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ゼロの軌跡-07


第七話 狂ったお茶会


 その日、オスマンは自室で昼食をとっていた。
 人の生に必要な栄養と熱量を摂るにしては、それは不必要なまでに贅と趣向を凝らされたものであったが、間断なく痛みを訴える胃を無視しええず、料理人への冒涜ともとれる速さで彼は箸を置いた。
 しかし食事の前後に捧げた祈りは、食事量とは対照的に平時に比して遥かに長いものであり、皮肉なことに既にその在り様が一種の不信心といえた。

 とはいえ、その真摯であるところは誰にも否定できないだろう。果たしてそれが報われたのかどうか、ノックもなしに部屋に上がりこんだロングビルが一声にしたのは彼の待ち望んでいた吉報だった。

「ミス・ヴァリエールがミス・レンと和解したようです」

 快哉が口をつく。一瞬にして天上の人となったオスマンだったが、やはり始祖ブリミルは彼の日頃の乱行に目こぼしをくれなかったようで、ロングビルの第二声によって彼は深淵にまで叩き落された。

「五人の生徒がミス・レンに決闘を吹っかけました」





「君は一人で我々は五人だ。流石に一対五では君に勝ち目などあるまい。ここは一対一の勝負を五回行うということでどうかな」

 レンとルイズがヴェストリの広場に着くと、相手から決闘の方法について提案が出された。その内容にルイズはおろか、周囲の観客までもその馬鹿馬鹿しさに思わず耳を疑った。
 いかに言葉を重ねようと、彼らの魂胆はあまりも露骨で見え透いていた。小柄なレンに連戦が出来るほどの体力はあるまいと踏んで、思うままに嬲ろうということか。

「そんなの面倒だわ、貴方達五人一斉に掛かってきてもレンは構わないわよ」
「君がそう言っても、我々には我々の誇りがある。年端も行かない少女を大勢で囲んだなどと言われては、その信念は拠って立つ場所を失うだろう」


 誇りとか信念とか、言葉の意味を軽んじる連中ばかりがそういう重い言葉を口にする。自分の中身が空洞だから言葉で埋めようとしているのか。

 その精神をなくした言葉に意味も力もあろうはずがない。彼らに使われる言葉があまりにも哀れだ。

 キュルケとギーシュがよく似た思考を巡らせているうちに決闘の準備が整ったのか、辺りのざわめきは急速に静まっていった。

 どこか喧騒にも似たしばしの静寂、合図が出され決闘が始まった。






 さて、どうしてやろうか。平民の女風情、一ひねりにしてやってもいいのだがそれでは些か興をそぐというものだ。そう考えた貴族はすぐに己の浅はかさを悔いることになった。

 レンが大鎌を取り出し、その右手を動かした瞬間までは彼はレンの姿を捉えていた。その後、右手の草むらでたった音にほんのわずか気を取られる。石を投げたのだと気づき視線を正面に戻した時にはレンの姿は見えなくなっていた。
 どこに消えたか迷ったのも一瞬、視界に差した影がレンの形を成す。彼が上を向くのとレンの上空からの一撃がほぼ同時。

「うふふ、ごきげんよう」

 理解も納得も追いつかぬうちに叩き込まれた柄の一閃。
 スカートの裾を持ち、愛らしく別れを告げる少女の足元に彼は声もなく崩れ落ちた。



「卑怯だぞ!小娘!」

 石で気をそらすという戦法を採ったレンに残りの四人から批判が浴びせられる。だがその声からは怒りは微塵も感じ取れず、怯えと恐れのみがはっきりと表れていた。石などを使わなくても彼女の力はあまりにも明らかだったからだ。
 そこにレンから再び提案がなされた。彼らが先ほどその空虚なプライドのために拒絶したそれ。

「だから言ったでしょ、まとめて相手してあげるからいらっしゃい」

 彼我の戦力差を思い知り、彼らも今度は甘んじて受け入れた。彼らの理念とやらは、仲間の一人が気絶した程度で羽を生やして逃げおおせるものらしかった。





「せいぜい楽しいお茶会にして欲しいものね」

 レンがこちらの世界に来てからこの方、まともな戦闘は行っていない。自分がこの世界でどのくらい通用するのかどうか確かめておかなくてはならなかった。

 無論、この程度の連中に負けるつもりは毛頭ない。レーヴェやヴァルター、カシウスといった猛者相手ならともかくも、戦歴も実力も三流の猟兵以下の彼らに遅れを取るようでは<殲滅天使>の異名も泣こうというものだ。

 勝つ、彼らを完膚なきまでに叩きのめす。
 その上で、この世界で使われる魔法、戦術を知り、<パテル=マテル>とオーバルアーツを有効に利用する土台を構築しなければならない。



 そう考えとりあえず見にまわったレンだったが、彼らのとった行動を見て、開始早々に期待の半分はたやすく打ち砕かれたことを知った。

 レンを遠巻きに半包囲した彼らは各々勝手に呪文を唱え始めたのだ。それを一瞥しただけで彼らがいかに戦闘に慣れていないか分かろうというものだった。更には敗北を見ても何も学ばない連中ですらあるらしい。
 互いに援護できない位置に陣取れば、何人いようが単なる各個撃破の対象となるに過ぎない。ましてやレンの機敏さを考えれば、仲間同士の距離を取ることが愚の骨頂であると何故理解できないのか。

 距離を生かしてアウトレンジから魔法を放つにしても、それが戦術的な意味を何ら持たない、思考の放棄の末に生まれた散漫なものである限り、レンを追い詰めることなど出来ようはずもない。
 統制の取れていない散発的な攻撃は微塵も脅威にはなりえない。エアハンマーやファイヤーボールがレンめがけて飛んでくるが、それら全てを難なくかわしていく。





 決闘の第二幕が始まってわずか数分。彼らから戦術を学ぶ愚を悟り、レンは攻勢に出た。

 金色の鎌を振りかざしてレンに向かって放たれた火球を払いのける。作り出した一瞬の空白の利用して戦術オーブメントを起動させた。


 見せてやる。そして震え慄くといい。これが導力魔法オーバルアーツだ。

 貴族社会体制と特権階級意識の温床であるこの世界の魔法とは似て非なるもの。
 無数の人間のたゆまざる克己と努力が育てた知恵の果実。
 女神エイドスの息吹を受けたセピスの結晶と人の生み出した導力理論、その申し子。

 大鎌を頭上に振り上げ、レンは高らかに呪を唱えた。

「請い願うは遥か地の底のひとやの瘴気、迸るその白き災いをもたらさん!  ホワイトゲヘナ!」



 レンの詠唱が終わった瞬間、一人の足元に魔方陣が浮き出た。彼の知っている如何なる図形文様とも異なる規則で描かれたそれは大地と異界とを結ぶ道となる。
 本能が警鐘を鳴らす間もなく、地の底から這い出た悪霊と瘴気が彼を包み込んだ。数瞬の後にそれは天高く消え去ったが、生気を吸い付くされたその貴族は杖を取り落とし顔から地面に倒れこんだ。

 残る三人はアーツの範囲外におり無傷だったが、彼らもその顔からは完全に血の気が失せていた。
 レンが行使した魔法は彼らの理解の範疇にはなかった。先の戦闘で見せた身体能力の高さなら理解もできようというものだが。
 もしや先住魔法か、この一見良家の子女然とした少女はエルフかさもなくば精霊か幻獣、その類か。

 到底敵し得る相手ではないと判断したものの、だからといって前言を翻して頭を下げる気にはなれなかった。半ば自暴自棄になって呪文を唱えようとする。しかし、再び始まったレンの詠唱を耳にして、その口は凍りついた。

 その局面にあっても尚、矜持と命を天秤にかけその平衡を保っていられた彼らは一種の賞賛が送られるかもしれないが、それはしばしば無謀と呼ばれるものでもあり、そう呼ばれたものが例外なく辿った末路を彼らも歩むこととなった。

「全てを飲み込み土塊へとその姿を変えよ、大地を揺るがす怒号!ジオカタストロフ!」





 毎日使用人達の手によって美しく整えられていたヴェストリの広場は当分の間見るも無残な姿を晒すことになるようだった。
 木も花も草も折れて曲がり地中に埋まっている。柵は壊れ塀は崩れ、銅像は粉々になって既に誰を象って作られたものであるかもわからなくなっていた。スクウェアクラスのアーツを放ったのだからそれも道理。


 しばらく庭師が暇をもてあまさずに済むだろう。
 オスマンの命を受けてコルベールが広場に着いたのは全てが終わった後。無責任な述懐を胸の内にしまい、生徒を指揮して五人の救助にあたった。





 決闘が終わり、レンはルイズの方に足を向けた。
 本来ならばここまで大規模のアーツを使う必要などなかった。それでもレンがそうしたのはルイズを試したかったからだ。

 <パテル=マテル>を操るだけでなく、一人の戦士としてもその強さを誇るレン。
 その異能を目の当たりにしても、ルイズはレンと共にあろうとするのか。

 そしてレンは正義の騎士などではない。つい半年前まで犯罪結社<身喰らう蛇>にいてその力を恣意的に振るっていたのだ。
 今回の決闘の理由も、あの貴族達が貴族らしからぬ振る舞いをしたからレンが立ち上がったのではない。それがレンにとって不愉快で、認めることの出来ないものであったからだ。
 結局、レンはトリステインやリベールの法律と道義に則って行動するのではなく、誰の掣肘も受けずにレン自身の価値基準で行動する。



 ならば私も問わなくてはならない、とレンは思ったのだ。 

 ルイズは私に手を差し伸べた。真に貴族であろうとする誇りをその胸に秘めて。
 私はそれを美しく、また心地よく感じたからその手をとった。


 決闘の前に差し出されたルイズの手は、私に対する謝罪の証だ。
 ならば今から私がルイズに差し出す手は、ルイズと私との盟約だ。


 次は私がルイズに受け入れてもらう番だ。
 この世界での私の在り様を彼女が肯定してくれるならば。
 道を違えるまでのしばらくの間、私はルイズと共にあろう。


 もう一度、ルイズの手を握らなくてはならない。




「一つ尋ねるわ、ルイズ」

 ルイズの目を捉え、レンは語り始める。

「レンはあなた達の理では動かない。私は私の思うように行動するわ。
 私はこの世界では異邦人で、持っている力は異質にして脅威」



 そしてレンはルイズに手を差し伸べる。ルイズがレンにそうしたように。

「それでもルイズはレンを受け入れてくれるかしら?」



 ルイズはレンの手を硬く握り、答えた。

「それでもレンと私は同じ道を歩いて行けるわ。
 そして私はレンの力になれるし、なりたいと思っている」



「<身喰らう蛇>執行者NO.ⅩⅤ<殲滅天使> レンよ」

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。よろしくね」




 ルイズもまた、歩き出すために一つの決断をした。
 握手の後、ルイズはレンに提案する。

「レン、私はこの魔法学院を退学することにしたの。一緒に来てもらえるかしら」
「もちろんよ、行きましょう。ルイズ」


二人はオールド・オスマンのいる学院長室へと歩き出した。



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