あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第7話 弟子


 「はい、どなたですか?」
 なのはがノックに答えると、返ってきたのは女性の声だった。
 「あたしよ、キュルケ。あ、でも、本命はタバサだから、悪いけど閉め出さないでね、ルイズ」
 ルイズは一瞬叫びそうになっていたが、それを聞いて何とか押さえ込んだ。
 視線でなのはに扉を開けるようお願いする。彼女も無言のまま頷くと、静かに扉を開いた。
 扉の向こうには、思ったより多くの人がいた。
 キュルケとタバサは予想通り。それに加えてもう一人。
 金髪美形の優男、ギーシュも二人と一緒にいた。



 「で、なんの用?」
 一行を迎え入れた室内で、ルイズは不機嫌そうに問い掛けた。
 ちなみに不機嫌なのは、全員の視線が自分ではなく、使い魔の方に向いているからだ。
 用事のほうも何となく予想が付いた。
 そして、それを切り出したのも、予想通りタバサだった。
 彼女らしい、単刀直入な一言。

 「弟子に、してほしい」

 坦々とした口調とは裏腹なまでに、その瞳には炎が燃えさかっていた。
 ギーシュが意外そうな顔でタバサを見ている。ルイズもだ。
 そして申し込まれたなのはは。

 「ご主人様、どうしますか? ちなみに私は、許可が出たら考慮してはみますけど」

 些細なことであるが、そしてささやかであるが、ルイズの心に喜びの炎がともる。
 ああ、この使い魔は。変わらず私を立ててくれる。
 そしてルイズは答える。
 「まあ、あたしに異存はないわ。なのはもいいみたいだし、気持ちも判るわ。あれを見せられちゃねぇ」
 タバサも、こくりと頷く。下を向いた顔に、ほんのかすかな笑みが浮かんでいたのに気がついたのは、残念ながらキュルケだけであった。
 一連のやり取りを見て、なのはも彼女を受け入れることにした。
 「んじゃ、とりあえずは受けてあげる。ひょっとしてギーシュ君も弟子入り希望?」
 「は、はい! 今日一日で、僕は明らかに昨日までの僕とは一線を画した強さを手に入れたと思います! 出来うるなら……僕は、もっと強くなりたい!」
 顔を真っ赤にしながら勢い込むギーシュ。そこには普段のすかした少年の姿はない。
 (あーあー、二人とも、なんか熱血しちゃって。ちょっと意外ね)
 ルイズは、そんな二人の様子に、人の持つ複雑さを一つ知ったような気がした。



 「じゃ、ちょっといいかな」
 ルイズの部屋が豪華であっても、学生寮は学生寮。さすがに五人分もの椅子はない。しかたがないので弟子二人+1はカーペットの上に直に座らせられる羽目になった。もっとも不満そうなのはキュルケだけであるが。
 上座に立ったなのはは、弟子入り希望の二人に向かって語りはじめた。
 「弟子入りするのはいいんだけど、あらかじめ言っておくわ。
 まず、今の私が使っている魔法は覚えるのはたぶん無理。逆にあたしが系統魔法を教えるのもたぶん無理よ。そこは理解しているよね」
 頷くタバサとギーシュ。
 「その上で改めて問います。私に弟子入りして、なにを覚えたいの?」
 「フライを維持しつつ他の魔法を使う方法」
 タバサは間髪を入れずに答える。
 「僕は、ワルキューレをより強くするための方法です」
 少し遅れてギーシュも答えた。
 二人の答えに、なのはは力強く頷く。
 「うん、それなら教えられると思うけど……ご主人様」
 確認するようになのははルイズに問い掛ける。
 「ここでは飛行魔法と他の魔法の併用が出来ないんですか?」
 「ほとんど不可能に近いわ」
 これまた打てば響くように即答えが返ってきた。
 「あらルイズ、魔法使えないのによく判ったわね」
 キュルケにしっかり突っ込まれていたが。
 「なによキュルケ、私だって勉強はしてるのよ! これ、座学で習ってるじゃない!」
 「まあそれはそれとして」
 怒るルイズの気をそらすように、キュルケはなのはのほうに向かって言う。
 「判りやすく言えば、右手で数式を解きながら左手で呪文の書き取りをしているようなものですわ。不可能ではありませんけど、このハルケギニア中を探しても、可能なのは十指に満たないでしょうね」
 「あ、そういう理由なの。なら、たぶん教えられると思う。それ、私たちには基礎の基礎だから」
 さすがに全員の注目がなのはに集まった。その瞳が一様に『基礎の基礎』という点に向いている。
 「マルチタスク、っていってね」
 なのははそう答えるとちょっと遠い目をした。
 「同時に複数のことを思考する技術があるの。ミッド式の魔導士にとっては、これほとんど必須の技能だから、出来ない人がいないくらい。私も九才の頃には出来てたよ」
 「うわ、さすがにそれは想像もしてなかった」
 ルイズもびっくりしてなのはの方を見る。
 「特に空戦……空で戦うタイプの魔導士は、これが出来ないとそもそもお話にならないし。ただ、ちょっと問題があるのよね」
 「問題?」
 タバサが真剣に聞いてくる。
 「ええ。マルチタスクの訓練は、念話が通じないと効率がかなり悪くなっちゃうから」
 「念話?」
 聞き慣れない言葉に、タバサがなのはのほうを注視する。
 「ミッド式ではこっちのコモンスペルくらい平易なものなんだけど、ま、要は声じゃなくて心で会話することよ」
 ルイズ以外の顔に驚きの声が上がる。そもそもそんな発想すらしたことがなかった。
 「ちょっと試してみるね」
 なのはは目の前の三人に念話を送ってみる。しかし、反応があった人物はいない。
 (駄目みたいね)
 愚痴をルイズに向けてみると、
 (なんかそうみたい。ひょっとしたら私たちの念話って、主人と使い魔を結ぶ線があるから使えるのかしら)
 こちらはちゃんと繋がるようだ。
 なのははルイズの意見にも一理あるような気がした。かといって念話が繋がらないのは先にも述べたとおり不便である。
 一応念話によらないマルチタスクの訓練法もあるのだが、なのははそもそもレイジングハートとの間に念話が通じていたため、それを使用しない訓練となると思いつかなかった。
 とりあえずなのはは、念話を通じさせるためにいろいろと対処法を考えた。
 資質を持たない一般人にはまるで通じない。だがここにいる者は全員魔法が使える。資質0とは考えにくい。
 だとするとたいてい問題になるのは出力と距離である。事実上この問題は一体化していて、違いが問題になるのは『繋がるが聞き取りにくい』と言った場合程度である。
 そこでなのはは一番簡単な解決方法を試してみた。
 「ちょっとごめんね」
 といいつつ、なのははタバサの手を握る。なにをするのか、と思ったタバサは、いきなり未知の衝撃を受けることになった。

 (これで通じないとちょっとまずいなあ)

 「な、なに、いまの」
 珍しく、本当に珍しく、タバサが感情の交じっているうろたえ声を上げていた。
 端から見ているキュルケとギーシュには何が何だかさっぱりである。
 そして混乱するタバサの脳裏に、さらなる声が響く。

 (落ち着いて。今のは私が話しかけている声。言いたいことを思い浮かべて、頭の中で話してみて)
 (……こう?)
 (うん、そんな感じ。零距離なら一応は繋がるみたいね。となるとやっぱり魔力がらみか)
 (……不思議。言葉を使わないで意識を通じ合えるなんて)
 (あ、誤解しないでね。これはただ声を使わずに会話しているだけよ。嘘だってつけるし。それ以上の深い繋がりは、また別のものだから)
 (了解)

 ほんの短い間に、いくつもの言葉が交わされた。タバサも最初の混乱から立ち直ると、いつものペースに戻っていく。念話においても、言葉に感情のこもらない、平坦なしゃべり方になっていく。
 それを感じ取ったなのはは、そこで手を離した。
 「ふう、何とか会話そのものは出来るみたいね。最低限は何とかなりそう」
 一方、タバサのほうではキュルケとギーシュが興味深げにしていた。
 タバサはものは試し、と、キュルケの手を握って念話を送ってみる。が、なにも起こらない。
 「駄目」
 そう短くつぶやくと、なのはに向かって言う。
 「ナノハ、私からキュルケには送れなかった。試してみて」
 いわれてなのははキュルケの手を取って念話を送ってみる。
 「あら、ミス・ナノハ……きゃっ!」
 その後の展開はタバサと同様だった。二人とも念話の感覚を理解した上で試してみるが、やはり繋がらない。
 もののついでにギーシュも試してみたが、やはり同様であった。



 「結論からすると」
 何故かルイズがまとめるかのように場を仕切る。
 「ナノハとの間には念話が通るけど、私たち同士では不可能。私とナノハは離れていても繋がるけど、他の人とは接触しないと繋がらない、っていう事ね」
 「そうなりますね、確かに。後できちんと記録を取って調べてみましょう」
 「残念」
 タバサは言葉通り残念そうにしていた。キュルケは、
 「あら、せっかくキスしながら愛の言葉をささやいてもらえるかと思ったのに、ナノハとだけじゃそうも行かないわね」
 などと何か問題のありそうな発言をしている。
 ちなみにギーシュは赤くなり、ルイズが切れかかって杖に手を伸ばしたのを慌ててなのはが止める羽目になった。
 「ちょっと、ツェルプストー! なによその問題発言」
 「あらルイズ、愛している人と一体化しながら愛の言葉をささやいてもらえるなんて、幸せ冥利に尽きないこと?」
 「ちょ」
 「まあご主人様、落ち着いてください。恥ずかしくとも不謹慎と言えるほどじゃないです」
 何とかなのはの押さえで、ルイズは正気に戻った。

 「でもそうすると、こちらの人達には、念話の資質無いみたいですね」
 なのははちょっと困った顔で言う。接触すれば使えるから、トレーニング自体は出来るが、そもそもマルチタスクの訓練は、恒常的に行うからこそ効果の出るものである。
 そもそも念話が必要になるのも、日常生活と平行する形で訓練をするためであり、またそれこそが最高に近い訓練法でもある。ある意味二四時間練習しているようなものになるからだ。
 現になのはも学業と仮想訓練の併用でこれを完全なものにしたのだ。
 「あたしとは問題ないのにね」
 ルイズもちょっと不思議そうに言う。
 「そうよルイズ、あなた魔法てんで駄目なのになんで?」
 キュルケも突っ込むが、今度はルイズもさらりと流す。
 「だとするとやっぱり、使い魔とのラインかしら」
 「あり得ますね……試してみますか?」
 その提言で、一同は部屋を出ることとなった。



 使い魔達のたまり場から少し離れたところで、キュルケ達は己の使い魔を呼んだ。
 フレイムとヴェルダンデはやや大きい程度の動物であるが、シルフィードはかなりの大きさである。
 「うわ、おっきい」
 それがなのはの感想であった。夜なので細かいディティールが見えないのも大きかった。
 そしてなのはが説明する。
 「皆さん、使い魔との間には、ある程度感覚が繋がっていますよね」
 頷く三人。
 「ですので、これから使い魔の方のほうに念話を送ってみます」
 そういってまずなのはは、フレイムに手を触れる。一瞬警戒したようだったが、すぐにおとなしくなった。キュルケがおとなしくしているように命じたようだ。
 (まずは、あなたに。こんばんは、フレイムさん)
 なのはが念話を送る。すると。
 (『……よろしく、主の友』)
 明確な言葉ではない、しかし充分に意味の理解できる不思議な『言葉』が返ってきた。
 なのはは驚いてキュルケの方を見る。
 「ねえキュルケさん、あなた、フレイムさんとの間で会話できるの?」
 問われたキュルケは不思議そうな顔をしている。
 「いいえ、フレイムは私の命令は理解しているけど、言葉は交わせないわ」
 「だとすると……」
 再びなのははフレイムに触れ、改めて念話を送る。
 (フレイムさん、お願い。まず、私の送る念話を主人に伝えてみてくれる? 続いて、あなたの意志を同じように主人に送ってみてほしいの。出来る?)
 (『……主の望みは我が望み。また、交わすべき言葉なぞ無いが』)
 (挨拶で充分よ。望むことはなくても、それだけでたぶん主さんはものすごく喜ぶわ)
 (『主が喜ぶのなら』)
 (じゃ、今からね。キュルケ、聞こえてる?)

 次の瞬間、キュルケの身がびくりと震えた。

 (嘘、聞こえたわ、ナノハ)
 (うん、返信もOK。これならやりやすくなりそう)
 (まさか使い魔にこういう使い方があったとはね。驚きだわ)
 (ふふ、驚くのはそれだけじゃないわよ)
 (『改めてよろしく、主様』)
 (へっ!)

 今度は完全にうろたえはじめたキュルケ。タバサもギーシュもルイズも、なにが起こったのかさっぱりだ。
 「どうしたの、キュルケ」
 代表する形で聞いたルイズに、キュルケは何故か感極まったような喜悦を浮かべながら、ルイズに抱きついた。
 「ちょ、キュルケ!」
 「話せたのよ! フレイムと!」
 「「え~っ!」」
 驚くルイズとギーシュ。タバサは珍しいことに何故か冷や汗を浮かべている。
 だが三人はそんなことに気がついた様子もなく驚きを共有している。
 「ねねキュルケそれって」
 「そうなのルイズ実はフレイムってしゃべれたのよ」
 「嘘なんでサラマンダーが人語を解するのよ」
 「たぶん使い魔になったからでしょそれよりちゃんと言葉が交わせるなんて想像もしてなかったわ!」
 「なら僕のヴェルダンデとも会話できるのかなナノハさん是非次は僕のヴェルダンデで試してみてください」
 ギーシュまで交えてのものすごいマシンガントークだ。息を継いでいる様子が全くない。
 そのまま会話は続いていたが、三人とも見事に酸欠になってこけた。
 「興奮しすぎ」
 ただ一人冷静だったタバサのツッコミに、みんなが顔を赤くしていた。

 続いてはギーシュの熱烈な『要望』により、ヴェルダンデで試してみる。
 結果は同じで、やはりナノハとヴェルダンデ、そしてヴェルダンデとギーシュの間にも念話が成立した。ナノハとヴェルダンデの間では接触していないと通じなかったが、ヴェルダンデとギーシュの間は、キュルケとフレイムのように、距離を隔てていても繋がった。
 ちなみにフレイムやヴェルダンデも、こういう事が可能だとは思っていなかったようだ。
 また、二人ともそもそも、知性そのものは人の命令を理解できるほどになっていても、人間が無意識下に蓄えている膨大な知識……いわゆる言語や常識といったデータベースが存在していないため、そもそも会話をするという発想そのものが存在していなかったのだ。
 使い魔が人間の命令を理解できるのは、命令と共にそれに付随している付帯条件なども主側から送られていたのであろう。
 だが、特にギーシュの様子を見ていると、ヴェルダンデが主人との間に日常会話を成立させることが可能になるのは、そう遠くないかも知れない。
 赤子も最初は言葉を話せないのだ。



 さて、となると残りはタバサとシルフィードのペアである。だが、実はタバサ、表面的にはともかく、内心は焦りまくっていた。
 そう、実はシルフィードはただの竜ではない。素で人間に匹敵する知性と、会話を可能とするだけの知識及び理解力を持つ『韻竜』である。
 それはまあいい。このままだとここにいる人達に彼女の正体がばれそうな気もするが、幸いここにいる全員、口は堅い、とタバサは思っている。
 自分の欲のために友を裏切るような恥知らずはいない。
 だが問題なのは……。


 そして数分後。
 なのはの念話を受け、そしてそれをタバサと繋げることを理解したシルフィードは欣喜雀躍した。

 「タバサ、水臭いわよ。でもこの子がただの風竜じゃなくて風韻竜だったなんて、さすがと言うかなんというかね」
 「まさかそんなすごいものが実在してたなんて」
 「く、悔しくなんかないもん! あたしの使い魔はもっとすごいんだから!」
 「落ち着いてくださいご主人様」

 ……案の定シルフィードの正体は一同にばれまくっていた。無理もない。念話が通じたとたん、まだその切り替えがうまくいかないシルフィードが、

 「すごいのね! これなら私、お姉様と思う存分おしゃべりできるのね! 人前でしゃべると怒られるけど、これならばれないのね、きゅいきゅい!」

 と、ご丁寧に肉声のほうでぶちかましてしまったのだから。
 タバサは頭を抱えたが後の祭りである。仕方なくみんなに、

 「秘密」

 ただ一言そういっただけであるが、何故か全員(なのはまで)そのとたん米搗きバッタよろしく頭を上下していたのがいかなる理由かは、彼女の名誉のために秘密にしておこう。
 ……なお、後の話になるが、タバサはマルチタスクを誰よりも速く習得し、そしてなのはに匹敵するまでに使いこなせるようなる。
 理由? 考えるまでもあるまい。



 「まあ、とりあえずこれならみんなにマルチタスクを教えるのは何とかなるわ。私が使い魔さん達のたまり場で、彼らに接触して教えればいいから」
 なのははいろいろあって混乱する場を、何とかまとめ上げた。
 「マルチタスクさえ覚えられれば、みんなの生活を維持したまま、いろいろな練習が出来るようになると思うわ。ギーシュ君なんかは、ワルキューレの操作演習とかなら仮想で出来るようになるし」
 「それは楽しみです」
 ギーシュの目には期待が満ちあふれていた。
 「で、みんなにお願いしたいんだけど」
 「何かしら。私は別に弟子入りする気はないけど、たいていのことなら引き受けるわよ」
 キュルケは情熱的な瞳をフレイムに向けつつ答える。
 ルイズが少し不機嫌そうな表情になったが、あえてそれは無視してなのはは答えた。
 「マルチタスクくらいは教えてもいいわ。たぶんあなたのためになると思うし。でね」
 そこでなのはは息を整える。
 「これはご主人様のためでもあるんだけど……一度みんなが魔法を使っているところを見せてほしいの。出来るだけたくさんのバリエーションで、強さも手抜きから全力全開まで。そして、ここが一番大事なんだけど」
 そこでいったん言葉を切り、全員の注目を集める。
 「失敗したところが見たいの。爆発しない、普通のメイジが失敗するところを」
 その一言で三人は理解した。もちろん答えは。
 「いいわよ」
 「了解」
 「わかりました」
 全員そろっての肯定であった。


 その日はこれで終わりとなるが、最後にタバサが言った。
 「ナノハ、何度か念話して感じたんだけど」
 「? 何かしら」
 「この感覚、コモンスペルに出来るかも知れない」
 「そうなの? 出来たらいいわね。協力できることはするわ」

 残念ながら、彼女の努力が実るのは、もう少し後のことであった。







 何かと騒がしい一日が終わり、タバサが自室に戻ると、いつの間にか机の上に書状が置いてあった。
 少し嫌な気分になり、それを手に取る。普段なら気にもしないが、今回はおそらく召喚状だろうと思ったからだ。
 タバサが風竜を召喚したのはとうに知れているだろう。だとすればまず間違いなく見せに来いという指令が来るはずだ、と、タバサは思っていた。ついでに周辺の揉め事を解決して来いといわれるかも知れない。
 だが、意外なことに書かれていた内容はまったく別のことであった。
 そしてそれを読み進めたタバサに、苦悶の表情が浮かぶ。
 指令書は、こう命じていた。


 『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの召喚せし人間の使い魔に接触し、能力・使用魔法・性格その他について可能な限り詳細に報告せよ』


 しかも、その後の署名はイザベラのでも北花壇騎士団のそれでもなく、紛れもない国王印が記されていた。すなわち、この指令は国王直々の命令と言うことになる。

 「なんで、彼女が……」

 ガリアの諜報員は、当然今日の決闘も報告済みのはずだ。だが、わざわざ自分に命令してまで彼女を調べようとするのはいささか不自然だ。合理的に考えるのなら、彼女の存在はガリア王にとって看過できないほど重大なもの、ということになる。
 そして彼がわざわざ非合理な命令を出すことはない。ということは。
   彼女は思わず震えた。報告はしないとまずいだろう。こんな手を打つ以上、自分も見張られているのは間違いない。だが、これは。
 彼女はそこに光を見た思いがした。それが愚かな虫を誘う蝋燭の炎なのか、それとも長き迷宮の出口なのかはまだわからない。
 だが、その光は間違いなく自分の運命を破壊する。それだけは確信できた。



新着情報

取得中です。