あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-02


「わたしは二年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。今日からあんたのご主人様よ。覚えておきなさい!」

こんにちは人修羅です。
前回、やさしく掴んだはずの右手で思いっきりぶん殴られ、こんなことを言われました、人修羅です。
なんか俺、俺を呼び出した少女に思いっきり嫌われたみたいです、鬱です…。

「……なんで平民のあんたは、のこのこ召喚されたの?」
「学院長室でいろいろ話を聞いてたんだが……目の前に今のゲートが表れてね。コルベール先生が召喚のゲートだと教えてくれたんだ、誰が俺を呼んでるんだろうか見るつもりでくぐり抜けたんだけどね」

俺がそう言うと、ルイズさんは思いっきり落胆したようで、はぁ~と長いため息をついた。
長い息の猫がいたら気が合ったかもしれない。

「このヴァリエール家の三女が……。由緒正しい旧い家柄を誇る貴族のわたしが、なんであんたみたいなのを使い魔にしなくちゃなんないの?」
「そんなこと言われてもなあ」
「……契約の方法が、キスなんて…」
「そんなこと言われても…って、何だって?」

聞き間違いでなければ、契約の方法がキスだとか言っていたはずだ。
俺は改めてルイズさんの顔を見た、すっっっっっごく不満そうな目でこっちを見ている。
対して俺は無表情になっていると思うが、内心は穏やかでなかった、だって心臓がバクバク鳴ってるんだもの。
シンジュク衛生病院で出会ったピクシー、彼女は甘えん坊で、よく俺にほおずりをしてきた。
でもキスはしてない。
他にもサッキュバスとかティターニアとか綺麗な女性(女神)の仲魔はいたけど、何て言うか、恥ずかしくて手を出したことはない、だって俺チェリーなんだもの…。

「……先ほど、オスマン先生は、今すぐに契約する必要はないと言っていた。俺もこの世界のことはよく分からないしな、時間をかけて理解してくれればいい」
「そう、そうなの」

何を納得したのかよく分からないが、ルイズさんはそう言って、悔しそうに歯をかみしめて俯いてしまった。
何か悪いことしただろうか。

コンコン、とノックの音が聞こえ、続いて男性の声がする。
「ミス・ヴァリエール。コルベールです。」
「…はい」
ルイズさんは頼りない声で返事をすると、部屋の扉を開けた。

「おお、やはり人修羅さんもこちらでしたか、今後のことについてミス・ヴァリエールを交えて話をしたいのです、学院長室に来て頂けますかな」
「ええ。かまいません」
「…はい」

ルイズさんはやはり元気が無さそうだ、大丈夫かな。

■■■

わたしは、学院長の部屋で、呆然としていた。
今日だけでもいろいろな事が起こりすぎて、頭が疲れていたのかもしれない。

私が変な格好の平民だと思っていた男は、ハルケギニアとは違う世界で、学校に通っていた経験があるらしい。
だけど、何かの争いに巻き込まれて友達は皆死んでしまい、学校という物に未練を持ち続けていたそうだ。
彼が呼ばれたのはそのせいかもしれない、とコルベール先生が説明していた。

人修羅が持っていたマジックアイテムも不思議だった、人修羅の説明では、魔力を一瞬で回復させる秘薬や、使っても使っても無くならない不思議な治癒薬、どんな毒でも治せる解毒薬、魔法を封じ込めた石などがあった。

コルベール先生は、人修羅を『幾多の戦いを乗り越えた戦士』だと評していたが、私には人修羅が『頼りない』存在にしか見えなかった。

一通りの説明を受けた後、人修羅と契約を行うか否かは私の手にゆだねられる事になった。

私は『時間を下さい』としか言えなかった。


■■■


夜、ルイズは人修羅に、メイジとは何か、貴族とは何か、使い魔とは何かを説明していた。
「…つまり、使い魔は感覚を共有したり、秘薬の素を探したり、主人の身を守ったりするの」
「なるほどー。契約はしてないから感覚の共有はできない。この世界の秘薬を俺は知らないし。まあ、ある程度なら身を守ることはできるかもしれないな」
「はあ…さっきから『かもしれない』ばかりで、あんた本当に戦士なの? まあ、何度召喚しても貴方がゲートから出てくるから、今更あなたに帰れとは言えないけど」
「何年も戦ってたのは事実だけど、この世界のことはまだよく分からないから……。それに敵の実力を見誤って、仲魔を怪我させたこともあるんだ、大事な物を一つの怪我もなく守りきれるとは思ってないよ」
「…やっぱり頼りないわ」
「耳が痛いなあ」

人修羅はルイズとの会話の中で、仲間が傷ついた時のを思い出した。
ピクシーが万能属性の最大魔法『メギドラオン』でやられた時、人修羅は死者をも生き返らせる『反魂神珠』のことも忘れて狼狽えていた。
冷静に考えれば解ることなのに、感情に流されて狼狽えてしまう自分が止められない、それは人修羅の強さでもありながら弱さでもあった。
何が起こるか解らない、だからこそこの世界でも、誰かを守ると思ったら決して油断できない。

そんなことを考えている内に、ルイズが大きなため息をついた。
「はぁー…もう疲れたわ、今日はもう寝るわよ」
「じゃあ、俺は外で寝るよ」
「何言ってるの、あんたはちゃんと明日の朝私を起こすのよ。それと、脱いだ服は洗濯しておいてね」

あろうことはルイズはその場で服を脱ぎ始めた。

「…!? …!! ■○◇??+!!?」

「おやすみなさい、ああ、それと古くなった毛布を一枚あげるから、これを使っていいわよ」

ルイズはネグリジェに着替えると、脱ぎ捨てた服と下着、それとタンスの中に入っていた薄手の毛布を人修羅に投げた。
そのままベッドにはいると、指をぱちんと鳴らしてランプの明かりを消す、どうやらこの部屋を照らしていたランプはマジックアイテムらしい。

「………デカルチャー」
人修羅はそう呟くと、薄ぼんやりと光を発する身体を包み隠すように毛布を自分に巻き付けて、体育座りのようなポーズで部屋の隅に座った。

(うわあこの毛布、フローラルな香りがする、これって女の子の臭いなんだろうか、それとも香水の香りなんだろうか……まずいなあ俺実は臭いフェチ?これじゃ本当に変態じゃないか…)
人修羅は、ルイズに協力しようと思ったことを、ちょっとだけ後悔していた。

■■■

翌朝、人修羅はいつの間にか眠っていたが、朝日が窓から部屋に差し込んだ瞬間にぱちりと目が覚めた。
瞬間的な覚醒は、人間の身体だったころとは大違いだった、遅刻ギリギリで通学路を走っていた人間は、周囲の環境の変化ですぐに目を覚ましてしまう悪魔になっていた。

「朝か」
窓から空を見ると、まだ朝日が昇って間もないのか、昨日と比べてずいぶん薄暗い気がした、とりあえず床に脱ぎ散らかされた下着や靴下などをひとまとめにして脇に抱え持った。
ドアノブに手をかけ、廊下に出ようと思ったところで、ふと考える。

自分は今半裸だ、上半身裸で、入れ墨にしか見えない模様が体中にある。
他人が俺を見たらどう思うか…ちょっと想像してみた。
『下着を持った全身入れ墨男』

どくん、どくんと、心臓が鳴る。
自分が動揺しているのが解る、体中の魔力が冷や汗と共に対外に漏れだしている感じがした。
ふと自分の腕を見ると、技を放つ時のように、体中の魔力が体表面に満ちて、肌色の部分までもが黒くなっていた。

「落ち着け、落ち着け俺。誰かに見られても、説明すれば変態じゃないって解ってくれるさ」
そう小声で呟いて扉を開け、廊下に出る。
ふと左を見ると、そこには杖を構えた褐色肌の女性がいて、俺をキッとにらみつけていた。

なんで?

■■■

「!!?」

朝、突然隣の部屋から何か得体の知れない力が流れ込んでくる気がした。
何が起こったのか解らなかったが、それが隣の部屋から突然流れ得てきたのには気付くことができた。
廊下に向かって右手側は、ヴァリエールの部屋、そしてその部屋には昨日召喚された男がいたはず。
昨日召喚された男は、途方もない力を持っていると、直感的に理解できた。
あのとき私が召喚した使い魔の、『フレイム』も、男から目を離すことができずにいた。
自分もそうだ、ただそこに存在しているだけで空間が歪むような、そんな力の本流がルイズの召喚ゲートから現れ、目が離せなかった。

ミスタ・コルベールがオールド・オスマンの元に、男を連れて行ったが…その時にはあの驚くべき熱風とも冷水ともつかない力の本流はなりを潜めていた。
それが今、突然あらわれたのだ、もしかしたらあの男がヴァリエールに何かをしたのではないか?

無謀だと思いつつも、キュルケは杖を手にして、ネグリジェ姿のまま廊下に飛び出した。
ほぼ同時にルイズの部屋の扉が開かれ、中から例の男が姿を現した、その手にはなぜかルイズの服…というか下着が抱えられていた。

■■■

「…」
顔が赤くなっている、気がする。
昨日、あの草原で見た覚えのある、赤毛で褐色肌の大人なおねーさんが、スケスケなネッネッネッネッネグリジェ!を着てこっちに杖を向けている。
落ち着け俺。
落ち着け、サッキュバスがよく迫ってきたじゃないか、それに比べればなんて事はないはずだ、でも呼び出したサッキュバスはなぜかいつもレオタード姿で俺に迫ってきた。
それに比べて、どうよ、赤毛に褐色肌、放漫なおっぱいにくびれたウエスト、やばいよこれは直視するのは恥ずかしいよ!エッチ臭いよ!
「…服は着た方がいいと思うぞ」
かろうじてそれだけ声を出す、だが目の前の女性は、なおも俺に警戒心の強い視線を向け続けている。
「ひとつ、聞きたいんだが」
「……」
「下着を洗濯しろと言われたんだが、洗濯場所とかあったら教えてほしい」
「……洗濯?」
「そうだ、よく分からないんだが、これも使い魔の仕事らしいから」
「……はあ」

さっきとはうってかわって、呆れたような視線で俺を見る。
やめてくれよ、そんな目で見ないでクレヨ!
年頃の女の子の下着を洗うなんて、俺だって困ってるんだから!

「いいわ、教えてあげる。でも一つだけ聞かせて…さっきの力は何?」
「さっきの力?…ああ、そうか、もしかしたら寝てるのを邪魔してしまったかな」
「何をしたの?身体から勝手に火が出るかと思ったわよ」

俺は少しの間沈黙した、正直に言おうか迷ったからだ、だが、今ここで変な嘘をつくより、正直に言った方がきっと信じてくれる…そう思った。

「この格好で外に出て下着を洗ったら、俺はどんな目で見られるのかと思ったんだ、好きでこんな格好をしている訳じゃないのに、変態だとか言われたら、俺…」
「わ、わかったわ、わかったわよ、ヴァリエールにに危害を加えた訳じゃないのね」
「…むしろ危害を加えられてる気がする」

諦めたような口調でそう言うと、目の前の女性は杖を降ろして、大きなため息をついた。
「まあ仕方ないわね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。私を呼ぶ時はキュルケで良いわ。貴方は?」
「俺は人修羅だ。よろしく。…ところでいいかげん服を着た方が良いと思うんだが」
「あら、心配してくださるのかしら?ミスタ・ヒトシュラは意外と紳士なのね、すぐ案内してあげるからちょっと待っててくださるかしら」
「助かるよ、ありがとう。それと俺は呼び捨てで良いよ」

部屋に入ったキュルケさんは、ゆったりとした作りのワンピースを着て部屋から出てきた、ルイズさんの部屋のお隣さんは、いい人のようだ。
ううっ…人情が目にしみて涙が出そう。

■■■

ここトリステイン魔法学院は、空から見ると五角形の形の塀に囲まれているらしい。
それぞれの頂点は塔になっており、それぞれが学生寮などに使われている。
中央の本塔は学院長室や宝物庫、そして食堂があるのだとか。

俺はキュルケさんに案内されて本塔の食堂にやってきた、ここなら朝早くからも人がいるので、話を聞いて貰うには丁度良いそうな。
キュルケさんが、ここで働いている平民の人に声をかけた、よく見るとその人はメイドさんで、黒髪の綺麗な女の子だった。
大和撫子がメイド服を着た感じで、俺は内心穏やかじゃなかった俺、女物の下着を抱えたままで顔を真っ赤にしてたらきっと変態だと思われるから冷静を装っていた、必死で。

俺に代わってキュルケさんが説明してくれたおかげで、変態だと思われることなく、魔法学院付きのメイドさんに洗濯場所を教えて貰うことができた。
俺は『悪い魔法使いの手でこんな姿にされた』らしい。
それを聞いたメイドさんは哀れむような視線で俺を見つめていた。

ところでお洗濯のことだが、メイドさんが言うには、素人にシルクの下着を洗わせたら下着が駄目になってしまうらしい、下着はデリケートなんだとか…
洗ってくれるというメイドさんの申し出が有り難かった、申し訳ないけど。
もしかしたら人生で一番幸福な瞬間ってこういう事を言うんじゃないだろうか。

「それじゃ、私は戻るわ。またね人修羅」
「ああ、ありがとう」

キュルケさんが手を振って部屋へと戻っていく、俺は同じように右手の平を見せて手を振った。

「それでは、洗濯物をお預かりします」
「あの、もし良かったら洗濯場所とか教えてくれないかな、水くみ場とかも教えてくれると嬉しいんだ。いつまでも頼ってたら怒られちゃうしね」
「わかりました、こちらです」
「ありがとう。えーと…」
「私はシエスタです、この学院で厨房付きのメイドをしています。そちらはミスタ・人修羅でよろしいですか?」
「ミスタはいらないよ、呼び捨てにして貰って構わない。よろしくねシエスタ」
「はい」


魔法学院の敷地は、正五角形の頂点に塔があり、塔と塔が塀で結ばれている。
ルイズさんとキュルケさんの住む『寮塔』と、『水の塔』の中間に門が作られており、そこが魔法学院の正門になっている。
使用人の宿舎は正門から向かって右側の『水の塔』とその奥にある『風の塔』の中間に建てられていた、魔法学院の外壁沿いにあるそれは、二階建ての大きな洋風建築であり、右手側に大きな煙突が伸びている。

俺は使用人の宿舎前で、朝日に照らされる本塔を見上げた。
ボルテクス界に変貌した東京とは違い、その建物の姿は清々しさと、ほんの少しのファンタジー臭いを併せ持っていた。

「お待たせ致しました」
「あ、荷物があったんだ。お礼に俺が運ぶよ」
使用人宿舎から出てきたシエスタは木箱を持っていた。
俺はそれをひょいと持ち上げる。
「あ、いけません、人修羅さんはミス・ヴァリエールの使い魔さんですから、そんなことをやらせるわけには…」
「いいって、困った時はお互い様さ」

シエスタは、ちょっとだけ困ったような顔をしたが、すぐに笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。人修羅さんって、優しいんですね。噂とは大違いです」
「…そうでもないよ。て、ちょっと待ってくれ、噂って何?」
「あ」

シエスタは口を開けて、しまった、と言わんばかりの顔をした。
俺は歩きながら、なるべく優しい口調で、シエスタに噂というのがなんなのか聞いてみることにした。
「この格好は好きでなった訳じゃないんだ、変だと思われるのは解る。言いにくいかも知れないけど、できればその噂がどんなものか教えてくれないか? もし何か誤解されてたら困るからさ」
「はい…あの、夕食の時に貴族様が噂話をしていらしたんですが…東方の蛮族だとか、南方の怪しい部族だとか…」
「あー、まあ、そりゃしょうがないね。この格好じゃなあ」

正直、魔王とか化け物とか言われてたらショックで落ち込むところだった。
シエスタは俺に噂の内容を教えてくれたので、俺の正体を明かしたい…が、俺が悪魔と一体化した人間だと説明しても、怖がるか嘘だと思われるかのどちらかだろう。
俺は苦笑いしてから「気にしてないよ」と言うだけに留めておいた。

■■■

「おーい、起きてくれー。 るいずさーん、目を覚ましてくれー。 八時だよ!全員集合!」

「うぅん…何よもう、うるさいわね…きゃああああ!?」
「あ、起きた」

目を覚ましたルイズが見たものは、前身に変な模様が描かれた、人間の男だった。
ベッドから転げ落ちそうになったルイズは、慌てて毛布を引っ張り、身体を隠す。
「ななな、何よあんた!」
「あんたとは失礼な!自分で召喚しておいてそれはないでしょうが!」
「召喚?……ああ、そっか、昨日あんたを召喚したのよね、驚いたわ…」

ルイズは気を取り直して起きあがると、欠伸をしてから人修羅に着替えを手伝うよう指示した。

「服」
人修羅は椅子にかけられたままの制服を、ルイズの脇に置くと、ルイズはだるそうにネグリジェを脱ぎ始めた。
「………」
人修羅は鼻の下を伸ばす暇もなく、呆れた。
「下着」
「し、下着ぐらい自分で取った方が…」
「口答えしないの! そこのクローゼットのー…、一番下の引き出しに入ってるから」

想像を絶する美しさの女神や、男を魅了して止まないサッキュバスに迫られた経験のある人修羅でも、同年代の着替えは狼狽える。
実際には何十年も戦い続け、既に人間の寿命を超えている人修羅だが、あくまでも感性の基準は高校生のままだった。

人修羅は同世代の女の子のクローゼットを開け、中に入る下着を手渡すという、背徳的なドキドキ感を楽しむ余裕もなく、無言で下着を手渡した。
ルイズは下着を身につけると、再びだるそうに咳いた。
「服」
「横に置いたよ」
「着せて」

おいおいマジかよ、と思いつつ振り向くと、下着姿のルイズが眠そうな眼をしてベッドに座っていた。
今朝廊下で会ったキュルケさんといい、この世界の貴族はこんなにも目のやり場に困る存在なんだろうか、それとも俺がおかしいんだろうか。

「平民のあんたは知らないだろうけど、貴族は下僕がいる時は自分で服なんて着ないのよ」
というルイズの言葉を聞き、これは文化の違いだから仕方がないと思って諦めたのか、人修羅は無言で着替えを手伝い始めた。
「男に着替えさせるなんてはしたないなあ」
「何よ、平民のくせに。そんな生意気な使い魔にはお仕置きよ。朝ごはんヌキね」
ルイズは指を立てて、勝ち誇ったように言った。

人修羅は悪魔であり、人間ではない、しかし人間の部分も保持している。
そのため腹が減る、腹が減っても生き続けられるし、空腹感を魔力で誤魔化すこともできるが、なるべくなら『食事』だけは人間に近い感性を残しておきたかった。
だから人修羅は腹が減る。

人修羅はため息をつきつつ、近くの森で食べられそうなものを探した方がいいかもしれない…と考えていた。

■■■

ルイズと人修羅が部屋を出ると、向かい側にはこの部屋と同じような、木でできたドアが壁に三つ並んでいた。

今朝はキュルケさんに驚かされて、この塔がどんな作りだったのか調べていなかったなぁ…と思いつつあたりを見回すと、隣の部屋からキュルケさんが姿を現した。

ルイズさんと比べると、背が高くて色気もムンムン、窓から差し込む光は彫りが深い顔と突き出たバストを強調させていた。
ルイズと同じ制服のブラウスを着ているが 一番上と二番目のボタンを外し、胸元を覗かせている。

実は夜魔やサッキュバスの血を引いてるんじゃないだろうか、とまで思ってしまった。

彼女はルイズを見ると、にやっと笑った。
「おはよう。ルイズ」
「おはよう。キュルケ」
ルイズは顔をしかめ、嫌そうに挨拶を返した。
「ちゃんと用事は済んだ?人修羅」
「ああ、おかげで水くみ場とかも教えて貰ったよ、さっきはありがとう」

俺が今朝のお礼を言うと、ルイズは驚いた顔で俺とキュルケさんを見た。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!なんであんたキュルケと喋ってるのよ!」
「あら、嫉妬?」
「違うわよ!」
癇癪を起こしたルイズさんをからかい、楽しそうに笑うキュルケさん。
喧嘩するほど仲が良いということわざが有るが、この二人もそんな関係なのだろうか。

「それにしても『サモン・サーヴァント』で、平民を召喚しちゃったなんて、あなたらしいわ。さすがはゼロのルイズ」
ルイズがぐっと歯を食いしばった。
「…うるさいわね」

あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ。おいでフレイム!」
キュルケさんの言葉に続いて、部屋の中からのっそりと、真っ赤で巨大なトカゲが現れた。
ボルテクス界で共に戦った火の精霊『フレイミーズ』によく似た懐かしい熱気が感じられた。きっとこの子はサラマンダーだろう。
「へー、かわいいなあ。よしよし」

俺が手を伸ばすと、サラマンダーは首を持ち上げてこちらを見た。
そのまま猫のように顎を撫でると、嬉しそうに「きゅーん」と小さい声を出した。
「…フレイムが懐くなんて。やっぱり…」
「ん?」
やっぱりとは何だろう、俺がキュルケさんの方を向くと、慌てて顔を逸らしてしまった。
「これって、サラマンダー?」
ルイズが悔しそうに尋ねた。
「そうよ! 火トカゲよ! 見てよ、この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火虫亀山脈のサラマンダーよ? ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ!」
「そりゃよかったわね」
苦々しい声でルイズが言った。

「素敵でしょ。あたしの属性ぴったりよ」
「あんた『火』属性だもんね」
「ええ。微熱のキュルケですもの」

そんなやりとりをした後、キュルケさんはフレイムの頭を軽く撫でた、おそらく『ついてこい』と命じたのだろう、何となくそんな気がする。
「それじゃ、お先に失礼」

そう言うと燃えるように鮮やかな赤髪をかきあげて、颯爽と去っていってしまう。
サラマンダーのフレイムくんは、大柄な体に似合わない可愛い動きで、ちょこちょことキュルケさんの後を追っていった。

昨日召喚されたばかりだというのに、既に信頼関係を結んでいる気がして、人修羅はキュルケとフレイムのコンビがちょっとだけ羨ましくなった。

■■■

キュルケが二人の視界から消えると、ルイズは拳を握りしめ、悔しそうに叫んだ。
「くやしー! 何よ何よ何よあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」
「まあまぁ、そんなに怒らなくても」
「何よ!あんたまであの女の肩を持つの!?さっきだって」
「朝、廊下で出くわしてさ、洗濯場所を教えて貰ったんだ」
「何のほほんとしてるのよ!なんであいつがサラマンダーで、何でわたしがあんたなのよ!」
「まあまあ、ほら、サラマンダーじゃ洗濯とか着替えとかできないし」
「平民よりネズミの方がよっぽどましよ!」
ルイズはそう言い捨てると、機嫌を悪くしたままキュルケが消えた方へと歩いていった。
人修羅はルイズから三歩下がって、後をついて行く。
「……辛いだろうなあ」
ルイズに聞こえないよう、小声で呟いた。

■■■

トリステイン魔法学院の食堂は、本塔の一階部分にあった。
位置的には、正面玄関に入ってすぐの場所だと解っていたが、実際に百人以上の人間が座れる巨大な食堂を見ると、その荘厳な雰囲気に驚いてしまった。

二年生のルイズ達は、真ん中のテーブルに座るらしい、食堂の正面に向かって左隣はルイズ達より大人びている気がする、おそらく三年生だろう、彼らは皆紫色のマントを身につけている。
逆に右側では、茶色のマントを身につけた生徒さん達が着席している、おそらく一年生だろう。
人修羅の記憶の中にも似たような場面があった、体育祭で学年別に色分けされたジャージだ。
世界が違っても、学校は似たようなシステムなんだなぁと、またもや感心して「へー」と呟いた。

ルイズの話では、朝昼晩と、学院の中にいるすべてのメイジ達がここで食事を取るらしい。
正面玄関から見て一番奥はロフトになっており、そこには教師らしき年長者達が座って談笑している、何人かはこちらを…明らかに俺を見ている。
左右の階段からロフトに上がれるようだが、俺があそこに行くことは決して無いだろう。
って言うか、上からじろじろ見られるのが恥ずかしい、うう、服がほしいよう…。

気を取り直してテーブルを見ると、見たこともない豪華な飾り付けがされている、陶器に銀細工を施した燭台にはローソクが立てられ、その脇には花が飾られ、大きな籠にはフルーツが盛られ…漫画やテレビでみた貴族の屋敷そのものだった。

人修羅が食堂の蒙華絢燗さに驚き、口をぽかんとあけているのに気づいたルイズは、得意げに指を立て、こう言い聞かせた。
「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」
「はあ」
「メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」
「はあ」
「どう?わかった? 本当ならあんたみたいな平民はこの『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。感謝してよね」
「へえ、アルヴィーズって言うのか、なんか聞き覚えがあるような…」
「小人の名前よ。ほら、壁際に小人の像がたくさん並んでいるでしょう」

ルイズの言葉につられて壁を見渡すと、確かに壁際にはいくつもの小人の彫像が並んでいる。
「へー、オートマータかぁ、すごい数だなあ…」
「よく知ってるわね」
「まあ、似たような物を見たこと有るって言うか…やっぱり踊るの?」
「そうよ。まあそれはいいわ。ほら椅子をひいてちょうだい。まったく気の利かない使い魔ね」
ルイズが腕を組み、人修羅を見上げた、桃色がかったブロンドの長い髪が揺れるその仕草を見た人修羅は『つんとした顔も可愛くね?可愛くね?』とか言いながら変なポーズを取りたくなったが、変態だと思われるのがイヤなので止めた。
とりあえず無言で椅子を引くと、ルイズは何も言わずに椅子に腰掛けた。

「それにしても、朝から凄い料理だなあ」
人修羅の呟きを聞いたルイズは、当然、と言いたげに顔を上げた。
「これぐらい当然よ、テーブルマナーは貴族の最低限のたしなみよ」

ううむ、と人修羅が唸る。
一時期、暇に任せてボルテクス界で本を拾いまくった、それこそ普段は読まないような雑学の本や哲学の本も読みあさった。
基本的な頭のつくりは一般高校生だったため、難しい本はよく解らなかったが、それでも面白い発見があった。
ある本には、イギリスの貴族はどんなできの悪い子供でもテーブルマナーだけは徹底的に仕込まれると書かれていたのを思い出した。
世界は違っても人間である以上、どこか似通った文化になるのかもしれない…そんな事を考えつつ、自分の座る場所を聞こうとして床を見た。

そこには、皿が一枚置いてあった。

人修羅の脳裏に、ものすごく嫌な予感がわき上がってくる。

「なんか、皿が置いてある」
「そうね」
「なんかスープらしきものが入ってる」
ルイズは頬杖をついて、数々の悪魔と神を従え、妖精や外道に尊敬されるまでになった人修羅に、こう言った。
「あのね? ほんとは使い魔は、外。あんたはわたしの特別な計らいで、床」

「オーマイゴッド」
人修羅はそう呟くと、顔を右手で覆い、ためいきをついた。
床に座って皿を手に取る、よく見るとスープには申し訳程度に小さな肉のかけらが浮いており、皿の端っこに硬そうなパンが二切れ、ぽつんと置いてある。

人修羅は考える。
アクマにとっての食料、霊的エネルギーとも言うべき『マガツヒ』が、今の人修羅には無尽蔵に在る。
だが、人間を捨てきれぬ人修羅は、腹が減るという感性をあえて残している。
しかしマガツヒがあるから死ぬことはない、けれども腹は減る。

人修羅はスープの入った皿を床に置いて、テーブルの上を見た。
あまりの差にちょっとだけ涙が出そうになった。
その上、周囲では学生達が目を閉じて祈りの声を唱和している。
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうことを感謝致します」
というるいずの声が聞こえてくると、いよいよ人修羅も『ああ文化の違いってやつか異文化交流異文化交流…』と考えて、諦めがついたようだった。

とりあえず手を合わせ、呟いた。
「いただきます」

スープを少しずつ口に含み、唾液と混ぜてゆ~~~~~っくりと味わう。
とても質素なスープに見えたが、意外にも素材が良いのか調理がよいのか、美味しいのがまた悲しかった。

ふとルイズを見る、フォークとナイフを扱うその手つきは淀みない、背筋も正しい、他の生徒を見ると、鶏肉についた皮に悪戦苦闘している者もいる。

人修羅は、昨日コルベール先生から教えて貰った、ルイズの話を思い出した。
コンプレックス、その一言で片づけるにはあまりにも過酷かも知れない。
ルイズの生まれは、トリステインでも有数、と言うよりは王家に一番近いとまで言われる大貴族らしい。
生まれだけでなく、家族は皆メイジとしての腕も凄いのだとか。
そんな中で産まれたルイズは、魔法がすべて失敗してしまう、サモン・サーヴァントは人修羅が呼び出されたので、一応『成功』扱いを受けているが、本人は納得していないと思える。
メイジは当たり前のように空を飛べる、当たり前のように魔法で扉に鍵をかけ、またそれを解錠できる。
メイジは超能力者のように、魔法で物を浮かせたり、自由自在に操ることもできる。

しかしルイズはそれらが一切できない。

ルイズの姉は昔、魔法学院に在籍しており、それこそトップを独走する程優秀な成績を残して卒業し、今はアカデミーという研究機関で魔法の研究をしていると、オスマン先生が言っていた。
それをふまえた上で人修羅は、自分が受けた扱いを冷静に受け止めた。
貴族と平民の差がこれ程までに絶対的で圧倒的だとしたら、魔法の使えないルイズはどれだけ苦しい思いをしてきたのだろうか。

ボルテクス界で、人修羅は人間だった友達を『殺した』。
弱肉強食を提唱し、弱い者を虐殺しようとする友達を説得できなかった、だから殺した。
すべての存在を引きこもりにして、誰とも干渉しない静かすぎる世界を作ろうとした友達を説得できなかった、だから殺した。

もし、ルイズがあの時、世界の命運を握るハメになったら、ルイズはどんな世界を作ろうと願うだろうか?

コルベール先生は、サモン・サーヴァントについて、こう言っていた。『お互いが必要としている存在が導かれる』と。
それが事実なのか、詭弁なのか解らない、しかし、今はそれを信じてみたかった。

「アー美味しくて涙が出そう」
そんなことを呟いた人修羅のお皿に、ルイズのフォークが伸び、鳥の皮と少しの肉が乗せられた。

ちょっと嬉しかった。


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