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イザベラ管理人-14



イザベラ管理人第14話:貴族というモノ・後編


「け、決闘!?」
オリヴァンがその言葉の意味を理解するまでの数瞬の間に、イザベラが突きつけたフォークは腸詰を突き刺してイザベラの口に運んでいた。
決闘…貴族同士が誇りを賭けて行う闘争である。
ハルケギニアで決闘といえば、魔法戦を指していると思って問題ない。
もちろん誇りを賭けた戦いだ、命のやり取りでもある。
すなわち、イザベラはオリヴァンを死地に送り出そうとしているのだ。
「そ、そんな、王女殿下、僕はドットなんですよ!ラインのあいつらに勝てるわけがない!」
オリヴァンの主張はもっともであろう。勝てないからこそ、彼はこうなっている。
もちろん、そんなことなどイザベラはわかっている。
「安心しな、ちゃんと策はある。要は、戦力の問題さ」
イザベラは楽しくて仕方ないといった笑顔だ…この場で楽しんでいるのは彼女だけだが。
耕介はもう完全にイザベラに任せることにし、食事をしている。
(何かあれば頼ってくれるだろうし)
最近のイザベラは耕介を信頼してくれている。
言うなれば、耕介と御架月の関係に近くなってきている。イザベラが耕介に何も言わないということは、必要ないということなのだろう。
「せ、戦力って言われても…ドットの僕が…あ、そうか、そこの騎士が僕に手を貸してくれるってことですね!」
耕介の存在を思い出し、陰鬱だったオリヴァンの顔が一気に明るくほころぶ。
だが、その喜びは一瞬にして突き崩されることとなった。
「はぁ?何言ってんだい、あんたが戦うに決まってるだろ。あたしとコースケは立会人。あたしが提供してやるのは…これさ」
そう言って、イザベラは肩に留まっていたフクロウが首から下げていた、フクロウ自身ほどもある袋をテーブルの上に置いた。
テーブルと触れ合った時の硬い音とボコボコと袋が歪に膨れ上がっているのを見る限り、手のひらサイズの硬い何かが数個入っているようだ。
「な、なんですかこれ…?」
オリヴァンの不安げな顔な顔に向かって、今度はナイフを突きつけてイザベラは得意満面に言い放った。
「それが秘策その1さ!」
なにやらよくわからないが、オリヴァンとアネットが『おぉー』と拍手をする。
その反応に満足したのか、うんうんと頷くイザベラ。次いで、耕介に意味ありげな視線を送ってくる。
直感的に理解した。あれは悪戯っ子のアイコンタクトだ。
さざなみ寮の、耕介の魂の兄妹にしておふざけ大好き歌姫椎名ゆうひと悪戯盛りの陣内美緒がタチの悪い悪戯を共同で仕掛ける際の目配せに通じるものを感じた。
この場合どうするべきか、耕介は若干考え…るまでもなかった。
「その1って、その2があるのか?」
耕介の言葉にイザベラは非常に満足そうな笑顔だ、どうやら正解だったらしい。
「ああ、と言っても、その2はこの屋敷にあるんだがね」
この場でイザベラの考えを理解できた者など誰もいなかった。


夕暮れ時、学院の授業が終わり、彼らは帰路へついていた…が、校門前でとある人物に呼び止められた。
クラスのリーダー格にして、オリヴァンに過激な友情を強いていたアルベール少年は怒りと困惑を同時に抱いていた。
「オリヴァン…お前、本気で言ってるのか?」
彼の反応は無理もない。呼び止めた人物とは、彼ら曰く”友人”である…
「ほ、ほほ本気だとも!アルベール君、け…決闘だ!」
オリヴァンだったからだ。
顔は蒼白、体はブルブルと震えて、腰も引けている。完全に怯えている。
それでも、その目は今の言葉が本気だと告げていた。
情けない限りだが…それでも、闘争の意思を見せていた。
「…何のつもりだ?」
その様に、アルベールの怒りが燃え上がる。
ストレス発散のためのデブ人形ごときが誇り高き貴族で力あるラインメイジである彼と同じ舞台に立とうというのだ。
これが侮辱以外のなんだというのか?

「オリヴァン君、気でも狂ったのか?」
「おいおい、ドットメイジの君がラインのアルベールに勝てるわけないだろ!」
「わかったか?だったら、俺たちこれから居酒屋に行くんだ、お前も来いよ、な、財布君?ギャハハハ!」
アルベールの取り巻きたちがオリヴァンを囲んで口汚く罵りながら嘲笑する。
だが、オリヴァンは目を逸らさなかった。
冷や汗をたらして、今にも泣き喚きそうに顔を歪めて…それでもアルベールを睨みつけ続ける。
その目がどうしようもなくアルベールを苛立たせる。
貴族の面汚しごときに苛立たせられること自体が屈辱だ。
「驚いたな、オリヴァン君。でもわかってるのか?決闘ってのは、貴族同士が行う誇りを賭けた戦いだ。君に貴族の誇りなんてあったのか?」
凶悪な怒りに支配され…結果としてアルベールは笑顔になった。朗らかさなど感じられようはずもない、禍々しい笑顔だが。
オリヴァンはそう言われても、言葉を返すことはなかった。いや、正確には返せなかった。
内気で気弱な彼にはもう喋ることなどできなかった。ここで言い返せるのならば、オリヴァンはこうはならなかった。
事実、オリヴァンは逃げ出したかった。今すぐに自分の砦に引きこもって、空想の中で遊んでいたかった。
でも悲しいかな、彼は思ってしまったのだ。悔しいと。自分が情けないと。
彼は貴族であり…そして、男だったのだ。空想の中に生きる勇者のようになりたいと夢見る、いつまで経っても子どもっぽさの抜けない男。
だから、戦わなければならなくなった…怖くても、戦えなければ勇者になどなれないのだから。
「………わかった。やろうじゃないか、オリヴァン。場所はどこだ?ここでやるか?」
そして、アルベールもまた、貴族であり男だ。彼もオリヴァンも根本には同じものを持っている。
だからこそアルベールは許せない。勇者になるのは誇り高き貴族であるべきだ。断じて、こんな誇りの欠片もない肉塊ではないはずだ!
アルベールは燃え上がる怒りで気づいていない。その苛立ちこそが、彼がオリヴァンに誇りがあることを認めてしまった証拠であることに…。
「い、1時間後に、サン・フォーリアン寺院まで来てくれ」
早口でオリヴァンは言い切った。そうでもしなければ倒れてしまいそうだからだ。
「わかったよ。そっちから仕掛けてきたんだ、逃げるなよ?」
そう言ってアルベールたちは去っていったが…オリヴァンは最後までアルベールを睨み続けた。
目を逸らした瞬間に、逃げ出してしまうことがわかっていたから。


「さぁ、これらを使って、あんたはどうする?」
殿下はそう言って、挑発的に僕を見つめた。
僕に決闘しろなんてたきつけておきながら、それ以外に具体的なことは何も言ってくれなかった。
「あんたは悔しいから泣いたんだろ?だったら、その悔しさを戦うことに向けろ!」
そんなこと言われたって、勝てるのなら最初からそうしている!
勝てないってわかってるから、僕はこうやって逃げるしかなかったんだ!
「あんたには今選択肢がある。もちろん戦わないって選択肢だってあるさ。でも、戦うための選択肢だってある」
殿下は力があるからそんなことが言えるんだ!
あれ…でも、この人は、魔法の才能が全然ないから無能王女と呼ばれてるんじゃなかったっけ…。
「悔しいと思うなら、勝ちたいと思うなら、勝つにはどうするか考えな。自分と相手の実力差、手札の違い、想定しうる状況…全部利用して、有利な状況を作れ」
僕と同じ落ちこぼれのはずなのに…殿下は何にも物怖じしない。
その目が放ってる光は…王女という地位にいるからなのかな…。
「あんたが好きな物語の勇者たちは、勝てる奴にしか挑まなかったのかい?違うだろ、単純に戦っても勝てない相手にも挑んだ、だから奴らは勇者って呼ばれてるんだ」
勇者…そう、僕は勇者になりたかった。どんな強大な敵にも怖じずに戦い続ける、勇敢なる者に…。

アルベールと取り巻きたちがサン・フォーリアン寺院にやってきた時、オリヴァンは既に待っていた。
だが、他にも二つの人影があった。片方は小柄で長髪、もう片方は学院でも長身の部類に入るアルベールよりも頭一つ分は高い。
(まさか、代理を立てようってのか…?)
今日になって突然オリヴァンが決闘を挑んでくるなど、不自然極まりない。何らかのきっかけがあったはずだ。
例えば、傭兵メイジあたりを雇って、代理に立てたとしたなら納得できる。
しかし、そんな考えは人影の正体に気づいた時吹き飛んだ。
「お、王女殿下!?」
その人影は、このガリアを治める無能王ジョゼフの娘イザベラその人であった。
あの鮮やかな青い髪を間違えられようはずもない。
「あんたがアルベールかい。安心しな、あたしとこの男は単なる立会人だ。手も口も出さないよ」
まさか、あのオリヴァンと残酷なことで有名なあの無能王女に何らかの繋がりがあったのか?
だとしたら、アルベールは…いや、彼の家門そのものが今危機にさらされていることになる。
そんなアルベールの考えを読み取ったかのようにイザベラは付け加えた。
「それと、この決闘の結果が双方の家になんらの利益も損害ももたらさないことを確約する。書類でも作るかい?」
「い、いえ、王女殿下のお言葉を疑うわけがありません…。しかし、何故王女殿下がこのような場に…?」
王女がここまで言うのだ、本当に単なる立会人なのかもしれない。それでも何故彼女がここにいるのかはわからないままだ。
「まぁ、ちょっとした縁があってね。不思議なことじゃないだろ?ド・ロナル家はあんたの家と同じく名門なんだから」
確かにド・ロナル家と王女に縁があるのは当然だろう。だが、オリヴァン自身と王女に縁があるというのは…どうにも腑に落ちない。
だが、今更どうこう言っても仕方ないだろう。今はオリヴァンの思い上がりを叩き潰すことに集中すべきだ。
当のオリヴァンは…やはり震えていた。だが、その目は先ほどと同じく明確に闘争の意志を宿している。
そして、今はその姿にも意志が表れていた。
「本当に…本気みたいだな、オリヴァン」
オリヴァンは学院の制服の上からマントを羽織っていた。
裏地に金糸でマンティコアの紋が織り込まれているそれは…間違いなくド・ロナル家の戦装束。
不退転の意思を表す何よりの証拠。
「あ、アルベール君…ぼ、僕は、貴族として…君に挑む」
声も体と同じように震えている。やはり腰も引けている。
それでもオリヴァンは自分の意志で杖を抜いた。
「おいおい、そんなへっぴり腰で貴族だなんてよく言えたもんだな!」
「今ならまだ謝れば許してもらえるかもしれないぞ?ギャハハハハ!」
取り巻きたちが下品な笑い声をあげて野次を飛ばし…彼らは即座に後悔させられた。
「黙りな!貴族同士の決闘に野次を入れるなんて、あんたらには貴族の自覚がないのか!」
イザベラの怒号と鋭い眼光には、上に立つ者としての威厳があった。
取り巻きたちの誰よりも小柄で…だが、誰よりも大きく見える。
これが本当にあの無能で知られる王女なのか?
だが、アルベールだけはイザベラの怒号にも反応を見せなかった。
ただ、無言のままに杖を抜く。
彼はもう怒りを抑え切れなかった。
(貴族として…だと?今までされるがままに卑屈に振舞ってきたお前が?ふざけるな!)
アルベールの家は元帥を輩出したこともある有名な武門だ。
故に、彼にとって貴族としての証明とは力そのもの。力あるからこそ平民を護り、そして平民たちから奉仕される。
貴族のくせに力がないということはすなわち罪悪だとさえ思っている。
では、今目の前に立ち塞がるオリヴァンという少年はどうか?
オリヴァンはド・ロナル家という、貴族の中でもさらに選ばれた家に生まれていながら未だにドットでも下位。
そんなオリヴァンはアルベールにとってまさしく罪悪そのもの。
今までは罪人らしく卑屈に小さくなっていたから、”遊んでやる”ことはあっても、排除することはなかった。
だが、罪人のくせにアルベールをこれほど侮辱するとは…もはや彼が裁判官となり、この罪人を断罪してやらねばならない。
「さぁ、双方とも用意はいいね?このコインが地面に落ちた時が始まりだ」
立会人の王女―彼にとってはこの王女も罪人だ―がコインを取り出し…数瞬迷ってから後ろで控える男にそれを手渡した。
なにやらばつの悪そうな顔だが、まぁ今は関係のないことだ。
聴覚に神経を集中させ、落下と同時に詠唱を開始できるようにしておく。
「えっと、じゃあいくよ」
男が親指の上に乗せたコインを上にまっすぐ撃ち出す。

コインは数秒上昇し、すぐさま落下を開始…キーンという高い音と共に母なる大地へと帰り着いた。


「ぼ、坊ちゃま、決闘なんてあぶのうございます!」
父上の書斎に忍び込んで持ち出してきたド・ロナル家に代々伝わる戦装束のマントを羽織る。
アネットが僕にすがり付いてくるけど、振り払った。
「坊ちゃま…本当に…行かれるのですね…」
思えば、このアネットというメイドは、どうして僕の心配なんてしてるんだろう。
単なる使用人としての義理立てかと思っていたけど…それだけじゃない気もする。
「坊ちゃま…アネットはこのお屋敷でお帰りをお待ちしております。ですから、必ず無事にお戻りくださいませ…」
どうやら本気で心配してくれているみたいだけど、僕はどうしても行かなくちゃいけない。
僕なんかじゃ勇者にはなれないけど…なりたいって思ったことは事実だから。


奇しくも、オリヴァンとアルベールが選んだ魔法は同じ、エアハンマーであった。
だが、風のラインであるアルベールと、風のドットであるオリヴァン…威力においても速度においてもアルベールが負けるわけがない。
「うわぁ!」
案の定、オリヴァンのエアハンマーはかき消され、空気の塊をもろに浴びたオリヴァンは吹き飛ばされた。
だが、まだまだ始まったばかりだ。先ほどのエアハンマーはある程度相殺され、大したダメージにはなっていない。
今度はエアカッターを詠唱、狙うは足だ。杖を狙えばあっさりと勝てるだろうが…それだけではこの怒りが収まるはずもない。
(じわじわいたぶってやる!)
詠唱完了と同時に風の刃を解き放つ…が、オリヴァンはアルベールの口元に注意していたらしく、無様に地面を転がってエアカッターを避けた。
「小賢しい!」
避けられたことで、アルベールの怒りがさらに燃え上がる。
再びエアハンマーを詠唱、空気の塊を解き放つ。
だが、再びオリヴァンもエアハンマーを詠唱していたらしい、空気の塊同士がぶつかり合い…やはり、アルベールのエアハンマーが勝利する。
「無駄なんだよぉ!」
アルベールは続けざまにエアハンマーを詠唱し…オリヴァンにぶつかった先ほどのエアハンマーが初手よりも威力を発揮していないことに気づいた。
(な、なんで…まぁいい、俺の勝利は揺るがない、このまま押し切る!)
アルベールはもう少し考えるべきであった。
そう、おかしいのだ。アルベールの最初のエアハンマーがあの程度の威力にまで減じさせられたことを疑問に思うべきだった。
オリヴァンを支えているのはわずかばかりの意地や願い。それらが全て混ざり、勇気と名づけられるものへと昇華されている。
だが、その勇気が、負けたくないという思いが、オリヴァンの魔法の威力を引き上げていた。
それでもアルベールの魔法とは比べるべくもないが…決着を引き延ばすことはできた。
アルベールの怒りも魔法の威力を引き上げられたかもしれないが…彼は慢心していた。
オリヴァンごときにはまかり間違っても負けるわけがないと確信していた。
その慢心が、彼を停滞させていた。

オリヴァンにとって、それは薄氷を踏むような戦いだった。
エアハンマーはスピードと範囲的に避けることは難しいからこちらもなんとかエアハンマーをあわせ、相殺する。
エアカッターは多少詠唱が長いのと、線の攻撃なので、アルベールの口元に注意し、回避に専念する。
ラインスペルを撃たれては対処する術などほとんどないので、エアハンマーを小刻みに撃つ事で細かい魔法の撃ちあいにもつれ込ませる。
そうすることでアルベールが逆上し、集中力を乱すのと待つ。
これが作戦を成功させるための絶対条件。彼にとって果てしなく遠い勝利への道の前半部分だ。
そして、今のところは成功していると言える。
避けそこなってエアカッターをいくつか食らい、相殺し切れなかったエアハンマーを浴びもしたが、オリヴァンは未だに立っているのだ。
アルベールの表情も焦れてきているのがわかる。
すぐに決着がつくだろうと思っていた戦いが長引いているのだ、プライドの高い彼にとっては何よりの屈辱。
だが、そろそろオリヴァンも厳しい。体のダメージだけではない。精神力が尽きかけている。
何より、最後の一手のために精神力を少し温存しておかねばならない。
となると、エアハンマーでも撃てて後2発というところ。
「ぐ…!」
アルベールのエアハンマーにこちらのエアハンマーをぶつけ、相殺するが…オリヴァンの集中力も乱れてきているせいか、最初よりもダメージが大きい。
「ここまでよくやった、オリヴァン!でも、次で終わりにしてやる!」
オリヴァンが吹き飛んだのを見て、アルベールが狂的な笑みと共に言い放つ。

さぁ…最後の一手を打つ時だ!

アルベールは焦っていた。
彼は最初から今までずっと優勢なままだ。自身は傷一つついていないのに、オリヴァンは既に満身創痍。
だが、決着がつかない。オリヴァンが細かく魔法を撃ってくるせいで、こちらもそれに合わせなければならないせいだ。
エアハンマーの利点は面の攻撃であること、精神力の消費が少なめであること、速度が速いことなどがある。
だが、威力自体は大したものではない。
スクウェアクラスともなれば、一撃で骨を砕くほどの威力を出せるが、ドットやライン程度では決定的な一撃にはなりえない。
けれども、無視することができるほどでもない。
アルベールはオリヴァンの狙いがある程度読めていた。ドットスペルの撃ち合いにもつれ込ませることで、こちらの疲弊とミスを誘っているのだろう。
なるほど、実力で劣るオリヴァンが勝とうと思うなら妥当な策だろう。
だが、それはオリヴァンがそれまで耐え続けられなければならない。
そして、そんなことは不可能なのだ。オリヴァンは今吹き飛ばされた。
それは、アルベールにラインスペルを唱える隙を与えたことを意味するのだから。
詠唱するのは風の二乗、ブラスト。エアハンマーよりも巨大で圧縮された風の一撃は確実にオリヴァンを捉え、戦闘不能にするだろう。
アルベールの詠唱が完成しかけた時…吹き飛ばされ、倒れ伏したオリヴァンが杖を振った。ありえない、吹き飛ばされながら詠唱したとでもいうのか?
その時、視界の端で、生え放題の雑草の中から現れたモノがあった。
「な、何!?」
咄嗟にそちらへ視線を向け…アルベールは凍りついた。
そこにいたのは、オリヴァンだ。傷一つないオリヴァンがこちらへ駆けてくる。
(まさか、偏在!?ありえない、なんでスクウェアスペルをあいつが!)
だが、実際にもう一人のオリヴァンはこちらへ突進してきている。草を踏み潰しているから、幻覚の類でもない。
混乱したまま、アルベールは急遽狙いを傷のないオリヴァンに向け、解き放った。
強力に圧縮された空気の塊が直撃がもう一人のオリヴァンを吹き飛ばし、寺院の壁をぶち抜いていく。
視界の端で傷だらけのオリヴァンがもう一度杖を振るのが見えた。今度こそ魔法が飛んでくる!
自分でも信じられない速度で詠唱を完了させ、エアシールドを展開…だが、何も起こらない。
アルベールが傷だらけのオリヴァンを訝しげに見つめていると…違和感を感じた。

それは…手の中の感触がなくなったせいだった。

「…え?」
自分の杖が浮いていた。杖は独りでに動き、オリヴァンの方へ向かっていく。
まさか、コモンスペルの<<念力>>か?だが、あれはアルベールが握り締めていた杖を奪えるほどの力はないはずだ。
しかしいずれにせよ…杖が奪われたことだけが事実として存在している。
上体だけを起こしてゼィゼィと荒い呼吸で…それでもオリヴァンは晴れやかに宣言した。
「つ…杖を…奪った……ぼ、僕の……勝ちだよ…」
そう…アルベールは敗れたのだ。
貴族の決闘において、杖を奪うというのは最も華麗な勝ち方とされている。
もっとも、今のオリヴァンを見て華麗などという単語を思い浮かべられる者などいないだろうが。
「いったい…何が…」
アルベールには何が起こったのかサッパリわからない。
最後に出てきたもう一人のオリヴァンはなんだ?何故杖が勝手に飛んでいった?
アルベールが信じられない現実に思考を漂白されていた時、オリヴァンが杖の下あたりを引っ張るのが見えた。
すると、衣擦れの音と共に…
「ま、また、オリヴァンが!?」
3人目のオリヴァンが現れたのだ。
傷だらけのオリヴァンが3人目からアルベールの杖を受け取り、ルーンを唱えると、3人目は徐々に小さくなり…やがて、小さな人形の姿となった。
「ハァハァ…スキルニルっていう…血を垂らすと…ゲホ!その血の持ち主の姿形や能力を…コピーするガーゴイルだよ…」
スキルニル…その名を持つマジックアイテムは知識としてだけならアルベールも知っていた。
だが、メイジをコピーしても魔法が使えない上に作るのにコストがかかりすぎる、加えて作動させている間精神力を食い続けることもあり、戦闘に使われることはなかった代物だ。
それをこんな形で使うとは…。

「でも、なんで見えなく…あ…ド・ロナル家の家宝『不可視のマント』か!」
「うん…スキルニルにかぶせておいたんだよ…」
ド・ロナル家には先祖が妖精に捕えられた姫を救うために神から授けられたという触れ込みの家宝がある。
伝説の真偽はさておくとしても、この秘宝が周囲の風景を映し出し、その下に隠れた者を誰にも見えなくさせる効果があることは疑いようがない。
「アルベール君は…風のラインの中でも上位だから…マントをかぶせたスキルニルの動きを察知されないようにするのに苦労したよ…」
そう、オリヴァンが魔法の撃ちあいにもつれ込ませたのは、ミスを誘うためなどではない。
オリヴァンに集中させ、焦れさせ、詠唱の長いスペルを唱えるのを待っていたのだ。
そこで草むらに置いたスキルニルを起動させて不意をつき、意識が逸れたところをマントをかぶせたスキルニルで杖を狙う。
風の流れでマントをかぶせたスキルニルの動きを察知されても、走る音に気づかれてもこの策は失敗していた。
まさしく薄氷を踏む戦い…だが、オリヴァンはそれをやってのけたのだ。
「………俺の負けだ……」
純粋な魔法の勝負ではアルベールは勝っていた。だが、オリヴァンは知略を駆使して、決闘に勝った。
魔法も知略も、いずれも力だ。だからアルベールは負けを認めた。力の信奉者であるが故に、認めるしかなかった。
「勝負あり…だね。勝者はオリヴァンだ。アルベール、あんたが負けた理由…わかるね?」
アルベールが自ら負けを認めたことを確認し、イザベラが立会人として宣言した。
そして、イザベラのアルベールへの問いかけの答えは…彼には痛いほどにわかっていた。
「俺の…慢心…です」
オリヴァンはまともにやっては勝てないとわかっているから、全力で勝つために策を練った。
一方のアルベールは、自身の勝利を疑わず、それどころか怒りに任せてオリヴァンをいたぶろうとした。
その結果が、これだ。力でもって負けたのだ、言い訳のしようなどあるはずもない。
だが、ここにいるのは当事者とイザベラたちだけではなかった。
「お、お待ちください殿下!ガーゴイルを使うなんて決闘にあるまじき卑怯ではありませんか!騙し討ちですよ!」
アルベールの取り巻きたちが納得いかないと食って掛かってきたのだ。
「やめろ!」
それを止めたのは…アルベールであった。
「お前たちは土メイジのゴーレムも卑怯と罵る気か?オリヴァンはマジックアイテムを巧く使って、戦術を成功させた。それだけだ」
オリヴァンが驚いたような視線をアルベールに向けている。彼にかばわれるとは思わなかったのだろう。
だが、この言葉はかばう意図などなかった。アルベールの全くの本心だ。
彼は武門を継ぐ者として育てられた。故に、力を信奉している。そしてその力の中には戦術や戦略とて含まれている。
オリヴァンは自分にできることを組み合わせて戦術を編み出し、アルベールを打倒した。力の信奉者として、それを認めなければならないのだ。
でなければ…
「俺はオリヴァンに負けた。これは事実だ」
アルベールは貴族ではいられない。
取り巻きたちはアルベールに制され、納得いかなげではあったが、矛を収めた。
そして、アルベールは未だに尻餅をついたままのオリヴァンに近づき、手を差し伸べた。
「あ…ごめん」
オリヴァンはその手の意味を理解し、杖を返した。
アルベールは杖を受け取ると、その切っ先をオリヴァンに向けて呪文を詠唱する。
それは…水のスペルであるヒーリングであった。
「俺は専門じゃないから気休め程度にしかならない。ここからなら俺の家の方が近い。治療だけ受けていけ」
オリヴァンが驚いてもごもごと御礼を言うが、アルベールは無視してイザベラに振り向いた。
「殿下に立会人を務めていただけて光栄の極みです。ありがとうございました」
深々とお辞儀をするアルベールを見て、オリヴァンも慌ててイザベラに頭を下げた。
「いい戦いだったよ。アルベール、あんたの魔法の腕前は確かなもんだ。そしてオリヴァン、あんたの貴族の誇りと知略、見せてもらったよ。あんたたちの将来、楽しみにさせてもらう」
それだけを言って、イザベラはレビテーションでスキルニルを回収すると、長身の騎士と共に去っていった。取り巻きたちもアルベールが追い払った。
後にはアルベールとオリヴァンだけが残った。
「行くぞ」
アルベールはオリヴァンに手を差し伸べる。
「え、う、うん」
オリヴァンがその手をとると、一気に持ち上げられ、アルベールが肩を貸してくれた。
「ありがとう、アルベール君」
「フン、もっと体重を落とせ、重い」

レビテーションをかけた方が早いし楽であったろうが…アルベールはそうしなかった。
魔法で物のように運ぶのは、この”友人”を侮辱することになると考えたのかもしれない。


「なぁ、イザベラ、良かったのか?オリヴァン君の怪我治さなくて」
行きと同じく、適当に捕まえた粗末な馬車の中で耕介は口を開いた。
オリヴァンは重傷でこそないものの、裂傷や打撲を数え切れないほどに負っていた。
御架月ならそれを治してやることもできたが…。
「いいんだよ、死ぬわけじゃなし。オリヴァンにとっちゃ名誉の負傷さ。それに、あの二人にはこの方が良かったろ」
アルベールはオリヴァンを貴族として認めた。ならば、あの場は彼に任せるべきだ。
「まぁそれもそうか。そういえば、あのド・ロナル夫人、依頼が達成されたのに全然嬉しそうじゃなかったのはなんでだ?」
耕介とイザベラはド・ロナル邸に寄り、明日からオリヴァンが学院にいくだろうと報告したのだ。
だが、それを聞いた夫人の卑屈で引きつった笑顔はどう控えめに見ても嬉しそうではなかった。
「ハ、当たり前だろ。子どもの躾に王女の手を煩わせたんだ、社交界のいい笑いものさ」
イザベラは立会人としてあの場にいたのだ、必ず”何故あの場にいたのか”がどこかしらに漏れるだろう。
そうなれば、ド・ロナル家が子どもの躾もできないと笑いものにされることは必至だ。
もちろんイザベラも他家の教育に首を突っ込んだありがた迷惑な王女として噂されるだろうが…今更悪名が一つ二つ増えたところで気にするほどのことでもない。
「ま、夫人には釘を刺しといたから、オリヴァンが何か言われることはないだろうけどね」
イザベラの言葉に驚き、訝しげにするド・ロナル夫人の寒々しい笑顔を思い出し、イザベラはニヤリと笑う。
イザベラはド・ロナル夫人に報告した際、こう言っておいたのだ。
『ド・ロナル夫人、オリヴァン君は将来が楽しみだね。彼のような勇気と誇りを兼ね備えた貴族がいるなら、ド・ロナル家も安泰だ。あたしが褒めていたって伝えておくれ』
『お、オホホ…殿下にお褒めいただけるとは、恐悦ですわ…』
その時のド・ロナル夫人の笑顔が語っていた。
この無能王女は何を言っているのだ、社交辞令にしても人を見る目がなさ過ぎるのではないか…と。
王女の言葉だ、ド・ロナル夫人は大っぴらにオリヴァンを叱り付けることはできなくなる…それを狙ってのことではあったが、オリヴァンの将来が楽しみだ、というのはイザベラの本心であった。
オリヴァンはあのまま努力し続ければ、魔法の腕はともかく、策略に優れた武官になれるかもしれない。
もちろん、途中で潰れることだってありえる。その場合は、それまでの男だったということだろう。青田買いとはそんなものだ。
はじめは単なる気まぐれではあったが、オリヴァンとアルベールという意外な収穫にイザベラは満足していた。
そして、そんな自分を耕介が頑張る子どもを見守る親のような視線で見ていることに気づいた。
「なんだい、コースケ。気持ち悪いね」
なんとなく耕介の視線の理由に思い当たる気がしたイザベラは顔をしかめた。
「気持ち悪いは酷いな。単に、イザベラも変わったなぁって思ってただけだよ」
やはり…イザベラの思った通りであるらしい。
羞恥でわずかに頬が赤くなるが、このままでは悔しいのでイザベラは反撃することにした。
「フン、いったい何のことだか。あたしは前と変わっちゃいないよ。あぁ、字もわからないボンクラを召喚したから、世話焼きにはなったかもね?」
「実を言うと、オリヴァンが経緯を話してる時、イザベラがいつ爆発するか気が気でなかったんだ。でも、イザベラはきちんと最後まで彼の話を聞いて、自信が持てるように考えてあげてた。優しくなったよ」
イザベラの反撃などそよとも気にせず、耕介は得意攻撃に出た。彼にそんな自覚はないが。
「く…!いきなり何言ってんだい、あんたは。あたしは将来使えるかどうか計っただけさ」
先ほどよりも顔に血が上っているのがわかる。
まったく、この男はどうしていつもこうなのか、と詮無い悪態をつきたくなる。
「オリヴァン君はイザベラと似てる感じがしたから、イザベラの期待通りになってくれるよ。自信もついただろうしな」
「この美しいイザベラ様のどこがあのデブと似てるってんだい、寝言は寝てから言いな!」
追撃を加えてくる耕介にせめてもの反撃をしつつ、イザベラは真っ赤になった顔を対面の耕介に見られないように窓の外を向いた。
それでも耕介がいかにも『全部わかってるよ』みたいな顔で笑い声をもらしているのがわかって、とてつもなく気に入らない。

いったいどうやってこのバカをへこませてやろうかと考えるイザベラと、終始満面の笑顔の耕介を乗せて、馬車はプチ・トロワを目指していった。

イザベラがオリヴァンに感じたものは、有体に言うなら同属嫌悪と言えるものだ。
自分の無能さを呪い、自己嫌悪に押し潰され、周囲の誰も信用できない。
イザベラは他者に当り散らす棘の鎧を着ていたが、オリヴァンは卑屈に生きることで自己を守っていたという違いはあれど、二人は自分を信じられないという意味で同じであった。
自分を信じるとは、難しいことだ。過多は問題だが、寡少では動くこともできなくなる。
オリヴァンに必要なのは力ではなく、自分を信じられる何らかの理由だ…イザベラにはそれがわかっていたから、あんな手段に出たのだ。
イザベラも自分を信じられたわけではない。今まさに信じるための理由を作っているところなのだから。
ただ、彼女の場合は耕介を信じることが自分を信じることと似た力を持っていた。オリヴァンにとっては、アネットが耕介に当たる存在になれるだろう。
自己嫌悪は止まらず、始祖の皮肉さに泣きたくなることもいまだにある。
けれど、イザベラもオリヴァンもまだこれからだ。
進み続ければ…きっと、何かの道が見える。今はそう信じて歩き出すのだ。


二人がプチ・トロワについてエルザの襲撃を受けていた頃、リュティス魔法学院と並んで有数の歴史と格式を誇るトリステイン魔法学院では舞踏会が開かれていた。
フリッグの舞踏会と呼ばれるこの宴は、毎年春に開催される生徒や教師の親睦を深めるためのものであるが…今回はもう一つ意味が付加されていた。
秘宝『破壊の杖』を盗み出し学院を震撼させた怪盗『土くれのフーケ』を捕えた生徒たちを労う意味も兼ねているのだ。
つまりはこの舞踏会の主賓であるフーケ捕縛の功労者の一人であるタバサは、派手さはないものの艶やかで品のいい黒のパーティドレスに身を包み…ただひたすら料理と格闘していた。
ダンスの申し込みに来た男たちなど一顧だにしないその徹底ぶりはさすがとしか言いようがない。
そんなタバサを心配して、キュルケは適当な男どもを見繕って踊らせようとしたのだが…まさしく暖簾に腕押し、糠に釘。
「タバサ、貴方本当に料理以外に興味ないのねぇ…。それで楽しんでるのならこれでもいいのかしら…」
キュルケの言葉にタバサはわずかに頷いた気がするが、それが本当に首肯だったのか、単に料理を物色するために視線を動かした結果なのかも判然としない。
その様子に、キュルケは呆れと共にタバサらしいとも思う。
この寡黙な少女が誰か男と踊っている姿など想像もできない。
しかし、それでは恋に生きる”微熱”のキュルケとしては面白くないのである。
「ねぇタバサ、貴方気になる男性って本当に誰もいないの?そうねぇ…貴方なら年上の優しそうな紳士と踊っている姿が絵になるかしら」
キュルケは反応を期待していたわけではなかった。タバサがこの手の話題に全く関心を持たないのは友誼を結んだ頃からわかっていたことだ。
だが、今回だけは違った。驚くべきことに反応があったのだ。
鶏肉の香草焼きにフォークを突き刺し、口元に運ぼうとしていたタバサがビクッと一度震え、そのまま停止していた。
しかも微細でわかりづらいが、頬にも血が上っている気がする。
それを確認したキュルケの反応は劇的であった。
「タバサ、貴方気になる人がいるのね!誰、誰なの!学院の誰か?年上となると、3年生かしら?でもタバサに釣り合うような男がいたかしら?」
予想外のタバサの反応に気を良くしたキュルケは高速で脳内に収められた『トリステイン学院イイ男リスト(ツナギを着た男は入っていない)』を検索していく。
しかし、タバサと関係があり、かつ惹かれるような男となると該当者が見つからない。
いいや、自分の知らない間に知り合っている可能性だってある、となると検索範囲を広げて…などとキュルケはぶつぶつと漏らしながら思考する。
いつの間にかタバサがいなくなっていることに気づくのはもうしばし後のことである。

学院きっての劣等生”ゼロ”のルイズに召喚された数奇な運命の持ち主”ゼロの使い魔”サイトは主との初めてのダンスを終え、バルコニーにいた。
ルイズは料理をとりにテーブルへ向かっている。
先ほどの楽しくて照れくさい時間を思い出すだけで頬が火照ってくるのがわかった。
「全く、おめーさんは大した使い魔さ。主のダンスのお相手を務める使い魔なんて初めてだ!」
「う、うるさいなぁデルフ。恥ずかしいんだから蒸し返すなっての!」
相棒のインテリジェンスソード・デルフリンガーのからかいにいちいちむきになって言い返す様はまさしく思春期の少年だ。
だが、彼こそが土のトライアングルメイジフーケの操る30mという規格外のゴーレムを撃破した最大の功労者なのだ。
そんな彼の袖を引っ張る者がいた。
「あれ…タバサ?どうしたんだ?」
先ほどまでひたすら料理と格闘していたタバサであった。
彼女はいつも通りの無表情に無感動な瞳で…いや、瞳だけがいつもとは違う光を放っていたかもしれない。
「貴方は、『破壊の杖』を使う時、『これは俺の世界の武器だ』と言っていた。いったいどこから召喚されたの?」
何故なら、彼女は彼に聞かなければならないことがあったから。
「え…どこからって…ハルケギニアとは別の世界?星?まぁ全然違うとこからなんだけど…信じてくれねぇよなぁ…」
事実、彼は異世界から召喚されたのだが…それを信用してくれたのは、主であるルイズ(先ほど『信用する』と言ってくれたばかりだが)だけであった。
だが、タバサだけは違う。彼女には既に異世界から来た者に心当たりがあるのだから。
「ニホンという国は知っている?」
「え…日本を知ってるのか!?」
タバサの口から出た思いもよらぬ言葉にサイトは目をむいて驚いた。
そしてタバサも驚いていた。耕介とサイト…顔立ちにいくつか共通点はあると思っていたが、本当に同じ国から召喚されていたとは。
「ウミナリという地名は知っている?」
「うみなり…それは知らない。でも、日本にありそうな地名だ。なぁ、なんで日本のこと知ってるんだ?俺はそこから来たんだよ!」
こちらの世界に突然呼び出されて、帰れる手がかりがあったかと思えばその人物は死んでおり空振り…サイトは自分が思う以上に落胆していた。
だからこそ、全く予想もしていなかった人物から故郷のことを聞かされた彼の驚きは計り知れない。
彼女の肩を掴んで押し迫ってしまったのは無理からぬことであろう。
「知り合いに、日本から召喚された人がいる。その人も帰る方法を探している」
タバサの言葉を聞いたサイトの喜びはいかほどであったろうか。
この世界に一人で放り出されたと思っていたが…自分と同じ境遇の存在がいたのだ!
「俺一人じゃなかったのか…!なぁ、頼む、その人と会わせてくれないか?一生のお願いだ!」
「元よりそのつもり。でも、時間がほしい。彼はガリアにいるから簡単にはいかない。貴方の主の許可も必要」
「ガリア…別の国なのか…ルイズが許可してくれるかなぁ…」
別の国にいるとなると、そうほいほいと行って帰ってくるというわけにはいかない。
数日は学院を離れる必要があるだろう。そうなるとルイズの許可を得ないわけにはいかない。
だが、なんとかせねばなるまい。この異世界に同郷の者がいるのだ、どうしても会いたかった。
しかし、その前に彼は目の前の災厄を回避すべきであった。
「ここここここのバカ犬…なななな何をしていいいるのかしら…?」
「げ…!」
サイトが振り向くと…そこには、料理の乗った皿を左手に、フォークを右手に持ち、背後に『ゴゴゴゴゴゴ』という書き文字を背負って俯くルイズがいた。
表情は見えない…だが、だいたいの察しはつくというものである。
「い、いやあのこれはですねゴシュジンサマ…」
さて、客観的に今のサイトの状況を書き出してみよう。
まず、タバサの肩を掴んでいる。タバサに押し迫っている。二人の顔の距離は実は吐息が触れそうなほど近い。サイトがタバサを襲おうとしている、と思われても不思議では…いや、必然とさえ言えるだろう。
「も…問答無用ーーーー!」
ルイズはドレスにも関わらず華麗に右足を高く跳ね上げ、誰もが見惚れるほどの滑らかさで上半身を回転させ、勢いよく右足を振り下ろし…左手に持った皿を凄まじい速度で投擲した。
「ト、トルネード投hがはぁ!」
皿は狙い過たずサイトの顔面に直撃し、熱々の料理ごと叩きつけられ、彼はバルコニーの柵に激突した。
「ピ……ピンクだった……」
彼の遺言が何を示すのかは定かではない。



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