あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

爆炎の使い魔-08


 ヒロの学院生活は平和に過ぎていく。特に何か大きなイベントがあるわけでもなく、ヒロは毎日を過ごしていった。ギーシュとの決闘と普段の授業態度から、ヒロは学院にも溶け込めていた。
 そんなある夜、ヒロとルイズは話していた。ちなみに、ヒロが寝る場所はちゃんと用意された。
「ねぇヒロ?」
「なんだ?」
「ヒロって、魔法も使えるし、頭もいいし、なんていうか完璧よね」
 まだ魔法が使えないことを気にしているのだろうか。ルイズはヒロに聞いてくる。
「魔法は、死ぬほど練習する必要があっただけだ。私は頭がいいことはない。頭がよければさっさともとの世界に帰っているさ・・・そう完璧な者な どいない。まあ、もしそうならもっと違う人生を送っていたかもしれないが」
「ヒロってこの世界に来る前は何をしてたの?」
 姫をやっていただの、軍の軍団長をしていただの、言うわけにはいかなかったため、1番妥当な答えを出した。
「傭兵だ。紛争の解決の手伝いだな」
「へぇ・・じゃあ武器とか使えるの?」
「ああ、元々は魔法と武器を使っての戦闘をやっていた」
 その言葉を聞いて、ルイズは思いついたような声を上げる。
「そうだわ!ヒロ、今度虚無の曜日に街に出ましょう。買い物もしたいし、ヒロってばこの学園のことしか知らないでしょうし」
 思いもよらないルイズの提案に、ヒロは考える。確かに、この学院の書物もある程度見てしまった。街に出るのも気分転換にはいいかもしれない。
「わかった。付き合おう」
「決まりね!じゃあ明日早朝から出かけましょう。早く寝なきゃ、おやすみヒロ」
「ああ、おやすみルイズ」
(結局この額のルーンについては何もわからないままだだ・・・単純に印ができただけと考えるべきか?まあとりあえずこの国の街を見るのも悪く ないかもしれない)
そして、ヒロもそのまま眠りについたのであった。


 翌朝、ルイズとヒロが部屋を出ると、キュルケがいた。
「げ、ツェルプストー」
「あら、ヴァルエールじゃない。おはようヒロ」
「ああ、おはようキュルケ」
 露骨にいやな顔をするルイズと当然のように挨拶をするヒロとキュルケ
「貴方たち、街にいくんでしょ?私もご一緒していいかしら?」
「ちょ、だめよだめよ!街には2人でいくんだから!絶対ついてこないでよ!行くわよヒロ!」
 ルイズはそう言うとヒロの手を引っ張り去ってしまった。
「お、おいルイズ・・すまんなキュルケ、また今度だ」

「ルイズ。いきなりどうした?キュルケと喧嘩でもしていたか?昨日はそんな様子は見受けられなかったが・・」
「違うわよ。キュルケはトリスティンの人間じゃないの。隣国ゲルマニアの貴族なのよ。私はゲルマニアが大っ嫌いなのよ」
「そんな理由か・・・」
(まったく、同じ種族だというのに、国が違うだけで仲違いをするのはどこの世界でも同じようなものなのだな)
「しかも戦争のたびに殺しあっているのよ!仲良くしろっていうほうが無理なことだわ」
 すると前を歩いていたルイズは振り返る。
「さ、こんな話は置いておいて、さっさと街にいきましょう。日が暮れちゃうわ」
「そうだな」
 馬小屋の前まで来たルイズとヒロは馬を選び、街へと向かうことにした。

「うふふ、ついて来るなといわれたら、ついて行くのが世の常ってものよね~」
 ルイズ達と別れたキュルケはある部屋に行った。トントンと扉を叩く。返事がない。もう1回やってみた。やはり何も反応はなかった。しかし中に 人がいる感じはするのである。
(あの子ってば、無視してるわね)
 さらにドンドンと強く叩くがまったく反応がない、やっているうちにもう我慢できなくなったのか、ドアを開け放って中へ入っていった。
 中にいたのはタバサであった。彼女は虚無の曜日が好きであった。なぜなら読書に専念できる日だからである。
 キュルケは中に入るとタバサの近くまで行き言いたいことを言う。しかし、タバサには聞こえていないようであった。どうやらタバサは「サイレント」の魔法を使っているようである。「サイレント」は風属性の魔法で、周りの音を全て遮断してしまうという、隠密行動に適した魔法であった。タバサはこの風属性の魔法を得意とするメイジなのである。
 タバサは、入ってきた人物がキュルケであることには気がついたようだった。これがまったくの他人であったならば、即座に「ウインドブレイク」 で吹き飛ばしていたことだろう。
 キュルケはタバサの数少ない友人である。そのキュルケが何かの一大事のごとく喚いているのだ。仕方なく、タバサは「サイレント」の魔法を解く。
「タバサ。今から出かけるわよ!早く支度して頂戴!」
 いきなりな用件にさすがのタバサも自分の都合を言う。
「虚無の曜日」
 それで十分だろうと言わんばかりに、本に再び目をやるタバサ。
 そんなタバサからキュルケは本を取り上げ、上にやる、身長差があるタバサでは手を伸ばしても届かない。
「わかってる。貴方にとって虚無の曜日がどんなに大切かってことを私はよーっくわかっているわ。でもね、今はそんなことを言ってられないの!恋 かもしれないの!恋よ!恋なのよ!」
 もはや相手が男だろうが女だろうが関係ないキュルケ、ヒロの炎を見て、それ以降こんな感じなのだ、それでわかるでしょ?と言わんばかりのキュルケの態度であるが、タバサは納得しない、キュルケは感情で動くが、タバサは理屈で動くのだ。まったく対照的な2人であるが、2人はなぜか仲が良かった。
「そうね。 あなたは説明しないと動かないのよね。あたしね、恋したかもしれないの!でね?その人が今日、あのにっくいヴァリエールと出かけたの!あたしはそれを追って、二人がどこに行くのか突き止めなくちゃいけないの!わかった?その人はあのヒロよ、貴方も彼女のことは気になってた みたいだし」
ぴく、とタバサが反応する。


確かにタバサもヒロのことが気になっていた。ギーシュの戦いで見せたあの腕と圧倒的な魔力、スクウェアクラスのメイジであっても、彼女とまともにやり合えるかどうかわからない。もし彼女と友好関係が築けたなら・・・
 そう思ったタバサは頷いた。
「ありがとう! じゃ、追いかけてくれるのね!」
 タバサは再び頷いた。そして、窓を開け口笛を吹く。
 ピューっと、甲高い口笛の音が、青空に吸い込まれた。それから、窓枠によじ登り、外に向かって飛び降りた。
 キュルケもそれに続いて飛び降りる。
 落下する2人を巨大な生物が受け止めた。受け止めた生物の正体はウインドドラゴンであった。
「いつ見ても、あなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」
 タバサの使い魔はウィンドドラゴンの幼生で名前はシルフィードと言う。
「どっち?」
 タバサが尋ねる。
「街へ行くって行ってたわ。先回りしましょう」
「わかった」
 タバサはウインドドラゴンに命じる。
「街の方へ」
 シルフィードは短く鳴いて主人に了解の意を伝えると、青い鱗を輝かせ、力強く翼を振り始めた。
 上空に上って、草原を走る馬を見つけるのだ。
 タバサは、忠実な使い魔が仕事を始めたのを確認すると、持って来た本に再び目を移した。


 魔法学院から出て3時間、ヒロとルイズはトリスティンの城下町を歩いていた。
 乗ってきた馬は町の門の傍にある駅に預けてきた。
 ヒロは、街に着くなり自分に魔法をかけた。「フェイス・チェンジ」風と水を合わせて使用する、スクウェアクラスの魔法である。自分の外見は混乱しか招かない、と考えたヒロはコルベールら教師達に自分の体を変化させる魔法はないかと尋ね、その過程で「フェイス・チェンジ」の存在を知った。教師達は、スクウェアクラスの魔法だから無理だと言っていたが、ヒロとしては、この世界のどんな攻撃魔法よりも自分にとって重要なものになると思い、それの修得に努めた。
 ヒロにしてみれば、その場で竜巻を起こすことができれば、「エア・ストーム」だろうと「トルネード」だろうと違いはないと考えた。
 あとはその理論を実行するだけだった。
 元々父親である大魔王ジャネスと母親のマリアから膨大な魔力を受け取っているヒロにとって、それがトライアングルだろうがスクウェアだろうが理解さえすれば実現可能だった。ヒロは大魔術士ではないが内包する魔力は大魔術士のそれに匹敵するのだ。彼女は遠距離より近距離を好む。ただそれだけの違いであった。
 「フェイス・チェンジ」をかけたヒロの耳は丸くなり、左腕は人間のそれと同じになった。それを見てルイズは驚く。
「ヒロってば、そんな魔法まで覚えてたのね・・・」
「概念は似たようなものだ、あとはいかに使うか・・だな」
 そんなヒロを恨めしそうな目で見るルイズ。
「それに比べて私は未だに『ゼロ』のまんまよ・・」
 落ち込むルイズにヒロはフォローを入れる。
「気にするな、人間向き、不向きがある」
 フォローになっていなかった。
「なによそれ!私は魔法を使うべきじゃないってこと!?」
「ああ、いや、そうではないぞ」
 思わずしまったと、慌てるヒロ。
「それにしても・・・街とは聞いていたが大都市、というわけではないのだな。通りもそうだが狭いな」
 話題を変えようとヒロが呟いた
 白い石造りの街はまるで話に聞くテーマパークのようだ。魔法学院に比べると質素ななりの人間が多い、皆平民なのだろう。
 道端で大声を張り上げて果物や肉、籠などを売る商人たちの姿がある。


「狭いってこれでも大通りなんだけど」
「これでか?」
 道幅は5メイルもない 。そこを大勢の人が行き来するものだから歩くのも一苦労である。
「ブルドンネ街。トリスティンで一番大きな通りよ、この先にトリスティンの宮殿があるわ」
(ふむ、自国が戦場になったときの備えなのかもしれないな)
 確かに、道が広いと街中が戦場になれば、守るべき箇所が増え敵の侵攻が容易になる。
 ヒロの世界には学園都市ヴァラノワールがあった。ヒロは実際行ったのは数回程度だが、それでも城塞都市といっても過言ではないほど周りは囲まれていたし、通りもかなり広かった。
 国家の首都の城下町と考えても、ヒロがいたネバーランド共和国のヘルハンプールのほうが大きかったような気がする。
 ルイズは四辻に出ると立ち止まり、辺りをきょろきょろと見回す。
「ピエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺りなんだけど・・・・」
 それから一枚の銅看板を見つけ嬉しそうに呟いた
「あ、あった」
 ヒロが見上げると剣の形をした看板が下がっていた どうやら武器屋であるらしい 。
「なんだ、何か武器を買うのか?やはり魔法はあきらめたのか、それとも新しい杖か?」
「買うのは武器だけど、私のじゃないわよ。ヒロのよ。それに魔法をあきらめてなんかないわよ!」
「そ、そうか・・それにしてもなぜ私に武器を?」
「だって、ヒロって武器と魔法で戦ってたんでしょう?だったら武器があったほうがいいじゃない」
 それは、そうだが、と言い掛けてヒロはやめた、ヒロが使う武器は特殊なのだ、とてもではないがこの世界でヒロが使用する武器があるとは思えなかった。
「別に武器などなくてもいいのだが、あまり気にする必要はないのだぞ」
「そうもいかないわよ。ヒロは私の使い魔なんだから、万全の状態でいてもらわなきゃ、主人の品格が問われるってもんだわ」
「万全の状態か・・・」
 そういえばもう戦いから離れて久しい、最後に攻撃魔法を放ったのは、ギーシュとの戦いで、ではなかろうか。あの時ですら、対した魔法は使っていない。それこそ初歩の初歩だ。
 別に、毎日の訓練を欠かしているわけではないが、戦闘行為がないのは何とも言えなかった。正直、腕が鈍るというのはどあまり嬉しくない事柄であった。


「さ、入りましょう」
 ルイズがドアノブに手をかけようとした瞬間だった。
「ちょっと待ちなさい!」
「ん?」
 声のした方に、ルイズとヒロが振り向く。
「な、なんであんたがここにいるのよツェルプストー!!」
「うふふ、プレゼントをしてヒロの気を引こう、だなんて、そうはいかないわよヴァリエール」
 そこにいたのは、朝も会ったキュルケであった。傍らにはタバサもいる。
「べ、別に気を引こうだなんて思ってないわよ!使い魔に何か与えるのは主人の役目でしょう!?」
「あら、じゃあ私がヒロにプレゼントをあげてもいいのね?」
「な、なんですって!?」
 まるでそれが当然のごとく、言い合いを続ける2人。ヒロは呆れた目で2人をみる。ふと視線をずらせば、タバサはそんな2人の喧騒などどこ吹く風か、気にすることなく本を読み続けていた。
「いつまで、そうしてるつもりだ?さっさと入るぞ」
 そう言うと、ヒロは武器屋の中へ入ってしまった。タバサも本をしまい無言でヒロの後へ続く。
「あ、待ってよ!」
「私も行くわ」
 ルイズとキュルケも慌てて2人の後を追った。

 入った店の中は薄暗く、光源はランプの灯りのみ。壁や棚には、剣や槍などが乱雑に並べられており、甲冑も飾ってあった。
 店の奥にはパイプをくわえた50ぐらいの男がいた。
「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
 4人もの来客、しかもどう考えてもうち3人は貴族のようであった。そのため店主も少々慌てた。
「客よ」
「こりゃおったまげた。 貴族が剣を!おったまげた!」
「どうして?」
「いえ、若奥さま。 坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をふりになる、と相場は決まっておりますんで」
「使うのはわたしじゃないわ。使い魔よ」
 人が使い魔?奴隷の間違いではないだろうか?かといって兵士にしてはどうみても力のなさそうな細い腕。しかも女性ではないか、尚且つ剣などを
使うようには見えない。
「………剣をお使いになる方はこの方で?」
 少し呆然としながら口を開く。
「わたしは剣のことなんか分からないから。適当に選んでちょうだい」
主人はいそいそと奥の倉庫に消えた。彼は聞こえないように、小声で眩いた。
「……こりゃ、鴨がネギしょってやってきたわい。せいぜい、高く売りつけるとしよう」


 彼は一メイルほどの長さの、細身の剣を持って現れた。
 随分、華著な剣である。片手で扱うものらしく、短めの柄にハンドガードがついていた。主人は話し出す。
「そういや、昨今は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」
 なるほど、きらびやかな模様がついていて、貴族に似合いの綺麗な剣だった。
「貴族の間で、下僕に剣を持たすのがはやってる?」
 ルイズは尋ねた。主人はもっともらしく頷いた。
「へえ、なんでも、最近このトリステインの城下町を、盗賊が荒らしておりまして……」
「盗賊?」
「そうでさ。なんでも『土くれ』のブーケとかいう、メイジの盗賊が、貴族のお宝を盗みまくってるって噂で。貴族の方は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」
 ルイズは盗賊には興味がなかったので、じろじろと剣を眺めた。しかし、すぐに折れてしまいそうなほどに細い。ヒロも見たところ細腕だが、なんとなくルイズは気に入らなかった。
「もっと大きくて太いのがいいわ」
「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように。見たところ、若奥さまの使い魔とやらには、この程度が無難なようで」
「大きくて太いのがいいと、言ったのよ」
 ルイズは言った。ぺこりと頭を下げると、主人は奥に消えた。
 今度は立派な剣を油布で拭きながら、主人は現れた。
「これなんかいかがです?」
 見事な剣だった。一・五メイルはあろうかという大剣だった。柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えである。ところどころに宝石が散りばめられ、鏡のように両刃の刀身が光っている。見るからに切れそうな、頑丈な大剣であった。
「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。といっても、こいつを腰から下げるのは、よほどの大男でないと無理でさあ。やっこさんなら、背中にしょわんといかんですな」
 店の武器を見ていたヒロ達もやってきた。
「あら、綺麗な剣じゃない。いいのを選ぶわね」
 キュルケのその言葉に、思わず嬉しくなるルイズ、ルイズはこれでいいだろうと思った。店一番固と親父が太鼓判を押したのも気に入った。貴族はとにかく、なんでも一番でないと気がすまないのである。
「いや、さすがに大きすぎる、持ち歩くのも一苦労のような気がするが」
 ヒロは難色を示した。もちろん以前自分が持っていた武器も結構な大型のものであるが、大剣はさすがに使用したことがなかった。
「そう?いい剣だと思うんだけど・・・」
「そうよ、いいじゃない、持っているだけで威厳がありそうだわ」
 ルイズとキュルケはその剣がいいと勧めてくる。
「駄目だな。主人よ正直それは式典用だろう?そこまで装飾がついた武器を戦場で振り回していては、目立ってしょうがない。すぐに囲まれて袋叩きにあうのがオチだ」
「よくおわかりで」
「なあ主人、鎌は置いているだろうか?」
「へ?鎌ですか?・・・いやぁ・・さすがに農具は置いていませんや」
「いや、農具ではない、大鎌だ・・」
「いや、使い魔さん、大きな鎌なんて死神くらいしか持ちませんぜ」
「そうか・・・」 
 ヒロは心底残念そうな顔をする。


「いいじゃない、私の使い魔なんだもの。ヴァリエール家の使い魔として、これくらいは持ってて欲しいわ」
「おいくら?」
 ルイズは尋ねた。
「何せこいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。ごらんなさい、ここに
その名が刻まれているでしょう? おやすかあ、ありませんぜ」
 主人はもったいぶって柄に刻まれた文字を指差した。
「わたしは貴族よ」
 ルイズも、胸をそらせて言った。主人は淡々と値段を告げた。
「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千」
「立派な家と、森つきの庭が買えるじゃないの」
 ルイズは呆れて言った。さすがにヒロは相場と貨幣価値がわからなかった。
「名剣は城に匹敵しますぜ。屋敷で済んだらやすいもんでさ」
「新金貨で、百しか持ってきてないわ」
 ルイズは貴族なので、買い物の駆け引きがへたくそだった。あっけなく財布の中身をばらしてしまう。主人は話にならない、というように手を振った。
「まともな大剣なら、どんなに安くても相場は二百でさ」
 ルイズは顔を赤くした。剣がそんなに高いとは知らなかったのだ。
 そんなルイズを見てキュルケは、手を顎の下にかまえ、おっほっほ! と大声で笑った。
「貧乏ね! ヴァリエール! 公爵家が泣くわよ!」
「な、なによ!じゃああんたには払えるっていうの!?」
 またもや言い争いを始める2人であった。
(やれやれ、バニラとイグレーヌのような2人だな。実は仲がいいのではないか?)

 そのとき……、乱雑に積み上げられた剣の中から、声がした。低い、男の声だった。
「生意気言うんじゃねえ。」
 ルイズ達は声の方を向いた。主人が、頭を抱えた。声の聞こえてくる方には人影はない。ただ、乱雑に剣が積んであるだけである。
「剣の価値がどこにあるのかもわからねぇ娘っ子達が偉そうにしやがって、おめーらには金の延べ棒でも持ってるのがお似合いさ。わかったら、さっ
さと家に帰りな!貴族の娘っ子共!」
「失礼ね!」
 怒るルイズを尻目に、ヒロはつかつかと声のする方に近づいた。
「誰もいないようだが・・」
「おめえの目は節穴か!」
 ヒロは目を見張る。なんと、声の主は一本の剣であった。錆の浮いたボロボロの剣から、声は発されているのであった。
「ほう、喋る剣か」
 ヒロがそういうと、店の主人が怒鳴り声をあげた。
「やい! デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」
「デル公?」
 ヒロは、その剣をまじまじと見つめた。さっきの大剣と長さは変わらないが、刀身が細かった。薄手の長剣である。ただ、表面には錆が浮き、お世
辞にも見栄えがいいとは言えなかった。
「それって、インテリジェンスソード?」
 ルイズが、当惑した声をあげた。


「そうでさ、若奥さま。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。いったい、どこの魔術師が始めたんでしょうかねえ、剣をしゃべらせるなんて……。とにかく、こいつはやたらとロは悪いわ、客にケンカは売るわで閉口してまして……。やいデル公! これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」
「おもしれ! やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等だ!」
「やってやらあ!」
 主人が歩き出した。しかし、ヒロが主人を片手で制する。
「まあ待て、喋る剣とは珍しいな。少なくとも私の国にはなかった」
「お前、デル公という名前か」
「ちがわ! デルフリンガーさまだ!」
「名前だけは、一人前でさ」
 剣は黙った。じっと。ヒロを観察するかのように黙りこくった。
 それからしばらくして、剣は小さな声でしゃべり始めた。
「おでれーた。見損なってた。そのルーンてめ、『頭』のほうか」
「『頭』のほう?この額のルーンについて何か知っているのか?」
「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい。てめ、俺を持ちな」
 デルフリンガーに促され手に持つ。その瞬間、ヒロの額のルーンが光り、頭の中へデルフリンガーの詳細な情報が流れ込んできた。
「ぐ・・なんだこれは・・・」

 名前:魔剣デルフリンガー
 種類:インテリジェンスソード
 特徴:『ガンダールヴ』が使用する魔剣。魔法の吸収、蓄積が可能。蓄積した魔力を使用し、使用者を動かすことも出来る。

 痛みがあったのは最初だけで、慣れてくればなんということはなかった。そしてヒロの頭にはどんどん情報が流れてくる。使用方法から作られた経緯までである。
(ルーンが光っている、これが、このルーンの特性か?なるほど魔剣等のマジックアイテムの使用方法と使用が出来る。というわけか)
 ルーンの光がやむ。


「ヒ、ヒロ大丈夫?」
「ああ、一瞬だけのことだったからな」
 心配するルイズ。
「おう、どうよ、自分の能力がわかったか?俺様もおめーさんが握ったおかげで色々思い出したぜ」
「ああ、ところでお前は他にもいろいろ知っていそうだな」
「あたぼーよ」
「ルイズ。これを購入したいのだが」
 ルイズはいやそうな声をあげた。
「え~~~。そんなのにするの? もっと緯麗でしゃべらないのにしなさいよ」
「そうよ。ヴァリエールが買えないなら私が買ってあげるわ」
「喧しいわよ!今回はたまたまお金が足りないだけよ!」
「よいではないか、喋る剣など珍しい、しかもこいつには色々秘密があるようだからな」
 ニヤリと笑うヒロ。
「せっかくの初めてのプレゼントがあんなボロ剣だなんて・・・」
 ルイズはぶつくさ文旬を言ったが、他に買えそうな剣もないので、主人に尋ねた。
「あれ、おいくら?」
「あれなら、百で結構でさ」
「安いじゃない」
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」
 主人は手をひらひらと振りながら言った。
 ルイズは財布を取り出すと、中身をカウンターの上にぶちまけた。金貨がじゃらじゃらと落ちる。主人は慎重に枚数を確かめると、頷いた。主人は剣を取り、鞘に収めるとヒロに手渡そうとした。
「ああ、主人よ、すまないがさすがに錆びたままでは切れ味も悪いだろう。厄介払いついでにこの剣を磨いでもらえるとありがたいのだが」
「へぇ、わかりました。それくらいならサービスでやらせてもらいまさあ。時間を少々いただきますんで、どこかで時間でも潰してきてくだせぇ」
「わかった」

 ルイズ達は武器屋を出た。
「さてと、どうやって時間を潰しましょうか」
「そうだな・・・とりあえずこの街を案内してもらえるか?さすがに初めての場所だ。1人で来るようなことがあった場合のためにも店の場所などを把握しておきたいからな」
「あら、じゃあ私が案内してあげるわ」
「あんたはトリスティンの人間じゃないでしょうが!」
 やれやれ、とヒロは残るタバサのほうを見るが、彼女は我関せず、読書にふけっているのであった。
「もう!私が案内するからついてきなさい!」
 ルイズは先頭に出ようと走り出した。
「はやくー!」
 そういうと、ルイズは脇道へと入っていった。



 ルイズ達が武器屋を出てから、ルイズ達を正面から隠れて見ている者がいた。
 男であった。男は名前をザッハと言った。彼がやっている仕事は、表面上は運搬業である。しかし本当の仕事は人身売買であった。しかもただの人身売買ではない。平民だけでなく、貴族の娘を他の貴族に高値で売りつけるという、発覚すれば即死刑ともいえることをやっているのであった。
 彼はルイズとヒロが街に来たときから目をつけていたのだ。桃色の髪の毛の少女は、どうやら貴族のようだった。見た目は上玉だ。見たところ体の発育はあまりよくないようだが、貴族の中にはそういった嗜好の持ち主も少なくない。しかもそれが平民ではなく、貴族ならばなおさらだ。
 しかし、彼は焦った、街で見たときは2人だったはずなのに、武器屋から出てきたときは4人になっていたのだ、しかも増えた2人も貴族のようだったからだ。さすがに3人も貴族、つまりメイジがいる中から1人を連れ出す。というのは非常に困難だった。せっかく見つけた上物の商品だ。ここで逃したくはなかった。
 彼がどうしたものかと考えていると、好機が訪れた。目をつけていた娘が走り出し脇道に入って行ったではないか。
 すると彼は懐から小瓶を取り出す。小瓶の中身は魔法の薬であった。彼の顧客の中には水属性のメイジも少なくはない。その中の1人に報酬の1部として貰ったものである。
 その薬品は布等にしみこませて、吸い込ませると眠ってしまうという即効性の睡眠薬であった。
 ルイズは走ったため、他の3人と結構な距離があり、しかも自分のいる方に向かってくる。今しかない、とザッハは荷物を持って歩いているそぶりを見せ、すれ違った瞬間、ルイズの後ろに回りこみ、ルイズの顔に布をあてた。効果はてきめんで、ルイズは驚いたのも束の間、薬の効果で眠ってしまった。ザッハはすぐさまルイズを持ってきた袋に詰め、何食わぬ顔で反対側の通りに出て行き、『商品』を一時的に置いておく場所へと向かっていったのだった。

 ヒロは、脇道に入ったルイズを見て、まったく元気だなと思っていると、突如感覚がざわついた。もちろん一瞬のことではあったが嫌な予感は頭から離れなかった。突如ヒロは走り出す。
「ちょ、ヒロ!?」
 慌てるキュルケ、しかしヒロは止まることなくルイズが入った脇道に入った。
 しかし、そこにルイズの姿はなかった。
「ルイズ?」
 キュルケ達も追いついた。
「あら?あの子ったらどこに行っちゃったのかしら。案内するって言っておきながら、自分が迷子になってちゃ世話ないじゃないの~」
 ぷー、と頬を膨らますキュルケ。一方タバサは周りを見渡していた。
 3人で歩いていくと、反対の通りに出た。
 すぐ横に露店があったので、ヒロはそこの主人に尋ねた。
「ここを、桃色の髪の少女が出てこなかったか?」
「いやぁ、ここは誰も通ってないな。そんなに特徴のある子だったら憶えてるはずだ」
「そうか、すまんな」



 ヒロは2人に向き合った。
「どうやら、我が主は迷子になったようだな。すまんが私はルイズを探すとする。正直少し時間がかかるかもしれん。先に帰ってもらってかまわんが」
「私も探すわ」
「私も探す・・・」
 どうやら2人も探してくれるようだ。
「すまんな、私もここの地理は詳しくないので正直助かる。もし見つけたら何か合図を空にしてくれ」
 2人は頷くと、二手に分かれて行った。
「さて、迷子を捜すとするか」
 口調は軽かったが、その目は真剣だった。ヒロは考える。
(ただの迷子とは考えづらい、下手をすれば拉致というのも視野に入れておくべきか)
 再びヒロは先ほどの露店の前に行った。
「さて主人よ、私は桃色の髪の少女が出てこなかったか?と聞いたわけだが、では私達以外でここの通りを誰か通らなかったか?」
「ん?そうだなぁ・・・そういや運送屋のザッハが出て行ったねぇ。いつも貴族様の荷物を運んでる奴でね。大きい倉庫も持ってるし、俺も貴族様に気に入られて仕事をいただきたいもんだよ」
「ほう・・そのザッハの倉庫はどこにある?」
「ああ、ここの通りを北へまっすぐ行って5つ目の角を左へ曲がると、赤いレンガの建物があるからそこがザッハの倉庫さ」
「わかった。恩に着る・・・そうだな、コレは謝礼だ」
 ヒロは召喚されたときから持っていたアクセサリーの1つを外して渡した。ブルーウォーターというネバーランドの宝石であった。
「こ、こんな高価なもの、困りますよ!!」
「気にするな、それで新しい商売でも始めるといい」
 そう言うとヒロは、何か言いたそうな店主を置いて、倉庫へ向かった。

 ザッハは倉庫へ上機嫌で帰ってきた。ザッハの倉庫は普通の建物とは違い、固定化の呪文がかけてある。もちろん防音も完璧だ。中のもの盗まれないように、というのが名目上の理由だが、実際は違う。中で何が起きようとも、外に漏れないようにするためだった。
「ザッハさん。嬉しそうですね。どうかしたんですか?」
 部下達が寄ってくる。
「ああ、お前達、今回の商品を仕入れたんだよ」
 ザッハは担いでいた袋を床に下ろす。袋の中からは貴族と思われる服装を着た少女が出てきた。睡眠薬が効いているのだろう。目覚める気配はなかった。
「おおー、さすがザッハさんですね。最近ペースがいいんじゃないですか?」
「まあな、まあここ最近は平民の娘ばっかりだったが、今回は違うぜ。貴族だ」
「マジっすか!?」
「こりゃあ今度はいいものが食えるかもしれませんね」
「ああそうだな、だがよお前ら、せっかくの貴族だ。ただ売り渡すってのも勿体ないだろう。先に味見をしてから渡すってのもいいんじゃねぇか?」
「そいつはいいですね」
 ザッハと男達は卑下た笑みを浮かべた。



 ヒロはザッハの倉庫へ向かう途中、いくつかの露店でザッハという者の話を聞いた。
 ほとんどの店での聞いた印象では、真面目に仕事をしているとのことだった。貴族からの評判もいいそうだ。
(話を聞く限りではシロだが・・・さて)
しかし8軒目の店で1つの話を聞く。
「なんかあの人、人身売買の運搬もやってるって噂があってね。まあ根も葉もない噂だと思うけど。実際あの人真面目だからねぇ。多分言っても信じられないから俺は言ったことはないよ」
 その話を聞いた瞬間、ヒロは走った。
(人身売買だと?どこかへ送られたら終わりだ!)
 火のないところに煙は立たぬとはよく言ったものである。つまり疑わしくなければそういった噂はたたないものなのだ。
 5つ目の角が見えた。そのまま扉をけり破り中へ入る。
 そしてそこには、目隠しをされ、服がはだけているルイズと、そのルイズに覆いかぶさろうとしている男と周りに数人の男達がその倉庫の中にいた。
「ル・・・イズ・・?」
 呆然とした表情になるヒロ。
 部下の1人がヒロに気づき怒鳴る。
「何だお前は!どこからはいっ・・・
 その男の声は途中で炎で消された。
「貴様ら・・・・!!」
 ヒロの赤い目は暗がりの中でいつもより赤く輝いていた。



「・・・イズ。ルイズ・・起きろルイズ」
「ううん・・・」
 ルイズは目を覚ます。するとそこにはヒロとキュルケ、タバサがいた。
 慌てて、体を起こすルイズ。見渡せばどこかの部屋のようである。
「あ、あれ?私ったらどうしたのかしら」
「ああ、お前が走って滑って転んで頭を打って気絶してたのを、たまたま通りがかった者が快方してくれていたんだ」
「そ、そうなの?」
「まったく、ドジねぇ」
「う、うるさいわね!」
 恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして言うルイズ、そんなルイズを見てヒロも思わず苦笑する。
「ヒ、ヒロまで笑っちゃって、もう知らない!」
「はは、すまんすまん、さて、剣も受け取ったことだ、帰るとするか」
「娘っ子よ、よろしくな」
 鞘から、出て喋るデルフリンガー、錆だった刀身もピカピカになっているようだった。
 結局、今日買ったものはデルフリンガーだけであった。
「ごめんなさい。案内するって言ったのに」
 ルイズは申し訳なさそうに、ヒロに謝る。
「気にするな、また次の休日にでもくればいいではないか」
「う、うん、今度こそ案内するわ!」
 そうして、4人は学院へと帰っていった。





「おい、聞いたか?ザッハさんの倉庫で死体が転がってたそうだ。しかもその死体は当のザッハさんだってさ」
「ええ、知ってるわ。なんでもあの人、人身売買してたそうじゃない。」
「それだけじゃないんだって、貴族も商品にしてたってさ。どうやらあの時倉庫にいた奴らみんなが殺されてたらしい。死因は焼死だとさ」
「ああ、それだろう?死体は全部黒焦げで、誰が誰かわからないくらい燃やされてたらしいぜ」
「中には体が一瞬で燃やされて、壁に『人間だったもの』みたいな跡があったとか」
「火のメイジの仕業だとは思うけど、誰がやったのかわかってないんだってさ」
「怖いねぇ、やっぱり貴族様とはあんまり係わり合いを持たないほうがいいのかねぇ」
「固定化の呪文がかけてあったおかげで、まわりに被害がなかったらしいけど、ほんと貴族様を怒らせたら終わりだってのがよくわかったわ」
「うちもその辺は気をつけるようにするよ」
「盗賊は出るわ、殺人鬼は出るわ。でトリスティンはどうなっちまうんだろうね」


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