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狼と虚無のメイジ-05


狼と虚無のメイジ 第五幕

チチチチ……と小鳥達の唱和の中、先に目を覚ましたのはホロ。
目をしぱしぱとさせながらゆっくりと上体を起こした。
朝の空気をたっぷりと吸い込み、はてここは何処かと頭を動かす前に、ふと尻尾に違和感を覚えた。

長い尻尾に、自分のものではない四肢が絡みついている。
言うまでもなくルイズだ。触り心地のよさに無意識のうちに掴んだのだろうか、抱き枕よろしく幸せそうな寝顔だ。

「む。これ。離さぬか」

華奢な外見とは裏腹に、強力にがっちりと掴み込んでおり、ホロはルイズをひっぺがすの苦労した。
ようやく剥がした頃には、尻尾の毛並みはくしゃくしゃだ。
自慢の尻尾の惨状に、さすがに眉をひそめたが、尾に潜んでいた小さな「跳ねる何か」に気づくと、にまーっと笑ってベットを降りた。
剥がす際にあれこれ動かしたのに、ルイズはまだまだ夢の中。
起こしても無駄だと判断したホロは、前日聞いていた「使い魔の仕事」とやらを片付けるため、幾つかの衣服を纏めると部屋を後にした。

◆       ◆       ◆       ◆       ◆

人の姿で歩くと、この建物は随分と広い……とホロは思った。
城などの様式は幾つかホロも見知っていたが、目の前にあるものは随分と雰囲気が違う。
さすがは月が二つある地、と感慨深げだ。
故郷には帰りたい。
しかし、せっかく遥かな異境にいるのだ。色々と見て回り、森の仲間に自慢するのも一興。
そんな程度にホロは考えていた。
ヨイツの賢狼は中々どうして、好奇心が強いのだった。

さて、そんなこんなで水場を探してあぐねていると、女中と思しき娘がいたので声をかけてみる。

「そこな娘、よいかや?」
「あ、はい。何でしょうか?」

振り向いた素朴な印象の黒髪の娘は、緊張した面持ちで振り向く。
使われている立場からすれば当然なのだろうが、ホロにはいささかオーバーに見えた。
ただ、その表情は次の瞬間驚きを現すものに変化した。

「え、耳?」

それも当然、頭の斜め上ぐらいから、明らかな獣の耳が突き出ている。目線を下に向れば、ふさふさとした尻尾が揺れている。
見間違いかと目を擦るが、それは一向に消える気配が無い。

「かしこまらずともよい。わっちは今はただの使い魔とやららしいからの」
「つ……使い魔?」

娘はしばし考え込むと、ハッとした様に顔を上げた。

「あ、もしかしてミス・ヴァリエールが使い魔にしたと言う……亜人の方ですか?」
「そんな様なものじゃな。ホロという。よろしくの」
「あ、はい。私はシエスタと申します。こちらでご奉公させて頂いております」
「しかしよくわかったのお」
「ええ、召喚の魔法で亜人の女の子を呼んでしまったって。噂になってますわ」

なるほど。自分が喚び出されたことは結構特殊な事例らしい。逡巡しているとシエスタが恐る恐る聞いてきた。

「ところで……その。ホロさんも魔法が使えるんですか?それって制服ですよね」
「ああ、他に服が無いと言うので、あるじ様に貸していただいたんじゃ。わっちは空を飛んだりはできぬ。しかしやはりこの服はよくない。腰巻が尾に当たってどうにも違和感がのお」

尊敬などまるでこもっていない、しかし、それでも好意的な「あるじ様」と言う言葉に、シエスタは目を丸くした。
どちらかと言えば相手の全てを把握した上で、生暖かい目で見ている者の言い方だ。

「あ、あの、私の服でよければお貸ししますよ。その荷物、洗濯をしにいらっしゃったんですよね。洗う前に着替えたら一石二鳥ですよ」
「ふむ。気がついたかや。ぬしは気が効くようじゃ」

にこりと好意的な笑みを浮かべたホロに、シエスタはドキっとしてしまう。
貴族の通うこの学院においては美形も多いが、目の前の人物は一般的な美しさとは一線を隔するなにかがあった。
異種族とはいえ同姓に対して何を考えてるのかと思い直したあたりで、ホロは思い出したようにつぶやいた。

「……いや。その前に一つやることがあったの」

例によって意地の悪そうな笑みを浮かべたホロは、シエスタにごにょごにょと耳打ちをする。
話を理解した瞬間シエスタは一瞬顔をしかめたが、確かに魅力的な尻尾だし、「それ」がいるのも当然であると思えた。
幸い使い魔の多い学院においては対策用の薬剤などは完備してある。シエスタはホロを促すと、学院の一室へと向かった

◆       ◆       ◆       ◆       ◆

まどろみと言うものは人によっては至福とも言える時間だ。
睡眠時自体はこれと言って何を考えられる訳でも無いため、「寝ている」と自覚して理性を投げ出せる数少ない時間帯と言える。
が、その日ルイズに与えられたまどろみはほんの一瞬だった。

「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!」

痒み。
とてつもない痒み。
痛みではなく、猛烈極まる痒みがルイズの体の複数箇所を直撃していた。

「痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒いーーーーーーーっっっっっ!」

涙目になりながら絶叫するルイズ。これは決して大袈裟なリアクションではない。叫ばないと正気を保てない程の苛烈な痒みなのだ。
両手で患部をバリバリと掻くが、そんな程度で解消するほど生ぬるいものでは無い。
掻けども掻けども解消されない霜焼けの痒みにも似るが、暖めればどうにかなるそれに対して現状では対応策は無いし、痒みそれ自体のレベルも雲泥の差だ。
しかも、複数ある患部に比べて自らの腕は二本一対しか存在しない。
寝覚めとしては最悪の部類に入る経験の中で、気絶することも叶わずルイズはベットの上でのた打ち回った。

5分か6分か……実際にはその程度だったが、ルイズにとっては無限に続くかと思われた拷問の中、ギィと部屋のドアが開いた。

「良い朝じゃの、あるじ様。洗い物は今干しておる最中じゃ」

町娘風の動き易そうな服装に着替えたホロは、しれっとした顔で言った。思惑こそ読めないが、その癇に障るほどの可愛らしい笑顔が示すものは一つ。
この状況はホロが作ったものであると言うこと。
痒みに我を忘れていたルイズだが、この怒りでやや思考が纏まってきた。

「あんたぁ……何っ……してる……のよ!」
「これは異なことを仰られる。言われた通りに洗濯をし、今まさにあるじ様を起こしにきたところじゃ……と言っても」

ぱぁん!と、破裂音が部屋に響く。突然ホロは目の前で跳ねる「何か」を両手で叩き潰したのだ。

「起こしたのはどうやら蚤共のようじゃがの」

ルイズが朝っぱらから地獄の様な痒さを味合わされた原因は、何を隠そう蚤だった。
痒さに単位があれば間違いなく上位に食い込む蚤。伝染病の媒介ともなる不衛生なそれは、貴族の嫡子達が暮らす寮に本来いるはずの無い虫だ。
それが何故ルイズの部屋でぴょんぴょん跳ねているかは、少し考えれば頭の弱い者でもすぐに解る。
そしてルイズは激昂することこそ多いがそれなりに頭の回転が速い。

「ホロ……あんたねぇぇぇぇぇ」

怒気で痒みが一瞬収まったのもつかの間、すぐにまたバリバリと体を掻く。
苦々しく呻くルイズを横目に、ホロは的確に辺りを跳ね回る蚤を駆逐していった。

「確かに原因はわっちじゃがの。不可抗力と言う言葉もあろう?それにこれほど念入りに抱きつかれては、蚤共も喜んでぬしに齧りつこうと言うものよ」

責める様な瞳でホロは尻尾を見せた。自慢の毛並があちこち乱れている。

「幸せそうな顔で尻尾に顔を埋めているぬしを叩き起こせばよかったのかの?これでも引き剥がすのに苦労したのじゃ」

やれやれと両手をヒラヒラさせるホロに対して、悪態の一つもつきたいルイズではあるが、痒みのあまりもともな返事も危うい状態だ。

「ふむ、片付いたかえ。膏薬を貰ってきてやったでの。少しじっとしておれ」
「うううぅ……早くしてぇ……」

蚤をあらかた駆除すると、ホロは懐から小瓶を取り出した。緑がかった膏薬を指にとり、赤く腫れた患部に塗り込む。
さすがは学院で使われている薬品、塗って数秒後にはスっと痒みが引いていった。

「うぅ……死ぬかと思ったわ……」
「ふむ、痒みで死ぬとは笑い話じゃの」
「あのねぇ、誰のせいだと……」
「一概に誰のせいとも言えぬ。そうであろ?わっちも気づいたのは起きてからじゃ」

痒みが落ち着いてこみ上げてきたきた怒りに、またも消火剤。
何しろこんな成りでもホロは狼だ。外にいたなら蚤の一匹や二匹は貰っていて当然と言える。
喚び出したのはルイズの方だし、「蚤がいるとは知らなかった」では済まされない。
むしろこの部屋以外に広げずに済んだことの方が僥倖と言えるし、仮にホロがただの狼だったとしたら、気を効かせて薬を持ってくるということもなかっただろう。
誰が悪いとも言えないが、良く考えれば非の天秤はややルイズに傾く。また、ホロの行動はかなりベターなものであると言える。

もっともルイズも体力満タン時であれば、「だからどうした」とばかりに八つ当たりするところだが、痒みによる悶絶で体力がいい具合に磨耗していた。
つくづく交渉や説得と言うものは相手が疲れている状況に行うのが定石らしい。

「……キュルケが可愛く見えるわ」
「きゅるけ?何かの食べ物かや」
「似ても焼いても食べられないわね、きっと」
「?」
「ああ、いや、焼いたら喜ぶわねあの女。何しろ野蛮なゲルマニアだもの。伝説の虚無魔法とかで下品な胸ごと跡形も無く吹き飛ばすべきね。ヘキサゴンとかも良いかしら……」

ブツブツと黒い想念を吹き上げて恨み言を呟き始めたルイズ。
面白そうに眺めていたホロだったが、直に飽きてきたのか尾の毛づくろいを始めた。
脳内での蹂躙が一通り済んだルイズは我に帰ると、掻きまくったせいでまだ少しヒリヒリする患部をさすりながら、いそいそと服を着る。
そして服を着た直後「しまった」と言った顔をした。

(威厳を見せる為に着させようと思ってたのに……!)

ジト目でホロの方を見たが、時すでに遅しだ。
今更脱いで「着せなさい」とは言えないし、仕切り直しで明日また強要しても、この老獪な狼にはもう通じないだろう。
何しろ一度「自分で着ている」のだから。
もし言ったとしたらホロのことだ。あっと言う間に「何故着させようとしたか」という核心にたどり着く。
天秤にかければ、それを指摘されることの方が遥かにダメージが大きい。なんという綱渡りが要求される使い魔だろう。

必死で表情を噛み殺そうとしている所に、ドアをバタンと開けて誰かが入ってきた。

「ちょっとルイズ。朝から五月蠅いわよ?」

現れたのは見目麗しく豊満な体と褐色の肌に、燃えるような紅い髪を添えたグラマラスな美女だった。
雄が見れば我先に食いつきそうじゃの、などと思いながら横目で一瞥したホロは、すぐに毛づくろいに戻る。
ちなみにルイズはと言うと、これ以上無いぐらい嫌そうに顔を歪めていた。

「どっちがよキュルケ。大体ノックもせずに入ってくるなんて本当に嗜みが無いわね」
「あら、ごめんなさい。でもあなたは「嗜まない」相手もいないんだから構わないじゃない?」
「う」
「対してあたしは日夜殿方の寵愛を受ける身。お肌の手入れだってかかせないのよ? 睡眠時間もちゃんと取らなきゃならないし、あなたの奇声で叩き起こされるのはたまったもんじゃないのよ」
「あ、あんた、学生の本分忘れてない?」
「あら、その「本分」の方こそ、この上なくこなしてるわよ? 昨日だってしっかり……あらあ?」

キュルケは目線をホロの方に移動すると、指を刺して笑いながら言った。

「あっはっは! やっぱりあなたの使い魔ってそれ? 本当に亜人だったのね! 可愛くて良かったじゃない!」

一見すれば嘲笑に近い笑いだが、その対象となっているホロの胸中はと言えば全く別だった。
元いた場所では耳や尻尾を見せるだけで教会に追われることも多く、人の姿だと晒すことそれ自体がタブーのようなものだった。
ところがここでは耳と尾の両方を「本物である」と認識した上で、それがどうと言うことも無いように接してくる。
長を生きてきたホロだったが、この反応は新鮮だった。

……ただし、それと「馬鹿にされている」と感じることはまた別の話だったが。

「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。フレイムー」

呼びかけと共に室温が数度上がる。キュルケの後ろから鮮やかなばかりの赤い体がのそりと這い出た。
尾が炎で形成されている巨大な大トガゲだ。
大の大人でも対面したら腰を抜かしそうな威圧感を放つその大トカゲは、感情の伺えない瞳でぎょろりと部屋を見回した後、ベットの方に視線を向ける。
ホロは毛づくろいをしながらにっこりとフレイムに微笑み返すと、本当に小さく呟いた。

(美味そうじゃのお?)

途端にフレイムは瞳孔を収縮させると、脱兎の如くにキュルケの後ろに隠れた。

「あ、あら?フレイム、どうしたの?挨拶なさい」

キュルケが必死になって前に出そうとするが、フレイムは歯をカチカチならして威嚇とも脅えともつかない行動を続けるばかりだ。
尻尾の炎は勢いよく燃え、天上に届かんばかり。
様子を見ていたホロはトカゲ以上に感情の読めない笑顔でルイズに言った

「ふむ、あるじ様。使い魔と言うのは主人を守るものでありんすな?」
「え?何よ突然。 ……まあ、そうだけど」
「くふ。となると後ろに控えるあの赤い御仁こそが主人と言うことでありんすか?」

こじつけである。
だが、ルイズはピンと来た。
なるほど、素晴らしい援護だ。

「そ、そうねぇ。確かにあれだけ立派な体格ですものねぇ。となると手前にいる下品なのは何かしら、ホロ?」
「ふむ、褐色の色艶に少しばかり大降り過ぎる実……。すばり木ではありませぬかの、あるじ様」

ブラウスのボタンを一つ二つ外したキュルケを見て、ホロは大袈裟に考えてそう言った。

「よくできたわね、ホロ。余りにも下品で図鑑にも載っていない唐変木って言う珍妙極まる植物よ。口を開けば罵詈雑言ばかりのね」
「ほう、喋ると申されましたかや。となるとわっちは酔ってはおらなんだようじゃ。 ……しかし、かように珍しい木を使い魔とするとは、赤き御仁もさぞ素晴らしいメイジであられると言うことじゃの、あるじ様」
「もちろんよ。フレイム・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと言う、名にも負けない素晴らしいメイジよ。我がヴァリエール家とは長年のライバルなんだから、当然よ」
「宿敵を尊重されるとはあるじ様も偉大であるの。しかし……キュルケと言ったかや。仮にも使い魔が貴族であられるあるじ様にあの口調は無礼だと心得た方がよいであろ」
「仕方ないわよホロ。昨日召喚されたばっかりで右も左も解らないんだから。あなたみたいに構えられる方が珍しいってこと。じゃあ、フレイム。お先に失礼?」

立て板に水の会話が続くこと3分弱。目の前の情報を処理し切れぬままのキュルケに対して、ルイズは颯爽と桃色の髪をかきあげて部屋を出て行った。

尚、去り際にホロは「冗談じゃ」とフレイムにだけ小さく呟いた。するとフレイムは緊張の糸が切れたようにどっとその場に臥せる。
もし彼が蛙であれば、良薬が滲み出る程に脂汗を流していただろう。

片や一方的な皮肉に晒されていたキュルケは、ここに来てようやく先程の会話内容を把握した。

「……ちょっと!誰が使い魔だってのよ!使い魔はこっちのフレイムに決まってるでしょうがっ!」
「もういない」

いつの間に居たのか、機械的ともとれる無機質な声がキュルケの後ろから放たれる。

「あら!?タ、タバサ?いつの間に……」
「今さっき」
「ちょっとタバサ聞いてよ~。ルイズの奴が」
「そんなことより」
「え?」
「朝食に間に合わない」

それだけ告げるとタバサは踵を返してさっさと歩き始めた。

「……」

キュルケは唖然とした後、苦虫を噛み潰した様な顔になり……

「っきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

ルイズに舌戦で負けた事をようやく理解して地団駄を踏んだ。


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