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ゼロの軌跡-12


第十二話 貴族と平民


「なんですって!?レコン・キスタが?」
「なんでも、和平条約の締結のために派遣された軍使節が攻撃を仕掛けてきたらしくて、そのままこっちに向かってるそうです」

 ルイズとレンもレコン・キスタの話は各地で耳にしていた。
 聖地回復を目指すという、なんとも胡散臭い連中だと思ったがまさかトリステインにまで攻めて来るとは思わなかった。アルビオン王家が滅んだと聞いたときはただの内乱のようだったのだが。

「軍の到着は何時ぐらいになるの?レコン・キスタの勢力はどれくらい?攻めてくるまでの時間の余裕は?」
「え、えっと、軍は早くてもあとは半日はかかるそうです。敵の兵力は大体五千とか。もう数時間ほどでレコン・キスタはこのタルブ村までやってくるって」

 どうしましょう、と震えるシエスタをなだめ、ルイズは急いで村の人間を集めるように指示する。
 それを受けてシエスタが出て行ったのを確かめるとレンはルイズに問いかけた。



「どうするつもり?」
「戦えない女性と子供はすぐに村から脱出させるわ。レンと<パテル=マテル>はその人達を守るためについていって欲しいの」
「ルイズはどうするのかって聞いてるのよ!」

 苛立ちを隠そうともせずに、レンは声を荒げた。彼女がここまで怒りを見せるのはサモンサーヴァント以来の事だった。

「タルブを抜かれたら王都までレコン・キスタを防ぐことは出来ないのよ。ここで少しでも時間を稼ぐわ」
「正気!?防ぐ為の兵力は?体制を整える時間は?篭って戦えるような要害は?
 この状況でルイズ一人で何が出来るっていうのよ」
「一人じゃないわ。タルブと近くの村から義勇兵を募る。二百くらいは集まるでしょう」
「空からの精鋭五千と地上の民兵数百。勝負になるはずがないじゃない」

 レンは近くにあった机を力任せに殴りつけた。木で簡易に組まれただけのそれは容易にひしゃげて床に転がった。折れて跳ねた二本の足がルイズとレンの足にぶつかって止まる。
 レンには始めから分かっていたのだ。ルイズがここに踏みとどまるであろう事が。そして、ルイズが決して意志を曲げようとしない事も。
 それでも、無駄と知りながらレンは説得を放棄することが出来なかったのだ。

「少し時間を稼げばアンリエッタ様が軍を派遣してくださるわ。それまで持ちこたえればいいの」
「最低でも半日かかるのに、このままじゃ一時間耐え切れればいい方よ。それに王国軍が来たところで勝てる保証は何もないわ」
「レコン・キスタの進軍が少し遅れるかもしれないし、増援が早く来るかもしれない。その増援は空軍に対抗できるような戦力を保持しているのかも。
 そうやって要素が積み重なれば、まだ賽の目はどちらに転ぶか分からない。でも私がここで退けば万に一つの勝ち目も失う。
 私はトリステインの貴族なの。民と国を見捨てるような真似は絶対に出来ない。命を天秤に掛けるようなら、私は貴族としての道を永遠に失ってしまう。それは死ぬことより辛いことだわ。

 私を怒ってくれてとても嬉しかった。でも…ごめんなさい。レン」




 レンはそれ以上反駁できなかった。ルイズもレンもお互いにどうしようもなく正しかったからだ。

 ルイズは自国とその民を守らんとした貴族であろうとしたのだし、レンもまたそれを是としていた。
 自己の保身でなく、国と民の為に己を捧げる。それが真に正しい貴族の道だとルイズは信じて行動しているし、その信念を認めたからこそレンも今までルイズと行動を共にしてきた。

 だがその決意は今ルイズの、文字通り必死の反抗作戦という形で顕れて、レンにはそれを認めることが出来なかった。それしか方法がないことを理解しながら、感情はそれを頑なに拒んだ。
 きっとそれはレンにとってルイズの存在が欠けてはならないものになったからで、だからルイズはレンに感謝したのだ。

 本来レンにとってルイズは憎んで然るべき存在のはずだった。レンを元の世界から引き剥がすように召喚し、親のように慕っている<パテル=マテル>と契約した。
 ルイズが衣食住を提供しているといっても、レンほどの異能があればこの世界で不自由することはあるはずもない。ルイズが成し得て、レンに成し得ない事は何一つない。
 畢竟、互いの存在を必要としていたのはルイズであって、レンではないはずだった。

 それでも今こうしてレンはルイズを求めてくれている。死地に向かうルイズを引き止め、翻意させようとしてくれている。日頃は決して見せない激情を露にして。
 それがルイズには堪らなく嬉しくて、そしてもうレンに応える事が出来ないのが悲しくも申し訳なかった。


 ルイズが窓に視線をやると、心配そうに顔を覗かせる<パテル=マテル>がそこにいた。 
 私が死ねば、本当に<パテル=マテル>をレンに返すことが出来る。きっと胸のルーンも消えるだろう。
 そう思うと沈みがちな気分も少しだけ楽になったように、ルイズには感じられた。

「ルイズの大馬鹿…」

 長い沈黙の後、硬く握った拳を力なく下ろして、レンはただそれだけをつぶやく。
 それすらも親愛の情であるようにルイズには思えた。
 レンはそのまま走って部屋を出て行く。その後姿を追いかけて抱きとめたい衝動に駆られたが、それは許されることではなかった。

 顔に疑問符を貼り付けたシエスタが呼びに来るまで、ルイズは杖を握り締めて立ち尽くしていた。



「本当にここに残るんですか?」
「そうよ、危ないからシエスタも早く避難しなさい」
「駄目です!敵いっこありません!」

 持てるだけの金品と多少の食料を積み、ありったけの台車を数珠に繋いで<パテル=マテル>に括り付ければ女子供の避難はすぐにも始まるはずだった。

 が、ルイズが残ることを聞いたシエスタが、ルイズも連れて行こうと必死にわめき散らした。
 説得しても埒が開かない、今は一秒でも時間が惜しいと説得を諦めてルイズは男達に声をかける。

「ルイズ様を置いて行けな、ちょっとどこ触ってるんですか!離して、はーなーしーてー!」
「ミス・レン、おまたせしやした。出発してください。こいつらをよろしく頼んます」

 シエスタを出来るだけ優しく荷台に投げ込む。なおも這い出ようとするシエスタの頭を押さえつけて、男達は発進許可を出した。
 レンは一つ首肯し、<パテル=マテル>は轟音を上げて動き出した。
 猛スピードで引き摺られ激しく揺れる台車。乗り心地は最悪だろうが、しばらくは我慢してもらう他ない。
 多少の吐き気で命が買えるなら安いもの。あの様子なら戦闘が始まる前に十分安全な場所まで逃げることだろう。

「本当によかったんですかい?ヴァリエールさま。今ならまだ間に合いますぜ」
「…いいのよ。私が選んだ道だもの。今更違えることなんて出来ない。

 さあ、忙しくなるわよ。隣の村から人が来たら、村の入り口と広場にバリを組んで。ありったけの武器と弾薬をかき集めるのも忘れないように」

  最後まで、ルイズとレンは言葉を交わさなかった。




「いてて…あの親父、乙女の柔肌に傷が残ったらどうするつもりよ。次会ったらハシバミ草のサラダ山盛りにして出してやるんだから」

 痛むお尻をさすってシエスタがやっと起き上がる。しかし、疾走する台車の上でバランスを失って彼女は再び倒れこんだ。心配する声が周りから上がったが、今はそんなことを気にしてはいられない。
 台車から台車へ、危なっかしい足取りながらも跳んで渡り、<パテル=マテル>のすぐ後ろ、先頭の車のそのへりに片足を掛けて立ち上がった。

「ちょっと、シエスタ、何をやってるの。危ないから座ってなさい!」
「座りません!ここで私を下ろしてください!」

 慌てたレンから叱責が飛ぶが、シエスタは怖じずに叫び返した。
 その様子に少しだけ速度が落ちる。

「車から落ちたらどうするのよ。そのまま挽き肉になりたいの!?」
「だったら止めてください。私は戻ります。ルイズ様を残したまま逃げるなんて私には出来ません!」
「意地を張らないで、シエスタ。あなたを帰すわけにはいかないの。わかるでしょう」

「わかりません!わかりたくもありません!レンちゃん。

いえ、レン!」

 出会ってから初めて、シエスタが敬語を崩した。怒りに震えて、彼女は叫ぶ。


「ルイズ様は貴族として、命を懸けて守ろうとして下さっています。タルブ村を。あの人には縁もゆかりもない、私達の故郷を。
 あの状況下ではたとえ逃げ出したところで、それは罪にもならなければ恥に値することでもないはずです。なのに、国と民を守る貴族であるという、ただその一つの理由で、ルイズ様は残ったんです。
 おそらく戦闘と呼べるようなものにさえならないでしょう。それでも、ルイズ様は己の使命から目をそらすようなことはしませんでした」

 慟哭にも似たその言葉。いや、確かにシエスタは涙を流していた。

 レンは指一本動かそうとしない。動かせないのかもしれなかった。
 まばたきもせずにいるレンを睨みつけてシエスタは続けた。

「平民とは何ですか?ただ貴族に管理されるだけの存在ですか?
 常日頃は貴族にその実りを貢ぎ、危機が迫れば目を閉じて耳を塞いで貴族の保護を待つ、飼い犬のようにあればいいのですか?
 そうやって思考を放棄して、精神を依存し、肉体だけをいうままに行使していれば、平民は幸せになれるのですか?

 違います!それは絶対に違います!
 この国にあって貴族と平民は不可分の存在のはずです。平民は大地を閨としてその恵みを国中に分け与え、貴族は法と権を持って内憂と外患から国と民を守る。それがあるべき姿なのではないですか?

 私達がタルブ村とルイズ様を見捨てて逃げ出すということがどういうことか。
 このまま逃げ出せば、私達は一生、国にも、貴族にも、他の民にも顔向けが出来ません。
 二度とこのトリステインを母国と呼ぶことは出来ません。タルブ村を故郷だと想うことも出来ず、私達の心は彷徨うだけです。
 罪を犯しても真に私たちが罰されることはなく、災厄にあって手を差し出されても決して救われることはありません。

 私達はトリステインの民です。それは誰にも捻じ曲げることの出来ない絶対の条理です。たとえ、女王であっても、始祖ブリミルであっても。

 だから、私を下ろしなさい。レン」


 その言葉に、座って聞いていた他の女性達も一斉に立ち上がった。
 目にシエスタと同じ決意をたたえていない者は一人としていなかった。

「…どうしてシエスタもルイズと同じ事を言うのよ」
「そんなの決まってます。ルイズ様はトリステインの貴族で、私はトリステインの民だからです。
 それ以外に一体どんな理由がありますか」

 泣きはらした、それでも満面の笑みでシエスタは言った。


 しばしの沈黙。たっぷり三百メイルは走った後にレンはようやく口を開いた。

「ここで止めることはできないわ。速度を上げるわよ」
「レン!」
「そうでもしないと、この後村に戻れないでしょう」

 前を向き、表情を隠してレンは言った。

「台車一台に乗る人数だけよ。それ以上はなんと言われてもお断りだから」



 その頃トリステイン魔法学院では、コルベールが雑談を交えてオスマンに研究の報告を終え、部屋に戻ろうとしていた。
 研究費の増額がうやむやにされ、生活費を切り詰める算段をしながらも、先ほどのオスマンとの会話を反芻していた。

「…らしく、ミス・ヴァリエールとミス・レンは上手くやっているようです」
「ふむ、とりあえずは一安心といったところじゃな。あれがガリアなんぞの手に渡ったらどうなることかと肝を冷やしておったが」
「ミス・レンは正義の徒ではありませんが、醜い振る舞いを、特に貴族のそれを嫌っているようです。ミス・ヴァリエールの人となりであれば問題はないかと」
「ミス・ヴァリエールか…。魔法など、貴族として生きるには必要がないということかの」

 ついたため息は安堵かそれとも別の何かか、オスマンは話を変える。

「ところでコルベール君、これは座興なのじゃが、もし彼女らと敵対したら、君ならどうやってあの<パテル=マテル>を打倒するかね?」
「いきなり何をおっしゃるのですか、オールド・オスマン」

 そう笑おうとしたコルベールだったが、口調とは正反対にオスマンの目は笑ってはいなかった。
 それを受けてコルベールは差し込む光にその頭を輝かせて考え込む。

「…これは非常に不愉快な答えではありますが。ミス・レンを人質にとるというのは」
「大鎌を自在に操り、見知らぬ魔法を行使する彼女をかね?ほんの少しでも手間取れば<パテル=マテル>が文字通り飛んでくるのじゃぞ。
 しかも、もしミス・レンが死んだとしてもあれが行動不能になる保証はどこにもない」
「では手詰まりです。正直に言って、あれに対抗できるような手段が思いつきません」
「わしも同感じゃ。それはつまり裏を返せば」

 オスマンは手元の砂時計をひっくり返す。砂代わりの秘薬がさらさらと下に零れていく。
 時計の中には大粒のガラス球が上下に一つずつ入っている。やがて数分が経ち、ガラス球は完全に白い顆粒に覆われて見えなくなった。

「ミス・レンと<パテル=マテル>を打倒するものがあるとするならば、それはただ一つ。圧倒的な物量しかあるまい」


 気分を変えようと、コルベールは部屋に戻る前にヴェストリの広場へと足を向けた。
 ここで決闘があったのも随分と前のことであったから、広場は既に美しい景観を取り戻していた。和みながらも一抹の寂しさを覚える彼の視界に、ロングビルと三人の生徒が話しているのが見える。

 そのうちにコルベールの姿を認めたのか、彼らはコルベールの元に駆け寄ってきた。
 あの夜、ルイズとレンを見送ったキュルケ、タバサ、ギーシュの三人だった。



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