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ゼロの軌跡-09


第九話 公爵令嬢のクエスト


「ひどい目にあったわ…」
「それはレンの台詞のはずよ、ルイズ」
「レンは楽しんでたじゃないの…」


 ルイズの実家、ヴァリエール公爵家に二人が到着したのは朝方のこと。
 愛娘が帰ってきたと喜んだのも束の間、まだ学院の休暇に入っていないことを思い出した一家は何があったかと慌ててルイズを出迎える。そこで彼らが見たものは、末娘と謎の少女と鉄のゴーレムだった。

「ただ今帰りました、お父様、お母様、お姉様。彼女は…私の親友のレン。このゴーレムは<パテル=マテル>」

 一体何から聞けばいいのだろうと思い悩んだが、客人に礼を失することがあってはいけない。とりあえず朝食の席に同伴し事情を聞くことにしたのだが、開口一番ルイズの一言に食卓の一家は凍りついた。

「魔法学院を退学して領地経営の勉強をすることにしました」

 順を追って話すことにしたルイズだったが、わずかに三十秒後、サモンサーヴァントのくだりで父ヴァリエール公爵が顔を真っ赤にしてレンに杖を向けた。姉カトレアが必死になだめて事なきを得たものの、
ルイズが全てを話し終えた後、今度は母カリンも幽鬼のように立ち上がりレンに決闘を申し込んだ。冷静に見えてその実、十二分に頭に血が上っていたらしい。レンは勿論その申し入れを快諾。

 これにはカトレアも処置無しと天を仰ぎ、三人が庭で思う様戦っている間にルイズに詳しく話を聞くことにした。
 戦いが終わり、疲れ果てた両親に姉妹は必死の説得を試みる。
 それが功を奏したのか、はたまたあまりの事態に考えることをやめたのか定かではないが、どうにか両親はルイズの退学とレンを迎え入れることを認めたのだった。


「終わったことを気にしてはいけないわ、ルイズ。明日からはどうするの?」
「お父様に許可を貰えたから、とりあえずは町や村、色々な場所を視て周ろうと思うの。自分の家の領地だというのに、私はまだ何も知らないから。レンは一緒に来る?」
「そうね…気が向いたらついて行くわ」



 それからルイズは毎日のように領内を飛び周った。
 多くの場合はレンが一緒だったが、<パテル=マテル>はしばしばその姿を見せなかった。

 <パテル=マテル>を一体何のために自律行動させているのかと不思議に思いレンに尋ねてみれば、元の世界に帰る手がかりを探させているという答えが返ってきた。
 遠く離れてもスタンドアロンでそこまで高度な行動出来ることに驚きながらも、ルイズはレンに協力を申し入れる。
 レンがリベールへの帰還を望んでいるのなら、召喚主であるルイズがそれを手伝うべきだろう。必要ならヴァリエール家の力を借りることになっても構わない。
 そう思ったがルイズの助力はやんわりと拒絶された。

「トリステインの人はもし手がかりを見つけてもそれとわからないと思うわ」

 それを聞いて自分の力が及ばないことに歯噛みする。
 一緒に旅をすればレンについて何か分かるかも知れない。彼女を救うために出来ることはまだあるかもしれない。ルイズはそんな祈りにも似た思いを抱いて、馬を走らせた。







「徴税官が不当な税を取り立てているかもしれないっていうこと?」
「はい。アンリエッタ様の天領よりも税は一割重うございます。隣の街、あそこはうちと同じくヴァリエール領ですが、そこと比べても五分多く税を支払っております」
「妙ね…すぐにお父様に言って綿密な調査を行うわ」
「ヴァリエール家のご令嬢の口添えがあるとは…本当に有難うございます」


 領内を回っているうちに、二人は多くの出来事に遭遇した。


「山に凶暴なオウガが棲みついたらしいわね」
「このままではおちおち山に入ることが出来ません。軍や騎士団も頼りになりませんし、猟兵に頼むようなお金もうちの村にはないのです」
「うふふ、ここはレンの出番ね」
「一体何を…あなたのような可愛らしいお嬢さんが立ち向かえる相手ではありませんぞ」
「まあ見てなさい。来て!<パテル=マテル>」


 地に足をつけて暮らしている平民と直に話し、悩みを訴えを聞く。


「農作業に必要な風車が壊れてしまいました。ルイズ様はメイジでいらっしゃいます。どうか風車を直していただけませんか?」
「え、いや、その…私は土メイジじゃないから…。ギーシュでも連れて来れればよかったんだけど」
「ああ、これでは畑に水をやることも出来ません。私らはどうすれば」
「少し風車を見せてもらうわよ…
 なによ、全然簡単な機構じゃない。今レンが設計図を書いてあげるから、その通りに作り直しなさい」


 それはルイズにとってもレンにとっても初めての経験で。


「マスター、何か冷たい飲み物を…って、一体この騒ぎはなんなのよ」
「真昼間から大の男二人が酔っ払って大喧嘩さ。全くいい迷惑だよ」
「ワインを飲み過ぎたこの前のルイズにそっくりね」
「レンだって顔真っ赤にして介抱されてたじゃないの…。私が説得してくるわ」
「頼んだよ、お嬢ちゃん」

「ちょっと、そろそろ落ち着きなさいよ」
「「黙ってろ、小僧!」」
「こぞっ…アンロック!!」
「更に滅茶苦茶にしてどうするのよ、ルイズ」


 奇しくもそれは、エステルがヨシュアと遊撃士としての旅をしたのに似ていた。





「エステルもこうやって旅をしていたのかしら」
「どうしたの、レン?」

 問題を解決したあとはそのまま祝宴にもつれこむことがしばしばだった。無論、功労者であるルイズとレンがそれに参加しないということを周りの人間が認めるはずもなく、毎回村や町をあげての狂乱に巻き込まれるのだった。
 お世辞にも上品とはいえない宴だったが、二人には物珍しく楽しいものであった。

 とはいうものの、毎回夜遅くまで酔っ払いに絡まれるのもひどく疲れることだったから、酔いを醒まそうと二人で外を散歩していた。

「リベールには遊撃士っていう仕事があってね、今の私達みたいに民間人の問題、遊撃士はクエストってよぶらしいんだけど、それを解決するの。
 国家や軍に対しては中立で、民間人のために活動するんだって」
「そのエステルっていう人も遊撃士だったのね」
「そうね、新米でまだまだ弱かったけど」



 今までレンは自分とその周りの人間のことを殆ど語らなかった。リベールの文化やちょっとした機械工学などあたりさわりのないことしか話そうとしなかったのだ。

 これはレンのことを知るいいチャンスかも知れないとルイズは意気込んだ。もしかしたらレンを救うためのその手がかりが掴めるかも知れない。

「ルイズみたいに思い立ったらすぐ行動する人だったわ。本当にお人よしで自分の事は顧みないで、困った人を見ると助けないではいられなかった。<身喰らう蛇>にいた犯罪者の私を引き取ろうとするくらいのお馬鹿さん。
 エステルがそんなことを言うものだから、結局レンは組織には戻らないであちこちを旅していたの。意思もなく意味もなく」

 空に白く輝く月を眺めながら、レンは独り言のように話し続けた。



「エステルの恋人のヨシュアはね、今はエステルと遊撃士をしているけどヨシュアは昔、レンと同じで組織の執行者だったの。私を拾ってくれるように組織に頼んだのがヨシュアだったらしいわ」

 だからエステルとヨシュアがいなければ、私はここにいなかったかもしれない。
 そうレンは、少しだけ、淋しそうにつぶやいた。

 頭を振って、視線をルイズに戻す。

「お酒はダメね。あてられて、しゃべりすぎてしまったわ。忘れてちょうだい」
「そんなことないわ、もっと話して欲しい。私はレンのことをもっと知りたいの」
「あらあら、エステルと同じことを言うのね」

 レンはルイズに笑いかけて踵を返した。
 それは、これ以上は話さないという明確な意思表示だった。

「そろそろ寒くなってきたわ。部屋に戻りましょう、ルイズ」





 その夜、ルイズはベッドの中で延々とその思考を巡らせていた。

 数週間もの間寝食を同じにして、それでもルイズはまだレンを包む闇の、その断片すらも手にしてはいなかった。
 レンはいつでも余裕たっぷりにその類稀なる頭脳と力を振るっていた。<身喰らう蛇>で身につけたその異才は、常にレンを覆い隠していた。
 ルイズがいくらレンを見つめても、圧倒的なまでの力量の差で、その内実はようとして窺い知れなかった。

 ルイズがレンの心の深奥の一端にかけたのはただの一度きり。サモンサーヴァントの際にレンに絞め殺されそうになった時のその、人がお互いの心に触れるにはあまりにもわずかな瞬き。
 それ以来レンは片時も、執行者『レン』としての仮面を外してはいない。



 これはレンに対する侮辱なのだろう、と思いながらもルイズは願わずにはいられなかった。
 小さい子供は暖かく大きな手に守られて、何も思い悩むことなくただただ笑っていられれば、それでいいはずなのだ。その心を引き裂くような痛みを強要し、彼女の世界を閉ざす権利など神だって持っていない。
 いや、あってはいけないのだ。

 それでも、この世界は冷たいばかりではない。姉様やキュルケやギーシュや、この旅で出会った多くの人達のように、レンにも優しく接してくれる世界がある。

 ならば、いつか『レン』が本当の自分を取り戻して、ただの稚く優しい少女として、一人のレンとして生きられる日が来ますように。

「そして、出来れば私が、その力になれますように」

 その言葉が隣で寝ているレンに届いたかどうか。
 そのままルイズは眠りに落ちていった。





「ルイズに手紙が来ていますよ。シエスタって方から」
「シエスタから?一体何かしら」

 久しぶりにヴァリエール家に戻ったルイズとレンはシエスタからの手紙を受け取った。

「ルイズもたまには学院に紅茶でも飲みに来ませんかって、お茶会のお誘いかしら」
「…半分は当たりよ」

 半分?と首をかしげたレンに、ルイズは便箋を差し出す。

「シエスタの実家、タルブ村っていうらしいんだけど。休暇が取れたから遊びに来てくださいだって」
「それは素敵ね、行きたいわ。いいでしょう、ルイズ」
「勿論よ、早速準備しなきゃ。ちいねえさま、というわけですので少し出かけてきます」


 一時間後、カトレアに見送られてルイズとレンはタルブ村へと飛び立っていった。



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