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ゼロな提督-10



 ヤンは、絶体絶命の危機にあった。

 アムリッツァ星域会戦(宇宙暦796年/帝国暦487年)では、倍以上の敵艦隊を前に撤退
戦を強いられた。同盟がバーミリオン星域会戦(宇宙暦799年/帝国暦490年)で帝国に破
れた後、同盟政府は国家延命のためにヤンを帝国への生贄とする謀殺を企てた(宇宙暦799
年/新帝国暦1年7月)。その他、ヤンはほとんどの戦いで、戦略的には敗北が決してた状
況での戦術的勝利を要求され続けた。
 だが、いかなるときにも彼には味方がいた。彼の部下達は常に彼の身を案じ、命がけで
彼に付き従った。彼の上司達は、彼を守ろうとあらゆる政治的軍事的支援を惜しまなかっ
た。彼等は上司部下という地位にはあったが、ヤンにとっては皆同じ、かけがえのない友
人達だ。

 だが今、ヤンは孤立無援だ。

 王女アンリエッタはルイズに、死地へ赴けと命じようとしている。
 上司のルイズは忠義だの友情だのに溺れ目がくらみ、玉砕をしようとしている。
 学院の平民や何人かの貴族子弟は、彼に同情はするだろう。だが、王女の命に逆らうな
ど、自らの破滅と死を意味する。彼等からの助けは期待出来ない。
 バーミリオン星域会戦ではハイネセンからの無条件停戦命令に従った。勝利を目前にし
た戦局だったが、民主主義という制度上、軍人は文民に従わなければならないからこそ、
あえて勝利を放棄し命令に従いもした。だが、トリステインは民主主義国家ではないし、
法治国家ですらない。

 絶対に王女のアルビオン潜入命令に従うわけにはいかない。だが逃亡先は無い。自らが
並べ立てた美辞麗句に酔いしれた少女二人に説得が通じるとは思えない。
 ならばヤンは自らの持てる全てをもって、自らを守らねばならない。第四の選択肢を選
び、実現せねばならないのだ。


 全ての記憶を検索する。
 思考を巡らす。
 現状を把握する。


 現状・・・?


 ヤンは改めて見直してみた。
 一人、夜の闇を駆けてきた王女を。目の前の『おともだち』を死地に追いやろうとして
いる女を。


 一人で…この闇の中を学院まで来た!?


 ヤンは窓の外を見る。双月に照らされた星空が見える。
 手を顎に当て、窓へ歩き始めた。


         第十話  第四の選択肢


 おほん、とヤンはわざとらしく咳払いをした。
 少女二人は、まだ手を取り合って互いを賛美し続けている。
 ぅおっほん!と、今度は大きく咳払いした。
 ようやく二人はヤンの存在を思い出し、視線を向けた。

「なるほど。姫殿下のお話は理解致しました。ですが、念のため確認させて頂いてよろし
いですか?任務遂行には詳細な情報が必要です」
「そ、そうですわね!私ったら、取り乱してしまいました。では、改めて任務について説
明致しますわ」

 そして王女は二人に語った。溢れる涙を拭きながら。
 アルビオンへ向かい、ニューカッスル城に潜入。王女の密書をウェールズ皇太子へ手渡
し、アンリエッタから送られた手紙を回収せよ。
 王女は語った。
 ルイズは頷いた。
 この二人の頭の中はどうなっているのか…ヤンは目まいがしてきた。だがそんな様子を
悟られてはならない。
 窓の外の闇を見渡した後、重々しく口を開いた。

「なるほど、命令の内容は承知致しました。そして、それを私に命じるという事は、私の
軍人としての力量にも期待している…と解釈して良いわけですね?」
「無論です。あなたは平民でありながら、軍人として立身出世を成し遂げた方。それも、
ハルケギニアより遙かに優れた技術を持つ国で。
 あなた方なら、きっと困難な任務をやり遂げてくれると思います」
「一命にかえても。急ぎの任務なのですか?」
 外を見るヤンの背後から、ルイズの真剣な声がする。
「アルビオンの貴族達は、王党派を国の隅っこにまで追いつめていると聞きます。敗北も
時間の問題でしょう」
「早速明日の朝にでも、ここを出発いたします」
 ルイズはヤンの言葉を待たず、出立を確約した。

 ヤンは王女に背を向けたまま、窓の外を見ている。ゆっくりと闇夜に浮かぶ双月の方を
見上げる。
「出立するのは良いのですが…その前に重要な事を確認せねばなりません」
 その言葉にルイズが気分を害したようだ。背後からすっくと立ち上がる音がする。
「ちょっとあんた!姫さまの命令に異を唱えようと言うわけ!?」
 ヤンは肩越しにチラリとルイズを振り向いた。
「いえ、そうではありません。ですが姫殿下ご自身がおっしゃられた通り、これは極めて
困難な任務です。故に最善を尽くして臨まねばなりません。これは、任務を成功に導くた
め必要な事なのです」
 ヤンの芝居がかったセリフに、アンリエッタも芝居がかった優雅さの頷きを返す。
「それは当然の事ですわ。あなた方の忠義に応えるためにも、わたくしに答えられる事で
あれば答えましょう」
「感謝致します」

 そう言って、再びヤンはわざとらしく窓の外を向いた。そして腕組みをする。

「まず…任務の性格上、事は秘密裏に運ばねばなりません。当然秘密を知る者は少ない方
が良いのです」
 少女二人は頷く。
「そこで伺いたいのですが、今宵はお一人で来られましたか?どこかに侍女なり護衛の騎
士なりを待機させていますか?」
「いいえ。もちろん一人で来ましたわ」

 王女が、一人で、夜中に、城からこっそり抜け出す…。本人は勇気を振り絞った英雄的
決死行のつもりだろう。だが、そのために城ではどれ程の騒ぎになっているか。警備責任
者がどんな責任を取らされるか。
 他人の心配をしている状況ではないと分かってはいる。それでも思わず城の人々に同情
してしまう。

「その手紙について、我々とウェールズ皇太子の他に知る人は?」
「無論、いませんわ」
「そうですか…」

 ヤンはゆっくりと天を仰ぐ。黙って窓の外の空を見上げている。
 ルイズとアンリエッタは、怪訝な顔で向き合った。

 そして、突然ヤンは振り向いた。扉の方を。
「扉に張り付いてる人!入ってきなさい!!」

 どったーん!

 ルイズの部屋の扉から、何かがひっくり返った音がした。
 アンリエッタもルイズも、驚きのあまり手で口を覆ってしまう。
 そして、扉が恐る恐る開かれた。そこにいたのは、薔薇の造花を手にしたギーシュだっ
た。同じくこわごわと扉を閉めながら入ってくる。
「ギーシュ!あんた!立ち聞きしてたの?今の話を!」
 ルイズに問いただされたギーシュは、詫びれるどころか胸を張り、夢中になってまくし
立てはじめた。
「薔薇のように見目麗しい姫さまのあとをつけてきてみればこの部屋へ、それでドアの鍵
穴からまるで盗賊のように様子を伺っていたのですが、姫殿下!その困難な任務、是非と
もこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう!」
「ダメです」
 あっさりヤンは断った。
 ギーシュは、こけた。
 アンリエッタとルイズもあっけにとられた。

 立ち直ったギーシュが背を向けるヤンにくってかかる。
「きっ君!失礼じゃないか!話も聞かないで!」
 ようやくヤンはクルリと振り返る。
「ミスタ・グラモン。あなたは我々の話を聞いていましたよね?」
「もちろんだとも!姫殿下のお役に立つために」
「極秘任務と分かってますよね?」
「と、当然だろう!?」
「では、まずは声を小さくしてもらえませんか?」

 と言われて、ようやくギーシュは声をすぼめた。

「おほん…失礼したね。それで、どうして僕が任務に加わってはいけないんだい!?僕の
実力は先日のエルフの件で、君も知っているだろう?」
「確かに。あなたの使い魔は素晴らしい実力を持っています。あなたとヴェルダンデ君が
いれば、確かに心強い。
 ですが、一つ問題があるのです。」
 ヤンはゆっくりと、諭すように話す。
「それは、これが極秘任務だということです。実働隊は少数精鋭の方が隠密行動をしやす
いのです。特に、秘密を知る人間も、です」
「な、なんだ、そんな事かい。大丈夫!僕は由緒正しきグラモン家の者だ。貴族の名誉に
かけて秘密は守る。そして、姫殿下への忠義の心をもって!一命を賭して任務に当たるこ
とを約束しよう!」
「グラモン?あの、グラモン元帥の?」
 アンリエッタが、きょとんとした顔でギーシュを見つめた。
「息子でございます。姫殿下」
 ギーシュは恭しく一礼した。
「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」
「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」
 熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んだ。
「ありがとう。お父さまも」「無理です」
 姫の言葉を遮って、再びヤンはギーシュの申し出を拒絶した。再びギーシュはヤンへ噛
みつかんばかりに食ってかかる。
「きっ君ぃっ!一体僕の何が問題だと言うんだい!?まさか、僕が秘密を他人に漏らすと
でも!」
 ギーシュに詰め寄られるヤンは、残念そうに首を横に振った。
「問題は、ミスタ・グラモンじゃないんですよ…あなたが秘密を守るか否かに関係なく、
既に機密保持の上で重大な問題が生じているのです」

 その言葉に、若者3人は首を傾げる。
 ヤンは少年少女を一人一人見渡す。だが彼等は顔を見合わせるばかりだ。
 彼は大きく息を吸い、アンリエッタに向かってハッキリと言った。

「姫、ここに来る姿を見られましたね?」

 その言葉に、ギーシュが慌ててヤンと姫の間に割ってはいる。
「な!何を言ってるんだ君は!?僕は、決して他言しないと言ってるじゃないか!」
 その言葉にヤンは頷いた。
「ええ、私もそう思います。ミスタ・グラモンは必ず、貴族の誇りに賭けて『姫殿下が過
去にウェールズ皇太子へ恋文を送った』という秘密を守ってくれるでしょう」
「分かってるじゃないか…君は何を言ってるんだ?」
 3人は更に首を傾げ、ヤンへ不審の目を向ける。
 そんな彼等に向けて、冷然と言葉を続けた。

「ですが、ミスタ・グラモン以外に見られませんでしたか?もし見られたなら、しかも秘
密を守れぬ人物であれば…最悪、出立前に、その者の口を封じねばなりませんが」

 その言葉を聞いた若者達の顔がこわばる。
「そ、それは…大丈夫です、恐らく見られていません」
 アンリエッタは視線を逸らす。ギーシュもルイズも、不安げに姫の顔を覗き込む。
「ですが、もし秘密を守れぬ者に見られていたなら、それが誰であろうと口封じに殺さね
ばならない事は、ご理解頂けますね?軍人として任務に私情は挟めませんので」
「そ、それは…その…」
 アンリエッタは言葉に詰まり、視線が泳ぐ。
 そんな姫を無視して、ヤンは再び窓の外を見る。
 そして顔を上げる。
 そのまま声を張り上げた。

「扉の二人!入ってきなさい!」

 どたたーんっ!
 扉の外から再び、さっきより盛大な音が響いた。
 そして、やっぱり再び扉が恐る恐る開かれた。そこにいたのは、キュルケとタバサだ。
キュルケは「おほほほほほ…」と笑って誤魔化しながら、タバサは平然と入ってきた。

「そ…そんな…」
 アンリエッタは青ざめ、小刻みに震え出す。
 ヤンは、さらに落ち着いた声で尋ねた。姫を落ち着かせぬ問を。

「口を封じますが、よろしいか?」

 ヤンは肩越しに振り返り、さらに冷淡に言い放つ。
「ちなみに、そこの方はミス・ツェルプストー。ゲルマニアからの留学生です」
 紹介されたキュルケは恭しく一礼し、居直るかのように堂々と名乗った。
「お初にお目にかかりますわ、アンリエッタ姫。
 私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。私の
口封じをするならツェルプストー家が、ひいてはゲルマニアがお相手致しますわよ!」

 アンリエッタは、崩れ落ちた。
 膝をつき、わなわなと震え、何も答えられない。
 ヤンは絶望に打ちひしがれた姫を無視し、窓の外に目を向けた。
「よぉ、ヤンよ。さっきからやたら外みてっけど、外になんかあんのか?」
 ようやく口をきいたデルフリンガーを、ヤンは窓へ持って行く。その姿に、ようやくル
イズとギーシュも窓の外を見た。

 窓の外には、沢山の人がいた。
 メイド達が寝間着のまま寮塔に向けて走ってくる。
 メイジ達が『フライ』で文字通りに飛んでくる。その中にはオスマンの姿も見える。
「あっらー、こりゃダメだ。秘密守るにゃ学院の貴族丸ごと皆殺しにしなきゃなぁ」
 長剣は呑気に物騒な事を言う。
 生徒二人は、開いた口が塞がらない。

 背後から、ドサッと音がした。花のごとく見目麗しい姫は、やはり優雅に美しく失神し
て床に倒れていた。
「ひっ!姫さま!」「姫殿下!お気を確かに!」
 ルイズとギーシュは慌てて姫を助け起こそうとする。

 そしてヤンは上を見上げ、ぎこちないウィンクをする。
 寮塔の外壁に垂直に立っていたロングビルが、真下の窓から見上げるヤンに小悪魔っぽ
くウィンクを返した。




 朝日がのぼる頃、学院近くの森の中に女性の爆笑が響いていた。
 森の奥には、腹を抱え転げ回って大笑いするロングビルと、木の根本にへたり込んでい
るヤンがいた。
「いやぁ~、助かったよ。君が皆を呼んできてくれなかったら、僕はアルビオンで死んで
いたね」
 ロングビルは緑の長髪が乱れるのも構わず、涙を流しながら笑い続けていた。

 しばらくしてようやく、ヒィヒィ喘ぎながらも笑い転げるのを止めた。
「ま、まったく!あははははっ!…ほんと、窓から必死な顔で…いひひひっ!さ、散歩し
てたあたしを!ぎゃはっははははっ!!コッソリ手招きしてるから、何かと思って飛んで
行ってみれば!うひゃははひゃはひゃひゃひゃぁっ!!」
 それだけしゃべって、汗と朝露でしっとりと濡れる緑の髪を振り乱し、再び大爆笑を再
開してしまった。


 ヤンは、ロングビルが夜の散歩をしていたことを思い出した。だから、もしかしたら彼
女はアンリエッタが学院に来る姿を見つけ、部屋の様子を伺っているのではないかと外を
見たのだ。
 案の定、夜の散歩をしているロングビルの姿を発見した。残念ながら彼女はアンリエッ
タを見てはいなかった。が、ただならぬ雰囲気で外を、彼女を見つめるヤンの姿を見つけ
てくれたのだ。
 後は窓の外にとりついて、こっそりヤンとゼスチャーで連絡と指示を取り合っていた。
ロングビルがルイズの部屋に聞き耳を立て覗き見しているギーシュを見つけ、オスマンや
メイドを呼んだのだ。


「いやぁ、それにしてもキュルケさんにタバサさんまで呼んでくるなんて、気が利いてる
ねぇ」
「あはは!はぁはぁ・・・い、いや、呼んでないよ。あの二人はさ、外の騒ぎに気付いて
勝手に外に出てきただけさ!ひひひぃひひっひっ!」
 地面をバンバン叩きながら笑い転げ続ける美女を眺めていたヤンだが、不意に「よっこ
らせ」と立ち上がった。
「あは、あはは・・・はぁ、どぉ、どこいくのさ?」
 ようやく笑いが収まったロングビルが、今度はどんな面白い事をするのかと期待した目
でヤンを見つめる。
「医務室行ってくるよ」
 そのセリフにロングビルは目を見開いた。
「医務室って、ひっくり返ったお姫さんのとこかい!?」
「うん、そろそろ目を覚ました頃かと思うんだ」

 ロングビルは体中にひっついた草やら葉っぱやら土を落としながら立ち上がった。
「いいねぇ。トドメでも刺しに行くかい?付き合うぜ」
「はは、まさか。『第四の選択』を実行しようかと思ってね」
 ヤンの言葉に彼女は怪訝な顔をした。


 学院の門へ向かいながらヤンは自身の策『第四の選択』について語った。
 聞いてるロングビルは感心しきりだ。
「ほほ~、さすがだねぇ。あたしに人を呼んでこさせた上に、さらにそんな事まで企んで
いたとはねぇ」
「いやいや、君がいたのは偶然だからね。たまたま上手く行ったから良いけど、運頼みの
策なんて信頼に値しないよ。ただ、この策を取る上では良い布石になるのも確かだね。恐
らく、これで上手く行くかな?」
 当然のように語るヤンだが、ロングビルには思いつきようのない策だ。一体この男の頭
の中には、どれ程の策略が詰まっているのか。彼女には恐怖すら覚えてしまう。

「それにしても、なんでそんな事をわざわざすんだい?あんなバカ共ほっときゃ良いじゃ
ないか」
 その言葉に、ヤンは残念そうに首を振った。
「そうもいかないよ。このままだと、あの姫さまは僕を逆恨みするかもしれない。王族に
恥を掻かせた身の程知らずの平民、とね」
 その言葉にロングビルは肩をすくめてしまう。
「そして、今となってはあの娘は、あんたの策に乗らざるをえない…か」
「そうだね、でも、僕としては・・・この策は取りたくなかったんだ」
 ヤンの言葉にロングビルは彼の顔を覗き込む。だが彼はそれ以上は語らなかった。

 二人は先ほどまでの地を隠し、無能な執事と有能な秘書の顔で門をくぐった。




 水の塔6階の医務室、一番奥のベッドでアンリエッタは目覚めていた。
 ベッドサイドにはヤンとオスマン、その後ろにルイズとロングビルとギーシュが立って
いる。

 ヤンはアンリエッタに彼の策を説明していた。
「ほ・・・本当なのですね?その通りにすれば、上手く行くのですね!?」
 憔悴が滲み出た姫に、ヤンはノンビリと答える。
「はい。もはや、姫殿下がウェールズ皇太子へ送った手紙の件を秘匿する事は不可能とな
りました」
 もちろん、自分が王女来訪を周囲にしらしめた、なんて教えない。『ロングビルが寮塔
へ向かう姫を見つけ、慌ててオスマンへ報告し、メイド達を呼び寄せた』と口裏も合わせ
てある。
「ならば、この現状を逆手に取るしかありません。いえ、むしろミス・ヴァリエールやミ
スタ・グラモンがアルビオンへ潜入するより、遙かに成功確率は高いことでしょう」
 一縷の望みにすがるように、アンリエッタはヤンを見上げる。だが、すぐに顔を伏せて
しまう。

「で、ですが…この手紙の件を知れば、母さまも、マザリーニにも・・・私は・・・」

 後ろで黙って聞いていたロングビルは、いやオスマンもヤンも「自分が怒られるより、
自分に忠誠を誓う『おともだち』を戦場へ特攻させた方がましなのか!?」と怒鳴りつけ
たいのを必死で我慢した。こんな所で王女に説教をしても、何の得も意味もありはしない
のだから。

 ヤンは引きつりそうな顔面の筋肉を強引に押さえ込み、どうにか微笑む事に成功した。
「大丈夫です!姫殿下は決して一人ではありません。姫のお側には、姫のためにアルビオ
ンへの決死行すら厭わぬ友人達がいるではありませんか!」
 そして大袈裟に腕を広げ、後ろのルイズとギーシュを指し示した。二人はヤンの言葉に
力強く応えた。
「そうですわ!このルイズ、姫さまのおともだちとして、姫さまだけにお叱りをうけさせ
ようなど思いませんわ!」
「僕とて同じです!ともに王宮へ行き、素直に事情を話しましょう!そうすれば枢機卿も
女王陛下も、きっと姫さまを咎めようとはしません!」
 そして彼等は王女へ駆け寄り、その手を取って涙した。王女も二人の言葉に涙を溢れさ
せる。
「おお…ありがとう。二人とも、その友情と忠誠を、一生忘れません…」

 手を取り合って涙する3人に、ヤンとロングビルは背を向けて医務室を後にした。出て
行く彼等の背に「ウェールズ様…お許しを…」というアンリエッタの言葉が届いた気がす
る。
 だが二人とも、もはや涙する王女達に目もくれなかった。
 オスマンは離れ行く彼等と涙する王侯貴族達の間で視線を彷徨わせ、最後に肩を落とし
て大きな溜め息をついた。




 三日後、アルビオン王家は潰えた。
 ニューカッスル城に立て籠もった王党派三百人は、レコン・キスタ軍五万の前に瞬く間
に全滅させられた。王軍は最後の一人まで果敢に戦い、レコン・キスタ軍に自軍の十倍以
上、四千人の死傷者を与えた。この戦いはアルビオン王家の栄光ある敗北を示し、伝説と
なった。

 さらにその三日後、アンリエッタとアルブレヒト三世の婚約が公式に発表された。式は
一ヶ月後を予定している。それを受けゲルマニア首都ヴィンドボナにてトリスティン-ゲ
ルマニア軍事同盟締結が発表された。条約文の署名にはマザリーニ枢機卿が出席した。
 そして条約締結に併せ、両国の共同声明文が公表された。その声明文には、以下の下り
があった。

「…しかるに、両王家は手を取り合い、始祖ブリミルより授けられし王権を守護するもの
である。
 なお、レコン・キスタなる背教徒共は、王権の権威を失墜させ両王家の絆を断たんがた
めに、ウェールズ皇太子の名を騙り下劣なる怪文書を偽造し、卑しくもゲルマニア王アル
ブレヒト三世の御心をかき乱さんと愚策を弄したものである。あまつさえ始祖ブリミルの
神聖すら穢す文面すら書き連ねる恥知らずぶりに、憐憫の情すら禁じ得ない。かような貴
族の名誉をもたぬ下衆共の戯れ言など、王家二人が育む尊き愛の前に、いかほどのことも
あろうか。
 両王家は始祖ブリミルの加護の下、共にさらなる発展を…」


 ヤンの『第四の選択肢』、それは『手紙の存在をばらす』。
 ただし、手紙をばらす相手は学院の人々でも、マザリーニでもマリアンヌでもない。ゲ
ルマニア王アルブレヒト三世その人だ。

 ヤンは学院の各種書籍、なによりキュルケのゲルマニア講座からアルブレヒト三世の人
となりを知った。
 キュルケの祖国である帝政ゲルマニアは、トリステインの10倍の面積を持つ国。もと
は一都市国家だったが、周辺地域を併呑して版図を広げた。貴族同士が利害関係の上で寄
り集まって出来た国で、皇帝への忠誠心は高くはない。
 その皇帝アルブレヒト三世は、権力争いの末に親族や政敵をことごとく塔に幽閉し皇帝
の座をもぎとった。だが始祖の血を引いておらず、新国の皇帝であるため、他国の王から
軽んじられている。

 ここから読み取られるのは、野心の塊な男。冷徹で合理主義者。始祖の血を引かず、そ
の血を引く王家から軽んじられているため、始祖への信仰心は低い。
 だが同時に、幽閉した親族と政敵を殺そうとはしない事から、人並みの良識も持ち合わ
せている。巧みなバランス感覚で貴族間の利害調整に日々奔走し、広大な版図をまとめ上
げる政治的才覚の持ち主。冷徹なだけでは人心をまとめ上げる事は出来ない。成り上がり
なら、それはなおのこと。

 即ち、子供の頃に書いた恋文一枚のために婚約を破棄したり、国家の命運を決する軍事
同盟を諦める人物ではない、ということだ。始祖ブリミルに永遠の愛を誓っていようが何
だろうが、皇帝にとっては軍事同盟を成立させる方が重要だと認識しているだろう、とヤ
ンは見ていた。
 そして、そんな皇帝であれば後宮やら愛人やら、いくらでもいるだろう。だから、政略
結婚の相手が誰に愛を誓った事があろうと、気にもとめないだろう、と。始祖の血に連な
る後継者さえ手に入ればそれでいい、とすら考えているだろうと。

 ゆえに、『予めトリステイン王家より手紙の存在を知らされていればいい。レコン・キ
スタから手紙の内容を伝えられたところで、それを黙殺するなり偽造文書と逆に咎め立て
るなり、いくらでも機転を利かしてくれるだろう』と、ヤンはアンリエッタに進言したの
だ。
 無論ヤンはアンリエッタには、皇帝が王女の愛など求めていないとか始祖に愛を誓った
かどうかなんてどうでもいいとか、そういうほの暗い現実は口にしない。ひたすら美辞麗
句で飾り立てた皇帝像を示し、姫が自らの過ちをアルブレヒト三世へ告白すれば、必ずや
姫殿下を寛容に許してくれる、と語った。歯が浮きそうになるのを我慢しながら。
 そしてアンリエッタには、もはやヤンの策にのるしか道は無かった。

 手紙の物理的消去ではなく、政治的消去。それがヤンの策だ。


 アンリエッタは、学院からの報せで飛んできた魔法衛士隊に守られて城へ戻った。共に
枢機卿と女王陛下のお叱りを受けてくれるルイズとギーシュを引き連れて。
 後の政治的処理については、学院に留まったヤンの知る事ではない。王宮間で密使がや
りとりされたことだろう。アンリエッタとルイズは献策したヤン本人も王宮へ連れて行こ
うとしたが、「私の策に基づくというより、王女自らの考えと示した方が、女王陛下や枢
機卿、ひいては皇帝陛下への印象は良くなる」として拒んだ。




 ギーシュは次の日には学院に戻ったが、ルイズは婚約発表までトリスタニアに滞在して
いた。恐らくアンリエッタとの友好でも深めているのだろう、と厨房でヤンは午後のお茶
を飲みながら想像していた。
 どうして僕の煎れたお茶は、毎回こんなに不味いんだろう、という解けぬ謎に取り組み
ながら。

「そりゃ、おめーにゃ肉体労働はむいてねーってことじゃねーか?」
「で、デル君。それを言わないでくれよ」
 と、テーブルに立てかけられたデルフリンガーが身も蓋もない事を言い、ヤンは少々傷
ついてしまう。
「そうですよ!ヤンさんがお茶を入れる必要なんか無いですよ。そういうことは、私がす
るから安心して下さい」
 とニッコリ微笑んで言うのは、ヤンの左隣でお茶を味見しているシエスタ。
「なーんであんたがするんだい?あんたは学院のメイドでしょーが!あんたの下心なんか
見え見えなんだよ!」
 と、ヤンの反対側から食ってかかるのは、同じく味見していたロングビル。

 まぁまぁ二人とも…と間に割って入ろうとするヤンに構わず、ロングビルは地まで晒し
て睨み合っている。
「あら、下心って何ですか?同じ平民同士、助け合うのは当然じゃないですか」
 やり返すシエスタは、メイジ相手にも一歩も引く様子はない。
「はっ!何言ってンだい!?ヤンが大金を手に入れたとたんにコビ売りはじめたクセに」
 かなりエゲツナイ指摘に、シエスタも真っ赤になってしまう。
「そっちこそ何を言ってるんですかっ!私はヤンさんが来た時から、その、凄い人だなっ
て思ってましたよ!
 食堂でミス・ヴァリエールを庇った時の勇気、貴族相手に一歩も引かない度胸、穏やか
で知的な人柄!まさに年上の男性の魅力に満ちてるじゃ」
 というところまで叫んだシエスタは、すぐ隣に当の本人がいる事を思い出した。
 恐る恐る視線をずらすと、そこには、可愛い少女に自分の魅力を力説された中年男が赤
くなってモジモジしている。
「何を赤くなってんだいっ!?」
  どごっ!
 ヤンはロングビルにグーで殴られた。

「それにしても…ヤンの所にいる限り、俺の出番はねえのかなぁ」
 美人二人に挟まれて、この世の天国と地獄を同時に味わう剣の主を眺めながら、デルフ
リンガーは自分の存在理由に思いをはせるのだった。


 そんな喜劇が演じられる厨房の扉が開けられた。
「ヤンさーん、ヴァリエール家から馬車が迎えに来てますよ・・・って、あんたら何して
るのよ」
 扉を開けたローラは、女性二人の引っ張り合いで見るも無惨に引き裂かれつつあるヤン
を発見した。




 夕方、ヤンはヴァリエール家の別邸に到着した。
 背中に「たまには俺も連れてけー!」とうるさいデルフリンガーを背負っている。
 執務室へ通されたヤンは、ソファーに座る公爵と、しょげかえって部屋の隅に立たされ
ているルイズを発見した。
 まずは室内の貴族達へ向けて、深々と礼をする。
「ヤン・ウェンリー、参上致しました」
「よく来たな、ウェンリーよ。まずは座られよ」
 そういって公爵はヤンを、机を挟んで真正面に座らせた。だが彼の雇い主は未だに立っ
たままだ。デルフリンガーを横に置きながら、怪訝な顔でルイズと公爵の間で視線を往復
させる。

「まずは娘の命を、そしてヴァリエール家を、そしてトリステインを救ってくれた事に感
謝する」
 そう言って公爵はヤンに向かって頭を下げた。その様にヤンも仰天してしまう。長剣も
鞘から飛び出してしまう。
「おいおい、いきなりだな。こりゃいってーどーしたこった?」
「デル君!失礼だよ、ちょっと黙っててくれないか」
「へーい」
 デルフリンガーは、鞘に引っ込んで動かなくなった。

 ヤンは一つ小さな咳払いをして公爵に尋ねる。
「えっと、よくわかりませんが、顔をお上げ下さい。そして、ヴァリエール家を救ったと
は、どういう事でしょうか?」

 ゆっくりと頭を上げた公爵は、苦々しげに語りはじめた。

「王女が学院へ忍び込んだ云々の話は聞いた。
 もしルイズがアルビオンへ行っていれば、間違いなく戦火に巻き込まれ、命を落とした
事だろう」
「そ!それは姫さまの」
 反論しようとしたルイズだったが、ギロッと公爵に睨まれて再び縮こまってしまう。
 ヤンは、あ~学院に帰ってこなかったのは、ずっと公爵に叱られてたのか~、とぼんや
り考えた。
「王家への忠義、それは結構な事だ。だが、己の力量をわきまえず、勢いだけで危険極ま
りない任務を引き受けるなど、愚の骨頂だ!」
 小さな少女は威厳ある父の怒声に、ますます顔を伏せて小さくなる。
「敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶ、か。…ふん、わざわざ敵のど真ん中に突っ込んで
おいて、後ろも前もあるものか」

 公爵は瞳を潤ませた娘から、冷や汗をかく執事へ視線を戻す。

「そして、もし娘がアルビオンで命を散らせば、わしは間違いなく姫を、王家を憎んだろ
う。叛旗を翻す事すら厭わなかったやもしれぬ」
「アルビオンのレコン・キスタを前にして、王家と重臣が杖を交えるなど、敵を利する以
外なく、トリステインもアルビオン王家と同じく滅んでいただろう…ということですか」
 公爵の言葉をヤンは引き継ぐ。淀みなく語られるヤンの推理に、公爵も感心しきりだ。
「うむ、その通りだ。やはりお主は聡明だな。故郷では、さぞや名のある将か参謀だった
ことだろう」
「いえ、とんでもありません。なにしろ私の二つ名は『2秒スピーチのヤン』でした」
「2秒スピーチ?」
「私の挨拶や演説は2秒で終わるんです。新年パーティーの挨拶なら『みなさん、楽しく
やってください』。国家の式典では『ヤン・ウェンリーです。よろしくお願いします』と
言った感じです」

 冗談のつもりで言ったヤンだったが、公爵は真剣に答えようか笑おうかかと迷っている
ようだ。これはヤンのジョークのセンスが原因か、ハルケギニアと笑いのポイントが違う
せいか、公爵のユーモア感覚が十分に開発されていなかったのか。二人はあえて探求しよ
うとはしなかった。

「ともかく、だ」
 公爵は、妙に抜けた空気を強引に振り払って話を続けた。
「平民ながらにトリステインの危機を救う、お主の知略には感服した。マザリーニもお主
に興味を持っている。遠からず城への招待状が届くであろう」
 その言葉に、ヤンは露骨に顔をしかめた。
 公爵はヤンが嫌悪感を露わにしたことを咎めなかった。
「あのような事があったのだ、お主が城を毛嫌いする気持ちは分かる。ならば、どうか、
これからはヴァリエール家のために手腕をふるって欲しい」
「えっと…いえ、私は、その…」
 頼まれたヤンが回答に困っていると、公爵は再び頭を下げた。
「異国で軍人として名をなさんとしていたお主が、いきなりルイズに召喚され、使い魔と
いう名の奴隷にされてしまった事。ルイズと共に城へ行かなかった気持ちも分かる。父と
して娘に代わって謝罪する。
 だが、娘にも事情がある事、お主も承知している事と思う。それに、聞けばお主の故郷
は、自力で帰還出来ぬほど遠方とか。
 ならば、ここは伏して請う!この国で暮らす上での地位、安全、財産は保証する。だか
らどうか、娘を見捨てないで欲しい!」

 威厳も何もかもかなぐり捨てて、流れ者の平民に頭を下げる公爵に、ヤンは頷かざるを
えなかった。そしてルイズは、唇を噛みながら涙を流していた。

 双月が照らす夜道を、学院へ向けて馬車が進む。
 中にいるのはヤンとルイズとデルフリンガー。長剣は二人を隔てる柵のように、左右の
扉に分かれて座る二人の間に立てかけられていた。
 二人とも、何もしゃべらない。重苦しい沈黙を乗せて、馬車は帰路を進む。

「なぁ、ヤンよ。もう許してやんなよ」
「ダメ」
 沈黙に堪えられなくなったデルフリンガーの提案は、いつにないヤンの冷たい言葉に却
下された。
「で、でもよぉ、いいじゃねぇか。結局全て上手く行ったじゃねえかよ」
「とんでもない!僕にとっては、最悪の選択肢だったんだよ!?」
「最悪って、なんでだよ?」
 デルフリンガーの質問に、ヤンはめんどくさそうに答えた。


 あの策を使えば、確かに婚姻は無事成立し、両国は軍事同盟を結ぶ事が出来る。
 だがヤンは、専制国家を打倒するため、民主共和制を守るために戦い続けた。その自分
が、王政維持のために力を貸す。貴族限定かつ利権争いの舞台でしかないとはいえ、民主
共和制の萌芽であるレコン・キスタを害しようとする。
 自分の身を守るためでも、それは彼の過去を完全否定する行為だ。例え自分の身を守る
ためでも、この世界では市民革命が期待出来ないとしても、自らの信条に反する事、甚だ
しい。
 おまけにそれは同時にヤンの存在を、知謀を王宮へ知らしめる事になる。今後もことあ
る毎に王宮や公爵はヤンへ厄介事を持ち込むだろう。そして権力をたてにして、協力を拒
む事を許さない。


「…枢機卿は、僕を城へ招待したいそうだよ」
「そうらしいなぁ、公爵にも頭下げられて、ホントお前は凄いヤツだな」
「とんでもない!君は分からないのかい?なんで、あの程度の策を示しただけで、公爵が
頭を下げたのか。枢機卿が招待状を送るのか!?」
「あ、あの程度の策って…」
「あんなの、策でも何でもないよ!枢機卿も公爵も普通に考えつく事さ!なのに、なんで
公爵があんなに大袈裟に感謝したと思うんだい!?」
「え、いや、さぁ」
「僕を利用するためさ!
 流れ者の平民、捨て駒には最適だろうね。せいぜい金貨や権力をちらつかせて、無理難
題を押しつけて、用が無くなればポイッてわけだ!
 これで、僕の学院での穏やかな生活は終わりだ。再び権謀術数渦巻く政治劇に巻き込ま
れるわけだよ!バカバカしい、なんでこんな異世界に来てまで!」
 ヤンは忌々しげに、本当に心から忌々しげに吐き捨てた。

  ドゴンッ!

 ヤンの言葉に対する返答は、デルフリンガーの言葉ではなく、馬車の扉を吹き飛ばすル
イズの爆発魔法。彼女は震える手でヤンに杖を向けていた。
 御者も慌てて停車し、車内を覗き込む。
「何よ…何よ何よ何よ!なんなのよそれは!?
 貴族でメイジのあたしが、逆立ちしたって王宮に頼られる事なんか、鳥の骨に招待され
る事なんかないのに!
 平民のあんたが!城に行きたくない!?政治に関わりたくないですってぇ!??
 なんなのよそれは!あんたいったい何様のつもりよぉっ!!」
「ま、待って、ルイズ、落ち着いて」

 顔を真っ赤にして涙を流すルイズの杖に、じわじわと後ずさるヤン。

「うるさいうるさいうっさーい!
 どいつもこいつも、あたしをバカにするのよ!平民すらも!しまいには、あたしが召喚
した使い魔まで!あたしを差し置いて!」
「うわー!待て、落ち着けぇ!」
 叫んだのはデルフリンガーだったが、ルイズは構わず手に持つ杖をヤンに振り下ろさん
としていた。
 ヤンは慌てて杖を持つ手を掴み、杖を奪おうとする。二人のが狭い車内でもみあう。
  ドサッ
 散々もみ合ったあげく、吹き飛んだ扉の穴から外へ落ちてしまった。


 ヤンは背中から地面に落ちた。
 体の上にはルイズを抱きしめている。怪我をしないよう、慌てて抱き留めたのだ。
 二人は呼吸を荒くしながら、闇の中でしばし動かない。


「・・・あたしだって、何かしたいのよ」
「・・・分かってる」

 呼吸を整えた二人は、そのままボソリと言葉を吐く。

「姫さまに頼ってもらえて、嬉しかったの」
「だろうね」

 ルイズはヤンに抱きしめられたまま、ポツポツと語る。

「姫さまは私を、おともだちって、言ってくれた。今まで誰もそんな事言ってくれなかっ
た」
「友達なら、これからだって作れるよ」

 ヤンは星空を見上げたまま答える。

「魔法を使えないあたしに、何が出来るの?」
「僕も魔法は使えない。でも、君の命を守り、軍事同盟は成立させたよ」

 ルイズは顔を上げ、ヤンを見る。

「あたしにも、出来る?」
「出来るさ。なにしろ、僕にすら出来たんだから」

 ルイズはようやく体を起こし、ヤンの腹の上に乗ったままクスクス笑い出した。
「そーね。あんたみたいな冴えないオッサンに出来るんだもの!このルイズ様に出来ない
はずがないわ!」
「お…オッサンは、無いとおもうよ」
 ヤンも苦笑してしまう。

 ようやく少女は男の体の上から降り、手を差し伸べた。
「ほら!さっさと立ちなさいよ!学院に戻ったら、すぐに勉強はじめるからね!」
「そうだね、じゃ、まずは何をする?」
 ルイズの手を取り、ヤンも体を起こす。
「まずは、あんたの事を教えなさい。どんな国にいたのか、どんな戦争をやっててきたの
か、全部聞かせてもらうわ」
「う~む、聞いても想像出来ないというか、そもそも信じてはもらえないな」
 ヤンは首を捻りまくる。宇宙やら科学やら、どこまで話したらいいものやら悩んでしま
う。

「おーい、ヤンもルイズもよぉ。そういう話は帰りながらしろや。御者さんがヒマしなが
ら待ってるぜ」
 車内に忘れられたデルフリンガーが言うとおり、御者が二人を見下ろしていた。よく見
たら、それは先日ヤンとルイズの買い物に付き合わされた御者だ。
「よぉ~、ホントにヤンって見てて飽きねぇぜ。お嬢様も、早く学院に帰りましょう」

 御者の言葉に二人とも頬を染め、そんなお互いを見て笑いながら馬車に戻っていった。


         第十話  第四の選択肢   END



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