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ベルセルク・ゼロ-12


 それは昔、幼いころに母が語ってくれた御伽噺。
 夜の闇が怖いと泣き喚く私に、母が優しい声で歌い上げた英雄譚。
 数多の夜を彷徨い、いくつもの血の海を掻き分け、神々(あるいは、悪魔)に抗い続けた一人の剣士の物語。
 勝てるはずのない戦いを、それでも文字通り身を削りながら続けた男のあまりにも雄々しく、猛々しい物語。

「けんしさんは、どうしてそんなたたかいをつづけたの?」

 口をつく当然の疑問。
 涼しい夏の夜。天窓が開いている。窓から差し込む月光が母の美しい髪を蒼く照らしている。

「そうねえ…どうしてかしらねえ……」

 幼い私の問いかけを、母はいつもそうやって微笑みながらはぐらかしていた。

「わたしだったら、そんなたたかいもうやめちゃうけどなあ…」
「そうね、私もやめちゃうかな。きっと、剣士さんにはやめられない理由があったんでしょうね」

 理由。どうしてその剣士は神々などというどう足掻いても勝ちようが無い『絶対者』を相手にして、それでも剣を振り続けたのか。
 振り続けることが出来たのか。
 幼い私には見当もつかなかった。
 今は―――少しわかるような気がする。
 気づけば、夜に対する得体の知れない畏れはおさまっていた。
 母が語る剣士の壮絶な生き様は、幼い私に闇と闘う勇気をくれた。

「わたしもけんしさんみたいにつよくなる!」

 それが幼い私の口癖だった。
 母はそんな私を見て「あらあら」と笑ってくれていたように思う。
 今夜もまた母は歌う。猛々しく、雄々しい一人の剣士の物語を。
 歌いだしはいつも一緒だった。

        それは、剣と言うにはあまりに大きすぎた

        大きく、分厚く、重く、そして大雑把過ぎた


         ―――それはまさに鉄塊だった


 チュンチュンチュン―――
 朝の光が飾り気の無い部屋を照らしている。
 蒼い髪を震わせ、タバサはゆっくりと目を開けた。

 ―――ずいぶんと懐かしい夢を見た。

 タバサはこしこしと目を擦ると顔を洗おうとベッドを降りる。
 ちゃっちゃと身支度を終えたタバサは読みかけの本を取り出すとベッドに座り、栞を挟んでいた所から読書を再開した。

 今日は虚無の曜日だ。

 幸いにして天気もいい。虚無の曜日に窓から差し込むぽかぽかの陽気に包まれて本を読み続ける時間は、タバサにとって至福のひと時であった。
 けれども、その至福の時間はあっさりと破られる。
 しっかりと鍵をかけていたはずのドアがあっさりと開き、彼女の親友であるところのキュルケが燃える赤髪をたなびかせ、飛び込んできた。
 あまりにも突然。『サイレント』をかける暇もない。
 怒涛の勢いで飛び込んできたキュルケはタバサの肩を掴むとガクガクと揺さぶり始めた。
「タバサ!! お願いがあるの!!」
「虚無の曜日」
 短く一言だけ告げる。それは明快に拒絶の意を示していた。
「わかってる!! あなたにとって虚無の曜日がどれほど大切か!! でもね、タバサ! これは恋なの!! 恋はあらゆる物事に優先するのよ!!」
 あぁ、だめだ。スイッチ入ってる。
 こうなったキュルケを止めるのは不可能だ。
 長い付き合いだもの。それくらいはわかる。
 タバサは小さくため息をつくと読みかけの本をぱたりと閉じた。
 それからキュルケから事情を聞く。
 なるほど、ルイズとガッツが馬を駆ってどこかに出かけたらしい。
 それで二人の後をつけるため、タバサの使い魔である風竜シルフィードの力を借りたいというのだ。
 タバサが口笛を吹くとシルフィードはすぐにやってきた。
 窓枠に足をかけ、シルフィードの背に飛び乗ってから、キュルケはタバサを抱きしめた。
「ありがとうタバサ!!」
「いい」
 タバサは短く言って、キュルケの体を引き剥がす。
 それから、キュルケの顔を指差した。
「?」
 次に、自分の顔を指差す。
「友だち」
「タバサ~~!!」
 感極まったキュルケはまたタバサに抱きついた。

 それに―――

 キュルケの豊満なバストに半ば顔を埋めながら、タバサは小さく呟いた。

「私も、興味が無いわけではない」

 シルフィードの翼が大きくはためき、上空へと舞い上がる。
 向かう先はトリステインの城下町だ。

 虚無の曜日ということで、いつも以上に活気があるトリステインの城下町を、ルイズとガッツは並んで歩いていた。
 二人がここまで来るのに使った馬は町の門のそばにある駅に預けてある。
 ルイズはちょっと感心したような目でガッツを見上げていた。
「随分と馬の扱いが達者なのね」
「昔とった杵柄ってやつだな」
 露店が立ち並び、商人が声を張り上げるブルドンネ街。
 今歩いているこの道がトリステインで一番大きな通りだとルイズは解説した。
「それで、ガッツはどこに行きたいの?」
 今回、トリステイン城下町に行くことを提案したのはガッツだった。
 ルイズはその提案を受け入れ、ガッツを街まで案内した次第である。
 いや、使い魔の言うことをホイホイ聞いちゃうメイジってのもどうなのよ? などと「むむっ」と感じるところはあったがそこはまあ我慢した。
 私って何て器の大きいご主人様なのかしら、おほほ。それに私も街に用があったからガッツを案内するのはあくまでつ・い・でのことだし?
 具体的にはこんな感じで我慢した。
「とりあえずそこら辺をぶらついて情報を集める。二時間後にまたこの場所に集合だな」
 二人がいる場所はバッテン印の看板の下、衛士の詰め所の前だった。
「ちょ、ちょっとご主人様をほっといて勝手に動くんじゃないわよ!!」
 言うが早いかその場を立ち去ろうとするガッツの背中をルイズは呼び止めた。
「おい、起きろチビ」
「むにゃ?」
 ガッツは振り向かずに腰元の鞄を開ける。
 寝ぼけ眼を擦りながらパックが鞄から顔を覗かせた。
「あれ? もう着いたの?」
 馬を用いても学院からこの街までの移動時間はおよそ3時間。
 パックは道中ガッツの鞄の中で惰眠を貪っていたのだった。
「お前はルイズについていけ。そうすりゃアイツも迷うこたあねえだろ」
「え~子守りかよぉ~~」
「聞こえてるわよッ!! 誰が迷うか!! バカにするなぁ~~!!」
 むしろアンタの方が心配よ! ルイズは再び歩みだそうとしたガッツに向かって叫んだ。
 ガッツはくるりと振り向き、歯をむき出しにして吠えるルイズににやりと笑いかけた。

「スリには気をつけろよ、オジョーサマ」

 なんとも意地が悪い笑みだった。
「つ、使い魔の分際でぇえぇええ~~!!!!」
 顔を真っ赤にして震えるルイズの肩をぽんぽんと、パックは生暖かい笑みを浮かべつつ叩いた。

「まったく、あんた達は使い魔としての心構えってのがなっちゃいないわ!!」
「そりゃ申し訳ないことしたぜせにょ~る~」
「そういうところがなってないって言ってんのよ!」
 パックを肩に乗せて、ルイズは頬を膨らませながら歩いていた。
 パックのおちょくりにもルイズは律儀に反応するので、この二人は活気あるブルドンネ街の中でも際立って騒がしい。
「それで、ルイズはどこに向かってんの?」
 ルイズは通りを散策する様子でもなく、何か目的を持ってまっすぐ歩いているように見える。
「服の仕立て屋よ」
「何しに?」
「………」
 今度の問いには答えなかった。
 代わりに、頬が少し赤くなった。
 やがて仕立て屋の看板が見つかり、ルイズは店の戸を開けた。
「いらっしゃい」
 店内に店の主人の声が響く。主人は意外に若かった。
 見た目から判断するに、もしかするとまだ30歳にも届いていないかもしれない。
「洋服を仕立ててほしいんだけど」
 店内をきょろきょろ見回しながら、ルイズはカウンターに歩み寄った。
「おう、お目が高いなお嬢ちゃん。ここはどこよりも安く、速く、最高の品質で仕立てる、トリステイン最高の仕立て屋さ。王族にも何人かここで服を仕立てていく奴がいるぜ」
 ルイズはむっとすると首元を指差し、紐タイ留めをコツコツと叩く。
 紐タイ留めに描かれた五芒星を見て、店主はようやくルイズの身分を理解した。
「ありゃ、お嬢ちゃん貴族だったのか。そりゃ失礼したな。おぉ、よく見りゃ使い魔も連れてるじゃねーか」
 物珍しそうに店内を飛び回るパックを指差して店主は言った。
 ルイズは店主に杖をつきつける。
「ちょっと貴族に対する口のきき方がなっちゃいないんじゃないかしら?」
「ああ、悪い悪い。どうにも敬語ってのが苦手でね。代わりに最高のモンを仕立てるからよ、勘弁してくんねえか…ゴホン、もらえないですか?」
 ルイズの全身から怒りのオーラが立ち昇っているのを感じた店主は慌てて口調を改めた。

「フン…まあいいわ」
 不遜な平民に対しては自身の使い魔のせいである程度耐性はついている。
 ルイズはふんっ、と息をつくと杖を引いた。
「それで、どんな服を仕立てるんだ…ですか?」
「そうね…生地は黒で……」
 ルイズは店主から渡された紙とペンで服の図案を引いていく。
 店主はその様を手にあごをつきながら眺めていた。
「随分と簡素だな。飾り付けは何もいらないのか?」
「ちゃんと敬語を使いなさいよアンタ。次言ったら承知しないからね」
「あー、申し訳ありませんでした。飾り付けは何もいらないのでございますかオジョーサマ」
「飾りなんてつけても邪魔になるだけだろうし…何もいらないわ」
 紙に描かれていたのは、本当にただの『真っ黒なシャツ』だった。
 服飾はおろか、まったく何のデザインもなされていない黒無地だ。
 これでは貴族が身に着けるにはあまりにも…である。
 そこらの平民でももう少し着飾るものだ。
 そこで店主は一番大事なことが書かれていないことに気づいた。
「サイズは?」
「えっ?」
 ルイズは面食らった顔で店主を見つめる。
 店主は呆れたように続けた。
「いや、サイズがわからなきゃあこっちも仕立てようがないでしょ。あぁ、待てよ…そうか、もしかして」
 店主はにやにやしながらルイズを見る。
「プレゼントかい? お嬢ちゃん」
 ぼっ!とルイズの顔が赤く染まる。
 ルイズはぶんぶんと大きく首を横に振った。
「ち、違ッ!! 何言ってんのよ!! これはそんなんじゃなくて……そう! ご褒美!! 主人に尽くした下僕をねぎらうご褒美なんだから!!」
 ルイズは顔を真っ赤にしたままマシンガンのように店主の言葉を否定する。
 しかし、それは逆に店主の言葉が的を射ていることを滑稽なほど示していて。
 あんまりにもそのルイズの様子がおかしくて、微笑ましくて。
 店主は笑った。
「な~るほど。彼氏へのサプライズプレゼントってわけか。だったらサイズくらいわかるだろう? ほれ、抱かれた時の感触でも思い出してさ……」
 店主はそれ以上言葉を続けることが出来なかった。
 何故って?
 そりゃあ、店が爆発したからだ。

 ガッツは自分の世界に帰還するための情報を少しでも手に入れようと、道行く人々や露天商に聞き込みを行っていた。
 しかし、誰に声をかけても有用な情報は得られない。
 この世界の地理について精通しているであろう、物資運搬を生業とする商人などにも声をかけたが結果はまったくの徒労で終わった。
「ちっ…」
 思わず舌打ちが漏れる。
 手がかりを探せば探すほど、帰還の困難さを実感するばかりだ。
 焦りばかりが大きくなる。
 ガッツは気を取り直して酒瓶が描かれた看板の店の戸を開けた。
「いらっしゃい」
 薄暗い店内に主人の声が響く。
 そこは酒場だった。元来こういった場所には様々な情報が集まってくるものである。
 酒場の店主はグラスを磨いたまま胡乱な目をガッツに向けた。
 さすがに真昼間ということで、店の中は閑散としていて、客の数はわずかに3人。
 ガッツはバーカウンターに歩み寄った。
「聞きたいことがある」
「お客さん、ここは酒場ですよ。何も頼まないんなら出て行ってもらえますかね」
 何も注文しないなら渡す情報は無い。と、この店主は言っていた。
(チッ…ルイズから少しでも金借りとくんだったな……)
 さあ、どうしたものか。ガッツは頭を悩ませた。
 最悪、脅してでも情報を得たいところではあるが、それで望む情報を得られる保証はない。
 そしてこの町には衛士がいた。ここでいざこざを起こすのはいささか面倒である。
(やれやれ…ルイズから金借りてまた来るか……)
 ガッツがため息をついてカウンターを離れようとしたその時。
 たっぷりと新金貨が詰められた小袋がカウンターテーブルの上にじゃらりと音を立てて置かれた。
「彼にこの店で最上級のワインを」
 妖艶な色香を纏った赤い髪の少女が、いつの間にかガッツの隣に並び立っていた。
 カウンターの上に置かれた袋をしばらく唖然と見つめていた店主だったが、我を取り戻すと「かしこまりました」と奥の倉庫に消えていった。
「お前は……」
「はぁい、ダーリン」
 ひらひらと手を振りながらガッツに挨拶するのは、もちろんキュルケその人だ。
 その後ろにはひっそりとタバサも佇んでいる。
「お待たせしました。このワインはロマリア原産の32年もので……」
 途端に饒舌になった店主にガッツは2,3質問する。
 しかし、やはり有用な情報は得られなかった。ガッツは目の前に出されたワインに手をつけることなく酒場を後にした。

「あん、待ってよダーリン!」
 キュルケはガッツの隣に並び、その腕に胸を押し付けるようにして絡み付く。
 タバサは少し遅れて二人の後をついてきていた。もちろん、本を読みながらである。
「おい、離れろ。うっとーしい」
「あん、つれないわねえ。お酒おごってあげたじゃない」
「別に頼んじゃいねえ」
 しかしキュルケはまったく離れる気配を見せない。
 ガッツはやれやれとため息をついた。
「ミッドランド」
 後ろを歩いていたタバサがポツリと漏らす。
「それがあなたの故郷?」
 店内では本を読んでいたタバサだったが、ガッツと酒場の主人との会話はしっかりと耳に入っていた。
 ガッツはこの町に来てから、とりあえずミッドランドの存在を知る者がいないかしらみつぶしに聞きまわっている。
 今のところ成果は無く、この世界が『異世界』であるという実感を強めるだけになってしまっているのだが。
 ガッツは振り返る。タバサの青い瞳と目が合った。
「……故郷ってわけじゃねえ。昔ちょっとヤサを借りてただけだ」
 ぶっきらぼうにガッツは言い捨てる。
「故郷なんてもんはねえさ……もう、どこにもな」
 ぽつりと、最後にガッツは呟いた。
 それは本当に小さな呟きだったが―――タバサはその声を、しっかりと聞き取っていた。

 集合場所にルイズとパックは既にいた。
 二人ともなぜかボロボロになっている。
 ルイズはキュルケとタバサの姿を認めると目を吊り上げた。
 特にガッツの腕にしなだれかかっているキュルケに食って掛かる。
「ちょっとぉ!! 何であんたらがここにいんのよッ!!」
「たまたまよぉ。私とダーリンは赤い糸で結ばれてるんじゃない?」
「だ、だーりん!? だだ、だれが、だ、だだだだれのダーリンですってぇ!! というか! 実際何であんたらここにいんのよタバサ!!」
「後をつけた」
 あっさり白状するタバサ。
「やっぱりそうじゃないのこのストーカー!!!!」
「ねえダーリン、そう思わない? きっと私たちが出会うのは運命だったのよ」
「お ん ど り ゃ あ ッ ! ! ! ! 」
 パックはこれはたまらんとぎゃんぎゃん吠えるルイズから離れる。
 と、ガッツの後ろで事を静観するタバサと目が合った。
「よっす!」
 シュタッ! と手をあげる。
 シュタッ! タバサも応えた。
「ルイズ、用は済んだのか? だったら帰るぞ」
 ガッツはこれ以上ここで聞き込みを続けても得るものはないと感じていた。
 学園では今もコルベールによる古文書の解読が続けられている。今のところ、頼りはそれだけだ。
「あ、ちょ、ちょっと待って!!」
「何だ? まだ終わってねえのか?」
「う、うん…あと二時間はかかるって……」
 ガッツはばりばりと頭を掻いた。
「……随分と時間がかかる用事なんだな」
「ルイズが店を爆発しなければもう少し早く済んでたんだけどねえ~」
 パックがやれやれというように肩をすくめた。
「店? 何のお店?」
 キュルケが興味深そうにパックに尋ねる。
「ん~とね、ふくぅッ!!!」
 ルイズの指がパックの喉を貫いた。
「お~ほほほ!! それはプライバシーですの!! 答えられませんわミス・ツェルプトー!!!!」
 パックは泡をふきながら地面にぽとりと落ちる。
 そんなパックをタバサはひょいと拾い上げた。
(さて、あと二時間か……どうすっかな)
 ガッツは考える。
 もちろん、聞き込みは続けるつもりだが――――そういえば。
(矢や火薬の補充がきくか、調べとく必要があるな)
 ルイズは未だにキュルケと言い合いを続けている。
 おかまいなしにガッツは声をかけた。

「ルイズ、武器屋に案内してくれ」


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