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KNIGHT-ZERO ep16-2


シエスタの操るKITTは、広いが車を転回させるには狭すぎるモット伯爵の寝室の中心へと素早く動いた

各タイヤの駆動力を状況に応じて適正に配分する高機能な電子制御四輪駆動を備えたKITTの機動システム
ルイズはその膨大な走りこみから得た経験則で、普段は前輪と後輪の駆動比率を35:65に固定していた
それはKITTの居た世界ではターマックポジションと言われ、アクセルのオンオフで車を自在に操れる


シエスタはその駆動配分を95%前輪寄りに切り替え、停止したまま操縦桿をフルロックまで据え切ると
オートマティック・セレクターをRに入れて思いきりアクセルを踏んだ、前輪が斜めに蹴られたように滑る
FF車がジムカーナでよく使うバックターンを駆使し、シエスタは狭い室内で一気に車首を出口に向けた
ルイズは自分が得意とする戦車の旋回に似た片輪逆転ターンよりも素早い方向転換にちょっと嫉妬する
KITTはルイズが開けたドアの穴を少し広げながら、前から引っ張られるように部屋の外に飛び出した


邸のメインホールを囲う階段、ルイズがブっ壊しながら駆け上がってきた東側の階段は既に消滅してる
シエスタはKITTを操り、西側の階段を下り始めた、前輪で車体を引っ張りながら後輪でバランスを取る
手すりがバックミラーにカカカっと当たるが、手すりも階段も壁に飾られた絵画も、何一つ壊さなかった
ルイズが突風のようにすべてを叩き壊しながら駆け上がった階段の逆側、幅も構造も対称の西側の階段を
シエスタはそよ風のように、しかしルイズに劣らぬ速度で、王宮を去るシンデレラのように駆け降りた

段差を感じさせない乗り心地にルイズは頬を膨らす、自分が駆け昇った時は振動でお尻が痛くなったのに


KITTは片側の壁が崩壊したメインホールから邸を脱した、目前に広がるのは瓦礫が広がる急斜面
ゲレンデの上級者用モーグルコースを見下ろすような、直角の斜面が奈落の底まで続いてるような感覚
シエスタの故郷には曽祖父が作ってくれた竹のスキーがあって、彼女はスキーなら村では一番だった


ルイズが今更KITTの正しい使用法を思い出したのは、目の前の急斜面への恐怖だった、身震いをする

邸に接近するために降りた盛土の堤よりずっと急角度な斜面には、鋭く割れ砕けた大理石の瓦礫が広がり
入念な基礎工事で立てられた柱の残骸が、この柱のやたら多い別邸の墓標のように何本も突き立っていた
あの柱に激突すればKITTのボディは無事でも、乗ってるこっちはアバラの2~3本も折れるだろう


操縦席のシエスタはといえば同じように黙り込んでいる、ルイズが助け舟を出す積もりで話しかけた

「え~とシエスタ、そこの柱にワイヤーアンカーを固定しなさい、それで下まで降りられるわ」

一刻も早く逃走する必要に迫られる中、一言も発さず急斜面を見下ろしていたシエスタが口を開いた

「失礼しましたミス・ヴァリエール・・・いいダウンヒル・コースだなぁ…と思って、見とれていたんです」

そしてシエスタは「じゃあちょっと落ちますね」と言うと無造作にアクセルを踏み、斜面に飛び出した


顔を強張らせたルイズと微笑むシエスタ、双方の座る操縦席と助手席は異なった心理効果をもたらした

地球では他人の飛ばす車の助手席に乗るのをとても怖がるレーサーやパイロットはとても多いという

「私とKITTさんは…何でも出来る!」

「ああああんたねぇ!それを言っていいのはわたしだけよ!…っきゃぁぁ!落ちる落ちるおちるぅぅ!!」


突き出た太い柱に向けKITTを直滑降させたシエスタは、瓦礫を跳ね飛ばしながら車体を横滑りさせた
そのまま切り返し、車体を反転させて柱を回りこむ、大理石の柱がKITTのドアを掠り、白い煙を上げる


シエスタは激しい斜滑降と切り返しを繰り返し、連続して立つ柱を左右に避けながら斜面を滑り降りた

KITTは自分の生まれた異世界に存在したある人間の名を思い出した、ジャン・クロード・キリー
アルペンスキーの三冠王、史上最も有名なスキーヤーにして、モータースポーツでも高い実績を残す男
旗竿に体をぶつける彼の豪快な大回転の技術はレースのコーナリングから得たという事は知られていた

まさかこの異世界で、キリーの生まれ変わりとも言えるようなスピードの神に愛された者に出会えるとは


「私とKITTさんなら…誰にも負けない!」

「てってってててってっ訂正しなさぁい!…『わたし達』、よが…ひ、舌噛んだぁぁ!!」


シエスタの操るKITTは邸の残骸の広がる斜面をあっという間に駆け降り、渓谷の底の川に飛び込む
ここからいち早く逃走するには、別邸付近で大きく湾曲した堤防道路をショートカットする様に川を下り
そのまま数㎞先で斜面を駆け上がり堤防道路に戻るのが最短のルートだった、当然KITTは推奨していない


樽に詰められて激流下りをしてるような騒がしい車内で、ルイズは大声を上げてシエスタに話しかけた

「シエスタ!ねぇシエスタ!…わたし…アルビオンに行くわ!…今度こそ…死んじゃうかもしれないの!」

「何ですって?ミス・ヴァリエール…聞こえませーん!」



            シエスタ…わたしね…あんたのことが…



ルイズの言葉は川岸に上がり、そのまま岩礫の斜面をヒルクライムするKITTの騒がしい音にかき消された

きっと…言いかけたその言葉は、もう少しの間、胸にしまっておいたほうがいいものなのかもしれない


その晩、トリスティン魔法学院では初夏の恒例行事、セント・クリストファーの舞踏会が催された

KITTの居た世界で主イエスを担いで河を渡った聖者の名前、その由来から旅人の守護神とされている

二つの世界が遥か昔から様々な形での相互干渉をしている事実を証明する事象がKITTには興味深かった

ルイズがオスマン学長にねじこんだ退学届は、公的な書類には必須である日付が入ってなかったため
結局、提出の直後にオールド・オスマンの執務室で、季節外れに火を入れられた暖炉の灰となった


舞踏会は豪奢な絵画と美術品に囲まれた本塔二階のダンスホールで行われるのが慣わしになっているが
今夜の舞踏会はオスマンの決定により、生徒達が普段の正餐を摂る一階のアルヴィーズの食堂で行われた

大窓の外には芝生の中庭があり、開け放たれた大窓からは気持ちいい初夏の夜風が吹き込んでいる
そして、中庭にはオスマンにとっての今夜の主賓が、黒い肌に窓明かりを輝かせながら鎮座していた

食堂の大窓の外、芝生の庭に停まるKITTのフェンダーにメイド服姿のシエスタが寄りかかっていた
ルイズと共にモット伯爵の別邸から戻ったシエスタは、今日は部屋で休めというマルトーの勧めを断り
帰るなりすぐに学院メイドの仕事に戻ると、大量の馳走が供される舞踏会の給仕に忙しく立ち回った

舞踏会が滞りなく開始された頃、マルトー親父に取らされた休憩時間、シエスタはKITTの側に居た
静かな庭から舞踏会の喧騒を黙って見つめるシエスタは、どこか現実感覚を喪失したような瞳をしている
今日は長い一日だった、こんな思いをしたのはタルブに向かったルイズの帰還を待ったあの一日以来

「シエスタさん…お聞きしていいですか?あなたはこの舞踏会に参加してみたいとは思わないのですか?」

「私は平民のメイドです…それは望んでもしょうがないことです、ずっとずっと昔に…諦めましたわ…」

KITTはシエスタにある提案をした、困惑し渋るシエスタの後ろでその計画に大いに乗り気だったのは
使い魔の白鼠モードソグニルを使って一人と一台の会話を盗み聞きしていたオールド・オスマンだった


「シエスタさん、あなたとルイズは私に教えてくれました、人はその知恵と勇気で…なんでも出来ると」


舞踏会の会場

ルイズとキュルケはダンスに興じる同級生から外れたテーブルで、向かい合ってワイングラスを重ねていた

「…どうしても一人で行くのね?…もう一度言うわ、私を連れてきなさい、タバサも同じ気持ちよ…」

「一人じゃない、KITTが居るわ、それにあんたの事は嫌いだけど、命をくれとまでは言えないわよ」

イブニングドレスで着飾ると、他の男子学生が見とれるほどの華やかさを持つルイズとキュルケ
この舞踏会で男達の注目の的だった二人は、ダンスなど目もくれず互いの杯にワインを注ぎ合っている

リエージュでモット伯爵の別邸をブっ壊し、使用人を攫った事については、何らかの裁きがあるんだろう
もし伯爵が訴えたとしてもルイズの元に役人が来るまで時間がかかるし、その頃には国外に逃亡してる

アンリエッタ女王からの辞令によるアルビオン駐留軍への従軍任務は、まだ帰国期限が決まっていない





ルイズにとっては酒宴となった舞踏会も佳境に入った頃、アルヴィーズの食堂の入り口が開け放たれた

KITTが草案した呼び込みの文句を読み上げたのは、他でもない学院長オールド・オスマンだった

「大日本帝国海軍佐々木武雄少尉が曾孫娘、タルブ御料村の最高責任者、シエスタ・ササキのおな~り~!」

聞きなれない口上に生徒達が注目する、ルイズとキュルケも千鳥足で正面入り口まで見物に向かった


濃紺のディナー・ジャケット、清冽な光を放つ白いシルクシャツ、瀟洒に緩く結んだ真紅のボー・タイ
ごく軽く撫でつけた黒髪を輝かせながら入場したのは、男物の略礼服に身を包んだシエスタだった

シエスタのタキシードは、黒い燕尾服に黒タイの野暮な礼服に身を包んだ男子生徒の間でも際立っていた
地球の中世よりもだいぶ早く普及したタキシード、この世界でのそれは貴族婦人を篭絡するジゴロの象徴

高価な衣装を快く貸し出し、着付けてくれたオスマンが楽団に演奏を止めさせると、KITTに合図をした
KITTがそのサウンド・システムで「薔薇は美しく散る」をアルヴィーズも踊り出すほどの音量で流す


普段の引っ込み思案など嘘のような姿のシエスタ、堂々と伸びた背筋がその服装を更に魅惑的に変える

舞踏会を楽しんでいた生徒の多くは見慣れた学院メイドの珍奇な姿、平民風情の乱入に不快感を露にする
しかしその中の何人か、数人の女子が表情とはうらはらに、足がシエスタの方に向かうのを止められない

シエスタが薄化粧さえ伊達に映えるその顔で、午睡から目覚めたばかりの妖精のような微笑みを見せた時

着飾った女子生徒のほとんどが共の男性の手を振り払い、タキシード姿のシエスタに向かって押し寄せた

「メイドのシエスタ、私が踊って差し上げてもよろしくてよ」
「ジェントル・ウーマン!よろしければあたしと一曲踊ってくださいな!」
「麗人様、後生です…どうかわたくしに、その薔薇のような御手をお許しください」

男装のシエスタは淑女達の誘いを優雅にすり抜けると、アルヴィーズの食堂の奥まで迷わず歩を進める
シエスタの通った後に漂う香り、その体から自然に放射される魅力に触れた女達は、揃って息を喘がせた


シエスタは桜色のイブニングドレスに不似合いな、腰に手を当てた姿で仁王立ちするルイズの前に立つと
すっと腰を屈め、胸に手を当てる粋な仕草で跪いた、曽祖父から習った江田島海軍士官学校仕込みの作法

「谷間の百合よ、あなたの芳しい吐息に導かれここまできました、どうかこの恋の盲と・・・一時の夢を…」

それはかつてシエスタの曽祖父が、その美貌からタルブの美神と言われた曾祖母を射止めた時の言葉で
シエスタは幼い頃より、ソロモン王の麗句から頂戴したその台詞を誇張した自慢話と共に聞かされていた

ルイズは魔法の靄に包まれたように、シエスタに手を差し出す、学院入学以来初めて応じるダンスの誘い

KITTのサウンドシステムは、アルゼンチン・タンゴの名曲「ラ・クンパルシータ」を奏で始める

ヘソの中まで響くパーカッションに困惑するルイズ、しかしシエスタは既に腰でリズムを取り初めている

「ちょ…ちょっとシエスタ!そんな馬鹿な服着てなんの積もり?大体私こんな舞踏曲なんて知らないわよ」

ルイズの腰を取ったシエスタは、その耳に唇を寄せ、ルイズの膝が砕けてしまいそうな甘い甘い声で囁く

「大丈夫…わたくしにお任せください…KITTさんと一緒に走るように…踊ればいいんです」

シエスタは曲に合わせて、ルイズの腕を少し強引に導く、その刺激がまたルイズの瞳をとろけさせた

「さぁ!ミス・ヴァリエール、ヘアピンカーブです!カウンターステア!ドリフト!フルアクセルです!」

シエスタの逞しい腕の動きと足さばき、ルイズとシエスタの共有するもの、彼女はすぐに気づいた

「面白いじゃない…こうなったら踊ってやろうじゃないの…シエスタ!あんたとわたしは何でも出来るわ!」

シエスタとルイズはアルヴィーズの食堂の中心で、激しく、艶かしく、そして誰よりも自由に踊った

女生徒達は嫉妬と羨望の眼差しで二人の円舞を見つめていたが、やがて神々しいものへの畏敬に変わる
KITTがタンゴ、ジャズ、ツゥイスト、テクノ、シンフォニーとプレイした曲がクライマックスに達し
シエスタが見事にルイズを高々とリフトしフィニッシュした時には男子さえもがこの二人に見とれていた



ルイズはKITTを信じていた、シエスタと友人達、自分とゼロと蔑んだ人たちまでもを信じていた

自分だけでなく、KITTと、それを信じる人たちの気持ちがあれば何でも出来るような気がしていた


「おでれーた!」

地球から遠く離れた、少し似ていて少し違う世界、魔法がいくつかの進歩と引き換えに得たいくつかの事
この古くて新しい大陸ハルケギニアは地球がまだ到達していない「言語の統一」を既に成し遂げていた
地球ではオランダ語系統に属する南アフリカの言語アフリカーンスに似たハルケギニア各国共通の公用語
その独得の言語にも語尾を引きずるアルビオン訛りやフレンチポップのヴォーカルのようなガリア発音等
各地方独得の変化はあって、それは言葉が機械の記号ではなく、人間と共に生きる物だという証明だった

KITTは普段のボストン訛りとは異なる「チクトンネ言葉」と言われる蓮っ葉な口調でもう一度繰り返した


「おでれーた!…あんなイカした二人、ブロードウェイでも宝塚でも見た事無ぇぜ…こりゃおでれーた!」


それは科学と魔法、二つのテクノロジーの進化をもたらした人間の持つ可能性への、惜しみない賛美だった




ルイズはその数日後、アンリエッタの手配した船にKITTを載せ、空路アルビオンに向かった



これからのルイズを待ち受けている運命がどういうものなのか、彼女には予想もつかなかったが
ひとつだけわかっていたのは、もうすぐやってくる夏がとびっきり熱い物になるであろうという事だった


             ~~~~パラレルなオマケ~~~~~~     



アルヴィーズの食堂の中心、純白の帝国海軍士官服のシエスタと桜色のイブニングドレスのルイズが踊る

KITTは庭に控え、ジョー・コッカー&ジェニファー・ウォーンズの「愛と青春の旅立ち」を流していた

左腰に帯びた恩賜の短剣、それが小国のひとつも買えるほどの価値があることをシエスタは知らない
右腰に納まった士官の象徴、南部拳銃が同時に7人のスクゥエアメイジと渡り合える武器だということも
シエスタにとって、彼女が受け継いだ誇り高き曽祖父の魂の重みにくらべれば、いかほどのものでもない

周囲で踊る生徒達は自分のパートナーよりもこの二人を盗み見ては、その優雅さにため息を漏らしていた

「…わたし…他の誰に何を言われてもアルビオンに行く積もり…でもあんたが行くなって言ってくれたら…」

「…ミス・ヴァリエール…お心を偽らないでください、わたしはいつまでも変わることなく…待ってます」

「…わたし…必ず生きて帰って来る…そしたら…ドライブしたりお茶飲んだり…また一緒に踊ってね・・・」

「約束です、ミス・ヴァリエール…大日本帝国海軍の菊の御紋、ひい爺様の誇りにかけて約束いたします・・・」


ルイズはシエスタの白い詰襟服、三列の略綬に彩られた胸に頬を寄せ、にじんできた涙ごと押し当てた

KITTをこの世界に召喚して以来初めて、いつまでもこの夜が明けないことを願いながらずっと踊り続けた


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