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イザベラ管理人-12



イザベラ管理人第12話:イザベラの第一歩


さて、耕介とイザベラが主従の契りを結んだ場面を見ていた者が二人…いや、三人いた。

「…ちぇ、単なるお兄ちゃんの上司だと思ってたのに…あのおでこ姫の方がタバサお姉ちゃんよりも厄介そう…」
陽光を直接浴びぬよう薄く扉を開いてエルザが覗き見ていたのだ。
本来扉を護るはずのガーゴイルには、廊下に点々と飾られている花瓶から伸びた花の枝が巻きつき、ねじ伏せている。
昨夜、メイドに別室を用意されたエルザだったが、そんなものには目もくれず耕介の寝室に突入し…未だ耕介が戻っていないことを知ったのだ。
御架月も行方を知らぬとのことで、プチ・トロワ中を探し回っていたのだが…あの(エルザ的に)嫌味で態度の悪い上司の部屋にいるのを見つけたのは既に耕介が寝入った後であった。
さすがに起こすのも忍びないので、こうして耕介が起きるであろう時間を見計らって再びやってきたのだが…まさかこんなことになっているとは。
「そういえば、お兄ちゃんを召喚したのっておでこ姫だったなぁ…まだ契約してなかったのならもっとやりようがあったのに…」
目下、エルザが遂行している作戦は「お兄ちゃんをエルザの虜にしちゃうゾ☆大作戦」である。
この作戦を成功させるために、まずは耕介の注意を自分に集めることを考えていたのだが…まだ契約していないとわかっていれば、まずは契約を妨害したというのに。
「使い魔のルーンって確か召喚者に好意的になるような精神的拘束力があったよねぇ…ちょっと厄介だなぁ」
吸血鬼たちにとって、人間は天敵であるが…その中でも群を抜いて厄介なのは当然のことであるがメイジだ。
メイジたちの魔法がなければ、吸血鬼がここまで数を減じることなどありえなかっただろう。
故に、吸血鬼たちはメイジを知る必要に迫られる。それは当然、エルザの両親もだ。
両親から聞かされた話によると、メイジたちに呼び出された獣はどれほど強力で凶暴でも、契約すると主に従うようになるという。
ならば、使い魔のルーンに精神的拘束力があると考えるべきだろう。
その拘束力がいったいどこまで効果を及ぼすのかがわからぬ以上、契約させるべきではないのだが…
「でも、いいよ、おでこ姫様!障害がある方がやり甲斐あるしね。うふふ、絶対お兄ちゃんをエルザのものにするよ!」
難しい顔で考え込んでいたエルザだったが、突然明るい笑顔になる。
そう、あれほどの獲物なのだ。すんなり手に入る方がおかしいし、張り合いがないというものだろう。
あんな小娘などに耕介を渡すつもりなど毛頭ない。最後に耕介を手に入れるのはエルザであるべきなのだ!
外見通りの童女のような…しかし、見た者の背筋を凍らせる笑い声をひそやかにもらしながら、エルザは耕介の寝室へと向かった。
昼はアウェイ、勝負は吸血鬼のホームである夜にかけるべきであるからだ。


シルフィードはとても複雑な気分で、イザベラの部屋の窓から主従の契りを結ぶ二人の一部始終を見ていた。
「シルフィは誇り高き韻竜なのに…なんで覗き見なんてしなきゃならないのね…」
はっきり言って出歯亀以外の何者でもないが…彼女の名誉のために言っておくと、これはシルフィードの意志ではない。
何を隠そう…
「お姉さま…気になるのはわかるけど、こんなことにシルフィを使わないでほしいのね…」
このピーピングはタバサの命令である。
早朝、学院に戻る前になんとなく耕介の顔を見ようと寝室によったタバサであったが、そこで御架月からまだ戻っていないことを聞かされたのだ。
となると、今までの経緯からイザベラの部屋にいるとあたりをつけたタバサだが…ガーゴイルがいるので正面から部屋に入ることはできない(実際はエルザに無力化されているが)。
故に、人間よりも格段に視力に優れるシルフィードに命じてバレない程度の距離から目視させ、自身はシルフィードに感覚同調しているというわけだ。
ところで、命じた張本人は何をしているかというと…食事をしていた。
用意された部屋で黙々と食事をしているタバサだが…その視線は一度とて食卓へは向けられていない。
当然であろう、視覚がシルフィードと同調しているのだから。
ならばどうやって食事をしているのかというと、空気の動きを感じ取る卓抜した風を扱うメイジの技能を使用して料理の場所を判断しているのだ。
その表情からは何の感情も読み取れない…が、それまで淀みなく動き続けていたナイフとフォークが突然停止した。
しばしの間、時の流れを示すものは温かなスープから立ち上る湯気だけになる。
相変わらずタバサの表情には何の変化もない。そしてさらに3分ほど経ち…突然食事は再開された。
先ほどと違うことと言えば…速度が加速していることだろう。卓上に並べられた食事が次々と消え去っていく。
最後に、控えていたメイドにはしばみのサラダをもう一皿持ってこさせ、それも瞬く間に食べつくし、やっとタバサはナイフとフォークを置いた。
ちなみにタバサが停止したのは、イザベラが耕介に<<コントラクト・サーヴァント>>を行ったのと同時であった。
動き出したのは、耕介が額から手をどけたのと同時であった。
その瞬間のタバサの胸中を知る者は誰もいないが…控えていたメイドは語る。
「部屋が突然寒くなった気がして…本気で凍死するかと思いましたよ…。いえ、料理は冷えてなかったんで錯覚だと思うんですけどね…」


さて、そんなことが起こっているとは神ならぬ耕介は知るはずもなく、彼は着替えて湯浴みをするというイザベラに部屋から叩き出されていた。
自室に戻るために廊下を歩いている…と、行く手に小柄な少女が立っていた。タバサだ。
「おはよう、タバサ。昨夜は御架月を預かってくれてありがとな。悪かったな、重かっただろ?」
メイジには<<レビテーション>>という便利な魔法があるのだが、耕介の常識―ハルケギニアに来てから上書きを余儀なくされているが―にはない。
「魔法」
とだけタバサは答えた。
「そういえば浮かせる魔法があったな、あれは便利だよなぁ。っと、とりあえず着替えと洗濯しないとならないから、そろそろ戻るな」
乾いてわかりづらいが、耕介のシャツはたっぷりとイザベラの涙とかの液体―彼女の名誉のために詳細は避ける―で濡れたままである。
タバサの寡黙っぷりには既に慣れていたので、耕介はそのまま去ろうとしたが…袖を引っ張る感触があった。
「ん、タバサ?」
タバサが耕介の袖を引っ張ったのだ。どうやら何か用事があるらしい。
「ルーン、よく見せて」
そう言ってタバサは杖で耕介の額を指した。
「ああ、かまわないよ」
否定する理由などないので、素直にしゃがみこんで頭を下げる。
耕介は190㌢を越える長身なので、ここまでしないとタバサの身長と同程度にならない。
タバサは懐から取り出した紙に筆を走らせる…どうやら、ルーンのスケッチをとっているようだ。
「しかしこっちの魔法って便利だけど、変なとこで不便だよなぁ。呼び出す魔法があっても送り返す魔法がなかったり、契約がキスだったり、ルーン…だっけ?が刻まれるのも痛かったし」
タバサがスケッチをしている間、暇なので話しかけた耕介だったが、キスのあたりでタバサがピクッと不自然に反応したことに気づく。
(キスで動揺したのかな、この手のは避けた方がいいか)
別にキスそのものではないのだが…タバサを見た目通りの小学生程度と思っている耕介なので仕方がないところであろう。
「コースケの世界にも魔法はある?」
と、珍しくタバサが答えを返した。『こっちの魔法』という言い回しに疑問が湧いたらしい。
「魔法じゃないけど、超能力ってのはあったなぁ。こっちの魔法と似たようなことができるけど、違うのは杖なしでできる、呪文もいらないってところかな」
正確にはHGSという遺伝子障害の一種なのだが、ハルケギニアでそんなことを言っても無駄である。
「…じゃあどうやって発動しているの?」
タバサが言葉を重ねる。その手は既に止まっており、おそらくもうスケッチは終わったのだろう。
「考えるだけでいいらしいよ。もっとも、彼女たちはその力がある代わりにたくさんの薬を飲まなきゃならないし、ちょっとしたことで高熱を出したりするから、いいことばかりじゃないよ。」
耕介の言葉に悲しみが混じる。
HGS患者は、皆体が不安定で、大量の投薬に週3度程度の通院、さらに幾度もの手術をしなければならない。
先天的な病で子どもの頃の自由な時間を奪われる彼女たちを目の当たりにした耕介にとって、超能力とは苦いものなのだ。
その悲しみが混ざった微笑みを見た時…タバサは、思いもよらぬ行動に出た。
「タバサ…?」
タバサは細い腕を伸ばし、耕介の頭を撫でていた。慈しむように、ゆっくりと。やはり表情は動いていないが…その瞳から気遣う色が見て取れる。
タバサの意図を察した耕介は、目を瞑ってなすがままになる。
穏やかな時間はしばらく続き…タバサは名残惜しげに手をわずか止めるが、そのまま離した。
「元気出たよ、ありがとうな、タバサ」
耕介は、お返しにタバサの頭も撫でてやることにした。
普段のタバサならば、キュルケ以外で自分に触れようとするものには咄嗟に警戒するものだが、耕介には何の警戒も見せずに撫でられるままだ。
しかも撫でやすいように頭をわずかに俯かせ、心なしか頬も朱に染まっている。
こんな姿をキュルケあたりが見たならば、二人をくっつけようと過激な茶々を入れてくることだろう。
「あ、そういえば、スケッチ終わってたら見せてくれないか?」
耕介が撫でたままなので、タバサはそのままの姿勢で耕介にも見えるようにスケッチを差し出した。
そこには文字のように見えないこともないルーンが書かれている。
「これが額に…か…うーん、まぁ別にいいか…」
額に文字の書かれている刀を持った190㌢の男など、不審人物以外の何者でもないが、ここはハルケギニアである。おそらく問題はない…多分。
そして自分の姿について思いをはせていると…唐突に何故自分が自室に戻ろうとしていたのかを耕介は思い出した。
「あ、そうだ、着替えないとならないんだった」
耕介はタバサの髪の乱れを直してやると、立ち上がる。手が離れる瞬間、髪に注目していたせいでタバサが口を開いて何事か言いかけたことには気づかなかった。
「じゃぁ、部屋に戻るな。タバサは学院に戻るんだったっけ、すぐいくのか?」
タバサは杖をギュッと抱きしめ、顔を伏せたままこくりと頷いた。
「そうか、しばらく会えなくなるなぁ。なら、見送りするよ」
耕介が笑顔で続けるが…タバサは―相変わらず顔を伏せているので表情が見えない―首を横に振った。
見送りは必要ないとのことだろう…特に深く考えず、耕介はタバサに「わかったよ。じゃあ、またな」と手を振って去っていった。
だから気づかなかった。タバサが見送りを拒否したのは、先ほどまでの自分の無防備な様に気づいて真っ赤になっていた顔を見られたくなかったということに。


その後、寝室に戻った耕介はエルザの急襲を受けるのであるが…それはまた別の話。
前向きになろう、努力しようと決めたイザベラは早速行動に移ることにした。
(彼女的に)急いで着替え、湯浴みの準備を申し付けた後、イザベラはある場所へ向かった。
そこは…いつもプチ・トロワにタバサがいる間、シルフィードが待っている庭であった。
シルフィードは食事を終えたところらしく、肉が入っていたと思しき深皿の前で満足そうにぐてっと体を沈めている。
周囲を見回すが、タバサは見当たらない。だが、タバサのことだ、すぐに学院に戻るために現れるだろう。それまでここで待つことにした。
シルフィードがイザベラに気づき、そのつぶらな瞳を向けてくる…が、なんとなく警戒の色が宿っている気がする。
「別にあんたの主になにかしようってわけじゃないから安心しな」
イザベラはシルフィードを観察したことはないし、単にタバサの付属物としてみていただけであったが…それでも、シルフィードの視線から胡散臭そうという言葉を読み取った。
以前のイザベラなら激高しているところだろうが…イザベラはシルフィードの視線を受け流した。
(ま、シャルロットの敵くらいに認識してるだろうしね)
微妙な空気が流れる中、しばし待っていると、プチ・トロワから小柄な人影が現れた。
その人影はまっすぐシルフィードの元へ向かい…イザベラがいることに気づき、立ち止まる。
「シャルロット、あんたに少し言いたいことがあってね」
人影…タバサの視線を受け止め、イザベラは答えた。
(さぁ…これが第一歩だ)
そう、彼女は踏み出すのだ。

タバサは表情こそ変わらないが、困惑していた。
なにせ、目の前で自分を目の敵にし、耕介にキスまでしt…いや、それは関係ない、ともかくイザベラに呼び止められたのだ。
「えっと…その、なんだ…えー…」
しかも『言いたいことがある』と言ったきり、意味を成さない言葉をもごもごと呟くばかりで一向に本題に入らない。
「く…うー…ぁー…」
加えて、顔を赤くしたり片手で頭をかいたり…挙動不審極まりない。
イザベラは気づいていないが、タバサとシルフィードの視線に哀れみが混ざりだした頃。
「あーーー!しゃっきりしな、イザベラ!!」
イザベラは両手で頭をかきむしると、パン!と音高く己の頬を張った。
美しい青髪が乱れてぐしゃぐしゃになるが、直前まで葛藤に揺れていた瞳は力を取り戻し、強い光を放っている。
それは彼女が羞恥やプライドを吹っ切った証であった。
「シャルロット!悪かった!」
瞬間、イザベラ以外の全てが停止した。イザベラは深々と頭を下げる。
客観的に見れば、シャルロットに謝罪していた。
おそらく、この情景をプチ・トロワに勤めるメイドあたりが見ていたら、白昼夢だと即断しただろう。
そして、謝罪された当人であるタバサは…衝撃はあったが、原因に思い当たった。
耕介だろう。いったい何があったのか具体的にはわからないが…確かに、耕介を召喚してからのイザベラはおかしかった。
それが今朝の契約をきっかけに良い方向へ向いたのだろう。
イザベラは顔を上げ、タバサに…いや、それだけでなく自分にも言い聞かせるかのように宣言する。
「あたしは、自分の力で王女になる。誰にも文句言わせないくらいに完璧に!」
それはイザベラの贖罪と自分への戒め。
今まで、自己を高めるのではなく、他者…シャルロットを排除して王女でいようとした自分と決別する。
そして、王族として誰にも恥ずかしくないように自己を高める。
そのために、過去の負債を清算しなければ。
「だから…あたしはあんたに八つ当たりしてた罪を償わないとならない。あんたの気が済むようにしてくれ」
そう言って、イザベラは目を瞑った。
何が起こっても受け入れる、という意味だろう。


そこで、タバサはイザベラに近づき…
「いたっ!」
渾身の力でデコピンを叩き込んだ。
「…頑張って」
タバサはそばにいるイザベラにだけなんとか聞こえる程度の声量でそう言うと、踵を返した。
「…シャルロット…ああ、絶対になるよ!だから…それを見届けるまで死ぬんじゃないよ!あんたにいく任務が減るようにあたしもなんとかしてみる!」
イザベラに見送られ、タバサはシルフィードにまたがる。
やはり表情は動かないが…シャルロットは快活でお転婆な従姉が帰ってきたことを喜んでいた。
そしてイザベラは気づいた。
「あれ…っていうか今の…あんた、まさか今朝の見てたのか!?」
タバサがデコピンを叩き込んだところは、今朝耕介に叩き込まれたところだということに。
一気に顔を赤く沸騰させたイザベラを置いて、シルフィードは飛び立った。
後には澄み切った青空を高速で飛び去っていく竜を見上げるイザベラだけが残された。
「…耕介といいシャルロットといい…ほんとにお人好しだよ…」
魔法が飛んでくるのは覚悟していたというのに…あれだけで済ませるとは。
「けど…これでますます、退けなくなったね…!」
イザベラは明るく微笑むと、プチ・トロワへ戻るために歩き出した。
そう、彼女は第一歩を刻んだのだから、どんどん歩いていかねば。道は遠くまでずっと続いているのだから。

シルフィードはタバサが上機嫌なことに気づいていた。
「きゅい…ほんと驚いたのね!あの従姉姫があんなことするなんて、そろそろ雷雲でも来てもおかしくないのね!」
タバサはシルフィードの軽口に反応も見せず、本を開いている。
だが、ページはめくられておらず、彼女が本を読んでいないのは明白だ。
反応がなかろうと、シルフィードにはわかっている。
飛び立つ前に見たタバサの表情は…薄く微笑んでいたのだから。あの鉄面皮のタバサが。
タバサの機嫌がいいと、シルフィードも嬉しくなる。そしてシルフィードは名案を思いついた。
「そうだ!お姉さま!なんでもして良かったのなら、コースケをもらっていけばよかったのね!」
その言葉にタバサがピクリと反応する。
「そうすればお姉さまはもっと幸せなのね!今からでも戻ってさらっていくのね!」
本当にUターンしようとしたシルフィードの頭をタバサは無言で杖で叩いた。
何度も叩いた。
「痛い!痛いのね!冗談なのねぇー!」
シルフィードはきゅいきゅいと泣き声をあげながら学院の方向へと頭を向けなおした。
「…………本当にもらえば良かったかも…」
タバサの蚊の鳴くような声は誰にも聞かれることはなかった。



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