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イザベラ管理人-08


イザベラ管理人第8話:何故信じるのか・中篇


耕介はシルフィードの上で、吸血鬼についての講義を受けていた。
「そりゃぁ…厄介だなぁ…」
(そういえば、前に会った吸血種と人狼のクォーターって娘も牙を隠しておけるって言ってた気がするなぁ。)
そんな益体もないことを考えていると、シルフィードが口を挟んだ。
「吸血鬼は精霊の力も使えるのね。もっとも、シルフィみたいに姿を変えるような高度な魔法は使えないけど!」
「え、シルフィードも魔法が使えるのか?」
耕介はシルフィードが喋れるのは単にそういうものなのだろうとしか考えていなかったが…冷静に考えてみればありえないことではない。
翼人たちの魔法を見る限り、先住魔法とは口語で発動するもののようだ。ならば、喋れるということが先住魔法を操る第一条件である可能性が高い。
「もちろんなのね!シルフィは由緒正しき古代竜種である風韻竜!とっても気高くて高貴なのね!」
耕介はあえてツッコミを入れることはしなかった。
スルーされたことに不満げなシルフィードを放置して、耕介は如何にして吸血鬼を断定するかを考えるが…どれも一手足りない。
しばらく悩んでいた耕介だったが、何事か思いついたのか御架月へ視線を向ける。
「御架月、霊力を感じるみたいに吸血鬼も感じられるかわかるか?」
御架月は霊剣である故か、霊的な力を感じることができるのだ。その力で索敵にも活躍していた。
しかし、御架月の答えは芳しくないものだった。
「多分、魂がない状態でしょうから屍食鬼ならわかります。でも、僕らのいた世界とこの世界は力の使い方が違うので、多分吸血鬼自身を見つけることはできないと思います」
「どういうことだ?」
「僕らのいた世界…耕介様のような退魔師の方々などの力を使える人は、己に宿る霊力を用いて術を使うので、霊力の距離や大小を感じ取ることができます。
でも、メイジやこの前会った翼人の方々が使う魔法は、この世界に充満してる霊力とは違う力を使って発動してます。だから僕が感じられるのは、誰かが魔法を使った時にどこの力が減ったかだけなんです」
つまり、ハルケギニアでは誰かがどこでどのくらいの規模の魔法を使ったか、しか感じ取れないということになる。
やはり一手欠けるといわざるを得なかった。
「タバサは何か見分ける策をもう考えてあるのか?」
次に、当然ながら自分よりも吸血鬼の生態や魔法に詳しいタバサの意見を聞いてみる。
すると、タバサは自分を指し
「囮」
次に耕介を指し
「ただの剣士」
と言った。
耕介はその2語を繋ぎ合わせて意味を推測する。
タバサはあまり経緯を説明せずに結果だけ言うことが多いので、こっちで補完しなければならない。
「えっと、タバサが囮になって、俺がただの剣士のフリをして、吸血鬼がタバサに襲い掛かったところを狙うってことか?」
耕介の言葉にタバサが首肯する。
なるほど、それは合理的だが…
「ちょっと危険すぎやしないか?タバサが囮になるってことは杖を手放すんだろ?俺が囮になった方がいいと思うんだが」
メイジは杖がないと魔法が使えない。だから吸血鬼は杖を持っている間は手出ししてこないだろう。
故に囮になるのなら杖を手放す必要がある。しかし、そうなるとタバサは小さな女の子でしかないのだ。
それならば、男としてもかなり鍛えている耕介の方がまだしも襲われた時に危険が少ないのではないか。
「コースケは誰が見ても平民。なら、吸血鬼は必ずメイジである私から狙う」
そう、ここはハルケギニア。剣を持っていようが、所詮平民など束になってもかなわないメイジという存在がいるのだ。
ましてや相手は吸血鬼、ただの剣士になど後れを取るはずがない。
ならば自分を打倒しうるメイジを先手を取って殺そうとするのは自明の理だ。
「まぁそうなんだけど…やっぱりタバサを囮にってのはなぁ…」
だが、耕介にはやはり納得しきることはできない。
タバサのような少女を餌に使うなど、人間としても男としても気が引けるのだ。
「貴方の強みは誰にも知られていないこと。これが一番効率的」
だが、タバサの決意は固い。耕介が代案を思いつかなかったのもあり、囮作戦は決行されることとなった。
事前に何か不測の事態があった時用の連絡手段を決めていると、山間に小さな村が見えた。
目的地であるサビエラ村だ。

サビエラ村は山間の寒村で、人口も350人程度。
そんな村に吸血鬼の被害が出たのは、2ヶ月前。それから1週間おきに一人ずつ犠牲が出、現在までの被害者は9人にもなる。
しかもその中には王宮から派遣されたガリアの正騎士もいる、かなり深刻な事態だ。
既に村から引っ越す者たちも現れ、村は情報よりも寂れた印象を受ける。
当然、村人たちは不安に支配されており…そこに現れた騎士がタバサのような少女とただの平民の剣士であれば、その不安がさらに掻き立てられるのも致し方ない。
「今度の騎士様はあんな小さい女の子だなんて…」
「しかも平民の剣士を連れてるなんて、実力に自信がないってことじゃないか?」
だが、そんな悪評もやはりタバサの鉄面皮をわずかも動かすことなどできない。
耕介も自分たちがどう見えるかなどわかっているので、気にすることもないと思っている。
耕介たちはまず事件の詳細を聞くために村長の屋敷へと向かい…そんな二人を見つめる一団がいた。
村一番の切れ者と言われる薬師レオンをはじめとする若者たちだ。
「あんな頼りねぇ騎士と平民の剣士なんか当てになるかよ。この前の騎士みたく殺されちまうのが関の山だ!」
レオンの言葉に若者たちは次々と賛同し、瞳に凶暴な色を宿す。
一同を見回し、レオンはゆっくりと自分の考えを述べた。
「やっぱり、3ヶ月前に引っ越してきた占い師の婆さんが怪しいと俺は思う」
狂騒に囚われた彼らは、状況証拠だけで確証など全くないその言葉を疑おうとすらしない。
「ああ、体に悪いとか言って日中も外にでやがらねぇ。吸血鬼は日光に弱いっていうからきっとそのせいだ!」
「あのデカブツの息子が屍食鬼なんだよ!吸血鬼なんて正体さえわかればこっちのもんだ、焼き殺しちまおう!」
口々に物騒なことを言い合う彼らを諌める者は誰もいなかった。
この村は誰も彼もが、不安と不安に思うこと自体に疲れているのだ。

村でも最も高い場所にある村長の村についた二人は居間に通された。
「ようこそおいでくださいました、騎士様方。どうか、この村をよろしくお願いいたします」
人の良い…だが、疲れを感じさせる笑顔を浮かべた年老いた村長が深々と頭を下げた。
「ガリア花壇騎士タバサ」
「従者のコースケといいます」
互いに挨拶を交わし、まずは事件の詳細を話してもらうが…やはり報告書と変わるところのない内容であった。
「吸血鬼は日中は森の中に潜み、夜になると屍食鬼とした村人を使って手引きをさせて村に侵入しているんではないかと思うのです…。
以前いらっしゃった騎士様は村に侵入しようとしたところを狙うとおっしゃっておりましたが、結局失敗なされて…」
村長の話は参考意見にはなるが、やはり決定的なものはない。
情報の質も量も足りない現状では吸血鬼の居所を断定するのは不可能、と早々に二人は見切りをつけ、まずは村を回ることにした。
村長に礼を述べ、家を出ようとした時…耕介は視線を感じて振り返った。
「おぉ、エルザ。お前も騎士様方にご挨拶なさい」
扉の隙間から少しだけ顔を出してこちらを窺っていたのは、美しい金の瞳。
5歳程度であろう、金の長髪と人形のように整った顔立ちをもつ愛らしい少女だ。
エルザと呼ばれた少女は村長の声に従って恐々と二人の前までくると、硬い仕草でお辞儀をした。
「こんにちは、エルザ。ちゃんと挨拶できて偉いな」
子どもの扱いも慣れたもの、耕介はエルザの視線の高さに合わせてしゃがみ、笑顔で話しかける。
硬い表情だったエルザもわずかに笑顔になったが…タバサの杖を見ると顔をゆがめ走り出した。
「あ、エルザ…?」
耕介の声にエルザは一瞬だけ振り返ったが…結局走り去ってしまった。
耕介とタバサは顔を見合わせ、同時にタバサの持つ長大な杖に目を向ける。
二人の無言の疑問に答えたのは村長だった。
「失礼をお詫びします、騎士様。どうか許してやってください。エルザは1年ほど前、村の寺院で拾った孤児なのです。なんでも両親をメイジに殺され、ここまで逃げてきたそうで…。
きっと、行商人が貴族の方に無礼討ちにされたか、メイジの盗賊に襲われたんでしょうなぁ…。
わしは連れ合いも早くに亡くしてしまい、子どももおらんかったので、引き取って育てることにしたのです。
ですが、わしは未だにあの子の笑顔すら見たことはありません。体も弱く、外で満足に遊ぶこともできない。
その上、この吸血鬼騒ぎです。騎士様、どうかあの子のためにも、吸血鬼を討伐してください」
沈痛な面持ちでエルザの過去を語った村長は、耕介とタバサに頭を下げた。
「はい、必ずこの事件を解決します」
耕介は力強く頷き…タバサはそんな耕介を見つめていた。

二人は村長の家を出た後、被害に会った家々を回って聞き込みをしていた。
「わかったことは、吸血鬼は若い女の血を好む。戸締りを徹底しているのにどこからか進入してくる…か。不寝番をしていても眠ってしまうってのは何かあるのかな?」
村の広場で、わかったことを整理しながら吸血鬼の手口について二人は話し合っていた。
「多分、”眠り”の先住魔法。耐えるのは至難」
”眠り”の先住魔法は空気さえあれば使える、隠密行動には最高の魔法と言える。
しかし、いくら話し合っても結局進入経路の断定はできなかった。
扉も窓も釘で打ちつけて家全体を密室にしていても、吸血鬼はまるで霧のようにその密室内に現れ、犠牲者を増やしてはまた霧のように去っていくらしいのだ。
「タバサ、俺の世界の吸血鬼伝説には、霧やこうもりに変身するとか、魔眼で人を魅了して操るとかあるんだけど、こっちの吸血鬼にそんな能力はあるのか?」
耕介の言ったような能力を吸血鬼が持っているのなら密室に侵入することなど造作もないことだが…タバサは首を横に振った。
「吸血鬼は姿を変える魔法は使えない。魔眼もない」
「そうかぁ…となるとやっぱり煙突から入ったとしか考えられないけど、大人が入れるサイズじゃないし…」
耕介が再び考え込んだ時、鍬や斧を持った一団が村はずれへと向かうのが見えた。
白昼だというのに松明を持った者たちもおり、どう見てもただ事ではない。
「なんだ、今の…気になるな、タバサいこう」
耕介とタバサは不穏なものを感じ、一団の後を追った。
一団は村はずれのあばら家の前でとまると、その家を取り囲みだす。そして、リーダーと思しき男が一歩前に出た。
「でてこい!吸血鬼!」
その声を皮切りに、他の男たちがわめきだす。
男たちは興奮状態で、今にもあばら家を叩き壊しそうなほどだ。
「どういうことだ…吸血鬼があそこにいるのか?」
彼らはあのあばら家の中に吸血鬼がいると確信しているようだが…どうにも耕介には腑に落ちない。
3ヶ月間、討伐にやってきた騎士さえも含めて誰にも姿さえも見せずに食事をし続けた吸血鬼を見つけられる材料がどう考えても存在しない。
村人たちにだけわかるような『何か』があるのだとしても、それなら村長が耕介たちに話すはずだ。
「まさか疑心暗鬼になって、それらしい人をつるし上げる気か?」
慌てて耕介が止めに入ろうとした時、タバサが耕介の服の裾を掴んで引き止めた。
耕介はタバサに真意を問おうとしたが…その前に状況に動きがあった。
村人たちが囲んだあばら家から耕介と同じくらい長身の屈強な男が出てきたのだ。
「誰が吸血鬼だ!ここには吸血鬼なんていねぇ!」
大男が声を荒げて村人たちに抗弁するが…火のついた村人たちには逆効果にしかならない。
「うるせぇ!ここの婆さんが吸血鬼だってのはもうわかってんだよ!お前らがこの村にきてから事件が始まった!婆さんは日中は絶対に外にでねぇ!吸血鬼以外にありえないんだよ!」
村人側のリーダーが動かぬ証拠だとばかりにわめきたてるが…それは村人たちが冷静さを欠いているとしか思えない言葉だ。
単なる状況証拠だけで確証に足りるものなどなにもない。
それでも不安に疲れきった村人たちの暴走は止まらない。むしろさらに加速し続ける。
「お前の首には吸血鬼に噛まれた跡だってある!お前が屍食鬼なんだろ!?」
「これは山ビルに食われた跡だって説明しただろ!他にも首に食われた跡のある奴だっている、よそ者だからって俺たちばかり疑うなんて酷すぎるだろ!」
村人があばら家に押し入ろうとし、大男が立ちはだかって睨みあう。まさに一触即発だ。
だが、その間に割って入った者がいた。
「な、誰だ!?」
それはタバサと耕介だった。
「俺たちは吸血鬼討伐に派遣された者だ。ここは俺たちが調べるから、いったん解散してくれ!」
「邪魔するな!騎士なんて信用できるか!」
だが、怒り狂った村人たちに矛を収める気はないようだ。
メイジに楯突くことも辞さないほどに彼らは追い詰められている。
これでは理を説いての説得も難しい…かといって力で制するわけにもいかない。
進退窮まった耕介とタバサを救ったのは、騒ぎを聞きつけた村長だった。
「お前たち、何をしとる!疑心暗鬼になるのはわかるが、証拠もないのに決め付けるなど許されんことじゃぞ!」
激昂していた村人たちも、さすがに村のリーダーの言葉には怒りを静めるしかなかったようだ。
だが、彼らがこのあばら家の住人を疑っていることに変わりはなく、何かあれば同じことが起こるのは明白。

「ここは俺たちが調査します、なんなら皆さんも同席してください」
村人たちを一時的にでも納得させるため、耕介は調査に彼らを同行させることにした。
村人たちが大人しくしていてくれるかは微妙だが…なんとか抑えるしかないだろう。
大男―このあばら家に住む老婆の息子でアレキサンドルという名らしい―は乱暴は絶対にしないと耕介たちが誓ったことで、渋々と中に入れることを了承してくれた。
あまり大勢で乗り込むのは良くないということで、耕介とタバサの他に薬師のレオンと村長があばら家に入る。
中は日も高いというのに窓が締め切られて薄暗い。粗末な家の奥のベッドにぼろぼろの毛布をかぶった人物だけが見えた、あれが件の老婆だろう。
「お…おぉ…」
老婆が突然現れた男たちに怯えたのか、胸元までかかっていた毛布を引っ張りあげて隠れてしまう。
「チッ、これじゃわからないだろ!」
レオンが無理やりにその毛布を引き剥がそうとするが…
「な、なんだよ、従者さん…!」
耕介がレオンの腕を捕まえて止めたのだ。上背のある耕介の無言の威圧にレオンは勢いをなくし、ベッドから離れた。
「お婆さん、騒がしくしてごめん。でも、貴方の疑いを晴らすためにも少しだけ調査に協力してくれませんか?口を開いてみせてほしいんです」
老婆は、耕介の言葉に恐々と毛布を下げ、口を開いてみせてくれた。
その口には牙はおろか歯の一本すらない。この世界には入れ歯の技術がないか、一般に普及していないのだろう。
「ありがとう、お婆さん。もういいですよ、大丈夫です。貴方の疑いは晴れました」
耕介は終始笑顔を崩さず、老婆を安心させることを最優先にしていた。
それはそうだろう、耕介もタバサもこれが全くの無意味だと理解している。
吸血鬼は牙を直前まで収めておけるし、老婆は肌が弱いらしく日光を当てるわけにもいかない。
元々、この老婆が吸血鬼であると断ずることも否定することも無理な話なのだ。
「おい、それで終わりかよ!?」
レオンが不満げに言い募るが…村長がレオンを諌めた。
「騎士様方がこれでいいとおっしゃっておるんじゃ。それに、お前には確実に吸血鬼だと判断する方法があるのか?」
その言葉にはレオンも押し黙るしかない。彼らとてわかっているのだ、吸血鬼だと断ずることなどできないと。
それでも誰かに怒りをぶつけずにはいられない。それほどにこの村自体が追い詰められている。

若者たちの一団を解散させた後、一通り村を回った二人は村長の家に部屋を準備してもらい、腰を落ち着けた。
「御架月、もう出てきていいぞ」
耕介は最近剣に篭らせてばかりの相棒を呼び出す。
剣から燐光が溢れ、御架月が姿を現した。
「ふぅ、なんだか最近出番が少ないです…」
「ごめんな、御架月。それで早速で悪いんだけど、今日会った人の中にいたか?」
愚痴をもらす御架月に悪いと思いながらも、今は一刻も早く吸血鬼の居所を突き止めねばならない。
御架月もそれは理解しており、すぐに意識を切り替えて答える。
「はい、いました。あのアレキサンドルっていう男の人が屍食鬼です」
それは、村人たちの決め付けが正しかったことを証明する情報だった。
「そう…か。吸血鬼がいたかはやはりわからないか?」
複雑な気持ちで耕介は頷き、さらに質問を重ねるが…やはりこちらは感じられなかったようで、御架月が首を横に振る。
耕介は今日わかったことを考え合わせて推論を立てた。
「仮に吸血鬼は煙突から進入しているとしたら、彼は俺と同じくらいの身長だし横幅もあるから動かす意味がない…吸血鬼は屍食鬼をあまり動かしていないのかな」
「おそらくそう。でも、見張る価値はある」
そういうとタバサは目を瞑り、しばらく押し黙っていた。
タバサが無口なのはいつものことだが、今回はどうやら違うようだ。
「シルフィードに夜、アレキサンドルを見張るように頼んだ」
使い魔の能力である主人とのテレパシー(ただし主から使い魔への一方通行)を使ったらしい。
しかし、夜間ずっと見張れとはタバサもご無体な主である。今頃シルフィードは不満たらたらであろう。
「後は…吸血鬼がいつ動くかわからないから、村の被害にあいそうな若い女性にこの家に集まってもらって俺たちで警護するってのが妥当か」
耕介の言葉にタバサも賛同し、吸血鬼対策のことも打ち合わせる。
警護のことを村長に報告してから二人は夜に備えて眠っておくことにした。

その夜、村長の家には15人もの女性が(人口の割に若い女性が少ないことが村の現状を表している)耕介たちの寝室の隣二部屋に押し込まれていた。
彼女たちは当然不満げであったが、命には代えられないと耕介が説得したのだ。
当然、家中の窓には厳重に板が打ち付けられ、出入りできるのは正面の玄関のみだ。
そして二人は何をしているかというと…酒盛りをしていた。
「タバサ様…もうおやめになった方が…」
耕介の言葉を無視し、タバサは杯を突き出して酌を催促する。
言うまでもないが、演技である。タバサが酔い潰れて眠ったフリをし、吸血鬼をおびき出そうというのだ。うまくいけば今夜で決着がつく。
だが…耕介は不安になっていた。
(こんなに飲んで大丈夫なのか?)
タバサは既にワインを2本あけている。ワインは水…とはイザベラの談であるが、本当に大丈夫なのか。
しかし、タバサが眠る演技を始める様子がないので、仕方なく耕介も酌をする。
それを飲み干し…最後に一杯に決めていたようで、タバサはやっと眠る演技をし始めた…耕介には本当に眠っているようにしか見えないが。
「だ、大丈夫なのかな…」
耕介は苦笑を隠せない。とりあえず言われた通りにタバサをその場に残してワインと杯を片付けるために村長の家へ去る…フリをする。
耕介が物陰で息を潜めようとした…その時
「キャァアアアア!」
絹を裂くような…にはまだ幼い声音の悲鳴が聞こえてきた。
「まさか、エルザか!?」
耕介の言葉を裏付けるように、耕介たちが休んでいる部屋の壁から御架月が顔を出して叫ぶ。
「こちらへは何も来てません!」
耕介たちは吸血鬼をおびき出す作戦の間、女性たちが無防備になることを避けるために部屋に御架月を待機させていたのだが…吸血鬼はさらにその裏をかいてきた。
「く、あんな小さい子まで狙うのか!?」
悪態をつきながら耕介と眠るフリをやめて飛び起きたタバサが1階のエルザの部屋へと急ぐ。
果たしてエルザは部屋の中にいた、幸いにも無事だったようだ。
「大丈夫か、エルザ!」
窓が割られており、どうやらそこから吸血鬼は進入しようとしたようだ。
耕介は毛布をかぶってガタガタと震えているエルザの体を検めるが、どうやら怪我もないらしい。
タバサは部屋の様子を検め、吸血鬼の痕跡を探すが…特に見るべきものはない。外には窓の残骸が散らばっているだけで足跡もなかった。

極度の恐怖に体が緊張しているエルザを居間に連れて行き、村長に出してもらった何枚かの毛布で包んで体を温めて耕介が手早く作ったスープを飲むとエルザは次第に落ち着いていった。
「エルザ、怖い思いをしたのに悪いけど、何があったのか話してくれないか?吸血鬼の手がかりを掴めるかもしれないんだ」
耕介の言葉に、エルザは少しの間沈黙していたが、つっかえつっかえに話してくれた。
「男の人が…入ってきて、エルザを連れて行こうとしたの…顔は暗くてよくわかんなかった…」
エルザも混乱していたのだろう、有力な情報はないが…襲われた時のことを仔細に思い出せというのも酷な話である。
その時、エルザがヒッと短く息を呑んだ。どうやらタバサの杖に気づいたらしい。それに気づくと、タバサは静かに居間を出るために歩き出した。
「ご、ごめんなさいお姉ちゃん…」
エルザもタバサに非はないと理解しているらしく、か細い謝罪を口にした。タバサは一瞬だけ振り返ってエルザに頷くと居間から出て行く。その際に「家を調べてくる」とだけ言い残していった。
耕介はエルザが落ち着くまでしばらく背中を撫でたりと世話を焼いていたが、エルザが船を漕ぎ出したあたりで、ベッドに寝かしつけるために自室に戻ることにした。
怯えているエルザを安心して寝かせてやるためだ。
耕介はエルザを自分が使っていたベッドに寝かしつけ、念のために窓を確認しようとした…その時、なにやら引っ張られる感触を感じた。
耕介が振り返ると、エルザが眠たげに目をこすりながらもしっかりと耕介の服の裾を握っていた。
「あー…エルザ、一緒に来るか?」
コクリと頷いたエルザを抱き上げ、窓から周囲をざっと確認する。
特に異常はない…どうやら今夜は吸血鬼も諦めたと見てもいいだろう。
一応警戒は緩めずに、耕介はエルザをベッドへと連れて行った…が、エルザは耕介にしがみついて離れようとしない。
「エルザ、まだ怖いか?」
耕介の言葉にエルザは頷くが…もう眠気が限界なのだろう、瞼が今にも落ちそうだ。
「お兄ちゃん…あったかい…」
案の定、エルザはその言葉を最後に瞼を閉じ、穏やかな寝息を立て始めた。
エルザが安心して眠ったことに安堵する耕介だったが…はたと気づいた。

「……俺、どうすりゃいいんだ…?」
耕介のシャツをエルザはガッシリと握っており、無理やり引き剥がすのも気が引ける。
結局耕介は朝まで同じ姿勢を強いられるのだった。ちなみに隣の部屋にいる女性たちへの説明と家の検分を終えて帰ってきたタバサが耕介を若干冷たい目で見ていた気がするが、気のせいだろう。

二人は朝まで不寝番をしてから眠り、夕方に目を覚ました。エルザは寝る前に村長に預けている。
今夜の不寝番の準備をしていると、扉が叩かれた。この家に泊まる女性が夕食を運んできてくれたのだ。
二人がありがたく食事を受け取り、女性が出て行くと、入れ違いにエルザが入ってきた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、エルザも一緒に食べていい?」
どうやら昨日の一件ですっかり懐かれてしまったらしく、エルザは二人の了承も待たずに耕介の膝の上に飛び乗った。
特に断る理由もないので、そのまま3人で他愛ない会話をしながら食事をしていると、エルザが突然奇妙なことを聞いてきた。
「ねぇお兄ちゃん、野菜も鳥も皆生きてたんだよね?」
エルザの質問の意図を図りかねるが、とりあえず耕介はそれを肯定する。すると、エルザはさらに質問を重ねる。
「野菜や鳥を殺して私たちが食べるのって、生きるためだよね。でも、それって吸血鬼も同じじゃないの?」
エルザの声には何の打算も皮肉も言葉には込められてはいない。おそらく純粋に疑問に思っているのだ。
だから耕介はその疑問に真摯に答えた。
「そうだな。俺たちの食事と、吸血鬼の食事は同じ意味だ」
それは耕介の偽らざる本心だ。彼は吸血鬼のことを悪だなどとは一度も思っていない。
人間が生きるために他の動植物を殺すように、彼らも生きるために人間を狩る。ただ、それだけのことだ。
「じゃぁ…」
エルザがさらに言葉を重ねようとした時…
「耕介様!きます!」
御架月の声が響いた。
エルザが突然響いた第三者の声に驚くがかまってはいられない。
すぐさま耕介はエルザを降ろし、霊剣・御架月をもってタバサとともに隣の二部屋へ二手に分かれて突入する。
「じゅ、従者様?」
「全員扉側へ寄ってくれ!」
中では皆が食事を摂っていたが…次の瞬間、窓を破って何者かが部屋へと躍りこんできた!
構えていた耕介は、すぐさま扉側へ移動しようとしていた女性たちをすり抜け、御架月で抜き打ちの一撃を浴びせる。
さすがに相手も突入直後に攻撃が来ることは予測していなかったらしく、足元を襲う斬撃を避けることはできず…しかし、深手を負わせることもできなかった。
「何!?」
完璧なタイミングで入ったと確信していたが、相手は驚異的な反射神経で飛びのき、足を浅く斬るに止まってしまったのだ。
だが、相手にとっても無理な運動だったのだろう、壁に激突する。しかし、驚くべきことに相手は何のダメージもないかのように立ち上がってきた。
それは、やはりアレキサンドルであった。
アレキサンドルを見張っていたシルフィードからの合図で、二人は彼がここに来ることを察知していたから驚くことはなかった。
だが、女性たちは口々に悲鳴を上げ、部屋から逃げ出していく。
獲物がいなくなったと見たアレキサンドルは窓から飛び降り、走り去ろうとする。
耕介もすぐさま窓から飛び降り、背中から落ちて回転しながら衝撃を逃がす…だが、やはりダメージは免れない。
そんな耕介の上を人影が過ぎった。隣の部屋の窓から<<フライ>>でタバサが飛び立ったのだ。
屍食鬼となったアレキサンドルは獣並みの速度で走るが、空を飛べるタバサが先回りに成功し、挟み撃ちの状況となる。
アレキサンドルはすぐさま反転し、ただの剣士である耕介へと飛び掛った。
「ガァァァァ!!!」
昨日の母思いの青年の影など掻き消え、まさに猛獣のように吼えながらアレキサンドルが狼のような敏捷さで耕介を引き裂かんと迫る。
タバサは<<フライ>>で降りてきたばかりで魔法が間に合わない。
一瞬、タバサの鉄面皮が崩れ、焦りが顔をのぞかせ…だが、タバサには見えた。
耕介はアレキサンドルの跳躍の下を潜る形で駆け抜け…御架月を上段から振り切っていた。
ドシャァ!という重いものが地面とこすれる音がし、耕介の後ろに体を中ほどまで斬り裂かれたアレキサンドルが落下する。
タバサは我知らず息を呑み…耕介の評価を新たにしなければならないと考えていた。
<<アイスバレット>>を斬った時にその力量と刀の強度を理解したつもりになっていたが…ああも簡単に人間を両断するなど、異常だ。
さらに、ただの人間を優に超える屍食鬼の速度を前にしても動じず、見事に斬り捨てたその胆力も人並みはずれている。
タバサは思う。これほどに強力な使い魔である耕介を、イザベラはどうして認めようとしないのだろう?
だが、その自問にはすぐに答えが出た。能力など関係なく、耕介が耕介であるからこそ、イザベラは簡単に認められないのだろう…と。
「タバサ!頼む!」
数秒呆然としていたタバサは耕介の声に我を取り戻し、再び鉄面皮をはりつけるとアレキサンドルへと駆け寄った。
二人で未だに腕だけで動こうとするアレキサンドルに土をかけ、タバサが<<錬金>>によりそれを油へと変える。
次いで<<発火>>をかけ…哀れな青年は今度こそ完全に停止し、燃え尽きて灰へと還った。
「安らかに眠ってくれ…」
耕介とタバサはアレキサンドルの魂の安らぎを願い、黙祷を捧げるのだった。
二人が瞑目していると、突然の突風とともにシルフィードが降りてきた。
「お姉さま、コースケ、大変なのね!」
サビエラ村激動の夜はいまだ終わりを告げない。

アレキサンドルと老婆が暮らしていたあばら家は今まさに燃え上がっていた。
「吸血鬼め!殺された者たちの恨みを思い知ったか!」
薬師のレオンをはじめとした村人たちがあばら家を取り囲んで、松明を投げ入れている。
「証拠もあがった、あの役に立たない騎士の代わりに俺たちが天誅を下してやる!」
女性たちがアレキサンドルが屍食鬼だったと喧伝したのだ。加えて、彼らは女性たちが煙突の中から落ちてきたという”証拠品”を見て確信を得た。
若者たちの怒りに再び火がつき、彼らは憎き吸血鬼を灰に還すためにこの場に集結したのだった。
そんな彼らのわずか上空を凄まじいスピードで影が過ぎった。次いで、炎上するあばら家に何かが落下する。
「な、なんだ!?」
村人たちは何が起きたのかもわからず突風に体勢を崩された。
再び影が落ち…今度は少女が空から降りてきた。それはタバサであった。
「き、騎士様…?」
村人たちが呆然とする中、厳しい表情で今にも燃え落ちんとするあばら家を睨んでいたタバサだったが…突然詠唱を開始した。
次の瞬間、あばら家から何かが飛び出してくる。タバサはそれに向かって威力を極限までセーブした<<カーレント>>を放つ。
空中から集められた水の洗礼を浴び、それの正体がやっと判明した。
それは耕介と…そして、老婆であった。
「ゲホ!ゲホ…!タ、タバサ、頼む…!」
タバサは憔悴した老婆に治癒をかける。
助け出すのが早かったためか、老婆は火に巻かれず、煙も吸い込まずに済んだようだ。だが、やはり無理を強いたために呼吸が激しく乱れている。
村人たちはしばらく呆然としていたが…あばら家が燃え落ちる音に我を取り戻した。
「あ、あんたたち何のつもりだ!!吸血鬼を助けるなんて!!」
レオンが激しく耕介とタバサを詰る。だが、耕介とタバサの反応は無言だった。
業を煮やしたレオンが耕介へと近づくが…耕介がレオンに振り向いただけで彼は足を止めざるを得なかった。
常に温厚で滅多に怒らない耕介だが…今回ばかりは本気で怒っていたのだ。
昨日の老婆の調査時に見せた威圧感など比にならぬ、死線を知る戦士の威圧にただの村人であるレオンが耐えられるはずもない。
やがて、老婆の呼吸が落ち着いてきた頃…押し殺した耕介の声が響いた。
「本当にこの人が吸血鬼ならアレキサンドルの襲撃が失敗した時点で逃げ出してる…真っ先に疑われるのはこの人なんだからな…!」
だが、村人たちも引き下がることはない。何故なら彼らには証拠品があるのだ。
「これを見ろ!こんな派手な染めの着物はその婆さんしかこの村じゃ着てねぇ!これが村長の家の煙突にあったんだ!」
そう、証拠品とは着物の切れ端だった。やせこけた老婆だからこその進入経路だと言える。だが、それでも。
「それはいったいいつ見つかったものだ!昨夜のエルザの一件の時に俺たちは煙突を調べたけど、そんなものはなかった!」
「な…!」
吸血鬼の進入経路は煙突だろうと考えていたタバサは昨夜の襲撃の後に痕跡がないか調べていたのだ。
しかし、その時点でそんなものはなかった。ならばこの切れ端はいったいいつ煙突に入ったというのか…。
「もう少し、冷静になって考えてくれ」
底冷えがするような耕介の声にレオンたちは何も言い返せず…二人が老婆を連れて去った後も動けずにいた。

村長に一つ質問をしてから老婆を預けた耕介とタバサは、女性たちに屍食鬼を倒したことを報告し、安心させてやる。
そして、緊張の糸が切れたのだろう、早々に女性たちが寝静まった後も不寝番を続けていた耕介とタバサの元にエルザがやってきた。
「どうした、エルザ。もう日も暮れたのに」
「あのね、皆を守ってくれたお礼がしたいの!」
エルザは昨夜のことが嘘のように明るく振舞っていた。
「今夜じゃないとダメなのか?」
「うん、夜が一番綺麗なの!」
どうやらエルザはどうしても今がいいようだ。
万一に備えて耕介とタバサのどちらかはこの場に残らなくてはならないため、メイジ恐怖症のエルザのことも考えてタバサが残ることになった。
「ごめんね、お姉ちゃん…お姉ちゃんには別のお礼を考えてあるから…」
エルザの申し訳なさそうな声にタバサは首肯だけで答える。
部屋を出る一瞬、耕介とタバサが目配せをしたことに、エルザは気づかなかった。

「あれ、お兄ちゃん、剣持ってきたの?」
耕介はエルザに連れられて村はずれの森の付近にやってきていた。
「ああ、もしここに吸血鬼が現れたら、武器がないとエルザを守ってやれない」
他愛のない会話をしながら、エルザはどんどんと森の奥へと進んでいく。
エルザはずっとご機嫌な様子で耕介に話しかけていたが、耕介はそれに対して最低限の言葉を返すだけだった。
やがて、開けた場所に出た時…耕介は瞠目した。
木々が避けてできたそこは一面の花畑であった。カラスウリに似た白い花が咲き乱れ、月光を浴びる様は幻想的だ。
「すっごく綺麗でしょ?」
その中をエルザは跳ね回る。たなびく金の髪と、風に舞う花吹雪、降り注ぐ白銀の月光が絶妙に絡み合い、まるで花の精が舞い踊っているようだ。
「ああ。こんなに綺麗な光景は初めてだな」
耕介も花畑の中ほどに進み出て、踊るエルザを見つめる。
「でもね、お兄ちゃん。お礼は別のものなんだよ?」
エルザがどこまでも無垢な微笑みを耕介に向ける。
「じゃぁ、何をくれるんだ?」
耕介も笑顔でそれに答え…さりげない動作で御架月の鯉口をきった。
「それはね…」
踊っていたエルザが立ち止まり、耕介へ体ごと振り向く。
突風に巻き上げられた花弁が二人を包み…まるでここは花の楽園。
「永遠の命だよ!」
白銀と純白に彩られた楽園で…耕介は金色の吸血鬼と出会った。



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