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新約・使い魔くん千年王国 第二十章 受難

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《父よ、御心ならばどうぞ、この杯を私から取りのけて下さい。
 しかし、私の思いではなく、御心が成るようにして下さい》
  (新約聖書『ルカによる福音書』第二十二章より)


時はヤラの月半ばの深夜、ところはスカボローから50リーグ手前の丘陵地にある谷間の隘路。
『東方の神童』松下率いる『千年王国』軍団1000人と、『東方の王』バエル率いる66個の悪魔軍団が激突する!
その谷の奥、月光も射さぬ暗闇の中では、『虚無の担い手』ルイズが街道の石畳に座っていた。
切り札の『虚無の呪文』を長々と詠唱しながら、アルビオン大陸を縦横に走る『霊脈』をとらえ、魔力を吸い上げているのだ。

―――――この丘陵地は上空から見ると、頭をスカボローに向けて仰向けに横たわった女性の体にやや似ていた。
隘路を挟んで並んだ双丘は、かつては『妖精女王の乳房』と呼ばれ、平民から信仰の対象にもなったという。
その中心にいるルイズが呪文を唱えるたびに、そこに集まる霊脈の力は強まる。霊脈の上には、街道が走っている。
活性化した霊脈の周りでは大地が熱を持ち、降り積もった雪が溶けて春の草花が咲き乱れ、蟲たちが目を覚ましている。

40リーグも彼方に駐屯していた七万の軍勢は、その魔力に魅了され、ルイズの方へと引きずり寄せられていた……!

 「おお、俺は呼ばれている」「召されている」「彼女が喚(よ)ばわっているぞ!」「うわーっ、たまらん!いい気分だ!」
 「俺が必要とされているんだ!」「いいや、呼ばれたのはこの俺だ!」「ばかな、俺だ俺だ!」「あたしが呼ばれたのよ!」
 「彼女を迎えに行こう!」「そうだ、あそこへ帰ろう」「彼女のもとへ還ろう!」「そうだそうだ!」

将軍も士官も兵士も捕虜も、老いも若きも男も女も、人も亜人も動物も幻獣も、さかりがついたように駆け出す!
彼らはみな猛り立ち、勇み立ち、いきり立ち、熱狂し、本能に衝き動かされて走り出す!
ああ、誰も彼もが彼女に召し寄せられ、喚び寄せられる!

地響きを立て、荷物を打ち捨て、七万人と無数の獣たちが40リーグ先のルイズの胸元へ、飛ぶように駆けてゆく!
竜や幻獣、軍馬などは、騎手を振り落とす勢いで先を急ぐ。亜人は大股で走り、牛や犬がそれに続く。
アルビオン軍四万が前に、反乱したトリステインの兵やサウスゴータ市民や捕虜たちが後になり、ぞろぞろと駆けてゆく!


《谷神は死せず、これを玄牝と謂う。玄牝の門、これを天地の根と謂う。
 綿綿して存するごとく、これを用いて勤(つ)きず》
  (『老子道徳経』より)


「「むぅ、なんじゃあこの異様な気配は!? 魔力が吸い取られる心地じゃ!
 マツシタよ、その谷間には、いったい何がおる!?」」
「さあな、聖母なのか大淫婦なのか! まあ待っていろバエル、今に分かる!」

『炎の杖』を振るう松下は、驚くべきことに大悪魔バエルと互角に渡り合っていた。
教団兵は次々と魔法や銃弾を放って、増え続ける悪霊を撃墜する。対抗して悪霊も魔法を放ち、兵士たちを撃ち殺す。
デカラビアは鳥の使い魔を無数に召喚して悪霊たちの目玉を突つかせ、ブエルは水メイジらとともに負傷者を治癒する。
『ヴィンダールヴ』で潜在能力を引き出されたケルベロスに組みつかれ、さしものバエルもよろめいた。

「「ええい埒が明かん、無理にでも押し通るぞい! 開けゴマ、じゃ!」」
しびれを切らしたバエルの三つの口から、おびただしい蛙とネズミとイナゴが吐き出される!


《第六の天使が、その鉢の中身を大河ユーフラテスに注ぐと、川の水が枯れて『日の出る方角から来る王たち』の道ができた。
 私はまた、竜の口から、獣の口から、そして、偽預言者の口から、蛙のような汚れた3つの霊が出て来るのを見た。
 これはしるしを行う悪霊どもの霊であって、全世界の王たちのところへ出て行った。
 それは、全能者である神の大いなる日の戦いに備えて、彼らを集めるためである。
 …汚れた霊どもは、ヘブライ語で『ハルマゲドン(メギドの丘)』と呼ばれる所に、王たちを集めた》
  (新約聖書『ヨハネの黙示録』第十六章より)


松下は『炎の杖』を再び回転させて『青銅の蛇』に変え、蛙とネズミとイナゴを呪力で押し返す。
地面やケルベロスのたてがみからは無数の蛇が湧き出し、蟲どもを呑み込んで退治する。
「ははははは、動物を操る『ヴィンダールヴ』に、その術は効かないぞ!」

だが、東の空から激しい羽音が轟き、アルビオン軍にいた竜や幻獣などが飛来する!
その眼はぎらぎらと輝き、谷間へ向けて一直線に急降下だ!
「「ひょひょひょ、そちらこそ命運尽きたのうマツシタ! アルビオン軍がこちらに近づいて来るぞ!!」」

しかし、谷間からはぶしゅーーっとガスが噴出され、蚊トンボのように竜たちがぼたぼたと落ちる。
それを浴びたバエルや悪霊どもも、体がしびれて動けなくなる。松下たちは無事だ。
「「な、なんと、このわしが動けんとは……!!」」
やがて彼らは、石化してしまった。『霊脈』から溢れ出た、強力な大地の霊気のようだ。
それに続いて、ぐらぐらと地震が起こる。ルイズは魔力を目いっぱいに溜め込み、ついにゆっくりと立ち上がった。

「……始まったか! よーし諸君、散開して二つの丘の上に登れ!
 前方で陥穽と塹壕を守っている者たちには、『錬金』で作った油に火をつけるよう伝えろ!
 アルビオン軍の本隊が来るぞ!!」

トランス状態に入ったルイズが歩むたびに、膨大な魔力によって大地が揺れる。まるで巨人が歩いているようだ。
口からは『虚無の呪文』が紡がれ、両手は神々しく天に向かって挙げられている。
その右手には杖が、左手には『始祖の祈祷書』があった……。

「《バガビ ラカ バカベ ラマク カヒ アカバベ カルレリオス……》」


松下がルイズのそばに駆け寄ると、ルイズはすーーっと左側の丘に飛び上り、その頂に立つ。
そして松下も、右側の丘の頂に『魔女のホウキ』で飛び上がる。

「メシア、先ほどの戦いでの殉教者は185名。それと、第四使徒ギーシュがモグラのように穴を掘って逃げました」
「分かった、第二使徒シエスタ。殉教者は祝福されて天国に入り、背教者は裁かれるだろう。
 ではタルブでの如く、ぼくの体を支えてくれ。バエルとの戦いでかなり傷を負い、魔力を使ったからな」
「はい、メシア!」

ルイズと松下は双丘の上に向かい合って立ち、谷間を挟んで同一の呪文を詠唱する。
ケルベロスは二体の悪魔を左右に配し、四肢を踏んまえて隘路を守るように立つ。
街道の向こうからは、七万人の男女と禽獣が、信じがたい速さで駆けて来る! 彼らは皆、ルイズに呼び寄せられているのだ!
陥穽に嵌った亜人や獣たちを踏み潰し、泥と油と火の中を潜り抜け、40リーグを駆け抜けて、彼らはやって来た!

 Bagabi Lacha Bachabe Lamac cahi achababa Karellyos
 Lamac Lamac Bachalyas Cbahagi Sabalyas Baryolas
 Lagoz atha Cabyolas Samahac atha femyolas Harrahya

ついに『虚無の呪文』は完成し、彼らの足下の地面がすっぽりと消失した。

二つの丘の挟間から、『横たわる女性』の丘陵が真っ二つに裂ける。
彼女の胸部から股間まで、巨大な『虚無の深淵の裂け目』が開き、七万人をまるごと混沌の奈落へ呑み込んだ。
その中はあらゆる異なる時空間とつながっており、入ったものを何処とも知れない時空へ転移させる。
始祖ブリミルは、かつて異なる世界から『虚無の門』を潜り、このハルケギニアにやって来たという。
これこそが、極めて不安定で不完全ながら、その門なのだ!

『虚無』とは世界を構成する極微の粒子を操作し、奇跡を起こす魔法。
ルイズが失敗だと思い込んでいた『爆発』も、その粒子が僅かに動いて衝突したために起こったに過ぎない。
『解呪』は自然ならざるもの、呪いを退去させる魔法であり、『幻影』は逆に自然ならざる幻影を招来する魔法。
いずれも『虚無』の魔法の中では、下級のものだ。

だが、この『虚無の門』は上級に属する大魔法。
ルイズがこの撤退戦で溜め込んだ多大なストレスを解き放ち、半日以上かけて呪文を練り上げ、
アルビオン大陸中の『霊脈』とリンクして魔力と血を吸い上げ、メシア・松下の力も借りてようやく発動できた代物だ。

 「「汝ら、我らが召喚せし者たちよ!!」」
 「「我らは汝らを必要とせず!! 速やかに、在るべき場所へ還れ!!」」
 「「異邦人はその故郷に、敵は地獄に、獣は野山に還れ!!」」
 「「我らが開きし『虚無の門』を通りて還れ、『送還』!!!」」


二人の力強い声が、闇の中に雷鳴の如く轟き渡る。
『虚無の門』の暗黒が渦巻いて銀色に輝く『送還の門』となり、あらゆるものを呑み込んでゆく。
バエルが、ホーキンスが、悪鬼が竜が亜人が幻獣が牛馬が士官が兵士が捕虜が男が女が、ことごとく呑み込まれる!
アルビオン大陸の底が抜け、彼らは無限の深淵へと落下し、奈落の底へ消え失せた。

ある火竜は、いつの間にか生まれ故郷の火竜山脈上空を飛んでいた。
ある軍馬は、いつの間にかゲルマニアの東に広がる草原地帯を走っていた。
石化したバエルと悪鬼は地獄の宮殿に帰り、トリステイン軍の捕虜たちはトリスタニアの練兵場に戻っていた。
『アンドバリの指輪』によって反乱した人々も呪いから解放され、サウスゴータや故国へ戻される。
そしてアルビオンの軍勢は、底知れない地獄へ送られて、堕ちていった……。

それを見守りながら、ルイズの口は『祈祷書』に現れた始祖の言葉を呟く。
『おお、これは我が故郷を思い、編み出したる、大いなる「送還」の魔法。
 されど、これを用いて我ブリミルは帰還することあたわざりき。
 我にとりて、もはや、かの荒れ果てたる地は故郷にあらざるか? ああ、なれど我が子孫よ、これを覚えよ。
 いつの日にか、我がこの世界に現れし場所「聖地」をエルフの手より奪回せよ……』


「ほうほほう、素晴らしい! 『虚無』とはこういう力なのか! とても勉強になったよ!」
その場所から約4リーグ後方の空中、ゲルマニア艦隊旗艦の甲板にて。
オペラグラスと『千里眼』で大異変を見守っていたブラウナウ伯爵は、上機嫌に笑った。
「大悪魔バエル王をも打倒し、七万の軍勢もガダラの豚よろしく、雪崩を打って溺れ死んだか!
 小人の王様(アルベリッヒ)と巨人の女王様(タイターニア)が、母なる地獄の釜の蓋を開いたか!
 ああ、素晴らしい! 本当に素晴らしい!! キキキキキキキ」

「は、伯爵、大丈夫かね?」
「いやいや侯爵、いたって正常ですよ僕は。さて、気を取り直して、後始末をさせてもらいましょうか。
 まず、言霊には言霊を、歌劇には歌劇を。ジュリオくん、あの『銃』を持って来てくれ」
「はい、ダニエルさま。ここにございます」

ジュリオが差し出したのは、古ぼけたマスケット銃。新開発のライフリングも施されていない、ただの猟銃だ。
しかし、ダニエル・ヒトラーの『ガンダールヴ』と魔術を組み合わせれば、恐ろしい兵器となる。

「さ、諸君、歌声を合わせて《呪歌》を唱え、戦争と狩猟を讃えよう。
 《Das Wild in Fluren und Triften,Der Aar in Wolken und Luften…》」


《Mein Sohn, nur Mut!         耐えよ、勇気を持て!
 Wer Gott vertraut, baut gut!    神を信じる者は行わん!
 Jetzt auf!In bergen und Kluften,  いざ行かん!山にも谷にも喜びは溢れ、
 Tobt morgen der freudige Krieg!  明日こそ、うれしき戦の日!

 Das Wild in Fluren und Triften,   森や牧場の獣ども、
 Der Aar in Wolken und Luften,    空を翔け行く鷲や鷹、
 Ist unser, und unser der Sieg!   勝利は我らがものなるぞ!

 Lasst lusting die Horner erschallen! 角笛よ、高らかに鳴れ!
 Wir lassen die Horner erschallen!   角笛よ、森に谺せよ!》
  (カール・マリア・フォン・ヴェーバー作曲のドイツ歌劇『Der Freiscutz(自由射撃/魔弾の射手)』より)


マスケット銃に込められているのは『魔弾』。嵐の悪魔ザミエルの呪いを受け、自在に獲物を仕留める弾丸だ。
ヴェーバーの歌劇の舞台は三十年戦争終了頃のボヘミアで、作られる魔弾も七つきりだが、
元来の18世紀の伝説では七×九、つまり六十三発の『魔弾』が作られたという。
それに歌劇では、射手の恋人アガーテは魔弾から守られるが、本来の伝説では彼女は撃たれて即死し、射手は気が狂う。

「僕に恋人などいないし、悪魔は僕の下僕だ。六十三発の全てが僕の意のままに命中する!
 まあ、『ガンダールヴ』の僕には一発で充分かな。距離は4リーグ、問題なし。
 恋人とは違うかも知れないが、ヒロインのルイズ・フランソワーズもついでに始末するか。
 松下の体を支えている、あの女信者もな!
 さあて、鉄の杖は振るわれ、審判の日の最後のラッパは、今こそ鳴るぞ!」

マスケット銃を構えると、ダニエル・ヒトラーの右手にある『ガンダールヴ』のルーンが強い光を放つ。
「《Es sei!!bei den Pforten der Holle!  よかろう!地獄の門にかけて!》
 自分で蓋を開けた魔女の釜の底へ、地獄へ堕ちろ、松下一郎!!」

運命の魔弾が一発、マスケット銃から放たれた!


双丘の頂上にて。
松下は満身創痍で力を使い果たし、目を閉じてぐったりとしている。シエスタは松下の体を抱きかかえるように支える。
ルイズは微動だにせず、あの『始祖像』のように両手を広げて立ったまま気絶している。

何が起きたのかは分からないが、あの悪魔どもとアルビオンの大軍は、メシアの奇跡によって残らず地獄へ消え去ったのだ。
食い止めるどころではない、殲滅だ。これでスカロンやジェシカたちも逃げ延びられるだろう。
トリステインがガリアとゲルマニアに攻め込まれても、故郷のタルブだけはきっと無事だ。
このメシアが、神の祝福を受けてこの世界に現れた人類の救世主が、その知恵を以って都市を築きあげた『聖地』なのだから。

そうだ、『千年王国』では平民も貴族も王族も、みな同胞となる。貧困も病気も、様々な悪徳もそこでは見られない。
老人も不具の人も蔑まれず、自由な人民が共に和して、主なるメシアのもとで賢い政治を行うようになろう。
ブリミル教会が説いてきた偽善的な教えは、この新しい真理にすぐ塗り替えられる。悪はことごとく滅び、罪は赦される。
世界は一つとなり、千年、いや未来永劫に渡って、神とメシアの支配による繁栄が続く。時は止まり、歴史は終焉を迎えるのだ!
シエスタは狂おしいほどの歓喜のあまり、思わず叫んだ。

「ああ、メシア! 戦いは、世界革命はこれからです!
 この輝かしい勝利の福音を世界中に告げ知らせ、誰もが成し得なかった地上天国を完成させましょう!」

だが、凶弾が背後から、ルイズ・フランソワーズの胸を貫く。
その血が噴き出すより早く、松下一郎の心臓に『魔弾』が命中し、貫通する。
そしてもちろん、彼を抱きかかえていた第二使徒・シエスタの胸をも。

  「………え」
   「………う」
    「………!」

三人は同時に倒れ、丘の下の谷間にまだ開いていた『送還の門』へと崩れ落ちる。
事態を一瞬で理解したシエスタの、呪わしい断末魔の絶叫が、最期に響いた。

 「神よ、神よ、何故我を見捨てたもうた!!」

その声を残して、三人は何処とも知れない奈落の底へと堕ちていった……!


残された『千年王国』軍団に、空から鉄の雨が降り注ぐ。
ゲルマニア軍の艦隊からの機銃掃射だ。やがて焼夷弾や爆弾も次々と落下し、一木一草も残さず焼き払われる。


さてその頃、スカボローにいるトリステイン軍の総司令部は、焦りに焦っていた。
フネはある、あるにはあるが、ありったけの風石をかき集めても、ぎりぎり本国へ戻るには足りない。
このまま出港しては海に落下してしまう。小型船で総司令部だけ出発しようとしたが、それを知った兵士たちが暴動を起こす。
そこへ、見覚えのある十数隻の艦隊が港の外の空中に現れた。旗は青地に白百合、トリステイン王国の旗だ。

「おお、あれは我がトリステインの軍艦だ! ロサイスから脱出して、生き残っていたか!」
「そうだ、もう助けが来るころだと思っていた! 万歳、始祖ブリミル万歳!!」
「これで帰れるぞ! アンリエッタ女王陛下万歳!!」
「おーい、ここだ! ここだ! 助けてくれーっ!」

しかし、するするとトリステインの旗は降ろされ、代わってアルビオン共和国の三色旗と帝政ゲルマニア国旗、
それに『鉤十字(ハーケンクロイツ)』の旗が掲げられる。将軍や兵士たちの表情が、凍りついた。
数十隻に増えた艦隊は揃って横腹を向けると、火砲の口を港に向けて、一斉に砲弾を放った。

(つづく)


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