ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~
第一部 『ゼロの夜明け』
第十章 『魔剣デルフリンガー(サイトの章)』
「あれ、シエスタ?どうして武器屋に?」
純朴と優しさを絵に描いたシエスタが武器を持つことなど想像することが出来なかったサイトが、開口一番にそう問う。
「およしなさい、サイト。」
しかし、ロングビルがそれを咎める。
「私達平民が護身の為に武器を持つのは当然のこと。外見だけでそれを否定するのは失礼よ。」
「あ、ご、ごめん。」
「あ、ご、ごめん。」
彼女の言葉がいかなる重みを持つか、サイトもこの世界に召喚されてから嫌という程理解している。
シエスタに慌てて頭を下げる。
シエスタに慌てて頭を下げる。
「気にしないで、サイトさん。故郷の皆にも武器が似合わない、て良く言われます。」
しかしシエスタは気にした様子は無く、笑みで答える。
「シエスタ、ミス・ロングビルの隣の彼は?」
自身とさほど変わらない年頃の少年―――サイトに親しそうに話すシエスタを見てルイズは聞く。
「はい、ミス・ヴァリエール。使用人仲間のサイトさんです。
ミス・ロングビル、サイトさん、ミス・ヴァリエールとミカヤさんです。」
「はじめましてミス・ミカヤ、お噂はかねがね。学院長付秘書のロングビルですわ。」
「才人です。平賀才人。よろしく。」
「はじめましてミス・ロングビル、それと、サイト・・・ううん、才人ね?私はミカヤです。」
ミス・ロングビル、サイトさん、ミス・ヴァリエールとミカヤさんです。」
「はじめましてミス・ミカヤ、お噂はかねがね。学院長付秘書のロングビルですわ。」
「才人です。平賀才人。よろしく。」
「はじめましてミス・ロングビル、それと、サイト・・・ううん、才人ね?私はミカヤです。」
サイトの名前の発音を訂正しつつ自己紹介するミカヤ。
それに驚いたサイトはびっくりしたような表情を浮かべるも、まだルイズの自己紹介が終わっていない為、感情を抑える。
それに驚いたサイトはびっくりしたような表情を浮かべるも、まだルイズの自己紹介が終わっていない為、感情を抑える。
「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ。それにしても・・・。」
「な、なんです?」
「な、なんです?」
名乗り、如何にも小市民然とした出で立ちのサイトにルイズは上から下まで観察する。
彼の十指におおよそ入ろう美少女にじっと見られて赤面するサイトに、彼女は思わずこう洩らす。
彼の十指におおよそ入ろう美少女にじっと見られて赤面するサイトに、彼女は思わずこう洩らす。
「・・・随分と冴えないのね。」
「ぐっ・・・。」
「ぐっ・・・。」
思わず呻くサイト。
初見で女性から言われ慣れていることではあるが、正面から言われるのはやはり堪えた。
その様子をニヤニヤしながら眺めていた店主が切り出してきた。
初見で女性から言われ慣れていることではあるが、正面から言われるのはやはり堪えた。
その様子をニヤニヤしながら眺めていた店主が切り出してきた。
「へっへっへっへっ姐さん、そっちの坊やは燕かい?」
「もう少し惚れ惚れする子だったら良かったのだけれどね。今日の私からの紹介客よ。」
「姉さんまで・・・。」
「もう少し惚れ惚れする子だったら良かったのだけれどね。今日の私からの紹介客よ。」
「姉さんまで・・・。」
その上ロングビルにまで店主のからかいにこう切り替えされては、もう涙目になるしかなかった。
「ふぅむ、この坊やが武器をねぇ・・・・・。」
サイトを観察しつつ逡巡する店主。
召喚された当初よりかは修羅場を幾つかくぐり、それなりに肉体も鍛えられてきたが、
細い長袖の異国の服―――サイトの世界ではパーカーと呼ばれるもの越しからは確認するのが困難な細い腕では、
精々がレイピアを持たせることぐらいしか思いつかなかった。
その時だった。
召喚された当初よりかは修羅場を幾つかくぐり、それなりに肉体も鍛えられてきたが、
細い長袖の異国の服―――サイトの世界ではパーカーと呼ばれるもの越しからは確認するのが困難な細い腕では、
精々がレイピアを持たせることぐらいしか思いつかなかった。
その時だった。
『やめとけやめとけ。そんな細ぇ腕じゃあ剣を振るよか棒っ切れを振るほうがお似合いだぜ。』
「なんだと!?」
「なんだと!?」
積み上がった武器の一角からする低い男性の声。
いきり立ったサイトが思わず声のする方向を振り向くが、人の姿は見当たらない。
いきり立ったサイトが思わず声のする方向を振り向くが、人の姿は見当たらない。
『おぅおぅ何処探してんだよ?手前ぇの目は節穴か?』
その声と共に金属が震え、カタカタと鳴る音が聞こえる。
声をかけて来たのは一振りの―――全身が刃こぼれし、刀身をボロボロに錆び付かせた片刃の、サイトと同身長の
全長を持つ大剣だった。
声をかけて来たのは一振りの―――全身が刃こぼれし、刀身をボロボロに錆び付かせた片刃の、サイトと同身長の
全長を持つ大剣だった。
「け、剣が喋った!?」
思わず後ずさるサイト。店主がそれを見て錆びた人語を解する魔剣―――インテリジェンスソード・デルフリンガーに
怒鳴りつける。
怒鳴りつける。
「やいデル公!お客様の前では黙ってろって何時も言ってるじゃねぇか!!」
しかし、それに物怖じした様子も無く、憤懣やるかたないと言った口調でデルフリンガーは話を続ける。
『おいおい親父、耄碌したのか?こんなろくに剣も振れなそうな小僧っ子がお客様?おでれぇた。
やい坊主、その耳ちょん切ってやるから顔を出しな!』
やい坊主、その耳ちょん切ってやるから顔を出しな!』
混沌とした状況の中、ルイズが話を切り出す。
「インテリジェンスソードなの?随分と珍しいじゃない。」
「そうでさぁ、若奥様。剣に喋らせるなんて一体何処のメイジの方が始めたのやら。」
「そうでさぁ、若奥様。剣に喋らせるなんて一体何処のメイジの方が始めたのやら。」
ほとほと困り果てたような物言いで返す店主。この口さがない魔剣は客に悪口雑言を吐いて怒らせ、帰してしまう事が
常である為、彼にしてみれば商売あがったりの困り物であった。
常である為、彼にしてみれば商売あがったりの困り物であった。
『おでれぇたか、娘っ子?これでも俺ぁ六千年の時を生きてきたんだぜ。
知恵持つ魔剣デルフリンガー様たぁ俺のことよ。』
「六千年!?始祖ブリミルの御世から存在していると言うの!?」
知恵持つ魔剣デルフリンガー様たぁ俺のことよ。』
「六千年!?始祖ブリミルの御世から存在していると言うの!?」
自慢するような魔剣の自己紹介に目を見開くルイズ。
「・・・・・。」
ミカヤも声には出さなかったものの、驚いたようにデルフリンガーを注視する。
始祖ブリミルの時代から六千年もの長きに渡り存在する魔剣ならば、見てくれは悪いが由緒ある物である可能性がある。
彼女の知る、女神の与えた双つの神剣のように何らかの加護や力を与えられたものだろうか、と思考する。
始祖ブリミルの時代から六千年もの長きに渡り存在する魔剣ならば、見てくれは悪いが由緒ある物である可能性がある。
彼女の知る、女神の与えた双つの神剣のように何らかの加護や力を与えられたものだろうか、と思考する。
『おうよ。ただ長生きしてるせいかどうにも忘れっぽくなっていけねぇ。来歴とか俺のウリとかもあったんだけどよ・・・。』
そう言って考え込むように沈黙するデルフリンガー。
それを見ていたサイトは面白いと思った。
―――古から存在する語る剣。見てくれこそ悪いものの、まるで書物の中にある勇者の剣のように感じた。
錆を落としたらもしかしたら名剣のようになるのか?
そんな想像に胸を膨らませつつ、デルフリンガーの柄を左手で逆手に握り、ロングビルに購入の意思を告げる。
それを見ていたサイトは面白いと思った。
―――古から存在する語る剣。見てくれこそ悪いものの、まるで書物の中にある勇者の剣のように感じた。
錆を落としたらもしかしたら名剣のようになるのか?
そんな想像に胸を膨らませつつ、デルフリンガーの柄を左手で逆手に握り、ロングビルに購入の意思を告げる。
「姉さん、こいつにするよ。」
「いいの?こんな五月蝿いボロ剣よりはマシな物は買えるのよ?」
『おい姉ちゃん、俺を捕まえてボロ剣は無ぇだろ?っつーか坊主、とっとと離しやがれ!
俺は手前ぇに買われるなん・・・ざ・・ぁ?』
「いいの?こんな五月蝿いボロ剣よりはマシな物は買えるのよ?」
『おい姉ちゃん、俺を捕まえてボロ剣は無ぇだろ?っつーか坊主、とっとと離しやがれ!
俺は手前ぇに買われるなん・・・ざ・・ぁ?』
サイトに握られ、カタカタと喧しく鍔元の口のようになった部分を鳴らし、彼とロングビルに抗議するが、
暫くすると沈黙した。
そして、長年別離していた友に再会したかのように自身を取る少年に語りかける。
暫くすると沈黙した。
そして、長年別離していた友に再会したかのように自身を取る少年に語りかける。
『こいつぁおでれぇた。見損なってたぜ。手前ぇ、『使い手』だったのか。』
「え?『使い手』?」
「え?『使い手』?」
自身のことを剣からそう呼ばれるとは思わなかったサイトは呆けたように返す。
『ふん、自分の実力も知らんのか?まぁいいや、手前ぇを認めようじゃねぇか。これからよろしくな。
新しい俺の相棒よぉ、名前は?』
「あ、ああ、才人だ。平賀才人。こっちこそよろしくな。」
新しい俺の相棒よぉ、名前は?』
「あ、ああ、才人だ。平賀才人。こっちこそよろしくな。」
手の平を返したように馴れ馴れしく話すデルフリンガーに戸惑うも、この世界で自身の命を預ける相棒にそう名乗った
サイト。
それを見たロングビルは頭痛に頭を抱えるようにしつつ、購入を申し出る。
サイト。
それを見たロングビルは頭痛に頭を抱えるようにしつつ、購入を申し出る。
「あれはお幾ら?」
「そいつは新金貨百枚で良いぜ。こっちにして見りゃあ厄介払いみたいなもんさ。」
「そいつは新金貨百枚で良いぜ。こっちにして見りゃあ厄介払いみたいなもんさ。」
そう言った店主にロングビルは新金貨を取り出し、言い値通りの枚数を渡す。
それを受け取ると一つの鞘を取り出し、サイトに渡す。
それを受け取ると一つの鞘を取り出し、サイトに渡す。
「どうしても五月蝿いと思ったらこの鞘にこうして入れりゃあ大人しくなるぜ。」
「有難う、おっちゃん。」
「有難う、おっちゃん。」
受け取った鞘を左肩から斜め掛けに下げ、それにデルフリンガーを収めると店主に礼を言った。
こうして買い物が終わり、馬を停めている駅に着く頃には、既に日は傾いていた。
それぞれの休日は終わり、馬車と馬に別れて学院への帰路に着く。
それぞれの休日は終わり、馬車と馬に別れて学院への帰路に着く。
―――――舞台の役者は集い、運命の歯車が音を立てて廻り始めた。