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るいずととら第二章-7


眩しい光にルイズは目を覚ました。青空が広がっている。乗っている船は雲の上を進んでいた。

「アルビオンが見えたぞ!」

船員の声が船に響いた。ルイズは空を見あげる。
白の国、アルビオン。雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いている。はるか視界のかなたに延びる、浮遊大陸であった。

(結局、とらは追いつかなかったわね……)

ルイズは昨夜のことを思い出していた。
昨晩、ワルドと二人で宿を脱出し、二人は桟橋に急いだ。
出港前の船と交渉し、結局、積荷の硫黄の運賃と同じだけの代価を払うこと、ワルドが風石の補助をすることを条件に、船は出発した。
ワルドは操船の指揮をとり、ルイズはひとり船室に残された。

(とら、まだかしら……フーケのゴーレム、あれはどこか尋常じゃなかったもの……)

ルイズの脳裏に、巨大なゴーレムの姿が蘇る。巨大なゴーレムは、前に見たときとは比べ物にならない速さで動いていた。まるでスクウェア・クラスのゴーレムのように。
ひょっとしたら、とらはフーケとの戦いで怪我をしたのかもしれない……

「いや、それはないわね」

自分で自分に突っ込みを入れつつも、ルイズはなかなか寝付けなかった。結局一晩中、ルイズはまんじりともせずに使い魔待っていたのであった。
途中、何度も手が左手に巻いたとらの毛に伸びる。

だが、ルイズはそのたびにはっと手を引っ込めた。
頭の中に、婚約者の文字が浮かんでくるせいで、どうしてもとらを呼ぶことができないのだった。

(い、いいわよ。とらならきっと追ってきてるもの。これは危なくなったときに引っ張るように言われたもの!
 危険でもなんでもないのに引っ張ったら、きっと意気地なしだと思われるわ!)

本当はとらと顔を合わせる勇気がでないだけだったが、そうルイズは無理やり自分を納得させるのだった。

ぼんやりと昨晩のことを思い出していると、見張りの船員が大声をあげた。

「右舷上方の雲中より、船接近!」

ルイズは眉をひそめた。近づいてくる船は、舷側から大砲を突き出していた。
アルビオンの反乱貴族たちの軍艦だろうか。

砲門は、ぴたりとこの船に向けられていた……。



ルイズの乗る船の遠く。
黒い、邪悪な雲がざわざわとおぞましく蠢いていた。

『殺せぇえええ!』
『殺せぇえええ!』

ぎょろりと光を放つ目玉に人間の耳が生えたような……おぞましき婢妖たちの群れであった。
びゅむ、と飛んでいく婢妖たちは叫び声をあげる。

『白面の御方のためにいいい!! あの妖怪を殺せええ!!』

黒い雲は群れをなし、その『妖怪』に襲い掛かる。凡百の妖怪であれば、たちまち喰い殺される数であった。
だが。その『妖怪』に触れる前に、激しい雷が黒雲を切り裂く。

轟!!

炎が婢妖たちを焼き尽くし、雷がおぞましい白面の使いを砕いた。

「おおおぉおおぉおおお!! おら、カスども邪魔だあッ!!」

雄叫びを上げて、金色の光が婢妖たちの雲を切り裂いて飛ぶ。ルイズの乗った船を追いかけるとらであった。

(ち、キリがねえな……)

昨晩から休みなく、ずっと婢妖たちが群れをなして襲ってくる。一匹一匹の婢妖などは、とらにとってそれほどの脅威ではない。
だが、その圧倒的な数に、アルビオンまで時間がかかって仕方なかった。

(む……あれか!? 『宙に浮いた大陸』ってのは……でけぇ……!)

黒雲を切り払ったとらの前に、巨大な大地が姿を現した。下を雲に覆われた、『白の国』、アルビオンであった。
西の妖怪たちを束ねる長、神野の『高千穂空中屋敷』を何千倍にも大きくしたような景観に、とらは驚いた。

(さっさとるいずのヤツのところにいかねえとよ……)

とらが飛び出そうとした瞬間だった。

ぎゅん!!と何かが高速で飛び出し、とらの胸、腹、足に突き刺さる。

「……ぐぁああッ!!」

一気に血が噴出した。とらは自分の体に刺さったものを雷で焼き尽くす。それは、一本一本が矢の形をした婢妖であった。

(これは……婢妖弓か……!)

果たして、弓を携えた僧の姿の妖怪が姿を現した。片手に婢妖弓を、片手に薙刀を持った一つ目の妖怪が名乗りを上げる。

『我は血袴! 白面の御方に従い婢妖を束ねる大将。妖怪……ここより先、まかりならぬ。即刻帰るがよい!』

ギリ、と歯軋りするとらのたてがみが、バリバリと雷光を帯びていく。

「け、取り付くしか能のねえカス妖怪ごときが、わしに命令するんじゃねぇ!」
『わが主、白面の御方に逆らうとは愚かなり。ならば殺してくれるわ、妖怪よ!』

血袴がギリギリと婢妖弓を引く。高速で打ち出された婢妖たちが、とらを目掛けて飛来する。

「いくぜ血袴ァ!!! おぉおぉぉおおおお!!!!」

金色の化生から、激しい雷光が空に放たれ、黒い矢とぶつかった。


ルイズは混乱していた。

(たた、大砲? なんでいきなり撃ってきたの? なんでこの船止まるのよ!?)

「空賊だ! 抵抗するな!」

黒い船の甲板で、メガホンを持った男が怒鳴る。続いて、鉤のついたロープが放たれ、ルイズの乗る船の舷縁に引っかかる。
斧や曲刀で武装した男たちがロープを伝ってやってきた。

ルイズは杖を握り締めた。しかし、いつの間にか後ろに背後に現れたワルドに止められた。

「止めておくんだ。敵は水兵だけじゃない。砲門もこちらを狙っている。メイジだっているかも知れない」

空賊たちは次々と船に乗り込んできた。ぼさぼさの髪を赤い布で乱暴にまとめた、空賊の頭らしき一人が大きな声を上げた。

「船長はどこでえ」

震えながら船長が「わたしだ」と手をあげる。頭は船の名と積荷を聞き、にやりと笑った。

「硫黄か……船ごと全部買うぜ。料金はてめえらの命だ」

船長が屈辱に震える。と、頭は、甲板のワルドとルイズに気がついた。

「おや、貴族の客までのせてるのか。こりゃあ別嬪だ。俺の船で皿洗いをやらねえか?」

ルイズは、自分のあごを持ち上げる手をぴしゃりとはねつける。

「下がりなさい、下郎」
「驚いた! 下郎ときたもんだ!」

男は大声で笑った。誇り高いルイズはぎり、と怒りをあらわにした。

「あんた、さっきこの船を買ったわね。それ、わたしが買いなおすわ……」

(……何を言っているんだ?)

空賊の頭は怪訝な顔をする。「わわ、わたしを怒らせたアンタたちが悪いのよ?」とか言いながら、目の前の少女は左手をかざした。
見たところ貴族らしいが、杖を構えている様子もない。まして、こんな小娘に負けるはずもない。頭はそう思っていた。
と、少女が右手で、左手に通した金色の輪を掴む。そして少女は、ブチ、と引きちぎった。


「代金は、あんたたちの命よ」


(――――ッ! ようやく来たかよ、合図がッ!!!)

とらは自分の毛が引っ張られたのを感じる。ルイズのいるだろう場所は、ここからそう遠くない位置であった。
とらは目の前の相手に向き直った。先ほどからの戦いで、婢妖弓を打ちつくした血袴は、薙刀でとらと戦っていた。

「血袴ァ!! わりぃが、そろそろテメェと遊んでもいられねぇな……! 消えな!!」

びゅお、ととらが髪の毛をとばす、とらの毛は一本一本が鋭い剣となって血袴を襲った。

『ぐゥッ……!!! まだよ、妖怪……ッ! 白面の御方のためにここを通すわけにはいかぬ……!』

血袴は薙刀を振りかざした。そのままとらに向かって突っ込む。

『白面の御方の名のもとに、全ての妖怪は滅ぶべし!!』

ぎゅん! 血袴の薙刀がとらの体を切り裂いた。大量の血が噴出し、とらの体がガクンと倒れる……かに見えたときだった。
がしん、ととらの手が血袴の頭を掴む。

「くっくっく……全ての妖怪は滅ぶべし、か……なら血袴よォ……」

とらはニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。メキメキと血袴の頭がつぶれ、その目玉から血が吹き出る。

「最初にオメエが死になァ!!」

ごん!!!! 

とらの掌から放たれた雷が、一瞬で白面の使い、血袴を焼き尽くした。

(さて、急ぐか。るいずがあぶねえ)

びゅん、と風を唸らせ、とらは飛んだ。


一方、甲板……。

(こ、こないじゃない……大見得を切ったのに……)

ルイズは困っていた。それも、ものすごく困っていた。とらが想像したのとは、ちょっと違う形で……

「まだか? お嬢さんよう。待ちくたびれるぜ」
「も、もうすぐよ! もうすぐわたしの使い魔が飛んでくるわ! そしたら、あんたたちが束になってもかなわないんだからッ!」

空賊たちはぞろぞろとルイズを取り囲んで、笑いものにしているのだった。
げらげらと大きな笑い声が上がるたび、ルイズの頭に血が上る。

「おー、こわい。お嬢ちゃんの使い魔だもの、きっとドラゴンだろうねぇ。それともネズミかな? ひょっとしてペットの九官鳥?」
「とらは幻獣よ! 魔法より強力な火と雷を操る韻獣なんだから!!」
「こいつはいい、韻獣ときた!! きっと『オハヨウ』ってオウムに仕込んだに違いない!」

男たちはどっと沸いた。ルイズの顔が真っ赤になる。とらまで侮辱されて、ルイズの怒りは限界だった。

「もう! とら、早くこいつらをぶっ飛ばしなさいよ!! わたしの、使い魔でしょ――ッ!」

叫び声をあげるルイズの肩に、ぼろぼろのマントを羽織った褐色の大男が、ぽん、と手を乗せた。

「くっくっく……まあ、そう言うな、るいず。わしが派手に騒いでオメエを人質に取られたら、元も子もねえだろうが」

周りの男たちははっとした。
さっきから笑っていてばかりで気がつかなかったが、よく見れば、その大男は彼らの仲間ではなかった。
褐色の肌に、白い布を頭に巻きつけた大男が、バサリとマントをはねのける。その下には抜き身のデルフリンガーが握られていた。

「さぁて……わしがるいずの使い魔よ。相手になるぜ」

デルフリンガーを握った左手に刻まれたルーンが光を放つ。ざわ、と男の周りの大気が揺らいだ。

「な、何者だ! 貴様!」

狼狽した空賊の頭が叫んだ。手にデルフリンガーを構え、背中にルイズを守りながら、男はにやりと笑みを浮かべる。凄惨な笑みであった。


びゅぅぅうぅううう……!

風が男のマントをはためかせる。その下に現れた筋骨逞しい褐色の肉体。そして、ぽっかりと何もない肩……。
ルイズは、その肩を見て、はっとした。いつか夢で見た男の肩であった。ルイズの心が震える。

(やっぱり、とら……あなたは……!)


「わしの名か……そうだな……シャガクシャ、とでも名乗っておくかよ……!!」


「か、かかれぇっ!!」

頭の号令に、いっせいに空賊たちは男に襲いかかった――。


全員がとらにしたたか打ちのめされ、息も絶え絶えになった頭が、「自分はアルビオン皇太子だ」と名乗ったのは、それから5分後である。


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