あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのエルクゥ - 03


 結論から言えば、間に合っても間に合わなくても同じだった。
 大学の講義室を思わせる、すりばち上の構造になっている教室に戻るなり、

「皆さんお疲れさまでした。本日の授業はこれでおしまいとしますので、皆さんは今日1日、使い魔との親睦を深めてください」

 と解散となってしまったのだから。
 コルベールは、解散宣言を出すや否や、何をするのも惜しい、といった様子で、教室を走り去っていく。
 彼と話をしてみようと考えていた耕一だったが、ルイズに合わせて一番後ろの席についていた耕一には、引きとめる間すらなかった。

「……あー」

 本来ならエルクゥ同士でしか感じられないはずの感情のシグナルすら、あのコルベールからは感じられたような気がした。
 混じりっ気なしの、『好奇心』という色が。

 ……どうしよう。
 考えていた行動計画が初っ端から頓挫して、耕一はぽりぽりと頭を掻いた。
 あの様子だと、追いかけてもまともに話を聞いてくれるかどうか危うそうだ。

「……ん?」

 やるかたなしに周囲を見渡すと、耕一とルイズを遠巻きに見つめ、ひそひそと声を潜めるグループが、ちらほら。
 それらの声や態度から読み取れる感情は―――困惑だとか、虚勢だとか、侮蔑だとか、嫌悪だとか。あまり良いお話ではなさそうだった。
 ま、大方、さっきの出来事を計りかねているんだろう、と、耕一はそれを意識から切った。

「何ぼーっとしてるのよ。行くわよ」

 そんな声に振り向くと、ルイズが既に席を立って、入り口に歩き出していた。

「行くって、どこへ?」
「部屋に帰るのよ。ついでに学院内の案内もしてあげるから、早くしなさい」
「ん……わかった」

 耕一は少し悩んだが、今さっきのコルベールを無理に追ってもしょうがなさそうだと思い直し、ルイズに従って席を立った。

「今居るここが、2年生の教室塔よ。で、真ん中の一番大きな塔が本塔。本塔には、先生方の事務所、アルヴィーズの食堂、宝物庫、医務室、男子寮……。
 その他、この学院の主な施設が集まってるの。本塔の一番上が、学院長であるオールド・オスマンのお部屋」

 教室のある建物から出て、ルイズは指差しながらそんな説明をしてくれる。

「本塔を囲むように、5つの塔が、ペンタグラムを模して配置されているの。1年生、2年生、3年生の各教室がある塔に、ここで奉仕する平民たちの寮、そして女子寮の5つ。
 それぞれがアーチで区切られた広場を、それぞれ、ノルズリ、スズリ、アウストリ、ヴェストリ、ユミルの広場と呼んでいるわ」

 本塔と教室塔との間には、荘厳な石のアーチ建築で、通路が掛かっている。他の塔ともそうなのだろう。

「これは、始祖ブリミルと、5つの系統魔法を表しているの」
「しそぶり……なんだって?」
「始祖ブリミル。あんたってホントに何にも知らないのね」

 聞いた事のない固有名詞に首をひねる耕一に、ルイズは呆れたようにため息を一つついた。

「ブリミルっていうのは、今から6000年ぐらい前、このハルケギニアに降り立った伝説のメイジよ。神様から、"虚無"と呼ばれる今はもう失われてしまった系統の魔法を授かって、自分でも火、水、土、風の4つの系統魔法を生み出した。
 その力でもって、ブリミルと、ブリミルに魔法の力を授けられた貴族のご先祖様たちは、ハルケギニアに跋扈していた先住種族や亜人、魔獣たちを討伐し、人間の住めるところにしたの。
 そして、彼の4人の子供がそれぞれ、今このハルケギニアにある4つの王家の始祖となったのよ」

 だから、全てのメイジの始祖。始祖ブリミル。
 ハルケギニア(ここら一帯を表す地名らしい。話を聞く限り、文化圏、と言った方が正しいかもしれない)では、神と並んで崇拝される、伝説の偉人だという。

「キリストみたいなもんか」
「きりすと?」
「こっちの世界で、数々の奇跡を起こしたって言われて、神の子って呼ばれてる人だよ。2000年ぐらい前の人だったかな」
「ふーん……聞いた事ないわね」

 興味なさげに、ルイズは鼻を鳴らした。
 クリスチャンなら気分を害しただろうが、耕一は宗教的にはちゃらんぽらん甚だしい日本人であったので、苦笑を返すだけだった。

「一回りして、場所だけ確認しましょ」
「ああ」

 ぐるり、と、5つの塔を繋ぐ石の外壁に沿って回り、塔と広場の名前や、正面門のそばにある馬の厩舎などの説明を受ける。馬は、地球の馬となんら変わらないようだった。
 途中の広場には、ルイズと同じ2年生であろう、使い魔らしき様々な動物とじゃれあう少年少女たちが溢れていた。
 犬猫のような馴染みある動物から、見たこともないような動物、果たして動物なのやら疑問符がつくようなナマモノも多く、ここはファンタジー世界なんだなぁ、と否応無く実感させてくれた。

「しかし、結構広いな……」

 一周に20分はかかった気がするぞ、と腕時計を見る素振りをして、家に居るときには外していた事に気付いた。

「……そういや、今何を持ってたっけな?」

 思いついてポケットの中などを探ってみるが、文明の利器っぽいものは何も見つからず、あったのは丸まったコンビニのレシートだけだった。
 まあ、感熱紙も立派な文明の産物であり、コルベールあたりが聞いたら飛び上がって驚いた後に『"火"で文字が書けるなんて! なんという素晴らしい紙なんだ!』などと狂喜乱舞する事だろうが、残念ながら現状、単体で何かの役に立つとは言いがたい。

 ―――携帯電話とか財布とかも部屋に置きっぱなしだったっけなぁ。いくら楓ちゃんとのまったり時間だったとはいえ、身軽すぎだろ俺。

「何ゴソゴソしてんのよ」
「ああ、いや、今自分は何持ってたかなって、持ち物の確認をな」
「何かあったの?」
「役に立ちそうなものは何も」

 そう。とやっぱり興味なさげに言って、ルイズは、自分の部屋があるという女子寮に入っていく。

「って、俺も入るのか?」
「当たり前でしょ。使い魔がご主人様と一緒に居なくてどうするのよ」
「いや、だとしても、女子寮に男が入るのはまずくないか?」
「使い魔のオスなんか誰も気にしないわよ」
「……さいですか」

 無理をしている感がなくもなかったが、大人しく頷いておいた。
 外壁と同じ石作りの廊下を歩き、一つの部屋にたどりつく。
 鍵を差し込み、ドアを開ける。

 ルイズの部屋は、寮部屋というにはちょっと広すぎる部屋だった。さすが貴族というところだろうか。

「……うーん、これが格差ってやつか……」

 所々に施された意匠や、華美な装飾の家具、天蓋付きのキングサイズベッドと……東京の自宅であるワンルームを思い出して、耕一はちょっと悲しくなった。
 柏木は名士の家。鶴来屋グループという有数の企業体を牛耳る一族なんてとんでもない金持ちであるし、召喚される直前までいた柏木の屋敷も、一般的な日本家屋とは比べるのも馬鹿らしいほど広い家だ。
 しかし、本家から長い事離れて暮らしていた耕一の金銭感覚は、庶民そのものであった。

「はぁ。なんだか疲れたわ」

 ルイズはぼふんとベッドに体を投げ出すと、そのまま仰向けに倒れ込んだ。

「おいおい、服が皺になるぞ」
「ならないわよ。学院の制服には『固定化』がかかってるんだもの』
「こていか?」
「物を保存する魔法よ。食べ物にかければ腐らないし、金属なら錆びなくなるし、服なら皺や汚れがつかなくなるわ」
「はー……便利なもんだな」
「普通は一着一着服になんかかけないけど、伝統あるこの学院の制服は特別ね」

 そう言うと、気だるげに上半身だけを起こす。

「そんなところに立ってないで、座りなさい。本当に何も知らないみたいだから、色々と教えてあげるわ」

 言われるままに、近くにあったテーブルについた。

「さて、まずは使い魔の役目からね。契約した使い魔は、主人の眼となり耳となる能力を与えられるの」
「眼? 耳?」
「使い魔が見たり聞いたりした事を、主人も知る事が出来るのよ」
「へえ。俺が見てるものが見えるのか?」

 言ってみると、ルイズは腕を組んでしばらくうーっとうなった後、口をへの字に曲げた。

「……見えないわ。あんたじゃ無理みたいね」
「そっか」

 感覚の共有か。エルクゥの精神感応に似てるな。
 そんな事を思いついて、試しにルイズにシグナルを向けてみた。色は……そうだな、『外敵に気をつけろ』とでも―――。

「ひゃっ!? な、何今のっ!?」

 送った瞬間、ルイズがビクンと体を震わせて驚いた。

「お。通じるのか」
「な、何やったのっ!? なんか黄色くなってぞわって悪寒がしたんだけど!」
「俺の一族は、そんな風に意識を通じあわせる事が出来るんだ。
もしかしたらと思ってやってみただけ。
ちなみに今送ったのは、『外敵に気をつけろ』っていう警告の信号」
「……本当に亜人だったのね、あんた」
「なんだ、信じてなかったのか?」
「別の世界だとか妙ちきりんな事言われても、信じられるわけないじゃない」

 ま、それもそうだ、と耕一は何も言わなかった。
 耕一だって、あの事件が起こらなかったら、鬼だのエルクゥだの聞いても一笑に付すだけだっただろう。

「あんた、何か他に出来る事はあるの? というか、あんたの種族って何?」

 そう聞かれて、むっと腕を組んだ。

 エルクゥ。人を狩る鬼。人を狩る事に愉悦を覚える狩猟者。
 強靭な身体能力を持ち、人の命を感じ取る事ができ、同族と意識を通じあわせ、宇宙進出を果たせるまでの科学力を生み出す高度な知性を持つ。

「何よ。黙り込んじゃって」
「いや、どう説明したもんかなぁと」

 ……そんな事を言ったら、全力で討伐されそうだ。

「……むぅ」
「まぁ、何を悩んでるのか知らないけど、後でいいわ。こっちの話を続けるわね」

 こほん、と仕切りなおすように咳払いをした。

「使い魔の役目だけど、次に、主人の望むものを見つけてくる、っていうのがあるわ」
「望むもの?」
「例えば、秘薬の材料とか。硫黄とか、コケみたいな」
「へえ」

 そういう化学的な面もあるのか、とちょっと感心した後、硫黄なんて、元の世界と同じ物質があるのか、と驚いた。

「何か知ってるみたいだけど、何か取ってこれそうなの?」
「いや、無理かな……硫黄っていうのは俺の世界にも存在するけど、どうやって取るのかまでは知らない。ごめんな」
「ふーん。ま、期待はしてなかったからいいわ。本来、水の中とか、火山の火口とか、高い山の上とか、地中深くとか、そういう人間が行けないところから材料を取ってくるのが貴重って意味だもの」
「なるほど。高いところぐらいなら何とかなるけど、他は厳しいな」
「……そ、その時になったら頼むわ」

 先程の人間ジェットコースターを思い出したのか、ルイズはぶるりと一つ震えた。

「最後、これが一番重要なんだけど、使い魔は主人を護る存在であるのよ。
その能力で、主人を敵から守護するのが一番の役目!
あんな事が出来るんなら、もちろん簡単よね?」
「……そうだな。簡単かどうかはわからないけど、それならなんとかなりそうだ」

 人を狩る為に生み出されたエルクゥの力を、人を護る為に使う、か。
 元の世界に居る時もそうあろうとはしていたが、現代日本では、そうそう純粋な戦闘能力が発揮される事などない。
 実際にそれを揮う機会があるとなれば、それはなかなか魅力的な提案に思えた。

「さて、それじゃあ次は、あんたの事を教えてくれる? 使い魔の事を知らないメイジなんて、主人失格だもの」
「そうだなぁ。さて、何から話そうか―――」

 当り障りのないように、エルクゥの能力の事だけを吟味して話しているうちに、太陽はその身を休め―――ハルケギニアの双月が、夜を照らしだした。


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