忽然と姿を消した亜人に突進していた三百の王軍が急停止する。
「なに!?バカな、どこに消えた!?」
王軍の兵士たちがざわつく。自分たちの目の前に確かに存在した亜人は
かき消すように消えてしまったのだ。逃げたのではない。消えたのだ。
かき消すように消えてしまったのだ。逃げたのではない。消えたのだ。
王軍の兵士たちが困惑した表情を浮かべた次の瞬間、城壁の上から青い光弾が兵士たちに打ち込まれた。
被弾した瞬間に光弾は凄まじい威力で爆発、周囲の兵士たち二十人ほどを吹き飛ばした。
吹き飛ばされた兵士は真っ黒な木偶人形のごとく焼け焦げている。恐らくは被弾した瞬間に即死しただろう。
被弾した瞬間に光弾は凄まじい威力で爆発、周囲の兵士たち二十人ほどを吹き飛ばした。
吹き飛ばされた兵士は真っ黒な木偶人形のごとく焼け焦げている。恐らくは被弾した瞬間に即死しただろう。
(炎の魔法か!?いや、違う!もっと強力な……)
パリーが頭の中で思考をめぐらせる。
「ぐわあぁッ!?」
不意にパリーの左方から叫び声が響いた。
見ると兵士の一人が胴から真っ二つに切断され、続けざまに他の兵士が首を跳ね飛ばされる。
見ると兵士の一人が胴から真っ二つに切断され、続けざまに他の兵士が首を跳ね飛ばされる。
それが亜人の見えない刃による物だとわかった者は王軍には誰もいない。
300対1――地獄絵図の始まりであった。
「お願い、止まって!私戻らなくちゃいけないのよ!!」
草原を疾走するグリフォンにルイズが必死に呼びかける。
しかし一向に止まる気配は無い。このグリフォンはワルドの使い魔であり
すなわちワルドの命令により動いている。ルイズの言葉を聞かぬのは当然と言えた。
しかし一向に止まる気配は無い。このグリフォンはワルドの使い魔であり
すなわちワルドの命令により動いている。ルイズの言葉を聞かぬのは当然と言えた。
「クッ!こうなったら……」
ルイズは下の草原を見下ろす。グリフォンはそれほど高い位置を飛んではいなかったが
スピードは相当出ている。
スピードは相当出ている。
「お願い!成功して!」
そう叫ぶとルイズは身を丸めグリフォンの背から飛び降りた。
同時にフライの呪文を詠唱する。
同時にフライの呪文を詠唱する。
だが、結果は残酷だった。
ルイズの魔法はいつも通りに失敗、その結果地面に叩きつけられることとなった。
ルイズの魔法はいつも通りに失敗、その結果地面に叩きつけられることとなった。
「痛っツ……!!」
ルイズが苦悶の声を上げる。それほどの高さではなかったことと草原の地面が比較的柔らかかったこともあり
大事には至らなかった。
ルイズがヨロヨロと立ち上がる。
大事には至らなかった。
ルイズがヨロヨロと立ち上がる。
遠方にハヴィランド宮殿が見える。
ルイズは宮殿を目指して走り出した。
ルイズは宮殿を目指して走り出した。
息を切らせて宮殿へと到着し、門をくぐり先ほどワルドと婚姻の儀を挙げるはずだった場所、
礼拝堂の前へと急ぐ。
礼拝堂の前へと急ぐ。
しかしその場にたどり着きルイズが見たものは――
まず鼻につくのは酸鼻な鮮血の臭い、それに人間の焼ける臭いが混じり吐き気を催すような
臭気が立ち込めていた。周りには切り刻まれた兵士たちの死体、炭のように焼け焦げた死体が散らばっている。
そして緑の芝生が生い茂っていたはずの地面は――赤い。
臭気が立ち込めていた。周りには切り刻まれた兵士たちの死体、炭のように焼け焦げた死体が散らばっている。
そして緑の芝生が生い茂っていたはずの地面は――赤い。
まるで血の雨でも降ったかのように所々に巨大な血の水溜りが出来ている。
そしてその血溜まりの中で王軍が見えない何かと闘っている。
四方八方に魔法を打ちまくり、その表情は見えない敵への恐怖に歪んでいた。
四方八方に魔法を打ちまくり、その表情は見えない敵への恐怖に歪んでいた。
三百の数がいたその軍隊はもはや三分の一程度の人数にまで減っていた。
戦争の悲惨さ、壮絶さ。それは頭の中でわかっていたはずだった。いや、わかったつもりになっていた。
しかし目の前で始めてその現実と直面したルイズは――吐いた。
しかし目の前で始めてその現実と直面したルイズは――吐いた。
とにかく吐いた。胃の中の内容物が無くなるまで。無くなれば胃液を吐き出した。
やがてそれが収まった時、ルイズの横方から小さなうめき声が聞こえた。
近づいて見るとなんとまだ息のある兵士がいた。腹部と口元から血が流れている。
近づいて見るとなんとまだ息のある兵士がいた。腹部と口元から血が流れている。
「あ、ああ……しっかり、しっかりして!」
ルイズが兵士に駆け寄る。思わず自分のマントを脱ぎ捨てその兵士の傷口にあてがった。
しかし血は止まらない。血はマントに染み込みやがてルイズの両手を赤く染めた。
しかし血は止まらない。血はマントに染み込みやがてルイズの両手を赤く染めた。
兵士の呼吸が荒くなる。そして大きく痙攣した後、兵士はぐったりと動かなくなった。
息絶えたその顔は苦悶に歪んでいた。
息絶えたその顔は苦悶に歪んでいた。
「こんな、こんな……いや……いやぁ……」
ルイズが体中を震わせながら、もはや冷たくなり始めた兵士から後ずさりする。
その時、爆発音が響き、爆風がルイズの髪を吹き上げた。
再び亜人の光弾が炸裂したのだ。
再び亜人の光弾が炸裂したのだ。
瞬時に炭化された兵士たちの死体が四方八方に吹き飛ぶ。
立ち込める生き物の焼ける臭いが強くなる。
立ち込める生き物の焼ける臭いが強くなる。
間髪いれずに残りの王軍たちが亜人の見えないグレイブにより次々と切断されていく。
王軍の兵士たちも鎧や鎖かたびらを着こんではいたが亜人の武器と人外の膂力の前にそれはあまりにも無力だった。
王軍の兵士たちも鎧や鎖かたびらを着こんではいたが亜人の武器と人外の膂力の前にそれはあまりにも無力だった。
亜人の一振りで両断され、突き刺され、あるいは焼き殺され死んでいく。
ルイズの召喚したあの亜人のせいで。言うなればルイズのせいで。自分自身のせいで。
昨日まで笑っていた人々が死んでいく。
昨日まで笑っていた人々が死んでいく。
強い罪悪感と、そしてある事実にルイズは気づかされた。
それは言ってみれば自分自身の『甘え』であった。
あの時、礼拝堂の前で亜人の前に立ちはだかれたのもそれはワルド、そしてウェールズという高位のメイジが
いたからではないか。そして今、グリフォンから飛び降りこの場に舞い戻ったのも――
きっとワルドが、ウェールズが何とかしてくれている。そういう考えが心の底にはあったのではないか。
あの時、礼拝堂の前で亜人の前に立ちはだかれたのもそれはワルド、そしてウェールズという高位のメイジが
いたからではないか。そして今、グリフォンから飛び降りこの場に舞い戻ったのも――
きっとワルドが、ウェールズが何とかしてくれている。そういう考えが心の底にはあったのではないか。
しかし、甘かった。現場にはワルドの姿もウェールズの姿も無い。あるのは見えない敵に虐殺される
王軍の姿だけだ。
王軍の姿だけだ。
自分たった一人ではどうしようも無い現実を目の当たりにしたルイズは――再び走った。
来た道を必死に走り宮殿から逃げ出した。『逃亡』が彼女の取った、いや唯一取れる選択だった。
来た道を必死に走り宮殿から逃げ出した。『逃亡』が彼女の取った、いや唯一取れる選択だった。
宮殿から出た後、一体どこをどう走ったのかは覚えていない。気づけばルイズが森の中にいた。
「で……殿下……申し訳ありませ……ん……仇は……とれませ……」
血溜まりの中、うつ伏せに行きも絶え絶えに呟くパリーの頭部は突如、叩き割られた西瓜のごとく四散した。
不意に青い電流が流れるとそこに亜人の姿が現れた。パリーの頭部があった場所には亜人の片足が位置していた。
周りを見回すとそこにはもう亜人しかいない。最後の一人を踏みつけにより葬ると亜人は小さく咆哮を上げた。
不意に青い電流が流れるとそこに亜人の姿が現れた。パリーの頭部があった場所には亜人の片足が位置していた。
周りを見回すとそこにはもう亜人しかいない。最後の一人を踏みつけにより葬ると亜人は小さく咆哮を上げた。
300の王軍――文字通りの全滅であった。
森の中でルイズは両手を地面につき、まるで跪くような姿勢を取っていた。
肺が空気を求め激しく息を吸い込み、全身からは汗がとめどなく流れる。
一体どれだけの間そうしていただろうか。
肺が空気を求め激しく息を吸い込み、全身からは汗がとめどなく流れる。
一体どれだけの間そうしていただろうか。
「あ、あの……」
不意に後ろから声がかかる。優しい若い女性の声であったがルイズはまるで
怪物の唸り声を聞いたかのように全身を震わせて素早く振り向いた。
その顔は恐怖と脅えに満ち満ちている。
怪物の唸り声を聞いたかのように全身を震わせて素早く振り向いた。
その顔は恐怖と脅えに満ち満ちている。
ルイズの目の前にいたのは金髪の女性だった。
腰までかかる美しい金髪に透き通るような白い肌、濃緑の上着とスカート、そして頭には深く帽子を被っている。
そして何より目を引くにはそのスタイルであった。細い手足と腰でありながら胸が異様に大きい。
いや大きすぎると言ってもいいだろう。キュルケの二回り以上の大きさがありそうだ。
腰までかかる美しい金髪に透き通るような白い肌、濃緑の上着とスカート、そして頭には深く帽子を被っている。
そして何より目を引くにはそのスタイルであった。細い手足と腰でありながら胸が異様に大きい。
いや大きすぎると言ってもいいだろう。キュルケの二回り以上の大きさがありそうだ。
女性の後ろには隠れるように数人の子供がルイズを見ている。
「あなた……もしかしてお城から?」
女性がルイズの顔を覗き込むように見る。美しい、まるで彫刻のような顔だ。青い大きな瞳の眼差しは
どこまでも優しさに包まれている。
どこまでも優しさに包まれている。
「戦場から逃げてきたのね。かわいそうに……」
女性がルイズの全身を見回しながら言う。みればルイズの全身は所々返り血に塗れていた。
「安心して。ここには兵隊はいないわ。私たちの家に来て」
女性が手を差し伸べる。ルイズを安心させるかのように優しい笑顔を浮かべながら。
「あ……あ……」
言葉にならない言葉を発しながらルイズが女性の手に自身の震える手を近づけていく。
やがてルイズの手が弱弱しく女性の手を握ると女性は優しくそれを握り返した。
ルイズの表情は固まったままだったが、女性はニッコリと満面の笑みを浮かべた。
ルイズの表情は固まったままだったが、女性はニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「私、ティファニア。よろしくね」