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ゼロな提督 第5話  破壊の壷


 虚無の曜日、未明。
 城下、ヴァリエール公爵トリスタニア別邸。

 ようやくヤンは衛士達の取り調べから解放された。
 とはいえ、メイジでないヤンはフーケでない事は歴然としているので、単に事情聴取さ
れただけだが。ルイズも公爵も目撃した事実と被害内容を尋ねられただけで、すぐ衛士達
は別邸から立ち去った。
 その後、王宮はハチの巣をつついた騒ぎだったし、まだ夜も明けきらぬというのに、『土
くれのフーケ、ヴァリエール家の秘宝を強奪』の知らせはトリスタニアを駆けめぐってい
た。だが、ヴァリエール家の別邸にいたルイズとヤンには、その辺の話は届かなかった。


 幸いエレオノールや御者達に大きな怪我は無かった。地面に倒れていた長女に駆け寄っ
た公爵とルイズは、単に気絶しているだけなのを確認して安堵した。フーケのゴーレムは
追うには既に遠すぎた。
 近くの木の幹には『ダイヤの斧、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』とのサイ
ンが残されていた。
 二人の呼びかけに目を覚ましたエレオノールは、フーケに斧が奪われたのを知って、再
び卒倒してしまった。今は別邸でベッドに休んでいる。


 そしてお昼前。
 昨晩の騒ぎで夜更かしをさせられたルイズとヤンが、ようやく起き出してきた。ダイニ
ングルームで顔を合わせた二人は、挨拶代わりに大きなアクビを交換してしまう。
「ふわぁ~うぅ。おはようございます、ミス・ヴァリエール。公爵様はどちらへ?」
「ふふぁあ~うぅぅ。おあよー、もう城へ行ったわよ。フーケの捜索隊がどうとか言って
たわ。眠かったのであんまり覚えていないんだけど」
「エレオノール様は?」
「まだ寝てるわ。…さすがに、今はそっとしておいてあげましょう」

 ルイズの言葉をききつつも、ヤンはガックリと肩を落としてしまう。

「はぁ、やっと金に縁のない生活から抜け出せたと思ったのになぁ。これじゃ治療費を返
すのは当分無理そうだ」
 対するルイズはエッヘンと胸を張った。
「その点は大丈夫よ!父さま、例の3倍分はちゃんとくれたの!」
 そう言ってルイズが手を打つと、別邸のメイド達がワゴンに乗せた大きな箱を持ってき
た。
 ヤンが蓋を開けると、中にはエキュー金貨が入っていた。
「んじゃ、約束通り1/3があんたの取り分よ。有難く思いなさいよ!」
「う、うん。感謝するよ。さすがはヴァリエール公爵、気前が良いねぇ」
 内心ヤンは、雇い主をルイズから公爵へ乗り換えようか、と考えてしまった。
 もちろん口にはしなかったが。



      第5話   破壊の壷



 昼過ぎのトリスタニア。
 休日だけあって露店も並び、酒場は昼間から乾杯の声が響き、様々な看板が軒を連ねて
いる。同時にフーケ捜索に当たる衛士や兵士の隊があちこちを走り回っている。


 別邸から馬車で買い物に来た二人。ヤンは相変わらずキョロキョロと、興味深そうに町
並みを見回している。
「ほら、そんなに物珍しげにしてると、スリに狙われるわよ!」
 そうルイズに注意されたものの、立体TVや歴史の資料でしか見れないものが目の前に
現実として広がっているのだ。歴史学者志望だったヤンに珍しげにするなというのは無理
と言うものだろう。
「うーん、分かったよ…へぇ~、あれって薬屋さんかい?うわー、瓶の中に動物がそのま
ま入れられているよ!あれを飲むのかい!?病気にはならないようにしなきゃね」

 どすっ!

 昨夜に続き、今度は脇腹に肘がめり込んだ。
 悶絶しそうになるヤンは、どうにか倒れるのをこらえた。
「ぐっ、ごふぅ…ふぅ、し、失礼したね。それじゃ、僕の服とかも色々買わなきゃね」
「そうしなさい。いっとくけど、あたしに恥をかかせないでよね!」
「承知しました。ミス・ヴァリエール」

 そんなわけで休日の午後、二人は仕立屋でヤンの執事に相応しい服を注文したり、靴屋
に行ったり、新しいお茶の葉を選んだりと、ショッピングを楽しんだ。…まぁ買い物の常
で、レディであるルイズの大量に買い込んだ服やらバッグやらを、ヤンが持たされるのは
お約束。
 ヴァリエール家の馬車で来ているので、荷物をどんどん馬車に詰め込めるのが幸いでは
あった。が、それでも大荷物を抱えて商店と馬車を往復させられるヤンは、もう息が絶え
絶えになってしまう。
 夕方になる頃、荷物で一杯になった馬車の中をみて、ヤンは呆れてしまった。
「いやぁ~、沢山買ったねぇ。まぁ、これだけ買えば十分だね。それじゃ、学院に戻ろう
か」
「まだよ」
 ルイズの無慈悲な一言に、ヤンはうんざりして頭を垂れてしまう。
「ねぇ、ルイズ様…もうこれ以上、何を買うというんだい?もう必要なものは全部買った
と思うよ?」
「何言ってるの?一番大事なモノを買ってないじゃない」

 当然のように言うルイズに、馬車の中の山と積まれた荷物を見直す。
 だが、いくら考えても買い忘れたものは思いつかない。
 ルイズは、ヤンを見上げてハッキリと足りないものを告げた。

「武器よ」

 ルイズの言葉は、ヤンの発想からは外れたものだった。
「武器って…君のかい?」
  ドコッ!
 ヤンはルイズに思いっきり蹴られた。
「何で私が持つのよ。あ・ん・た・の、武器!またフーケと会ったら、次こそとっ捕まえ
るわよ!」
 言われたヤンは、口があんぐりと開いてしまう。
 どう答えたものかと思考を巡らし、なんとか目の前の若いアルジに理解してもらえそう
な言葉を選んだ。

「僕は武器なんか使えないよ」


 本人は理解してもらえる言葉を選んだつもりらしい。だが、ルイズには全く理解出来な
かった。ジロリと自分の使い魔を睨み付ける。
「あんた、軍人でしょ?」
「うん。自分でも信じられないけど、軍人だった」
「士官学校にいたんでしょ?」
「もちろん。もっとも、落第すれすれだったね」
「でも、当然ながら、武器の扱いだって習ったわよね?」 
「でも、当然ながら、ハルケギニアの武器の扱いなんて習ってないよ」
「あんた、銃を持ってるじゃないのっ!」
 ビシィッと、ルイズはヤンのジャンパーの胸ポケットを指さした。
 ヤンは胸を張り、ふんぞり返って答えた。
「自慢じゃないけど、僕が撃っても当たらないのさ!」

 どすぼごべきずか

 ヤンは往来の真ん中でルイズにどつき回された。
「バカ言ってないで、武器屋に行くわよ!またどこでフーケが出てくるか分からないんだ
から。次会ったら、必ずお縄にしてやるんだからね!
 あんたも!そんな一発撃ってお終いなオモチャじゃなくて、ちゃんとした剣とか買いな
さい!」
「うう、本当にいらないのに…」

 ヤンとしては、本当に武器なんか持つ気は無かった。今ジャンパーに納めている銃にし
たって、ハルケギニアの人が使ったりしないように自分が持っているだけなのだから。ル
イズはヤンの持つ銃をハルケギニアのフリント・ロック銃と似たようなモノと思いこんで
いるようだが。

「とはいえ、確かに銃はいつかエネルギー切れになる、か。日用品としてのナイフがあっ
ても便利かな」
 なんとか自分を納得させて、肩で風を切ってノシノシ歩くルイズの後を追いかけた。


 悪臭が鼻をつく路地裏に入り、ゴミや汚物が転がる道ばたを抜け、四つ辻に出た所で、
銅の看板をルイズが指さした。
「ふーん、剣の形の看板か。あれが武器屋かい?」
「ええ、さぁ入るわよ」
 二人は石段を上がり、羽扉を開けた。


 薄暗い店内はランプで照らされ、壁や棚に所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲
冑が飾られていた。店の奥でパイプをくわえていた50がらみの親父がルイズをうさんくさ
げに見つめた。紐タイ留めに描かれたと五芒星に気付く。
 ルイズはツカツカと店主の前へ行く。
「旦那、貴族の旦那、ウチはまっとうな商売して・・・」
「客よ。この平民に合う剣を・・・」

 そんなやりとりをしながら、店主はチラッとヤンを見た。
 店内の武具を珍しげに眺めてまわる、30代くらいの学者風な男。筋肉質とは言えない
身体。と言う以前に、どうみても剣を振りそうにない半開きの寝ぼけまなこ。
「え~っと、旦那…さっきから言ってるのは、そこの御仁で?」
「そうよ。なんか文句あんの!?」
「いっいえ!滅相もない!そうですねぇ、最近はフーケなんて盗賊が出没する物騒なご時
世ですからねぇ。宮廷の貴族の方々の間でも下僕に剣を持たすのが流行ってまして」
「分かってるじゃない。それじゃ、適当に選んでちょうだい」


 店主は、カモがネギ背負ってやって来た、と言う感じの雰囲気を漂わせつつ店の奥から
細身の剣を持ってきた。煌びやかな模様がついた、貴族に似合いの綺麗な剣だ。
「さっきの話で、下僕に持たせているのが、こういうレイピアでさあ」
 ルイズはジロジロと剣を眺める。
「フーケのゴーレムを相手にするなら、もっと大きいのが」
「いや、ナイフが良いよ」
 いつのまにやら、ヤンがルイズの背後に立っていた。じっと華奢な剣を見つめている。
 そして、普段のとぼけた台詞からは考えられないような言葉を連ねた。
「さっきも言ったけど、僕は剣を使った事はない。でも戦場はともかく、その剣が普段持
ち歩くのに向かない事は分かるよ。
 まず強度がない。細すぎて、斬りつけたら折れる。突くには良いけど、うっかり深く突
いたら抜けなくなるから、複数に囲まれた状況では使えないよ。それに刃物は刃こぼれと
かで切れ味がすぐ落ちる。
 ああ、フーケのゴーレムを前提にするなら、そもそも剣で立ち向かうという発想自体が
間違いだよ。どうみても、あんな大きなゴーレムには剣が通らないし、使役するメイジを
倒さなきゃ意味がないんだから。
 それに、長さも中途半端だ。鞘から抜くために一拍動きが遅れる。だから敵に先手を打
たれる。と言って敵より早く抜いたとしても、長さが無いから結局間合いを詰めなきゃな
らないので意味がない。戦場で敵に先手を打てないとか、間合いで負けるのは、死と同義
だよ。
 それと、路地みたいに狭い場所や大通りのような大人数が入り乱れるような場所では剣
は向かない。周りにぶつかって剣を振れなくなる。足場の悪い場所では小回りの効く方が
有利だし。
 なにより、さして役に立たないにも関わらず、腰に剣をこれみよがしに下げなきゃいけ
ない。だから周囲に僕を警戒させてしまう。敵は油断をさせた方が奇襲もしやすい。
 あと、警戒心を与えないという事は、交渉もしやすいということさ。この利点は武器の
威力以上の価値があるよね」

 どう見ても冴えない中年男の口から飛び出す、全く似合わない戦術論
 店主のオヤジもルイズも、呆気にとられて何も言えない。
「…以上の点から、そうだねぇ、小さなナイフが良いんだ。それも、服の袖に収まって、
一瞬で手に収めれるようなヤツ。隠しナイフみたいなものなんだけど」

 ようやくヤンが語り終えた時、ルイズは小さな手でパチパチと拍手してしまった
 店主も感嘆の溜め息をついてしまう。
「いやぁ~、おみそれいりやした。どうやら、いっぱしの知識はお持ちのようで」
「まったくだぜ!そんな貧相な体してっから、どんな青ビョータンかと思ったら!いやー
おでれーたわ!」
 いきなりどこからか妙な声がした。低い男の声が、乱雑に積み上げられた剣の中からし
ている。
 ヤンが声の方へ歩み寄ると、そこにはツバをカチカチ言わせてしゃべる、サビの浮いた
ボロボロの剣があった。
「うわぁ、なんだいこれ?しゃべる剣とは驚いたねぇ」
「へっへー、おでれーたか!デルフリンガーってんだ、よろしくなオッサン!」

 オッサンと言われたヤンは、軽くよろけた。
 お兄さんと呼んで欲しい、なんて厚かましい希望は持っていない。もう若いとは言えな
い事はヤンも自覚している。それでも、『オッサン』の一言は彼の胸をえぐった。

「やいデル公!お客様に失礼な事を言うんじゃねぇ!」
「あに言ってやがんでぇ!オッサンはオッサンじゃねーか!もっとも、俺にしてみりゃ、
どいつもこいつもヒヨッコだけどよ!」
 何度もオッサンと言われた心理的ダメージに打ちひしがれつつ、彼は剣を手に取った。
表面にサビが浮き、お世辞にも見栄えが良いとは言えない薄手の片刃剣だ。
「それってインテリジェンスソード?」
 ヤンの後ろからルイズが珍しげに覗き込む。
「そうでさ、若奥様。意志を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさあ。ったく、いった
いどこの酔狂な魔術師が始めたんでしょうかねぇ?剣を喋らせるたぁ…」


 店主のデルフリンガーに対する愚痴はまだまだ続いたが、ヤンの耳には届いていないよ
うだ。珍しげに剣をあちこち調べている。
「ふぅ~ん、面白いねぇ…どうして剣をしゃべらせるんだろう?何か意味があるのかな」

 そんなヤンのつぶやきを、剣の方も聞き流しているかのようだ。
 ジッとヤンを観察するかのように黙りこくっている。
 しばらくして、剣は小声でしゃべり始めた。
「おでれーた。見損なってた。まさか、こんなひょろいオッサンが『使い手』とは」
「『使い手』?」
 いきなり聞き慣れない言葉を投げかけられ、ヤンはキョトンとする。
「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい、オッサン、俺を買え」

 買え、と言われたヤン。
 天井を見上げ、どう答えたものかと思案してしまう。
 しばしの後、ヤンは気の毒そうな顔をした。

「ゴメン、要らないよ」
「ぬぁにっ!?」

 この錆びた剣に顔があったなら、剣の目が点になっていたろう。
「なっなんでだ!?なんでいらねーんだっ!??」
「いや、なんでと言われても…さっき言った通りだね」
「ぐっ」
「アイテムとしては面白いんだけど、武器としては…僕には使えないなぁ。戦場に行く予
定もないし」
 剣は、言葉に詰まってしまった。
 今度は店主がニヤニヤ笑い出す。
「聞いたかよ、デル公。やっぱこの御仁は見る眼があるってこったなぁ」
「うっうるせえ!てめえこっちこい!鼻をそぎ落としてやる!」
「はっ!出来るモンならやってみな!
 つーわけで、旦那様方。こちらのナイフ10本セットではいかがでしょう?長さは15
サントで細い両刃、手に持っても投げても良しの優れもの。この二本は飛び出し型・折り
たたみ型でして…」

 店主とルイズは奥でナイフの品定めに入ってしまった。
 ヤンの興味もナイフの方に向いてしまい、デルフリンガーは乱雑に積み上げられた剣の
山に戻されそうになる。
「わー待て待て!オレッちはホントに役に立つんだ!『使い手』には最適の剣なんだ!い
やマジで!!」
 インテリジェンスソードの必死な懇願に、ヤンもついつい哀れになってくる。
 なので、もう一度さびた剣を見直してみる。
 よーく、じっくりと見直してみる。
 だが、溜め息を一つついただけ。

「…せめて、何の役に立つか、自分で教えてくれるかなぁ」
「お、おう、聞いて驚け!俺を買えばだなぁ…」
 剣は叫んだ。自分の売りを。

「話し相手になるっ!」

 店内の人々は、笑うべきか呆れるべきかツッコミを入れるべきか、迷った。
 なので、とりあえず店主が大笑いしてルイズが呆れてヤンが「なんだそれは」とツッコ
ミを入れた。



 結局、剣としてのアイデンティティーを放棄してまでの懇願に根負けしたヤンは、長剣
を背負いナイフセットの束等を手にして店を後にしたのであった。




 既に日も暮れた夜道。
 沢山の荷物を積んだヴァリエール家の馬車が、学院への街道をノンビリと進んでいた。

 ヤンはぼんやりと窓から二つの月を見上げている。
「月明かりも衛星が二つあると明るいねぇ。とはいえ、こんな薄暗い夜道を馬車で走って
大丈夫かい?」
 ルイズはアクビをしながら眠たげに答えた。
「だいじょーぶよぉ…ふわぁあ~…この道はちゃんと整備されてるし、危ない場所もない
から。ゆっくり行けば、ちゃんと無事に学院に着くわよ」
 床に置いた長剣が、鞘からひょこっと少し飛び出した。
「ところでよぉ、ヤンとやら。珍しい服装してっけど、そいつぁどこの服だ?」
「ああ、これは僕の国の軍服なんだよ。僕の国はそれはそれは遠くてねぇ・・・」


 そんな話をしながら、御者はゆっくりと夜道を走る。
 学院に到着したのは結局夜更けになってしまった。


 学院の門をくぐったルイズは大きく伸びをする。
「うーんっ、やっと着いたわ。全く色々あったけど、とにかく私はお風呂入ってくるわ。
 あんた達は荷物を部屋に運び入れておいてね」
 と言ってルイズはさっさと寮塔へ入っていった。
 運び入れておいてね、と命じられたヤンと御者は、馬車に詰め込まれた荷物の山を眺め
る。そして顔を見合わせて、諦めのため息をついてしまった。




 御者とヤンは、どうにかこうにか荷物を全部ルイズの部屋に運び入れた。
 ヤンはもう、息も絶え絶えで寮塔入り口の石段に腰掛けてへばってる。
「お疲れ様ぁ~、ありがとう~」
 へろへろの手を振って、御者に礼をいうヤン。
「こっちこそありがとうだぜ、お互い主にゃ苦労させられるなぁ」
 御者も礼を返して去っていった。

 ルイズの部屋の扉を開けたヤンは、乱雑に積み上げられた荷物の山を視界に入れる。
 これを更に片付けて整理させられる苦労に思考が向こうとした時、ついつい現実逃避を
したくなった。
「ハァ~イ、使い魔さぁ~ん」
 荷物の山から目を背けたいヤンの願いを神か悪魔が聞き入れたらしい。彼を背後から呼
ぶ女性の声があった。が、その声を聞いた彼は、願いを聞き入れたのは悪魔に違いないと
推理した。
「ねぇ~え?使い魔さんってばぁ~」
 聞こえないふりをしたかったが、さすがにそれは無理がある。なにしろその声の主は、
ヤンの背筋に指を、つつつぅ~と上下に這わせていたから。


 覚悟を決めて振り向くと、案の定そこにはキュルケとタバサが立っていた。
「今晩は、ミス・ツェルプストー。そしてミス・タバサ」
 とりあえずヤンは他人行儀に礼儀正しく頭を垂れた。
「やぁねぇ~、相変わらず他人行儀なんだから。それはそうと、ちょっと良いかしら?」
「あ、いえ、既に夜も更けていますから。また明日でいいでしょうか?」
 当たり障りの無い台詞でやんわりと断りつつ、ヤンの足はジリジリとルイズの部屋へ後
退していく。だが、キュルケもじわじわと間合いを狭めていく。
「あらあら、いいじゃないのぉ~。夜は長いんだし、色々お話を聞かせて欲しいのよぉ」
 いつのまにやら、ヤンはルイズの部屋の中まで後ずさっていた。そしてキュルケも部屋
の中に入ってきてしまっていた。ついでにタバサも。
「あの、ですから、明日も学院の授業が…」
「うふふふ…あなたのお話、学院の退屈な授業より面白そうなんですもの」
 荷物の山に阻まれて後退出来なくなったヤンに、キュルケがゆっくりと体を、特に胸を
すり寄せてくる。
「だからぁ…お話、して下さる?」
「わ、私に何の、話、でしょう、か?」

 ヤンは、もてない。
 ハッキリ言って、もてない。
 想いを寄せ合う女性はいたし、まだ中尉の頃から片想いをしてくれた年下の女性と結婚
もした。でも、それは彼という人物を良く知っていたからであり、非常に物好きな年下女
性が一目惚れしてくれたからだ。
 見る人によってはハンサムに見えなくも無い、と言う程度の顔。いつももダラダラして
いるとしか見えない態度。半分寝ている目。ちょっと猫背。ヘタなジョーク。運動音痴。
どうひっくりかえっても、控えめに言っても、女性に熱烈なアプローチを受けるタイプの
人間ではない。
 ヤン自身は、英雄と呼ばれ高級士官になった頃なら女性を自由に選ぶ事ができるように
なっていたのかもしれない。しかし、そんな事は想像すら出来ない朴念仁だった。
 なので、キュルケの色気に無様な撤退を余儀なくされる事、非難できるはずもない。

 今やヤンは、汗をダラダラと滝の様に流していた。

「ねぇ…フーケに斧を奪われたって、ホント?」
「・・・ああ、その話ですか・・・」
 ヤンはホッとすると同時に、僅かにガッカリもしてしまった。だがそれは男として当然
で、決して誹謗中傷を受ける理由にはならないはずである。

「ちょっと、人の部屋でなにしてるのよ」
 ちょうどルイズもお風呂から帰ってきて、扉を開けたまま額に血管を浮かべていた。




 同時刻、学院中庭の植え込みの中に、一人の人物が立っていた。
 頭から黒いローブをすっぽり被った人物は、手に斧を、正しくは斧のヘッド部分を持っ
ている。
「くっくっく…全く、こんなに上手く行くとはねぇ!」
 長い呪文を詠唱した後、杖を地面に向けて振る。音を立てて地面が盛り上がる。
 ローブの人物は、盛り上がっていく小山に乗ったまま立っている。小山は人型へと変化
し、黒ローブのメイジはそのまま人型の左肩に乗った。
 本塔と並ぶほどの大きさがある、30メイルの土ゴーレムが学院に突如現れた。
「さて、この『土くれのフーケ』様のゴーレムでも、学院宝物庫の壁をぶち破るのは無理
だわ。…でもね」
 ゴーレムは右手を左肩のフーケへ伸ばす。
 フーケは手にしていた斧をゴーレムの拳表面に突き立てる。
 そして更に杖を振り、拳を鋼鉄へ練成した。


「あらゆる魔法に傷一つ付かない、ダイヤより硬い異国の斧。
 こいつに、あたしのゴーレムのパワーを乗せたら、どうかしらあっ!?」
 ゴーレムは、鋼鉄の拳に炭素クリスタルの斧を付けたまま、宝物庫の壁に向け大きく振
りかぶった。




 深夜の学院に轟音が鳴り響いた。
 同時に地響きが全塔を振動させる。
「なっ!?なに?」「これは!地震なの!?」「う、うわ!荷物がぁ!」
 ルイズとキュルケとヤンが、突然の揺れに床へ倒れそうになる。
 乱雑に積み上げられていた荷物がルイズ達の方へ崩れていく。
 3人とも、荷物の山の中に埋もれ、潰されてしまった。

「『レビテーション』」
 揺れにも動じず荷物の崩落にも巻き込まれなかったタバサが杖を振り、荷物の小山を取
り除く。3人とも痛む体をさすって起きあがる。
「あっつつつ…一体何なのよぉ」「みんな、無事だね。えっと…今のは、地震というやつか
い?この辺は地震がよく起きるのかな?」「さっきの轟音、何だったのかしら。タバサ、シ
ルフィードを呼んでよ」
 タバサは窓に寄って口笛を吹く。ほどなくして風竜が飛んできた。
 全員急いで風竜の背に全員乗り移り、学院を上空から見渡す。
「おおーこれが竜かぁ、すごいなー、どうやってこんな小さな翼で飛んでるのかなぁ」
 そんなヤンの驚きの声は風と共に後方へ去っていく。

 学院の中央、本塔には大穴が開いていた。
 中庭には、地面が不自然に抉られたような跡がある。
 そして学院の近くの森には、立ち去っていく巨大ゴーレムの姿があった。
 ルイズが驚きの叫びを上げた。
「あーっ!あれは、フーケのゴーレムぅっ!!」
「タバサ!急いでフーケを」
 追って、と言おうとしたキュルケだったが、既に遅かった。
 彼方に立つゴーレムは、突然ぐしゃっと崩れ落ちた。

 風竜が土ゴーレムの残骸である土の小山の上に降り立つ。
 4人は周囲を探すが、もちろんフーケの姿は既に無かった。




 魔法学院は深夜にもかかわらず、ハチの巣をつついた様な騒ぎとなった。
 被害は宝物庫のカベと学院の秘宝『破壊の壷』。
 宝物庫の壁には『破壊の壷、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』との犯行声明
文が残されていた。
 宝物庫には学院中の教師達が集まり、壁の大穴を見て口をあんぐりさせていた。次に教
師達は当直の貴族は誰だとか、平民の衛兵なんか役に立たないとか、口々に勝手な事を喚
き、責任の押し付け合いを始める。外には中を不安げに覗き込むメイド達もいる。
 当直だったのはミセス・シュヴルーズ。当直のはずの彼女は自室からやってきた。寝間
着のまま。宝物庫の大穴を見て、蒼白になってしまう。
 逃走するフーケのゴーレムを目撃したルイズ・ヤン・キュルケ・タバサも宝物庫へ駆け
つけた。ヤン以外の女性陣は教師達から犯行現場や状況について激しく問いただされてい
た。ヤンは平民で使い魔ということで、相手にはされていなかった。


 まだ夜明け前の宝物庫。ヤンは数のうちに入れられていないのを幸いに、周囲の状況を
見回り、駆けつけたオスマンやコルベール達教師の話に、そして同じく駆けつけたメイド
達の言葉にも聞き耳を立てる。

――当直をサボっていたという…まともに当直をした事のある教師はおらん…
――ここはメイジで一杯…まさか賊に襲われるとは夢にも…
――目撃者はこの3…犯行後、逃走するゴーレムを追跡したがフーケは見つからず…
――壁はスクウェアメイジ達が固定化を…フーケのゴーレムでも無理…
――『破壊の壷』は学院の秘宝…弁償は誰が…

 ヤンは『破壊の壷』が収められていた大きなケースの前に立つ。そこには王宮からの帰
りに見たものと同じ筆跡で犯行声明文が書かれている。

 ヤンは、ようやく教師達の質問から一時解放されたルイズに駆け寄った。
「ねぇ、ミス・ヴァリエール。その盗まれたっていう『破壊の壷』なんだけど、一体どう
いうものなんだい?」
 聞かれたルイズは顎に指をあて、上を向いてうぅ~んと考え込む。
「うーんと、あたしもよく知らないの。見た事はあるんだけどね、使い道とか効果とかは
分からないわ」
「そうか…ちなみに、どんな形をしてるのかな?」
「え?形は…壷って名前は付いているんだけど、ものすごく変な形よ。だって、蓋がない
から開けられないんだもん」
「蓋が、無い?」
「そう、つまり…こんな形」

 ルイズは指で壁に『破壊の壷』のシルエットを描く。
 そのシルエットを見たヤンは、首を傾げてしまった。首が垂直に曲がるんじゃないかと
いうくらい。

「壷…じゃ、ないね」
 ヤンの素直な感想にルイズも頷く。
「うん。宝物庫の見学の時、みんな同じ事を言ってたわ。でも壷という以外、当てはまる
言葉が無かったのよね」
「うーん…もうちょっと詳しい形を教えて欲しいんだけど」

 ルイズは宝物庫の外に集まっていたメイドの一人に紙とペンを持ってこさせて、簡単な
形を描く。
 その絵をヤンは瞬きもせずに凝視していた。
「本当に、これだったのかい!?」
 いつにないヤンの真剣な顔に、ルイズは少し気圧されてしまう。
「え、ええ、そうよ。まぁうろ覚えだったんで、ちょっと違うトコもあるかも」
 ヤンはルイズからペンと紙をひったくるように受け取り、コルベールの横に行く。
「すいません、伺いたいのですが…『破壊の壷』というのは、こういう形の物で間違いあ
りませんか?」
「え?」
 横からいきなり話しかけられたコルベールは、驚きつつも紙に描かれた『破壊の壷』の
形を見つめる。
 そしてすぐにコクコクと頭を上下させた。
「そうそう!これですぞ。ただ、上の所がもうちょっとこう…それで、表面にはおかしな
模様が描いてありまして…こう、ですな」
 コルベールがルイズの絵に更に書き足していく。
 書き上がった物を見たヤンは、黙って絵を見つめていた。
 そして、ヒョイと顔を上げた。
「ちなみに、これって何に使うんですか?」
「え?いや、さぁ…ただ昔から秘宝とされているんですが、使い方は知りませんぞ」
「誰も?オールド・オスマンも?」

 コルベールは教員達の話を聞いてまわっていたオスマンに尋ねた。
 だが、学院長はバツが悪そうにしつつもハッキリと首を横に振った。


「そうですか。マジックアイテムはよく分からないですが、変な壷ですねぇ。それじゃ、
私はお役に立てる事はないようなので、失礼しますね」
 宝物庫をスタスタ立ち去るヤンの背を、怪訝な表情をするコルベールが見送った。


 宝物庫を出て本塔を出たヤンは、すぐにスズリの広場へ向かった。スズリの広場には煉
瓦造りの女子使用人宿舎がある。こぢんまりした建物は深夜にも関わらず灯りがつけられ
ていた。フーケの騒ぎで全員起き出してきたらしく、中からザワザワと女性達の声が漏れ
てくる。
 ヤンは入り口の扉をコココンと、慌てたような速いテンポでノックした。
 すぐに扉が開かれた。出てきたのは金髪が眩しい女性だ。
「あら、ヤンさん。帰ってきてたのですか。悪いけど今はちょっと」
「すいません!ローラさん、いえ皆に急ぎ尋ねたい事があるんです!誰かミス・ロングビ
ルを見かけませんでしたか!?」
 ヤンは、普段のぼんやりした姿からは想像も出来ない程慌てた姿だ。その姿に他のメイ
ド達も寄ってくる。
 だが、全員が首を横に振った。ヤンは悔しそうな顔で肩を落としたが、すぐにポケット
から紙片を取り出し、ペンでさらさらと何かを書く。
 書き上がったものをローラの手に押しつけるよう渡した。
「もし、もしも、なんですが…ミス・ロングビルが戻ってきたら、すぐにこれを見せて下
さい。そして、『あなたが拍手してくれた所で待つ』と伝えて下さい!」
 ヤンの必死な姿に、ワケも分からずローラと後ろのメイド達はコクコクと頷いた。
 そしてヤンは、学院の外へと駆けていった。




 そして朝になり、どこからかロングビルが学院へ戻ってきた。
 学院の門をくぐり、本塔を見上げ、宝物庫の大穴を確認する。そして本塔へ入ろうとし
た所で、メイドの一人が秘書の姿を視界に収めた。
 メイドはロングビルを呼び止め、すぐにローラが駆けつけてきた。


 学院横の森の前では、木陰でヤンがイビキをかきながら寝ていた。
「あの、起きてくださいな」
 ロングビルの声が頭の上から降ってくる。でも彼に起きる様子はない。
「ちょっと!あなたが呼んだんでしょうが!」
 今度は体を揺らされた。それでもヤンはうぅ~んと抗議の呻きを上げただけで、やっぱ
り起きない。
 彼女は杖を取り出し、ヤンに向けた。
 そして杖をヒョイと上に上げると、同時にヤンの体もヒョイと浮かぶ。
 そして、杖を下ろした。ドスンッと音を立ててヤンの体は地面に叩き付けられてしまっ
た。
「アタタタタ・・・な、何だ一体!?」
「何だ、じゃないわよ!この忙しい時に人を呼びつけておいて、自分は熟睡しているなん
て、どういう了見ですか!」
 ロングビルはヤンの横に腰へ手を当て仁王立ちしていた。
 見上げたヤンがようやく眠りの世界から帰還して、腰をさすりながら慌てて立ち上がっ
た。
「いや~、すいません。実は昨日の今日のと、騒ぎと重労働が重なってたもので。ほんの
一休みのつもりが熟睡してしまったようです」
 頭を下げるヤンの言い訳にロングビルも呆れた顔だ。

 ふぅと一息吐いた彼女は胸元に杖を戻し、手に紙片を取り出した。
「それより、これについてお話があるようですね」
「ええ、そうです。やはりそのマークを知っていましたか」
「そりゃ、そうですよ。宝物庫の目録を作る時に見ました。これは、『破壊の壷』の表面に
描かれていた幾つかの絵の一つですわ」
「ええ、そうでしょうね。何しろあれは恐らく、僕の国の物ですから」
 ロングビルの目が、一瞬細くなる。
「それは、面白い話ですわね。『破壊の壷』が、あなたの国の物なのですか?」
「うーん正確には、僕の世界の物、ですか。作られた国が違うし、もうその国は滅んだの
で。でも、他の『破壊の壷』を見た人が描いた絵から分かります。それに近いマークも描
かれていましたから。
 それ、国旗です。ゴールデンバウム王朝の」

 ロングビルが持つ紙片に描かれた絵。それは、あんまり上手とは言えないヤンの絵。
 そこには翼を広げた双頭の鷲…らしきモノが描かれていた。
 銀河帝国軍章、ゴールデンバウム王朝を象徴する紋章のつもりらしい。
 とりあえず、ロングビルにはそれが何なのか分かったので、良しとすべきだろう。

「なるほど、そうでしたか…ですが、それは急いで伝えなければいけない事ですか?知っ
ての通りフーケで学院は大騒ぎです」
 学院を振り返るロングビル。彼女にヤンはのんびりと答えた。
「ええ、多分、今すぐにでも知らねばならない事です」
 ノンビリとしたセリフを聞いたロングビルに、ノンビリとした雰囲気はなかった。
 ゆっくりと、鋭い視線をヤンに返した。
「ちなみに何故、学院長を差し置いて私が一番に、学院の外でコッソリと知らねばならな
いことなのか、教えて頂けますか?」

 彼はノンビリとベレーを直す。
 刺すような視線を向けられたヤンだが、あくまで飄々とした態度を崩さない。 

「それは、他の人に聞かれるとまずいからですよ。あなたも、私もね」
「・・・何故かしら?」

 彼女の歩幅が音もなく僅かに開き、斜めに構える。視線はヤンの目を真っ直ぐ睨み付け
ている。

「何故なら、あれはとんでもない危険物かもしれないのですよ。使用方法を知らず迂闊に
触れれば、周囲数リーグが消えるからです」
「数リーグが消える!?」
 ロングビルは、下らないことを、と笑おうとした。だが、出来なかった。
 真顔のヤンが彼女の目を直視していたからだ。
 そして、彼のもたらした斧。並の魔法では破壊出来ない超技術。その技が他の方向に向
いたとすればどれほどのものか、彼女には想像もつかなかった。

「ええ、消えるんです。全てが吹き飛び、塵になります。
 そして、その使用方法を知っている僕も狙われます。使い方の分からないアイテムなん
て、宝物庫の置物ですからね」
「狙われる…フーケに、ですか?」
「フーケにも、ですね。王宮もアカデミーも興味を持つでしょうから」
 彼女の口の端が不自然に釣り上がる。微笑もうとしたが失敗したようだ。
「それで、その事実を私が知らなければいけない理由って、なんなのかしら?もしかして
他のメイジは信用出来ないから、私に守って欲しい…ということかしらね?」

 ヤンは残念そうに、本当に心から残念そうに首を振った。

「違います。危ないから返して欲しいんですよ、フーケさん」
 ヤンは、当たり前の事かのように言った。

                 第5話   破壊の壷   END



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