あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Louise and Little Familiar’s Order-02



キュルケは軽く身繕いをした後、少女の手を引いて階下へと向かう。
ルイズが追って来るのではないかと時々後ろを振り返りもしたが、そこには誰もおらず、ただ薄暗く続く長い廊下があるだけだった。
まあ、追って来ていたとしてもあれほどの事を言った後である。
上手い文言の一つや二つが早々簡単に思いつくわけはないと思われるが。
それにしても、メイジ失格なんて少し強く言い過ぎたか?と思ってしまう。
実際二人はしょっちゅう言い合いをする事があった。
家は国境を挟んで隣同士だし、お互い家名を背負っているプライドからか些細な事でも火種になる始末だった。
しかし、今回はそれらとは少し事情が違う。
あそこまで他人に対して棘を出し、塞ぎこんでしまいそうなルイズに発破をかけるなら、あれぐらい言わないと無理だろう。
それに、からかったり弄ったりする楽しさも無くなってしまうし。
と、異様なまでにその場が静かな事に気づいた。
隣で手を引かれている少女は言葉を失ったように黙り込み、キュルケの方を見つめている。
目はさっきまで泣いていたせいで、隅の辺りが赤くなってしまっている。
少しでも少女の不安要素を取り除こうと、彼女は手始めに自分の名前を名乗ってみる。

「挨拶が遅れてごめんなさいね。私の名前はキュルケ。本当はもっと長い名前なんだけどこれから呼ぶ時は短く『キュルケお姉さん』でいいわ。」
「キュルケ……お姉さん?」
「そうそう。それで良いの。じゃあ、今度はあなたのお名前を教えてくれるかしら?」
「わたしは、ミー。」
「そう。可愛い名前なのね。お姉さん気に入ったわ。」

キュルケは子供をあやすといった事はした事が無かったが、その要領は意中の相手を落とすのに似ている。
先ず些細な事を何でも良いから聞き出し、それに関して褒める。
そうされて困ったり嫌がったりする人間というのはまずいないからだ。
そして、相手は自分に敵意が無いと信じ、心の内奥に通じる扉にかけられた鍵を開錠するのである。
案の定、少女は顔を僅かに赤らめて俯いた。まずは第一段階終了である。
そしてその次に進む為の扉が二人の目の前に現れた。

Louise and Little Familiar’s Order 「First meal at the another world」

それは厨房へと通じる扉だった。
同級生達が、料理や使用人の態度について色々と文句をつけるためにここへ来ていたのを、何度か見た事があったからだ。
中ではまだ仕事が続いているのか、騒がしい音が続いている。
もう殆ど片付け終わったかしらと気にしつつ、キュルケはその扉を高らかな音をさせて何度かノックした。

「はあい。今参ります!」

可愛らしい声がした後で扉がすっと開いた。
中から現れたのは、メイド服姿がよく似合う純朴そうな黒髪ショートの少女だった。
彼女はキュルケの姿を確認すると、かしこまって挨拶をする。

「これは貴族様。こちらへはどのような用事でしょうか?」
「一ついいかしら?賄いってまだ残ってる?」

それはメイドの少女にとって、全くといって良いほど意外な質問だった。
いつもなら、貴族がここを訪れる時は出した料理に何らかのけちを付けるものなのだが、妙な事になった。

「少々お待ち下さいませ。……マルトーさあん。賄いってまだ残ってますか?」
「何ぃ?ああ、それならちっとだがそこにある鍋に残ってるぞ。ところでシエスタ、そんなもん何に使うんだ?」

シエスタと呼ばれた少女の問いに、物凄い勢いで山のような洗物を片付けるコック長らしき中年の男性が答える。

「いえ……私ではなく、貴族様が必要だと仰られているので……」
「分かった。今そっちに行くから待ってろ。」

マルトー氏は手を拭き、いそいそといった感じで戸口までやってくる。

「これは貴族様。このような下賤な場所へ一体どのようなご用件で参られたのでしょうか?」

声は威厳があり丁寧な感じもしたが、どこと無く相手に対して敵意を向けている感じだった。

「この子に何でも良いから何か食べさせてあげたいのよ。今日丸一日何も口にしてないらしいから。」
「分かりました。では早速ご用意させて頂きます。」

二つ返事をして深々と頭を下げてはいるが、やはり慇懃な感じがするのが否めない。
それからマルトー氏は厨房の奥へと戻り、鍋に火をかけ出した。
と、シエスタがミーと視線が同じくらいになるまで屈み込んでから、キュルケに質問をした。

「あのう、失礼ですがこの子ってまさかミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう子ですか?」
「そうよ。よく知ってるわね。あたしは違うけど。」
「それは……私達の間でも召喚の魔法で平民を喚んだって噂になっているので……」

シエスタは完全にへどもどした状態になる。
一方、厨房の奥では多くの使用人達がひそひそ声で陰口を言っていた。

「使い魔が平民って噂本当だったんですね。」
「しかもあんな小さい子がねえ。」
「しかし今日一日ご飯も貰えなかったとは可哀相に……機嫌一つで飯の一つや二つを下げさせるなんて貴族様ってのは本当鼻持ちならんねえ。」
「しぃっ!聞こえますって!」

ルイズが聞いたら、平民のくせにといって大声で怒鳴りつけかねないだろう。
この場に彼女がいないのが幸いしたとキュルケは心底思った。
するとシエスタがミーの手を引いて、一番近くにあった椅子に座らせる。
多くの大人に囲まれて緊張でもしているのか、おどおどした表情で周りを見渡すミーにシエスタはにっこり笑って話しかける。

「初めまして。私はここで働いているメイドのシエスタ。あなたのお名前は?」
「ミー。わたしのなまえはミー。」
「そう、ミーちゃんって言うんだ。ミーちゃん、もう少しだけ待っててね。暖かいスープがあったの。直ぐ持ってくるから。」

そう言ってシエスタは大きな竈の前へ行く。
それから2、3分経った頃だろうか、暫くすると彼女は、湯気の立つスープの入った皿を持ってそこに現れた。

「はい、どうぞ。おかわりもあるからゆっくり食べていってね。」

シエスタは皿と簡素な銀スプーンをテーブルの上に置き、優しい声でスープを食べるよう勧める。
ミーは最初周りを見渡すばかりで、スプーンに手を触れようともしない。
だが、ややあってから彼女はゆっくりとスプーンを手に取り、それから夢中でスープを口にかき込み始めた。
その様子を見てシエスタはポツリと呟く。

「よっぽどお腹が空いていたんですねえ。」
「召喚された後、ルーンが刻まれる時のショックで丸一日寝込んでいたそうだもの。無理も無いわ。」
「ルーンってあの手の甲にあるやつですよね?」
「そうよ。ところであなた、やけに小さい子の扱いに慣れてるのね。」
「はい。田舎に親戚の子が沢山いましたから、面倒を見なければならなかったんです。慣れてくると楽しかったんですけどね。」

キュルケはシエスタの呟きにいつの間にか相槌を打っていた。
彼女はシエスタが平民だという事に関しては、そこまで気にしてはいなかった。
キュルケはトリステインの出身ではない。隣国の帝政ゲルマニアの出身なのだ。
トリステインでは貴族である条件が「領地を購入する事」、「公職に就いている事」そして「魔法が使える事」と、如何にも固い物である。
が、彼女の故郷では殆ど原則金回りの良さが物を言う為、元平民の貴族が街路にごろごろしている事も珍しくは無かった。
当然、キュルケもそんな中で暮らしてきたので平民の扱いは手馴れている。
そしてその中で思う。
この娘なら毎日のご飯どうにか出来るのではないか、と。

「ねえ、頼みがあるんだけど。」
「あ、はい。何でしょうか?」
「明日の朝、もしこの子が食堂から締め出し喰らってたら、今みたいにご飯あげてくれる?
この子の『御主人様』は多分食堂の中に入れさせないだろうし、例え入れさせてもこの子にとって良い物は出ないでしょうね。」
「分かりました。そうします。」

シエスタは二つ返事で頼みを承諾した。
その時、ミーがスプーンを置いて小さく呟いた。

「おかわり……ください。」

温かい食事と人付き合いは冷たく凍った心を溶かす。
誰が言ったか知らないがそんな言葉を聞いた事がある。
聞いて直ぐは「そんな事って本当にあるのかしら?」と思っていたが、今日はそんな様子を傍で目にした。
強ち嘘ではないのかもしれない。
キュルケはそんな事を思いつつ、食事を終えたミーを連れてルイズの部屋の前に来た。
そこまで来るとミーは内心怯えきっていた。
厨房の人々にさっきまで柔らかい笑みを撒いていた彼女の顔も、すっかり恐怖で歪んでしまっている。

「ルイズが恐いの?安心して。お姉さんがきちんといろいろ言っておくから。」

そう言ってキュルケは部屋の戸を数回叩いた。

「開いてるわ。入って来て良いわよ。キュルケでしょ?」

極めて不機嫌そうなルイズの声が聞こえる。
その声には答えず、キュルケは扉を開け、ミーを伴って部屋の中へ入る。
その時キュルケは部屋の中の惨状に唖然とした。
卓がひっくり返り、本という本は彼方此方に吹き飛び、普段着ている衣服は全て散らかったままになっていた。
まるで嵐が一陣通り過ぎていったかのようである。
そして天蓋付きのベッドの上では、ネグリジェ姿のルイズが毛布を被って猫のように体を丸めていた。
どうやら彼女が積もり積もった癇癪を爆発させた結果らしい。


「何の用?」

ルイズは上体を起こし、虚ろな目線で戸口にいる二人を見つめた。
そんな彼女を見てミーはさっとキュルケの背後に隠れる。

「あなたの使い魔を返しに来たのよ。」
「何よ。随分早い返却じゃない。」
「但し、あなたがこの子の面倒をきちんと見れるっていう前提付きだけどね。きちんと面倒を見るって約束するなら今この場で返すわ。
出来ないのなら私か厨房で知り合った平民の使用人がこれから面倒見る事になるから。」

キュルケがそう言うと、ルイズはさっとベッドから飛び出て二人の元までやって来た。
手は硬く握り締められ、顔は流石に真剣な顔つきになっている。
幾ら自分と最初の出会いが悪かったとは言え、使い魔として召喚された以上、キュルケ、ましてや平民の手を借りなければ子供一人手なづける事も出来ないと思われるのは嫌なのだろう。
そしてルイズは震える手でキュルケの元からミーを引き離し、凛とした声で言う。

「馬鹿な事言わないでよ。この子は私の使い魔なのよ。あんたや平民の手を借りるまでもないわ。私の使い魔なんだから私がこの子を立派にしてみせるわ!」

それは意地でも見栄でも何でもない。飾りも無い。
使い魔を持った一人のメイジとして、果たすべき責務に向かうという一言だった。
メイジと使い魔は一生を共にするのだ。
最初からその義務を投げ出していたのでは、自分が目指す立派なメイジなんて夢のまた夢に等しい。
面白いわね、とばかりにキュルケが笑みを浮かべてそれに答える。

「そう?じゃあ私は部屋に戻るわ。……いい?ミーちゃん。ルイズの側にいて恐くなったり泣きたくなったりしたら直ぐ私の所に来るのよ。」
「ふざけないで。どんなにこの子が辛い目に会ったって、最後は……最後は絶対に私の所に戻るようにしてみせるわ!やってやろうじゃないの!」
「あら、随分と頼もしい言葉じゃない。本当の事になれば良いけど。ま、せいぜい頑張ってね。それじゃあ、お休み。」

キュルケはくすっと笑って部屋から出て行った。
そんな様子を見てきーっと吼えたくなったが、隣にミーがいるのでそれは泣く泣く我慢する事にした。
悔しいが彼女は、ミーにご飯を与える等今の自分にはやってのけない事を幾つかやって貰ったのである。
また癇癪を起こしてあっさり約束が反故になるのも嫌だった。
取り敢えず落ち着く為に深呼吸し、改めて名前を訊く。

「あなたの名前は何?」
「わたしは……ミー。」

改めて始まった主人と使い魔の生活。
自分より小さい子をあやした事の無い、厳しく躾けられたルイズは、果たして異世界から来たミーと上手くやれるのか。
未来へと続く道は未だ暗闇に閉ざされている。



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