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イザベラ管理人-11




イザベラ管理人第11話:涙の理由・後編



耕介に詳細な経緯について説明させるイザベラであったが…実はそんなものは必要なかった。
『吸血鬼をつれてきた』『コースケ』この二つの要素だけでもはや答えは出たも同然だったからだ。
実際、耕介の説明は、吸血鬼特定の手段などを別にすればイザベラの想像の範疇に収まるものだった。
タバサも特に口を挟んでこない以上、他に報告事項もないのだろう。
であるならば、イザベラは責務を果たさなければならなかった。
「だからこの子…エルザをここに連れてきたんだ。それと、家を焼かれたお婆さんの当面の生活費の援助を頼みたいんだけど…」
「そうかい。全く、わかってたことだけどとんでもないお人好しだよ、あんたは」
耕介の説明が終わったことを確認し、イザベラは椅子から立ち上がってベッドへと向かった。
イザベラはお飾りとはいえ、北花壇騎士団の団長だ。
汚れ仕事を請け負う名誉なき影の騎士たち故に規模は小さいし、騎士団と名をつけることも本来は相応しくない。
だが、それでもイザベラが責任者であり、耕介が部下であることに変わりはない。もしもそうであるならば…イザベラが責任を取るべきだ。
イザベラはベッドの脇の台に立てかけてある杖をとり、耕介たちに…いや、耕介に振り向き、その切っ先を向けた。
「イ、イザベラ?」
状況のわかっていない耕介と、こちらを鋭く睨みつけてくるエルザを無視し、イザベラはするべきことをするために声をあげた。
「ミカヅキ、出な」
耕介の持つ剣から燐光が溢れ、黒い着物の少年となる。
その姿は微妙に透けており、イザベラが苦手とする者であることを示すが…この少年が人畜無害であることは既にわかっているから恐れを抑え込むことができた。
「ミカヅキ、コースケに仕える剣であるあんたに問う。コースケは屍食鬼か?」
吸血鬼の恐ろしいところは人間社会に溶け込めるところだ。故に、これは絶対に必要な確認だ。
本来ならそれを確かめることは至難だが、御架月は魂の有無で屍食鬼か否かがわかる。
「耕介様に仕え、護る剣として答えます。耕介様は屍食鬼ではありません」
御架月は淀みなく言い切った。
その様子は嘘をついているようには見えず…何より、耕介に心酔している御架月が彼の危機を見過ごすはずもないだろう。
「そうかい、ならいい。北花壇騎士7号、コースケ、任務ご苦労」
言葉と共に耕介から視線をきり、イザベラは棚から紙を取り出してなにがしか書き付ける。
それを、未だにイザベラに厳しい視線を向けるエルザをあやす耕介に向かって<<レビテーション>>で飛ばした。
「それをもって財務官のところへいきな。北花壇騎士団の予算を必要なだけ使える」
その紙には北花壇騎士団に与えられた予算の使用を許可する旨が記されていた。
「ありがとう、イザベラ。助かるよ」
耕介は弾んだ声で礼を言うが、イザベラの声は平坦なままだ。
「なんであんたが礼を言う必要があるんだい。あたしが必要だと判断したから許可しただけだ。ほら、あたしはもう寝るんだ、とっとと自分の部屋に戻りな」
「あ、ああ…わかった」
耕介はイザベラの態度から出発前の事件が未だ強く尾を引いていると理解したようだが、結局はタバサらと共に扉へと向かっていった。
正直なところ、一刻も早くイザベラは早く解放されたかったのだ。
耕介がサビエラ村へ発ってから四日、さすがに冷静になってあの時のことを考えられる程度には余裕ができている。
そう、単純な話なのだ。全ての原因はイザベラにある。
耕介があんな手紙を残したのだって、自己嫌悪に陥っていたイザベラを心配したからだ。
字が書けないのだし、代筆を頼んだとしてもおかしい話ではない…何故よりによってシャルロットなのだ、とは思うが。
自己嫌悪の原因だって、単に自分と耕介を比べての劣等感で、耕介にはなんら非はない。
それに、耕介がタバサと仲良くなるのも当然のことだろうと思う。耕介は人一倍お人好しだから、あのタバサを放っておくわけもない。
イザベラが苦々しく思うのは、醜い嫉妬以外の何者でもない。
耕介は何も悪くなどない。そんなことはわかっているのだ。
だが、今のイザベラにとって、耕介がいること自体が辛い。自分の使い魔であること自体が痛い。
もうどうしようもないのだ。
無能王の無能さを引き継いだ娘として、天才シャルロットと比べられてきた毎日。地位以外に価値のない自分。
それらが絡み合い、重なり合って、十重二十重にイザベラを縛り付ける。

根深く息づいた劣等感と自己嫌悪で潰れそうになる。
だのに、耕介がいなくなるのもまた、辛い。彼はイザベラの劣等感を刺激すると同時に、何の打算もなく心配してくれる唯一の存在なのだ。
耕介がいることが辛いのに、いなくなるのも嫌など…本当に救いようがない二律背反。
イザベラはもう何度目ともしれない自己嫌悪のループに陥り…それでも、その声が誰かすぐに理解できた。
「なぁ、イザベラ。寝る前に悪いんだけど、少し話さないか」
なんとなく、来る予感もしていた。耕介がこのままにしておくわけがないのだ。
「なんだい。内容によっちゃ、考えてやらないでもないよ」
ベッドに腰掛け、ちらりと声の方を見ると、耕介は扉の前に御架月も持たずに立っていた。
どうやらタバサにでも御架月を預けたようだ。
(本格的に決着つけるつもりだねぇ…)
イザベラはもう考えることをやめていた。
どうせいくら考えたところでくだらないループを繰り返すのが関の山だ。
耕介がどうするつもりかはわからないが、それを受け入れよう。
タバサの元へ行きたいと言うのならそれでいい。魔法学院はハルケギニア中の知識が集まっていると言っても過言ではない。
もしかしたらあのエルザとかいう吸血鬼を連れて旅にでも出るつもりかもしれない。
こんなところにいるよりは、そうした方が元の世界に帰る方法を見つけられようというものだ。
もう疲れたのだ、イザベラは。
本来、耕介はいなかったはずの存在だ。気まぐれで呼び出してしまっただけのイレギュラー。
耕介がいなくなるのは辛くもあるが…どうせ、召喚前に戻るだけの話だ。
きっと時間が洗い流してくれるだろう。
イザベラは気づいていない。そんな可能性がありえないことに。彼女にとって劣等感とは常に自分と共にあった片割れとも言えるべきものであるが故に。
「イザベラ、傷つけて、ごめん」
「………は?」
イザベラにとっては予想だにしなかった言葉が聞こえ、思わず耕介へと目を向けると…彼は頭を下げていた。
そして瞬間的に理解した。
そうだ、ありえない。ありえるはずがない。この男はコースケ・マキハラ。常にイザベラの想像の数リーグ先をかっ飛んで行く”お人好し”なのだ。
彼にはそもそもイザベラを見捨てるという選択肢自体がない。
自分がどれだけ理不尽か、人に好かれるような人格でないかはよくわかっている。それでも耕介は見捨てることなどない。
「手紙のこと、悪かったよ。知られたくないことだったんだろ?俺が迂闊だった」
耕介が何か言い足しているが…もはやそれはイザベラの耳には入っていなかった。
イザベラの諦念という名の冷静さをある感情が駆逐したからだ。
「…あんたは…あんたはなんでそうなんだ!!」
それは…”怒り”だ。
イザベラにはこの男が理解できない。

行動理念は理解できる。だが、何故それを実践できるのかがわからない。
この男は善人なのだ。争いを嫌い、誰とでも仲良くし、悪いことをしたなら謝る。
絵に描いたような善人で…だが、人間はそんな綺麗なものだけでは生きていけない。
憎悪や嫉妬…醜いものもたくさん持っていて、どんな人間も無縁ではいられない。
「あたしが何をしたかわかってんのかい!?あんたを死地に追いやろうとしてたんだ!あんたやシャルロットがいなくなればいいと思って!」
劣等感を共に生き、権謀術数渦巻く王宮で暮らしているイザベラは人間が醜い生き物だとよくわかっている。
「今回だけじゃない、翼人の時やシャルロットと戦わせた時もそうだ!あたしはあんたが死んでもいい…いや、死ねばいいと思ってた!」
なにせ、自分も醜いのだから。謀殺された王弟シャルルや昔のシャルロットのような善人だっている。けれど、それは例外だ。
「あんたがシャルロットに代筆頼んだ時に怒ったのは、シャルロットに知られたからだ!」
大半の人間は、自分のように醜い。むしろ、醜さこそを競い合っている。
「あたしがあの子に何をしてきたか知ってるかい!?あの子を任務にかこつけて『事故死』させるために、色んな無理難題をふっかけてきた!」
その醜い者たちの中でも、自分の醜さは水際立っている。貴族とは魔法をもってその精神とする。そんな貴族の常識である魔法さえ満足に扱えない。
「それもこれも、単に自分の地位を護るためだ!王宮にはあたしなんかよりもシャルロットの方が王女として相応しいと思ってる奴ばかりだからね!」
保身や権益のことばかり考えている貴族どもが平民の上に立っていられる理由はなんだ?それは魔法で生活を支え、敵から護ってやるからだ。
「あたし自身でさえシャルロットの方が相応しいと思うさ!でも、王女という地位以外に何もないあたしには絶対に譲れないんだ!」
ならば、王族であるはずなのに無能な自分はなんだというのか?そんな醜い貴族どもよりもさらに劣っている。
「だからあたしはシャルロットを殺そうとした!なのに自分で手を下す度胸もないからこんな迂遠なことをしてる…そんなシャルロットに、あたしが泣いてることを知られたから怒ったのさ…」
そして、この思いはいつも同じところへ行き着く。
「あたしは醜くて自分勝手で傲慢で…どうしようもない臆病者なんだよ!」
何故…そんな自分の使い魔としてこの男が現れたのだ?こいつさえ現れなければ…まだしばらく、自分の醜さから目を背けていられたのに…。
「なのに、なんであんたはあたしを見限らない!?蔑まない!?哀れまない!?そうしてくれりゃ…あたしは…こんなにも惨めな気持ちにならずに…」
自分の形を知るには、まず他人を知らなければならない。周りが醜い形のものばかりなら、自分の醜さは”普通”だ。だが、そんな中に綺麗な形のものがあると…否応なしに醜さを突きつけられる。
「なんで…なんであたしは…こんなに…」
いつの間にか、イザベラは耕介の目前におり、その胸を拳で弱々しく叩いていた。
もう感情が溢れ出してとまらない。涙が流れ出して、顔もぐちゃぐちゃだ。今の自分のなんと惨めで情けないことか。
不意に背中に力が加わり、イザベラはその力に抵抗することもできずに耕介の胸に受け止められた。
今更ながらに気づく。耕介に抱き寄せられたのだ。
本当に理解できない。自分を殺そうとした者にこんな温かさを与えてやるなど。
けれど、もう考えることさえもできない。ただ、イザベラはその温かさの中で、まるで幼児に戻ったかのように恥も外聞もなく泣き続けた。

イザベラは陽光の中で目を覚ました。
どうやら、まだ日が昇ってから幾許かしか経っていないらしい。
はて、こんな時間に目が覚めるなど珍しい。何かあっただろうか…そこまで思考して、イザベラは電撃的に昨夜のことを思い出した。
「うぁ…あたし…なんてことを…」
羞恥により一瞬で耳まで真っ赤になり、両手で顔を覆って自分の酷い顔を陽光から隠す。
そして、羞恥や後悔で散々自分を罵り…後にはある種の開き直りのようなものが残った。
自分の醜さを全部ぶちまけたのだ。さすがの耕介とて愛想を尽かしているだろう。
ならばそれでいいではないか。自分と耕介では違いすぎるのだから。
「…はぁ…」
憂鬱そうにため息をつき、イザベラはとりあえず顔を洗うためにベッドから降りようとして…そこで初めて気づいた。
「うぇ!?」
耕介がベッドの隣に何故かある椅子に座って眠っていたのだ。
素っ頓狂な声をあげたことに気づいて慌てて口を押さえたイザベラだったが…幸いにも耕介は目を覚ますことはなかった。
見ればシャツの胸元あたりだけが変色している。あれは…推測するまでもなく、イザベラの涙の跡だろう。
そこでふと疑問に思って、もう一度顔に触れてみるが…泣いた後特有の乾いた感触がない。
耕介の足元には水を満たした容器があり…そこには耕介が持っていたハンカチが沈められていた。
「なんで……いや、あんたは…そういう奴…か…」
嬉しいのか、悲しいのか、憎いのか…いや、それら全てが混ざり…イザベラは苦い笑いを浮かべた。
「あんたは…あたしをどう思ったんだい…?こんな醜いあたしを…」
そう問いかけていながら…イザベラには耕介がどう答えるかなんとなくわかっていた。
きっと、肯定してくれると思う。思えば、イザベラを肯定してくれた者など、一人もいなかった。
誰からも無能な王女として、蔑まれていて…いつしか、それが自分そのものになっていた気がする。
それからしばらく、イザベラが寝顔を眺めていると…不意に耕介が目を開いた。
「ん…あれ…あぁ、そうか…おはよう、イザベラ」
椅子に座って寝ていたせいだろう、体をゴキゴキと鳴らしながら耕介は一度伸びをした。
「全く、王女の前でやる仕草じゃないね」
相変わらず普段通りに振舞う耕介に呆れながら…イザベラは自分が昨夜ほど荒んでいないことを自覚していた。
「そうだな、悪い。あの後、泣き疲れて眠っちゃってたから、ベッドに運んでおいた。さすがに着替えさせるわけにもいかなくて、服がそのままなんだ、ごめんな」
やはり、散々泣き喚いた挙句に眠ってしまったらしい。ここ数日あまり眠れていなかったのもあったとはいえ、醜態をさらしたものだと思う。
後、着替えさせられていたら、問答無用で撲殺しなければならないところである。
「あんたには…情けないところばっかり見られてるね…」
耕介を召喚してからの日々を思い出すと…本当に情けない。ずっと虚勢を張って、王女として威張り散らしてきたというのに、耕介の前ではどうにも調子が崩れる。
当然のことかもしれないが…耕介には王女という地位そのものが意味を持たないからだろう。
彼はあくまで、『王女』ではなく、『イザベラ』と接してくれるからだ。
だから、耕介のこの言葉もまた、当然なのだろう。
「別に、気にすることなんてない。悲しければ泣けばいい。感情を無理に抑え込む方が体に悪い。何より、子どもは大人を頼るもんだ」
「……コースケ…あんた、あたしが昨夜言ったこと覚えてないのかい?」
だが、イザベラにとっては…耕介なら肯定してくれるかもしれないと思っていても、困惑に値する言葉だった。
なにせ、そんな言葉をかける者は誰一人いなかったのだから。
「覚えてるよ。なんでイザベラが自分を蔑むのかはわからない。けど、その理由を話してくれるなら、俺はできる限り力になるよ」
幼い頃に母を亡くし、父からも半ば捨てられているイザベラには、自分の全てを曝け出して、それでも受け入れてくれる人などいなかった。
あるいはシャルロットの家族ならば受け入れてくれたのかもしれないが…イザベラにとってシャルロットは自分が劣っているという事実を突きつける存在だ、その家族にそんなことを相談できるわけがない。
「それに、俺にとってイザベラは寂しがりやの女の子だ。それ以上でも以下でもないよ」
「…ハハ…寂しがりやの女の子…ね…ハハハ…」
耕介の言葉に、イザベラは顔を伏せ、苦い笑いを浮かべた。
「あんたを殺そうとした女にそんなこと言えるなんてね…あんたほんとに…」
そこまでイザベラが言った時、突然耕介の手が伸び、顔を無理やりあげさせた。

あまりにも突然でキョトンとしたイザベラの広めの額に…
「あいたっ!」
耕介はデコピンをかましたのだった。
「な、何すんだい!」
かなり本気だったらしく、額がズキズキ痛む。赤くなっているかもしれない。
「これでおあいこだ」
意味がわからなかった。いったいこいつは何を言っているのか?
思えば、耕介を召喚してから、何度こう思ったか知れない。
「な…なにが?」
「だから、イザベラが俺に意地悪をしたことにむかついたから、報復をしたんだ。これでおあいこ、水に流そう」
「い…意地悪…?」
『意地悪:わざと人を困らせたり、つらく当たったりすること。また、そのさまや、そういう人。』
耕介にとって、イザベラの殺意などデコピン一発で済ませられることらしい。
それを聞き…イザベラは感情を爆発させた。

「アッハハハハハハ!意地悪…意地悪かい!ほんとにあんたは…ハハハハハハ!!」

イザベラは笑いが止まらなかった。
自分が眠れなくなるほどに気に病んでいたことを、この男はこんなことで水に流そうと言う。
右手で目元を覆い、また溢れてきた涙を隠す。多分そんなことをしても耕介にはすぐバレるだろうが…かまいやしない。
「イ、イザベラ、そんなに面白かったか…?」
耕介の困惑している様が手に取るようにわかる。
ざまぁみろだ、こっちがどれだけ今まで困惑させられてきたことか!
「あぁ、全くもう…フフ…あんたは…そうか…だから、あんたがあたしに呼び出されたのかもね…」
そして、笑いに笑って…突然イザベラは気づいた。
使い魔は主に相応しい存在が呼び出されるという。この言が正しいと仮定するなら、耕介が呼び出されたのはイザベラに相応しいからだ。
なら…きっと、イザベラは耕介に相応しい主になれるということではないのか?
この使い魔と共にあれば…いつか自己嫌悪に苛まれないでも済むような…そんな自分になれるのかもしれない。
「合格だ!コースケ、あんたの試練は終わり!」
イザベラは目元を覆っていた右手を下ろし、耕介に顔を向けた。
その顔は…涙でぐしゃぐしゃで、王女どころか貴族にも見えなかったが…とても明るくて魅力的な笑顔だった。
「イザベラ…」
陽光に照らされたイザベラの、およそ初めて見る心底からの明るい笑顔に、耕介はわずか見惚れた。
それほどに今のイザベラは美しかった。
「ほら、ボサっとしてないで、そこに膝をつきな。今から<<コントラクト・サーヴァント>>…契約をするからね」
「え、あ、ああ…って、合格なのか!?」
「だからそう言ってるだろ、とっととしな!」
困惑する耕介と、明るく振舞うイザベラ…ちょうど、普段とは立場が逆になっている。
言われるがまま、耕介はベッドから降りたイザベラの前で膝をついた。
イザベラはベッド脇の杖をとり、耕介の肩にそれを置く。

「耕介、あんたをこのガリア…いや、違うね。このイザベラの使い魔で騎士に叙任する!」
「え、騎士?」
耕介が訝しげな声をあげるが、イザベラは無視することにした。
どうせこれから嫌というほど自分を守ってもらうのだ、体で覚えてもらう方が手っ取り早い。
「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ!」
高らかに呪文を唱えると、イザベラは耕介の顔をガシッ!と掴み、そのまま勢いよく引き寄せた。
耕介が驚いているのがわかるが、イザベラとて頭が沸騰しそうなほど赤面しているのだ、このまま強行する!
二人の唇が触れあい…勢い余って前歯同士がガキ!とぶつかり合った。
どのくらいすればいいのかわからないし、なんとなく嫌とも思わなかったのでイザベラはしばらくそのままでいた。
その内、顔を赤くしていた耕介の顔が別の意味で赤くなり、暴れているのに気づいてやっと顔を離す。
「あち、あちち!なんだこれ!?というか、なんでキスなんて…いってぇー!」
耕介が額を抑えて悶絶していた。しばしイザベラは考え…やっと該当する情報を引き出した。
「呪文を唱えてキスするのが<<コントラクト・サーヴァント>>なんだよ。その痛みは使い魔のルーンが刻まれてるんだ。安心しな、別に悪いもんじゃない」
「そ、そうなのか…?凄い契約方法だな…あぁ、痛みが納まってきた…」
耕介が手をどけると、額にはルーンが刻まれていた。
「これで、あんたは名実共にあたしの使い魔だ。このイザベラ様の使い魔に相応しい働きをするんだよ!」
イザベラは傲岸不遜に耕介に言い放ち…やっと答えのようなものを得ていた。
そうだ、耕介は肯定してくれる。イザベラがどれだけ醜態をさらしても、劣等感でうじうじしていようとも。
耕介は隣に在ってくれる。時には手を貸してくれる。イザベラを害しようとする者がいれば、必ず護ってくれる。
ならば、イザベラは耕介が誇れる主になれるように努力すればいい。
耕介は過去の失敗から学び、努力している。
ならば、その耕介の主であるイザベラも、失敗から学び、努力すればいいのだ。
そうすれば…いつか、耕介のように、全てを受け入れて、それでも前へと進む力を得られるかもしれない。
そう、まだまだやれることなどたくさんあるのだ。
耕介は翼人と村人の諍いを納め、吸血鬼事件すらも解決したが…それはいったいどうやってだ?
彼は力など使っていない。魔法も使わずに、魔法以上のことを成し遂げたのだ。
ならば、わずかばかりの魔法しか使えない自分にだって、やれることはあるはずだ!
輝くようなイザベラの笑顔は、これこそがイザベラの本質なのではないかと思うほどの美しさだ。
「ああ、こちらこそ、よろしくな。イザベラ」
サモン・サーヴァントから約二週間、仮初の主従であった耕介とイザベラは、様々な…しかし必要な回り道を経て本当の意味で主従の契りを結んだのだった。


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