あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの軌跡-13


第十三話 タルブ動乱


「ヴァリエール様、見えました。レコン・キスタの船です」
「早かったわね…各員、所定の場所について!危なくなったら無理せずに退却すること」

 突貫で柵を植え堀を穿ってどうにか篭城の形だけ整えたものの、稼ぎ出さなくてはならない時間はあまりにも長く、戦力差は絶望的なまでに開いていた。

 恐らくは先遣隊か、未だ米粒ほどにしか見えない本隊から遠く進んで二隻の船が先行し、タルブ村をその射程に収めようとしていた。

 ルイズは臍を噛む。
 この部隊に足りないものは、多くのものが欠けてはいるが、何よりも空への攻撃手段が全く存在しないのだった。
 まず空からの射撃、体勢が崩れたところに上空と地上から一斉に攻めかかる。このような戦法はルイズのような戦の素人でも容易に想像がつく。

 これは本当に一時間ともたないかも知れない。そんな弱音を抑えることは出来ても、砲弾の雨を防ぐ術は何ら持ち合わせてはいなかった。
 重い音が空から響く。遂に砲撃が始まったようで、数発の黒球が船から零れてきている。

「全員隠れてッ!」

 数秒後、放たれた砲弾の一発が広場に着弾して折角組み上げたバリケードを粉々に吹き飛ばした。幸い、死人は出なかったようだが。最初の一撃でこれでは先が思いやられる。
 さて、次はどうすべきか。ルイズが考え込もうとした時、敵の進軍を告げる声が上がった。逡巡する間も、局面を左右する権限も彼女には与えられていないようだった。

「グリフォンと竜に乗った敵が十五前後、こちらに突っ込んできます!」

 顔を上げると、幾つかの黒点が急速に姿を大きくしながら近付いて来るのが見える。
 司令部を真っ先に潰そうということか。その意図に気づいても打開策はなく、ルイズは立ちすくむばかりだった。

 ルイズの姿を彼らも認めたか、空高くに三つの火球が浮かび、それは狙い過たずルイズを目掛けて落ちてくる。避けなければと頭では考えても、ルイズの足は動いてはくれなかった。

 その火球の熱に浮かされたように、ルイズは目を閉じる。



 しかし、いつまでたっても炎がルイズの身を焦がすことはなく、周囲から喜びを含んだどよめきが湧き上がる。

 おそるおそる目を開ければ、炎の代わりに蒸気がルイズの顔に襲い掛かった。水が目に入って、慌てて顔を手で拭く。その姿を見ることは出来なかったが、もう何が起こったかはっきりと分かっていた。
 激しい蒸気と駆動音。一歩ごと踏みしめる大地はその振動で確かな存在を伝えていた。

「レン!<パテル=マテル>!」
「そんなところで突っ立ってたら鴨射ちよ、ルイズ」

 会話している間にも、ルイズをかばう<パテル=マテル>に魔法が放たれる。氷が砕ける音、岩がぶつかる音、炎が燃える音、風が空気を切り裂く音が二人の会話を邪魔するにいたって、レンは標的を認識する。

「煩い蝿を黙らせてやりなさい。ダブルバスターキャノン!」

 <パテル=マテル>が振り向いて、照準を空に浮かぶ船に合わせる。メイジの魔法をものともせずに、二つの光線は船の中心を貫いて空に吸い込まれていった。
 船は真ん中から折れて砕け、紙細工のようにゆっくりと大地に向かって落下していった。
 見たこともない異形のゴーレムから放たれた二条の光。それが母艦を撃墜したのを見て、十数機の敵兵はしばらく動けずにいたが、<パテル=マテル>が再び構えたのを見て、我先にと逃げ出していった。

 敵が去った後、皆が広場に集まって輪をなし、幾度も幾度も歓声を上げた。
 未だ亜然と呆けたままのルイズに、レンは声をかける。

「危ないところだったわね、間に合ってよかった。そうそう、もっと早く戻ってくるはずだったんだけど、遅れたのはシエスタの責任だから」

 そんな、レンちゃんひどいですよ~。と、シエスタも人垣をかき分けてルイズに駆け寄ってくる。
 いつの間にか、逃げたはずの女性たちも二十人ほど、ルイズを囲む輪の中に混じっていた。

「あなた達、どうして…?」
「そりゃあ、私はタルブ村の人間ですから。故郷は自分の手で守るものです」
「レン!なんで連れ帰ってきたのよ?」
「シエスタに言いくるめられちゃったの。まあ八割方は避難させたから合格点じゃないかしら」

 レンは悪びれもせずに飄々と答えを返す。話にならないと踏んで、ルイズはシエスタに突っかかった。

「ここはもう戦場なの。ただの平民のシエスタに何が出来るのよ!」
「そういうルイズ様には何が出来るのですか?ゼロであるルイズ様が、無数の敵兵に立ち向かえるのですか?」

 今だけは失礼な申し様をお許しください。そう前置きしてシエスタはルイズに諭した。それは、本当はルイズも理解していて、今現在もルイズが歩んでいる道だったからだ。


「無力であれば何もなさらないのですか?それは無力であることを理由に逃げているだけのことです。
 無力であっても尚、生きるために足掻くのが人ではないでしょうか。そうやって努力しない者が、どうして他人の助けを求めることが出来ましょう。
 自らの無力と世界の不条理に甘えて何もしない者に差し出される手などありません。常日頃から、そして苦難の時に立ち向かう者にこそ救いはあるはずです。先ほど、レンちゃんがルイズ様を助けたように」
「シエスタ…」
「私はルイズ様の心を読むことなんて出来ません。でも、私や他の人に接する態度や言動、各地での評判を聞けば、ルイズ様が私達と意思を同じくする素晴らしい貴族だってわかります。
 だから、こんな無力な私ですらルイズ様を助けようと戻ってくるんです。なら、私も出来るだけのことをするだけです。
 それに無力ですが何も出来ないわけではありません。手当てと伝令くらいならこなしてみせます」

 反論の余地もなくルイズが困ってレンを見ると、レンは意地悪く笑っていた。
 レンもこうやってシエスタに論破されて彼女らを連れ帰らざるを得なかったのだ。それを理解して、ルイズも根負けしてシエスタらを認めることになった。



「さあ、敵はまた来るわよ。油売ってないで準備しなさい」
「二隻落とされて、まだ攻めて来るっていうの?」
「そうね、五千の軍で人数二百ばかりの村を攻めたら鉄のゴーレムの放った光で船が落ちたので退却します。って上官に報告出来るような軍人だったら逃げてくれると思うけど」

 そんな報告が出来るはずもない。そんなことをすれば間違いなく背信を問われて営倉行きだろう。

 広場に集まっていた者はわらわらと持ち場へ戻り、ルイズとレンが残された。

「さあ、私達も急ぐわよ、ルイズ」
「待って、レン。あなたは何故ここにいるの?」

 何を今更、と表情で応えるレン。しかし、ルイズは問いかけなければならなかった。

「シエスタがここに残るのはわかったわ。彼女はこのタルブ村の人間だもの。
 でも、あなたは?レン。タルブ村はおろか、このトリステインの人間ですらない。遥か異世界ゼムリアの人間でしょう。あなたが肩入れしなければならない理由はないわ」
「…」
「だから、レン、あなたを巻き込むわけにはいかない。早く逃げなさい」
「冗談じゃないわ!」

 その言葉はルイズの紛れもない本心であり、だからこそレンをいたく傷つけた。

「ふざけないで!何が今更逃げなさいよ!こんな世界に呼びつけて、今まで散々レンを連れまわして。それでいて少し危なくなったら一人でどっか行けなんて言うのね。
 さっきルイズがしてくれた約束は何だったの。一緒に元の世界の手がかりを探してくれるんでしょう。世界を旅して周るんでしょう。
 理由がないですって?そんなものいくらでも作れるわ。でも本当に必要なの?」

 言ってレンは俯いた。

 前はシエスタ達を逃がすという役目があればこそ、渋々タルブ村を離れたのだ。だが、シエスタはこの村へと戻った。ならば、もう村を離れる気はレンにはない。
 ルイズなりに自分のことを心配しての発言だとレンは勿論理解はしている。それでも、諾々と承服出来るものではなかった。わかっていたからだ。ここで自分が逃げれば、ルイズ達に二度と会えなくなるであろう事が。

 そんなレンに、ルイズは尚も言葉を重ねようとしたが、口からは吐息しか出ては来なかった。
 それよりも、零れそうになる涙を堪えるのに精一杯で、慌てて後ろを向く。

 レンは明言こそしなかったものの、ルイズの身を案じてこの戦いに参加することを決意してくれた。身を危険に晒してでも、ここに残ると言ってくれた。
 そして、この後も一緒に旅をすることも。

「ありがとう、レン…」

 幾つもの意味を込めて感謝の言葉を送る。涙に震える言葉は誤魔化せていないだろうが、それでも構わなかった。




「敵が来ました!二百ほど。馬に乗ってます!」

 やはり来たか。その知らせにルイズとレンは村の入り口まで走る。
 いきなり二百とは。相手にしてみればわずか数%に過ぎないのだろうが、それはこちらの戦力のおよそ八割もの数だ。
 周囲が浮き足立つが、レンの落ち着いた声がそれを静める。

「まずは出鼻を挫くわ。力の差を見せ付けないことにはわずかな時間も稼げないから。レンが魔法を唱えた後、混乱している敵陣に突撃しなさい」

 馬の足は速く、数列に並んで隊伍を組んだ騎士がもう数十メイルの位置にまで迫っていた。
 レンは悠々たる仕草で組まれたバリケードの前に出て呪を紡いだ。

「青き氷晶の輝き!恐怖にその身を凍らせぬ者は無いと知れ!コキュートス!」


 草が青々と茂っていた道、それが瞬く間に分厚い氷で覆われていく。運悪く魔方陣の中心部にいた数騎は悲鳴をあげる間もなく見事な氷のオブジェと化した。
 少し外れにいた者も足を凍りつかせた馬を統御できずに、例外なく地面に投げだされる。
 直接的に被害を被ったのは僅かに三十騎程だったが、先頭集団の潰乱に対応できない後続が更に被害を拡大した。
暴れる馬の蹄に足を踏み砕かれるもの、鋭い氷で腕を傷つけるもの、倒れた味方を避けようしたばかりに落馬してバリケードに突っ込むもの。

 あまりの惨状に堪りかねて指揮官が隊列を整えようとした時、武装した平民がバリケードから出て突撃してきた。舌打ちしながら見やると、先頭を走ってくる鎌を持った少女が彼の視界に入る。
 あの年でまさか敵対しようというのではあるまいが、ならば手にしている武器は何だ。大の男でも持て余しそうな金色の大鎌は。
 一瞬躊躇ったために彼の回避行動は少し遅れた。飛び上がった少女を追いきれずに無我夢中で体を捻ったが、右腕の肘から先を綺麗に落とされる。それとも、その程度で済んだというべきか。


 ただの平民しかいないだと。スクウェアクラス以上の魔法を行使する手練が混じってるじゃないか。しかも何だ、あの餓鬼は。亜人か化け物か。
 落馬した味方を救うことはもはや出来ず、彼は撤退を宣言。出鱈目の情報と無茶な命令を与えた上官に向かって思いつく限りの悪罵を心中でつく。

 離脱できたのは百騎ほど。この被害をどう報告したらいいだろうと馬を走らせながら頭を悩ませる。しかし、背後から聞こえてきた轟音がそれを遮った。一体何事かと振り向けば。

「空を飛ぶ鉄のゴーレムだとぉ!?」

 体当たりだけで鞠のように吹き飛ばされていく部下を見ながらも、片腕を失った彼に何が出来るわけでもなかった。いや、五体満足であったとしても無理な話だったろう。
 彼に許されたのは、逃げながら部下の無事を祈ることだけだった。だから彼はそうした。



「大勝利じゃねえか。すげぇぜ、嬢ちゃんの魔法があれば怖いもの無しだな」
「あんなアーツ撃ち続けたら五、六発で打ち止めよ。そうそう使えるものじゃないわ。それより怪我人の手当てを」

 完全に圧倒したとはいえ、村側の被害もゼロでは済まなかった。騎兵と歩兵で殴りあったのだから、奇跡的な被害の少なさといっても過言ではないだろう。

 それでも、戦力比を考えればいずれジリ貧となるに違いない。
 多方面に展開されて波状攻撃を掛けられれば、レンと<パテル=マテル>の獅子奮迅の活躍があったとて一時間も耐え切れるとは思えなかった。
 それまでにどのくらい時間を稼げるか。日が完全に落ちるまで持ってくれれば勝算が出てくる。
 今だ中天にある太陽を睨みつけて、レンは考え込む。

 次に取るべき手を実行に移すために、レンはルイズと<パテル=マテル>を呼んだ。



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