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KNIGHT-ZERO ep16-1


            「こうやるから退治ってんだよ!」

             望月三起也 「ワイルド7」より





夕暮れの少し後、モット伯爵の別邸前に並ぶ炎魔法ランプがデトロイト製の黒いボディに映りこんでいた
揺れる橙色の踊り子は曲面に添った奇妙な光球となって、走る車体の前方から後方へと静かに流れていく



シエスタが普段から磨き上げていたKITTの黒い分子結合殻の肌は東洋美女の濡れ髪のような艶を放ち
KITTを操るルイズは、出撃前の貴重な時間に珍しく車体の雑巾がけをした自分の判断を自賛していた



トリスタニアから馬で一日の都市リエージュ、かつて小さな独立国だったままの町並と自然を保つ古都は
清冽な湧き水を湛える渓谷と冷涼な気候に恵まれ、トリスティン貴族の保養地としても名高い場所だった



「帰れ小娘!、ここにはモット伯爵なんて居ねぇよ!」


まるでマイアミ・ヴァイスの1シーンのようにコンバーチブルのKITTで別邸に乗り付けたルイズは
マントをだらしなく着けた下級貴族の門衛に威嚇的に追い払われた、吐く息からは安酒の悪臭が漂う

粗野なゲルマニア東部訛りの怒鳴り声に竦み上がり、泣きそうな顔でKITTに駆け戻ったルイズは
彼らに背を向けた途端、善良な人間から小金を騙し取る刑事ドラマのケチな悪党のような笑みを浮かべる


「…くっくっくっ…しょーがないわねぇKITT、じゃあ…ふたつめの作戦を実行しましょうか?」

「ルイズ…あなたは最初からそうする積もりでしたね?貴族のマントを外し、女官の証明書さえ見せずに」


馬車のようなマジックアイテムのような黒い物体に乗ってやってきた、ミニスカートに黒いベレーの少女
奇妙な革服を着た姿は、怪しい発明貴族の使い走りで小遣いを稼ぐ頭の弱い平民少女にしか見えなかった


「まぁね~、でもモット伯爵の身辺警戒がザルだってことがわかっただけでも無意味じゃなかったわ」

ルイズの操るKITTはタイヤを鳴らし、モット伯爵の別邸正門に面した堤防道路を下流方面に走り去った


門衛には走り去るKITTが悪趣味な魔法馬車にしか見えず、金に飽かせた貴族の道楽に舌打ちをしたが
KITTが残していった直管マフラーを模した低く力強い排気音に自分でも気づかない内に耳を傾けていた
V8エンジンが発する無限の力を約束するかのような音には、世のならず者を惹きつける魔法があるらしい



モット伯爵が地方官吏の公務のために建設した別宅は、リエージュ渓谷の斜面に沿って建てられていた
渓谷の堤を走る馬車道路に面した床面積の最も大きい最上階から、下階が階段状に延びる全5階の構造
地球の海岸沿いで時々見かける海に張り出したレストランを思い切り大きくしたような奇異な建物
数多くの柱に支えられた斜面の邸は、リエージュ渓谷に陽が落ちる絶景を一望出来るのが自慢だった

そしてモット伯爵がその建築困難な別邸の建設を強行した理由が、渓谷の向こう岸で湯気を立てている
リエージュの観光の目玉である温泉地、そこは平民や貴族の女達が裸のまま無礼講の湯治を楽しむ天国

お抱えの職人に作らせた望遠鏡で湯治場の女湯を覗くことを何よりの楽しみとしていたモット伯爵は
巨費を投じ渓谷に建てた別邸に詰め、地方行政を管轄する窓際貴族の閑職を文字通り窓際で楽しんでいた



モット伯爵の別邸から門衛に追い払われたルイズは、土を均しただけの堤防道路をKITTで流していた
ルイズの立案した第二の作戦を実行するには、渓谷の底まで斜面を降りた後、邸に接近する必要がある
KITTは現在地から10kmほど先にある、河川工事の人間が荷車を通す傾斜路をナヴィゲーションした

ルイズは頷くと、傾斜路のずっと手前で操縦桿を鋭く切り、急角度の渓谷に向けKITTの鼻先を向けた
巨岩が崖を落ちていくような騒がしい音をたてながら、KITTは木を折り岩にぶつかりながら降りていく

ビートルズの歌を口ずさみながら、転落事故と見分けがつかないような方法で渓谷を駆け降りるルイズ
KITTはルイズがこれほどまで苛立ち、怒り狂ってるのを見るのは召喚以来初めてかもしれないと思った


ルイズとの長く短い付き合い、ジョン・レノンの歌が彼女にとって罵りと同義語だということは知っていた



渓谷の底、岩を噛む深い急流を流れに逆らって進んでいたKITTは、川岸から渓谷の堤を登攀していく


KITTを駆って渓谷の底を流れる川沿いに邸の下部へと接近したルイズは、斜面の邸を見上げた
サーモグラフィー・センサーの画像が、邸の中に居る生命体の場所と状態を余す所なく捉えている


最上階の寝室と思われる部屋にモット伯爵が居る、護衛と使用人は無防備にも寝室と数部屋を隔てた
控えの部屋に集まり、飲酒しながらカード遊びをしているようだった、そして最上階からひとつ下にある
浴室にシエスタは居た、体温を形にした人影は入浴を終え着衣し、浴室の脱衣場を出ようとしていた

「…到着して早速お楽しみの時間ってわけ?どんだけスケベなのよ…わざわざメイド服まで着せてるし・・・」

口調とはうらはらにシエスタの心中を思い頬を噛むルイズ、時間優先で強引に渓谷を降りて正解だった



ルイズはバックでKITTを邸に寄せると、前部と後部に一組づつ備わった鋼索巻上げ装置を起動させた
コントロールパネル右下部、ルイズ流に言えば右膝のチョイ横にあるワイヤーウインチの操作コンソール
スイッチに触れると、メインモニター上で装備の自己診断プログラムが起動し、各種の数値が表示される

フックや高圧吸盤等のワイヤー先端につける各種のパーツの中からコンクリート・アンカーを選び装着する
メインモニターに映る邸の太い柱の中心に赤いドットを合わせて照準を定め、KITTに微量補正させると
操縦桿の親指の位置にある、マウスの左ボタンに似た起動コマンドの実行キーを押し、アンカーを発射した

大規模な天災や戦乱の時、緊急車両が通行するための道を拓くウニモグの災害工作車でも実用化済みの
射出式アンカーには、分子結合殻による強度向上を始めとしたナイト財団の様々な技術が付与されていた


ドンッ!という機関砲のような衝撃の後、幾重にも固定化の魔法を施した大理石の柱に小さな埃が上がる
戦車の複合装甲に撃ち込んでそのまま吊り上げる事を想定して設計、開発されたコンクリートアンカーは
鉛筆程の大きさの本体のほとんどをモース硬度15相当に硬化した柱に突き立て、抜け防止の爪を立てる

有線誘導ミサイルのモーターウインチを更に進化させたKITTのワイヤードラムが音も無く巻き上げられ
髪の毛ほどの細さのワイヤーを一度ピンと張ったのち、KITTが力学的に割り出した長さで弛ませられる

ルイズは発射から1秒少々で行われた一連の動作が終わり、各種数値が赤から緑色になるのを確かめると
間髪入れずKITTのアクセルを床まで踏み込んだ、グッドイヤーのタイヤが花崗岩質の斜面を鋭く抉る

邸の柱にワイヤーで繋がった状態で急発進したKITTによって、大理石の柱に急激な衝撃が叩きこまれた


モット伯爵の別邸に、地震が起きた


急発進したKITTのトルクで強く張られたワイヤーの反動によって、車体が激しく邸に引き戻される
ターボジャンプで鍛えた首がムチ打ちを起こしそうになるが、ルイズは怯まず再びアクセルを蹴りつけた

土メイジの丹精によって作られた強固な斜面の邸、しかしKITTとルイズには三回の攻撃で充分だった


「・・・波濤のモット伯爵、ごらんあれ、わたしとKITTが今から…本物の波濤を見せてあげるわ」


三度に渡って張られたワイヤーが急激にそのテンションを失う、柱の上下がゴッと鈍い音を発てて折れた
ルイズは折れた柱を引きずったまま走り、操縦桿を切りながらサイドブレーキを引きスキッドターンする
柱に深く撃ち込まれたアンカーはその周囲を低周波で破砕して穴径を拡大する抜杭機能で柱から抜け
そのまま一瞬でウインチに巻き取られた、太い柱は遠心力で渓谷の川を挟んだ向こう側まで飛んでいく


ルイズとKITTは知らなかったが、その柱は渓谷の対岸にあった浴場の女湯を狙ったように転がりこみ
突然降ってきた柱から裸体のまま逃げ惑うことになった入浴中の女や、その美景を拝観した浴場の客から
その円柱は「スケベ柱」と言われ、後にモット伯爵の名が好色と変態の代名詞になるのに一役を買った


ルイズとKITTにより支柱を叩き折られた渓谷の別邸はその上部で小さなヒビ割れ音をたて始めた
柱を折られた衝撃で損傷した上部構造の小さな剥離が、重みによる連鎖的な崩壊を起こしていく
伯爵が巨費を投じ、多数の土メイジを使役して建てた大理石造りの邸が、下階から順に崩れていった


斜面の邸が巨大な獣に食い散らかされたように、大理石と高価な家具類の瓦礫となって斜面を埋めた
サーモグラフィー画像には最上階に居るモット伯爵とシエスタ、そして従卒達が慌しく動く姿が映る

KITTで邸を全壊させる方法は他にいくらでもあったが、最上階に集まる邸の住人達を一人も傷つけず
邸の最深部への突入路を拓いたのはルイズの思い切った方法と、KITTによる微調整の結果だった
ルイズがただ柱を叩き折るために操作したアンカーやアクセル、その他の作動量を制御したKITTは
崩壊した邸が描く最初に想定した通りの破断線と、その瓦礫による人的被害が無い事を確認し安堵する


ルイズはKITTの気苦労も知らずに斜面を見上げ、景気よくブっ壊れた豪邸に大はしゃぎしていた


「どうよ!どうよKITT!あんたの世界にはクルマでこんな事する奴なんて居なかったでしょ?」

「一人知ってます、『リーサルウエポン2』という映画で、メル・ギブソン演じるリッグス刑事が…」


ルイズは軽く鼻を鳴らしたが、とりあえず意識を邸への突入とシエスタ救助の方向へ切り替えた

「へ~、そのリッグスとかいう奴は、こんな事もしたのかしら」

ルイズは瓦礫の斜面に突っ込むと、突き出た柱の残骸に左前輪を乗せ、トルクをそのタイヤに集中させた
駆動力とエアサスで跳び上がったKITTはロッククライマーのように別の出っ張りにタイヤを引っ掛ける

ナイト財団によるKITTの仕様説明書によれば、急斜面を安全かつ最小の周辺被害で登攀するためには
タイヤに内臓されたスタッド・スパイクと前部のワイヤーウィンチを併用する方法が記載されていた
ルイズはその方法を豪快に無視し、KITTをトライアルバイクのように操り瓦礫の山を駆け登っていった

説明書の文中にある「周辺被害」という文言をKITTは思い出す、被害も何も邸は全部メチャクチャだ


「ルイズ、私はこんな真似をする人間をあなた一人しか知りません、二人も居れば世界さえ壊してしまう」


最上階のひとつ下、半壊し大きく開いた4階にKITTを突っ込ませる、中は舞踏会を楽しむメインホール
ホールの外縁を囲う階段を登り切った先に最上階に面した広い廊下、その中心にモット伯爵の私室がある

そこから数部屋を隔てた並びには控えの部屋があった、その部屋に集まる伯爵の護衛やメイド、執事達は
伯爵の下に駆けつけることも忘れてポーカーテーブルの下に隠れ、始祖ブリミルへの祈りを唱えている


地球の欧州と異なり、火竜山脈との位置関係で数十年に一度激しい地震に襲われるハルケギニア各国
当時の貴族の間で地震や大規模災害は悪魔の所業と言われ、その後の火災や疫病で大量に発生する死者を
悪行を働いた者の地獄への導きと信じていた、彼らは今さら必死になって自らの不道徳を始祖に詫びた

幼い頃から曽祖父の私塾で大地震への物理的な対処を教わっていたシエスタのほうがよっぽど冷静だった

ルイズは外縁の階段を叩き壊しながら一気に昇った、手すりが吹っ飛び壁が崩れ、絵画が轢き潰される
ホールを半周して最上階に面した廊下に飛び込んだルイズは、モット伯爵の私室をモニターで探る

途中、控え部屋の前でアクセルを吹かしてテールを振り、リアバンパーでドア横の壁に一撃を食らわした
少し開いてたドアが衝撃で勢いよく閉まった途端に石積みの壁の接合が緩み、ドアが重みを受けて歪む


これで控えの部屋の唯一の出入り口であるドアは塞がれ、護衛や使用人達をしばらく足止め出来る
出来れば今回の騒動の目撃者はあまり残したくなかったし、さっき臭い息を吐かれた仕返しもしたかった

控え部屋の中では騒動が起きていた、悪魔の咆哮のような音が近づいてきた途端に、部屋を揺るがす衝撃
そして勢いよく閉められ、慌てて開けようにも開かなくなったドア、密室の使用人達はパニックに陥った

指向性音響ソナーを使わずとも控え部屋の中から聞こえてくる男女の阿鼻叫喚にルイズはニヤリとした

KITTはといえばルイズの要求を満たすために、またしても古風な邸の面倒な構造強度計算をさせられた
トヨタのトラクションコントロールと三菱のAYCを合わせ、更にスペックアップされたKITTの制御装置で
アクセル開度からタイヤの滑り量、バンパーの当て角度とその衝撃までもを調整したのもKITTだった


KITTが学院で観測していた演算機能の不調は完全に、あるいは仕様よりも高度な形で回復しつつあった
これがこの世界において契約を交わしたメイジと使い魔が宿すという、互いの力を分け合う魔法だろうか

あるいは命あるものなら誰にでも存在する力、二人の力を合わせ、その力を倍以上にする生命の力


ルイズとKITTは無敵だった、シエスタを助けるためなら何でも出来る、"二人"はそう思っていた


ルイズは廊下の幅を一杯に使いKITTを横滑りさせながらモット伯爵の私室前につけ、ドアに鼻先を向けた
ドアの向こう側ではモット伯爵が、巨大なベッドに横たわらせたシエスタに向かって鼻息荒く近づいている

邸を半壊させる大地震も近づいてくるKITTの音も意に介さぬスケベっぷりはある意味賞賛に値する

ルイズはその助平への敬意を表すべく魔法よりも先にパンチで鼻っ柱に一撃を食らわせてやりたくなった
とりあえず校長室のドアのように叩き壊してやろう決めた時、右手の傷を思い出したが、まだ左がある
無傷の左拳を握り、ぶんぶんと振りながらKITTから降りようとするルイズをKITTは慌てて止めた
怒りの弾丸と化しているルイズが心配で、それに晒されるモット伯爵の生命がそれ以上に心配だった


「ルイズ、あのドアは一時的に石壁と同一化しています、この世界で言う所の『ロックの魔法』です」

ロックの魔法のかかったドアなんて殴れば手が折れる、意外とそうでもなさそうな声でルイズは嘲笑った

「ふ~ん、"ロック"の魔法ならわたしも知ってるわ、あんなチャチな魔法よりヘヴィでクールな奴をね」

ルイズは拳を握っていた左手でサウンドシステムのボリュームを上げた、選曲はローリング・ストーンズ


唐突に始まるイントロ、まるでルイズがKITTを扱うように手荒くギターを弾くのは、ジャガーという男
モット伯爵の魔法で石壁と同一の硬度を得た目の前の扉が「サティスファクション」のリズムで痺れ始める

硬くて厚い権威と体制の壁を拳と度胸でブっ壊す、ミック・ジャガーが1960年代に発したメッセージは
時代を超え時空を越え、一人のメイジ、黒いベレーを被った小さな女の子にちょっぴり歪んで継承された

地球のジャガーがギターで、異世界の山猫のような少女がKITTを駆って破壊せんと挑んだのは
権威でなく体制でなく、若者の限りないエネルギーの抑えきれぬ爆発を阻む、目の前のドアだった


ルイズは制動配分機能で前輪にがっちりとブレーキをかけたままアクセルを踏みつけた、後輪が空転する
グッドイヤー・イーグルの後輪が怪鳥の悲鳴のような音を発し、刺激性の白煙を半壊した屋敷に充満させた
真っ当な人間が聞いたら不快を感じる音、しかしルイズはその音に共鳴するように桃色の産毛を逆立てる


KITTは非常に困難な演算をしていた、モット伯の施したロックの魔法によって硬度を増大させたドアは
分子結合殻のボディをもってすれば容易に破れる、しかしそれは同時に鋭利な破片を部屋中に撒き散らす
ドアにノーズをゆっくり押し当ててこじ開ければ、半壊した邸の壁に負荷がかかり建物全体が崩壊する

ルイズの目論見はわかっていた、今までにルイズが廃城を練習台に何度となく行った壁破りを超越した
極めて速いスピードで壁を突破すれば、ドアの破壊は最小限に抑えられ、計算上放射状に飛散する破片は
室内の人間に被害を及ぼさない、しかしその方法の実行に必要なエネルギーの物量とその緻密な制御には
狭い廊下からの突入の一瞬にKITTの制御能力とルイズの操縦技量を最大限に絞り出す必要があった


アクセルプレートの端でスロットル開度を表示する緑色のインジケーターは全て点きっ放しになっている
ルイズは一点の迷いもなく、その右足に筋を浮き立たせ、KITTのアクセルを力の限り踏みしめていた

震える右足の隣、左足はSの女が哀れなM男の秘部に足で悪戯をするように繊細にブレーキを踏んでいた


厚いアルビオン杉を張られた床で後輪を激しくバーンナウトさせながら、KITTは尻を左右に振っている
ルイズにはドラッグ・レースの勝者がスタート前に見るという瞬の女神が目前を横切るのが見えた気がした


ルイズはその左足を、達する寸前の男にお預けを食わせるようにそっとブレーキペダルから抜くと同時に
ドラゴンさえ蹴り殺せるほどに逞しくアクセルを踏んでいた右足を一瞬離し、再び力の限り踏みつけた


グッドイヤーのタイヤが屋敷の床を獣の後足のように掴み、距離数センチのドアに向けて急速前進させた
KITTの今までの走行内容を記録したデータログは、過去の停止からの加速の記録を容易に塗り替える


ミック・ジャガーは再びギターを乱暴に鳴らし、文法的に間違った英語で「I can't get no !」と叫んだ


ルイズはミック・ジャガーとシド・ヴィシャス、クィーンとかまやつひろしのロックの魔法を信じていた
KITTはこの時ばかりはハルケギニアの始祖ブリミルと祖国アメリカの神と仏と預言者の加護を祈った

車両の激突よりも弾丸が貫通する時に近い、甲高く短い音の後で、分厚いドアはKITTの形に穿たれる


ルイズはKITTを室内に飛び込ませ、同時に左足でヤワな男の睾丸が潰れるほどにブレーキを踏んだ
京劇の円舞のように美しくスピンさせて突入の速度を殺したKITTのノーズを室内のモット伯爵に向ける



女の素足でタマをいじくられ、いい所で突然蹴り潰されたような顔をしていたのは室内の変態男だった
わざわざ好物のメイド服を着せたシエスタとのお楽しみを奇怪な曲者に中断させられた伯爵は目を見開く


ルイズはリトラクタブル・ライトをホップアップさせた、バンパー下の四灯式補助ライトを一度、減光する

KITTは少々間の抜けた声で「シエスタさん…そろそろ夜が明けます、おやすみなさい」と言った
妙に場違いな、意味の通る文章になってないKITTの言葉、ルイズの頭上に?のマークが浮かんだが
すぐにKITTの意図を察したシエスタは素早くベッドの上にうつ伏せになり、羽根布団を頭から被った

こんな二人だけの暗号のような言葉で通じ合うKITTとシエスタの間に一体何があったのかを
ルイズは問い詰めてやりたかったが、とりあえず後回しにする、後回しにするが絶対忘れないと思った


ルイズはKITTのヘッドライトを点灯させた、800万カンデラの白光がモット伯を視界を白く焼く


KITTの居た世界で、犯罪者追跡や人質救出のために開発された強力なディスチャージ・ライトは
その強烈な光の直撃を受けた人間の視神経に強い刺激を与え、犯罪者を数十秒から一分間動けなくする
スタン・グレネードやティーザー、CSガスに替わる非致死性で後遺症を残さぬ新世代の逮捕器具だった


羽毛布団をはねのけたシエスタの瞳とKITTの赤いフロント・インジケーター、互いを熱く見つめあう

「KITTさん……もういちど会えるなんて夢みたいです・・・わたしは馬鹿な事をしようとしてました……」

絵本の勇者のようにシエスタを助けに来たKITTの中から、何かギャンギャンうるさい人間の声がする
そのうるさい人間は桃色の髪を振り、ルーフから出てボンネットの上を走り、ベッドに駆け寄ってきた

「ちょっとシエスタ!誰か忘れてるんじゃない?わたしよ!わたしが助けに来たんだから!恩に着なさい!」

ルイズはそう言いながらもベッドのシエスタの肩に手を添えて立たせた、体を弄ばれてない事に安心する

「ミス・ヴァリエールにも感謝していますわ、だから帰りはわたくしが学院までお送りして差し上げます」

シエスタはルイズの横をクルっと回ってKITTの操縦席に駆け込み、勝手に操縦システムの操作を始めた

読み書きとは別に曽祖父から習っていた"ソロバン"というデジタル計算機の操法に熟達していたおかげで
シエスタがKITTの各種電子装置の操作になじむのは誰よりも早かった、当然、理由はそれだけではない
彼女は慣れ親しんだKITTの操作コンソールのキーを、それが恋人との触れ合いであるかのように叩いた


護衛が控え部屋のドアを内部から破ろうとしている音が聞こえる、ルイズは渋々助手席のドアを開けた

メイド服のままのシエスタは編み上げ靴の紐をほどくと、白いハイソックスと共に脱ぎ捨て、後席に放る

いつもシエスタが本気でKITTを操る時にそうしてるように、裸足でKITTの二つのペダルに触れた

シエスタはアクセルとブレーキを、KITTの一番敏感な所を確かめるように、足裏で官能的に撫で回した
KITTは、ルイズが今まで一度も聞いたことのないトーンの声で「…シエスタ…さん…」と声を漏らす


顔を両手で覆い、蹲ったまま動けなかったモット伯爵が目をしばたかせながらふらふらと起き上がった

「……私は…貴族だ…杖を交えて決着をつけねばなるまい…ヴァリエールの娘、ゼロのルイズよ」

ベッドの傍らに大事に置いてあった杖を取ったモット伯爵を、ルイズはKITTの中から面倒臭そうに見る

「ハァ?杖ェ?そんなもん置き忘れてきたわよ…っと、あったあった、無くしたと思ったらこんな所に…」

ルイズの杖はKITTのドアポケット、シエスタから借りパクした恋愛小説のしおり替わりに挟んでいた
猥褻な表紙絵の本からタクト・タイプの杖を引き抜いて、挟んであったページに適当に折り目をつけると
慎重に操縦桿とシートの位置決めをしていたシエスタが「55スゥもしたのに!」と抗議の声を上げた

モット伯爵は杖を構える、ルイズは唱えられる波濤のスペルを鼻で笑いながら自分の杖をクルリと回した
ついさっきKITTでブチ開けたドアから下に広がる、半壊したメインホールを細身の杖で無造作に指す
ごく短いルーンを唱えた、詠唱をマイアミ・サウンドマシーンのリズムで唱えたのはちょっとしたお茶目

パン、と子供の手叩きのような音が鳴ったかと思うと、階下のメインホールの中心に黒が広がっていた
薄く爆発の煙を発てる深くて暗い穴、小さな穴の周囲にある家具やアルヴィーズには傷ひとつついてない
床とその下にある岩盤の山肌をそっくり消し去った、地獄の入り口のような穴をモット伯爵は見つめた

KITTはたった今目前で起きた、あらゆる科学や自然現象を超越した事象を観測し、直裁に報告する

「邸とその基礎を構成する物質が半径2m、深さ800mに渡って原子結合を失い…消滅しました…」

ルイズは自分が開けた穴を眺め意外そうな顔をしていた、温泉のひとつも湧き出ると思ってたのに

既知のいかなる魔法とも異なるモノに詠唱すら忘れ、杖を垂れるモット伯爵にルイズは指を突きつける



                「ゼロに、するわよ」



助手席の上に土足で立ち上がってルーフから上半身を出し、見得を切ってキメの台詞を吐いたルイズは
ドライバーの個人差に合わせた設定変更のデータ入力を終えたシエスタがKITTを急発進させた途端に
後ろに転げ落ちそうになり、「はうううあぁぁ!」と情けない悲鳴を上げながら助手席にかじりついた


ルイズが学院の裏庭で人知れず行っていた虚無魔法の修行中に偶然発動した、物質をゼロと化す魔法
虚無魔法に必須といわれた祈祷書があっても無くても同じような結果を出すインチキ臭い魔法だった
消去する物質との相性や発動条件など、成功の確率はあまり高くなかったが、気をよくしたルイズは
魔法の成功率を高める修行よりも熱心に、カッコいいキメ台詞とポーズを鏡の前で何度も練習した

以後ルイズは幾度となくこの台詞を口にしたが、そのたびに足を滑らせたりスカートがめくれあがったり
彼女が想像していたようなカッコよく言えるようなシーンはその後のルイズには一度も訪れなかった


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