真上を見ると、雲一つ無い澄み切った青空が大きく広がっている。
だが周りをよく見ると、大広間の壁らしい物がぐるっと自分を取り囲んでいる。
そしてその内側には幾つかのベッドがあり、その上では怪我をした幾人かの兵士が横になっていた。
どうやら砲弾か何かで屋根が吹き飛んだ部屋に、即席で傷病兵治療用の部屋を作ったらしい。
そこまで考えてラティアスは一つ気になった事があった。

「御主人様。敵は……貴族派の兵隊はどうなりましたか?」
「それなら大丈夫。心配しないで。連中は一時撤退したわ。皆あなたがあんな攻撃を出すなんて考えてもいなかったんでしょうね。暫く攻撃はないと思う。それよりも今は傷を治す事に専念した方が良いわ。」

そう言ってルイズは、ずれた毛布をラティアスにかけなおす。
しかしラティアスの気持ちは少々複雑だった。
例え今相手の進攻を退ける事が出来たとしても、数日もすればまた再攻撃に転じてくるのは目に見えている。
加えて被害と言っても相手に降伏を迫れる位甚大なものではない。
まあ、それぐらいの被害を出したいと言うのなら自分と同種族の者達を、あと千頭くらい連れて来なくては話になりえないが。
それと……攻撃に関して手の内は殆ど見せてしまった。
風魔法を主に操るメイジを中心として、自分に対しての何らかの対策くらいは立ててくるだろう。
ならば、人間型になって剣を振るうのか?
……いや、迫り来る5万の兵を一人で止めるのなら、その手段を採る方がどうかしている。
幾ら自分に伝説の使い魔のルーンが刻まれているからって無茶もいい所だ。
そもそもデルフは今ワルド、そして学院からの生徒メンバーと共にこっちに向かっている途中だ。
また会ったら会ったで『相棒、どうして俺をおいてったんだよ、このやろぅ。』位は言いそうだが。
と、その時ラティアスはある事を思い出した。
自分達は貴族派の進攻を止め、降伏させにやって来たのではない。

「御主人様。手紙はどうなりましたか?ウェールズ様から返して頂くという手紙は?」
「それも大丈夫。少し前に手紙を受け取ったわ。けど……」
「けど?」
「それと一緒に聞いたんだけど、ウェールズ様は最初から戦いで死ぬつもりでいるみたい。」
「ええっ?!」

それからルイズは先程部屋で行なわれたウェールズとのやり取りをすっかりラティアスに話した。
それを聞いたラティアスは開いた口が塞がらなかった。
自分が必死になって敵の進軍を止めたのは一体何の為だったのだろうか……?
手紙の受け渡しをさせるという一面は確かにある。
しかし正直、内心それ以上の物があった。
それに、あの攻撃で相手側も多くの兵士が死んだだろう。
だが、反撃をしなければこちらが危なくなってしまう。人死が嫌なんて言っている場合でもない。
ラティアスは携帯獣だ。相手が同じ携帯獣にせよ、人間にせよ戦わなければいけない時がある。
その時は、最後にその場で立っているのは自分だという思いを胸に戦っている。
なのにこの戦、こちらの陣営のトップに程近い人間が最初から死ぬつもりなど……
では何で自分はこんな傷を負ってまで戦ったのだろうか……?
ラティアスの心に得体の知れない不快感が湧き上がってきた。
ルイズは小さく、しかし苦しそうな声で続ける。

「私、早くトリステインに帰りたい。この国嫌いよ。あの人達……ウェールズ様も……誰も彼も自分の事しか考えていないわ。どうして死を選ぶのよ。訳が分からないわ……自分勝手じゃない、そんなの。残された姫殿下がお可哀相だわ。
いいえ、姫殿下だけじゃない……もっと多くの人が‘残された人‘になるわ。それに……死ななきゃならない理由なんて今のこの国にはありはしないわ……」

ルイズの目から次第に涙が零れ出した。
ラティアスはそんな主人にどう接すれば良いか分からない。
この世界における王族だとか政治だとかそういった事は、ラティアスにとって正直まだよく分からない。
だが、このままではいけない事は分かっていた。

「御主人様。ちょっと耳を貸して下さい。」

ラティアスはルイズにそっと耳打ちをする。
その内容を聞いたルイズの目は驚きの為大きく見開かれた。

「そんな事出来るの?!」
「相手の総攻撃がワルドさん達の来る前に始まったらこの作戦は駄目になってしまいます。だから正直時間との勝負にもなりますけど……協力してもらえますか?!」

ルイズは少しの間ラティアスの考じた策について考えた。
この作戦なら貴族派に大打撃を与える事が出来るし、全員が無事にアルビオンを脱出する事が出来る。
それに……極力姫殿下を悲しませずに済む事が出来るかもしれない。例えその後歩む道が茨の道であろうとも……
答えを待つラティアスにルイズは力強く答えた。

「一か八かだけど……やってみる価値はあると思う。いいわ、協力する!」

その頃、アルビオンに向かうフネの上。
甲板を歩くワルドはこれまでに無く焦っていた。
予測という物は常に悪い方向に立てておく物だと、過去上官に言われた事があるが今回は正にその通りと言える。
偏在から入った報告……紅と白の色をした小柄な竜、即ちルイズの駆るラティアスは貴族派の兵士達を蹂躙し、一時撤退させるにまで至ったとの事。
確実に『予測通り』の方向に向かっている事から、どこかで軌道修正する必要がある。
ワルドにとって今回のアルビオン行きには3つの目的がある。
一つ目の目的に関しては、先行しているルイズが自分の代わりに果たしてくれるだろう。
二つ目の目的に関しては、多少強引な手を使ってでも実行しなければ、今後の局面を乗り切る為の駒は手に入らない。
そして、三つ目の目的に関しては二つ目の目的の御膳立てが成功し、尚且つそこから針の穴ほどの大きさの隙を掻い潜って行くしか他無い。
例え偏在を使ってルイズの側に接近したとしても、偏在だと見破られれば元も子もないし、第一彼女の仲間について訊かれた時に返答が苦しくなってしまう。
完全に詰み(チェック)がかかった状態だった。
そうなると自分が乗っているフネの速度が遅い事も苛々してくる。
近くにいた船員をとっ捕まえて彼は質問をしてみた。

「このフネはあとどれぐらいでアルビオンに到着する?」
「そうですね……明日の昼の内には着くと思いますが……」

明日の昼の内……それは吉なのかはたまた凶なのか。
アルビオンへ向かうフネはただ雲海の中を進むだけで答えをくれる事は無い。
はっきりとしない事ばかりだけにワルドの不快感は募る一方だった。



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