あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 26

鏡を見ながら身だしなみを整えるウェールズを見やり、副官は面白げに頬を緩めた。

「楽しそうですな、殿下」
「ん? 
 ああ、楽しいとも」

笑いながらそれに答える王子。既にその美しい金髪は鬘の下に隠され、質の悪い脂を塗られた髪の毛を櫛で撫で付ける。
眼帯で片目を隠せば、さきほど船上でルイズと相対した空賊の頭の出来上がりだった。

「どうだろう、おかしくはないか?」
「畏れながら殿下、何を持っておかしいと言えばよろしいのか、
 小官には判断できかねます」

遠見の鏡で船室での会話を聞き、ルイズを招いて詳しく話を聞かねばならぬと決めた彼らではあったが、
ではどのような格好で出迎えるかと言う段になって頭を悩ませた。
ことここにいたっては彼女達が貴族派に組しているなどとはウェールズも考えてはいない。
であるならば空賊の扮装は止めても良いのではないかというのが彼の選択であったのだが、
副官は静かに否やを唱えた。
物事と言うものは慎重に進めるべきであり、それが王族の行いならば尚更だと言うのである。
ここで正体を自分から明かすのは簡単ではあるが、それはいささか尚早ではないか、
貴族派に組していないとの言質を本人から取ってからの方が良いのではと具申する。

「要は形式ということか。
 遠見の鏡で覗いて知ったと言うのでは体裁が悪いと」
「御意にございます」

ため息をつき、ウェールズは先ほど外した変装をもう一度行う羽目になったのである。
最初は嫌々ながらではあったが、副官の

『よもや誇りあるアルビオン貴族が空賊に扮していたなどとは誰も考えますまい。
 あの少女が驚いた顔はさぞ美しいことでしょう』

と言う呟きを聞いたあとは態度が一変した。
それこそ意中の女性の愛を告げられた少年のように、実に嬉しそうに扮装を始めたのである。
この副官、伊達に王子に数年間仕えてはいないようだ。



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 ――――そのしばらく後、桃色の髪の少女にあっさりと王党派貴族であることを看破され、
       しかも最初から気づかれていたことに涙目になる主従の姿があったのはまったく持って余談である。



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「しかし、カステルモール卿、いったい何故ガリアの騎士と姫君がこのような場所に?」

尋ねてくるギーシュに、カステルモールは困ったように視線を泳がせた。
最初から答えを用意しているのならともかくも、彼はこのような突発的な事柄には弱い。
それ故にタバサとイザベラを間違え、現在に至る要因の一つを作り上げているのだがそれはさておき。

「ああ、申し訳ないが、ミスタ・ギーシュ。
 私の口からはそれは言うことが出来ない」
「なるほど、秘密任務と言うことですか?
 もしや我々のように大使の任を仰せつかったとか」

これは困った。まさかにもイザベラの我が侭だとは言えぬし、
タバサことシャルロットがよからぬ事を企んでいるのではないかと言う疑念すらも口に出すのははばかられる。
だがだからと言って沈黙すればギーシュの言を認めたことになる。
救いを求めるように視線を移すが、彼に答える者はいない。
先ほど空賊の長の部屋から戻ってきたワルドとルイズは、風に当たってくると言って部屋を出て行った。
驚いたことにこの船はアルビオン王党派のものであり、我々は賓客として扱われるのだと言う。
故にある程度の行動の自由も保障されたと言うのだが、
カステルモールとしてはいったいどうしてそんなことになったのか理解できない。
自分たちは空賊に捕まったのではなかったのか?

「野暮ねぇ。ギーシュ」

混乱し困窮する彼の窮地を救ったのは、猫のような笑みを浮かべたキュルケであった。

「お姫様と騎士が、二人っきりで小旅行よ? 
 少しは察しなさいな、モンモランシーに愛想つかされても知らないわよ」
「それだけは絶対にないと確信を持って言えるね」

胸を張って言ってのけたギーシュの横では、何を言われたか解らぬとカステルモールが不思議そうに首を傾げている。
本当に解っていないだろうその様子にキュルケがたまらず苦笑した。これじゃあガリアの王女さまも大変だ。
視線を移せば、当の王女は気難しげな顔でなにやら考え込んでいる。
おそらくは先ほどのルイズの言葉を反芻しているのだろう。
だがそれもしかたがないか。キュルケは深く深く嘆息した。
望むと望まざるとに関わらず、ルイズは人を変える。
彼女自身の言葉で言うなら嘘で嘘を切り裂く、のだそうだ。
自分には嘘をつくことしか出来ない、といつかルイズは言っていた。

『だから、わたしの言葉で誰かが変わったと言うのなら。
 それは、その人の中に真実があったと言うことなのよ』

キュルケはイザベラを知らない。
タバサの従姉妹であり、ガリアの王女だと言うことは知っていてもそれだけだ。
後わかることといえばタバサに敵意を、そしてお付きの騎士に好意を抱いているくらいか。
タバサに聞けば色々と解るかもしれないが、当の本人は部屋からの外出許可がでてすぐに使い魔の様子を見に行くと言って部屋を出た。
どうもこの王女とは仲が悪いしようだから、一緒の部屋にいたくないのだろう。
あのタバサがそこまで人を嫌うのも信じられないが、血縁だからこそということもあるかもしれない。
これについては彼女から話してくれるまで待つしかないだろう。
だがまぁ、とキュルケは肩を竦めた。
たとえタバサが嫌っているとしても、ルイズの言葉に考え込んでいるだけこの王女はましなのだろう。
魔法こそが貴族の価値だと信じている者によっては、ルイズの言葉は魔法が使えぬ者の戯言でしかなく、
行動ではなく詐術によって人を丸め込むのがお前の言う貴族のすることかと憤慨する者もいるのだから。

――――ちなみにあえて明言は避けるが、魔法学院の関係者では“疾風”の二つ名を持つ男がそうである。

「しかし、エルフか。
 エルフとの混血……というか、混血できるのだな」
「確かにルイズは嘘つきだけど、そんなことで嘘はつかないと思いますよ。
 何より意味が無いだろうしな」

そんなキュルケの思いを他所に、ギーシュとカステルモールが親睦を深めている。
カステルモールにして見れば心の主人であるタバサの友人を知っておきたいということもあったし、
考え込んでいるイザベラの邪魔をするのも気がひける。
それより何より、ワルドがいない以上はお互いが唯一の同性であった。
話題は先程の貴族の話から、エルフについてに移行したらしい。

「やはり耳は尖っているのですかね?」

首を捻りながらギーシュが言った。
悪名だけが知れ渡っているが、実際のエルフについての知識は殆ど流布していない。
耳が尖っていることと、先住魔法をつかうということくらいである。

「どうだろう。
 耳が尖っていて奇妙な服を着た男ならガリアの王宮で見たことがあるが、
 あれは断じてエルフではないだろうしな」
「ほほう?いったいどんな人物なのです?」

興味深そうにギーシュが言い、キュルケも耳をそばだてる。
そんな二人を見ながら、騎士はその男を思い出したのか嫌そうに顔をしかめてこう言った。

「男の癖に顔を白く塗っていて、白い奇妙な服を着ていてな、いつもクネクネと腰をくねらせて歩くのだ」



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徐々に近づいてくるアルビオンの威容を見ながら、タバサはそっと親愛なる使い魔に背中を預けた。
シルフィードがその頭の上に乗せたブータともども心配そうな目で見るのに軽く手をふり、本を開く。
だがその瞳は文字を追わず、脳裏に浮かぶのは先ほど部屋で見た従姉の姿だけだった。
ガリア王ジョゼフの娘、イザベラ王女。タバサにとっては敵の一人。
彼女は憶えている。王弟であった父に仕えていた多くの人々。
自分に優しく接してくれた、性格も身分も違うたくさんの人々。
その多くが職を追われ、あるいは殺され、罪に問われた。
自分たちが、母が、父が何をしたのか。
何の罪もなく殺された父さま。覚えのない不名誉印を受けた大公家。
自分を庇って毒を呑んだ母さま。そして狗として使われている自分。
先ほどルイズの語ったような過去の話ではなく、今も続いているガリアの、そしてオルレアン大公家の現実。
その現実を作っているのはジョゼフであり、イザベラである筈だった。
そうでなければならなかった。
タバサは一度本を閉じ、そっと空を見上げた。
雲の上にいる為に、視界には青い色しか見えない。
幼い頃から見ていた彼女自身の、そしてイザベラの髪の色だった。
タバサは知っている。王家に生まれたが故に他に友人も作れず、ずっと二人きりで遊んでいたあの従姉を。
タバサは憶えている。イザベラが正論で言い負かされた時、そしてそれを彼女自身が理解している時、どんな態度に出ていたかを。
だからタバサは気づいている。イザベラが、ルイズの言葉に本当はどんな感情を抱いたかを。

そしてそれがタバサにはどうしようもなく嫌だった。

膝を抱え、怯えるように身体を抱く。
そっと胸の奥の扉を開け、懐かしいあの時代に心を馳せた。
それはまだ彼女が幼く、父と母と、そして年上の従姉に守られていた頃の思い出。
魔法が上手く出来なくても、それでも自分が姉なのだと胸を張っていた優しいあの子。
いつか二人で立派な王女になって父や叔父の手助けをするのだと誓い合ったあの言葉。
血を被り、手を汚し、汚濁と憎悪の中で時間を過ごし、それでも忘れられないあの光景。
シャルロット・エレーヌ・オルレアンが雪風のタバサになるに至った理由の一つ。
もう絶対に戻らないが故に神聖視されたその情景。
帰らぬ人となった父。心を病まされた母。そして変わってしまったイザベラ――――

なのに、その一つが帰ってきてしまったら。
この手にもう一度それが戻ってくるとしたら。

知らず知らずのうちに腕に力が篭る。
胸の奥に暗い何かが灯る。
イザベラがかつての彼女に戻ってくれるのはいいことだ。
本当に嬉しいことの筈なのに。
なぜだろう。
それをしたのが自分ではないと言うだけで、その切っ掛けを与えたのが自分ではないと言うだけで、
何でこんなに胸が苦しいんだろう。
何でわたしが出来なかったことを、ルイズはいとも簡単にしてしまうんだろう。
まだ出会ったばかりの頃、酔ったキュルケが言っていたことを思い出す。
魔法が使えないルイズは、魔法が使える自分たちでは出来ないことだって簡単にしてしまう。
魔法が使えないルイズが、魔法が使える自分たちよりも貴族らしい事をする。
ならば、自分たちが誇りにしている魔法に意味はあるのか。
もしも魔法が取り上げられたら、自分はルイズに勝てるのかと。
そうか、とタバサは思った。
キュルケもきっと、こんな思いでルイズを見ていたのだ。

「どうしたのね、お姉さま。
 またあの女に苛められたのね? 
 許せないのね、きゅいきゅい!」

心配そうな声のシルフィードの囁きにも返事を返さぬタバサを見やり、ブータはやれやれと首を振った。
長い年月を過ごしてきた大猫には今のタバサの想いが感じ取れた。
ブータの脳裏に車椅子に乗った青年と、整備道具を持った女性の面影が去来する。
猫は竜から下りると、タバサの横で温もりを分けるかのように身体を摺り寄せた。
こればかりは部外者が口を出せる領域ではない。
イザベラとタバサの関係をよく知らぬブータに出来るのは、タバサがそれに呑まれぬように祈ることだけだった。
それは誰しもが抱く心の陰。
ルイズの語ったゆめとは相反する、しかし人の心が生み出したことには違いないあしきゆめ。
人と違うことを受け入れられず、人と違うが故に自分を劣った者として見てしまうその感情。
大切なものを人に奪われそうになった時に抱く、暗く闇に満ちたその思い。
かつて第五世界でブータの友人たちに取り憑いた、嫉妬という名のあしきゆめだった。



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