あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Louise and Little Familiar’s Order-04



寮塔に程近い場所に水汲み場がある。
メイド達が毎朝定時に行なう洗濯はいつもそこで行われていた。
しかも生徒全員分となると、交代制にしなければ上手く回る事は無い。
洗濯をしにやって来たミーとシエスタは、列の後ろで大人しく自分の順番を待つ。
その間もミーはシエスタと同じメイド達から常に注目されていた。
人間の、それも平民の子供が使い魔として召喚されたという事実は、噂好きな者達の口によって広まっていったと思われる。
しかもそれは、昨晩ミーが厨房に貴族と一緒にやって来たという事実によって勢いに拍車がかかった状態になっていた。
メイド達はミーに優しい口調で自己紹介したり握手を求める。
そうされるのを嫌がるという人は少ないだろうし、事実ミーの表情も、始めは知らない人に囲まれておどおどしていたが、数分もすると部屋を出る時より幾分か和らいだ感じがした。
その様子を見てシエスタもやっと破顔出来た。
そしてやっと自分達の番になり、二人は洗濯を始める。
が、当然の事ながらミーはこの世界における具体的な洗濯の方法を知らない。
いや、元の世界でもそれは同じ事だったろう。
洗濯はシエスタと同じ様な役職の者がやってくれている、一切の服なんて、気付いたらいつの間にかクローゼットの中に収まっているという感覚を持っていれば尚更の事だった。
そこでシエスタが手取り足取り教える事になった。
気候的には未だ春になって直ぐの時期なため水がかなり冷たい。
あっという間にミーの小さな手が真っ赤になり、上手く動かなくなってしまう。
そんな彼女の手をシエスタは時折優しく呼気で温めてやる。
何度か、代わりにやってあげようか?と言ってみるものの、ミーは頑として、ミーがやると言って聞かない。
どうして?と訊くとメイドさんと二人でやりなさいって言われたから、と答えた。
そこでシエスタはミーの頑なな姿勢の意味が分かった。
恐らく自分は何もせず、シエスタが全部やる事になるのに後ろめたい物を感じているのだろう。
とは言え道具は洗濯板と石鹸しかない為に、時間も手間もかなりかかる物になる。
また強く擦ったりすれば忽ち生地が痛んでしまう。
そうなれば主人であるルイズに叱られる事は必至だろう。
シエスタは洗濯に手馴れているので、自分の分を次々に片付けていくが、一方のミーは小さな物を選んでかなりゆっくりとした調子で進めていた。
この分では終わるのが昼間になりそうだと思ったシエスタはミーの手に自分の手をそっと添えた。
これなら手伝っているだけだし、ミーの感情を害する事も無いだろうと考えた末の行動だった。
案の定、ミーは何も言わずにシエスタの手の動きに合わせてきた。
二人の周りで時間はゆっくりと流れていく。
結果かなり遅くなってしまったが、洗濯は和やかな空気の中で終わった。
洗濯物を干しきった時には既に山の稜線から朝日が昇りきっていた。
しかしルイズに言われた通り、翩翻と翻る洗濯物には染み一つ無い。

「綺麗になったねぇ~。さてと!そろそろ朝食にしましょうか?」
「うん!」

シエスタに手を引かれてミーはとことこと可愛らしい足取りで厨房へと向かった。

Louise and Little Familiar’s Order 「Terror of the whip sound」

「おう、シエスタ。今戻ったのか?大分遅かったなぁ?」

厨房に入ると、コック長のマルトーがフライパンを振りながら威勢の良い声でシエスタを迎える。
朝食時の山場とも言える時間は過ぎていたが、厨房の中は未だ戦場の様に多くのコック、そして使用人達が行き交っていた。
マルトーは直ぐにシエスタの背後で隠れる様に立っているミーにも声をかける。

「おっ?昨日のお嬢ちゃんじゃないか。そう言やあ、昨日ここに来た貴族は朝ごはんをここで貰う様に言ってたな、確か?」
「ええ。自分もそうして欲しいと言われました。」
「ったく!貴族の奴らはこっちに面倒事しかよこさねえ!大体、使い魔の飯くらい自分達でどうにかしろってんだ、まったく……
おっと嬢ちゃん、恐がらなくても良いぞ。おじさんを含めてここにいる皆は嬢ちゃんの味方だからな!」

豪快に笑うマルトーはミーにとって多少なりと好印象だったらしい。
彼女の顔から零れる様な笑みが出て来たのを見て、マルトーはまるで教師の様な口調で続けた。



「そうそう!そうやって笑う事が大事なんだ。どんなに苦しくて辛くたって夜寝る前にでも一日一回笑えりゃ大抵の事は乗り切れるもんさ。それに笑うってのは体にも良さそうだしな。
色々な事をあーだこーだと考えすぎるのが一番良くないんだぞ。」

その間にもミーの前にはパンやシチュー、サラダが出て来る。
それは元いた世界、自分の家で食べているのと殆ど遜色無い量だった。

「さ、嬢ちゃん。俺たち厨房の面々が作った賄い朝食だ。今日はおかわりを幾らでも受け付けるからどんどん食べてくれ!」

しかし、ミーにとってそれは正に御馳走の様な物であった。
今朝は洗濯仕事があったという事で、余計にお腹が減っていた事もあり、手を付け始めると皿は見る見るうちに空になっていった。
シチューなんか3回はおかわりをしたぐらいだ。
そしてその間はマルトーにとっても至福の時とも言えた。
自分達が作った料理を文句一つ言わず残さずに食べてくれるなぞ、料理人冥利に尽きるという物だ。

「どうだ?美味しいか?」
「うんっ!」
「そうかそうか。それなら良いんだ。しかし、やっぱり子供は元気に飯喰って笑って遊ぶのが仕事みたいなもんだからなぁ。
それにしてもシエスタ、この嬢ちゃんこれから毎日三食ともここで喰う事になってるのか?」
「まだこの子の主人、ミス・ヴァリエールには確認を取っていないのですが恐らくは……何しろアルヴィーズの食堂には貴族以外は入れない事になっていますから……」

シエスタがそう言うと、マルトーはふん、と鼻息を荒くした。

「そんなこったろうと思ってたよ!なあ、嬢ちゃん。これから朝昼晩の三回、御飯が食べたくなった時はここへ来るんだぞ。主人の貴族様が何と言おうと構わずここに来い。
そしたら美味しい物一杯食べさせてやるからな!」
「うんっ!ありがとう、おじさん!」

それからまたミーの口元に絶え間無くスプーンが運ばれていく。
その側に居たシエスタは口元が汚れていると言って、近くにあったナプキンでミーの口を拭いた。
それは見ていて微笑ましい光景だった。
マルトーもシエスタも、そして他の料理人や使用人達も、その内ミーがここ、厨房のマスコットになるかもしれないと思えてくる。
そして最後に二切れのパイがお菓子として出て来る。
それを一口口に入れると、とても甘く美味しかった。

「美味しい!」
「そう?良かった!これはね、クックベリーパイっていうのよ。貴族の方々の中でも特別気に入ってるっていう方が多いの。
いつもは滅多には出さないんだけど今日は偶々出す日だったし、ちょっと作りすぎて余っちゃったのよ……貴族様には冷めた物なんて出せないからね。」

シエスタも味を知っているのか、幾分物欲しそうな顔をしてパイを見つめる。
やがて二切れの内の片方を食べたミーは、暫く残った一切れのパイを見ながらシエスタに訊いた。

「これ部屋まで持って行って良い?」
「え?ええ、良いわよ。お部屋で食べたいの?」

シエスタからの質問にミーは首を軽く振って答える

「ううん。御主人様にあげるの。だってこんなに美味しいんだもん!」



さて食事を終え、一通り乾いた洗濯物を畳んでミーはシエスタと共にルイズの部屋に向かう。
扉を開けると、しっかり換気されていたらしく、窓から入った新緑の匂いが部屋の中に満ちていた。
窓を開けっ放しにするのは流石に無用心とも思えたが、しっかり換気するにはそれしか方法が無かった。
シエスタは仕事がまだあるらしく、面倒を見てあげられないのを残念そうにして部屋を後にする。
一時的にせよシエスタと別れるのは嫌だったが、部屋に残ったミーは段々と嬉しい気持ちになってきた。
まあ寝覚めは悪かったし洗濯も大変だったが、それでもそれに見合うものを得たのだ。
それと……『笑えば大抵の事は乗り切れる。』いい事を聞いた。
そう思えば少しは頑張れそうな気もしてくる。
父親も母親もいないこの世界、そして自身が好きなポケモンもいない世界でずっと生きていく事になったとしても。
そう思いつつ椅子に座っていると、突然扉がすっと開いた。
そこに立っていたのは無表情のルイズだった。
ミーの心にさっと暗い何かが射すが、マルトーに言われた事を思い出し努めて笑顔でいるようにした。
ルイズは部屋の中に入ると、椅子に座ったまま動こうともせず、ただ笑顔を浮かべているミーをさっと一瞥し、続いてテーブルの上に置かれている畳まれた衣類に目線を移した。
その目の動きに対しミーは慌てて報告をする。

「洗濯しておきました、御主人様!」
「そう。」

感謝の言葉が出るわけでも無く、無味乾燥な声のトーンでルイズはミーの言葉を受け流す。
それから鼻をひくつかせたルイズにミーは慌てて話しかけた。

「あ、あと、換気もきちんとしておきました、御主人様!」
「そう。」

相変わらず変わる事の無い静かで抑揚無き声。
その場を重苦しい空気が支配し始める。
するとルイズは部屋の内鍵を閉め、更に表情一つ変える事無く部屋の壁に面した机の引き出しから一つの物を取り出す。
それは一本の鞭だった。革製の、それも乗馬等に使われる本格的な物だ。
ミーはそれが何なのかを知らない。
だがルイズが鞭で床を思いっきり叩いた時、ミーは全てを把握した。
御主人様はあれで自分を叩くのだと。
そう思ったミーの顔から一瞬で笑顔が消えた。

「御主人様!ミーは言われた事をやりました!お願いです、許して下さ……」

しかしルイズは反論なぞ認めないとばかりに鞭をもう一振りし、声を震わせて叫んだ。

「許す訳無いでしょっ!しておきました、しておきましたって何よ、その態度!時間は沢山あったんだから私が戻ってくるまでに出来てて当たり前なのよ!使い魔なんだから当然の事なのよ!
そんなにやけた顔して威張ったような調子で言う事じゃないのよ!私を起こしもしなかったくせに!それに!それが出来てなかった時の御仕置きとベッドの粗相の御仕置きは別よ!」

その剣幕は凄まじいの一言に尽きた。
形の良い眉は吊り上がったまま。
両目は思い切り見開かれ、唇はこれ以上固く出来ないほどに真一文字に結ばれている。
あまりの恐怖感に声も出せなくなったミーは転がる様に椅子から落ち、壁に向かって後退りをした。
ルイズは彼女に対し獲物を追い詰めた猛禽類の如く、ゆっくりとした動作で近付きながら怒鳴った。

「逃げるんじゃないわよ!そこに這い蹲ってお尻をこっちに向けなさい!大体何様のつもりなのよ?!部屋に入った時からへらへら笑って!……こっちはそんな気分じゃないのに馬鹿にしてるの?!
いい?!あんたは御主人様のベッドを、それも貴族のベッドを汚したのよ。犬だってそんな事しやしないわ!あんたなんて犬以下よ!……だから御仕置きをするのよ……躾をするのよっ!」

そして舌の根が乾ききらない内に、鞭は威勢の良い音と共に空中を舞った。
その手つきに未練だとか未酌だとかいった物は無い。
尻っぺたを直撃した最初の一撃の激痛にミーは絶叫してしまう。
その声は寮塔のたっぷり一階分をカバーするほどだった。
しかしルイズの手が休まる事は無い。
ミーが気絶してしまいそうだとか、体の彼方此方が傷や痣だらけになりそうだとかそんな事はお構い無しだ。
そんな調子で3回目にさしかかろうとした時だった。
扉の外から声がかかった。

「ルイズ。そろそろ授業の時間よ。さっきの朝食みたいにまた遅れるわよ?って言うか、さっきの悲鳴は何なのよ?」
「五月蝿い!邪魔しないで!ツェルプストーの癖に余計な口出しするんじゃないわよ!授業はきちんと時間までに行くわ!今使い魔に躾をしてるのよ!」

ルイズはそうぶっきらぼうに答え、再び鞭を振り上げる。
しかし、その時『アン・ロック』の魔法が唱えられたか、部屋の扉が突然に開き、外の廊下からキュルケとタバサが入って来た。
中の様子を一目見たキュルケは、ルイズに向かって杖を一振りする。
すると、いきなりルイズの手から鞭が離れた。
そしてそれはそのまま床に落とされ、滑る様にして部屋の奥へと飛ばされる。
いきなりの出来事にルイズは血走った目を戸口に立ち二人に向け、烈火の如き怒りを顕にした。

「何するのよ!!」

その言葉に対して、キュルケの後ろにいたタバサが手にしている本から目を離す事も無く言った。

「逆効果」
「な、何ですって?!もう一度言ってごらんなさいよ!」

しかしタバサは相変わらずの無反応。
その続きを彼女の前にいるキュルケが引き取った。

「もう一度言う必要も無いわ。いい、ルイズ?あなたのやってるのは躾じゃないわ。それともう一つ。あなた勘違いしてるわ。「甘やかす」のと「必要に応じて甘えさせる」のは全然違うのよ?」
「黙りなさい!あんたみたいなお熱な色ボケが男を騙すのとは訳が違うのよ!これは私の使い魔なのよ!どうしようが私の勝手でしょ!
立派な使い魔にさせるって決心したけど、あんたやあのメイドみたいな接し方をやってたら、きっと直ぐに図に乗り始めて駄目になるわ!そうならない保証でもあるの?!」
「……よくも言ってくれたわね。あたしは最小限の忠告をしているのよ。少なくとも、この子が先々あなたの様にならない為によ!」

流石のキュルケも、お熱な色ボケと言われて黙ったままでいるほど温厚ではない。
それから彼女はテーブルの上の皿に乗った一切れのクックベリーパイを手にし、ルイズに詰め寄った。


「これあなたがこの子のために持ってきたの?」
「は?そんな事あるわけ無いでしょ。確かに私の好きな物だけど……」

そこまで言ってルイズはハッとなった。
昨日の晩、ミーは厨房で食事を取ったとの事。
そして今日の朝食時に彼女の姿はアルヴィーズの食堂には無かった。そもそもあそこは貴族以外入る事が出来ない。
だとすれば、今朝仕事を終えた後にまた厨房へ行ったのだろう。
そこでこのパイを出されたと言うのなら……

「ねえ、これあんたが持ってきたの?」

ミーは何も言わない。ただ上下に頭を僅かばかり振るだけだった。
今朝出ていたであろうこのパイをルイズは食べていなかった。いや正確には食べられなかった。
寝坊をし、食堂にいつもより遅く行った事がその原因だった。
食べ損なった事でルイズは余計にがっかりしてしまった。
美味しい事で人気のクックベリーパイは、乗せられている銀のトレーから無くなるのも早いものだ。
気になったルイズは更に訊ねる。

「何で持ってきたの?」
「……だって……だって、美味しかったから……御主人様が喜ぶと思ったから……だから……」

それ以上は声にならないらしく、ミーはただただ泣くだけだ。
その様子を見たキュルケは、後はルイズ次第とばかりにタバサを連れ立って部屋を出て行く。
そしてその去り際にそっと言った。

「ルイズ、あなたに怒鳴られたり叩かれたりしてもその子はそんな事が出来るのよ。あなたを喜ばせようとしてね。
なら、それに最大限答えてあげるのがあなたの役目じゃなくって?少なくとも私はそう思うわ。」

静かに扉が閉まる。
ルイズはそれから暫くただ黙ったままミーの前に立っていたが、いきなりすっとしゃがみこんだ。
彼女のスカートとニーソックスの間や短い袖から伸びる腕には、赤く腫れた鞭の痕が残っている。
ルイズはそれに触れた後、そっとミーを抱き締めた。
そしてなかなか素直になれない彼女がやっとの事で言葉を紡いだ。

「薬……授業が終わったら友達の所から持って来るわ……」



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