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眠りの地龍-02


風が心地良い月夜。

1人と1匹の使い魔が、丘でその2つの月を見ていた。

1人は、端整な顔立ちの青年だった。
オッドアイ、つまり左右非相称の色をした眼が、彼の外見的な魅力を際立たせている。
平らな1枚岩に座り、持参した赤ワインの瓶を片手に
月見を楽しむその笑顔からは、純粋な自然鑑賞の感動と共に、何処か悲哀の感情も窺えなくは無い。

彼の隣には、小山が聳えていた。
それは文字通りの小山ではなく、1匹のあまりにも巨大な龍だった。
青年は、その龍に言った。

どうだい? 
こうやってただ、ぼぅっと酒でも飲みながら月を眺めるってのも、なかなかオツなものだろう、と。

龍は、唸った。
月の光に照らされたその龍は、客観的に見れば邪悪な風貌であった。
大きさは、尻尾の先まで測って約50メイル程。
薄い茶色の大きな鱗が、1枚1枚と並べるように体中を覆っており、
頭部に生えた複数の角が、人間で言う処の髪型の如く、その龍に個性を与えていた。
この特徴に該当する生物は、現在ハルケギニア地上において地龍以外にありえない。
普段は人の目から逃れる為に地底深くに潜伏し、
人気の無い夜に、この月見青年に呼ばれて地上に顔を出す。

龍が、爬虫類の多くに見られる長く突き出た顎を開き、青年に近付けた。
鋭い牙が生え揃う生きた洞窟が、青年の眼前に迫る。
青年は、味を覚えたのかい、と呟きながら、瓶を洞窟の中に掲げ、瓶が空になるまでワインを流し込んだ。
龍は、そのワインを時間をかけて飲み込むと、強風と間違える勢いの大きな噯をした。
要するにげっぷである。
青年は呆れ、もう少しマナーを弁えて欲しいんだがね、と思いつつ、龍の下顎をぽんぽんと叩き、言った。

まぁ、同じ使い魔同士、これからも仲良くやってこうぜ、と。

龍がそれに相槌を打ったのだろうか、歌うように低く鳴いた。



 眠りの地龍  第2話  「食うな! シルフィ」



誰が呼んだかは知らないが、きゅいきゅいことシルフィードは憤慨していた。
タバサの使い魔である彼女(敢えてそう言い表そう)の怒りのとばっちりを喰らっていたのは、
トリステイン魔法学院の料理長であるマルトーだ。

「まいったなぁ。だからよ、この肉はあのドデカドラゴンに用意したもんなんだ。食わせるわけにゃいかんのよ」

なにやら彼は、厨房前の広場で、3つの大掛かりな竈で何かしらを燻っている様だ。
その姿を見て、シルフィードは

きゅい! きゅきゅいきゅきゅい! きゅっきゅっきゅいっきゅいっ!
と喚いている。人語に訳すれば、
そんなケチなこと言ってないで、1つくらい食べさせやがれこんにゃろめなのね! と。
マルトーが何をしているのかと言えば、それは彼の言うドデカドラゴンに深く関係していた。

何時目覚めるか判らないドデカドラゴン、基ゴモラに食糧を用意する場合、それが保存食である事が必然となる。
ゴモラが目を覚まし、そして空腹を訴えた際、差し出すのが腐った肉では逆鱗に触れてしまうであろうから。
即席に用意しても、僅かな量だとこれまた然り。見た目からして肉食であろう。
沢山あるからと野菜を出したら、喧嘩を売ってるのかと勘違いされるかもしれない。

そこで求められるのが、量を多く確保でき、且つ保存に長け、如何なる時でも提供可能な肉である。
これに該当するのは、マルトー曰く「錬金とやらで味を誤魔化し肉の風味を再現したなんかよくわからん物体」か、
「昔ながらの技法でこさえる燻製肉」だそうだ。
予算の面で、当初学院は前者を重視していたのだが、
職人気質のマルトーが、やっぱ魔法でなんやかんやした紛いもんなんかで
あのドデカドラゴンの腹を満たせるってのもアレだろ、と大量の牛肉豚肉馬肉を用意し(自費)、
それらを全てせっせと燻製にする作業を初めたのが今日から4日前。

燻製作業は先ず肉の塩漬けから始めるのだが、量が量である。
通常の鍋ではとても間に合わないし、普段の料理にまで支障を来す訳にもいかない。
そこでマルトーは、先ずジャイアントモールのヴェルダンデに、使い主であるギーシュを通して、
学院厨房前広場の隅に穴掘りを要請した。その掘られた穴に、大釜を埋める。
そして、大釜に塩水と幾種かのスパイスを混ぜた液体を注ぎ、そこに肉を一杯に漬け込む。
それと同じモノを3つ作成。因みに、大釜は1つしか無かったので、もう2つは急遽購入した(自腹)。

味がよく染み込めば、続いては塩出しとなる。
先ず、一端大釜穴から肉とスパイス液を取り出し、今度は真水を穴に注いだ後、再び肉を入れ、長時間浸す。
これにより、肉から血や脂などの成分が抽出され、保存性がより一層高まるのだ。

頃合を見計らい、今度は風乾、肉を乾かす作業へと移る。
風通しの心地良い日、アウストリの広場一面に布をひき、さらに簡易的な天幕を張り(他のコック達と割勘)、
布一面に肉を並べる。その肉だらけの光景は、ある種一見の価値すらある
(吊るして干す方がより効率が良いのだが、如何せん吊るせる場所となると、僅かに限られてしまう)。
天幕を張る理由は、外で干すとは言え、なるべく直射日光に当てないようにするためだ。
保存の為に干しているのに、日射で傷んでしまうのでは元も子も無い。

さて、無事に1晩干せれば、次は燻製作りの過程において、肝心要となる燻煙作業である。
先ず、塩漬けで使用した穴に埋った大釜を、また外に掘り出す。
その大釜で、今度は厨房前広場に3つの大きな竈を作った。
無論、竈のためのその他の材料費は自費である。
ここで少々脱線するが、トリステイン学院は貴族学校なので、
料理への経費はかなり多く与えられるのだが、やはり限度はある。
特に使い魔への餌となれば、常時は魚の粗やら野菜の切れ端で済ます。
でなければ、いくら金があってもとても足りないからだ。
しかし今回、このゴモラの為の燻製肉作りにマルトーは燃えていた。

「本当に美味い食い物ってぇのは、高ぇ食材さえありゃ作れるってもんじゃねぇ」

とは、マルトーのポリシーである。この学院に勤め始めてからというものの、
毎日貴族向けのちまちまとした高級料理ばかりを作り、いい加減ストレスを溜めていた彼にとって、
汗水垂らして豪快に作る燻製作業は、久し振りに料理人としての熱き血が滾ったのだろう。
それに関する金は一切惜しまなかった
(場合によっては、ヴァリエール公爵家に代金を請求する選択肢もある。マルトー自身にはあまり意識は無いが)。

作業の続きに目を向けよう。
ナッツやサクラ亜属等の木材を大釜に入れ、その下の竈を炭火で摂氏90度までに焚き、煙を立たせる。
大釜から良い香りが漂う。この高温の煙で肉を燻す事で、煙に含まれる成分で殺菌を行い、さらに味に深みを出す。
これが、現段階の状態だ。香りに釣られ、シルフィードはこの場にふらふらやって来た次第なのである。
その香りは、喩え食いしん坊万歳のシルフィードでなくとも、大いに食欲をそそる匂いだ。
少々古い言い回しをすれば、匂いだけでご飯3杯はいけるだろう。
しかし、何度粘っても、マルトーは蒼い竜に肉を分け与える気配は無かった。
彼の頑固な構えに諦めを感じたシルフィードは、渋々と別の広場へ足を運んだ。

今や学院の風景の一部と化している鼾をかき熟睡中のゴモラは、
生徒達が授業時間の間は、使い魔達の憩いの場、というか棲家となっている。
例えばサラマンダーのフレイムは、ゴモラの丸みを帯びて屈折している角の上で
気持ち良さそうに日向ぼっこに勤しんでいる程で、
顎と胴体をぐでんと角の側面に乗せ、尻尾や手足をだらんと垂らし、気持ち良さそうに眠っている。
そんな彼の安眠を妨害したのは、ばっさばっさと翼を鳴らし、そこに飛来したシルフィードだ。

彼女は着地せずに浮遊を続けながら、フレイムに文句を垂らした。
きゅい、地龍なんて野蛮で乱暴で残虐でこんちきしょうめな種族と仲良くなる必要なんて無いのね、と。

目蓋を重そうに開いたフレイムは大きな欠伸を1つすると、面倒臭そうに言った。

青いの、そう言うなよ。確かに地龍は嘗てぼく達火竜の一族にも被害を及ぼしたそうだけど、
それももう大昔の話さ。そこまでして嫌う必要もないじゃないか、と。

それだけ言うと、もう起こさないでくれよ、と言い残し、再び目を閉じた。
ゴモラが地龍である事は、既に使い魔達の間では完全に認識されている。
地上最強の竜族と謳われる地龍を前に、当初は本能的に平伏せていた使い魔が殆どだったのだが、
延々と眠るゴモラと毎日を共に過ごす内、次第に服従心よりも安心感が芽生え、
今ではこうして皆に慣れ親しまれている。
韻竜であるシルフィードを除いて。
シルフィードは溜息を漏らし、辺りを見渡す。
フレイムと同様、ゴモラと直に触れ合ってる使い魔ばかりが目に付く。
長い尻尾の上でころころ転がるバグベアー、鼾のリズムに合わせ合唱の様に喉を鳴らすバジリクスとカエル、
その他諸々。蒼い韻竜は、もう1度深い溜息を吐くと、そろそろ授業が終わったであろう主人の下へと向かった。

みんな地龍なんかの味方をしちゃってからに。シルフィは肩身が狭いのね。きゅいきゅいきゅいきゅい。

午後の温かい日光が窓から差し込む学院長室で、オスマンが茶を啜り、何時もの様にコルベールと雑談している。
しかし、今日は少しばかり部屋が寂しい。
学院長室御馴染みのメンバー(と言うべきか)が1人欠けているのが、その起因となっている。

「ミス・ロングビルが有休を?」
「そうじゃよ。はて、聞いてなかったかね」

トリステインの首都トリスタニアに、演技力が高いと評判のとある劇団が期間限定で訪れ、
トリスタニアの劇場にて特別公演が催される事を知ったコルベールは、
学院教師としてのコネを駆使し、その切符をなんとか2枚入手したのは3日前の事。
予てから異性として若干の興味を抱いていたロングビルを、
所謂デートに誘える切っ掛けを手に入れたコルベールは、歓喜したものだった。
そして彼は、これまで3日3晩と脳内シュミレーションを行っていた。


ここに、2枚の芝居の切符があります。私の親友が、急用で観に行けなくなったとの事で譲ってくれたんです。
私はこの切符を使用し芝居を観に行くのですが、至極当然1枚切符が余る計算となります。
その残りの1枚を誰に託しましょう? 捨てるだなんて勿体無い。
オールド・オスマンは、最近疲労が溜まりやすくなったと聞きます。
さすれば、数時間もの間、劇場の狭い座席に留まらせるのは酷な話でしょう。
では、ミスタ・ギトーやミセス・シュヴルーズは?
ミスタ・ギトーは、我々貴族たるもの、庶民の道楽に一緒くたになって興じるべきでは無い、という思考の持ち主。
ミセス・シュヴルーズは、騒がしいのは好みでは無いとの事。残念ながら、この芝居は賑やかな喜劇です。
まさか、生徒達に切符が1枚あると公言する訳にもいかないでしょう。
たった1枚の切符を巡って、醜い争奪戦をおっぱじめる情景は、安易に脳内に浮びます。
私の友人、コック長のマルトーを誘う選択肢もあるのですが、彼は休日を寝て過ごします。
劇場の座席で夢の世界に旅立ってしまう様では、芝居の切符の役目を果たした事にはなりません。
これらの点を照合し、相応しい人物を捜し求めた結果、貴女がそうだと確信したのです。
と言うことで、今度の休日に私と芝居を観に行きませんか?


てな具合に、シミュレーションの結果は完璧だった。
後はタイミングを見計らい、ロングビル本人に1対1で会話する機会さえあれば、念願の――
と思っていた矢先であった。

「あの、オールド・オスマン、彼女は何日間の休暇を?」
「あー、10日間と言っとったの。親戚の元へ帰るそうじゃ」

芝居の公演は、5日後である。
その晩コルベールは、自棄食いをした。

ガリアに向け、主人を乗せて空高くを飛ぶシルフィード曰く。

韻竜が絶滅した原因が、かの天敵地龍にあるのは間違いないと言う。
お頭の悪い地龍が聡明なる私達韻竜の存在を嫉み、
ついには暴虐の限りを尽したのね、と彼女は不満げに洩らす。
彼女の背中に跨り、それらの止め処も無く流し続けられる愚痴の数々を無言でスルー、基受け流すタバサだが、
韻竜と地龍の両種族が同時期に絶滅したという考えには興味があった。

地龍の体長は平均数値でも40メイルはあったとされる。
現に学院に召喚されたゴモラの大きさは、教員達が測った処、約42メイルの大きさであるらしい。
それ程の巨体を維持するためには、喰らう食糧とて結構な量が必要となるだろう。
ならば、その主な食糧となるのは何であろうか。
一応燻製肉等は用意しているそうだが、果たしてそれで正解なのだろうか。

地龍が何を主食にしていたのかには、実は諸説ある。
雑食と言う学者もいれば、実は草食ではないかと語る者もいる。
確かに、地龍は外見からすれば肉を骨ごとばりばり貪ってそうなイメージはあるが、
あまりにも体が大きいので、逃げ回る動物を追って場合によっては逃してしまうよりも、
寧ろ植物を確実に食べる方が効率が良いのでは、という説が存在する。

しかし、それらの説を唱える学者達をあざ笑うかのように、
地龍は肉食であると断定できる、決定的なとある記録が存在した。
以前も記したが、地龍書物の殆どは、適当に書下ろされ、図鑑や資料としての利用価値がほぼ皆無な代物である。
が、それらの書物にも、ほぼ例外なく唯1つだけ、地龍の食性一連の重要な証拠となる、
とある真実の記録が残されているのだ。

「グドンはツインテールを喰らう」と。

『地龍録』、つまり数少ない信頼できる文献によると、
嘗てゲルマニアのある海沿いの地方にて、グドンという鞭の様な長い腕を持つ凶暴な地龍が、
何の因果なのか頻繁に人里に出現し始め、人々が暮らす村を順に襲撃して廻っていたらしい。
人を捕食する気配は無かったのだが、地龍独特の習性なのか本能からなのか、家や建物を破壊し尽していたそうだ。
それによる被害は甚大なもので、過去最大の地龍災害だと記録されている。

村の住民達が眠れぬ夜を過ごしていた最中、ある日海岸で巨大な卵が発見された。
グドン騒ぎの影響で漁や農作業が儘ならず、食べ物が不足していた中、
その卵は村人達にとって、例えそれが不気味な大きさや色であったとしても、貴重な食糧となりえた。
しかし、卵をなんとか調理しようとした寸前、突然卵が膨張、そして孵化し、中から不気味な怪物が現れた。
その芋虫に似た怪物は、『地龍録』によればツインテール(髪型にあらず)という学名だそうだが、
それを当事者の村人達が判断できる理由も無く、人々は怪物から逃げ回った。
割れた卵から這い出たその怪物は、当初百足の如く地を這いずり回っていたのだが、
唐突に尻尾の部分を上の方に仰け反り、頭部を人間で言う足元に、そして2本の尻尾を人間で言う頭の部分に、
言ってしまえば、手足の無い逆立ち形態へと体勢を変えた。
不気味を越えて不可思議な怪物は、村に侵入。避難が済んでいない村人達を次々に襲った。

その時、地底より突如グドンが出現し、求めていたかのようにツインテールに挑み掛かった。
決して村人達を救う為ではない。
それが目的なのであれば、その場から逃げ遅れた何人かの村人を、気にもせず踏み潰してしまう筈が無い。
その後数時間に渡って繰り広げられたグドンとツインテールの死闘は、
戦場となった農村をほぼ廃墟へと変貌させてしまう程に凄まじかったと言う。

勝負はグドン優勢の運びとなり、遂にツインテール最期の時が訪れた。
体力を消耗させたツインテールは、その眼球をグドンに無残にも足で潰され悶え苦しんだ挙句、
有無を言わさず胴体を噛み千切ぎられた。内臓を露わにし、大量出血でツインテールは呆気なく絶命。
そして、ピクリとも動かなくなった対戦相手の屍をグドンは喰らい始めた。
その死体を貪るグドンの姿は、目撃者達に吐き気を催したと『地龍録』に詳しく書かれている
(このグドン騒ぎ、『地龍録』の中でもかなり具体的に事の場景が記録されているので、
 余程衝撃的な出来事だったのだろう。或いは、その場に『地龍録』の筆者が居合わせていたのかもしれない)。

結局、腹を満たしたグドンは満足気に地底へと身を沈め、
以来、この地龍の出没はピタリと止んだそうだ。

静けさを取り戻した戦場に残ったのは、瓦礫や汚い木材と化した民家、
2体の激戦に巻き込まれた人々の死体。そして、グドンの食べ残し、詰まる所ツインテールの残骸であった。
勇気のある、というか普段からモノガワリと影で呼ばれていた青年がその肉片を食した処、
「海老の味に似てて、そこそこ美味かった」と感想を漏らしたらしい。
この青年はその後、不謹慎の塊だと他人から以前以上に煙たがられたそうだが、
青年の証言や卵が海岸で発見された点から、このツインテールは海洋生物、
それも水陸両生の特殊体質な種族であると生物学術的に記録され、
そして、謎の多かった地龍学に1つの説が確立された。
地龍グドンは、海洋生物ツインテールを食物連鎖の過程で食していたのだ。
地龍は、他種の生物を喰らう肉食性動物である。

こうした過去を辿る限り、地龍は肉食だと断言できるが、新たな疑問も発生する。
ハルケギニア全ての地龍が、海洋生物であるツインテールを喰らえる筈が無いとも言える。
火山脈などに棲息した地龍は、一体何を食べていたのだろうか。
その体格差故、逆に捕まえ難い人間を数人捕食した処で、彼等の胃袋が納まるとは到底思えない。
また、意外な事に、地龍種族同士の共食いは殆ど無かったらしい。
地龍同士の争い自体は頻繁にあったが、それはあくまで闘争本能や縄張り争いから起こるものであって、
パワーバランスの面を考えれば、食事の度に食うか食われるかの死闘を繰り広げるワケにもいかなかったのだろう。
種族の継続の為にも、共食いは彼等にとって不適切な行為であったと考えられる
(ツインテールは地龍と完全に別の生物だと捉える)。

すると、消去法で餌の候補として予想されるのが、別種の竜や幻獣達である。
韻竜、風竜、また火竜の体長は、特に大きいもので6メイルを超える。
成長した韻竜達は、巨大な地龍達にとって格好の獲物と言えよう。
なにせ彼等からすれば、6メイルサイズの肉の体積は、食うに関して少なくも無ければ多すぎもしないし、
さらに韻竜や火竜なら、ただ受身となって無抵抗に突っ立っているのではなく、
風魔法や火炎ブレス等で地龍に戦いを挑んでくるであろうから、スリルあるハンティングの趣すらある。
戦闘能力の高い地龍の事。抵抗する獲物をその持ち前の豪腕で弄んだ挙句、腹を満たしていたに違いない。
地龍が残虐だと言い伝えられている所以は、そこから来ているのかもしれない。

やはり、シルフィードの先祖達は、ゴモラの先祖達に粗方喰い尽くされてしまったと言う可能性も否定できない。
そう考えれば、シルフィードの地龍に対しての態度も納得はいく。
が、だとしても、韻竜が絶滅したのはともかく、地龍までもが歴史上から消えた原因は何なのだろうか。
韻竜の数が暴食の結果減少し、それによって地龍も食糧難に陥った、とは考え難い。
他に餌となる火竜やグリフォン等の幻獣達は、現在も数を残しているからだ
(因みに、『地龍録』においても、地龍絶滅については
 何故か殆ど書かれていない。実は記する事さえ憚れる事柄なのか?)。

タバサは、独自に1つの仮説を立てた。
嘗て韻竜と地龍との間に、両種族の行く末を決定付けさせた大規模な戦いがあったのではないだろうか。
三人寄れば文殊の知恵が如く、大勢が協力し頭脳戦に持ち込めば、韻竜にも勝算はあったのかもしれない。
両種族の大戦争は、甚大な傷み分けを結果として残し、そして韻竜も地龍も朽ち果てた。
自身のシルフィードやルイズのゴモラのように、現在も韻竜と地龍が僅かながら生き延びている理由も、
大戦争の戦火を両種族の内何匹かが逃れたと考えれば、難解な話では無い。
そう考えたタバサは、早速、シルフィードにその事を問うた。
シルフィードの答えは、

「わかんないのね。
 おとうさまもおかあさまも、シルフィが物心付く前に死んじゃったから、何も聞いて無いのね」

だった。
あと、任務が終わったらお肉食べさせてなのねー、とおねだりもした。
却下した。

この日、プチ・トロワの宮殿は何時に無く緊張感に包まれていた。

ガリア王の来訪、しかもアポ無しとくれば、慌てざるを得ない。
普段は誰が来ようと適当にあしらっている王女イザベラも、この時ばかりは比較的真剣な面構えで、
宮殿内の客間にて、ガリアを治める王であり実の父でもあるジョゼフに来駕の言葉を送っていた。

「しかし父上、何分急だった故、歓待の用意が」

出来ていない、とイザベラが阿吽の呼吸で、椅子で寛ぐジョゼフに伝える。
ジョゼフの気紛れ癖は今に始まった事では無いが、
祝い事や緊急事態でもあるまいに、城を離れ自らが娘の下へ赴くなど、誰もが予想だにしていなかった。
王としての職務を安易に怠業する辺り、無能王と呼ばれるには、いよいよ相応しくはあるのだが。

「なに、ほんの少し顔を覗きに来ただけだ。後ろの彼奴に、我が国を巡歴させてやっているんでな」

流石の無能王も、イザベラの対応に気は咎めなかった様だ
(唐突にのこのこと現れ、満足に歓迎しろと言う方が人間として問題がある)。
ジョゼフはイザベラと眼を合わせたまま、自身の背後に佇む男を親指で差す。
どうも、その男にガリア王国の要所を直接出向いて紹介して廻り、その一環でプチ・トロワにも訪れたらしい。
服装や、王と王女を目の前にしても全く遠慮を感じさせない態度からして、護衛の兵には見えない。
ガリア王自らが国の巡歴、つまり案内をしていると言うのだから、それ相応の身分には違いないであろう。
イザベラは、男を見据えた。

年齢は、二十代の中頃。或いは、三十台を超えているのかもしれない。
老けて見えるのでは無く、その整った顔立ちから放たれる鋭い目付きが若年を感じさせず、
往年の戦士であるかの様な雰囲気を漂わせている。
そして、若くありながら髪の随所から生えた幾つかの白髪の束が、
彼のミステリアスな雰囲気をさらに増幅させていた。
それ故あって、正確な年齢を窺う事が出来ない。
また、見慣れない服装を身に纏っている。
紺色をした長袖の上着は、貴族が着る衣装の様な派手さや鮮麗さの要素は無い。
かと言って、庶民が着ている安い生地で拵えられた服の様な、貧乏臭さも感じられない。
貴族か庶民かの位すら判らない、謎に満ちた着物である。
イザベラは、ジョゼフに男の事を問うた。

「父上の旧友、ですの?」
「そんな処だ。さて、そろそろ御暇させてもらおうか」

極々短い返答、そして滞在だった。
ジョゼフと男が客間から出ようとした時、イザベラは最後に男に名を名乗らせた。
それは、聞いた事も無い奇妙な響きの名であった。

「可愛い娘さん、だな」

プチ・トロワの宮殿を後にし、門に停まらせている馬車へと向かう途中、若白髪の男がジョゼフに言った。
父親にヨイショする魂胆では無い。イザベラは間違いなく魅力的な美貌を備えている。
それでいて、その年齢に相応した幼さも秘めており、可愛いと言う男の発言に嘘は微塵も無い。
が、男はそれと同時に、イザベラの本性をも見抜いていた。
恐らく、今頃宮殿内では、なんで早く準備しなかったんだ馬鹿たれ共が、
と彼女が部下や侍女達にきつい罰を与えているであろう。
ジョゼフが無能王と呼ばれるなら、イザベラには鬼畜王女とでも名付けようか。
だが男は、決して彼女を批難しよう等とは思っていなかった。
人の所為にするな、なる言葉はあるが、あの年齢の少女の性格や心境を不安定な状態にさせてしまったのは、
まず間違いなく、父親であるジョゼフにも原因があると言わざるを得ないからだ。
そのジョゼフが、得意そうな顔で男に言った。

「そうだろう? まぁ、親馬鹿発言とでも捉えておけ」
「いや、親とはそう然る可きだと思う」

ただ、馬鹿は結構だが、娘の将来を閉ざす様な無能ぶりは改善したらどうだ、
と男は付け加えようとしたが、流石に冗談交じりにしてもデリカシーに欠けるし、
何より今ジョゼフを挑発した処で何のメリットも得られないので、既の所で止めた。
そして、いい加減にこの悪い癖を治さねば、と内省する。

「なんだ、貴様も子供がいるのか?」

ジョゼフの問い掛けに、男は微笑を洩らしながら頭を横に振った。
その仕草を横目で見たジョゼフも、そうか、と呟きながら鼻で笑った。
ふと、男が足を停め、西の空を見遣った。
男の足音が途切れた事に気付いたジョゼフは男の方に振り返り、彼の視線が指す方向に眼を遣った。
雲が幾つか蒼い空を優雅に漂っている以外に、特に何も見えない。
男が足を停めた理由は、まさか雲を眺める為だったのか。
そんな筈はあるまいと、今一度ジョゼフは双眸を細くして西を凝視したが、やはり変わった点は発見出来ない。
ジョゼフは男に対し癪の感情を僅かに抱き、穏便でありつつ不機嫌さが伝わる程度の口調で言った。

「何を阿呆の様に突っ立っている? 戻るぞ」

男は、遥か西の彼方から真っ直ぐこの宮殿に向かってくる、人を乗せた蒼い風竜の存在を捉えていたのだが、
ジョゼフの心境が芳しく無くなった事を悟り、再び歩き始めた。


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